作者:白兎

※虐待成分少なめ。
※独自設定多数。



翌朝。子ぱちゅりーは、母親に作ってもらったお弁当を持ち、家を出た。
彼女の家から河原まで、片道で3時間は掛かる。
れみりゃが出没する夕方までには帰って来なければならない。

「むきゅん。行って来るのだわ。」
「いってらっしゃい。」

子ぱちゅりーは、ゆんしょゆんしょと野原を急いだ。
往復6時間の道のりだ。
ゆっくりしていては、にんげんさんを観察する暇がなくなる。

「どこへいくのぜ?」

森へ入ろうとするところで、ふいに背後から声を掛けられた。
子ぱちゅりーは、びっくりして後ろを振り返った。

声を掛けたのは、子まりさ、子れいむ、そして子ちぇんからなるグループだった。
8月も中頃になると、子ゆっくりは子ゆっくり同士で遊ぶようになる。
それが秋の初めまで続き、その間にできた交友関係が、
そのまま将来のゆっくり付き合いを形作る。
恋仲に発展したゆっくりはつがいとなり、友達の関係に留まったゆっくりは、
越冬の準備を手伝ったり、その後の近所付き合いを楽しんだりする。
強いて人間に喩えれば、高校から大学にあたる段階だ。
この3匹も、親同士の付き合いが縁になり、こうして友達の輪を作っていた。

「だれかとおもったら、ぐずぱちゅなのじぇ。」

一歩前に出た子まりさが、にやにやしながらぱちゅりーに話しかけた。
この子まりさは、群れのリーダーまりさの長女であり、
甘やかして育てられたせいで、性格が相当ひねくれていた。

「ゆふふ。ぐずなんていっちゃきゃわいそうだよ。」

口元にもみあげを当てて笑うのは、子れいむだ。
かわいそうなどと言いながら、少しも同情する素振りを見せていない。
彼女は、この群れ一番の歌姫の娘で、彼女自身の歌声も評判が高かった。
もちろん、ゆっくり基準で、の話であるが、ぱちゅりーも彼女の実力は認めていた。

「いもむしさんもとれないんだね。わきゃるよー。」

子ちぇんのからかいに、爆笑する一同。
子どもというものは、時に残酷である。
この子ちぇんは、リーダーまりさの側近ちぇんの長女。
要するに、この子まりさと子ちぇんは、将来のリーダー候補、側近候補というわけだ。
だから彼らは、群れの中でも、常に一目置かれる存在であった。
そしてそれが、彼らの自尊心を、あってはならないレベルにまでに煽っていた。

ぱちゅは、こういうときの対処法をよく心得ていた。
無視するのが一番である。
反論したり怒ったりすれば、ますます相手を愉快にさせてしまう。
ぱちゅりーは、ゆっくりとその場を離れた。
3匹も、興味を無くしたのか、追っては来なかった。

森の中はとても暗かった。
母親に教えられた通り、なるべく目立たない場所を通るように心がける。
ゆっくりの天敵は、れみりゃだけではない。

「ふぅ…大変なのだわ…。」

虚弱体質の子ぱちゅりーにとって、森の道は険しかった。
だが、にんげんさんを見られるという希望の前には、
なんでもないことのように思われた。

どのくらい歩いただろうか。
時間の感覚がなくなろうとしていたところで、遠くに水の音が聞こえた。
いつもは冷静に振る舞う子ぱちゅりーも、思わず下腹の動きを速めた。
木々の壁が途切れ、まぶしい昼間の太陽が降りそそぐ。
子ぱちゅりーの視界が、涼やかに流れる川の全貌をとらえた。

「むきゅん!」

思わず鳴き声を上げてしまう子パチュリー。
慌てて髪の毛で口元を覆った。
そうだ。ここでにんげんさんに見つかってはならない。
木の根元から、そっと河原の様子をうかがう。

………いた。にんげんさんだ。
森に住む動物とは違う特徴を持つその生き物は、すぐにそれと分かった。
1、2、3…全部で5匹。
4匹は川の中、残りの1匹は、なにやら不思議な形をした物体のそばにいる。
子ぱちゅりーには分からなかったが、それはテントだった。

「おーい、こっちに蟹さんがいるぞー!」

群れの中で一番大きな人間が、川の水を覗き込みながら声を上げた。

「え、どこどこ?」

その半分くらいの背丈しかない人間が、ぱしゃぱしゃと川を渡る。
あれはなんだろうか。
もしかすると、子どもに狩りの仕方を教えているのかもしれない。
子ぱちゅりーは、自分なりの解釈をしつつ、人間の群れを観察した。

