君臨する希望の星――スーパーサイヤ人キング。


降臨した絶望の神――スーパーサイヤ人オーガ。


共に幾多の戦を闘い抜こうと道を違えば昨日の友は今日の敵。


皮肉にもその力はどちらも夢を追いかけた結果


正義だとか悪だとかそんな記号は関係ない。


燻るハートに火をつけろ――戦え。


「馴染むぞ……勇次郎はやっぱ強えわ。そんでお前はやれんのかベジータ?」

肩を回し首を捻り腕を鳴らし気を高める。
溢れ出る闘気に邪悪さは一切感じられず寧ろ清々しい気分だ。
何もカカロットも勇次郎も人を殺すために戦っているのではない。
彼らにとって戦いとは何よりも勝る至高の快楽であり純粋に楽しみたいが故に戦い続ける。
純粋な子供のように暴れ己の欲を満たすこの姿が本当の人間らしさかもしれない。

対するベジータの顔は絶望の色に染まり闘気も弱々しく衰えている。
激しい戦いの末に手に入れた全開をたった一人の男の出現により覆されてしまった。
元より絶対の勝率ではなかったが確率は少なからず存在しており彼自身諦めていなかった。
しかし圧倒的実力差の前に身を竦めどうにかこの場を何とかしたい焦りが生まれる。
『お前の力を信じろ――俺やキュゥべぇの力もあるんだから』
背中を支えてくれる友がいるなら今一度戦える気が湧いてくる。
今の声は幻聴、甘え、妄想の域に留まるご都合なお告げかもしれない。

「抜かせカカロット……貴様はこの俺以外に誰が止めると言うのだ」

それでも死んだ闘志に火を付けるのには十分すぎる理由だった。
再度闘気を溢れだし己の力を開放するベジータ。
周辺の物質と腐った意志を吹き飛ばし覚悟を決める。
戦わなければ殺られる。
止めるなんて甘いことは言わない、確実に息の根を止める。
いやそれも甘えの発想であり最後に立つのがそもそもベジータであるほうが軌跡だろう。
それ程までに実力の差は激しい。

「おめぇ本気でオラ達に勝てると思ってっか?頭ン中メルヘンになっちまったかぁ?」

「勝てるさ――諦めない限りな」

その足は何のために付いているか考えたことはありますか?
それは前に進むためである。







会場に降り注ぐ月の破片を処理するため手塚と石田はクロスゲート攻略から離れ迎撃に向かう。
応援に駆けつけた戦車に跨る少女達は残る参加者の保護のためにその進路を切り替えた。
残る進撃の翼、革命の担い手、反逆の意志は大量に溢れ出る巨人達と対面している。
どれだけ駆逐しようが大元であるクロスゲートを止めない限り永遠に巨人は湧き続ける。
そして取り返さない限り帰る術は無い。
エルエルフの発言によって今の状況が危険なことに気付く。

『この会場は無限力の暴走によって時期に滅亡する』




巨人の群れの中を飛び交う自由の翼――エレン・イェーガー。
両手に握り締める鋼刃で巨人を駆逐していく。
「よし!討伐数を稼いでやる!」
「エレン、ガスを吹かしすぎだ!」
「ったく、本当に死に急ぐ気か……」

続くベルトルト・フーバー、ライナー・ブラウン。
彼らもまた人類のために戦う兵士――その姿を持つ男達である。
三人の『戦士』は立体起動を扱い変則的な起動で撹乱、巨人の背に回り込み弱点を削ぐ。
場所は違えど相手は同じである。今までの経験を活かし巨人相手なら此方側が有利なのは明白である。

「どんどん討伐数を……うおっ!?」

光線を立体起動で躱し大地に降りるエレン。そこに駆けつけるライナーとベルトルト。
突然の攻撃に三人は、カズマと刹那、ヴァルヴレイヴ操縦者もその動きを止めて状況を受け止める。
そこには腕を黒光りに輝かさせる一体の巨人。

「おもしれぇ……喧嘩を買ってやる」
カズマがその姿に敵意を剥き出しにし己の心を明かす。
「あれも巨人なの?」
「いや、俺達の世界には……一体あいつは?」
疑問を投げるハルトだがライナーは確実な答えを出せない。
「あいつは――サイコガンの巨人と言ったところか」
「知っているのか!?エルエルF――「下がれ!!」

己の機体を前方に進撃させ光線の襲撃から皆を守るエルエルフ。
革命機の盾はサイコガンの攻撃を防ぐがその威力に後退させられてしまう。
「各自連携して道を切り開け!クロスゲートはすぐそこだ!」
エルエルフの啖呵を皮切りに一斉に動き出す一同。先手を飾るのは反逆者。

「衝撃のファーストブリッドォォォォォォオオオオ!!!!」

正面から立ち向かうのは当然である。寧ろそれがカズマの姿であり違和感など存在しない。
嵐が過ぎた後には僅かながらも巨人がいない空間を作り出す。そして一気に攻勢に映る。
カーミラが射出した1対のスピンド・ナックルがハルトの進むべき道に残っている巨人の首を斬り落とす。
射撃で牽制しつつクロスゲートを目指すハルトだが事は上手く運ばない。
いつの間にか巨人に囲まれ動く場を奪われる。そして後ろから噛み付く巨人。
「ハルト!」
「大丈夫……僕は大丈夫だから……このォ!!」
左肩に噛み付く巨人を剣で切り落とし屍を蹴り飛ばす。
射線上にいた巨人を巻き込み大きく吹き飛ばすが巨人は死なない。首を切り落とそうと再生してしまう。
その息の根を止めるにはうなじを斬り裂く――或いは再生を上回る力で対処するだけ。

サイコガンの一撃を防ぎつつ確実に進撃するエルエルフと5号機。
「サイコガンの巨人……それに刀や槍を持つ巨人か」
本来エルエルフの世界に巨人と呼べる生命体は存在しないがそれでも目の前の現象がイレギュラーな事は理解できる。
先程までは単調に捕食を行う、言わば知能を感じられない見難い塊だった。
鎧や超大型を除き知性を備えた巨人はいない、と勝手に想像していた。
「くっそ……聞いていねえし知らねえぞ!!」
火打羽の横を即座に飛び抜け敵線に見を投げ出すライナー。立体起動を扱い巨人の目を潰し再度トリガーを引く。
大きな弧を描き巨人の背後に回りこみうなじを斬り付ける。
「ウォオオオオオオオオ」
低い大きな声を発生し崩れ落ちる巨人。そして跡形もなく消え去る体。

アイナが跨る参号機火神鳴がその武器である剛力で巨人を吹き飛ばす。
宙で身動きの取れない巨人を立体起動で削ぎ落とすエレンとベルトルト。
人類は巨人を駆逐することが出来る。

だが巨人の数は一向に減らない。



地平を埋め尽くす巨人から感じられるのは悪意と醜さ。美とは永遠にかけ離れている。
その光景を冷静に見つめるエルエルフと刹那。
そして彼らは一つの道えお見出す。
「沙慈、ライザーシステムを起動してくれ!」
「時縞ハルト……ハラキリブレードを使えるか?」
「分かったライザーシステム起動!」
「そうか……!分かったよエルエルフ!」
金色に輝くヴァルヴレイヴ。その体を赤く染め上げるガンダム。
機械が故に無機質と位置づけられる機体。しかし今感じられるのは生命の煌めき。

共に腕を掲げその力を集中させる。
「各人下がれ!巻き込まれるぞ!」
エルエルフの指示を機に下がり始める各位。しかし前に飛び出る男が一人。
「何楽しいことおっ始めようとしてんだよ……俺も混ぜろよォ!!」
その腕を全開に輝かせカズマも戦線に加入する。生身だろうが意志は本物である。

「トランザム――」
「ハラキリ――」
「シェルブリッド――」

意志が死なない限り人は何度でも立ち上がる。

「ライッ!ザァアアアア!!」
「ブレードーーーーー!!」
「バーストォオオオオオ!!」

光が輝き辺りを覆い被るように広がり全ての視界が統一される。
やがて輝きが収まり瞳を見開く。
そこに映るはクロスゲートから依然と湧き出てくる巨人の群れ。
そしてその光景がはっきりと目に映る――つまり。
「よしッ!今がチャンスだよ!!」
道が切り開かれた今全速で距離を詰めるハルト、オーバーヒートなど気にしていられない。
「やるじゃないハルト」
「流石ハルト君!」
「俺も続くぜーーーー!!」

色鮮やかな革命が揚々と駆けまわり残る巨人を何体も駆逐する。
どんな絶望であろうと、どんな状況に巻き込まれようと彼らは笑顔で立ち向かう。
学生だから、若さを武器に彼らは世界と対峙する。
その姿は絶望に染まっていた田所さんも笑顔を取り戻す程であり大した物。
「すごい……これなら勝てるよね小松さん!……え?」
振り向いた先に小松はいなかった。


「勝てるよ!こんな簡単に巨人が死んでいくから!」
参号機火神鳴は腕を振り回し巨人を飛ばし、その首を引き千切り再生しようとするなら止まるまで殴り続ける。
「アイナ、調子に乗ってると――!?危ない!」
「何言ってるの?ヴァルヴレイヴがあれば――」

人の命は重い。だが散る時には劇的な現象など存在しない。
あっさりと散るその姿こそが生命の煌めきかもしれない。
「アイナアアアアアアアアアアア!!!!」
「まさか……しかしあの機体は活動停止したはず……まさか!?」
友の死に叫ぶサンダー、謎の現象に疑問を投げ、辿り着きたくない真実に辿り着くエルエルフ。
空が舞い降りたそれはヴァルヴレイヴを踏み潰しアイナをこの世から葬り去った。

「撃滅のセカンド――うおッ!?」

正面から挑むカズマだがミサイルの迎撃により方向を転換、全て避け切れず僅かに触れてしまう。
射撃で残るミサイルを撃ち落とす刹那とハルト。ハルトの方はアイナの死により動揺している。
しかし取り乱すことなく――一人の戦士として立ち向かう。
(今は悲しむ時じゃ……くそ……くそッ!!)
降臨する悪は完全にすべてを終わらせるつもりだ。溢れだす邪気を隠しきれていない。
(頭が……この感覚は!?)
感じるの悪の波動は今までにない程の衝撃。刹那の精神が脅かされるがそれでも前を向く。

赤いボディに割り込む黒き邪悪。





「私は簡単に死なん、世界を!宇宙を統べるまでは!!」





DG細胞を吸収した伝説巨人――デビルイデオンが全ての終わりを告げる。














真田幸村をオーバーソウルで具現化しその力を全開に近づけるスタージュン。
飽きない生理欲求食欲を全開まで追求し続けるトリコ。
同じ世界の出身であるがその姿は本来の時間軸とは真逆の鏡。正義と悪など簡単に立場が変わる。
天覇絶槍がトリコを貫かんとするが全力で体を反らし一撃を躱すトリコ。
完全に避けたはずの一撃は有り余る力で風圧さえ武器にし、鋭利な風により脇腹に傷が出来る。
そして本体の一撃は遥か後方に連なる山々を粉砕する――この一撃が後に人類の進撃に貢献するのはまた別の話である。


「やるじゃねえかスタージュン!面白いぐらい腹が鳴るぜええええええ!!」
「黙れ!食への感情を捨てたお前に未練などない!全ての食に詫びろ!!」
ナイフと化した右腕と天覇絶槍が互いに競い合い火花が散り始める。
どちらも引くことはなく力は本人達に負担を永遠とかけ続け徐々に足場が沈んでいく。
流れるように刀身が下に逸れて行き力は暴発するように弾け飛ぶ。
大地に刺さる二つの武器は深く突き刺さり互いの動きを規制させる。
天覇絶槍を手放し右腕に炎を纏わせトリコを殴りつけるスタージュン。
トリコは右腕が大地で刺さっているため固定されており、そのため身動きが取れず直撃。
「ぐおおおおお!!」
腹に走る激痛と消炎に悲痛の声を上げながらもその瞳は濁らない。
殴られた勢いを利用し右腕を大地ごと覆し引きぬく。そこから飛び出る岩達はスタージュンに襲いかかる。
急いで天覇絶槍を握りしめ転回させ薙ぎ払うも全てを防ぐことは出来ず岩の雪崩に肩を砕かれる。
(サイヤ人になっていなければ死んでいたな……)
ブロリーの血肉を食したことにより全開の血へと覚醒するスタージュン。その体はグルメ細胞もあり強靭となる。
対するトリコもプリキュア、悪魔の実の能力者、北斗神拳使いなど多数の強者を喰らい、ジュリアシステムも助長し成長している

共に傷を負い、出会い、喰らい、成長を続ける美食屋達。
しかしその先に続く道は完全に別れ光が指す方向へはかつての悪が、闇の底へ進むはかつての英雄。
『人間』と呼ばれる存在が生み出す、負の連鎖、勝利の凱歌、自由の翼、反逆の意志。
数々の劇場を開催してきたこの会場に起きた一つの現象にすぎない。
「斬れろや!ナイーフッ!!」
再び鋭利な腕で斬り付けるトリコ。深く踏み込みより強く振り下ろす。
バックステップで避けるスタージュンだが先程の自分が放った一撃と同様。躱しても有り余る力は余波だけでも脅威になる。
「フライングって言わなかったら飛んで来ないと思ったか!?残念!フライングでしたァ?ハハハハハハハ!!」
最早正しい感情で正確な判断など出来ないトリコは大きく笑い獲物を見下す。
しかし迫るナイフの切れ味は本物であり確実に命を殺しに来ていた。
「くっ……!」
受けきるにも完全に避けの動作中だったため不意の一撃は止められることなくえぐり込む。
体を斜めに斬り裂くかのような傷跡から吹き出す鮮血。
「うんめぇ~!!」
全身でシャワーの如く噴き出る鮮血を浴びる。口を大きく開きその美味を全体で感じる。
分かる。グルメ細胞が活発化するのが体を通して感じる。馴染む、馴染むぞ。やはり同じ世界の血肉ほど共鳴するのか。

