――――あの人は何時だって、光でした。
スターといっても、いいのかもしれません。
それは私にとっても皆にとっても、彼女はいつも中心で目立っていました。
彼女本人もまるで輝いてるようで、いつも笑っていて
そんな彼女の傍で、私はひっそりと居るだけだったんです。
光のような彼女は、そう、私のお姉ちゃんでした。
そして私はそんなお姉ちゃんの影でひっそりと生きていた妹でした。
私はお姉ちゃんの一年後から生まれた妹でした。
それなのに、容姿はまるで双子のようにそっくりで。
私達の両親ですら、時々間違える事があったんですよ。
笑っちゃいますよね、自分の子供なのに。
とっても可笑しいです。
けれど、容姿と違い、私達の性格とかは全然違ったんです。
姉は悪く言うなら手のかかる子でした。
のんびり屋で、マイペースで、よくドジをして。
誰かが見てないと、必ず失敗してしまう子だったんです。
それなのに、ずっとひなたのような笑顔を浮かべているんです。
いつも笑っている姉に、私も含めて、みんな手を貸すんですよ。
不思議な事に、です。
そんな姉を見続けていた妹の私は、全く逆でした。
自分の事をこう言うのもなんですけれど、良く出来た子だったんです。
両親の話によると、全く手がかかった記憶がないそうで。
何事もそつなくこなす事が出来たんですよ。
だから、よく姉の世話をする事が多かったんです。それは今も続いていますが。
それに姉より出来る事が多かったのもありました。沢山沢山、ありました。
けれど、私が光を浴びる事なんて、ありませんでした。
良く出来た子だね、で終わってしまうんですよ。
何でもそつなく出来てしまってしまうが故に。
そつがないせいで、誰にも注目されなかったんです。
人間、欠点がある方が他人から見て輝いて見えるんですよ?
そう、両親も、幼馴染も皆お姉ちゃんの事ばかり見てたんです。
手がかかる故に、光を浴び続けて。
そして、誰よりも輝く笑顔に、皆が惹かれて。
お姉ちゃんはいつでも、光で。
手がかからない故に、ひっそりとしていて。
そして、何時でも姉の影に隠れ続けて。
私は何時だって、影でした。
でも、それでも良かったんです。
だって、だって、私はお姉ちゃんの事が好きだったから。
皆がお姉ちゃんに惹かれるように、私もお姉ちゃんの事にとても惹かれていたのでした。
それは姉妹としてなのか、恋だったのかは解からないです。
けれでも、私は姉に惹かれていたんですよ。
心の底から、です。
だから、私は影でも良かった。
そうしていつでも、姉の面倒を見ました。
妹だったからでしょうか?
それが全然苦じゃなかったんですよ。
姉に尽くす事が私の幸せでした。
たとえ、私が影のまま終わろうとしても。
それで、よかった。それが良かった。
なのに、それなのに。
私を、『私』として見てくれる人が出来たんです。
姉の影ではなくて、私という存在を見つめてくれる人。
それが姉の部活の後輩であり、私の同級生でした。
彼女は私という存在を対等に見つめてくれて。
友達として、私の傍に居続けてくれました。
初めての経験に私は驚き、喜びました。
そんなあの子――――中野梓の存在が私の中で大きくなっていくのを感じました。
あの子の笑顔が見るのが嬉しくて、嬉しくて堪らなくて。
私という存在を見続けてくれて、接してくれてのが楽しくて。
ずっと、ずっと、傍に居続けたいなって。
そう思う事が出来たのです。
そして、私達が高校二年生になって暫く経った頃でしょうか。
あの子と私の距離がどんどん縮まってきたのです。
不時間が経つにつれ、接近度合いは比例して。
何でだろう?と私は不思議に思いながらも、嬉しかったんです。
このまま、もっと私を見てくれるって。
でも、それは、ただの幻想でした。
あの子は、梓ちゃんは『妹』の私に『姉』の姿を重ねていたのです。
もう直ぐ卒業する姉の別離の寂しさを埋めるように。
姉の『影』である私を代わりにしていました。
それを知った瞬間、私は、泣きはらしました。
大好きになりそうだった人は、私という存在を見てくれた人は。
私という存在を好きになるにつれて。
他の人と同じように、私を『姉の影』と見るようになったのです。
そして、私は、所詮、光輝く姉の影でしかなかったのと思いしらされました。
あの時、初めて、姉を憎みました。
悔しくて、悔しくて、哀しくて、哀しくて。
私はどんなに頑張っても影でしかないのかなと。
それがいやで、いやで、本当に堪らなくて。
苦しくなって、願ってしまったのです。
