あるゆっくり一家のひな祭り

 *舞台は現代です。



「あかりをつけましょ〜♪ ぼんぼりに〜♪」

 あるお姉さんが駅から出てきた。
 今日は3月2日。
 歌いながら明日のひな祭りに何をしようかと考えていると、どこからかすすり泣きが聞こえてくる。

「まりさ、もうごはんがないよ? どうするの…?」
「ゆうぅ…ごめんね、れいむとおちびちゃん…」
「「「「「「「「ゆぅ〜ん…」」」」」」」」

 つがいらしきまりさとれいむ。
 そして3匹の赤まりさと5匹の赤れいむ。
 合計10匹の大所帯が、路地裏の暗がりで、さらに暗い顔をしながら泣いていた。

「ごはんがないとゆっくりできないよ。まりさ、どうして"かいこ"されちゃったの?」
「わからないよ…まりさはがんばってはたらいてたのに、おにいさんが『もうくるな!』っていって、まりさをけっとばしたんだよ…」
「ゆぅぅぅぅ…」
「まりさはゆっくりはたらいてただけなのに…」
「「「「「「「「ゆぅぅぅぅん」」」」」」」」

 まりさのほっぺには蹴られた傷跡が残っていた。
 どうやらこのまりさ、『ゆっくり派遣』に登録して働いていたらしい。
 オフィスの床掃除や、賞味期限切れの饅頭を食べて餡子を再生産するなど、カタギからアングラまで幅広く派遣して企業は大成功を収めた。
 一方ゆっくりのほうは、派遣企業から現物支給されるわずかなお野菜で貧しい生活を強いられていたが、なにも無いよりはマシだった。

 しかし、最近はどこもかしこも大不況。
 いの一番に解雇された失業ゆっくりが街中にあふれて、『派遣村』には連日のように体をプクッと膨らませたゆっくりが押しかけて、
「ごはんをちょうだいね! くれないと……ふえちゃうぞ!」
 と、市の職員を脅迫している様子がメディアでも取り上げられた。

 ちなみに私が住んでいる市の市役所にも、生活福祉課・ゆっくり対策グループなるものが存在する。
 ここでは、求職中のゆっくりがこれからのゆん生に絶望して犯罪に手を染めるのを防ぐために、安い米で作ったおにぎりを毎日一個ずつ与えている。
 汚染米騒動のときには、見事に当たりを引いたゆっくりが体中の穴という穴から餡子を噴き出してのたうち回っていたそうだ。
 おにぎりをもらって素直に喜んで帰るものもいるし、中には「もっとちょうだいね! きこえないの! ばかなの!」と迫るものもいるという。
「どぼじでぞんなごどいうのお!? あんたたちただの饅頭でしょおおお!!?」
 …と、その傲慢さにブチ切れて、失業ゆっくりを潰し回ったあげくに辞職していった職員も数多いという噂だ。

 それはさておき、このまりさ一家も、そんな失業ゆっくりのなれの果てなのだろう。

「ゆっ…ゆっ…ぷるぷるー! さむいね…おなかすいたね……」
「ゆ! みんなですーりすーりしてあったまろうね!」

 まりさとれいむは赤ちゃんたちを集めて体を擦り合わせはじめた。
 ただの饅頭とはいえ、こんな不思議な物体が10個も暗がりでモゾモゾと蠢いているのは意外と不気味だ。
 飢えたゆっくりに関わるとロクな事がないと聞いているので、私は足早にその場を立ち去ろうとした。

「ゆ?」
「あ」

 目が合った。

「おねえさん! ゆっくりしていってね!」
「なんならおねえさんのおうちでゆっくりさせてね!」
「ゆっくちさせちぇにぇ!」
「しゅーりしゅーりちてにぇ!」
「あまあまちょーだいにぇ!」
「ゆっくちほごちてにぇ!」
「かわいがってにぇ!」
「ゆ〜ん!」

 暗がりから、うす汚れた大小饅頭がウゾウゾウゾウゾとうねり出てくる。
 そして私に飼って欲しいのか、ウィンクしたり体をくねらせながら自分がどれほど可愛いかをアピールしてきた。

「キモッ!」
「"どにち"もでられるよ! まりさをおねえさんのところではたらかせてね!」
「募集してません!!」

 私はバッグを抱いてBダッシュ。
 すると、10匹のゆっくりがワラワラと後を追ってきた。

 ポインポインポインポインポインポインポインポインポインポインッ!!

