「おい、こっちにれいむ種がいたぞ!」
「殺せ!!逃がすなっ!」
森を、怒りに満ちた声が飛び交う。
数十人の男たちが1匹のゆっくり霊夢を追いかけていた。
「ゆー!!やめてね!!れいむは
ゆっくりしていただけだよ!?」
ぼよんぼよん。
情けない音を鳴らしながら逃げるれいむ。
「殺せ!殺せ!!」
男たちの声が、れいむの後頭部をビリビリと震えさせる。
「ごわいぃいい!!!ゆっぐりできないぃいっ!!! ――ゆっ!?!?」
次の瞬間。
れいむの眼前に木製バットが飛び込んできた。
「ゆぴぃっ!!」
そのままバットはれいむの上半分を吹き飛ばしてしまった。
待ち構えていた男がフゥフゥと息をつく。
そして、やってしまった、といった顔に変わる。
「バカ野郎!!!何してやがんだ!!!」
ようやく追いついた男たちに、バットを振るった男は怒鳴りつけられる。
「す…すみません………!!つ、つい……!!」
「つい、で済むかバカ野郎!!急いでかたずけろ!!」
「早くしねえとまた湧いて出てくるぜ!?」
「急げ!!時間がねぇっ!!」
男の一人が辺りに飛散した餡子を指さし、別の男が手際よく回収していく。
それもかなり念入りに。
餡子が触れた部分の土は、スコップで掘ってビニル袋に入れる徹底ぶりだ。
吹き飛んだれいむの餡子はかなり多く、その後3時間に渡って回収、消毒作業が行われた。
「………昨日の件でお話が」
男は村長に深々と頭を下げた。
彼は昨日、バットでれいむを潰した男だ。
「………わかっておる。この音を聞けば、な……」
村長が、耳を塞ぐポーズをとる。
見ようによっては頭を抱えているようにも見える。
「……すみません」
小さな謝罪。
それは外から聞こえる騒音にかき消されてしまった。
二階の窓から見える地面は、赤と黒で染まっている。
ぞわぞわと、波のように動きながら。
「……堤防は大丈夫だろうな」
「はい……そちらはなんとか」
大地を埋め尽くすモノ。
それらは全て、れいむ種の赤ちゃんゆっくりだ。
村を取り囲む堤防がなければ、今頃村は赤れいむであふれかえっていたことだろう。
「ワシが子供の頃は、ゆっくりはここまで繁殖力旺盛ではなかったというのに………」
うつむいたまま、村長は呟いた。
ゆっくりには、植物型妊娠と呼ばれる出産方法がある。
自身から茎を生やし、子を成すものだ。
いつからか、ゆっくりは交尾なしでも出産するようになった。
人間による駆除活動に対抗するため、多産を強化したのかもしれない。
そして人間は、それに対抗して駆除回数を増やした。
それが原因かはわからないが、ゆっくりはさらに増殖するための能力を得た。
今の凄惨な現状がその結果だ。
「………俺が餡子をブチ撒けたせいで…………!!クッ……」
ゆっくりの体内の餡子。
これが地面に放置されると、芽が出るようになった。
ほんの少しの量でも確実に芽が出る。
その芽は周囲の大地から養分を吸い取り、わずか12時間~24時間で1メートルほどにまで成長するのだ。
もちろん、それに赤ちゃんゆっくりが成る。
1本の茎から100匹近くの赤ゆっくりが実るとも言われている。
産まれた赤ゆっくりが、潰されるか何かする。
そうするともう手の着けようがないレベルで増殖する。
大量に増えると、草や木は根こそぎ食べられてしまう。
そして茎が土の養分を吸うので、土地が枯れる。
1匹のゆっくりを撒き散らすだけで、死の大地ができてしまうのだ。
世界中のゆっくりがある日を境に究極の進化を遂げてしまった。
害獣ゆっくりとしての最終進化だ。
生殖行為を行わずとも爆発的に増え続ける究極の生命。
それから間もなく人類は滅亡した。
最終更新:2011年07月28日 12:43