ある所に、とてもみじめなゆっくりまりさがいました。

 ごはんをたくさん食べて、寝て……まだ小さいので子供はいませんし、家族ともずっと昔に別れてしまいましたが、普通のゆっくりとほとんど変わらないゆっくりライフを営んでいました。
 周りのゆっくりとほとんど変わらない生活をすごしているのに、なぜこのゆっくりまりさはみじめなのでしょうか?

 それは、帽子をなくしてしまったからです。

 ゆっくりは、生まれた時から帽子やリボンなど、何らかの飾りを身に付けています。
 れいむなら赤いリボン、ちぇんならキャベツ……もとい帽子、みょんならキクラゲ……いや黒いリボン、ゆかりならドアノブ……違う。帽子、そして、まりさならとんがり帽子。
 種族によって違いはありますが、必ず何かを付けています。
 極めて稀な例で、とんがり帽子をかぶったれいむ等といった奇形も誕生しますが、それにしても飾りを身に付けているのには変わりありません。

 ですが、みじめなゆっくりまりさにはリボンや別種の帽子すらありませんでした。
 飾りは、ゆっくりが生きていくのに必要な器官ではありませんが、だからと言って必要ないものでもありません。
 飾りを身に付けている事で、ゆっくりはゆっくりとして、ゆっくりできるのです。
 もちろん、みじめなゆっくりまりさは、本当の意味でゆっくりする事はできませんでした。


 そのため、飾りをなくしたゆっくりは、代わりの飾りを探します。
――飾りさえ持っていれば、もうこんなみじめな思いをしなくて良い。ゆっくりできる。
 その思いから、ゆっくりなりに必死になります。

 探した結果、自分の飾りが見つかれば良いですが、どうしてもない時は別のゆっくりの飾りを奪ってでも手に入れようとします。
 ですが、奪われた方のゆっくりにとっては、たまったものではありません。次にみじめな思いをするのは、奪われたゆっくりなのですから。
 奪おうとするゆっくりと、奪われまいと警戒するゆっくり。

 本来ならば一緒にゆっくりできる仲間と、そんなゆっくりできない関係になってしまうため、飾りのないゆっくりはみじめなゆっくりなのです。





 みじめなゆっくりは、他のゆっくりよりもほんの少しだけ早く起きます。
 近くに寝ているゆっくりがいたら、その飾りを奪うためです。


 みじめなゆっくりが、洞窟に入っていきました。
 どうやら、まだ寝ているゆっくりを見つけたのでしょう。ゆっくりとは思えないほど慎重に、音を立てない様に注意して入っていきます。

「ゆっ……! ゆっ、ゆー!!!」
「ゆっくりしね!!!」「しね!!!」「ゆっくりでていけ!!!」
 どうやら見つかったみたいですね。
 激怒したゆっくりれいむ一家に追い立てられて、ほうほうの体で逃げていきました。
 母ゆっくりは限界までふくらんで、威嚇しています。石を口にくわえて投げつける子ゆっくりもいます。
 目の前で子供を殺された時ですら、ここまでの攻撃はしないでしょう。
 ゆっくりの飾りを盗むという事が、どれほど重大な問題なのかをうかがわせる光景です。



 みじめなゆっくりは、他のゆっくりよりもほんの少しだけ早く食事を終えます。
 近くに飾りが落ちてないかどうか探すためです。

 先ほど追いかけられたみじめなゆっくりは、へとへとになりつつも食事を探しだしました。
 この辺りは、捕食種であるゆっくりれみりゃもゆっくりフランもおらず、エサの量が多いため、みじめなゆっくりでもたらふく食べる事ができます。

「うめっ! めっさうめぇこれ!」
 普通のゆっくりまりさと変わらない下品な言葉を発しつつ、たくさんの草や虫を食べていきます。
 あらかた食べ終わったみじめなゆっくりは、それほど休まずに動き出しました。
 食後の散歩でしょうか?

 違います。どこかに飾りが落ちていないか、探しているのです。
 みじめなゆっくりは、なめるように周囲を探していきます。
 時には、遠出をしてでも見つけ出そうとします。とはいえ、ゆっくりなのでそれほどの距離を移動する事はできません。

 みじめなゆっくりが、ゆっくりと戻ってきました。
 どうやら飾りは見つからなかったらしいですね。寂しそうにうつむいています。
 そんな、落ち込んでいるゆっくりの耳(あるのかは不明ですが)に、別のゆっくりたちの声が飛び込んできました。
 ゆっくりまりさとれいむの集団です。このゆっくりたちは、全員帽子とリボンを付けています。

