今からずっと昔のお話。小さな島国の王様が、外国から人や物が入ることを禁じて、
外交をやめることにしました。民衆が他の国の影響を受けると統治しにくくなると
考えたのです。こうして“鎖国”が始まりました。
そうして数百年が経ち、その島国はとても風変わりで独特な文化を成熟させました。
そして、多くの人は知るよしもなかったのですが…その地にしかいない、
とても不思議な生き物との暮らしが築かれていたのです。
海の向こうの国々では航海技術が発達し、海図の端から端まで船が行き交うように
なりました。強い国は国をより強くするため、他の国を仲間にしたり、
征服したりするようになりました。大国による世界の奪い合いが始まったのです。
その島国にも、ある外の国から使者がやって来ることになりました。
鎖国を辞めて、その国の仲間になるのです。
さて、島国の王様たちは困ってしまいました。強い国の偉い人がやってくるのです。
失礼があってはいけません。それ相応のもてなしをしなくては、敵意があるとも
思われかねません。しかし長い間他の国と関わっていなかったので、
どうしたらよいのかわからないことだらけだったのです。
国中から優秀な学者を呼び揃え、通訳をさせることになりました。
贈り物として、貴重な美術品や様々な珍しいものが集められました。
歓迎のための宴も開かれます。当然、おいしいものがなくては始まりません。
お城の台所から、女の子の声がします。
「うたげだって! なにするんだろう、わくわくするね!」
「きっとすっごく
ゆっくりできるよ! たのしみだね!」
生まれて初めての宴を前に、はしゃぎ声はなかなか止みません。
その国では、庶民から貴族までが食べている大人気の食べ物がありました。
お祝いの席では必ず出されるほどです。その中でも最高級の素材が、
最高の職人によって調理されました。
さあ、ついに使者の一団が城下街にやってきました。
見たこともない姿、聞いたこともない言葉。道々の人は大層驚きました。
ついにお城で、使者との会談が始まりました。慣れない事に戸惑いながらも、
島国の王様と大国の使者は友好的な条約を結ぶことができました。
これでこの島国も安泰です。
夜になり、祝いの宴が始まりました。歌や踊り、お酒に豪華な料理。使者の人々も
喜んでいます。次々と運ばれてくる料理の皿。そして最後、〆は一際大きな丸皿。
『kthjpoaenfsdhp@awdrhkhajapgkmap2!?』
どうしたことでしょう、使者の皆さんが突然大声を上げました。顔を真っ青にして、
腰を抜かしています。
広間がざわめきます。何か悪い事をしてしまったのでしょうか。
人々の間に不安が広がります。
『xe@loju89p^kfe3shp^:;!? vtjopug8ok! vtjopug8ok!』
使者の語調は荒く、すぐさま通訳されました。
「えー、“あなたたちは食べるですか、頭の人を。おお、恐ろしい恐ろしい”…と」
確かに、生首にしか見えないはずです。皿の上にあったのは“ゆっくり”という、
人間の頭そっくりな生き物を丸ごと料理したもの。
しかもこの時代、ゆっくりはこの島国にしかいなかったのですから。
「\0@pl;ji9gfxsrghkoonmjklop@kil;@p-kgt8
(違います人では、ゆっくり、動物、甘い動物です)」
『zwtfbm;@kmjj:;@fsj;j(動物ですか、本当にこれが)』
「\\l-m,\\^lbf34zgtrchuj(平気食べても、食べて下さいどうかお願い)」
『mnnmjnuhcfxserg@:/plmjydfstr(しかし見えない生首にしか)』
「0o@-:;8yrwedxcktk;@:\l;p(最高の食べ物です、用意できる私たちが)」
ゆっくりの姿盛り。一見ただのゆっくりのようですが、ゆっくり料理の最高峰とも
呼ばれるものです。まるで生きているかのような瑞々しい外見。眼や髪、飾りも
きれいなまま、ふてぶてしい笑顔もそのままです。
しかし驚いたことに、一度完全に解体されてから、寸分違わず組み直されていると
いうのです。たっぷりと詰まった餡はどんな美酒よりも芳しい風味がすると
伝えられています。
しかし現在では調理法が失われており、食べることができません。とても残念ですね。
『….nhfryufi;:^lhjtdeghji』
『;@op;@:@/0drsdfdeas6hv…!?』
『bnkjy9lf! bnkjy9lf!』
『………dwtyo@pjo@ol』
使者の中でも特に若い下っ端の一人が、恐る恐るゆっくりの盛られた大皿に近付きます。
侍女がゆっくりまりさの帽子と頭蓋を外すと、顔の部分に黒いものがみっしりと
詰まっているのが見えました。下っ端使者は震える手で匙を突き立てます。
そして一思いに口に含みました。
一瞬、広間は完全な静寂に包まれました。そして…
『………!』
至福の甘みに、その表情がほころびます。ぽろぽろと涙さえこぼしていました。
この瞬間、ゆっくりの味が言葉を超越したのです。
使者の長が頭を下げて言いました。
『pikmdy6kpbhwe(申し訳ないひどいことを言って)』
「jkdfyik0ok@mjy,cwtyhiijgog47890gsbjigtrwfh
(気にしないで下さい、食べて下さい沢山ありますからまだまだ)」
誤解は解けたようです。それから、使者の人々だけでなく、その場にいた者みんなで
ゆっくり盛りを分かちあって食べました。こんな騒ぎがあったものの、大事な会談は
無事終わりました。ゆっくり食べて地固まる、とでも言いましょうか。
ゆっくりはとても気に入られたようです。
「おふねさんで あたらしい ゆっくりぷれいすにいくよ!」
「いちばんのりだね! ぜんぶ まりさたちのものだよ、ゆふふ!」
帰国する使者たちに、ゆっくりの入った幾つもの木箱が贈られました。
使者の一人が育て方の説明を聞いて、書き記しています。
「ゆゆっ、ゆっくり つつかないでね!」
生きて動くゆっくりを見て、触って遊んでいる者もいます。
この時持ち出されたゆっくりは、新天地でもとてもかわいがられ、おいしく食べられ、
たっぷり虐められたそうです。めでたしめでたし。