「みんなー、食事の用意ができたわよー。」
「「「わーい!」」」

テントの側にいる2番目に大きな人間が、みんなを呼び集める。
彼女は、バーベキューの準備をしていたのだ。
子ぱちゅりーは、女性のそばにある材料から、彼らの行動を理解した。
いくつか見知らぬ食材はあったものの、魔導書すなわちチラシで勉強した子ぱちゅりーは、
人間がどういうものを食べるのか、あらかじめ予習しておいたのである。

「よーし、早速焼くか。」

一番大きな人間が、何か小さな道具を取り出した。
子ぱちゅりーは、男の仕草を見逃すまいと目を凝らす。
すると、その道具からいきなり炎が吹き出し、何か黒い塊に火を点けた。

「むきゅ…!」

炎に驚いて再び声を上げてしまう子ぱちゅりー。
それは、春雷が木に落ちたとき、一度だけ見たことのある現象だった。
あのときは、群れ中が大騒ぎになったっけ。
人間たちは、火を全く恐れる様子がない。
見る見るうちに、箱の中から煙が上がる。

「お父さん、肉焼いて肉!」
「こらこら、まずは焼けにくい野菜からだぞ。」

なんという大飯喰らいなのかしら。
子ぱちゅりーはそう思った。
ゆっくりならば一家が余裕で冬越しできそうな量の食べ物を、
5人はものすごい勢いで口の中に運んで行く。

ぐるるきゅ〜

思わずお腹が鳴ってしまった。
子ぱちゅりーは、お弁当を食べることにした。
柏の葉で編んだ弁当を開けると、美味しそうな毛虫さんと、
デザートの蜂蜜さんが目の前に広がる。
そう、なんと蜂蜜さんが入っているのだ。
子ぱちゅりーは、母の心遣いに感謝した。

食事をとっている間も、子ぱちゅりーは人間から目を離さない。
大きな人間2匹は、火の点いた箱を囲んで座っている。
何をするでもない。
にんげんさんもゆっくりしているのだわ、と子ぱちゅりーは思った。

それとは対照的に、3匹の小さな人間は、川のそばで遊び回っていた。
姉妹とも友達ともそのような経験のない子ぱちゅりーは、少し羨ましくなった。

しかし、1時間もすると、子ぱちゅりーはだんだんと観察に飽きて来た。
好奇心が満たされたからではない。
にんげんさんは、ずっと同じことをしているように見えたからだ。
やることと言えば、川に入ったり、石を集めたり、虫を追いかけたりすることだけ。
大きなにんげんさんの方はと言えば、奇妙なベッドを取り出して寝ている始末。

「むきゅぅ…これではゆっくりと変わらないのだわ…。」

ゆっくりの世界しか知らない子ぱちゅりーには想像もつかなかったのだが、
人間がこれほどまでにゆっくりできることなど、滅多にないのである。

待てど暮らせど変化がない。
仕方がないので、子ぱちゅりーは、早めに家へ帰ることにした。
本当は夜になればもっと面白いものも見れたのだが、それは無理な相談であった。

元来た道をゆんしょゆんしょと辿り、森を抜けたところで、
草原にたたずむ母ぱちゅりーの姿を見つけた。
日が暮れるまでには帰って来るように言ったのだが、
あまりにも心配で、正午からずっとここで待ってくれていたのだ。
子ぱちゅりーは、母親にお弁当のお礼を言うと、2匹並んで巣へと帰って行った。


「むきゅ。行ってくるのだわ。」
「いってらっしゃい。」

翌日も、子ぱちゅりーは河原に向かった。
一度通った道は、前よりも短く感じるものである。
子ぱちゅりーは、迷うこと無く同じ場所に出ることができた。

ところが、そこにはにんげんさんの影も形も無くなっていた。
例の不思議なおうちも、火が出る不思議なお道具も見当たらない。
むきゅぅ、とぱちゅりー種特有の溜め息をつく。

ところが、である。
子ぱちゅりーが視線を手前の草むらに移すと、そこには見知らぬ本が置いてあった。
それは、母ぱちゅりーの本棚にあるどんな魔導書よりも分厚い。
子ぱちゅりーは、急いでそれをくわえると、木の影に隠れた。

表紙には、何やら楽しそうな子どもの絵と『なつやすみのとも』の文字。
意味は分からないが、とにかく凄い物を見つけてしまった。
中枢餡をグラニュー糖が駆け巡る。
かなり重たいが、持ち帰る時間はたっぷりある。
子ぱちゅりーは、冊子に髪の毛を絡め、口で引っ張るように引きずりながら家を目指した。

