※ポケモンの習性独自解釈多々あり。

僕はマメパト。いらない子だからと言われて兄弟たち数百匹と一緒に逃がされちゃった。
これからどうしよう。どこに行けばいいのだろう。皆不安そうにしている。
その時僕はある物語を思い出した。それは、僕らの進化系…ハトーボーにまつわるおとぎ話。

『ハトーボーの住む森の奥には争いのない平和な国がある』

そうだ、ハトーボーの住む森の奥を目指せばいいんだ。
そこに辿りつけたならば、きっと僕らは幸せに暮らせるんだ。
ほとんどの皆は賛成してくれた。けれども反対するのもいた。そのうちの1匹の中で。
「けっ、そんな国あるわけねーよ!アホ臭ぇ!そんなとこ探すよりここで暮らした方がましだぜ!」
と言い放ち、群れから離れようとした兄弟がいた。
しかし、僕らの草むらを出てすぐ、彼は「ぎゃっ」と叫んで静かになった。
恐る恐る外の様子をうかがうと、大きなポケモンの口の中からぴくぴくと痙攣する足が見えていた。
『平和な国』を目指すことに反対するマメパトは誰もいなくなった。

僕らはハトーボーの住む森の奥の平和な国を探して、北へ、北へと旅を続けた。
季節は秋。食べ物にも恵まれ、強いポケモン、恐ろしいポケモンに出会うこともなく、順調な旅だった。
そのためか、油断しすぎていたのかもしれない。
ある日、僕らは美味しそうな、食べごろの実がいっぱいなっているのを見つけた。
そこは見晴らしの良い道路の端。小さな木立にはたっぷりと美味しそうな実。
僕らはここまでの旅でこの辺りには天敵となりうるポケモンがいないことは知っていた。
それに元々難しいことを考えるのが苦手な僕らは、警戒心もなく降り立ち、餌をついばみ始めた。
美味しさとのどかな光景に、「もしかしたらこの近くにハトーボーいるのかな?」などとのんきに思いながら。

がさっ。何かの物音に気がついた時にはすでに遅く。
そこにはポケモンを引き連れた人間の子供が1人いたのだ。
子供の指示を受けたポケモンが僕らの1人…僕の姉マメパトに襲いかかった。
襲われた姉マメパトが何かを叫んだのと同時に僕らは必死で空へと飛び立っていた。
遠くから姉マメパトの抵抗の声がしばらく聞こえたがやがて…遠ざかっていった……。

姉マメパトがいなくなってから数週間が経った。
その後僕らは強いポケモンのいる地域に入り込んでしまったらしく、
襲われていなくなってしまうマメパトが徐々に増えていた。
皆の顔には疲れと焦りが浮かび始めていた。

ある日のこと。僕らが小さな林(この林にも、ハトーボーはいなかった…)で休んでいると、妙な気配がした。
眠い目をこじ開けて見ると、変な生き物が大きな2つの目と頭の上にあるもう2つの目でこちらを見ていた。
うっかり叫びそうになったが、よく見ると弟マメパトが親しげに何かを話していた。
弟曰く。この変な大きな生き物も僕らと同じで鳥ポケモンらしい。

この変なの(シンボラーと言う種族らしい)も、おやだったトレーナーに捨てられてここにいるらしい。
僕らと違うのは、こいつは捨てられてからずっとほぼ同じ場所にいて(そういう習性らしい)ずっと1人だったこと。
幸い美味しそうな外見ではないから誰からも襲われなかったそうだけど。

「別に『おや』に未練はないんだけど、そういう習性だからねー、離れられないんだよねー」

そう言うシンボラーに同情したのか、あるいは話してるうちに何らかの感情が芽生えたのか。
次の朝、旅立つ僕らの群れには弟の姿はなかった。

シンボラーと弟が手を振って見送っている姿が木立の隙間に小さく見えた。

ハトーボーのいる平和な国を探し、旅立ってから数ヶ月。姉を失い、弟と別れたのはいつだったか。
季節は冬へと変化していた。この地方の冬は厳しい。
雪に覆われた大地には食べ物なんて見いだせない。
それに僕らの苦手な氷ポケモンがいっぱい現れ、しかも彼らは概して強い。
1匹、また1匹と倒れ、逃げまどい、離れ離れとなり…今はもう、僕は一人ぼっち。しかも腹ペコで、足をやられていた。

そして。強いポケモン達に追われ、僕は森へと逃げ込んだ。不気味に静まり返った森の中。
その静けさに、寒さと恐怖に、空腹に、僕の思考は旅立ちの瞬間へと囚われる。

もしかして。もしかしなくても。僕が平和な国を探そうなんて言ったから。
皆空腹で。ポケモンに襲われて。恐ろしい思いして。痛い目にあって。
ここまで頑張ったのに、ハトーボーには1度も会えてない。『平和な国』なんてもちろん見えもしない。

…そもそも『平和な国』なんて本当にあるのだろうか?もしかしてないんじゃないか。
いや。ないはずない。あるんだ。『平和な国』がないとしたら…僕は…皆は…何のために…。

ふと、森の中の広場みたいになっている場所にいることに気がついた。
飢えのため、目が霞み、よく見えないけども、他の場所とは雰囲気が違うらしいことは分かる。

とても落ち着いた場所。何か懐かしい匂い。この匂いは、マメパトの匂いだ。
マメパト達の匂いの真ん中。最も良い匂いと、強い存在感のある、中心部。
今まで姿を見たことはなく、実際会ったこともなかったけども、よく知っている存在。

…ハトーボーが、いる!

ハトーボーだ。本当にいたんだ。マメパト達も沢山いる。敵となるポケモンはいない。
冬なのに、なぜか寒くない。体もなぜか痛くない。なぜかとっても安心できる。

ここだ!ここだったんだ!ここが平和な国なんだ!!
争いとも苦しみとも無縁の、僕らの望んだ平和な国…。ああ、本当にあったんだ。
そうだ。さっそく皆を迎えに行こう。ここまでではぐれちゃったけど、ハトーボーがいるから大丈夫。
途中で別れた弟にも教えてあげたい。シンボラーのことだって、ハトーボーならなんとかしてくれるはず。

でも。その前に。少し疲れたから、ちょっとだけ眠ってからにしよう。
時間ならたっぷりある。ハトーボーもいる。だから、少しだけ、休んでもいいよね…?

僕は産まれて初めて心底からの幸せな気持ちで、ハトーボーの大きな羽に体を預けた。
他のマメパト達の、とても幸せそうな、安らかな思念が伝わってきて、心地よい。

…そして、だんだんと、森の静けさへと、身も心も溶けてしまうような深い眠りに誘われていった……。

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最終更新:2011年08月01日 17:45