「うー♪」
「うー! うー!」
樹齢数十年の樹木の下から聞こえる謎の声。
彼らは翼の生えたゆっくりであるが、鳥のように木の上に巣を作ったりはしない。
鳥の巣は言わば子育ての為の使い捨ての巣である。自らの巣(所謂おうち)に対してはかなりの執着心を
持つゆっくりの性格とは合わないのだ。
そのためこのれみりゃも、普通のゆっくりと同じく巣穴を掘ってそこをおうちとしている。

巣には親のれみりゃの他に2匹の子供がいた。
子どもたちはまだ生まれたばかりなのか、ちんまりとした翼をピョコピョコと動かしながら、うー!と唸っている。
親のれみりゃはそれがご飯の催促だと分かると、捕まえたばかりの毛虫を目の前に差し出す。
「うー! うー!」
何時もゆっくりが取れる訳ではない。れみりゃも他のゆっくりと同じく雑食である。
こうして花や大きめの虫などを食べる方が多いのだ。
ただし胴体のあるれみりゃは偏食であるが、この辺に関しては謎である。たぶん性格の問題だろう。

2匹の赤れみりゃは巣の中で追いかけっこに興じている。
親はそんな様子を見て嬉しそうな顔をすると、外へ飛んで行った。




俺はその様子をファイバースコープからの映像で観察していた。
巣の中に明らかな異物があるのにまるで不思議に思わない辺りがゆっくりである。
さて、貯金を崩してこんな物を買ってただ巣を覗くだけでは意味がない。
俺は巣の入り口にある草や石を退かすと、手に餡子を乗せて出来るだけ巣の中に腕を突っ込んだ。
するとどうだろうか。すぐさま「うー!」という声とともに、手に柔らかい物が乗っかった。
そのまま静かに手を引く。

巣から出てきた手には2匹のれみりゃが一心不乱に餡子を食べていた。
「うまうまー!」
「うっうー?」
どうやら一匹はこちらに気づいたようだ。しかし警戒心など微塵もないようで、二コリとまだ生えたての牙を見せながら
ほほ笑んだ。

微笑まれたら微笑みかえさなければ失礼である。俺もにこりと笑う。
まずはこいつからにしよう。そう思いながら、空いてる手でバックから荷物を取り出す。
まずはお馴染み透明ケースだ。そこに餡子ごと1匹だけ入れる。残った1匹は片手で持ったままだ。
「うー? うううー?」
周りの状況がよくわからないらしい。俺は気にせずにその1匹の片羽を力まかせにブチっと千切った。
「う゛ー!!!!!!」
文字通り飛び上がるほどの痛みだったらしい。目から滝のような涙を流すれみりゃ。もう一匹もそれに気付いたようで
「う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛・・・」
ガクガクと震えあがっているようだ。その様子を携帯で撮って作業を再開する。

次の作業は、はんだごてである。ハンダを羽の生えていた所に近づけ、延長コードで引っ張ってきたアツアツのハンダごてを
近づける。こうしてハンダを熱して羽の生える部分を固めるのだ。
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
とてつもなく熱いのだろう。ハンダごてを触れた瞬間から苦痛の表情で叫び続けている。
作業が終わると同時に、口をだらんと開けながら気絶してしまった。ピクピクと少しだけ動いていた。


片羽でアンバランスだがこれはこのままでいいだろう。これから飛ぶときに片方の羽を必死に動かす様を見れると考えると
むしろこれこそが最高な気さえしてきた。
はやる気持ちを抑え、その一匹はそのまま巣の中へ戻した。
そして二匹目を取り出す。


「うううううう・・・・うっうー!」
震えていたのかと思いきや、途端に可愛らしい笑顔でこちらを見るれみりゃ。
可愛さをアピールして見逃してもらう作戦なのだろう。
まあスルー。
そのまま帽子を奪い取る。
「うー!!! うっううー!」
必死に噛みついてきたが、ハンダごての時に厚手の手袋をした俺に隙はなかった。
このままだとなんか物足りないので、代わりにまりさの帽子を付けてやった。接着剤をたっぷり塗っておいた。

そうして二匹目も巣の中に放りもうとして・・・やっぱ止めた。
帽子も元のれみりゃも帽子に戻した。
「うー! うー!」
非常に喜んでいるが、喜ばすためではない。

俺はさきほど千切った片羽を持つと、羽と羽の間にまっすぐにそれを差し込む
ちょうどマットの帆のような感じだ。そしてすぐに薄力粉で傷を産める。
奇跡の早業で世にも珍しい三枚羽のれみりゃの完成である。
少し重いのか動くだけで疲れるれみりゃを巣の中に放り込む。
勢いよく投げたせいか帽子が巣の入口に落ちてしまった。
果たしてあの状態で飛べるのか、非常に興味の湧くところである。



俺の家の庭に巣を作った不運なれみりゃ。
意気揚揚と口を膨らませて帰ってきた。花でも取ってきたのだろう。
「うっうっうー♪」
そして入口に到着。すると目の前に何かあるのに気づいたのか体全体を傾げる。
「うー?・・・・う!」
どうやらそれは子供の帽子だと気づいたようだ。
口の中の花を吐きだすと急いで巣の中へ戻る。急いでカメラの映像を確認する。

「うー!!!!!」
やはり驚いているようだ。目の前の子供に。
一匹は片羽のれみりゃ。もう一匹は三つの羽を持つれみりゃ。確かに訳がわからない。
「う? う?」
両方を何回も何回も何回も見渡すれみりゃ。
子供の方は
「「う゛う゛う゛う゛う゛う!!!」」
自分の異常を親に訴えているのか。はたまた泣いているのか。俺にはわからない。


だがもっとわからにのはどうやら親のようだ。
「うー!」
とびっきりの笑顔で突如、三つの羽ののれみりゃに被りついた。
子供の絶叫が聞こえる。
「う゛わあああああああああああああ!!!」
あ、普通に喋れるんだ。
そんな場違いな感想を持ちつつ、食われていく無残な様子を見る。

「うー!うまうまー!」
親はもう目の前の物体を餌的な何かとしか認識できなかったようだ。
そのまま完食。


俺は勢いに乗って二匹目かとワクワクしていたら、親れみりゃは意外な行動をした。
「うー? うー!」
子供の口に自分の口を近づけ、何かを与えている。もしや今食べたれみりゃだろうか。
子どもの方も「ごくごくうー!」とか言いながら美味そうに飲んでいる。

そうして遂には「うっうーうまうまー!」と二匹で歌いは始めた。
どうやら自然界では片羽は問題ないようだ。
まあ怪我することもあるし、れみりゃはすぐ再生するからだろうか。
故にありえない三枚羽はれみりゃとして認識できなかったのだろう。

観察を続けることにする。



【あとがき】
続きます。でも来年からです。
クリスマスネタにしようかと思ったが間に合わず。
ゆっくりしすぎた。
関係ないけどまさかの東方冥異伝新作。
最近パッチがやたら多いと思ったら。

by バスケの人

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最終更新:2022年04月11日 00:12