ちゃぶ台の前にあぐらをかいて座ると、ちゃぶ台の上に鎮座した饅頭が
期待をこめた瞳で見上げて来る。黒い帽子に綺麗な金髪のゆっくりまりさである。
「おかしはどこ?はやくまりさにおかしちょうだいね!」
このまりさは野生の個体で、甘いお菓子をあげると言って連れて来た。
連れて帰る途中にも、そのお菓子は口の中でとろける、とか
食べた後もしばらく口の中に甘みが残るとか教えていたので、
だらしなく開けた口からは涎が垂れ、瞳にはキラキラとした星が映っている。
一刻も早くお菓子を食べたいのだろう、その場でぽいんぽいんと跳ねて催促を始めてきた。
「ゆっ!どうしたの?はやくおかしをちょうだいね」
「ああ、その話なんだが、実はここにお菓子は無いんだ」
「ゆぅぅっ!?」
ゆがーん!とまりさの頭に衝撃が走り、続けて喪失感がまりさを襲う。
あまりのショックにもちもちとした肌がぷるぷると震え、瞳からは星が消えた。
「ど…どういうこと?おくちのなかでとろけるおかしは?」
「お菓子は無いんだ、つまりまりさは甘い罠にかかったんだよ」
「ゆ…?あまいわな?」
ただでさえゆっくりは理解力や判断力が弱いとされている上に、
動転しているまりさは、オウム返しに言葉を返すことしか出来ない。
「つまり、お菓子があると言う嘘にだまされて、まりさはお菓子の無い家に連れてこられたんだ」
「ゆ、ゆうっ!ひどいよ!ゆっくりあやまってね!ぷくぅぅ!」
だまされたことに腹を立て、頬を膨らませて威嚇状態になるまりさ。
「でもこれが甘い罠なんだ、とても甘いだろう?」
「ゆゆっ!?」
ぷひゅるる、と頬に溜まった空気を抜きながら、まりさは意表を突かれたような顔を見せた。
このまりさを連れてきた訳がこれである。
ゆっくりは甘いお菓子を食べると幸せを感じる生き物だが、
同時に思い込みも強い生き物なので、お菓子に限らず甘ければ何でも良いのではないか。
甘い罠や甘い言葉でも餡子が幸せを感じるのではないか、それを確認する為に連れてきたのだ。
「な、なにいってるの?まりさなにもあまいものたべてないよ!」
「まりさはもう逃げたくても逃げられない囚われの身だよ、甘い甘い、甘い罠だからね」
「ゆ、ゆぅ…?」
甘い、と言う部分を強調して何度も言う。
言われているうちにそんな気がしてくる、と言うのが餡子脳の思い込みの強さである。
まりさは少し頬を染め、お菓子のことを思い描いた時のようにだらしなく口を開いている。
「まりさ、今どんな感じかな?」
「ゆゆ、まりさなんだかへんなかんじがするよ…」
もじもじと体をゆすりながら困惑するまりさ。味覚で直接甘みを感じていないので、
餡子の中に感じる快感に戸惑っているのだろう。
続けてあぐらをかいたまま前傾姿勢になり、まりさの側頭部、人間で言えば
耳のある場所に顔を近づける。突然の接近にまりさの体はビクッとこわばるが、
空いた手をそえて逃げられないように固定した。
「まりさの肌はとても気持ちが良いね、とてもとてもゆっくりしているよ」
「ゆゆっ、な、なにするの、はなしてね!」
野生の個体をそのまま連れてきたので、もちもちとしてはいるが実際はそんなに綺麗ではない。
それでもまりさの頬はますます赤くなり、恥ずかしさから逃れようと体をよじらせるが、
しっかりと掴んだ手から逃れることが出来ない。
そのまま指でごわごわした長い金髪をとかすと、付着した小さな土の匂いが漂ってくる。
「ゆっくりぷれいすに吹く風のような髪だ」
「ゆぅ、ほんとう?」
「ああ、ありすの髪もこの美しさには勝てないよ」
レイパーとして知られるありすも、理性のあるうちは都会派ぶって身だしなみに気を使う。
