崩壊したホテルから遥か彼方を見つめる。
眩しい閃光や激しい轟音が響く中で戦闘する影が幾つか見える。
空を自由に駆け回りビーム光線何てお手の物で巨大ロボットまで持ち出してきた。
見たこともない未知への領域に心が踊り体が躍動する。
あの中に俺も混じりたい――そんな感情が体を突き動かす。
「いや、そんなんじゃねぇわ」
何綺麗なことを言っているんだ。
もっと素直に、自分に正直にならなきゃ駄目なんだ。
そうしないと今までの、俺に喰われた糧に申しが立たない。
混じりたい?戦いたい?そんな事は別にどうでもいい、どうでもいいんだ。
「あんだけの戦闘が出来るんだ……そりゃ美味ぇよな!」
まだ味わったことの無い未知の感覚。
その肉は口に入れた瞬間蕩ける程の柔らかさで味も永遠に残る。
その液は喉に引っかかる事無く体を駆け巡り心身共に快楽に陥る。
その骨は芯まで味が染みこみ最高の栄養源となる――
「やべぇ想像すると涎が止まらねぇ」
口から溢れ出す涎は首を、体を巡り大地へと降り続ける。
落下地点は軽い水溜りが出来るほどであり涎でも量はリットルを超えている。
やがて涎はサニーの残骸を包み込むが水分を吸収するだけの質は残っていない。
落ちているのは少しの髪と喰い残った粕だけ。サニーと呼べるかどうかも怪しい。
大切な友を喰らった事に気づいたトリコは大きく錯乱していた。
一度口にした食材は己の糧となりこれからの力となって残り続ける。
だが具体的な形としてはこの世に形を残してはくれない。
食材に絆や友情等といった感情は抱かないし所詮食材。
唯一無二のような存在、生命としての形は残らない。
サニーはもう二度と戻ってこない、とどめを刺したのはトリコ自身。
意識がなかったとは言え喰ってしまったのは事実。
言い訳など存在するはずもなく思い現実がのしかかっていた。
しかしそんなトリコも今では落ち着きを取り戻している。
サニーの残骸を見て脳裏に浮かぶはかつての友としての姿。
一緒に修行して強くなって絆を深めて……。
時に笑い時に傷つけ合い時に食を共にし……とても充実した掛け替えの無い大切な時間。
だがそれはもう二度と戻ってこない――喰ってしまったから。
そしてトリコは気づいてしまった。
「腹が減ってたから喰ったんだ――何がいけないんだ?」
真理
人間の生理現象に抑制などいらない
仕方がない
そう全ては仕方がなかったのだ
腹が減ったら食事をする――この行いを止められる必要がない。
現にトリコは『食儀』をマスターしていて今も使えている。
彼は『食に対する感謝の気持ち』を忘れることはなく今も生きている。
「これから進む未知……楽しみにしとけよぉ…ジュルルル」
快楽への追求は途切れることがない。
未知への到達に対する好奇心が全ての抑制を上回り前へ瞳を定めてくれる。
体が、本能が告げているのだ――本体である己がそれに従わない理由はない。
足をゆっくりと戦闘音のする方向へ進めるトリコ。
急いでいてはせっかくのカロリーを消費してしまう。
人を食材と認識してから格段に強くなった気はするがその分体力の消費も激しくなっていた。
手持ちの食材では満足できないかもしれない。
現地で食材を回収出来ればいいはなしなのだが。
「しかし急に変なことに巻き込まれたな……」
気がついたら大量に食材が並べられたパーティーに参加していた。
気がついたら懐かしい顔ぶれ、四天王が集まっていて久しぶりに会話ができた。
気がついたら以前ぶっ飛ばしたベイがいた。
気がついたら知らない男の首が飛んでいた。
気がついたら悟空と勇次郎と共に殴っていた。
気がついたらホテルで爆睡していた。
気がついたらココが死んでいた。
気がついたら人を食らっていた。
気がついたらサニーも喰らっていたんだ。
「それでも人間っていう食材に出会えたならお釣りが来るな!」
トリコもまた此処に来て全てを歪められた人物の一人。
増殖した者、真理に気づき殺戮を快楽の道具にする者、魔女になった者、契約した者……
決して外れることのない運命に干渉された者は未知への世界に身を投げ出す。
それは時に奇跡を生み、時に牙を剥く。
だとしたらトリコはどちらに分類されるのか。
彼は一時の絶望を吐き捨て未知なる夢へと辿り着いた。
その瞳は美しく黒く淀んでいてそれでも希望に満ち溢れていた。
人間とは何と愚かな生き物なのか。
人間とは何とも素晴らしい生き物なのか。
こんな素晴らしい食材が身近にいたのに気づかないとは何とも情けない!
だが彼は出会ったしまった!このバトルロワイアルで!絶望の淵で希望と出会ってしまった!!
屑だ馬鹿だと罵ればいい!!だがその瞳は下をむくことはない!
ダッテオレハナニモマチガッテイナイシナ
「夢なら冷めないでくれよ……この味を忘れるってことはあいつらも無駄死だしな」
だが全てが上手く行くわけではない。
悪の道には必ず壁が存在する。
人を喰らう悪鬼の前に現れないハズが無い。
なら誰が来る?
ゼブラ、ベジータ、勇次郎?いいや彼等はカカロット討伐へと向かった。
垣根?彼も正義側の人間と呼べる立場なのか?
愚地独歩?残念彼は遠すぎるしそれは魔法少女達へも言える事。
トリコの視線の先は急な閃光に包まれる。
この感じは先程の、サイヤ人の戦闘にとても似ている。
だがサイヤ人何かじゃない、もっと知らない光。
いやこの光を知っている?この感覚を知っている?
