「ここはなかなか
ゆっくりできそうだわ」
「よし、ここをまりさたちのおうちにするんだぜ」
ゆっくりたちの声が聞こえたのは、ちょうど俺が台所に入ろうとしたときだった。
ぎょっとして声のした方をみてみると、そこには2匹のゆっくりたちがいた。ありすとまりさだ。
つがいのゆっくりのようで仲良くすーりすーりしており、俺がいることにはまだ気づいていない様子だった。
どこから入ってきたのかと不思議に思い台所を見渡すと、勝手口がきいきい音をたてて揺れている。
どうやら勝手口を閉め忘れていたようで、こいつらはそこから侵入してきたらしい。
なるほどと納得しゆっくりたちに視線を戻すと、ゆっくりたちも俺に気づいたようで、
「ゆゆ?にんげんがいるわ。きっととかいはなありすたちにみとれているのだわ」
「ここはまりさたちのみつけたゆっくりぷれいすなんだぜ、ばかなじじいはさっさとででていくんだぜ」
「ゆっくりしないでりかいしてね。あと、とかいはなありすたちにあまあまをもってきてね」
と、テンプレ通りなセリフを吐いた。こいつらもしかしてコピペで増えてるのか?と思うほどだ。
俺は大きく息を吐くと、ゆっくりたちに笑顔を向けながら
「お兄さんは急いでいるんだ。だからここでゆっくりしていっていいよ」
と言い、ゆっくりたちの横をすり抜けて勝手口から家を出た。
俺の背中では、
「いなかものがにげていったわ。とかいはなありすたちのしょうりなのだわ」
「ゆっふっふ。きっとこのまりささまにおそれをなしてにげだしたのぜ」
などというゆっくりたちの声が聞こえた。
しばらくして
冷蔵庫の中身を片っ端から放り出していくありすと、それを食い散らかすまりさのせいで、台所は燦々たる状況になっていた。
「ゆっ、ここからあまあまのにおいがするわ、むーしゃむーしゃ、しあわせー♪」
「ゆっくりしないでそれをまりさによこすのだぜ、はやくするのぜ」
冷蔵庫の奥から放り出されたケーキはべちゃりと床に落ち、生クリームを飛散させる。まりさは即座にそのケーキに飛びついた。
「うっめ、むっちゃうめぇ!!……ゆぅ?」
先にその異変に気づいたのはまりさだった。
「ありす、なんかへんなんだぜ?」
「ゆゆっ?」
次いで、ありすも異変に気づく。かすかな異臭が台所に漂っていた。
何かが焦げるような臭い、そして間もなく、さっきにんげんが入ってきた廊下の方から、黒い煙が立ち込めてきたのに気づく。
「なんだかゆっくりできないのだぜ」
「まりさ、ゆっくりしないでにげましょう」
ありすたちは勝手口に向かうが、勝手口のドアはさっき出て行ったにんげんの手によって閉められている。
「なんでなのだぜ、さっきまではあいていたのだぜ」
そう言ってまりさは幾度も鉄のドアに体当たりするが、まったく開く気配はない。
そうこうしている内に黒煙は部屋を埋め尽くし、台所の至るところから火の手が上がり始めた。
「げほっ、ま、まりさ、はやくなんとかするのだわ」
煙を吸い込んだありすは、クリームを吐き出しながらまりさを急かすが、いくらまりさが体当たりを繰り返そうがドアに変化はない。
「だめなのぜ、ほかのばしょをさがすしかないのだぜ」
まりさは勝手口を開けることを諦め、振り返って退路を探そうとするが、すでに炎は台所の半分以上を埋めており、どう見ても逃げ場などなかった。
それでもまりさたちは、右往左往しながら懸命に出口を探したが、徐々に広がる炎に押され、結局勝手口の前まで戻る羽目になった。
勢いをあげて迫る炎を目の前にして、ずりずりと後退するも、その熱気がゆっくりたちの肌を焦がす。
「ぜんぜんゆっぐりでぎないよおおぉぉぉぉぉ!!!」
「ゆっくりしないでありすをたすけてね、とかいはなありすだけでもゆっくりさせてね」
「むりだよおおぉぉぉ!!!おそとにでられないよおおぉぉぉぉぉ!!!」
あわてふためくまりさの横で、ありすは心底落胆したような目をまりさに向けた。そして、
「やくたたずのまりさはありすのたてになってね」
そういうと、ありすはまりさを火の手の上がる方に押しやりながらまりさの陰に隠れた。
「あづいよおおおお!!!どぼじでごんなごどずるのおおおおおお!!!」
「とかいはなありすをゆっくりさせるのはとうぜんなのだわ!!!ゆっくりりかいしてね!!!」
「ゆぎゃああああああ!!!あづいいいいいいい!!!」
ぐいぐいと炎の方に追いやられるまりさ。その帽子に火の粉が飛び、まりさの帽子が発火した。
「ああああああ!!!ばりざのおぼうしがああああああぁぁぁぁぁ!!!!!」
まりさはぼうしを口にくわえ、必死に火を消そうとしたが、三十秒を待たずしてまりさの帽子は灰となった。
「ありすをこんなところにつれてきたばちがあたったのね」
そう言って誇らしげに笑うありす。今この一瞬は、この状況を本気で忘れているのかもしれない。
まりさはわんわん泣いた後、ありすの方をゆっくりと振り返り
「ゆ゛っぐり゛でぎな゛い゛あ゛り゛ずばじね゛ええええぇぇぇぇぇっ!!!!!」
と、ありすめがけて飛び跳ねた。
しかし、ありすはさっと身を翻してまりさの突進を軽くかわす。
ありすの背中。まりさの向うその先には、さっきまでまりさが何度も体当たりをしていた勝手口があった。
ただしさっきまでとは違い、炎を受けて真っ赤になるほど熱せられている。
じううううううっ!!!
「……!!!」
顔の皮の焼け焦げる音とともに、ボンという破裂音が響く。まりさの目玉が破裂した音だ。
まりさは顔面をドアに貼りつかせたまま何度か体を震わせていたが、やがてずずっと床に滑り落ちそのまま動かなくなった。
ドアには焼け溶けたまりさの目の跡と餡子の甘い匂いだけが残っていた。
「ありすにはむかうまりさはしんでとうぜんね。えいえんにゆっくりしてね」
そう言って勝ち誇るありすの頭上には焼け崩れた天井板が迫っていた。
「ゆゆっ?なんだかおそらがくらくなってき
「今日のニュースです。本日未明、山中の一軒家で火災がありました。
火元が複数あったことから、地元の警察は放火とみて調査を続ける方針で…
最終更新:2009年04月25日 01:19