「ゆっくりしていってね!」
「「「ゆっくり……していってね!!!」」」
 嬉しそうにあいさつするみじめなゆっくりに対し、姿が見えた瞬間、少し距離を置いてあいさつを返すゆっくりたち。
 あいさつをした相手と遊んだ上、そのまま家におじゃまして一緒に寝る事もあるほどに種族仲の良いゆっくりにしては、珍しい光景です。

 それもこれも、みじめなゆっくりが飾りを身に付けていないからです。

「ゆっくりあそぶよ!」
「なにしてゆっくりあそぶ?」
「ちょうちょさんとおっかけっこしよう!」
「「「ゆっくりあそぼうね!!!」」」
 楽しそうに遊ぶ内容を話し合い、近くに来たちょうちょを追いかけて遊んでいます。
 みじめなゆっくりと、普通のゆっくり。
 一見仲良く遊んでいますが、実はお互いに非常に警戒し合っています。

「ゆ”っ!?」
「まりさ!」
「……ゆっくりころんだ!」
「だいじょうぶ? ゆっくりおきあがってね!」
「ゆっくり……ゆぎゅぅぅぅ!」
「……ゆっくりおきあがるのてつだうよ!」
「ゆっぐ、いらないから……ゆっぐり、はなれてね!!!」
 起き上がるのを手伝おうとしたみじめなゆっくりを、全力で振り払おうとするゆっくりまりさ。
 当然です。みじめなゆっくりは、助ける事にかこつけてまりさの帽子を奪おうとしていたのですから。
 ちなみに、この時他のゆっくり達はただ眺めているだけです。
 どちらのゆっくりが帽子を被るかによって相手への対応が変わるため、うかつに動く様な事はできないのです。

 元々のみじめなゆっくりが弾き飛ばされ、木にぶつかって止まったのを見届けてから、また皆で一緒に遊びます。
 心配して近づくゆっくりはいません。近づいたら最後、飾りが奪われる可能性があるからです。
 ゆっくり達は、遠くから声をかけます。
「ゆっくりだいじょうぶ?」
「ゆっくりこっちにきてね!」
「いたかったら、そこでゆっくりやすんでね!」
「……ありがとう、でもだいじょうぶだからいっしょにゆっくりあそぼうね」
 みじめなゆっくりは、優しく問いかける仲間に対してにこやかに返事をしつつ、元気に飛び跳ねながら仲間達の元に行きました。


「ゆっ! おひさまがかくれちゃうよ!」
「たいへん! ゆっくりかえらなきゃ!」
「みんなでゆっくりかえろうね!」
 西日が傾いてくると、ゆっくり達は帰宅します。
 夜になると、ゆっくりれみりゃやゆっくりフランといった、捕食種が現れるからです。
「ま、まって! もっとゆっくりあそぼうよ!!!」
 そんな中、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら皆を引き止めるみじめなゆっくり。
 遊んでいる最中はスキを見つけられなかったらしく、飾りはありません。
「ごめんね! でもゆっくりかえらないとれいむがおかあさんにおこられるの!」
「まりさもおこられるから、みんなでゆっくりかえろうね!」
 ねー、と声をかけ合うゆっくり達。
 みじめなゆっくりが何と言おうとも、普通のゆっくり達は聞き入れず、仲良く帰っていってしまいました。
「まっでー! もっどゆっぐりじようよー!!!」
 最後には泣き叫びながら引き留めようとするみじめなゆっくりですが、皆でがっちりと固まって帰ってしまいました。
 これでは、帰ろうとするゆっくりの背後から奪い取る事もできません。
 結局、みじめなゆっくりは飾りを奪う事はできませんでした。




 みじめなゆっくりは、他のゆっくりよりもほんの少しだけ遅く眠ります。
 近くにゆっくりが寝ていたら、その飾りを奪うためです。

 皆が帰るのを眺めていたみじめなゆっくりも、気を取り直して巣に戻りました。
 いつまでもゆっくりしていると、捕食種の餌食になるからです。
 ゆっくりと巣に戻り、巣に戻ったらゆっくりして、そのまま眠りに付きます。
「ゆぅ……ゆ……ふぅ……ゆー……ゆっ!」
 完全に眠ったと思った瞬間、飛び起きてゆっくり外へと出て行きました。

 みじめなゆっくりは、そのまま朝とは別の洞窟に入っていき、何も被らずに出てきました。
 自分に合う飾りがなかった様です。
 自分と同じサイズのものでなければ、周りから飾りとして認められません。
 それでは、奪い取っても意味がありません。
 とぼとぼと、みじめなゆっくりが自分の巣に帰ろうとしている最中、話し声が聞こえてきました。
「……よ、ほんとうに……」
「……ね、ゆっくり……」
 何事かと恐る恐る覗いてみると、先ほどまで遊んでいたゆっくり達のうち、2匹が楽しそうに談笑していました。
 どうやら巣が近くにあった様です。体をくっつけて「ゆぅ~♪ゆっ♪」と歌ったりもしています。
 みじめなゆっくりが声をかけようと近づくと、話の内容が聞こえてきました。