そのありすより美しい、その言葉にまりさの目はとろんとして口からは涎をたらしてしまう。
「どんなゆっくりもまりさを求めて、まりさとすっきりしたがっているよ」
まりさの頭の中でれいむ、ありす、ぱちゅりー等さまざまなゆっくりが現れ、
次々とまりさに求愛していく。もう自分にささやく人間に言葉を返すことも出来ない
まりさの産道が少し開き、皮を伝って液体が漏れ始めた。
「まりさはゆっくり中のゆっくりだね、ドスが君の美しさに嫉妬しているよ」
「……!!」
とてもゆっくりしている、あのドスまでもがまりさに勝てない。
まりさはぎゅっと目を閉じると、餡子の中を駆け巡る幸せに身を任せ
ぶるぶるっと小さく震えた。
まりさの耳元から離れ、体を固定していた手も離してやると
少しの間ふるふると震えていたまりさも、次第に意識を取り戻して行く。
「ゆ…すごくゆっくりするよ」
「だろう?これが甘い言葉だ」
「あまいことばがほしいよ、もっとちょうだいね」
よほど気に入ったのだろう、未だに開きっぱなしの産道からは
だらだらと砂糖水が漏れ続ける。ぴょんぴょんと飛び跳ねる体力がないのか、
はぁはぁと息を荒げながらも甘い言葉を催促してくる。
「よし、じゃあ目をつぶって口を開けるんだ」
「ゆっ、わかったよ、あまいのちょうだいね」
言われるままに、少し上を向いてべろんと舌を出してくるまりさ。
ちゃぶ台の下から小瓶を取り出し、だらしなく垂れる舌の上で2回ほど振ってやる。
瓶から落ちる赤い液体が舌に触れてから少しすると、まりさは目を見開いて
「ゆあ゛あ゛あ゛っ!?」
と叫びだした。
瓶の中身は激辛のスパイスで、赤ちゃんゆっくりなら1滴で死に至らしめるものである。
水を求めてちゃぶ台から飛び降りようとするまりさを空中でキャッチし、ちゃぶ台の上に戻してやる。
「はなじでっ!おみずのま゛ぜでぇぇ!」
人間の手から逃れようとうねうね動くが、逃げた先にも手がやって来て
体が平べったく変形するほど押さえつけられてしまう。
血走った目からはぼろぼろと涙が流れ、じんじんと染みる痛みに舌は真っ赤に腫れ上がっている。
「まりさの瞳は世界を照らす太陽の輝きだね」
「なんな゛のぉっ!?はやぐおみずのまぜでね!」
「甘い言葉だよ、欲しいって言ったろ?」
「あまいこどばはいいよぉぉっ!」
体全体をぶんぶんと振って、手を跳ね除けようとするまりさの顔面を上向きにするよう転がし、
無防備にさらけ出した産道に人差し指を突っ込む。湿った産道が異物を感じ取ると、
辛さに悶えるまりさに別の刺激を与えていく。
「ゆ゛ひぃ!がらい゛ぃぃっ!」
「世界で一番美しい宝石、それがまりさなんだよ」
「な゛にい゛っでるの゛ぉぉぉ!?」
「幻想郷で妖怪達が戦う理由、それはまりさを手に入れる為なんだ」
「わがらな゛いよぉぉ!もうはなぢでぇぇっ!」
辛さに耐え切れず、びくんびくんと大きく跳ねると、まりさは白目を向いて気絶した。
そっと手を離し、ちゃぶ台の下に用意していた水差しからまりさの口にどぼどぼと水を注ぐ。
そのまま顔面に水をかけると、口に溜まった水を一気に飲んでまりさは大きくむせた。
「ゆ゛、ゆ゛ほっ!ゆ゛ぇっ!」
「気がついたか」
「なにずるのっ!?ゆっくりあやまっでね!」
まりさはぜえぜえと息をつくと、ぴょんと起き上がり涙目で抗議してくる。
頬を膨らませながら器用にぷんぷんと喋るまりさに、もう一度甘い言葉をかけてみる。
「まりさの頬ですりすりすれば、誰もがたちまちすっきりー!してしまうね」
「ゆうっ、なにいって…」
自分は怒っているのにまだ甘い言葉を続けようとする人間に、
文句を言おうとしてまりさは固まってしまう。