何故かとても懐かしく感じる。
まるで前に一度戦ったことがあるかのように――――――
「あん!?ここは向こう側か!?」
現れた一人の男。
荒々しさを溢れだし吠える。
「貴様といるとロクな事が起きないらしいな」
冷静に呟く男。
冷たさを感じるがどこか熱さを感じさせる。
そして――
「よう、お前らとっても美味そうだな!俺ぁトリコてってんだ!」
絶対に美味い。
「美味い?何言ってんだテメェは」
「トリコとやら、すまないが此処は何処だ?」
荒々しい男は反応するが緑の冷静な男は無視をする。
急に現れたがどうやらあちらにも負傷な事態らしい。
「ここは今バトルロワイアルが行わてんだ、場所は知らねえ」
「ばとるろわいあるだ?」
「殺し合い――!?それは本当か!?」
「殺し合いだぁ!?」
理解してくれたらしく声を荒げる二人。
まあ、突然殺し合いに巻き込まれたらそんなもんだろ。
後は如何にしてこいつらを喰らうかが問題だ。
感じるんだ。こいつらも絶対強い。俺の本能が感じる。
お!サニーの残骸を見てやがる!此処は――
「そいつサニーって――」
辺りの空気が急に変化した。
何気ない日常から殺伐した荒野の様な――荒々しくも張り詰めた緊張が漂い始めていた。
「なるほどな、所詮貴様も外道の道を歩むものか」
「俺には分かる、テメェがどうしようもないクズだってことがよぉ」
先程までは喧嘩をしていて仲が悪いイメージだった二人が悟ったように呟く。
互いが戦闘の構えを取り始めその瞳は獣のように輝く。
「貴様のような社会不適合者は生きるに値しない。だが――」
「テメェの生き様はテメェのもんだ、邪魔する気はねえさ。でもよ――」
どうしてだろうか。
目の前の男は初めて合う男だ。
本能が告げる、こいつは悪だと、ここで倒さなければならないと。
おかしい話だ。
俺はこいつの事なんて知ったこっちゃねえ。
でもよ、ここでぶっ飛ばさなきゃいけないんだよな。
この男と肩を並べて戦うなど反吐が出る。だが――
こいつと一緒だなんて御免だね。でもよ――
「貴様はここで俺が断罪する!!」
「俺がテメェをぶっ飛ばす!!文句はねえよな!?」
こんなに頼もしいと想うなんて――。
「フライングフォーク!!」
宣戦布告も終了し最早語ることなど存在しない。
語るとすれば己の拳のみであり戦闘だ。
勢い良く放たれたフォークは荒々しい男の方へと向かっていく。
「しゃらくせえ!!」
吠える男は腰を低く体制を取り己の拳を突き出す。
独特な握り方をした後に彼の周りに謎の光が現れる。
その光は周りの大地を削り――いや消失させ男の右手へと移っていく。
そして包まれた右腕はアルターへと変化する。
「シェルブリッドのカズマだ!その目に刻め!衝撃のファーストブリッド!!」
背中に浮き上がるフィンを一つ消耗しそこから噴射されるエネルギーで直進する男。
その名をカズマ、反逆者の称号を持つ男、シェルブリッドのカズマだ。
その拳はフライングフォークを簡単に破壊しそのままトリコへと突き進む。
「フォーク!シールド!」
敵に放つ衝撃を足元に放ち全身を覆い隠す。
鋭利な武器は時に自分を守る頑丈な盾へと変貌する。
カズマのファーストブリッドの衝撃を受け振動が、轟音がエリアに大きく響き渡る。
それでもシールドが破壊されることはない。無論無傷ではなく大きく凹むが。
「どうしたシェルブリッド?のカズマさんよぉ?」
「余所見をする暇など無い――絶影ッ!!」
もう一人の男の存在に注意を払っていなかったトリコ。
その両腕でが二本の触手によって拘束されてしまう。
自立稼働型アルター絶影を持つ男――劉鳳。
「貴様のお膳立てとは……まあいいやれ」
「撃滅のセカンドブリッドォォォォォオオオオ!!!!」
身動きの取れないトリコに対しカズマは容赦なくその拳を向ける。
さらにフィンを一枚消費し推進力を増してトリコに迫る。
トリコは二人のコンビネーションにやられたと思うがそんなことはない。
一つの悪の存在が彼等を結び合わせているのだ。
「レッグ……ナイーフ!!」
腕が使えないなら脚を使えばいいだけのこと。
拘束されている両腕を基盤にして宙に浮かぶトリコはそのまま振り子のように体を揺らす。
勢いを受け継ぎ脚から鋭い斬撃をカズマに放つ。
「ぐ……おおおおおおおおおおおおおお!!!」
セカンドブリッドとレッグナイフが空中で互いをぶつけ合う。
その衝撃はレッグナイフが勝りカズマが押し負ける。
上手く斬撃を上に逸らし攻撃のダメージを皆無にするカズマだが大きく後ろに後退する。
逆にトリコは衝撃を利用し拘束されている両腕を力任せに振り回す。
その腕力は圧倒的で拘束している側の絶影ごと大きく円を描くように振り回す。
「こいつ……お届け物だ!!」
遠心力に耐え切れなくなり触手の拘束を解いてしまう絶影。
そしてそのまま持ち主である劉鳳の元へと飛ばされてしまった。
近くの岩に鋭い触手を差し込み強引に飛行を止めに入る。
地面を荒く削る結果になったが何とか動きを保てることに成功した。
「テメェのアルターにやられたんじゃ話になんねえよ、絶影の劉鳳さんよぉ」
「黙れ貴様こそ自慢の拳で相手を仕留められていないぞ」
「やんのか!?」「いいだろう」
同じ世界から来たはずの二人の仲は初見のトリコでも悪く見える。
喧嘩でもしてたら巻き込まれたのだろうか?正解である。
