戦場となった路地は既に遥か遠くだ。
「助かりました~」
かつん、かつんと靴音が小さく響く。ひとつひとつばらけて両脇の家屋の壁を叩き、細い路地には跳ね回るそれらしか音がない。意識を惑わす乱調に満たされたそこを、スナイパーの介入の直後に迷わず逃げだしたあぎりは、何にも狂わされない確かな足取りで闊歩していた。
「あのままだったら狙撃で死んでいたのは私だったし、変わり身の術、大成功ですねぇ」
その表情にも変わりはない。わずかに入ったひびはとうに補修され、彼女の顔つきは常と同じくうっすらとした笑顔の仮面に隠されている。
――あぎりは殺し合いに乗っている。
自身が殺し屋として所属する組織の差し金とは思えない殺し合いのゲームであったが、無論こんなことで害されることを看過できようはずもないし、無理に主催に逆らうのも賢いとはいえない。
となれば、採る選択肢は一つだったからだ。
兎にも角にも勝ち残り、最後の一人となって組織に帰還する。
あの老人と少女の思惑通り、という形になったことについては、あぎりはなんら感慨を抱いていなかった。殺すための機械として己を定義する彼女にとって、これは少しだけ様子の違う日々の暮らしと同義に過ぎない。
勝利の報酬などという胡散臭いものに興味はない。そもそも無事に帰してもらえるのか、という問題もあったが、これはその時になってみなければ論ずるだけ無駄な話だ。
やや楽観的ではあるが、殺し屋の動向を常にチェックをする組織の救援があることも、前述にも否定した通りまずないだろうが、組織がこれに一枚噛んでいる、ということも考えられなくはない。
であるからして、初めに見かけたソーニャもおそらく同じ決を下すだろう。組織に利するためのみに生きる、それが殺し屋という生き物だ。そうやって生きる限り、彼女は間違いなくこの結論にたどり着く。
最終的に彼女と二人で残り、組織にとって有益となる方を生かす、という方策を、あぎりはゲーム開始早々に決心していたのだった。
優勝は難しい話ではないだろう。先は想定外の実力者に出鼻をくじかれた形になったが、あんな化け物はそういまい。もし魑魅魍魎が跋扈しているというなら、それらがぶつかる様子を影から観察し漁夫の利を引っさらって行くという、忍者や暗殺者らしい立ち回りをすればいいだけのこと。
そうでなければ、何も迷うことなく自ら打ち立てた任務を遂行する。
「それが今回のお仕事、という訳ですね~」
最後に楓に放ちその命を奪ったナイフで、商店街の雑貨屋と刃物屋、民家から持ち出した凶器類は打ち止めだ。鹵獲したリボルバーもあるが、予備の銃弾もなくそれだけでは心許ない。
今後は凶器の充填と殺すべき人間の捜索に重きを置き、現在はタワー周辺にいると考えられる狙撃手に警戒しつつ散策していくことになる。
計画に落ち度はない。上にこの策を申告すれば、間違いなくふたつ返事で許可が下りるだろう。優勝後の不透明さに目を瞑れば、これほど合理的な選択もあるまい。
「…………」
しかし、ひとつだけ懸念がある。――最近のソーニャは、よく笑うのだ。
「……ソーニャに限ってそんなこと、ないですよねぇ?」
任務のために誂えたそれではない、環境の暖気にあてられて、自分たちには必要ないはずの「心」の底から湧いてきたと見える笑顔。つんけんした態度だってそれの副産物だ。
彼女はそれを、“あれ”との「日常」生活のなかで、頻繁に浮かべる。
ソーニャに寄り添い、自身の熱を与える“あれ”。
殺し屋として、暗殺者として、あぎりの同僚として、仲間として、完成しきっていたソーニャに一切の遠慮なく入り込み、土足で踏み荒らしていく「日常」という異界からの侵入者。
醜悪な自己満足を押し付ける“あれ”は、ひょっとすると、もしかしたら、ソーニャの目から合理を隠してしまうかもしれない――。
「――ソーニャに限ってそんなこと、ないですよねぇ?」