「うわっ、うわーっ! ついて来ないでよ!」
「まってね! おいてかないでね! めんせつだけでもしていってね!」
「募集してないって言ってるでしょおおおおお!?」

 私はフードで顔を隠しながら全速力で逃げていった。

「「「「「「「「「「ゆっくりしていってよー!!」」」」」」」」」」

 ゆっくりたちの甲高い声が、はるか後ろから聞こえてきた。

          *          *          *

 さて、無事に自宅に帰って一息ついた私は、自分を祝うために組み立てたひな飾りの前でニヤニヤしていた。
 その夜のことだった。
 カリカリと何かを引っ掻くような音が聞こえた後、なにか柔らかいものが玄関のドアに当たる音がした。
 モニタを見ても誰もいないので、不審に思った私は勢いよくドアを開けた。

 ガスッ!

「ゆげえっ!?」

 ドアに顔面を強打されて、転がりながら吹っ飛んでいったゆっくりまりさがいた。

「まりさ?」
「ゆぐっ……お、おねえさん、まりさをおぼえててくれたんだね! とってもうれしいよ!」

 それは昼間のまりさだった。
 …覚えてたっていうか、人間にとってまりさは全部同じ顔にしか見えないし、ただそこにまりさがいたからまりさって呼んだだけなんだけどね。
 だが覚えててもらったと勘違いしている能天気饅頭ゆっくりまりさは、鼻(ないけど)のあたりをヘコませながら嬉しそうな顔で寄ってきた。
 昼間よりずっと汚れて、傷も増えたみたい。
 話を聞いてみると、家族をおうちに帰らせてから1匹だけで私を追ってきたそうだ。
 途中、交通事故に2回、傷害事件に3回遭ったそうだが、命と帽子を守ってなんとかここに辿りついたという。

「どうして私がここに住んでるってわかったの?」
「ゆゆ? おねえさんのあまあまのにおいをたどってきたんだよ!」

 どうも、バイト先のケーキとかコーヒーシロップの匂いが靴の裏に付いていたらしい。
 まりさの執念に感心していると、まりさは沈痛の面持ちで「おしごとをちょうだいね!」と懇願してきた。

「おねがいだよ! おしごとがないと、れいむとあかちゃんをゆっくりさせてあげられないんだよぉ!」

 そう言って、ゆわーっと泣き出した。
 ご飯をねだらないあたり、野良ゆっくりへの餌やりが条例違反だということを知っているらしい。
 なかなか賢くて家族思いのまりさだが、私は派遣会社じゃないから仕事の斡旋なんてできない。

「おねがいだよぉぉ!! まりさにおしごとをちょうだいよぉぉぉ!!」
「どうしたらいいのかな…」

 饅頭とはいえ、一応性別は女? ♀? ……でいいんだよね。
 明日は女の子のお祭りなのに、ホコリまみれで職を探して歩いてるなんてかわいそうだった。

「よしっ! 明日はあんたたちをお雛さまに仕立てて、写真を撮ってあげる!」
「ゆゆ!?」
「一日だけのアルバイトだけど、それでもいい?」
「ゆっ! おしごとをくれるならなんでもいいよ!」
「きまり♪ じゃあ明日の朝、家族を連れてウチに来なさいよ! モデルのお仕事で、まりさたちはジッとしてるだけでいいから!」
「ゆっくりしてればいいんだね? ゆっくりりかいしたよ! これでごはんがたべられるよ!」

 感激したまりさは涙と涎を撒き散らしながら、私の足元に勢いよく飛びかかってきた。
 靴を汚されたくなかったので、私はそばにあった消火器でまりさをはね返した。

「おねえさんありが……ゆぎゃあぁぁぁぁぁぁぁあぁあぁあぁ!!!!」

 しまった…つい条件反射で…。

「じゃ、じゃあまた明日ね〜!」
「ゆ゙っ……ゆ゙っ……」

 私はドアを閉めた。

          *          *          *

 翌朝。
 3月3日のひな祭りの朝、ほっぺをパンパンに膨らませたまりさとれいむが、お姉さんの家のドアの前に並んでいた。

「おちびちゃんたち、ゆっくりおくちからでてきてね! ゆぺっ!」
「やっとついたよ! おそとでゆっくりしようね! ゆぺぺっ!」

 2匹がペッと吐き出したのは、8匹の赤ちゃんだった。

「まりさの"しょくば"はここだよ! みんな、ゆっくりごあいさつしようね! せーのっ」

「「「「「「「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」」」」」」」

 シーン…

「ゆ? まりさ、だれもでてこないよ?」
「ゆゆぅ…? もっとおおきなこえでごあいさつしようね!」

「「「「「「「「「「ゆっくりしていってね!!!」」」」」」」」」」


 ……ベッドの中で夢見心地だったところ、携帯が鳴った。

「うう…ん。はぃもしもし。 …え? はい? いえ、なにかの間違いじゃ………………あぁ!!」

 アパートの管理人さんから、騒音の苦情が届いているとの電話だった。
 大急ぎで玄関に向かうと、悲鳴にも似た「ゆっくりあけてぇ!」の声と、ドアに体当たりする音が聞こえる。
 私は急いでドアを開けた。

 ガスガスガスガス!!