「ぼうしないこ、ずっとれいむたちのりぼんみてたよね」
「まりさのぼうしをとろうとしてたよ」
「ぼうしなくてかわいそうだとおもったからゆっくりしてあげたのに、だめなこだよね」
「だめなこだよね、ゆっくりできないこなんだよ、あのこ」
「いやだよね、ぼうしないこはゆっくりしてなくて」
「ほんと、ぼうしないとゆっくりできなくなるんだね」
「きっと、ちかづいたら『ぼうしとるぞー!』っておいかけてくるよ」
「おお、こわいこわい」
 みじめなゆっくりは、そのまま動けなくなってしまいました。
 昼間に遊んだゆっくり達が、同情のみで遊んでいた事を知ってしまったからです。



 その日以来、みじめなゆっくりを見る事はありませんでした。





――いかがだったでしょうか。
 帽子やリボンがないだけで、ゆっくりはこれほど惨めな思いをする事になるのです。
 何としても飾りが欲しいと思うゆっくりの思いを理解していただけたでしょうか。

 ただ、ここまで見てきて疑問に思われた事があるでしょう。
 生きているのじゃなくて、死体から帽子なりリボンを奪えば良いんじゃないか? という疑問が。

 確かにその通りです。
 ですが、ゆっくりは、どれだけ惨めな思いをしても仲間の死体から飾りを奪う事は決してしません。
 それをしてしまえば、皆に殺されてしまうからです。
 バレない様にこっそり奪えば良いという意見もあるかもしれませんが、死体の飾りには死臭が付いているため、どれだけこっそりしていても絶対にバレてしまいます。
 頭の良いゆっくりが、死臭を消すために肥溜めに落としたりした事がありましたが、そこまでしても死臭を消す事はできませんでした。
 ちなみに、そのゆっくりは制裁として肥溜めに落とされ、フタをした上に重石を乗せられました。

 ゆっくりにとって、飾りはそこまで重要なものなのです。
 だから、ゆっくりにどれだけ腹を立て、殺したいほど憎くても、また、殺したとしても、決して飾りだけは取ってはいけません。
 飾りを取った人間に対し、ゆっくりがどれほどの憎しみを抱くか……考えただけで恐ろしくなります。



 ゆっくりだから大した事はないと思ってはいけません。
 奴らは、飾りを取られた恨みを決して忘れず、どこまでも追いかけてくるからです。
……なぜ私がここまで怯えるのか、不思議だったり情けなく思ったりする方がいるでしょう。
 ですが、これは全て事実なのです。

 奴らは、普段は鈍重でボンクラで一匹位いなくなっても気にしない間抜けどもの癖に、飾りを壊した奴の事は決して忘れません。
 何が出来る訳じゃない、ただただ攻撃を仕掛けてきて殺されるだけなのに、死体の山を築き上げたとしても諦めずにずっと付いてくるのです。
 私は、恐ろしい。




























……あんた、笑ったか? 出来の悪いホラーを見るような態度で笑っただろう。
 いや、笑うのも分かるさ。私だって、ゆっくり程度に怯える奴がいたら、笑うさ。
 でも、この音を聞いてみろよ。後ろからずっと、返せ返せって呟きながら、べちゃべちゃとついてくる饅頭どもの音をさぁ!

 殺すのは簡単だよ、こんな奴ら。無抵抗に近いんだからな。ぶつかってきても痛くも何ともない。
 ナイフとかのこぎりとか物騒な器具がなくても、ただぶん殴れば終わるさ。
 でも、ずっとついてくるんだよ。返せ、べちゃ、返せ、べちゃ、返せ、べちゃって、ついてくるんだよぉ!

 職場でも家でも風呂でもトイレでも、ずっとついてくるんだよぉ!!!

 ……ほら、今も聞こえるだろう? 奴らの声が。足音が!






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――ゆっくりを虐待している皆さん。
――くれぐれも、奴らの飾りだけは盗られないよう、お気をつけ下さい。
――さもなくば、彼のようになりますよ。
























 この話の骨子は、>>316のレスを見て思いつきました。多謝。
 でもなんで、こんな話になったんでしょうか……自分でも分からないです。
 ところで、>>863……本当に、怖くないですか?

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最終更新:2022年03月24日 23:50