だがトリコにそれを確かめる術はない。
「うるせぇ!今はテメェの相手をしてる場合じゃねえんだ!」
「貴様と同じ意見とはな……ああ、そうだな」
喧嘩を止めその瞳をトリコへと向けるカズマと劉鳳。
「貴様のような悪を――人を喰らう悪鬼の存在など俺は認めない!」
「徹底的にボコる!それだけだ!」
「「いくぞォッ!!」」
爆発的な瞬発力で一気に距離を詰め寄りトリコに向かうカズマ。
最後のフィンを消耗した渾身の一撃。
「おもしれえ……10連!!」
この会場に来て初めて魅せるトリコの本来の得意技。
鍛えられた右腕の筋肉はさらに肥沃し豪腕へと進化する。
一発の攻撃で沈まないのなら何発も叩きこめばいい。
一撃で粉砕出来ないのなら更に強い一発で殴ればいい。
「抹殺のラストブリッドォォォォオオオオオ!!」
「釘パンチ!!!」
両者の拳が激しく火花を散らす。
カズマの拳は全てを粉砕する全開の一撃。
トリコの拳は衝撃を何度も放つ全開の波動。
同じ拳でもあってもその性質は違い何度も、何度もぶつかり合う。
カズマの勢いは止まることを知らず直進続けるがそうはいかない。
一発、また一発と衝撃が来るトリコの一撃に勢いは浪費されていく。
トリコも衝撃を放つ度に何度も脚が地面を抉りながら後退していく。
そして時は動き最後の、十回目の衝撃と共に両者は大きく後方へ弾け飛ぶ。
その攻撃は互角。
カズマは拳一つでトリコの釘パンチを相殺した。
トリコはカズマの強力な一撃の衝撃を全て削り取ったのだ。
「チィ!気に食わねえ!」
怒号を飛ばし空中で再度トリコを補足するカズマ。
次なる一撃を叩きこもうとするがその前に先客がいる――
「剛なる右拳・伏龍!!」
劉鳳のアルターである絶影がその右腕をトリコに飛ばす。
これが絶影の真の姿、その姿まるで蛇、ナーガの様な姿。
宙に浮かび放たれる一撃はさっきまでの触手とは比べることが出来ないぐらいの一撃。
鋭利な拳がトリコを断罪しようとその身に迫る。
「やられて……たまるかよ!!フライングナイフッ!!」
伏龍に斬撃を飛ばすトリコだが苦し紛れの急な一撃に威力はない。
斬撃は弾かれ大地に突き刺さり劉鳳に届くことはない。
トリコは絶影の攻撃に直撃することになるが――
「何!?これは……砂!?」
伏龍はたしかにトリコの腹に直撃した。
そのまま風穴を開け絶影の元へと戻るがトリコの姿はない。
瞳に映るのは風に囁かれる煌めく砂のみ。
やがて砂は一点に集中しトリコの体を形成する。
「……こりゃ奇跡だぜ」
トリコ自身何が発動して自分が助かったのか理解できていない。
分かるのは自分が喰らった人間がこの力を持っていただけのこと。
しかし発動の仕方が分からないためこれからも使用出来る保証はない。
ただ神様はまだ悪鬼の存在を見放してはいなかった。
「あいつもアルター使いか!?」
「いや物質を再構成していない…奴の自前の物なのか……!?」
「残念だが俺も仕組みは知らない!」
ハッタリをかますのも一興だが安定出来なくては意味が無いのでやめるトリコ。
だが一度発動したことにより二人のアルター使いは頭に光景が焼き付けられる。
警戒せずにはいられない状況になってしまった。
「関係ねえけどな!!」
「気にする必要など無い!!」
体が砂に変化する。
こんな小さい現象がこの男たちを止める理由になるのだろうか?
答えはNOだ。そんなもんでこいつらが止る筈がない。
カズマの右腕が再度光りに包まれる。
容赦なく周りの物質を犠牲に再構成されるアルター。
その光こそ、その輝きこそ、その拳こそがシェルブリッド、シェルブリッドのカズマの証。
「それがお前の真の力か……おもしれえなアルター使いよお!!」
大きく飛躍しカズマに飛びかかるトリコ。
瞳は獲物を逃さないような鋭い瞳、口は牙を覗かせ、拳は命を刈り取るべく本気で。
その顔は食を求める美食屋の物ではない――
餌を狩り取りに行く野獣の顔そのもの。
カズマも獣と言う点では同じでありその瞳はトリコを逃すことはない。
背中のファンを稼働させ宙に浮き飛びかかるトリコに対し逃げなど存在しない。
向かってくるなら結構、こちらも向かうだけ――自慢の拳で。
「「うおおおおおおおおおおおお」」
宙で爆ぜる互いの拳から生まれる新たなエネルギーは周りの自然を容赦なく削っていく。
その衝撃から身を守るべく追撃に向かわせるはずの絶影を戻し盾にする。
それでもエネルギーの波動が体を伝わり震えさせる。
それほどのエネルギーの起源では己と己を競い合っている。
だが恐ろしいのはただ殴っているだけという事実。
俗に言われる必殺技の部類を使用していないのだ。
無論、拳一撃が必殺の領域で在ることに違いはないのだが――。
「10連……!!」
「んな!?」
右手同士の激突で負けそうなら左手を使えばいい。
同じように左腕の筋肉を肥大させ力を蓄えたトリコは迷いなく左腕を突き出す。
一対の比べ合いの場に新たに加わる十の衝撃。
結果は言うまでもない。
「ぐぉおおおおおお!!」
その衝撃を受け後方に大きく飛ばされるカズマ。
途中に追加される衝撃で一回、また一回と何度も体に凹みを負わせながら大地に堕ちる。
追撃するトリコに臥龍を放つ劉鳳だが同じく釘パンチで破壊されてしまう。
(ただの人間がアルターを破壊するだと!?)