道中、子ぱちゅりーの頭の中は、煮えたぎる知識欲で一杯だった。
ただただこの魔導書を解読したい。
その一心で、森の奥へ奥へと進んで行く。
普段なら逐一確認する草木の種類も、鳥の泣き声も、子ぱちゅりーの意識にはのぼらない。

ところが、野原まであと少しというところで、それは起きた。

「みつけたどー。」

悪夢。そうとしか表現の仕様のない事態。
ばさばさと羽音が響き、その物体はこちらへ向かってくる。
ゆっくりれみりゃだ。
何故こんな時間に森をうろついているのか。
そんな疑問も湧かないほど、子ぱちゅりーはパニックに陥った。

魔導書を盾にして、近くの凹みへ避難する。
1ページも読まないまま死んでしまうのか。
これほどまでに命が惜しくなったことはない。
れみりゃの羽音は、まっすぐこちらへ向かってくるように思われた。
万事休す。

「おいしそうなちぇんだぞー。」

……ちぇん?

子ぱちゅりーの頭に、ふと?マークが付いた。
その瞬間、少し離れたところの茂みから、何かが飛び出した。
見れば、先日、子ぱちゅりーを馬鹿にしたあの子ちぇんである。

「わきゃらないよおぉぉ!!!なんでれみりゃがいるのおぉぉ!!!」

子ちぇんは泣きながら全速力で走ったが、空を飛ぶれみりゃの方がずっと速い。
あっと言う間に追いつかれ、右頬に鋭い歯が立てられた。
みちっと言う音とともに皮が剥がされ、中のチョコレートが顔を出す。

それは、これから始まるおぞましい仕込みの序曲でしかなかった。
痛みで動けなくなった子ちぇんの周りを旋回しながら、
れみりゃは何度も何度も執拗に攻撃を仕掛ける。
皮を裂かれ、尾を千切られ、帽子をずたずたにされ、
そして最後には眼を抉り穫られても、子ちぇんはまだ生きていた。
れみりゃが手加減しているのだ。
れみりゃは、痛めつけることでゆっくりの甘みが増すことを、
日頃の経験から熟知していた。

「わがりゃ……ない……よ……。」

息も絶え絶えに最後の悲鳴をあげる子ちぇん。
でろりと垂れた目玉からは、涙とも体液ともつかぬものが滴っている。

「いただきますだどー。」

れみりゃは、今度こそ容赦せずに子ちぇんの顔にかぶりついた。
ゆぷっと最後のチョコを吐き出し、子ちぇんは絶命する。

「おいしーどー。ひさびさのごはんだどー。」

くちゃくちゃと咀嚼する音を聞きながら、子ぱちゅりーは、ひたすら震えるしかなかった。


いったいどうやって帰って来たのか、子ぱちゅりーは覚えていなかった。
れみりゃが去った後、ただ闇雲に森を歩いた気もするし、
いつの間にかおうちの布団で寝ていたような気もする。

だが、例の魔導書だけは、ちゃんと側にあった。
なぜ持って帰ることができたのだろうか。
その答えは、母ぱちゅりーにあった。

母ぱちゅりーは、娘の帰りが遅いので、身の危険も顧みずに森へ入り、
倒れている娘を発見した。
最初は気が動転したが、生きていることを確認した後は、
子ちぇんの死体をよそに娘を連れ、森を出た。
そのとき、子ぱちゅりーがうわ言を呟きながら魔導書を離さなかったので、
何とかそれも巣へ持ち帰ったのだった。

その話を聞かされた子ぱちゅりーは、むきゅんとしなだれた。
心身ともに負担を掛けてしまい、申し訳なく思ったのだ。

「むきゅん。お母さんごめんなさい。ぱちゅは…。」

そんな子ぱちゅりーを、母親は黙ってゆっくり介抱してやった。
読書と研究に明け暮れていた子ぱちゅりーにとって、安らぎの時間が流れた。

一方、群れは大騒ぎになっていた。
側近ちぇんの長女が行方不明になったからである。
捜索隊が組まれ、森の中を探したが、子ちぇんは見つからなかった。
当然である。れみりゃに襲われ、その死体も大方蟻に持って行かれてしまったのだ。
見つかるとすれば、それはゆん霊に違いない。

群れの仲間は捜索を打ち切り、事件は収束したかに見えた。
しかし、1匹だけ納得しなかったゆっくりがいた。
子ちぇんの父親ちぇんである。
母親のありすは、我が子は死んだものと諦めていたが、
父親ちぇんは断固としてそれを受け入れなかった。
ゆうっしゅうな自分の子どもが死ぬはずが無い。
父親ちぇんは、いつまでも長女の帰りを待った。