切り裂かれた空の傷を炎で焼き尽くし止血するがそれに伴う痛みが体を駆け巡る。
その激痛に倒れそうになるが倒れるわけにはいかない。そもそも限界など既に超えている。
元々自分たちが開いた殺し合いだ。
その理由がドラゴンボールで操られたとしても責任は在る。現に行いによって何人も死人が出ている。
そして数多の世界にも大きな影響を与えてしまった。
そんな主犯達が傷の一つ――小さな命惜しんで背中を見させる訳には行かないのである。
ならばここでたった一人の悪鬼を仕留めるぐらいには己の役目を果たさんぞ。
故に纏うは明日へと貫く紅く燃え上がる炎の闘志天覇絶槍。
例えその身が朽ちようともせめて生きた証を立てようぞ。
「いいねぇスーパーサイヤ人様ヨォォォオ!!」


黄金に輝くその姿は意志の表れ――もう何も要らない覚悟の結晶である。



一瞬で距離を詰め放つ拳にトリコは目を輝かせ己の拳もまたスタージュンへと突き出す。
轟音を響かせ大地は削れ大気は割れるも当の本人達には影響はない。そして更に力を増し殴り抜ける。
互いに位置を入れ替える形になり、スタージュンは天覇絶槍を一旦解除し全力で再度殴りかかる。
拳はトリコの顎を跳ね上げるも振りきれず中途半端に止まってしまう。
顔面に全力で力を注ぎ無理やり強引な形で拳を引き止め口角を上げるトリコ。
『お返しだ』口をそう動かして左足でスタージュンの体を蹴り上げる。そして追いかけるように飛翔。
「10連釘パンチ!!」
牽制気味に軽く十の拳を重ね追撃に映るが牽制にしといて正解だったようだ。
「火炎旋風!!」
全身を炎で包み込みトリコに反撃を行うスタージュン。
空に拳を放ちその衝撃で急速に大地に降り射程から逃れ体制を立て直すトリコ。

炎を解き標準状態に戻り再度天覇絶槍を発動し構えを取る――一突き。
構えから一拍も置かず瞬時に放つことによって相手の意表を突く。そして邪魔な思念も無いためより強い一撃となる。
フォークシールドを貼るも時既に遅し。天覇絶槍がトリコの体を貫く。
「うがああああああああああああ!!」
右肩を大きく貫かれるが懐から一つ食べ物を取り出す。
サニーの血肉で作り上げた特製人肉団子を口に放り込み――。
「傷が塞がって――!?」
急速に回復する傷口から勢い良く槍を引きぬくが鮮血が吹き出ない。
瞬時に回復しトリコは大きく笑い、大きく振りかぶり、大きく殴る。
「最高だぜ!もっとだ!もっと喰わせろおおおおおおお!!」
気づけば大地にひれ伏すスタージュン。その力圧倒的。
(トリコ……グルメ細胞とジュリアシステムのフル稼働によって蝕まれたか。
元々人格に大きな影響を及ぼすグルメ細胞と遺伝子によって精製されるジュリアシステムだ……
二つが混じり合えば人格など崩壊するのも当たり前だな)

そして役者がまた一人。

「おうおう……どっちが悪者か分かんねえな」



武神愚地独歩。
彼が通りかかった先には始まりの要因の一つスタージュン。そして悪鬼トリコ。
スタージュンに喰らい吐こうとするトリコを正拳で吹き飛ばし倒れる彼に肩を貸す。
トリコは腹に拳を喰らい顔を歪めるが戦闘に支障はない。
「ようスタージュンって言ったか?気分はどうだ?」
「最高に悪いさ……愚地独歩。
あなたがここに居ると言う事は土御門は死んだか」
あの時主催陣営に乗り込んだ独歩達。そして崩れた建物。
アレイスターは伝説巨人を駆り出し巨人はクロスゲートに群がる。
この状況で何もアクションを起こしていないならば土御門は既にこの世を去ったのだろう。
「あの兄ちゃんは死んだ……代わりにコイツを残してな」

『後は任せる』
そう書かれた紙と一星球をチラつかせる。
全ての始まりである運命の起点ドラゴンボールの欠片を独歩は手に入れていた。
「まぁ直接託された訳じゃねぇし俺はもう背負っているモンが二つ在る……今更一つ増えても変わんないけどよ」
そう告げるとトリコに背を向けその足を進めだす。
誰しもが手を差し伸ばす訳ではない。
「立たせてくれて礼を言う……この戦いは任せて貰おう。
済まないがカカロットの方に向かってくれ」
「言われなくてもそうするさ。勇次郎もあっち側に付いたらしいしよ」
(本当はもう限界なのによぉ……まぁ漢ならそうするしかないよな)
全てを悟りその場を後にする独歩。トリコも追撃する気はなくその足取りをただ見つめていた。
そして――。


「100連――」


「天覇――」


これで勝負が終わる訳ではない。


終わらせるのだ。


「釘パンチィィィィィィィィ!!」


「絶槍ッッッ!!」


ぶつかり合う意志と意地。


「面白いぜ……そんなチンケな槍一つで百のパンチに勝てると思っているのかァァァァァアアア!!」
「多勢に無勢……数が全てではない!!」
百の衝撃の雨が降り注ぐ中、ただ一点をを見つめて進撃する天覇絶槍。
数が劣ろうとそれが結果に繋がるわけではない。現に衝撃を相殺し進み続けている。
「正義の味方気取ってよォ!そもそもこんな殺し合いを起こしたのはテメーらだろォ!?」
悪鬼トリコが叫ぶ。何も自分を棚に上げているわけではない。
愚地独歩の反応が全てを物語っている。この状況ではトリコが悪でスタージュンが正義だ。
実際にトリコは参加者を喰らい友であるサニーをも喰らい畜生と成り下がっている。しかしきっかけは彼ではない。
そもそも本来の時間軸を歪め幾多の参加者を巻き込んだ主催側こそが悪ではないのでだろうか。
「何か言えよスタァァァアジュン!!」
「ドラゴンボール……麻薬食材」
「ハァ!?今更悲劇のヒロイン気取りかァおいッ!!ふざけんなよ!!!」


「それを言い訳にする気はない……現に料理人としての道は捨てた」
今更嘆くつもりはない。土御門もスタージュンも後半には、正確に言えば垣根召喚前には記憶が戻っていた。
だから垣根に真実を見せた。真ニトロも彼に与えた。全てはカカロットに反逆するために。
同士土御門は親友上条当麻の死を受け入れ最後には独歩にドラゴンボールの一部を託したらしい。
死してなお未来に希望を繋いだのだ。ならば彼も――。
「ここでトリコ……お前を止める!料理人でも美食屋でもなくスタージュンと言う一人の人間の名の下に!!」
例え極悪非道の人間に成り下がろうが、伝説の超サイヤ人の血肉を喰らおうが誇りは忘れない。
サイヤ人になったのも決意の表れである。何が何でも目の前の敵を止める――殺す決意。
故に天覇絶槍は八十の衝撃を削り落としていた。


「それがどうした!俺はナァ!人間の旨さを知った!それを知らないお前に負けるはずがないんだよォォォ!!」
八十一。
トリコの叫びは最早意味を成さない。ただ叫んでいるだけである。
八十二。
ジュリアシステムとグルメ細胞の共鳴は己の神経を蝕み別の人格が構成される。
今のトリコは正義の美食屋何かじゃあ無い。
人に害をなす畜生であり、人であり人ではない、人の皮を被った何かである。
八十六。
「もう後には引けん、だからブロリーを喰らったのだ。それにここで退場なんて誰も許してはくれないだろう?」
誰も彼を主催側など思わない。
しかし出会えば伝わるのだ。この男が覚悟の中で生きている、使命を背負っていると。
八十八。
天覇絶槍は衰えを知らず個々に来て再度力を増し続ける。
これがスタージュン、これが戦国武将真田幸村だ。その魂死んでも希望に貢献する。
九十。
(そろそろやべぇか!?)
「――だからって負けてらんねぇからッ!!俺はここまで来たら喰い尽くすしか無えんだよオオオオオオオオオ!!」


「その台詞……もう少し早く聞ければ変わっていたかもな……結末が」

九十五。

多くの衝撃を削いだオーバーソウル天覇絶槍に亀裂が入り始めた。



「もう少し耐えろ真田幸村……!!お前の魂はそんなものじゃない!!」

九十七。

「ちっくしょおおおおおおおおおお!!」

トリコは更に力を強め何発も釘を打ち込む。

九十九。


「「終わりだああああああああああああああああ!!」」


互いに力を開放し反動で弾け飛ぶ。
結果、共に衝撃を相殺しただけになった。共に受け身も取れないまま地べたを転がる。
(――!?何でお前が此処に!?)










真の相棒とはどんなに離れていても心は繋がり続ける――











「トリコさん――僕を喰らって真の全開に辿り着いてください」











「お前は最高の相棒だぜ――いただきます」











「……私、気絶してた……?」
まるで長い夢を見ていたかのようにゆっくりと瞳を開く巴マミ。
そこにはイデオンも、魔法少女も、死神も、ウルキオラもいなかった。
感じる波動は魔力とサイヤ人特有の気。そうかウルキオラさんは死んだのか。
「お目覚めだねマミ」
マミの傍に居るのはキュゥべぇだけ。これはどの世界でも変わらない一つの真実。
そして何の因果が絡んだかは不明だが巴マミの運命分岐点である魔女シャルロッテが近くに存在している。
「ねえキュゥべぇ――私たちはなのはさん達と戦う必要があったのかな?」
殺さなければ殺される。特になのはの覚悟は尋常ではなかった。
友であるフェイトと共鳴し亡き友はやて、ヴィータ、シグナムのために奮起していた一人の魔法少女。
「どうだろうね彼女と協力出来ていれば最終的な確率は上がったかもしれない」
実際になのはの戦力はこの先に存在する最終決戦にも通用する領域だった。
ただでさえ同じ土俵に立てるかどうかも分からない戦力が多い中進化したなのはの力はとても魅力的である。
「だからと言って間違った選択ではないさ。一度きりの人生だ。願いも自由も君達が決めるといい」
「あなた――変わったわね」
「どうやら僕にも感情と言うものが芽生えたらしい……まったくわけがわからないよ」

「でも今のあなたの方が――!?」
背後に響く轟音の正体を確かめるため振り向く巴マミ。
人間は急な現象に巻き込まれると頭の回転が止まってしまう。正にその状況。
己の頭では理解が出来ない。何故?完全に止めた、破壊された筈。
目の前には存在してはいけないものがはっきり存在している。
紅蓮の体は全てを汚す赤き邪悪。
疎らに映るは全てを侵食する黒き怨念。


「DG細胞……!!神である私はこんな所では終わらないのだ……ッッッ!!」



デビルイデオン。共鳴が許されない運命が束ねられた。



「何でだ!?無限力とDG細胞が……!?
イデオンとデビルガンダムが共鳴するなんて……全開とは一体!?」
宇宙の延命と言う大きな使命を背負うインキュベーターにとって鉄の掟が存在する。
もしも別の世界線であるイデを始めとする意志に遭遇したら逃げろと。
それ故にイデの恐ろしさを知っている。そしてイデの力も知っている。
「この二つが合わさることなんて……アレイスターは概念その物を破壊する気なのか!?」
事の大きさを口出して改めて驚くキュゥべぇ。概念を壊すなど信じられるものか。
形ではなく存在だけが在る森羅万象を打ち壊すなど滅多に遭遇しない機会である。無論対面するのは御免だが。
「下がってキュゥべぇ!私が仕留める!!」
マスケットをデビルイデオンを囲い込む形で精製し身動きを止める。
(これがUnlimited……ってそんな余裕はないわ)
度重なる激戦の連続で魔力は削られている。
十六人分の巴マミの魔力と無限のティロ・フィナーレがあるがここで出してしまったらその先が無い。
例え牽制だろうが今は動きを止めることに意味がある。
(ヤマトの召喚も……応答がない……まさかあの保安部長が遂にクーデターを!?)
戦艦ヤマトの召喚は大型であるデビルイデオンや全開であるカカロットに対する巴マミの生命線のようなものである。
魔力の温存の意味では使用は控えるべきだが応じないのはまた別の問題である。
ヤマトは創りだすものではない。共に戦う戦友である。

「ティロ・フィナーレもヤマトも使わずただの銃如きでこの神を止めれるものかああああああああ!!」

その拳を一つ振るうだけで嵐が巻き起こる。
発砲された銃弾は気流に巻き込まれ天高く飛翔しただの石ころに変わり果てる。
マスケット銃もまた意味もなく形を崩し巴マミの攻撃は最早無かったことになる。
風圧で飛ばされる巴マミだがそれを支えたのはかつての悪魔、魔女シャルロッテ。
その長い体でマミを包み込み背中にキュゥべぇと共に乗せデビルイデオンと対面する。
「雑魚な貴様らに興味はない――まずは力を吸収する!!」
一言告げるとまるで最初から無かったかのようにデビルイデオンの姿は消えてしまった。
マミが魔力で探知してみるが完全に波動はロストしてしまった。
しかしすぐに反応が戻る。まるで別の世界からこの世界に帰還したかのように。