「ゆげえっ!!」
「ゆぶぁ!?」
「「「「「「「「ゆぴゃーっ!」」」」」」」」

 ドアに体当たりを仕掛けていたまりさとれいむ、それに8匹の赤ゆっくりが、開いたドアに薙ぎ倒されて餡子を撒き散らしながら吹っ飛んでいった。

「ゆぐぐ…いたいよぉ! もっとゆっくりあけてよぉ!」
「とってもいたかったよ! れいむのおかおをきずつけないでね! ぷんぷん!」

 まりさとれいむはまん丸に膨らんで怒っていた。
 その後ろでは、3匹の赤まりさが倒れて気絶。5匹の赤れいむにいたっては破裂してビクンビクン痙攣しながら、水っぽい餡子を垂れ流している。
 …あぁ、やっちゃった。

「おねえさん?」
「ゆゆ!? きいてるの!? れいむをむししないでね!?」
「え? あ、うん、ちゃんと聞いてるわよ? ささっ、中に入ってね! いらっしゃいませ〜♪」

 こんな所で絶叫されたら困るので、目を回している3匹の赤まりさを素早く回収すると、そそくさと2匹の親を招き入れた。

「い…いぢゃい…よ…………クタッ」
「おか……しゃ…………クタッ」
「…………クタッ」
 クタッ クタッ

 破裂した5匹の赤れいむは苦悶の表情で両親に助けを求めたが、私の家に興味津々の2匹はすでに玄関の中。
 赤れいむは失意のうちに、永遠にゆっくりすることになった。
 私は餡子とホコリにまみれた5匹の赤れいむの死骸を、指先でつまんでピッ! ピッ! っと遠くに投げ捨てた。

「ごめんね〜、うっかりしてたの。さ、どうぞ上がって!」
「ゆっくりおじゃまします!」
「ゆ〜! あったかいね! きょうからここをれいむのゆっくりぷれいすに…」
「ちょっと待った!」
「「ゆぷっ!?」」

 ボヨンボヨンと奥に進もうとしていた2匹は、通せんぼした私の足に顔面衝突した。

「ここは、永遠にワタシのおうちだからね? 中にあるものも全部、永遠にワタシの物だからね? お仕事してたまりさなら理解できるわよね?」
「ゆっ…ゆっ…ゆっくりりかいしてるよ! おうちもごはんもぜんぶおねえさんのものだよ!」
「ゆうっ!? なにいってるのぉ!? ここはれいむたちの……ゆむっ!!」

 本能的に恐怖を感じたまりさが、れいむの口をふさいだ。

「ねえまりさ? もし私のおうちで好き勝手したら、どうなるか分かるわよねぇ?」

 ここは鉄筋コンクリートのアパート。防音性も高く、一度中に入ってドアを閉めてしまえばゆっくりごときが叫んでも近所迷惑にはならない。
 つまり、おうちの中の私は無敵なのだ。ふっふっふ。

「「ゆっゆっゆっ!」」
「もし勝手なことをしたら、あんたたち2匹は餡子が出るまで私の座布団になってもらうわよ?」
「ゆひぃっ!」
「あんこさんでちゃったらゆっくりできないでしょお!?」
「知らないわよ! それからこの赤ちゃんまりさは……そうね、あっつ〜いお湯を注いで、お汁粉にして食べちゃおっと♪」

 私はいまだ失神している赤まりさを見せながら言った。
 赤ちゃんを人質にとられたまりさとれいむは、急に態度を変えて涙ながらにうったえてきた。

「たべちゃだめですぅ!!」
「たべてもおいじぐないですぅ!!」
「あら、あんたたちの赤ちゃんって美味しくないの? お饅頭なのに?」
「ゆっ!? そ、そーですぅ!! ぜんぜんおいじぐないんですぅぅぅ!!」
「もうたえられないぐらいぱっさぱさでまずいんですぅぅ!! だからたべないでぐだざいぃぃぃ!!」
「そうなんだ…。やっぱり路地裏に住んでたお饅頭なんて、所詮は生ゴミなのね」
「「そのとおりでずううう!! ゆわあああああん!!」」