本来有り得ることのない因果律の歪みよって惹き合った運命。
そして思い知る自分が知らない新たな境地。
どうやら認めたくはないが目の前の男は生身でアルターに張り合えるほど強い。
それもそのはずだ。
トリコが喰らったのはスナスナの実を持ったクロコダイルだけではない。
ピクルを喰らった事により更に野生が強化された。
秀吉、アミバ、サウザーを喰らったことにより格闘技術が大幅に上昇した。
グリンバーチ、サニーを喰らったことによりグルメ細胞が覚醒を遂げた。
その他にも多くの強者を喰らいトリコの戦闘力は格段に上昇していた。
人を喰らい己の糧とし進化続ける悪鬼はアルター使いをも凌駕する――。
「テメェェェェェェ!!!!」
「それがどうした!それが諦める理由になどならんッ!!」
カズマは降りかかる岩を払いのけ吠える。
劉鳳はその軟弱な意志を投げ捨て叫ぶ。
相手が生身でもアルターに匹敵する実力者――それがどうした?
だったら答えは簡単だ――嗚呼簡単だ。
「もっと強く殴りゃいいんだよ!!」
「俺の信念が負けるはずなどない!!」
アルターとは己の精神をこの世に形として具現化したもの。
それは自分の意思の表れだ、軟弱な意思など必要ない。
必要なのは強い、肉親の情にも勝るような確固たる信念――ただそれだけ。
「俺の正義が貴様という悪を裁く!絶影!!」
自立稼働型アルター絶影の最終形態。
再構成されていくアルターは物質を巻き込みながら劉鳳を包んでいく。
それは全てを切り裂く断罪の鎧――絶影・正義武装。
鋭利を象徴する正義の断罪者の証。
「10連アイスピック釘パンチ!!!」
変身の瞬間を見逃すほどトリコは甘くない。
殺すなら、狩るなら徹底的に、甘さは己の枷となる。
殺るなら殺れためらいなく。
普段の釘パンチよりも更に鋭利に、衝撃を一点集中にするスタイル。
鎧を纏うならそれを貫けばいい話し。
「シェルブリッドバーストォォオオオオオオオオ!!」
「!?」
俺を忘れるな!言わんばかりのカズマが割って入る。
何も劉鳳を助ける訳ではない。意地だ。
やられたままじゃカズマの、男の意地がそれを許さない。
喧嘩に負けたまま終わるなんてカズマの信念が許さない。
なら、あのまま岩に埋まってる事なんて出来るはずがない。
生きているなら体を動かせ、血が出てるだけだ。
骨も折れていたとしても一本程度喧嘩に支障なんて生まれない。
それに――
(あの野郎よりも先にくたばってたまるか!!)
男としての性が許さないのだ。
放たれるシェルブリッドはその何恥じることのない強力な一撃。
今までの鬱憤を晴らすかのような全開の一撃はたかが十回の衝撃程度では止めるなど不可能。
今度はカズマがトリコを遠くへと吹き飛ばし、先ほどの借りを返す。
「礼は言わんぞ、あの程度では」
「テメェのためにやったんじゃねえよ!」
軽く悪評を付き劉鳳はトリコへと向かう。
最終形態となった絶影を纏った劉鳳は飛行能力を得る。
そしてその動きは分身が見える程の速度。
巻き込まれた彼もまた全開の到達者になる可能性を秘めていた。
「クッソ!フライングナイフ!!……!!」
何とか大地に脚を下ろし劉鳳を迎撃するトリコが放つ斬撃に勢いは無い。
カズマの拳の衝撃が体に残り本来の力を出し切れていない。
それを補うため複数放つが――
「甘い!」
劉鳳が繰り出す衝撃波は全てのフライングナイフを叩き落とす。
そして一瞬で距離を詰めトリコの体に断罪の一閃が走る。
「絶影刀龍断!!」
アーマーを一対にして断罪の振り下ろし。
標的の体に鮮やかな斜め線を刻み込み鮮血が宙を飛び舞う。
その勢いのまま体を反転させ回し蹴りの要領でトリコの体を容赦なく吹き飛ばす。
「ぐぅおおおおおおおおおおおおお!!!!」
鮮血が舞いながらもその意識を手放すことはない。
バックに詰めていたサニーとピクルと秀吉の食い粕で作った即興の肉団子。
これを素早く取り出し空中で口に放り込みカロリーの復活とグルメ細胞の活発化による強化と体力の回復。
この三つを瞬時に行ったトリコの傷は完全といかないが出血は止まる。
しかしそれでもダメージを負ってることに変わりはなくそのまま海に叩き落された。
「ふん――その罪を償うといい」
海へ落ちたトリコを確認すると劉鳳はアルターを開放する。
疲れが襲い一瞬意識が遠のくがこれを耐える。
そしてカズマに向かい言葉を投げる。
「これで……帰れると思うか?」
「俺が知るわけねえだろおい」
元はと言えば彼等はロストグラウンドから突然飛ばされた身の人間。
アルバイトで来たプリキュアや巨人達とはまた違った立場。
敵を倒しても帰る方法がわからなくては意味が無い。
決着も着かなければ己の義務も果たすことが出来ない。
考えていても仕方がない。
今一番近いエリアから閃光や爆発音に只ならぬ殺気が感じ取られるためそこへ向かう。
確証はないがそこに真実が隠されている気がする――