デビルイデオンが瞬間移動した地点はクロスゲートが存在しているポイント。
力の吸収――つまり数多の世界の力を己の物にするつもりだろうか。
無限力ではアレイスターの欲を満たしきれないらしい。しかしそれは無限力を引き出せていないから。
それでも力を追い求め世界を壊そうとするのなら――正義の心が許すだろうか。
「そうね……鹿目さんと美樹さん――ううん。
暁美さんと佐倉さん達がカカロットを止める――だから私はデビルイデオンを止めるわ」
一度は死んだこの生命。
「普通」と呼ばれる世界なら既にこの世には存在しない存在である巴マミ。
何の因果か正義の魔法少女を目指し深き絶望に屈してしまった一人の少女。
「だからお願いキュゥべぇ、シャルロッテ――私に力を貸して!!」
少女の願いにキュゥべぇは無言で頷く。

願いを叶えるのがインキュベーターの使命の一つである。

シャルロッテは急速でデビルイデオンへと向かう。
巴マミは魔法少女でありシャルロッテは魔女である。
しかしシャルロッテは以前は魔法少女であり未来の巴マミは魔女である可能性もある。
かつての希望に触れた魔女はもう一度絶望に染まる前の姿を思い出し世界の希望へと貢献する。
魔女の背に乗る始まりの契約者と正義の魔法少女はクロスゲートを目指す。






超サイヤ人オーガと超サイヤ人キングの戦闘に割って入るのは到底無理な話である。
拳一つが音速を超え普通の人間ならば何が起きているか理解できないだろう。
彼らが戦う場所だけがまるで別次元かのように見える。
「王様如きが神を超えたオラに勝てると思うのか?」
「俺に勝ってから言ってみろカカロットォ!!」
両者の拳がぶつかり合い一瞬時が止まる。
そう、これは過大表現ではない。あまりの衝撃に空間の時が止まったのだ。
そして両者同時に拳の乱打を行い相手の全てを打ち抜きに向かう。



「昔を思い出すなベジータ!最近はお前と戦ってなかったしよォ!!」
「無駄口が多い奴だ……!」
(それでもこの状況を楽しんでやがる……!なんて奴だこっちは精一杯だと言うのに……!)
同じ拳の応酬だがベジータが劣るのは歴然である。徐々に拳が弾かれて行くのが目に見える。
このままでは押し負けると悟ったベジータは気弾を至近距離で爆発させる。
その瞬間己は瞬間移動で避難し爆発全てをカカロットにぶつける作戦だが成功はしない。
既に戦闘領域から離脱していたカカロットは遥か後方から気弾を放ち接近してくる。
ベジータは気弾で対応せず背中に宿る翼で体を包み込み攻撃に耐える。
気弾で対応したと仮定すればその隙にカカロットに攻撃されるのは確定でありならば隙を減らすだけ。
あまりダメージは入らず接近するカカロットに対応することが出来る。
背後に瞬間移動するカカロットの拳を翼の展開で吹き飛ばし自分も背後に回る。
当然カカロットも背後に回るがこれは理解済みでありそこに拳を叩きこむが肘で防衛される。
体を縦に回転させながら勢いを活用し顎を蹴り上げようとするが足を捕まれ下に向かって投げられる。
空中で受け身を取り迫るカカロットに向け気弾を連発する。

「オラオラオラオラオラオラオラオラーッ!!」

気弾はカカロットに命中し辺りに爆発が起こりその余波で視界は爆風に包まれる。
これ程の衝撃だ――受ければひとたまりもない。
「やったか――と言えるならば苦労はしないんだがな……ッッ!!」
これで終わるならば意味が分からない。背後に回し蹴りを放つがこれを屈んで躱すカカロット。
そして懐に飛び込み笑顔でベジータの腹に拳を叩きこむ。
体を折り曲げながら上空に吹き飛ばされるベジータ。確実に骨は折れている。
そしてその先に瞬間移動したカカロットは腕を組みハンマーのように振り下ろす。
「ッッ!?」
あまりの威力に言葉も出ないままベジータは地上に叩きつけられる。
ベジータを中心に落下地点には大きなクレーターが出来上がりそこに気弾を問答無用で放つ。

「させるか……ビックバン・アターーーーック!!」
迎撃の技は名も無きカカロットの気弾を破壊するがベジータは元々瀕死の状態であった。
そこにキュゥべぇと垣根の力を受け取り復活したがそれでも体力の回復は完全ではない。
元よりカカロットに勝てるかどうか怪しい場面ではあるがそれでも勝利に近づいていた。
しかし範馬勇次郎と言う規格外の対象が表れ世界は変貌を遂げ勝率は一気に数値を大幅に下回った。
言わば絶望。かつてブロリーに対峙したかのように。
あの頃と同じならば――今は背負う物が在る――負けるわけにはいかない。






「下がれ!時縞ハルト!!」
「仇を取るんだああああああああああああああ」





地上に降り立つと共に櫻井を殺したデビルイデオンに激情するハルトはエルエルフの制止を聞かない。
荒れ狂うような軌道を描き正面から斬りかかる。
命を刈り取るように鎌を振り下ろす。
「そんなチンケな物でイデに勝てると思っているのか?」
触れる直前にバリアが形成され弾かれてしまい後方に飛んでいく鎌。
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
ブレーデッド・バイケンはただの鎌ではない――鎖鎌である。
後方にある鎌を強引に引き戻しデビルイデオンの脳天に突き刺すように腕を振るう。
またもバリアに防がれてしまい無駄足に終わるがもう一つ問題が生まれた。
至近距離が故にバリアの形成に巻き込まれ電磁波か概念か、身動きを封じられる。
「覚醒も仕切れていないマギウス如きが……死ね!」
アレイスターまるで蚊を殺すかのように拳をヴァルヴレイヴへと振り下ろす。
拳一つが必殺級の威力を持つデビルイデオンの攻撃をまともに受ければヴァルヴレイヴが耐える保証はない。
(くそ……櫻井さんの仇が目の前にいるのに!それに覚醒?……くそ、くそ!!)


「トランザム!!」
破壊される寸前のヴァルヴレイヴを掻っ攫うように連れ出すガンダム。
刹那はトランザムを起動させ一瞬で間合いを詰め戦線を離れる。
「純粋種のイノベイターか……肉体を若くして迷い込んだか……だが今の私の敵ではない!!」
急速で離れていくガンダムに大量のミサイルを発車するデビルイデオン。
その数は数えるだけ無駄であり無限力で精製される無限の嵐が巻き起こる。
「刹那!全方位にミサイルの反応あり……レーダーが紅く染まっている!?」
「狼狽えるな沙慈……一点突破をかける!」
ヴァルヴレイヴを手放しとある座標に狙いを定め腕を構えるガンダム。
ライザーソードを放出しその打点を一つに絞ることによりより密度な高出力で逃げ道を作る。
ハルトも少しは冷静さを取り戻しレーザーで刹那の加勢に入る。
待機していたエルエルフを始めとするマギウス達も遠距離攻撃で援護し刹那達の逃げ道を作り上げるために力を尽くす。




加勢もありミサイルの射程から抜け出すことに成功するが脅威自体は駆逐していない。
ミサイルの爆発を考えれば元から逃げ場など存在しない。
「クロスゲートにでも吸い込んでもらわなければ終わりだな」
「そんな事が出来るのか!?」
「出来たら苦労しないだろライナー」
エルエルフの呟きに一瞬の希望を抱くライナーだがすぐに夢が醒めた。
(俺が鎧になれば……だがエレンに正体を明かすことになる……!!)
「だがそんな事言っている場合かよ!!」
「ライナー!?君はまさか今此処で!?」
「やらないで死ぬならやって死ぬ!!」
覚悟を決めたライナーは前に飛び出し己の腕を顔に近づける。
腕に噛み付き何かを起こそうとするがそれは未遂に終わる。そこにはあの男がいる。
屑で馬鹿でウスノロで甲斐性なしのロクデナシ……だが周りを惹きつける何かを持つ漢。

「いいぜ……まとめて相手にしてやらあああああああああ!!」

右腕を天高く上げアルターを再構成させる。
削る物質は大地ではない。迫るミサイルを媒体にすればいい。
数多のミサイルを己の糧に変えカズマが具現化させるは死した強敵の証絶影。
無論全てのミサイルを分解するわけではないが加減した攻撃を壊すのには十分。
「おいおい、こんな人類がいたら俺も、俺達は変わっていたかもな……」
在るはずもない夢を呟くライナー・ブラウン。

光り輝く右腕は白銀と黄金のハイブリッド。
より荒く、より鋭利で、より強く。
輝く煌めきは意志の表れでありその光を汚すことなど誰にも許されない。

絶影のシェルブリッド×八百万!!」

何が起きたかは分からない。大きな爆発と眩しい閃光。
瞳を開けた時には新たな世界が構成されている。

「ミサイルが無くなっている?」

エレンの漏れた言葉が全ての証であった。



全てを叩き落としたカズマはデビルイデオンに隠れるアレイスターに喧嘩を仕掛ける――いや命を取りに行く。
甘いことは言っていられない。こいつが全ての原因の要素であるのならば徹底的にボコる。
背中のファンを高速で回転させ飛翔しながらイデオンを目指すカズマ。
「止まるな!残る巨人を駆逐して余るならデビルイデオンを狙いに行け」
突然の出来事の連鎖で戸惑う一同にエルエルフが指示を出す。
ヴァルヴレイヴのマギウス、巨人に抗う調査兵団――それでもまだ幼き子供。
路頭に迷う少年たちに指示を掛けることによって動かすエルエルフの真意は掴めない。
だが一つだけ言える事。それは彼もこの状況に絶望していない事である。

「ベルトルト俺達は左の巨人を狩る!」
「おいライナー!俺は仲間外れか!?」
「エレンそんな事を言っている場合じゃない……君は頃合いを見て巨人になるんだ」
そう言い放ちライナーの宣言通り左にワイヤーを飛ばすベルトルト。
木々に刺して移動したい所だが生憎激戦で大地は荒れてしまっている。
刺せる対象は生きる巨人が屍の巨人のみであり巨人の死体は時間が経てば消えてしまうため立体機動装置は大幅に軽減される。
ベルトルトは直接巨人の瞳を潰し狼狽えている間に回り込みうなじを削ぎ落とす。
簡単に説明しているが直接ワイヤーを放ったらその分掴まれる可能性も上がり生身である彼ら人類には大いなる脅威。
それを成し遂げるのは原石が多い同期の中でも三位に位置づけするベルトルトの実力が成し得る行いであった。

「エレン・イェーガーと言ったか……お前は巨人になれるのか?」
ライナーの発言に興味を示したエルエルフは巨人と交戦しながらも声を外にいるエレンに向け発信する。
イレギュラーな状況だがこちらの手駒にもイレギュラーがあるとしたら戦況を変えられる可能性があるかもしれない。
「ああ……何でかはよく分からないけど今の所俺一人が確認されている」
本来の時間軸ならばエレンはこの後同じ同期の中に四人巨人に変身できる人間を知ることになるがそれは最早関係ない世界の話。
切り取られた世界の断片を今のエレンが知る術が無い。
「そうかお前一人か……まあいい。
隙を見つけて巨人になれ。そして俺たちの勝利に貢献しろ」
「命令されなくても分かってる……巨人は駆逐する!!」
大きく旋回し後方に拡散波動を打ち込むエルエルフことヴァルヴレイヴ参号機火打場。
サイコガンの巨人を始めとするイレギュラーはカズマの激動に巻き込まれ消滅――今居るのはクロスゲートから溢れ出る巨人のみ。
放たれた光線は巨人を一掃し、生き残った巨人も時間差で起きる爆風に掃除される。
「しかしこれでは……」


「シェルブリッド!!」
「無駄なんだよォ!!!」

アルター使いと伝説の巨人。
その規模の差は説明するまでもなく圧倒的である。
右腕を構成しようとカズマは生身の人間でありデビルイデオンと大きな耐久の差が目立つ。

「俺は此処から帰る……背負うもんが増えたからな」
「ならどうする?私を倒すか?そんなことが出来るのか?」
「まずはテメェをぶっ飛ばす!!」

目の前に壁があるなら壊すのがカズマでありその道を全力で駆け抜ける。
デビルイデオンの拳の破壊力は星をも壊せるだろうがシェルブリッドは意地を見せた。
ぶつかり合う拳はどちらも退かず――それでもカズマに疲労と衝撃が嵩む。
デビルイデオンの形成するバリアが、存在其の物が凶器。
持久戦など期待したら全滅するのは確定的だった。

「仇を取ってやるぜえええええええええ!!」
アイナと言う仲間を失ったライゾウは雷の如く怒りアレイスターに突進する。
ヴァルヴレイヴ六号機――紫に光るその機体の名は火遊。
しかし搭乗者は遊んでいるつもりなど無く真剣に死者の魂と向き合っていた。
涙を流す、華やかに葬る……そんな可哀想ごっこに浸る時ではない。
右腕に装着した鍵爪で右肩を抉り取ろうとするもバリアに阻まれてしまう。

「雑魚の攻撃など通る訳がない……転生からやり直せ哀れなマギウスよ」
「ならこいつでどうだッ!!」

アレイスターはイデの力に絶対な自身を持っている。
攻撃を受けても自然とイデがバリアを形成するため特に対応を取っていなく全てイデ任せ。
ライゾウは狙ったかどうか不明だがもう一つ手を加える。
火遊が握るはハミング・バード。
バリアに阻まれている状態でバーニアを全開に作動させロッドを先頭に全速で推進する。