 大切な赤ちゃんを助けるために自虐をはじめた2匹は、口に出した言葉と無駄に高いプライドとが相克して泣き出した。
 私はちょっと考えるそぶりをしてから、焦らすように言った。

「じゃ、貯金箱になってもらおっかな〜? お金入れるたびに『ゆ゙っ!』とか鳴いて、毎日貯金するのが楽しそう♪」
「もぉやべでぐだざいいいいいっ!!」
「こんなちいさなちょきんばこじゃ、ちょきんしてもぜんぜんたまらないでずううううううっ!!」
「それじゃあ……とんがり帽子の代わりにとんがりコーンをくっつけて逃がしてあげる。あまあまの匂いで食べられちゃうかもね♪」
「ゆぎゃーっ!! ちがうおぼーしじゃゆっぐりでぎない゙い゙い゙い゙い゙い゙っ!!!」
「ゆがあ゙あ゙あ゙っ!! おねがいでずがらっ、せめてあがぢゃんだけはゆっぐりざぜであげてぐだざい゙い゙い゙い゙い゙っ!!!」
「そ? じゃ、私のおうちで勝手なことしないでね。理解できた?」
「「ゆっぐりりかいでぎまじだあ゙あ゙あ゙!!!!!」」

 オッケー♪ これで2匹は私の手の上でコロコロだ!

「まずはお風呂できれいになろうね?」
「ゆ…ゆっくりきれいになりますぅ…」
「もぉどうにでもしてください…」

 2匹はすっかり大人しくなって、冷水をかけられようが軽石で擦られようが、目をギュッと閉じたまま無言で我慢していた。
 まだ失神している3匹の赤まりさのほうは、小さいので手もみ洗いですませた。

「は〜い、2匹とも体拭いてね」
「ゆぅん! ゆっくりふくよ!」
「かわいいれいむがころころするよ! ゆっくりみててね!」

 産まれて初めてのファーストお風呂でサッパリした2匹は、さっきまで脅されてたこともすっかり忘れて、タオルの上でのん気に転がっていた。
 なんという餡子脳…! さっきの努力が水の泡じゃない!

「ゆ!? おぼうしさんとらないでね!!」
「れいむのおりぼんさんかえしてね!」

 ガァーーーッ!!

 うるさい2匹を押さえつけて、ドライヤーで髪を整える。

「次はお化粧ね」
「ゆゆっ!? おけしょうするなんてはじめてだよ!」
「ゆふっ! かわいいれいむがもっとかわいくなっちゃうよ!?」

 …切り替えの早い饅頭だ。
 さて、まずは一番大切なベースをと思ったんだけど、この眉毛のカタチ、なんか嫌だなぁ。

「ね、眉毛剃っちゃっていいよね? 変に吊りあがってて雰囲気極悪!」
「ゆゆっ!? だめだよ!」
「おまゆさんがないとゆっくりできないよ!」

 ゆっくりできないのか!?

「でも剃る!」
「「ゆんぎゃーーーっ!!」」

 暴れる2匹を押さえつけて眉毛を落とすと、たいそうアホっぽい顔になった。
 ムニムニと2匹の顔をこね回してベースを塗ってから、私の夏用ファンデで白めに仕上げる。
 お人形さんっぽいチークが無かったので、秘技、「ピンクの色鉛筆の芯をパウダー状に削ってコスメ化!」の必殺技を使った。

「毛穴もないからノリがいいですわね〜お客さん!」

 とかチークブラシでほっぺに円を描いていると、鏡の前の2匹は「ゆっへん!」とでも言いたげな顔をして、ちょっとイラッときた。
 眉毛は薄く弧を描いて。
 おでこに小さな楕円系の殿上眉も描いて。
 そして鮮やかな紅をさして、出来上がり!

「どぉ? なかなかでしょ?」
「「うっとり〜」」

 髪もお肌もしっとりツヤツヤ。
 まりさもれいむも鏡の中の自分にウットリしていた。
 そんな2匹を向き合わせてみると、お互いの美顔を見た2匹の目と舌が飛び出した。

「ゆっほー!!! かわいいよぉ! れいむがこんなにかわいかったなんてぇ!!!」
「まりさもすてきだよぉぉぉ!!! むほおおおおおおおお!!!」
「待て待て待てー!」

 せっかくお化粧したのに、発情して頬を擦り合わせようとした2匹を慌てて引き離す。

「はなじでぇ!! でいぶとずっぎりさせてーーーーっ!!」
「むっほぉぉぉばでぃざああああああああ!!!」
「もぉ! やめてって言ってるのに! えい!」

 ブスブスッ!