今一度言葉を繰り返した。たったひとつの懸念がべったりとこびりついて、「殺し屋にとっての最善策」を曇らせていく。
最善の策を取り戻さない限りは、……ソーニャを取り戻さない限りは、あぎりはおそらく、この任を達することができない。
だから、あぎりは自身の任務にひとつ、項目を付け足した。
“あれ”がソーニャに毒を与えるというのなら、それは元から断ってしまえばいい。
「どこにいらっしゃるんでしょう? やすなさん」
いつも目障りだったのだ。必要もないし、差し迫った危急があるわけでもなかったから無視して付き合っていただけで、この場で邪魔になるというなら、それはもう、排除する以外の選択肢をとる意味がない。
――嫉妬という、己の言うところの「必要のない心」に起因する想いは、自覚できなかった。
鋭利な光を宿す金髪の娘を脳裏に浮かべて、あぎりは鼻歌交じりにその場を後にした。
○
きらきらと輝く瞳が好きだった。いつだって自分を引っ張ってくれるような大きな褐色の瞳。
手をつなげば、小さくて何もできない脆弱な己でも、なにか為せることがあると思えた。
出会ったあの日、初めて助けてもらったあの日、並んで歩いたあの日、送りだしたあの日、別れたあの日、再会したあの日、あの日、あの日、あの日。
会話の中身も空気の匂いも、どんな些細なことでも、彼女とできたことは何一つ欠かさず覚えている。
そんな思い出たちと、それらをくれた彼女とこの空の下で繋がっているという事実が、取るに足らないこの身を奮い立たせていたのだから。
――リネット・ビショップは彼女を”輝ける星”、他を照らすことのできる熱量を持つ、さながら太陽のような少女であると形容した。
唯一無二で、助けてあげたいと思い続けてきたそれを、誰であろうと代替できようはずもないそれを、リーネはそうして、己の銃口で撃ち抜いた。
スコープの中、踊るように吹き飛ぶ恒星の残骸と目があって。
彼岸に通じたその穿孔は、太陽がもはや何も残さぬ欠片となったことを、何より確かにリーネに知らしめた。
バレットM82の、愛銃たるボーイズ対戦車ライフルよりも短い銃身は、持ち主の支えを失ってしまえば己の二脚だけで立ち続けることが叶わない。
窓枠に足を引っ掛けて、ひどく不安定な姿勢で運用されていたそれは、木間氏タワーの展望台に敷き詰められたタイルを盛大に叩いた。
銃撃と同時に吐き出された薬莢がからからと転がって、視界の及ばぬ影に消えていく。
リーネは膝から崩れ落ちた。
堅い床は狙撃の足場として最適だったはずだ。なのに今やそれはぐにゃぐにゃと波打って、伏せるリーネを飲み込もうと揺れている。視界がぼやけて、それと、黒い銃身と、自身の意識が混然とするまでには、まるで間がなかった。
「××ちゃん、××ちゃん、××、ちゃ」
どうして、どうして、どうして。
目に付いたから、このタワーに登って。展望台に設置してあった双眼鏡から、偶然××ちゃんを見つけて。襲われていると知ったから、助けようと思って。
だから、なのに、どうして。
「嘘よ、嘘だよぉこんなの、嘘嘘ウソ嘘嘘嘘嘘うそ嘘うそうそうそ」
どうして、どうして、どうして。
襲撃者の戦闘なんて、使ったことのない銃のスコープじゃ追えなかったから。人に当てる訓練なんて、してなかったし。だからネウロイ相手にするみたいに、予測をつけて待ち構えていただけなのに。
だから、なのに、どうして。
「ああアアアア、あ、ぅン、ぐっ」
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして。
スコープの中で目があった。――背中を撃ち抜いたはずなのに、×××が飛び散って、こっちを向いた。
睨んでいた気がする。――おそらくはあなたを守っていた人もいたはずの、戦っている二人のどちらにあたってもいいと考えていたから?