「何度やっても無駄だと言うことが……何ッ!?」

森羅万象。
サンダーの魂の叫びはイデに侵食しそのバリアを打ち破る。
高出力で推進した一撃はデビルイデオンの右肩に突き刺さり初の傷を負わせる。

「イデに干渉し一時的にバリアを弱らせるとは……。
しかしもう逃がさん……死ね!」

右肩にはロッドが刺さっている状態だが関係無い。
ヴァルヴレイヴを巻き込みながらラリアットの要領で右腕を振り回す。
畳み掛けるカズマを風圧で大きく後退させ火遊は重力に引き寄せられ機体が宙に飛び出す。
元より巨大なイデは動き回るだけでも周囲に衝撃を与えるのだ。
デビルイデオンの胸部スラスターを展開。
おぞましいコアが垣間見えるが問題はその先に眠る砲身だ。

「グレンキャノン――消し去ってくれよう!!」




ピピピ。




乾いた電子音は破滅への前奏。
前奏は全ての頭を担い観客にこれから巻き起こる物語を世界へ誘う。
時に弱く、時に激しく、時に美しく、時に豪快に。
そして前奏は核の前兆である。


緑の輝きは悪魔の煌めき。
見る者全てを魅了し――無へと葬り去る。






アイナが死んだ。


ノブも死んだ。


全てが懐かしく感じる。


もう一度、もう一度だけでいい。


あの学園で馬鹿やって楽しく――。


今ならハルトやエルエルフも誘って――。


「サンダーさん!!」


こんな世界の時だけサンダー呼びかよ……いっつもそうしてくれよ。


「こんな所で諦めるな……アレイスターの思惑道理など許さん」




ヴァルヴレイヴ五号機火打羽。
蒼き革命機はその身に装備されている大型守護陣IMPを展開し火遊の前に出る。
グレンキャノンが盾に直撃し打点から大きく後方に分散していくが受ける火打羽は後退させられていく。
「くッ……これでは機体が持たない!」
イデオンの出力により大きな負担が掛かる盾を無理矢理上方へ移行させて行く。
意識を確立させたサンダーは火遊を動かし火打羽を支え出力を安定させるのに一役買う。


上方へ盾を反らすと同時に遥か上空へ飛び散るグレンキャノン。
何とか攻撃を凌ぐ革命機達だがデビルイデオンは本気を出してはいない。



無限力――その力は名に恥じぬ永遠の力。



巨人の討伐数とクロスゲートから湧き上がる出現数の割合は変貌していた。
討伐数が上回り始め徐々に人類側に勝利へのカウントダウンが刻まれていく。

デビルイデオンの攻撃は圧倒的そのものであり周りの巨人をも巻き込むためその点戦力として換算できる。
しかし被害を考えれば不利に変わりはなくクロスゲートに攻撃が当たるわけでも無い。



自由の翼を持つ調査兵団の若き兵士。
世界を暴く革命の担い手マギウス。
この世界に抗う反逆者。
全てを司る伝説の巨人。



彼等に共通するモノ――それは参加の資格。


彼等は本来物語で役を与えられていない役者であった。


故にこの物語は劇場外で語られるべき夢。


しかし選ばれてしまった。


彼等は願いの力に導かれ迷い込んでしまった。


生き抜くには闘い抜くしか無い。



「なる程……私は巴マミ。
あなた達と同じ因果の変動の変動に巻き込まれし宿罪の子羊――
そして正規の参加者でも在る存在でもあるの。
何を言っているか分からないかもしれないけど一つだけ言えることがあるの」


具現化させるは身体に染み付いた信頼の巨大な砲身。
この一撃はこれまでの人生を表すもっとも信頼している絶対正義の断罪。
思いの力は心の力――故に魔法少女もまた欄外の物語に色を彩る。


「ティロ・フィナーレ!!」


直撃かしたかどうかなんて些細な問題でしか無い。
この一撃により弱い心は死んだ。


この場に立つのは使命を背負う気高き戦士しか存在しないのだ。


ティロ・フィナーレはティロ・フィナーレである。
そこに想いや夢、希望を乗せたとしてもティロ・フィナーレに変わりはない。
ティロ・フィナーレに記号を付け加えたモノになるだけ。


「甘い甘い甘い甘い甘い甘い甘いッッ!!
このデビルイデオンを倒すのには甘すぎるッ!もういい!
貴様らを無へと葬り去り憎きカカロットを始末させてもらう!!」


ティロ・フィナーレを腕一本で防ぐデビルイデオン。
無論無傷とは言えないがそれでも損傷と呼べる程の衝撃はない。

DG細胞による再生も上乗せされその存在を消し去るには何を持ち出せばいいのか解らない――だが。


「あなたをあちらに行かすわけにはいかないわ。
部外者は部外者だけで決着を付けないとね。
あの人達の運命をこれ以上歪めると言うのなら――」


キュゥべぇは巴マミの後ろで成長し正義を掲げる彼女を見守っていた。

自由の翼を持つ少年たちは戻るべき故郷を思い描きその両手に鋼刃を握る。

革命の担い手もまた戻るべき学園と世界のためにヴァルヴレイヴを駆ける。

世界を相手にしその平和を願ったかつての英雄もまたその機体に想いを馳せる。

反逆のアルター使いも託された想いのために、いや、己の生き様に立ち塞がる壁を破壊するため拳を掲げた。

田所恵。戦う力は無くてもこの戦いから目を背けること無く運命に付き合う。


そしてこの地に降り立つ【一人】の魔法少女は目の前の悪に瞳を向け口を開く。



「ここで止めさせてもらうわ――アレイスター!!
あなたに世界を統べる権利なんて!私達の生きる世界にイデ何て必要ない!
必要なのは生き抜く確かな意思よッ!!」



どうせ巻き込まれた数奇な運命ならばその身尽きる最後まで抗え。


「エレンは左から、ベルトルトは右側から回り込め!俺は正面から行く!!」

ライナーの怒号を皮切りに少年たちは立体軌道を扱いデビルイデオンの周りを飛び交う。
形成されるバリアが火遊の攻撃により中断されているため生身の彼等でもある程度近づけるようになった。
そして直接デビルイデオンにアンカーを刺せる事も可能になっている。
無論ワイヤーを捕まれれば終わりだがその巨体が故にこちら側でも十分対応する時間を取れる見込みがあるかもしれない。

彼等の移動に伴い各自動き出していた。
ヴァルヴレイヴそしてガンダムは機体と言う特性を活かしこの戦いの核になるだろう。
カズマも全速で推進し己の拳に光を灯す。
高く飛翔したシャルロッテの背に乗った巴マミは標準をデビルイデオンに合わせる。
そしてキュゥべぇは背中から飛び降りた。

「オフェンスを時縞ハルト、その援護に俺達は付く」
「おいおい俺にも突っ込ませろよ!?」
「いやこれがいいかもしれない……一番武装が強いのは間違いなくハルトだし」
「……仕方ねえな……決めろよハルトォ!!」

ヴァルヴレイヴ壱号機である火人をメインに後方支援に回る革命機。
流木乃が言った通り火力の面から考えると一番はハルトのヴァルヴレイヴになる。
特にエルエルフは防御特化型のためこれが正しい戦法であろう。
サンダーが乗る火遊は万が一イデが再度バリアを形成した場合対向する唯一の手段となるため迂闊に前へと出せない。
そして優秀なアタッカーは他にも存在する。


そう、この場に残る者達は誰一人絶望何て抱いてはいなかった。












暁美ほむらはこのバトルロワイアル最後の砦オーガを消し去るために駆ける。
鹿目まどかと一体化することにより魔力の大幅増強により彼女もまた最終決戦に参加する資格を得た……のかもしれない。


『今はベジータさんが……これは垣根さんの?
そうか……垣根さんも私見たく託したのかな』
「垣根帝督……あの男に良い印象は無いけれど……」


ほむらにとって垣根は時間停止を自力で見破り対抗してきた初の人間である。
故にその破壊力は凄まじく絶対的な恐怖感を抱くほど。
だが今は違う、何よりも今の彼を笑い飛ばすことなど有り得ない。


『向かっているのはさやかちゃんと杏子ちゃんも。
それに愚地独歩さんも生き残っている……!
そして一護さんとゼブラさんだね」
「一護、ゼブラ、ベジータ、そして垣根帝督……何の縁があるのかしら」


自分とまどかのコンビを相手に最後まで立ち振舞った彼らが全員生き残る。
何の因果か一つの座標――カカロットに集結しているというのだ。
運命に絶対は存在しない、だから数奇な物語が創造される。


『ほむらちゃんあのね、カカロットを倒すことになっても私は……。
ううん、何でもない、かな……。
例え願いの優劣が違っても私はみんなの希望を絶望で終わらせる気はないからね!』


「まどかそれって!?」


そう言葉にしたいが声が出ない。
いや、声が出ることを拒否している。
まどかに真実を聞いてしまったら。
私の中の何かが壊れてしまう――。
目の前に存在する近い真実に恐怖を覚えながらも暁美ほむらはカカロットへと向かう。
まどかが、巴マミが、美樹さやかが、佐倉杏子が存在するこの世界線を尊重するために。






「オメェの力じゃオラを倒せないのは最初から知っているだろ」

一歩。
確実に一歩ずつ足を進め前に進むオーガと呼ばれるカカロット。

「仕方ない……オラは強い」

服は開け上半身が顕になっている。
至る所に傷の姿が見受けられ繰り広げられた激戦を物語る。

「だからオメェはよくやった……」

しかし致命傷は受けていなく戦闘に支障はない。
そして傷を与えた張本人ベジータは――。


「くそったれ……」


大地に平伏す民の希望を背負う一人の戦士。
気弾と気弾の衝突で勝ったのはカカロット、負けたのはベジータ。
特別驚くことでもないがカカロットの方が強いのがまた証明されただけの事である。
未現物質を託されようが、魔法少女の希望を背負おうが……。


その力は『全開』と言う曖昧な言葉の前では簡単に崩されてしまう。


手で砂を掴みあげ体を泥にまみれても力を振り絞り立ち上がるベジータ。
今にでも倒れそうだがその両足はたしかに大地の上にある。


「俺は……お前を倒す。
そしてブルマ達の元へ帰る……ッ!」


「だからよぉ……オラ達の地球はセルの願いで木っ端微塵。
オメェの時間軸とは違うかもしれないけど此処から戻る時にはその世界線のオメェと入れ替わるんだぞ?
このまま帰ったら地球も、惑星ベジータも……オメェに帰る場所なんてないぞ」


「ならお前を倒して願いを叶えればいいだけの事だ……」


これ以上自分の大切な人が巻き込まれるのは御免だ。
ここでカカロットを止めることが出来なければ世界はカカロットを殺す機会を失ってしまう。
そうなれば世界の全てが己の欲求を満たす願望器として扱われ壊れてしまう。
そしてもう一度再生を起こし破壊と再生の無限獄になってしまうのは明らか。
ならばここで止めるしか無い。


「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」


持てる力全てを出し切りカカロットに全力で突撃するベジータ。
手負いの戦士はその鬼人の如き気迫で勝利へ猛進する。
「おっこれはオラもしっかり答えてやんないとな」
予想以上の気迫を見せたベジータにある程度の敬意を払い身構えるカカロット。
『フン……たまにはこの景色も悪くない』
カカロットと一体化している勇次郎は呟く。
主観で見る他人の戦いは滅多に無い貴重な機会であるため気分が良い。
しかし自分自身が主導権を握っていないため何処か全開を感じられていなかった。


突撃してくるベジータに合わせ拳を放つカカロット。
勢いがある分ベジータが優勢と感じられるが地力が違う。
吹き飛ばされることはないが拳を通じてベジータの体に衝撃が走った。


右腕の軋む音が誰にでも分かるように空間に響き渡る。
苦痛の表情を浮かべるが今更気にしても意味がなくベジータの瞳は前を見続ける。
間髪入れず右足をカカロットの顔面目掛けて放つ。
「おっと」
首を軽く捻り躱すカカロット。
その動きはまるで勇次郎を連想させる。この短時間で同調しつつあるようだ。
蹴りを躱されたベジータは体を回転させ元の体勢に戻る。
自損覚悟で至近距離の気弾を放とうとするもカカロットに首を掴まれる。


「ガッ!?」
「そーえば前にオラが首をこうやって掴まれた時オメェが助けてくれたよな」
問いかけるカカロットだが首を掴まれているためベジータは声を出せない。
それはカカロットも勇次郎も知っているが敢えて問いかける。
「でも今回は違う」
掴んでいる腕に力を入れ肌が力点に収束していく。
「ぐっ……ッッッ!!」
呼吸も出来なくなり声にならない声を上げる。
対抗としてカカロットの腕を掴むも上手く力が出ない。
手負いに加え呼吸を止められベジータが出している力は半減の半減をも下回る。
故に抵抗虚しくこの状況を打開する術が無いため受け入れるしかない。


「せやああああああああああッ!!」
正義の味方が駆けつければ助かるかもしれない。
カカロットの腕目掛け剣を振り下ろす正義の味方。
素早く腕を離し回避するカカロット、開放され地面に落ちるベジータ。
攻撃を回避され悔しがるがそんな暇はなく不意打ちが失敗したなら勝率は下がる。
手を休めずにもう一度縦に斬りかかるが見え見えの太刀筋は簡単に避けられてしまう。
「ならこれは!!」
声と共に剣は光りに包まれその形状を変えた。
刀身は長い鎖に変身しそのままカカロットの体に巻き付く。