「「ゆぎゃあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!??」」

 唯一お化粧していないあんよにボールペンを突き刺され、2匹は両目をヒン剥いた。

「「どぼぢでごんなごどずるのおおおおおおお!!!??」
「うるせーわよこのド饅頭! 奴隷労働ゆっくりはキリキリ働きまっせー!」

 私はまりさとれいむを静かにさせると、3匹の赤まりさのお化粧に取りかかった。
 途中で赤ちゃんが目を覚ました。

「ゅ…ゅ…? なにちてりゅの?」
「お化粧してるのよ」
「ゅゅ? おけちょーってなぁに?」
「とってもかわいくなれる魔法よ」
「ゆゆゆ〜♪ きゃわいくなって、ごめんなちゃい!」

 …ビキビキ。

 さて、30分もするころには、どこに出してもレイプされそうな5匹の美ゆっくりができあがった。
 5段雛の最上段の左側に美まりさ、右側に美れいむ。その下には3匹の美赤まりさが並ぶ。

「ゆー! とってもたかいね!」
「れいむおそらをとんでるみたい〜♪」
「ゆっくちしゅりゅよ!」
「ゆゆっ? あまあまさんがありゅよ?」
「ゆ? ゆっくちたべりゅよ!」

 と、5匹そろって近くに据えてある桜餅や菱餅に、長〜い舌を伸ばした。

「それ、食べちゃダメだからね!」
「「「「「ゆ゙っ!?」」」」」

 5匹はビクッと震えて一斉に舌を引っこめると、あまあまをチラチラ見ながら涎を垂らした。
 …あぁ〜、下あごのお化粧が剥がれちゃってる。
 …しかも台が涎まみれに。
 …絶対弁償させてやるわ!

 さて、気を取り直してからファインダーを通して見ると、うん…なかなかいい出来だ。
 お風呂に入ってお化粧をして、髪まで整えた5匹のゆっくりが、赤い毛氈の上で「ワタシ、美ゆっくりなんデス。。」って顔で鎮座ましまし。
 …だんだん耐えられなくなってきたから、はやく撮影しなきゃだよ。

「はい、お内裏さま。はい、おひなさま。ふたりともこれを口にくわえて?」
「「ゆゆ? これな〜に?」」
「まりさのは笏(しゃく)、れいむのは桧扇(ひおうぎ)っていう素敵なアイテムよ。食べちゃダメだからね?」
「「ゆっくりりかいしたよ!」」
「それから、両側の赤ちゃんは立ってないといけないから、頑張って上に伸び上がってね?」
「「ゆっくちがんばりゅよ! ゆぅんっ!」」

 両側の2匹の赤まりさは、つきたてのお餅みたいに柔らかい体をウニウニと伸ばした。

「いい感じ♪ じゃ、撮るわね?」
「「「「「ゆっくりとってね!!」」」」」

 自信満々の5匹は、完璧な勝負顔でキメているつもりのようだ。

「いくわよ〜! はいっ、チーズ!」
「ゆ!? ちーず!?」
「どこにあるのぉ!?」
「ちーじゅたべちゃい!」
「ちーじゅだいちゅきぃ!」
「ち・い・じゅ! ち・い・じゅ!」

 パシャッ!

 あぁもう! シャッター押しちゃったじゃない!

「違うわよ! チーズっていうのは写真撮るときの合い言葉!」
「ゆぅ…まぎらわしいよ…」
「おねえさん、れいむをぬかよろこびさせないでね! ぷんぷん!」
「「「ぴゅんぴゅん!」」」

 このぉ…!

「次はチーズって言ったらそのまま動かないでね」
「「「「「ゆっくりりかいしたよ!」」」」」

 5匹は「チーズ」という単語を聞くたびに、無意識のうちに涎をドバドバ垂らした。
 必死に体を伸ばしている両側の赤まりさが、限界に近いらしくぷるぷる〜っと震えだした。

「じゃ、いくわよ? はい、チーズ!」
「もぉがまんできにゃい〜!」
「たおれりゅ〜!」

 パシャッ!