ねえ、お願い、お願いします。
お願いだから。
―――――だれか、わたしをみて。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ざあざあと潮騒の音が、深夜の砂浜に響いていた。
さやさやと柔らかい風が、砂浜に咲く無数の花を揺らしている。
そんな光景を一つ一つ確認しながら、一人の少女が大きく溜め息を吐いた。
自分の気持ちを落ち着かせるように、ゆっくりと。
トレードマークの赤いアンダーリムの眼鏡の向きを直しながら。
「困った事になったわね……って当たり前か」
真鍋和という少女は今の状況について、言葉を紡いでいた。
困った事になった、というのが和の本音で。
当たり前の事なのだけど、呟かないとやってられなかった。
本来はもっと焦って混乱するのだろうけど、そうも言ってられない理由が和にはあって。
「唯…………」
最初のあの部屋で見えた少女。
平沢唯という少女。
真鍋和にとって大切な幼馴染で、手を貸さないといけない少女だった。
あの子はきっと泣いてるだろう。
なら、自分が泣いてる事なんて出来ない。
和はそう思ったから。
だから、和は無理にでも冷静でいようと思った。
もしかしたら他にも知り合いが居るかもしれない。
だから、その人達も、和は探そうと思った。
だって、自分は、生徒会長なのだから。
みんなに頼られて、みんなの笑顔が見るのが大好きだから。
だから、和は
「頑張らなくちゃね」
そう短く言葉を紡いで。
真っ直ぐ前を見る。
とはいえ、
「とはいっても、どうしたらいいのかしら……?」
前途多難な道ゆえに、どうしようと思って。
その時だった。
「和ちゃん!」
「…………えっ!?」
自分に向かって駆け寄ってきた少女を見て、和は驚く。
それは探そうと思っていた少女。
とても手がかかって仕方が無い少女。
黄色いヘアピンをした可愛らしい少女。
――――『平沢唯』だったのだから。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふぇぇぇ、会えてよかったよぉぉ、和ちゃーーん」
「……大げさよ、本当」
「でも、良かったよぉ」
「……ええ、そうね」
ええ、本当にそう。
唯が無事でよかった、本当に心の底から私はそう思う。
何時だって放っておけなかった。
私が傍で見てないと何をしでかすか解からなかった。
最近は一人で出来るようになってきたけれども、やっぱり一緒に居たほうが安心する。
「だって今までずっと一緒だったもん」
「そうね」
そう、本当にそう。
幼稚園から高校まで。
ずっとずっと一緒だった。
もう直ぐ卒業で、離れ離れになってしまうけれど。
それでも、やっぱり一緒に居て楽しかった。
「和ちゃんは、私の事解かってくれたもん」
「そうね」
解かってるつもり……かな。
でも、この子のことならずっと一緒に居た。
ずっと見ていたから。誰よりも見ていたから。
だから、解かっている。
解かっていたい。
生徒会長になった私だけど、みんなを見てないといけないけど。
それでも、誰よりもこの子のことだけはわかっていたい。
そして、この子だからこそ。
「大丈夫、こんな殺し合いでも、私が護ってあげるから。『唯』」
ぎゅっと彼女を抱きしめる。
ああ、そうよ。
こんな子だから、心の底から護ってあげたい。
輝くような笑顔を向けるこの子を護ってあげたい。
優しくて、人を温かにさせるから。
私を嬉しくさせてくれる子を。
心の底から護ってあげたいと思う。
だから、唯――――
「ほら、やっぱり…………和ちゃんでさえも解かってくれないんだぁ。見てくれないんだぁ」
ざくっと、何かが斬れる音。
感じる腹部の違和感。
噴出す紅いもの。
それは、私の血で。
「ゆ…………ゆい?」
目の前の少女が私の腹ををナイフで切り裂いたからだ。
そして、砂浜に倒れる込む私を。
『唯であるはずの少女』が見つめていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「誰も、誰も、見てくれない。本当の私の事」
ざあざあ。
潮騒の音が煩い。
「和ちゃんなら、解かってくれると思った。そう思いたかった」
さやさや。
穏やかな風が吹いている。
「でも、解からなかった。結局、私は影でしかないの?」
はらはら。
砂浜に咲く花が花びらを落とした。
「影なら、影でいい。和ちゃんが解かってくれなかったから、私はもうやるしかない」
ぽとぽと。