「これは……!」
「そしてこれがあたしと杏子の合わせ技、魔女を炙る断罪の炎!!」
佐倉杏子と一体化した正義の魔法少女美樹さやか。
同じく愛を求めた魔法少女高町なのはと激戦を終え間一髪ベジータの援護に駆けつけた。
美樹さやかの武器である剣から佐倉杏子の武器の特製である鎖に変化させカカロットを拘束。
そして鎖を伝わる炎を繰り出し対象を燃やす新しい必殺技。
「ちょっとマミさんみたいになるけど詠唱とかないし……でも威力は本物だよ!!」
破面、宝玉、魔女、融合、そして魔法少女……。
様々な力を吸収し扱うさやかは以前のひ弱な見習い魔法少女ではない。


「遅れてごめんなさい!でもここから先はあたしも戦いますから!」


世界を救う正義の味方に成長していた。


絶え間なく炎を魔力とし送り続けるさやかだが残念ながら無意味になってしまう。
カカロットは瞬間移動で鎖から脱出していて燃え上がる炎の隣に立っていた。
「へぇ……高町なのはじゃなくてオメェが生き残ったのか?よく分からないなぁ」
余裕の表情で疑問なのか挑発なのか分からない言葉を放つカカロット。
その言葉に怒りの表情を浮かべる美樹さやか。
『あいつの挑発に乗るな……何て言っても無駄だろうねさやかには』
「勿論だよ……なのはさんやあたし達を馬鹿にするなら……ね!!」
杏子の了解の元再度攻撃を仕掛けるさやかは背に付けたマントを空に羽ばたかせる。
正義の英雄を連想させる純白のマントが元の位置に戻った時周囲には剣が幾つも錬成されていた。


「こいつを喰らえッ!!」


そうして幾つもの剣をカカロットに連続で投下するさやか。
風を切る音が何重にも重なり大きな轟音と化しカカロットを刻まんと推進する。
「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!」
迫る剣に呼吸を合わせ拳で叩き落とすカカロット。
剣は全て大地に落ちてしまい対する悪魔は息一つ切らしていない。
「休ませる暇は与えない!!」

既に剣を投影済みであるさやかは再度投げつける。
『単調すぎる……つまらん』
勇次郎が呟く通り投影する魔力や威力自体は並の魔法少女を簡単に超えている。
しかし戦法が未熟過ぎるため幾度なく激戦を経験してきたカカロットと勇次郎には物足りない。
楽に全ての剣を叩き落とす余裕のカカロット。
大きな欠伸をするほど簡単な作業と言いたいのだろうか。
「スティンガーァァァァァァァアアア!!」


その隙を狙ったさやかの突きはカカロットの顔を捉えた。










『油断するとは情けない』
















口で剣を噛み砕くカカロット。









『だから弱者に妄想させちまう……叶わない夢を』







完全な隙を狙った完璧の一撃を簡単に防がれた。
そして口で己の剣を目の前で噛み砕かれ絶望の表情を浮かべる美樹さやか。
「そ、そんな……!」
『固まってる暇はないぞさやかァ!!』
勇次郎に告げられたカカロットは心で不満を言うもさやかに手をかける。
どうせなら戦いを楽しもうと思ったが勇次郎にしてみれば目の前の魔法少女に資格はないらしい。


キュイーン。


カカロットの腕に気が収束していく音が聞こえる。
さやかは対抗策をシュミレートするも打開案が浮かばず涙目になっていく。
(魔女の力でも無理……宝玉があるから死にはしないと思うけど時間の問題……!?)
分かってはいたが目の前の敵は想像以上に強いらしい。
ベジータも起き上がり助けに入る動きを見せるが完全に遅い。
速さ自体は遅くはないがカカロットが早いだけであるが結果として遅い。


この状況で助けられる者――それは同じ魔法少女。


暁美ほむらはまだ駆けつけていない。


巴マミはデビルイデオンと交戦中。


高町なのはは既に死んでいる。


プリキュアも駆けつけていない。


ならば残る魔法少女はただ一人。


そろそろ時間も頃合いだ。


参加の資格を持つ魔法少女が再び現れる。




「ったく……世話がかかるねアンタは……!」


その姿は魔女でも破面でもない――唯一純粋な魔法少女としてこの大地に立つ。
魔力は一番弱いが意志は本物である。
それでこの先戦えるか、と言ったら厳しい世界が待ち受けるが捉え方は本人次第である。
「魔女の力とか破面の力とかはアンタに全部預けたままだから」
それは自分の意志でさやかの中に残してきた遺産である。
遺産。
杏子にはそんなその場の凌ぎの意味不明な力は必要ない。
「あたしは本来の魔法少女の力……師匠から教わったモンで十分なんだ」
掲げた槍に炎の魔力を込め渾身の力で叩きつける。
カカロットはバックステップで躱すが溢れる炎が爆発を引き起こす。
魔女に与える鉄槌。
本来の魔法が悪魔を断罪せんと打ち下ろす。


「後のことも考えろ……!」


二人の魔法少女を担ぎ後方へ避難するベジータ。


「礼を言う……美樹さやかに佐倉杏子で正しいか?」
「えっ……さやかちゃん自己紹介したっけ?」
「虚憶ってやつだよさやか……あんたは気づいてないと思うけど」
「まあいい……それより来るぞ!」


爆風が晴れるまでもなく自ら高速で突っ込んでくるは悪魔カカロット。
「はや――!?」
突然目の前に現れた拳を咄嗟に剣で防ぐが有り余る衝撃で吹き飛ばされるさやか。
受け身も取れず地面を跳ね上げ転がっていく。
「さやか!!テメェ!!」
吹き飛ばされたに一瞬瞳を向けるがそんな暇はない。
カカロットから目を離した訳ではないが見失ってしまう。
「こんな時は後ろって相場が――!?」


正解。
カカロットは後ろに瞬間移動していたが分かっても対抗できるとは限らない。
回し蹴りを上半身反らしで回避、槍で突く体制に入る。
疾風の如く突きを放つもカカロットは簡単に槍を掴み持ち主である杏子毎投げ出す。
その方向はベジータの地点でありベジータは杏子を受け止め――。


「くそったれ……!!」
迫る狂気の気弾に気弾で対抗するにも杏子を抱えたままでは不可である。
瞬間移動で回避するがその先には気を探りとったカカロットが既に待ち受けていた。
蹴りが襲い掛かるも杏子を庇うため背中で受けるベジータから骨の軋む音が響く。
「ぐああああ!!」
声を上げながらゆっくりと大地に降下するベジータ。
杏子を抱えている手前落下すれば杏子にも傷を負わす可能性があるため意識を保ち降下する。
「すまないね……」
「気にするな」


(と言いたい所だが……もう覚悟を決めるのしか無いのか……すまないキュゥべぇ……そして垣根帝督)



加勢が入ろうが状況は変わらない。
それどころかカカロットはさやかと杏子が加わってから力を増している。
「そうかぁ……そうだよなぁ」
一人で納得したかのように呟く。
何に納得し頷いているかはベジータも魔法少女達も解らない。
悔しいがこれまでのカカロットは全開で戦っていたかというと答えはNOである。
戦いを楽しみたい、だが競える相手がいない、ならば自分がそのランクまで下がればいい。
垣根とキュゥべぇと共鳴したベジータに触発され勇次郎とフュージョンしたカカロットの力は正に全開。
ゴットとキングの戦いなら奇跡が起きれば勝敗は解らなくなっていた。
オーガとキングならば圧倒的オーガ……それ程までにカカロットは強い。


「そうか……ここで終わらせるつもりなのかカカロット……ッ」
『話が分かるじゃねえかベジータ』
「え!?この声直接脳内に!?」


耳に聞こえなくても脳に響く声の持ち主は範馬勇次郎。
どんな理屈か己の言霊を他者の脳に直接介入する技を身に付けていた。
「あいつも魔法少女なら理解できないでもないが……」
「……え?魔法少女!?だって、え!?
範馬勇次郎って最初にベイって奴を殴った人だよね!?」
飛ばされた先から体制を立て直し戻ってきたさやかに知らされる驚愕の真実。
魔法少女とは何なのか――誰か教えて欲しいものである。
そして現実は会話の内容に反し絶望に染まっている。
勇次郎に諭されカカロットは愉しむことを放棄し結果を追い求めるスタンスを取る。
つまり邪魔者を殺しベジータと決着を付けた後に勇次郎と戦う。
そしてまた新たな世界を巻き込み己の欲を満たすであろう。
現にベジータやさやかに杏子……彼等もこの殺し合いに巻き込まれるのは二度目。
記憶の有無は個人差が在るようだが言えることは一つ。


ここでカカロットを殺さない限り負の因果は幾度と無く永久の回帰を辿る事となる。


「オラももうちっと愉しみたいけどもう飽きた。
垣根の覚醒やキュゥべぇの変化に同じ道を辿るトリコ……
共鳴する魔法少女と降臨するイデと中々愉しめたけどこれで終わりにしようぜ」

終わらせる決意を決めたカカロットは気づけば視界から消えていた。
何処に行ったのか――そんなこと考える暇など無く背後に瞬間移動。
杏子が最初から狙っていたかのように大地から槍を生やしカカロットの足元を串刺しにしようとするがもういない。
槍の範囲より前――杏子の目の前に移動し蹴りをかます。
エリア一つ分飛ばすつもり蹴り飛ばすが鎖を何重にも重ね防がれたため杏子は数百m辺り後退するだけ。
「くそッ……!!」
それでも足に衝撃が走り続け身体が硬直してしまう。

次にカカロットが狙うのはベジータであった。
この中で一番強いのはベジータであろう。カカロットを除いて。
杏子を蹴り飛ばした勢いのまま回転し気弾を腕から伸ばすカカロット。
回転の中心から伸び続ける気は広範囲に対象を消滅させんと振りまわる。
これを瞬間的に気を腕から爆発させることで己の傍を通る時だけ無効化させるベジータ。
気が通り過ぎたのを感じ取りカカロットに接近するも気で練り上げられた剣に行く手を阻まれる。
イデオンソードのように右手を振り回すカカロットにベジータは気円斬を投げつける。
互いに刃物をイメージした技だがやはりカカロットの方が強く気円斬は粉砕。
その隙に接近し顔面に拳を放つベジータだが拳を捕まれ逆に顔に拳を貰う。
「ニィィィ」

この時カカロットの中に悪鬼がいることを再度認識した。

残るさやかは剣を数多に精製しカカロットに対抗する。
空中に星の如く連なる剣は流星と成りてカカロットに降り注ぎ流れ落ちる。
「邪ッッッッッ!!!!」
流れ星とは一瞬の煌めきだからこそ人々を魅了させる。
故に溢れ出る闘気だけでさやかが望む未来は閉ざされてしまった。
『何のための崩玉だ……恥を知れッッッッッ!!!!』


その拳はさやかの左腕を簡単に粉砕してしまった。



「こ!?……こんなことでえええええええええ……ッッ……んろォ!!」
左腕を吹き飛ばされようが痛覚を遮断して残る右腕で剣を振るえばいい。
五人の魔法少女の中でも一番耐久力と自己回復力に優れているさやかならば左腕の再生も可能である。
今は崩玉と融合しているためその再生速度は尋常にならないほど上昇していた。
剣を真横に一閃。
そこにカカロットは非ず。

上空から脳天に叩きこまれた踵落しによって大地にめり込むさやか。
倒れた姿から動く気配は無い。
「テメェェェェェエエエ!!」
さやかに行われた非道の攻撃に怒りを露わにし多節棍を叩きつける杏子。
腕を盾代わりに防ぐが鎖に絡み取られ身動きを封じられた。
そこから力を振り絞り振り回そうとする杏子だが幾ら力を入れてもカカロットは岩石のように動かない。
「弱っちい力だな――こうすんだよ」
両腕に力を入れ鎖を簡単に破壊し自由を得たカカロット。
腕はそのまま鎖を握りしめ杏子ごと振り回し上空へ向けて手を離す。
凄まじい速度で上昇していく杏子に追い討ちの如く気弾を放ち己も上昇。
迫る気弾に対し自ら鎖を打つけ身体の位置をずらし回避する杏子だが次の手はない。
(強すぎる……駄目だこれzy――)
瞳を閉じるよりも先にカカロットの背中を蹴り飛ばすベジータ。
カカロットは大地に向かうが勢いは止まり空中でベジータを睨みつける。

「オメェは最後だから大人しくしておけ」
「フン……それまで俺がお前を放置していると思うのかカカロット」
『ククク……嫌いじゃないが場を弁えるべきだぜベジータ』
溢れ出る闘争心を抑えこみベジータから視線を逸らしさやかへ迫るカカロット。
メインディッシュを喰らうならまずは前菜を片付けなくては――。
戦いの中でも礼儀と流儀だけは腐っても忘れていなかった。


大地にひれ伏すさやかに無数の気弾を放つカカロット。
それを止めんと槍を下方へ捌き悪魔目掛け降下する杏子。
さやかに辿り着く前に気弾に気弾を打つけ相殺させようと試みるベジータ。
結論を述べると今日この攻撃は失敗に終わり気弾も全てを相殺することは不可能で終わった。
何とか意識を取り戻し転がりながら降り注ぐ気弾を回避するさやか。
純白のマントは泥に染まり皮膚にも土が付着していた。
再生能力により左腕は元に戻っているが感覚は全て取り戻しているわけではないらしい。
立ち上がる時でも左腕に体重を掛けると崩れてしまう。
「何とかしないと……何とかしないと!」
剣を支えにして立ち上がるも目の前に降り立つカカロットの姿に恐怖を覚えていしまった。
力が入らない。
「さやかッ!あいつ動けないのか!?」
異変を感じ取り駆けつける杏子だが突然地面から現れた気弾の爆発に巻き込まれる。