怒っていたのだろうか。――迷わず人殺しを選んだ私が憎かったから、かな。
違うんだよ、××ちゃん。ねえ聞いて、私は、私はあなたを、あなたを助けようと……助けようと、して?
助けようとして、私は、芳佳ちゃんを――殺した?
「――いやああああああアアアアアッ!!」
爪が突き立てられた顔面から血が滴り落ちる。
自らを罰しようだとか、逃避だとか、そんな意図はなかった。ただ掴み損ねた手を手繰り寄せようとして、行き場を失った想いが破裂しただけのことだ。
芳佳の手を握るにはあまりにも距離があり、あまりにも手遅れであるという、それだけのこと。
月の光が蹲ったリーネの背に影を落とす。
それがまるで嘘みたいに思えた。夜空を正円に欠落させるそれが光っていると、どうしても思えない。
だって、できるはずがないのだ。ちっぽけな岩の塊に自ら光を発する力はなく、あれは太陽があって初めて意義を持つ。
だから、日が夜に呑まれた消えた以上。「一番輝いている星」が失われた以上、他の輝きは、全て嘘になる。
嘘"みたい"ではなく、間違いなく嘘だ。
……ひとつ、間違いを正そう。
失われた、のではない。それを、輝ける星を、彼女は自らの手で撃ち落としたのだ。
びちゃびちゃと、吐瀉物が服とタイルを汚して広がっていった。
水音は誰が聞くこともなく、リーネは展望台にただひとり、いた。
【宮藤芳佳@ストライクウィッチーズ 死亡】
【長瀬楓@魔法先生ネギま! 死亡】
【一日目・深夜】
【E-1/路上】
【呉識あぎり@キルミーベイベー】
【状態】健康
【装備】ニューナンブM60(6/6)@現実
【所持品】基本支給品、ランダム支給品1~2
【思考・状況】
1.障害を排除し、生き残って組織に帰還する。ソーニャは殺さず、最後に二人が生き残った場合のみ組織のためにどちらか一人が生き残る
2.武器の入手と散策しなくちゃですね~
3.やすなを殺す
【備考】
※ランダム支給品は武器およびトラップとして利用できるもの以外です
※タワーにいたスナイパーを警戒しています
【F-1/木間氏タワー展望台】
【リネット・ビショップ@ストライクウィッチーズ】
【状態】健康、精神的疲労(極大)、パニック、ゲロまみれ、顔から爪による出血
【装備】バレットM82(9/10)@現実
【所持品】基本支給品、ランダム支給品0~1
【思考・状況】
1.芳佳ちゃんを殺しちゃった
【備考】
※参戦時期は二期のどこからかです
【全体備考】
※F-1北部からE-1中央部にかけて、坂道にそって商店街が存在します
※商店街のメインストリートに長瀬楓@魔法先生ネギま!、宮藤芳佳@ストライクウィッチーズの死体が支給品と共に放置されています
※長瀬楓は側頭部にナイフが、宮藤芳佳は上半身と下半身がバラバラの状態です
※メインストリートから伸びる店舗の間の小道には、何本かあぎりが仕掛けたトラップがまだ残っている道があります
【支給品紹介】
【ニューナンブM60@現実】
現代日本の警察などで制式採用されている38口径のリボルバー
スタンダードなものだが、後続機種にとって代わられ始めているそうだ
こち亀の両さんがこれの早撃ちが得意らしい。知らなかった
【バレットM82@現実】
アメリカ製の大型セミオート式狙撃銃
所謂アンチマテリアルライフル。かっこいい
湾岸戦争とかイラク戦争で1.5km先の敵兵撃ったら上半身と下半身がバラけたらしい、怖っ
最終更新:2012年11月08日 05:39