「貴様と居るとロクな事が起きやしない」
「喧嘩売ってんのか!?」
「貴様の頭ではそれも理解できないのか……」
「見下してんじゃねえ!!」
喧嘩するほど仲が――何でもない。
こんなやり取りを繰り返しながら歩く二人の背中に殺気はない。
立場や価値観は違えど同じ修羅場を、共通する信念を持つ二人を止められる壁など存在しない。
その壁は殴り壊され、切り裂かれ、ただの道へと変貌する。
この男達を止めるのに軍隊一つじゃあ物足りない。
その脚の歩みを止めることなど不可能。
――――――やっぱり美味そうだ――――――
「何!?」
「後ろだ劉鳳ォ!!」
そこには獲物に飢える悪鬼が大きく口を開き――
劉鳳の左腕を捕食した――
「ぐ…うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
刈り取った左腕を骨ごと噛み砕くトリコ。
大きな砕く音が静寂の場に響き渡り不気味さだけが残る。
指が地面に落ち唾液と血が混じり黒い液体がトリコの口から滴り溢れる。
肩で呼吸をし充血した瞳は腕しか見ていない。
「えふえうふえふ……う、うううううう、美味ええーーーーー……ええ!!!!」
人の言葉を話しているかも理解できないような言葉を呟くトリコ。
餌に夢中すぎて声も大きく音も多大に漏らし一心不乱で食事を行う。
劉鳳は膝を付き左腕がかつて在った所を抑えるが気休めにもならない。
出血が止まるわけがなく容赦なく流れ続け水溜りのキャパシティなど等に越している。
絶対に絶望を灯さない瞳に暗雲が立ち込める。
「なにしてやがんだあああああああああああああ!!」
飛び出したカズマは迷うこと無くトリコにシェルブリッドを叩きつける。
周りに被害が出ないようにラリアット風にし衝撃を拡散させながらトリコを突き飛ばす。
真剣に殴ったら近場にいる劉鳳にも被害が出てしまう。
カズマとて非道ではない。戦いを通して劉鳳と理解し合っているのだ。
それを口に出さないだけ。
「おい、無事か劉鳳!?」
焦りながら地に足を付ける劉鳳に駆け寄るカズマ。
出血は止まらず絶え間なく流れ続け大地を染め上げている。
呼吸も荒く眼の焦点も合わずに今にも死にそうな顔をしていた。
「あ、当たり前だ……貴様の助けなどゴフッ!」
強がりも魅せるもそれは虚ろな幻想に過ぎない。
吐血をしながらも立ち上がるが上手く垂直に立てずにフラついてしまう。
かつてカズマがしたような腕ごとアルターで再構成する方法を試してみる。
周辺の物質を抉り取るが足りない。いや抉りきれてない。
それ程までにトリコに喰い取られた跡が劉鳳に深刻な傷を負わせていた。
その結果構成されたのは初期の絶影。
絶影に身を寄せて何とか立っている姿勢を整える劉鳳。
「おい、少し黙ってろ!その傷じゃ……!!」
「うるさい……俺はまだ……ッッ!!」
カズマは分かっていた。劉鳳が大丈夫な訳がないと。
劉鳳は気づいていた。己の体が大丈夫な訳がないと。
それでも劉鳳は男は眠るわけにはいかない。
眼の前に存在する悪鬼を裁くまで。
ロストグラウンドへ帰還するまで果てる訳にはいかない。
その瞳は何を見ている?それは前だ。己の進む方向を何の迷いもなく。
己の信念が告げる――戦えと。
「左腕でこの旨味……劉鳳君は名前から中華を感じるが違うね!これはメインを張れる味だ!」
トリコが身に纏うのは狂気。
そして放つのが食材を圧殺させるという食圧。
食儀と対をなす食圧だがトリコは腐っても食への感謝の念を忘れていない。
その心が本来成立しない食儀と食圧の両立を実現させていた。
瞳は充血し、唾液を垂らし、牙を覗かせ、息を漏らしながら一歩。
また一歩、確実に獲物へ脚を進め狩りの再開に繋げる。
「俺の食事を邪魔するな……」
大地を蹴りあげたトリコの跳躍力はたかが十メートル程度なら一瞬で詰めれる。
即座にカズマの目の前に表れ拳を叩きつける。
再びカズマとトリコの拳が爆ぜる。
今度は両者がインパクトの瞬間にそれぞれを吹き飛ばす。
衝撃で劉鳳に波が来るが気力で持ちこたえ絶影に体を委ねる。
カズマはそのまま背中の風車を全開に、シェルブリッドも開放し一撃を叩きこもうと直進する。
しかしトリコは空中を蹴りあげカズマの意表をつく。
喰らった屍を吸収し本来ありえない戦闘能力を得たトリコは人の域を超えている。
右足を蹴りあげカズマの体が曲がりシェルブリッドは不発に終わり吐血。
追撃で放ったフライングフォークがカズマの右肩に抉り込みそのまま後方へ押しやる。
残る劉鳳を喰らうため口を大きく広げ急降下するトリコ。
満身創痍でロクにアルターも具現化出来ない彼にとって手に負えない野獣。
手負いの正義を語る者は絶体絶命の大ピンチ。
だが劉鳳は死んでなどいない。
たとえ微力であろうとアルターは存在している。
彼の意思は決して腐ってなどいない。
だから叫ぶ。悪を断罪すると――。
「ぜ……絶……絶影ィィィ……ッ!!