(――――――――は?)
その技の名前は繰気弾。
指先一つで軌道を変化自在に操れる予測不能の攻撃。
このバトルロワイアルで倒れた一人の戦士ヤムチャ愛用の技でも在る。
あのヤムチャで使える程度の技ならカカロットが使えない可能性は有り得ない。
宙に浮かぶ杏子は鮮血を撒き散らし空を仰ぐ。
(夕日が綺麗――――――)
そのまま落下し衝撃で更に吐血を重ね損傷が酷く、魔力の回復が追いつけないほどに。

そしてベジータは瞬間移動で駆けつけるが……。
「ガハァ!?」
突然の停止、急な吐血。
身体に限界が迫っている証拠である。
カカロットと勇次郎から攻撃を貰い瀕死の状態からジュエルミートで回復。
次に再度カカロット、そしてブロリーとの激戦。
垣根、キュゥべぇと共に臨んだ三度目の対カカロット攻略戦。
そして勇次郎と一体化し誕生したオーガの死闘。
多くの激戦の中でベジータの身体は瞬間移動に耐えれる程の強度を失っていた。
その場に膝を付くベジータ。
それを見下すカカロット。

勝者と敗者。

これほど相応しい言葉はないだろう。


それでもカカロットは最後までベジータを残す。
決着を付けるならば因縁は最後まで、メインは後の愉しみにしておくのが定石。
「スパークエッジッッッッ!!」
無理矢理にでも魔力で両腕に筋力の増強を掛け全力で剣を振り下ろすさやか。
これをカカロットは後退して避けるもさやかの全開は甘くない。
余波で左肩に裂傷を走らせそこから鮮やかな血が飛び交う。
しかし傷を物ともせず一歩、そして一歩。
確実にさやかに近づいていく。

「そ、そんな……!と、止まれええええええ」
剣を投げつけ進行を遮ろうとする。
剣はカカロットの左肩に刺さり先ほどの傷も含め二回目の傷を負わせる。
それでも歩みを止めること無く一歩ずつ近づく。
(やばい……殺される……!!)
ベジータも杏子も倒れている今自分で何とかするしか無い。
魔女から元に戻り新しい力も手に入れた。
杏子とも和解して高町なのはからは勝利を託されたんだ――死ぬ訳にはいかない。
「スプラッシュ……スティンガーァァァァァァァァァァァ!!!!」
だから何度でも投げつける、力ある限り投げて止めてやる。近づいたら切り裂いてやる。
一本刺さりまた一本刺さる。そして連続で何本も刺さり続け一度精製した剣を投げ終える。


それでもカカロットは確実に距離を詰める。


どれだけ傷を負わせても止まらない悪魔に死ぬ気で剣を投影し続けるさやか。

(とまれとまれとまれとまれとまれ――――――――――)
何度精製しただろう。

(とまれとまれとまれとまれとまれ――――――――――)
どれだけ投げ続けたのだろう。

(とまれとまれとまれとまれとまれ――――――――――)
後どれくらい投げれば止まるのか。

(とまれとまれとまれとまれとまれ―――――――――――)
あとどれだけ絶望したら悪夢は醒めるのか。

(とまれとまれとまれとまr「もう終わりだオメェは頑張った、そんで及ばなかった、それだけだ」

夕日に重なり悪魔の表情は見えない。
だが影で解ってしまう。



この悪魔は笑っている。



いやだ、いいいいいいやだ、声に出ない――。












誰も助けてくれない――魔法少女は夢をみること許されない。

















「らしくないわね……美樹さやか」









一筋の彗星が流れた時そこに現れるは信頼に値する戦友の姿――。
何時も気に食わない存在だった。
何かを隠していて本心を明かさないその鉄仮面が。
危険な状態に陥ると解っていながら事後に駆けつけるその態度が。
真実を隠し続け自分を見殺し同然にしたあんたが。


それでも今なら分かる。
つらい過去を背負っていたんだね。
ああ……これが虚憶ってやつかな?よく分からないや。
でも今なら言える――だから。


「ありがとうほむら」


「今はそんな事「言える状況じゃないぞ?何一つ変わって!!……ないからな」


絶望の中に一瞬輝いた希望を掴み取るさやかだが本当に一瞬の希望だった。
気づけばカカロットは表情一つ変えずに周辺を爆発に巻き込み己は瞬間移動で転移していた。
暁美ほむらも予想外の事態のためアクションが遅れてしまう。
鹿目まどかと一体化したことにより全開へと近づいていはいるが副作用が生まれてしまった。


彼女の願いの本質である鹿目まどかとの共存が叶ってしまっているためによるもの。
つまり永遠の刹那を味あう必要が存在しないため時間停止が使用不可能となっているのだ。
『安心してほむらちゃん――まだ全員揃っていないから』


爆風が音圧で掻き消され目の前には見覚えのある男が二人。




「そっか……オメェらも生きていたっけ。
ゼブラと――黒崎一護。」


一護はさやかと杏子を、ゼブラはベジータを抱えこの最終決戦に馳せ参じた。


「よぉベジータ……随分と弱っているな」
「これからだ……これからが本番だ」


その足で確かに大地に直立するベジータ。
カカロット相手に自分が倒れているわけにはいかないのである。



















「貴様ああああああああああああ!!」
激動するスタージュンはバーナーナイフでトリコに斬りかかる。
食人に目覚めようがそれでもかつてのトリコの姿を連想し続けたスタージュン。
己も操られていたとはいえこの殺し合いを運営してきた一人。
その責任を取ろうとトリコをここで止める気で戦っていた。
だがトリコは遂に相棒である小松をも喰らった――人として最後の理性が弾け飛んでいる。


「貴様を止めるではない――殺すッッ!!」


人間としてのトリコは死んだ。
敵であろうと食に拘るその姿には尊敬を抱いていたのも事実。
しかし己の分身とも言える相棒を喰らったトリコに生きる価値など存在しなかった。
「この食――人生ってのは一番食材に染み込むんだな……」
涙を流すトリコの真意は測れない。


相棒の死に哀しみの涙を流しているのか。
未だ嘗て味わったことの無い神秘の食に歓喜の涙を流しているのか。


右から左下へ流れてくるバーナーナイフを左腕の硬化で防ぎ表情を切り替える。
その瞳は暗く淀んでいるが何処か魅了する煌めきを宿していた。
「う、動かん!?」
どんなに力を込めてもスタージュンの刀は動かない。
トリコの力がそれを遥かに凌駕しているからであり小松という食材は全開に適応している証拠であった。
「じゃあな――スタージュン」
そう呟いた時スタージュンは天を仰ぎトリコは遥か遠くへ移動していた。


「そのまま俺達の世界にでも帰って後悔してろよ――お前の弱さを」



そして歩き出す――何処へ?


それは一つしか存在しないだろう。











デビルイデオンを全方位から全員で攻撃し続けるが勝ちのビジョンは見えてこない。
損傷を与えてもコアの再生力を上回る事は出来ず、そもそもそれ程の攻撃が通っていないのも事実。
対するアレイスターの戦力は無限であり持久戦や消耗戦に関しては無類の強さを発揮するだろう。
「フンッッ!!」
キュゥべぇの放つ渾身の一撃もデビルイデオンの拳の前には届かない。
逆に衝撃に耐え切れず大地に飛ばされてしまい大きなクレーターを作る。


地上を走りながら銃でイデオンを攻撃し続ける巴マミ。
ミサイルの爆風を掻い潜り照準を合わせ撃って行くも気休めになっていない。
埒が明かないため強攻策に移る決意。
動きを止め勢い余り横滑りしつつもイデオンの頭部目掛けてリボンを放つ。
リボンはイデオンの首に回り何重にも縛り上げる。
イデに呼吸はないため窒息死させることは出来ないがそれが狙いではない。
リボンで完成した坂を走りはじめた巴マミ。
両腕にティロ・フィナーレを。
両肩にティロ・フィナーレを装備して迫るミサイルを粉砕しながら目指す。
「そんなに死にたいのなら貴様からだ」
イデが腕を振り下ろすとリボンは簡単に遮断され地上に堕ちる巴マミ。


リボンを立体機動装置のように操り再度イデの身体に巻き付け移動。
大きな弧を描きながらイデのボディに向けてティロ・フィナーレを永遠に放ち続ける。
反動を利用して後方に飛びリボンを消滅。
大地に着地するもイデは健在であり力の源を粉砕するしかないようだ。
「どうやらクロスゲートから一部エネルギーを……エネルギー体かどうか不明だが何かしら供給しているな」
戦線を一歩下がり解析に就いていたエルエルフが復帰直後に言い放つ。
「ならあのゲートを封鎖すれば?」
「理解出来ない意味不明な力が少しは弱まる……それぐらいの見込みだがな」
「それで勝率が上がるなら十分だ!」
エルエルフの言葉を聞き弾幕を張りつつ後退しクロスゲートへ向くハルトが駆けるヴァルヴレイヴ。
巨人は溢れでていないためよく見える。
しかしあれ程の存在を消し去るのには相当な威力が必要だろう。


「なら俺が塞ぎます……あの門を」
前に出る少年の決意は固い。
戻るんだあの場所へ――そして奴らを駆逐するために。
覚悟は少年を包み込み気づけばその姿は巨人へと変貌していた。


更に光が彼の周辺を照らしだす。
そこに転がるのは巨人と第一戦を繰り広げていた真ニトロと未現電気達。
彼女らの生き残りは謎の光に――溢れる粒子に包まれていた。
「私達も勝利の礎になります――とミサカ達は無き持ち主垣根帝督と同じ道を辿ります」
その言葉を最後に未現物質は一つの巨大な岩に形を変えた。


破壊することが不可能でも門を塞げばクロスゲートは機能を失うだろう。
これが他者を生き残らせるために未現物質が選んだ未来。
未現物質が意思を持って行う未来への遺産である。


巨人に変化したエレンはその岩を持ち上げ肩に担ぐ。
その瞳からは涙が流れたかのように汗が落ちる。
人類の勝利に犠牲は必要でありそれは全ての世界に共通する概念でも在る。
だから。
これで全てを終わらせる。


「エレンを死守するんだーッッッ!!!」
ヴァルヴレイヴの中から声を全開にして叫ぶハルト。
これがデビルイデオンを倒すのに繋がるなら、絶望を乗り越えれるのなら。
やってやる、やってやるんだ、今此処で。


「クロスゲートを封鎖するつもりか……させるものかァ!!」
胸部スラスターを展開しグレンキャノンを放つアレイスター。
この反応からクロスゲートの存在はデビルイデオンを構成する一つの要素に繋がるのは間違いない。
「シェルブリッド!!バァァァァァストォォォォォォォオオオッッ!!」
ならば撃つ前に攻撃すればいい。
剥き出しとなったコアに強力な拳を放つカズマは推進し続ける。
グレンキャノンはそのまま暴発――カズマは爆発に巻き込まれるもそれはデビルイデオンも同じ。
大地を大きく削りながら体制を立て直すカズマ。
初と言っても過言ではない損傷を受け蹌踉めくデビルイデオン。


流れは出来上がった。


「邪魔はさせない……!!」
レガーレ・ヴァスタリア。
無数のリボンを射出しデビルイデオンの動きを封じようとする巴マミ。
何重に幾つもの地点に絡みつくがその拘束力は魔力、そして巴マミの筋力によって構成される。
故に永遠に封じ込めることは不可能であり、そもそも刹那を感じられるかも怪しい。
「僕も支えようじゃないか」
筋力と魔力。
この二つに大きなブーストが課せられているキュゥべぇが巴マミの支えになり拘束力を上昇させる。


それでも数秒しか止めることが出来ず力でリボンを解き放ち自由を手にれたデビルイデオン。
だがこの数秒の間に刹那とハルトが左右同時に斬り掛かる。
互いに交差しながら傷跡を見つめるも機体に傷こそ存在するが損傷とは呼べない。
意思を持つかのようにミサイルが後方から迫るためその場を離脱。
出来るだけミサイルを集めながらバーニアを全開にし移動を開始する。
刹那とハルト、ガンダムとヴァルヴレイヴに多数のミサイルが集められ戦場が少し掃除される。


開かれた戦場から再度射撃を展開する巴マミ。
手を休める暇はない――少しでもエレンに掛かる負担を減らすために。





岩を運ぶエレンに迫るのはデビルイデオンが放つミサイルとレーザー。
常にミサイルを放出しているためその数は無数に広がっている。
そのミサイルを狩るためにライナーとベルトルトは立体機動装置を操り空を翔ける。
しかし肝心のガスが切れエレンに大量のミサイルが降り注いでいた。


「ウオオオオオオオオオオオオオオ!!」
ミサイルを大量に浴びて声を荒げるエレン。
血が溢れだし血肉も存在ごと消滅してしまい片膝を付いてしまう。
それでも岩を降ろすことはせずに担いだままの体制で耐え続ける。
巨人の再生能力で身体も元に戻り再度立ち上がる。
そしてクロスゲート目掛けその足をまた一歩勝利へと進ませる。


「クソ……俺は何のために此処にいるんだよッ」
ガスも切れてしまい為す術が無くなってしまったライナー。
プリキュアの力も何故か発動できなくなり自分の戦闘能力はデビルイデオン攻略戦において存在しない。
エレンという仲間が命をかけて戦っているのに自分は見ているだけなのか。


「ライナー……僕はもう我慢できない……戦士じゃなくて一人の兵士になる」


「――!!ベルトルトやるのか!?今此処で!?」


「こればっかりは誰かに言われてやることじゃない……僕自身が決めたことだからッ!!」


「乗った――俺も兵士として生きる」


左胸に決意を捧げた二人の戦士は兵士になる覚悟を決めた。


故に人類を絶望へと叩き落とした超大型巨人と鎧の巨人はデビルイデオンに向かい全力で走りだした。


(超大型巨人と鎧の巨人!?母さんの仇が此処に!!)
突然前触れも無く現れた人類の敵に動揺を隠せないエレン。
トロスト区戦から見ていなかったあいつらが再び自分の目の前に現れたのだ。
何も抱かない筈がない。
迸る衝動をその身に抱えながらも今は耐える、感情に振り回されてはいけない。
元々あいつらには知性が在る。もしかしたらデビルイデオンと戦い有用に使えるかもしれない。
ライナーとベルトルトもいる――終わった後に駆逐すればそれで解決される。だから――。





(今は俺に出来ることをやるだけだ)





「沙慈、ミサイルの数は!?」
「索敵、未だ無数にレーダーが光っているよ!!」
上空にミサイルを引きつけた刹那だがその数は計り知れない。
ハルトを戦線へと戻らせ無数のミサイルを一人で受け持っていた。
「ならばライザーソードを使う!!」
「了解――ライザーシステム起動!!」
煌めく赤き輝きは上空を、エリア全体を包み込み無数のミサイルは全て失くなっていた。


(無限力、イデ……それが意思を持った物ならば――!!)