それでも娘が帰って来ないと分かると、今度は同族を疑い始めた。

「ちぇんのおちびちゃんはころされたんだよー!わかるよー!」

広場で発狂したように叫ぶ父親ちぇん。
その狂気は、次第に群れの中を吹き荒れて行った。


9月。れみりゃ襲撃のショックから立ち直った子ぱちゅりーは、
朝から晩まで魔導書の解読に取り組んだ。
そして、にんげんさんの叡智を読み取っていた。

掛け算を自力で発見した子ぱちゅりーだったが、彼女は1桁の場合だけを考えていた。
しかし、この魔導書『なつやすみのとも』によれば、156×782などという、
到底信じられないような膨大な数の計算も可能なのだ。

さらに子ぱちゅりーを熱狂させたのは、「めんせき」と「たいせき」の概念である。
長さと長さの掛け算で、平らな物の大きさを一律に扱うことができる。
長年、「大きい」「小さい」「広い」「狭い」という言葉しか知らなかった子ぱちゅりーには、
目から鱗の発想だった。
子ぱちゅりーは、早速、巣の大きさを図ったりした。

子ぱちゅりーが興味を持ったのは、「すうがく」だけではない。
にんげんさんの言葉の奥の院、「こくご」もそのひとつだ。

「お母さん、二兎追う者は一兎も得ずなのだわ。」

理解した諺を片っ端から使い、母親を困らせる子ぱちゅりー。
ただひとつ、使い方を間違えて覚えてしまったものがある。

「自然は、焼肉定食なのだわ。」

原因は、穴埋め問題に書かれたジョーク。
しかし、これも人間の知恵のひとつに違いない。

人間の奥深さに触れた子ぱちゅりーは、ついにある決心をした。
にんげんさんと話そう。
子ぱちゅりーは、ふたたび母親と相談した。
母ぱちゅりーは、少し困った顔をしたあと、こう言った。

「すきにするといいのだわ。」

あれだけ怖い思いをしながら、一向に好奇心の衰えない娘を前に、
少しばかりあきれ顔の母ぱちゅりー。
トラウマからノイローゼになってしまうよりはいいのだろうと、諦めるより他にない。
そう。自然は焼肉定食なのである。


最初は、とあるれいむ種の一言だった。

「ゆゆ。そういえば、ぐずのぱちゅりーをもりでみかけたよ。」

それ自体は事実だった。
あの日、森のそばをたまたま通りかかったれいむは、
森の中から出てくるぱちゅりー親子を目撃したのだ。
恐ろしいのは、そこから先である。
あっと言う間に尾ひれがつき、子ぱちゅりーはチョコ塗れだったの、
子ちぇんと口論するところを見かけただの、
とにかく子ぱちゅりーを犯人に仕立て上げる証人が続々と現れた。

しかも、それは群れのリーダーまりさに密告という形で伝えられたため、
母ぱちゅりーも子ぱちゅりーも知らぬところで、事態は進展して行った。
そしてついに、幹部の間で決定が下されたのである。

「ぐずぱちゅをさいっばんにかけるよ!」

この知らせは、そっきんと仲良しグループだった別のまりさによって、
こっそりと母ぱちゅりーに伝えられた。
母ぱちゅりーは、生クリームを吹き出しそうなほど驚いた。

「とにかくおちびちゃんをにがすのぜ。さいっばんはあしたなのぜ。」
「むきゅ。ありがとう。まりさも、きをつけるのだわ。」

まりさは、辺りを用心して巣から出ると、そのまま闇に消えた。

母ぱちゅりーは、何かを思い詰めたようにしばらく身じろぎもしなかったが、
ふいに顔を上げ、子ぱちゅりーを起こした。
子ぱちゅりーは、太陽が沈むとすぐに寝てしまう習性の持ち主だった。

「むきゅん。こんな夜遅くに、何かしら。」
「あなたにおしえたいことがあるのだわ。」

母ぱちゅりーは、率直にありのままを伝えた。
隠し事をしても、メリットはないと思ったからだ。
話が進むにつれ、子ぱちゅりーは青ざめた。

さいっばんとは、ゆん罪者を捕まえるための手続だが、
その内容は群れごとに様々である。
ドスとまともな側近のいる群れでは、人間の行っているそれに似ていたが、
そうでない群れでは、およそ真相解明とは無関係なことが行われていた。
そして、この群れでは恐ろしいことに、ごうっもんが認められていたのである。
証ゆんが2匹以上いるにもかかわらず犯行を否認した場合、
ごうっもんが行われ、そこで自白しなければ罪を免れることができる。
しかし、そのごうっもんというのが、さっさと罪を認めて死んだ方がマシなほどの、
ゆっくりの名にあるまじき、とてもゆっくりできない内容だった。