残りの力を絞り出し一対の触手がトリコに立ち向かう。
叫ぶだけで口から、傷口から血が吹き出し倒れそうになるがその体が大地に伏せることはない。
今劉鳳を動かしているのは意地であり信念。
それを止められるなら止めてみろ。
劉鳳の漢の意地を簡単に止められると思うな。
弱音を吐く暇があるなら前を見ろ脚を出せ突き進め。
その弱い意志にアルターは着いて来ない、軟弱な信念に反逆しろ――
「散れ!毒虫があああああああああああああああああ!!!!」
彼の意地が触手となりトリコの両肩を貫く。
鮮血が飛び交うが関係なくトリコは劉鳳に喰らいつこうと突き進む。
そう……トリコも元素は漢。彼にも意地はある。ここは引けない。
ここで引いたら今まで喰らった奴の生命が無駄になっちまう。
だったら俺はただの獣になっちまう――それは嫌だ。
俺は美食屋なんだ――食を追い求めるんだ。
「あああああああああああああああああああああああ」
突き進むトリコの肩に触手は抉りこみ続ける。
進めば進むほど傷が深くなりトリコ自身の負担になる。
じりじり、じりじりと。
音を立てながらもトリコは止まらない――引けない。
やがて絶影に迫りその脳天に喰らいつこうとするが――。
「させるかァ!」
触手を上昇させてトリコを宙に固定させる。
しかし追撃の手が無いためそれだけで終わってしまう――いや違う。
急降下させて大地に叩きつければ衝撃が走るが触手が動かない。
それは疲れによるものではない。
トリコが触手を握りこみその行動を押さえ込んでいたのだ。
「捕まえた……つかまえたつかまえたつかまえたぁぁぁぁぁ」
呟きながら握る拳を徐々に強くしていく。
その感覚がフィードバックされ劉鳳の顔に痛みが浮き上がる。
やがて触手は虚しくも砕け散る――トリコは笑い右手を振り上げる。
「フォーク……まずはその脳天から出る汁を吸わせてもらう……ジュルル」
突き出される右手を食事のファーストコンタクト。
生の食材は早くしないと傷んでしまう。
その点で劉鳳は自然に血抜きされている時点では大丈夫で問題はない。
だが劉鳳の生命そのものが危うい状態であり鮮度が落ち続ける。
それならさっさと喰らおう。もたもたしてるとカズマが飛んできちまう。
現に俺の瞳の隅に飛んでくるカズマが写っているからな。
(俺はここで終わり……なのか……)
もう限界だ。
いや限界など超えていた。
もう血は出ない。すべて流れでた。
立つことなど不能。意識があるだけ奇跡。
もう十分だ。突然の戦いでも彼は頑張った。称賛しよう。
後は誰か、カズマ辺りが仇を取るだろう――だから君はもう眠っていいんだ。
(そんな事が許されるハズがない……そうだろカズマ)
誰がいつそんなことを言った。
俺がいつそんな軟弱な意思を吐き出した。
俺の信念が腐る時は死ぬ時と同義だ。
なら俺はまだ死んでいない――!
この世から悪を断罪するまで倒れるわけにいかん。
信念を見せつけろ、アルターは精神の表れ、意志の強さ。
俺の全てを――全開に。
【立てよ劉鳳!新隊長がそんなんじゃ隊員は着いて来ないぞ!】
【君の姿は最高に輝いているんだ……父さんが望んだように!】
(瓜実、イーリャン……そうか俺はまだ戦える)
【貴方の意地を見せて下さい……ここは引く場面じゃない、そうでしょう?】
(橘か。ああそうだ、俺は前に進み続けなければ行かない)
【劉鳳!みのりさんを悲しませるな!お前の速さを!強さはどうした!】
(水守だ……いやお前は理解しているか……俺はまだ死んじゃいない)
【分かってればいいんだ。その道を最速で進み続けろ……そして帰って来い】
【負けないで!劉鳳さん!!】
【必ず帰ってきて……私は信じている、劉鳳!!】
(かなみと水守……ああ信じていろ俺は必ず……!)
【何強がってんの劉鳳】
(シェリス!?そうか……お前も)
【貴方の体はもう持たない。それは劉鳳が一番理解しているでしょ?】
(……そうか。そうだな。ああそのとおりだ)
【でもこのまま終わる気は無い】
(すまないシェリス……この生命がもう一度終わってしまうかもしれない)
【なに弱気になってるの!大丈夫だよその生命は貴方のもの。自由に使っていいんだよ】
(すまない……なら最後まで俺に力を貸してくれるか――シェリス)
【喜んで――貴方の正義の礎となります――】
『俺の証を貴様に刻み込む!!』
両目を見開き断罪の対象を捉え逃さない。
脚を広げ、構え、体制を整える。
右手を払いのける。軟弱な意思と共に。
弱い一撃では悪鬼に届かない。
具現化するはもっと鋭く、鋭利な一撃。
相手の心の臓を止められるような一撃を。
俺は一人で立っている訳ではない――背中には仲間の意思が宿っている。
「絶影!!……俺に力を貸してくれ!!奴を断罪するために!!」
全て持てる物を賭けたアルターの再構成。
無理矢理にでも物質を削りとりその姿を具現化させる。
出来るだけ密度に、出来るだけ形に。
鎧の様な力は残っていない――その分右手に集める。
右手一つに己の全てを宿す――。
「そんな右腕一つで……5連……!!」
「これが小さく見えるとは貴様の瞳は腐っているのか」
大切なのは大きさや見た目ではない。
中身だ。魂に眠る心が――信念だ。
それを感じ取れない奴にこの一撃を防げるはずがない。
この想いを笑う資格など無い。
「俺の正義が、意思が、信念が!!貴様を切り裂く一撃となる!!