鎧の巨人がグレンキャノンを受けつつも意地で突撃しデビルイデオンを大地へ倒れさす。
アレイスターが居座るコア本体へ拳を振り下ろそうとするが逆に拳で吹き飛ばされる。
入れ替わりでヴァルヴレイヴ六号機火遊がロッドを突き刺しに掛かるもミサイルに阻まれ撤退。
立ち上がるデビルイデオンに火ノ輪が放つスピンドル・ナックルが向かうも右腕でなぎ払う。
「!?」


アレイスターが気づいた。
メインカメラに移る――拳を掲げる男の姿を。
「さっきのお返しだぁぁぁああああああああああ!!!!」
拳を全力で打ち抜き頭部を粉砕――メインカメラに亀裂を走らせる。
勢いのまま殴り抜け左斜め後方に着地するカズマ。


「す、すごい……みんなまるで正義の味方みたい!!」


岩場に隠れる田所はそう呟く。
無理もない。
彼等は世界を救うために戦っている正真正銘の正義の味方だから。


狼狽えるイデに超大型巨人が正面から挑んでいく。
全開に魅入られたベルトルトの――超大型巨人の全開はイデオンと並ぶ。
そう、本来よりも巨大化しデビルイデオンと変わらない状態へと進化していた。
(僕は故郷に帰る……そのために!!)
怒りの鉄槌がデビルイデオンの顔面を捉えようとするも腕に阻まれる。
「調子に乗るなあああああああああああああああああああ」
そのまま超大型巨人を力で捻じ伏せるデビルイデオン。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
流れ出るDG細胞とイデの意思により己を保てなくなるアレイスター。

イデの暴走が始まったのだ。

異変に気づいた超大型巨人はその体から蒸気を噴射してエリアを曇らせる。
その間にエレンを除く彼等は一つに集合しエルエルフが最後の伝令を告げる。


「ここで決着を付ける――出来なければ負けるのは俺達だ」



煙が晴れるより前に飛び出してくるグレンキャノンを防ぐエルエルフ。
背中に鎧の巨人を配置することにより大きく後退させながらも攻撃を受けきる。
その背後から鎧の巨人が飛び出て走り続ける。

ミサイルを受け止めながらも全速先進突撃。
デビルイデオンの蹴りに押し負けること無く進み続けるが軍配はイデに上がる。
大地を転がり続けるもその瞳には闘志がまだ宿っている。

勝負を終わらせようとしているのはアレイスターも同じであった。
イデの暴走を感じながらも己に操作主導権が残っているならば、最後まで諦めない。
左腕射出口から煌めく光を放出させる――イデオンソードを展開させた。
次元をも斬り裂く裁きの一撃に刹那は再度ライザーソードを起動させ対向する。
「俺が、俺達が!!未来を切り開く!!」
一度はELSとも分かり合えた――世界は一つに繋がれる。
無限力が、イデが、それがどうした。負けるわけにはいかない。
GNドライヴが悲鳴を挙げようがここで引いてしまったら全ての世界が、あの世界も終わってしまう。

片腕が塞がったデビルイデオンだか相変わらず放出し続けるミサイルの嵐によって迂闊に近づけない。
サンダーもミサイル迎撃のために本体へ辿りつけていない。
ハンド・レイやフォルド・シックルをフル稼働させその場に留められていた。
比較的遠距離攻撃装備に充実している革命機はミサイル迎撃に一役買っていた。

超大型巨人とデビルイデオンの近接合戦が再度幕を開く。
片腕が刹那に止められている今、超大型巨人に分がある。
右腕は止められたが空いている左腕で腹に拳を叩き込む。
響く衝撃に蹈鞴を踏むデビルイデオン、そして衝動により吐血するアレイスター。
「そこだあああああああああああ!!」
出力が弱まり意思も揺らいだ隙を逃す程刹那は甘くない。
油断すれば簡単に死んでしまう、故に小さな好機も逃す訳にはいかない。
ここぞ言わんばかりに出力を全開にさせライザーソードを振り下ろす。
「く……させるか!!」
反射的に右腕を盾にしようと突き出すアレイスターだがそれは何の意味も為さない。


刹那の意思が伝説巨神の右腕を切断した。


進撃を掛けようともう一度拳を放つ超大型巨人。
デビルイデオンに直撃し後退させることに成功、更に一歩踏み込みもう一度殴る。
「調子に乗るなよ雑魚共がああああああああああああああああああああ」
まるでヤクザのように右足を蹴り上げ超大型巨人の顎を跳ね上げる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
そのまま突撃し残る左腕で超大型巨人を引きずりながら前進し続ける。
奥まで押しやるとそのまま首を掴み上げ強引に投げ飛ばす。


その先にいるのはエレンだった。


「!?」
全員が一斉に後ろを振り向く。
超大型巨人の質量がそのままエレンに直撃したら巨人と言えど一溜まりもない。
エレンに当たれば再び起き上がるのは不可能。
岩に直撃したら再び未現物質で構成するのは不可能、そしてクロスゲートを塞ぐ物が無くなる。
刹那も鎧もマギウスも……誰一人間に合う者はいない。




『超大型巨人の背後に移動完了――立ち上げにも成功しました!!』




「やっと召喚出来た……ありがとうございます、沖田艦長」




人類最後の希望背負う艦――ヤマト




――巴マミの叫びに応じ満を持して降臨




先の戦いで巴マミが召喚したヤマトは魔力で精製した、言わば模造品。
「協力いただき感謝します艦長」
キュゥべぇから魔力の供給を受け真のヤマトの召喚に成功する。
その後ろでは少し疲れたのか膝を着き休憩しているキュゥべぇの姿が見える。
『こちらも応答が遅くなりすまない』
「いえ……先の通信障害はやはりクーデターですか」
『ああ、すまないな』
「いえ、後でも私から彼に言っておきます」

『伊東二尉は先の戦いで名誉ある戦死を遂げた……すまないがそれは約束できん』

「……失礼しました」

ヤマトの出現に動揺するアレイスターだがそれが負ける理由に繋がらない。
依然として絶対有利の状況は変わらないのだから押し切ればいい。
マギウスも、巨人も、刹那も全員がヤマトに集中している今此処で終わらせる。


【刹那も鎧もマギウスも……誰一人間に合う者はいない。】


「その身に刻め……!!」


反逆者は言葉には出さないが仲間を信頼している。
だから自分は自分の仕事をやるだけ――そう。
己の意思を貫けばいい。


「シェルブリッドバァァァァァストォォォォォォォオオオ!!!!」


右腕に輝く光はデビルイデオンに直撃。
それだけでは終わらず行ける所まで突き進む。
今までの借りを返すべく此処に来て全開の一撃を見せるシェルブリッド。
何十倍の差もあるイデを引きずりながらただひたすらに、ただひたすらに前進を続ける。
「私を本気にさせたな……死ねィ!!」
アレイスターは怒りのイデオンソードを再度展開させカズマに振るう。
イデが共鳴しているらしく損傷に似合わず出力は上昇していた。
これを横に移動することで回避するカズマ、切り返しで迫る刃をこちらも再度ライザーソードで防ぐ刹那。

少しずつだがデビルイデオンに損傷を与え続けている。



ここまで来たなら負ける訳にはいかない。
立ち上がる超大型巨人と鎧の巨人はデビルイデオン目掛けて突進を開始する。

刹那はイデオンソードと鍔迫り合いに全力を持って抵抗。
これが無くなればイデオンソードの射程に襲われ全てが無に帰ってしまう。

巴マミは魔力でヤマトを包み込みその絶対主砲に一つの手を加える。
波動砲に魔力を宿した――ティロ・フィナーレと波動砲の共鳴。
波動エンジンと魔力を合成した全開の一撃を放つ準備に取り掛かり始めた。

「フフフ……ハハハハハハハハ!!」
高らかに笑いを挙げるアレイスター。
遂に気でも狂ったか?ミサイル退治に追われるサンダーが呟いた。
「遂に、遂に発動出来る……これで貴様らも……ハーハッハッハッハッ!!」
邪悪な笑いを終えた後DG細胞によって包まれる無き右腕。
おぞましい造形から生み出されるソレは絶望の螺旋へ誘う凶器。

右腕に生えるように装着されイデの輝きに溢れ大気は震え大地が裂ける。
自然が叫ぶのだ、これは存在してはいけないと。

デビルイデオンガン。
絶対破壊の最終兵器が右腕と為りて最後の一撃を放とうとしていた。

「デビルイデオン周囲の次元湾曲安定……エレン・イェーガーは己の役目を果たしたか」

レーダーを見て呟くエルエルフ。
エレンがクロスゲートを塞いだことによりデビルイデオン周囲の次元が安定したのだ。
ゲートからエネルギーを吸収していたのではなくそれを纏い次元を不安定にしていたのだ。
バリアも火遊の森羅万象によって封じている今、攻撃が完全に通るようになった。
デビルイデオンガンが地表に直撃したらこの会場は終わってしまう。
制限で壊れないとはいえ会場ではなく構成されている世界が崩れてしまう。
因果地平の彼方へ世界が誘わてしまうのだ。

互いにこの局面で全てを終わらせようとしていた。

追いついた超大型巨人はその腕で鎧の巨人を持ち上げた。
両腕を上に掲げ足を揃え瞳はデビルイデオンから逸らさない。
そのまま鎧の巨人を放ち自身も全速力で向かう。
イデオンガンを放たせる訳にはいかないため全力で止める必要がある。
刹那が片腕を抑えている間にもう一度右腕を削ぎ落とさなくてはならない。
もしくはコアを潰した上での完全なる破壊を施さなくては人類は負けてしまう。

グレンキャノンと鎧の巨人が空中で衝突し大きな爆発が起こる。
この爆発に巻き込まれそうになる刹那だがエルエルフがその巨大な盾で刹那を死守。
そのままライザーソードでイデオンソードを防ぎ続ける。
鎧の巨人は身体を焼かれ大地に落ちるも、確かにグレンキャノンを相殺した。

身体を光熱で纏い上空からのボディプレスでデビルイデオンガンを潰しに掛かる超大型巨人。
イデの意思でミサイルを全て超大型巨人に向けて一斉に爆発。
身体の節々が弾け飛ぶ超大型巨人。
人類を絶望に落とした彼でも無限力、イデの前では恐怖と成り得る存在ではない。
しかしミサイルを全て自分に集めることによってデビルイデオンを守る障害を全て取り除くことに成功した。
三人の巨人は己の役目を果たした。


カズマがやるべき仕事は何だろうか――考えるまでもない。
アルター化したその右腕の輝きは今までの中で最高に輝いている。
何時だってそうだ、この拳は全ての壁を打ち破ってきた己の中で一番信頼している武器。
難しいことは考えなくて良い、ただ目の前に聳え立つ壁を破壊すればいい。


「さぁて……」


天高く腕を伸ばし勝利を掴み取るかのように拳を握りこむ。
腰を落とし瞳は対象から離さず逃さない。
「劉鳳さんよぉ……この輝き、見ているか?」
構成されているは亡き好敵手のアルターを連想させる白銀の腕。
絶影のシェルブリッド――確かに意思は受け継いでいた。


「行こうぜ劉鳳――この輝きはァ!!」


見る人々全てを魅了する黄金と白銀のハイブリットの輝き。
進化とも呼べる意思の輝きはどんな絶望に落とされようが深い底でも輝きを辞めず。
デビルイデオンがチャージを終了――カズマに照準を合わせ発射体制に移行していた。
おもしれぇ。
心で呟くとアルターの再構成は周りの大地を抉り取りカズマの右腕に意思を反映する。