「ちょっと両側の2匹! どうしてイナバウワーなのよ! オリンピックはまだ先よ!?」
「ごめんなちゃい〜!」
「まりちゃをゆるちて〜!」
「おねえさん、 まりさのおちびちゃんをゆっくりゆるしてあげてね!」
「もぅ…」

 疲れて立っていられないとのことなので、座らせて撮影することにした。

「じゃあ3度目の正直、今度こそ成功させるわよ!」
「「「「「えいっ、えいっ、ゆー!!」」」」」

「はい、チーズ!」
「「「「「…………」」」」」

 パシャッ!

 ん、いいんじゃないかな。

「念のためにもう一枚撮るわね」
「ゆ? いいけど、ついかりょうきんはらってね!」
「はいはい」
「ゆっゆっ!」

 美ゆっくりになってモデルをして、すっかり調子に乗っている。
 そんなお雛さま気分のまりさ一家を、360度あらゆる角度からあますところなくカメラに収めていった。

「はい! おしまい!」
「「「「「ゆ〜!」」」」」
「どうもありがとね! とってもステキな写真が撮れたわ! ご苦労さま!」
「おねえさん、さっそくおきゅうりょうをちょうだいね!」
「はいこれ、アルバイト代の500円よ。これなら3日ぐらいは…」
「れいむとおちびちゃん、これでゆっくりできるね!」
「ゆっくりほっとしたよ! ゆっくりかえろうね!」

 バイト代をもらった途端、私のことなどアウトオブ眼中。
 現金よりも現金な饅頭だ。
 そんな饅頭を幸せにさせるはずもなく、私はこの後のことを想像すると笑みがこぼれた。

「それじゃ、帰り道に気をつけてね〜♪」
「ゆゆ! おねえさん、またおしごとをしょうかいしてね!」
「またおねえさんのおうちでゆっくりさせてね!」
「「「ゆっくちさせちぇにぇ!」」」
「させねーわよこのド饅頭! 二度と来るなぁ!」

 バタァン!!

「「「「「ゆうっ!?」」」」」

 突然怒鳴られてビックリした5匹は、またお姉さんが出てきてくれるんじゃないかと家の前でマゴマゴしていたが、しばらくして帰っていった。
 私はパソコンを起動させると、ブログに今日の出来事と撮影した写真をアップしていった。
 しばらくするとブログのカウンターが猛烈な勢いで回転し、私は腰に手をあてて高笑いしていた。

          *          *          *

「ゆうぅ…なんだかおねえさんおこってたね…」
「そんなことよりおなかがすいたよ! このおかねでごはんをゆっくりたべようね!」

 額面に「500円」と書いてある紙幣……ではなく実は図書券を咥えて、まりさとその一家は商店街の八百屋に向かった。

「「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」」
「なんだぁこいつら?」
「おじさん、このおかねでここのおやさいをぜんぶちょうだいね!」
「ああ゙ん!? こんなもん使えるかボケが!! 餡子で顔洗っておととい来やがれ!!」

 ドカァッ!!

「「「「「ゆぎゃあーーーっ!!!」」」」」

 八百屋のおじさんにまとめ蹴りされた5匹。

「どぼぢでごんなごどずるのおおおおおおお!!!??」
「でいぶはおやざいをがいにぎだだげなのにいいいいいい!!!!」
「「「ゆえ゙〜ん!!」」」

 5匹は泣きじゃくりながら、もう一軒の八百屋に行った。

「「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」」
「なんじゃあ…?」
「すてきなおにいさんにおかねをあげるよ! だからまりさにおやさいをちょうだいね!」
「おしごとたいへんだね! ゆっくりしていってね! ゆっゆっ!」

 と、今度は叩き出されないように、媚び媚びの笑顔と口調で野菜をもらおうと試みる2匹。
 白髪で腰の曲がったおじいさんに「おにいさん」などと呼びかけながら「ゆっ!」と図書券をさし出した。

「なんじゃいのぅ…? あんたら何モンじゃあ…?」
「まりさはまりさだよ! おやさいをちょうだいね!」
「こんなもん出してきよってからに…。のぅ、まさお」
「まさおじゃないよ! まりさだよ! ゆっくりていせいしてね!」
「うるさいのぅ…。こりゃあ本屋で使うもんだ…。あっちの店行け…」
「ゆ? あっちのおみせにいけば、おやさいをくれるの?」