次第にその顔が赤く染まっていき、紅潮を通り越して全身が真っ赤になると、
べろんと舌を出しながら飛び跳ねた。
「ゆ゛ぎいぃぃぃ!から゛い゛ぃぃぃぃ!?」
そのままちゃぶ台から飛び降り、ぴょんぴょんと跳ねて部屋から出ようとするが、
開いていない方のふすまに顔面から衝突し、ゆべっと転がってしまう。
それでも続けて湧き上がってくる辛さが悠長に泣くことを許してくれず、
「う゛わ゛ぁぁん!」と泣きながら、家から飛び出して行ってしまった。
「なるほど、辛味の方が勝ったか」
激辛スパイスと甘い言葉を同時に味あわせたことで、まりさの中の餡子が
二つの感覚を結びつけてしまったのだろう。
甘い言葉をかけられただけで、激辛スパイスの味が再現されるようになったのだ。
甘い言葉の方が勝てば、激辛スパイスを舐めさせても
餡子の中に幸せを感じるようになっていたかも知れない。
今回は辛味が優先されたが、やはり実際に体に感じる感覚の方が強いのだろうか。
実験対象のまりさは飛び出して行ったまま、結局戻って来なかった。
「ゆっゆぅっ、ゆっぐりじね、ゆっぐりじね…」
一目散に逃げ出したまりさは森の中の川まで戻って来ていた。
無我夢中で、自分でもどう走ったか覚えていない。
ただ人間に捕まって、無理矢理辛いお水を飲まされたのが怖くて、
悔しくて仕方がなく目から大粒の涙がぽろぽろとこぼれた。
それでも逃げてくる事が出来た、これからもゆっくり出来る。
「ゆっくりしていってね!」
「ゆ?ゆっくりしていってね…!」
突然声をかけられて振り返ると、そこには1匹のありすがいた。
久しぶりに会えた気がする同じゆっくりに強く安心する。
「ゆ?あなたないていたの?」
「ゆゆ、な、なんでもないよ!」
それなりに頭が良いありすに泣き顔を指摘されるが、懸命に強がるまりさ。
それでもついさっきまで産道を広げて甘い言葉に酔いしれていたまりさに
隠し切れない性の匂いを感じたのか、ありすは興奮を覚えていた。
「ゆ、あなたとってもかわいいわね、どうしてもっていうなら
とくべつにありすとゆっくりさせてあげてもいいわよ」
「ゆゆっ?」
「ま、まりさ!とってもすてきよ!こーふんしちゃうわ!」
だらしない顔で息をあらげるありすとは対照的に、
まりさはじっと黙ってぷるぷると震え、だんだんと顔を紅潮させて行く。
異様な反応に少し冷静さを取り戻したありすが戸惑っていると、
まりさは突然舌をべろんと出し、涙目で叫びだした。
「ゆぎぃ、かっ、がらい゛ぃ!」
「ま、まりさっ!?」
まりさはその場で数回ぴょんぴょんと飛び跳ねると、
すぐ側の川に向き直って、勢い良くダイブする。
「みずぅぅぅぅ!」
「まりざっ、どうしたの!?まりざ──っ!!」
ありすの静止も聞かず、どぷんと音を立てまりさは沈むと勢い良く水を飲み込む。
辛さから逃れられた幸せもつかの間、全身を覆って流れる水の冷たさの中で、
昔水の事を教えてくれた親の姿をぼんやりと思い出した。
このままではゆっくり出来なくなると感じる。
水の上に上がらなくては、と必死に体を揺さぶるが水は容赦なくまりさを流して行く。
沈んだ体が一瞬川底の石に引っ掛かるが、跳ね上がろうと足に力を込める前に、
水の流れがまりさの底面を掬い上げて足と川底を離してしまう。
そうしている間に水を吸った体が膨らんで行き、皮が破れて餡子が漏れ始めた。
じわじわと近づいてくる死に、まりさはもっとゆっくりしたかったと涙し、意識を失った。
「まりさ…どうしてぇぇ…」
川の流れの先には黒い染みが広がり、
突然の別れに困惑するありすだけが残されていた。
おわり。
最終更新:2022年04月15日 23:10