「俺とお前の輝きだあああああああああああああああああ!!!!」


全開に輝き続けイデオンガンに突撃するカズマ。
ぶつかり合う漢の意思は空中で均衡しあう。
「うおおおおおおおおおおおおおおお」
それでもカズマは止まらない。
無限力、イデ……そんなものは関係無い。
カズマとて、具体的にイデが何なのかは理解していないし説明されても分からないだろう。
だが一つだけ分かる。理解はしていなくても感じているのだ。
目の前に存在するコイツは倒さなきゃいけない敵だと。


「俺の右腕とテメェの右腕……どっちが強いか根比べと行こうじゃねぇか……ッッ!!」
波動の中を拳一つで反逆し続けるカズマ。
周りから見ればただの自殺志願者にしか見えない、仕方ない、それが現実。
だが――退けるのか?世界の運命を背負い……大切な友を殺す原因を作り上げた目の前の壁を。
俺には出来ないね――カズマならこう言葉を吐き捨て歩き出すだろう。


刹那が左腕を、カズマが右腕を止めているため実質的にデビルイデオンは無防備である。
鎧の巨人がその身を賭けてグレンキャノンを破壊したため遠距離攻撃もない。
元々グレンキャノンは一つではないのだがアレイスターは使用してこない。
その鎧の巨人をエルエルフは地表に打つかる寸前に回収に成功。
しかしその代償に熱すぎた鎧を受け機体がオーバーヒートしてしまい戦線撤退を余儀なくされてしまった。



ミサイルの後処理に追われる流木乃サキも機体の限界が来ていた。
超大型巨人が引き受けた以外、僅かに残ったミサイルの処理だがそれでも数は万を超えている。
最後の一つを撃墜した時オーバーヒートにより機体は停止。
この先の戦いは何も出来ず見ることしか出来なくなってしまった。



「オールクリア!!現在出力安定……まだ上昇!!射撃誤差……!?
奇跡です!誤差はありません……行けます!!」
ヤマトに伝わる波動の力――全ての動力を波動砲に回している。

「艦内を全て予備動力に移行……全動力波動エンジンへ接続確認」

デビルイデオンを破壊するには全開の攻撃でないと不可能である。
波動エンジンをフル稼働させ他の動力も全てリンクさせ出力を限りなく全開まで高める。
巴マミの魔力の供給もあり波動砲の一撃は本来以上の威力になることは間違いない。
それ故に出力が定まるまでに時間が掛かる。

「マミ……今は耐えるんだ」
「――分かってるわ」

例え目の前で仲間が傷ついても今持ち場を離れてしまったら意味が無い。
全ては勝利のために――全ては未来の為に。


無防備なデビルイデオンに突撃するのはサンダーが駆ける火遊。
鍵爪のファンタロンを唸り挙げコアを抉り取ろうとする。
コア部分に突き刺さるもそこから先のアクションを起こすことは出来ない。
硬くて動かず、抜くことも出来ないため動きを封じられてしまう。
「くっそおおおおおおおおおおおお!抜けねえええぞぉ!!」
『何をしている山田、早く離脱しろ』
『そこから高熱反応が出でるんだから早く!!』
鎧の巨人が破壊したグレンキャノンの砲身がコアにより再生を完了した。
そして発射準備は整っていた。


「マジかよ……はははッ」
サンダーの乾いた笑いがコックピットに響き渡る。
助からない、考えるよりも先に悟ってしまった。
「もう少し助かる可能性とか閃きたいけどよぉ……」
無理だ、例え腕を破壊して離脱してもグレンキャノンの射程から抜け出すことは出来ないしエルエルフの盾も活動停止。
打つ手なし、絶体絶命、万事休す――。
「でもよぉ……!
漢サンダーこと山田ライゾウは簡単に死ぬわけには行かねえんだよおおおおお!!」


残る腕でハミング・バードを取り出し天に掲げる。
魂の叫びと共にコアに深く突き刺しバーニアをフル稼働させ自ら深い闇へ身を落としていく。
森羅万象――火遊は機械に対してその回路を狂わせる能力を備えている。
搭乗者の意思を介入させる――。


サンダーのその身を犠牲にしながらも勝利を掴み取る意思がイデに介入しているのだ。


コアに大きな亀裂が走りデビルイデオンの巨体が大きく揺れ動く。
「何!?」
そこにカズマと刹那が付け狙い追い込んでいくが勝利には届かない。
しかしサンダーの意志によりデビルイデオンの出力が落ちているのは事実。
「へっ……決めろやぁハルトォォォ!!」
叫びの先にはRUNEの輝きに満ちた革命機――そして搭乗者時縞ハルト。
その輝きは絶対必殺の証である。


「そう何度も何度もなあああああああああああああああ」
怒るアレイスターはグレンキャノンをヴァルヴレイヴごと発射。
砲身に塞がっていた火遊と搭乗者サンダーはこの世に残ることはない。
「うおおおおおおおおおおおおお」
全速で砲身に突っ込む時縞ハルト。
『時縞ハルト!?』
『ハルト!?』
突然の行動に動揺を隠せない生き残りのマギウス。
今の場面は動かずハラキリブレードを発動する場面でありそれは勝利に繋がる確実な行為。
それを行わずコアに推進し至近距離でハラキリブレードを放つ時縞ハルト。


「サンダーさん……ごめんなさい」
助けるつもりで駆けつけたが時は止まってはくれない。
この戦いで二人のマギウス――二人の友を失った時縞ハルト。
もう戦いは終わらせる、大切な人を失いたくない、だから終わらせる。
他の機体がオーバーヒートで活動限界が来ていると言うことはハルトも同じである。
至近距離からグレンキャノンとぶつかり合っているため気体温度は更に上昇。

このまま行けば爆発は確実である。

左腕にはライザーソードを。
右腕にはシェルブリッドを。
そして機体ではハラキリブレードを一気に相手している姿は正に神。
それでも倒れないことが無限の強さの証明になっている。
因果に巻き込まれた客人の決戦も終結を迎えようとしている。
「――何事だ!?」

足に走る爆発の正体は見回りを終え戦線に復帰した戦車達。
戦車道を極めし女の一撃が左足を打ち砕く

対の左足を破壊するのは超中学生級のテニスプレイヤー。
月の破片を全て二人で片付け戦線に復帰する。

そして背中を貫く魂の拳。

「また貴様かあああああああああああああああキュアハートオオオオオオオオ!!」

「そうよアレイスター……他のエリアに残る巨人は私の仲間が片付けた」

キュアハート。
アレイスターの恨み頭を過ぎり激動の怒りがこみ上げる。
しかし全ては塞がっておりミサイルに回す余裕もなくその拳を受けるしか無い。

「あなたにイデを操る事は出来ない――ううん違う。
イデや無限力は誰かの支配下に置くべき物ではないんだよ――それも解らないあなたが勝つ訳無い」

「貴様は何度も邪魔をおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

「あなたも彼等のスイートハートを感じれば分かるわ――真の強さに」




足を崩され体勢を保てないデビルイデオンだが脅威の再生速度で倒れるのを防ぐ。
ここで体制を崩しては全ての攻撃を処理しきれない。
いや、体勢を崩した時点で既に決着は着いていたかもしれない。

「ハアアアアアアアアア!!」
出力の弱まった所を逃さずこちらの出力を全開にさせ斬り裂かんと機体を動かす刹那。
イデの意思が人と歩み寄る可能性があるなら、今の姿はあってはならない。
支配下に置くアレイスターから解放するのが対話への条件。
元々力で人々を制圧する発想自体が間違っておりそれは真の平和とは違う。

ライザーソードがデビルイデオンの左腕を斬り落とし刹那は弾幕を張りつつ後退する。
気になることは未だコアに直進し続けるヴァルヴレイヴ。
RUNEの輝きと共に在るがどれだけ時間が経っても離脱する気配がない。
(まさか……)

イデオンソードの出力が揺らいだとするならばイデオンガンも同じである。
カズマの輝きは淀むことなく永遠に光り輝き邪悪に迫る。
粒子を正面から拳一つで裂いて行きカズマを中心に分かれていく。
シェルブリッド――止まることを知らずその拳はイデオンガンを装着している右腕を粉砕する。
「俺の勝ちだ……!!」
殴り抜けると同時に勝利の言葉を呟く。
打ち砕かれたイデオンガンは木端微塵に弾け飛び塵となって大地に降り注ぐ姿は雪のよう。
勢いを殺しその場で旋回しデビルイデオンを見つめる。


「へっ……お前の正義って奴が悪を裁いたぜ……?」


握る拳に残る感触は確かな勝利の証だ。


両腕を削ぎ落とされたデビルイデオン。
ハルトがコアに飛び付いているためか――再生速度が異常に遅くなり修復がされていない。
ハラキリブレードを突き刺し胸の部分を溶かし始めるとそこには生体コアとなっているアレイスターの姿が見えてきた。
コアと生体コアの二つでDG細胞を操りイデを支配下に置いていたようだ。
「時縞ハルト……マギウスッ!!
貴様だけでも地獄にィイイイイイイイイイイイイイイ!!」


叫びと同時に触手が何本もヴァルヴレイヴに伸びてその機体を拘束する。
ハラキリブレードの衝撃で削る事は出来るが今はコアの攻撃に専念している。
触手に動きを封じられるも攻撃だけは止まらず未だにRUNEの輝きに満ち溢れている。
「貴様……この距離でそれだけのエネルギーを放出すれば貴様も巻き込まれて死ぬぞ!?」
「元々こんなデタラメな機体何だ……これぐらいやらないと破壊できないだろッ!!」
アレイスターの疑問など最初から気付いていた。
こんな機体は存在してはいけないんだ。誰かを悲しませるだけの存在なら消し去ってみせる。
自分の身を捧げるだけでこの世界が助かるなら僕は喜んでこの体を投げ出す。


『オーバーヒート!オーバーヒート!』


モニターに少女の叫びが映るが気にしている場面じゃない。
更に出力を上げバーニアを最大出力、全ての動力をハラキリブレードに繋ぎ正真正銘の全開の一撃。
ハルトはエルエルフだけに通信を送る――友に託す。


『お前……死ぬ気か』


『ごめん、後のことは頼むよ』


『俺がどんな理由でお前らと一緒に居るか忘れたのか?』


『もう頼れるのはエルエルフしかいないんだ……それに君になら全てを託せる』


『……約束はしない……その革命機と共に必ず戻れ、そうしなければ俺の作戦が成り立たん』


『こっちも約束は出来ないかな……それとショーコを守ってあげて!』


『それぐらい自分で――!?おい、まだ話はッ!!』


最後の通信を切り溜息を付く時縞ハルト。
不思議な事か死ぬのは怖くない――これが全開なのだろうか。


「全開って……何だろうね」


そしてこの通信を傍受していたヤマトと巴マミもまた最後の覚悟を決めていた。



皆がその身を投げ出し時間を稼いでくれた。
魔力と波動が合わさったこの一撃は正に悪を滅ぼす冥府への一撃。
「発射面開け」
艦長の言葉に合わせ波動砲の発射口がその姿を表わす。
溢れ出るエネルギーは登場だけで大気を揺るがし次に起こるであろう一撃の重さを感じさせる
「作動を確認……安全装置解除」
古代が波動砲発射体制に映り照準をイデオンに固定。そして巴マミもまたヤマトの艦上にティロ・フィナーレを精製。
二つの巨砲が聳え立つ姿は圧巻其の物。



「出力安定、魔力結合率完全一致……射軸固定完了!!」
「重力アンカー解除よしッ!」
「こちら巴マミ、全ての準備が整いました」



「そんなまだハルトが!?」
ヤマトの攻撃態勢に制止を掛けたい流木乃サキだが機体は動かない。
急いで機体から降りるも間に合う筈が無く無意味な行為。
寧ろ余波でその体が原子レベルで崩壊してしまうだろう。
シャルロッテが回収し空中に非難するが何も解決していない――ハルトを殺すのか。
「此処で待て、俺達に出来る事は無い」
「ハルトが死ぬのを黙って見てろって言うの!?」
「ああ……それがあいつが出した答えだ」


背中に跨るエルエルフはそう告げる
田所はまだ出会って間もないがその姿に涙を流す。
使命を果たし人の姿に戻った巨人達は無言で敬礼を捧げる。
キュゥべぇもアレイスターと同じくこの殺し合いに加担した一人である。
感情が芽生えた今何を思うのか――その口を開かない。
遥か天高い空中には流木乃サキの悲しき叫びだけが響き渡る。


『この宙域に居る全ての人間に告げる』
沖田艦長が全域に通信を呼びかけ言葉を全員に届ける。
『偉大なる戦士時縞ハルトに敬礼』
何一つ疑問を感じずその場に残る者全員が死する若者に敬礼を行う。
涙を流しながらも流木乃サキも現実を受け入れヴァルヴレイヴを見つめていた。


『波動砲撃てーーーーーーッッッッ!!!!』


やがて全ての音が飲み込まれ魔力と波動の螺旋が邪悪を滅ぼす。
蒼き光は世界を包み込み悲しみを精算してくれるのだろうか。

「う……こんな、私は世界をおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

生身で波動砲の一撃を喰らうアレイスターが生き残る可能性など皆無。
ましてやイデから見放されている今助かったとしても直に裁かれる。
幻想に囚われた哀れな魂の最後は何とも短い一瞬であった。





『シンデシマウ!シンデシマウ!』


「僕はただ死ぬんじゃないよ、これは人類が勝利するための――」






そして波動砲は全てを消し去りクロスゲート攻略戦が終戦した。




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最終更新:2015年01月01日 01:38