 おじいさんはそれっきり他のお客さんの相手をしはじめたので、まりさ一家は教えられた店に入っていった。

「おにいさん、このおかねとおやさいをこうかんしてね!」
「うっは!! ゆっくり御一行様が俺のお店にご来店っと!! 写メ撮ってうpうp!!」
「おにいさんきいてるの!? このおかねとおやさいをこうかんしてね!」
「おk!! はいこれ、野菜の図鑑でーす!!」
「ゆゆ!? これはおやさいじゃないよ! ごほんだよ!」
「だってここ本屋だしー!!」
「ごほんじゃゆっくりできないでしょおおお!!?」
「ゆっくりできるしー!! 園芸マニアの俺なんか、この本でご飯3杯いけるしー!! まさに外道!!」
「なにいっでるのかわがんないよぉぉぉぉ!!!!」

 まりさたちは散々悪口を吐きながら本屋を後にした。
 その後、甘味屋から魚屋、肉屋まで回ったが、ひとかけらの食べ物さえ手に入れることもできなかった。

「ゆうぅぅぅ…どおしてごはんをくれないの…?」
「まりさぁ……れいむはもううごけないよぉ……」
「「「おにゃかちゅいたぁ〜!」」」

 商店街の近くの路地裏でピッタリと寄り添って休憩することにしたまりさたち。
 そんなまりさたちを、十数匹の野良ゆっくりありすが涎を噴き散らしながら取り囲んだ。

「ゆはーっ! なんてとかいはなまりさ!」
「れいむすてきよ! もぉ、たべちゃいたいっ!」
「ゆふうぅぅ! おちびちゃん…まだこんなにちいさいのに! じゅるじゅるじゅる…」

 そう…まりさたちは忘れていた。
 5匹ともお雛さまルックで、ばっちりお化粧をキメた超美ゆっくりになっていることを!

「ばでぃざぁ!! ありずのあいをうげどっでぇぇぇぇぇ!!!」
「でいぶぅぅぅぅ!! あでぃずはひとづまでもかまわないわよぉぉぉぉぉぉ!!!」
「おちびぢゃんたち!! "ほけんたいいく"のおじかんよぉぉぉぉぉぉ!!!」

「「「「「ゆぎゃあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!!」」」」」

 暗い路地裏で繰り広げられる、ありすによる一方的な愛の劇場。
 だが、誰も助けに来るものはいなかった……。

「じだいはりゃくだつあいよぉぉぉぉ!! でいぶもそーおもうでしょぉぉぉぉぉ!!? んほおおおすっきりいいいいいいいいいいっ!!!!」
「やべでぇ! でいぶにはばでぃざがぁ! ゆげえぇ!! ずっぎりじだぐないのに……ずっぎりーーーっ!!! 」
「かわいいおちびちゃんに、あいのすがおをみせてあげるわあああああ!!! すっきりー!! すっきりー!! すっきりー!!」
「ゆぴぃ! ちゅっきりー!」
「やめちぇー! ちゅっきりー!」
「ちんじゃうよぉ! ちゅっきりー!」

 れいむと3匹の赤まりさはハリネズミのように茎を生やして朽ち果て、何度もすっきりして満足したありすたちは1匹を残してどこかへ消えた。
 その1匹のありすは、たくさんの茎を生やして口の端から餡子を吐いている虫の息のまりさを、都会派らしく後ろから攻めたてていた。

「んほおおおおおお!!! なんかいめかわすれちゃったけど、すっきりーーーっ!!!」
「……ずっぎ……りぃ………っ…」

 まりさ種を好むありすたちに集中的に頬擦りされ、体を舐め回されたまりさは、とんがり帽子もお化粧も落ちて身も心もぐちゃぐちゃだった。

「ゆはぁ…ゆはぁ…とってもすてきだったわよぉ…。またすっきりしましょうねぇ…!」

 全身粘液まみれのありすはネチャネチャと音を立てながらまりさから離れると、落ちていた図書券とまりさの帽子を口に咥えた。

「まり…さの……おぼうし……おきゅうりょう……かえじで……」

 だが、ありすは鼻歌を歌いながら、テカテカ光る粘液の糸を引いてどこかへ消えた。

「れいむ……おちびちゃん…………ゆうぅぅぅぅ……ゆうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……」

 変わり果てた姿の愛するれいむと赤ちゃんのそばで、すべてを奪われたまりさはいつまでもすすり泣いていた。

          *          *          *

 翌日、商店街まで買い物にでかけた私は、物陰にかくれていた帽子の無いまりさに声をかけられた。

「あら? もしかして…」
「おねえさん……まりさだよ……」
「誰かに乱暴されたのね? 家族はどうしたの? 図書け…コホン、お金は?」
「ありすにおそわれて、れいむとおちびちゃんはゆっくりしちゃったよ……おねえさんにもらったおかねもとられちゃった……」
「こんなに茎が…」
「ありすがね、なんじゅっかいもまりさですっきりしたんだよ…。いやっていったのに…。まりさのからだとおかねがもくてきだったんだよ……」
「そう」
「どうしよう…ここにもあかちゃんがいるんだよ…」