俺の全てを――俺に関わってくれた全ての意思を宿せ貴様を断罪する!!」
気迫。
死にかけの、最早死と変わらない劉鳳が魅せる己の意思。
それはトリコにも響き渡る。
これが正義、その身を犠牲にしても悪を倒す正義の姿。
舐めて掛かるのは礼儀に反する。こちらがやられちまう。
「プラス10連だ……!!」
力の上乗せ。
劉鳳の意思が、例え手負いであろうと牙を剥くその姿は野生をも凌駕する。
そうだこれが正義だ、漢だ、劉鳳だ。
その一撃が拾伍の衝撃で抑えれるはずがない。
全開の一撃――文字通り全てを賭けた一撃はトリコに突き刺さる。
彼の全てを乗せた一撃は悪鬼の心臓を捕らえる。
その一撃は深く、そう深く突き刺さり――。
「俺の正義は証明されたのか……?」
「心配すんな、後は俺に任せろ……シェルブリッドのカズマに」
劉鳳が刺したのは心臓。
消化の終わっていなかったサニーの心臓。
トリコの命を削るが其の物事態は健在。
しかし無駄ではない。確実にトリコの生命を削った。
だから後は任せればい――
「ああ……任せてみるのも悪くないかもしれない……シェルブリッドのカズマに」
「――あいよ」
想いを乗せたシェルブリッドは全てを開放し黄金に輝く。
そうこの光こそがカズマだ。
邪魔な壁は殴って壊せばいい――そうして生きてきた。
バトルロワイアルでも変わることのない己の生き様。
「さっきの――こいつの分も返してやる!!」
「おもしれえ!!来いよ!カズマァ!お前の力を!!20連……!!」
こいつは俺と似ている。
人間ながらもその目は獣其の物だ。
己の生き様に嘘はなくそれを最後まで貫く信念がある。
俺ももしかしたらこうなっていたのかもな――
「釘パンチ!!!!」
「20じゃ足りねえよ!この光は!この輝きを止めるにはよぉ!!
シェルブリッドバーストだ!!その身に刻めええええええええええええええ!!!!!」
黄金に輝く拳は二十の釘では止まらない。
漢は何かを守る時、何かを託された特その力は通常時を遥かに上回る。
この光を止めたいのならもっとだ。足りない。
カズマの道にある壁など些細な存在にすぎない。
「や……やるじゃねえか、シェルブリッド……効いたぜ」
再び大地に堕ちるトリコ。
二十の衝撃ではシェルブリッドを削り取ることしか出来ない。それも些細な。
「でもな……お前の腕……使い物に何ねーよ!!レッグナイフだ!!斬れろやああああ!!」
「ぐぉああああああああああ!!」
カズマとて限界に来ている。
シェルブリッドの使いすぎで消耗が激しい。
最早最終形態にも変化できないほどのダメージ。
その腕から悲鳴が聞こえ更に斬り込みが入り鮮血が飛ぶ。
「聞け……カズマ」
「な、何だよ?今テメェに構ってる暇なんか――」
「俺をアルター化しろ――そして奴を砕け」
「アンタ――何を」
「その通りだ。お前もシェリスの事を覚えているか?似たような物だ」
「ああ!?それとは全然違うだろ!」
「ならあいつに勝てるのか?」
黙るカズマ。
反逆者と言えど事態は重すぎた。
カズマが知りうる最強の二人が掛かってこの事態だ。助けなんて甘い幻想は抱けない。
「やれ……このままでは性に合わん」
「……知らねえからな」
故にわかってしまうのだ。
勝つには相手を超える全開の一撃を、己自信が全開にならなくてはいけない。
そのためにはアルターが必要不可欠。
そして同じ強者の劉鳳を媒体にすることで全開の境地に辿り着ける。
カズマはそれでも行わなければならない。
ここで引くのは優しい気持ちを持った物ではない、偽善者だ。
劉鳳が決意した。それを否定するなんて漢じゃない。
何だこの感情は。
こいつは気に食わねえ奴だ――でもよ。
溢れ出る感情に流される――不器用な漢。
トリコは再度肉団子を食べ傷を修復する。
その際に名簿が飛び出て風で劉鳳の前に堕ちる。
「これは……垣根、ベジータ、勇次郎、独歩、テリー……?」
「あん?ヴィータ、正宗、上条当麻……こいつらは」
何故だろうか。
知らない名前なのに――どこか懐かしい。
トリコもそうだった。初めて会った気がしないのだ。
「……始めるぜ劉鳳」
そんなことは今関係無い。
決意を決めた漢二人が行う死別の儀。
アルターの粒子が徐々に劉鳳の体を削り取る。
「なあカズマ」
「なんだよ」
「HOLYを頼む。クーガーや橘を呼び戻して俺の穴を塞いでほしい」
「知るか!俺がテメェの頼みを聞くとおもうか?テメェでやれ!!」
「フ……無茶を言う男だ……もう一ついいか」
「聞くだけならな」
「俺の正義は正しかったか……?」
「当たり前だシェルブリッドのカズマが保証してやるよ」
そうか、それはよかった。
最後にそう呟くと劉鳳の体全てがアルター粒子体へと変化する。
笑顔でこの世を去った劉鳳。
このバトルロワイアルにその姿は残らない。
だが。
彼の意思は受け継がれた――シェルブリッドのカズマに。
「もう準備はいいかい?カズマ」
「テメェは殺す――何が何でもな!」
それでも漢は涙を見せない。