「お、お母さん…ぱ、ぱちゅは、ぱちゅは…。」

ぱちゅりーの体がわなわなと震えた。
体内の生クリームがぐにゃりとした感覚におちいった。

「ぱちゅ。あなたはむれをでなさい。」
「むきゅ!?」

どういう意味だろうか。
自ら追放されろと言うのだろうか。
子ぱちゅりーは、わけが分からなくなった。
すると、母ぱちゅりーは、驚くべきことを語り始めた。

「ぱちゅのおかあさんのおかあさんのおかあさんのおかあさんは、
にんげんさんといっしょにすんでいたのだわ。そのしょうこに…。」

あんぐりと口を開けたままの子ぱちゅりーのまえで、
母ぱちゅりーは宝箱からまるっこいピカピカ光る物体を取り出した。

「これはね、そのおかあさんのおかあさんのおかあさんのおかあさんがくれた、
にんげんさんといっしょにすむための、あかしなのだわ。これがあれば、
にんげんさんは、ゆっくりといっしょにすんでくれるのだわ。」

子ぱちゅりーは、恐る恐るその金色の物体を受け取った。
そこには、数字と何かよく分からない紋が描かれていた。
母ぱちゅりーはさらに、一粒の錠剤を渡す。
それも、子ぱちゅりーには見知らぬものだった。

「これは何かしら。お薬に見えるのだわ。」
「もしにんげんさんにひどいことをされそうになったら、これをたべるのだわ。
そうすれば、ゆっくりすることができるのだわ。」
「これも、お母さんのお母さんのお母さんのお母さんがくれたのかしら?」

母ぱちゅりーは頷くと、それ以上説明しなかった。

「お母さんはどうするの?」

子ぱちゅりーが尋ねた。

「おかあさんはここにのこるのだわ。」
「駄目なのだわ。お母さんがみんなに怒られてしまうのだわ。」

自分を逃がしたことが分かれば、母親がせいっさいされてしまうかもしれない。
子ぱちゅりーは、一緒に逃げることを提案した。
だが、母ぱちゅりーは、首を縦に振らなかった。

「ばっぢはひとつしかないのだわ。それに、おかあさんはだいじょうぶなのだわ。」

どうすればそんなことが保証できるというのか。
しかし、母ぱちゅりーの決意は固かった。
結局、子ぱちゅりーは母親の気迫に押され、一匹で家を出ることになった。

「それじゃ、きをつけるのだわ。」
「今晩は、森のそばの別荘で寝るのだわ。太陽さんが昇ったら、すぐ川へ行くのだわ。」
「それがいいのだわ。」

別荘がこんなところで役立つとは、2匹とも思わなかった。

「さよならなのだわ。」
「お母さん、ありがとうなのだわ。」

子ぱちゅりーの声は震えていた。
今まで大切に育ててくれた母親に別れを告げ、子ぱちゅりーは闇の中へと消えた。



翌朝、ぱちゅりーの巣を村の有力者たちが訪れた。
その中には、母ぱちゅりーに告げ口をしたあのまりさも混じっていた。
まりさは、親子がちゃんと逃げたのか、気が気でなかった。

逃げられないように入り口を囲むと、リーダーまりさが一歩進み出る。

「ぐずぱちゅりーでてくるのぜ!これからさいっばんなのぜ!」

返事はない。

「ぱちゅりー!こどもをそとにだすのぜ!でないとぱちゅりーもさいっばんなのぜ!」

やはり返事はない。
リーダーまりさがおさげで合図をすると、小枝で武装した数匹が、穴の中へ押し入った。
リーダーまりさも、その後に続く。

「ぱちゅりー!ゆっくりかんねんするのぜ!……ゆげ!?」

リーダーまりさたちが見たもの。
それは、紫に変色し、口から生クリームを吐き出した母ぱちゅりーであった。
ひゅうひゅうと辛うじて息はあるものの、彼女が死にかけていることは一目瞭然だった。
誰も、無惨に崩れた母ぱちゅりーに近付こうとはしなかった。
だが、おぞましい姿とはうらはらに、母ぱちゅりーは、とても穏やかな顔をしていた。

「むきゅ……あなたとおしょらを……とんじぇ……る……。」

そう言って、母ぱちゅりーは、静かに息を引き取った。


続く



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最終更新:2025年03月20日 09:07