 まりさの視線がおなかに移る。
 植物型と胎生型の、だぶるにんっしんっ。
 このまま赤ちゃんが大きくなれば、まりさは急激に餡子を吸われて衰弱死してしまうのは必至だ。

「茎だけでも取ってあげようか?」
「ゆぅ……でも、まりさのあかちゃんなんだよ……」

 たとえレイプされてできた赤ちゃんでも、まりさは見殺しにしたくないらしい。

「おねえさん、おねがいだよ…まりさをおねえさんのぺっとにしてね…?」
「うちのアパート、ペット禁止なのよね」
「それじゃ、ちょっとだけごはんを…」
「野良ゆっくりへのエサやりは条例違反なの」
「まっ、まりさは"ゆっくりはけん"にとうろくしてるんだよ!? のらゆっくりじゃなくて、しつぎょうゆっくり…」
「その会社、きのう倒産しちゃった」
「ゆうううううっ!!!??」

 正真正銘の野良ゆっくりとなったまりさ。
 のはや、残されたのはレイプされてできた赤ちゃんだけだ。

「ゆ…ゆっ……ゆ゙っゆ゙っ……ば…ばでぃざっ……もぉどうすれば…いいか……わがんな……びっ……」

 まりさの両目がぐるぐる回る。
 単純な餡子脳にとてつもないストレスがかかり、精神が異常をきたしはじめたようだ。

「あ、そうそう。実はこれを渡そうと思ってたの」
「ゆ゙っ? ……ゆ゙っゆ゙っ?」

 だらしなく開いた口から涎を垂らしながら、まりさは私が出したレシートを見た。

「はい、ひな飾りのクリーニング代。昨日まりさたちが涎まみれにしちゃったでしょ? だから、弁償してね?」

 数を数えられないゆっくりだが、ゼロがズラズラと並んでいるのを見て大金だということは分かったようだ。

「ゆぴっぴっ……ゆ゙ばっ……! ゆ゙ん゙…ぷぁっ!」
「乱暴されて、愛するれいむも失って、可愛い赤ちゃんも失って、欲しくもない赤ちゃんなんか作らされて……かわいそうなまりさ」
「ゆがっ…かっ……がわ…ぞ……いぞ……ゆ゙っ……がわいぞ……ゆ…げへっ………うふふふふふ…」

 まりさは水っぽい餡子を垂らしながら意味不明なことを口走り、額の茎を見てヘラヘラ笑いはじめた。
 現実逃避しちゃったみたい……。

「子持ちに借金持ちのシングルマザーが生きていくのは大変だけど、ゆっくり頑張ってね」
「うふふふ……ばっ…ばでぃっざ……じんげるばざぁ……あがぢゃ…ど……ゆ゙っ…ゆ゙っぐず……ずれっ……ぺっ……ぺっぽぉ!!!」

 まりさは勢いよくのけ反って、白目を剥いた。

「ぺっぽぉっ!!! ゆぺっぽーーーーーっ!!!!」

 最後に甲高く叫ぶと、まりさは完全に発狂して、光を失った目で茎を見上げながら笑っていた。
 私はその口にレシートを投げ入れると、反応のないまりさを残してその場を去った。

 数日後、同じ場所で、体内の餡子のほとんどを失ったまりさが出産途中で死んでいた。
 まりさの半開きの産道からは、体半分だけ産まれた赤ありすが、黒い泥団子となって朽ちていた。
 足元には、栄養不足のために茎から腐って落ちた小さな赤ゆっくりが、鳥のフンのように点々とシミを作っていた。
 地を這う虫がたかっていた。

 まりさは永遠にゆっくりすることになった…。



〜あとがき〜
ハイ、ユ〜カリです!
リアルでバイト先が潰れました!(つД≦`)・゚・。
失業…というか失バイトしたのはまりさじゃなくて私です。
本当にありが(ry

今回のお姉さん、ちょっとダークでしたね(・ω・;A)
読んでくださった読者さま、ありがとうございました!
それじゃ、またね♪


〜書いたもの〜
竹取り男とゆっくり1〜7(執筆中)
暇なお姉さんとゆっくり
せつゆんとぺにこぷたー
悲劇がとまらない!

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最終更新:2022年04月17日 01:10