かつての友はもういない。
あの姿も声も戦いも何もかもが虚無へと去る。
だがあいつの意思は俺のアルターに受け継がれた。
黄金ではなく――白銀。
絶影を連想させるカラーリングのシェルブリッドだ。
劉鳳を媒介にしたカズマの、劉鳳の全開。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
全開に――この一撃を全開に。
カズマの右腕がこれまでにないほどの輝きを魅せる。
全てをこの一撃で終わらすために、あいつのために。
余力など残さない。
「100連……!!!!!」
ならこっちも全開だ。
肥大させた筋肉は最早人間の腕ではない。
地上最強の生物やサイヤ人を超す――巨人のような右腕。
「この光は!この輝きは!!」
「釘ッパンチィッッッ!!!!!!!!!!!!」
天高く上がる拳の輝きは太陽の輝きをも凌駕する。
それもそのはず。
カズマの、劉鳳の輝きが太陽に負ける必要がどこにあるのか。
「行こうぜえええええええ劉鳳!!これは俺とテメェの輝きだああああああああああああああ!!!!!」
失うものなど無い。
得るものなど無い。
在るとすれば漢が生きた証を刻みこむだけ――
「絶影のシェルブリッドだああああああああああああ!!!!!!」
その一撃は釘パンチの衝撃を片っ端から削っていく。
抑えられない。トリコは本能で感じてしまう。
野生が怖気着いた時、それは敗北を意味する。
「もっとだ!もっと全開に輝けえええええええええええ!!!!」
「負けて……死ぬのは嫌なんだあああああああああああああ!!!!!」
やがて全てが光に包み込まれ世界の終わりを告げる――――――――――
【劉鳳@スクライド 死亡】
瞳に映るは天高く大地を照りあげる太陽とどこまでも広がる蒼い空。
そうか俺は勝ったのか。
全開のぶつかり合いは一人の漢に軍配が上がった。
だが代償は大きく立ち上がる気力も残っていない。
敗者は残ろず死者もいない。ここにいるのは傷ついた戦士一人だけ。
誰にも声を掛けられること無く時間だけが過ぎていく。
どれくらい寝ていたのか。
気づいたらこの有様だ。
戦闘音は聞こえるが――ここには関係無いみたいだ。
残った勝者は拳を上げて握りこむ。
俺が勝った。
己の身に刻み込み実感に浸る。
そして残るのは虚ろな感情。
失うものが多すぎたのだ。
でもこんな所で立ち止まっているわけにはいかない。
残された者はその瞳で前を見つめ前進しなければならない。
でも――――――
「少し夢でも――」
疲れた戦士には休息が必要だ。
右も左も分からないが戦闘は続いている。
その中を勝ち抜くためにもここは体力を回復しておきたい。
だから少しでも――夢を見ても――。
そして告げられるは最後の衝撃――
百回目の釘パンチはカズマの体に止めを刺した――――――。
「お前は最強の漢だ――シェルブリッドのカズマ」
伏した体を見下す勝者トリコ。
最後の最後に立ち上がった強者。
カズマと劉鳳の意地は99の意地を削りとったが後一歩だ。一撃が足りなかった。
「俺が戦ったどんな奴よりも――最強だった」
トミーロッド、スタージュン、サニー、ピクル……。
数々の強敵を遥かに上回るパワー。
そして何事にも反逆する強い意思は紛れもない全開の証。
「だから敬意を表して――」
だからこそ俺はやる。
こんな漢をそのままにしとく事は漢じゃない。
あるべき姿に戻してやる。
それが勝者の使命だ。
腹の音がエリアに響きわたる。
圧倒的カロリーの消費。戦闘でほとんど使い切ってしまった。
特性人肉団子も残り一つで無駄遣いはできない。
だから――――――。
「これを喰らえ――そして生きろ」
その口に唯一の
支給品を放り込む。
名を仙豆。最強の食材を口に――。
「俺の人間としての最後の役目だ――」
そうして去る。
ここにいる必要はない。
次の獲物を見つけに行くだけだ。
何故こんなことをしたか?
それは簡単だ。
この漢はもっと美味くなる――その時まで待てばいい――
【G-2 ホテル前/1日目・昼】
【トリコ@トリコ】
【状態】 喰人状態、グルメ細胞活発状態、狂気に満ち溢れている、カロリー消費(大)、ダメージ(大)
【装備】
【持ち物】 特性人肉団子
【思考】 全てを喰らう。慈悲はもう無い
【備考】
※放送を聞き逃しました
※ベイの挑発は聞いてなかったようです
※聞き逃した情報を聞きました
※人を喰らった事により喰人状態になりました。人を見たら捕食します
※ゾロ、グリンバーチ、クロコダイル、アミバ、ゆり、ダークプリキュア、サウザーを喰らいました
※喰らいによりスナスナの実の能力を使えるようになりましたが泳げますよ。
※サニー、ピクル、秀吉を喰らいました
※狂気に満ち溢れ正しい判断ができません
【カズマ@スクライド】
【状態】気絶、仙豆により回復中
【装備】
【思考】気絶
【備考】
※絶影のシェルブリッドを習得しました。
最終更新:2014年12月31日 22:15