温かい雫が落ちた。
「唯一、『私』を見てくれた人を、護る。例え彼女が私を見てくれなくても」
さあさあ。
その雫は一筋になって。
「私は、光に隠れる影なんだから。それでも、私は彼女を想うんだ」
きらきら。
月の光に照らされ輝いた。
「うん、それでいい。それしかない」
それが彼女の決意だった。
けれど――――
「気付くのが、遅くて…………御免ね………………『憂』」
真鍋和は、最後に彼女を見つけることが、出来た。
平沢唯ではなくて。
平沢憂という存在を。
真鍋和は、見つめていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ああ、私は馬鹿だ。
唯の事ばかり気に取られて、もう一人の大切な幼馴染に気付かなかった。
憂、
平沢憂。
唯の大切な妹。あの子も私の傍に居たんだ。
憂が何でも出来るようになってから、甘える事は少なくなったけど。
それでもずっと、一緒にいたね。唯を見守っていたんだね。
憂は、迷っていて。
偶然私を見つけて、ある賭けをしたんだろう。
自分を見分けられるか。それによって殺し合いに乗るか決めると。
そして、私は解からなかった。
「憂……気付かなかった、私が言うのもなんだけれど」
ああ、本当に私が言う事じゃない。
気付かなかった私が言う事じゃない。
でも、言わなくちゃ。言ってあげなくちゃ。
それでも、それでもなの。
この子の為にも。
私が、私が言わないと。
「貴方は……影なんか……じゃないわ」
そう、憂。
貴方は影じゃない。
唯の傍に居た貴方は。
その隣で笑っていた貴方は。
「貴方の笑顔は輝いていた……そう、言えるもの」
「……そんなの、そんなの今更言われたって」
そうね、今更。
何もかも今更かもしれない。
気付くのが遅すぎた。
全く生徒会長失格だわ。
けれど
「貴方の未来の為に、夢の為に、頑張って……憂……例えそれがどんなものでも」
私は頑張ってとしかいえない。
その言葉で、憂が勇気を貰ってくれるなら。
私の生もきっと、それでいい。
頑張れって言うたびに、私自身も励まされてる気がする。
「だから……約束……未来へ向かおう」
我侭かも知れないけど、憂も、唯も、皆未来へ羽ばたいて。
これが私の願いだった。
「う……い……私達、唯も含めて、ずっと居たね」
「和ちゃん?」
「幾つもの季節を並んで過ごして、ひだまりの中、ずっと一緒に居た」
ああ、素晴らしい日々だった。
本当に楽しかった。
「夢より楽しい毎日だった……ねえ、憂」
私が大好きだった人。
唯は……とてもおおらかな人だったね。
だから、私も見習う。
憂、貴方のした事は許されないけど。
「貴方の事……許すから……生きてね」
私もあの子のようにおおらかな人間になれたかな?
だといいんだけど……
「優しいひだまり……忘れない。憂……貴方の描いていた、抱いていた小さな願いを……叶えてね」
これが、最後に贈る言葉。
もう、充分だよね。
「皆……ありがとう」
皆、ありがとう。
私は三年間楽しかった。
ありがとうという言葉しか出てこないの。
ありがとうしか云えないの。
可笑しいね。
ふふ
「じゃあもう……私……いく……ね」
【真鍋和@けいおん! 死亡】
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「遅いよ」
言葉が紡がれる。
「何もかも、遅いよ」
後悔なんだろうか? 憂には解からなくて。
「そんな事今更言われたって、遅いよ!」
憂は叫び続けるしかなかった。
涙を流しながらずっと。
哀しみを此処で全部吐き出して。
大好きな少女の為に、戦わなきゃいけないから。
「もう、戻れないよ!」
影に生きている少女の悲痛な叫びは
「戻る事なんか、出来ないよ! 夢を掴むことなんか……できないよぉおお!」
砂浜にずっと、響き続けていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さやさやと風が吹いて。
砂浜に咲く花を揺らしている。
その花の名前は、スカシユリといった。
スカシユリの花言葉は――――
わたしをみて。
【F-6/砂浜】
【平沢憂@けいおん!】
【状態】健康、慟哭 唯の姿
【装備】アーミーナイフ、唯のヘアピン@けいおん!
【所持品】基本支給品、ランダム支給品1~2
【思考・状況】
1.梓を生き残らせる為に殺す
2.唯に対して……?
3.(わたしをみて)
最終更新:2012年05月24日 04:34