お香について

「線香は臭いから嫌です」と言われて困ったことが何度かあります。
ここではお香について1から説明します。

毎日香や青雲のような一般家庭向けのお香について

お香とはもともと沈香(じんこう)や白檀(びゃくだん)などの特定の香木のことです(仏事には用いませんが動物性のお香もあります)。しかし乱獲によって激減し量が入らず、価格も高騰する一方です。

そこでお香メーカーは日本全国のお仏檀で毎日お供えするのに耐えうる、大量生産ができ、低価格の製品開発を求められることとなりました。その結果、日本でも広く生育するタブノキから作った言わば『代用品』が開発されました。それがご家庭で定番の線香です。箱の裏をご覧ください。原材料の最初に「タブノキの粉」と書いてあります。

このタブノキの線香の香が好きになれないからお香は嫌いだ!という理屈は代用コーヒーを飲んで「コーヒーなどつまらん!」と決めつけるのと同じです。このような誤解はとても残念であり、タブノキだけにタブーです。

東大寺正倉院に秘蔵される蘭奢待(らんじゃたい)という香木は足利義満や織田信長ら6人しか削り取られたことがなく、一城にも勝る価値があります。お香と一言に言ってもピンキリなのです。
Amazonで同じメーカーのお香を比較
毎日香は295gの徳用で千円前後ですが…
こちらの沈香(極品)はたった30gで約5万円!!
こんなに違いますが、
これでもまだまだ序の口です

お香の魅力

お香の魅力はやはり第一に香りです。しかし、花の香りや芳香剤のように「あ、いい匂い!」というものとは一線を画します。特に仏事で用いるものとしては瞑想効果やリラクゼーション効果があり、心が落ち着き健康になるという意味で『良い香り』と言うべきです。お香から立ち上る煙をながめることも同様です。もっとも最近はコーヒーの香りのお香や、雨の香り、バラの香り、果てはシャネルの香など色とりどりなお香が販売されており、より多彩な楽しみ方ができます。

生活に根付いたお香

玄奘三蔵(げんじょうさんぞう)と香炉

wikipediaより
クリックで拡大
ボール型の香炉「香球」で
遊んでいたヒロイン

岡野玲子画,夢枕獏原作
『陰陽師』3巻,白泉社
現代の香球

転載元はこちら

お香は本来、辛気臭い仏事の道具ではありません。そのような認識は数万年ある世界の人類史上で、20世紀後半から今にかけての日本にしか存在しません。
西洋でもイエス=キリストの生誕を祝して訪れた「東方の三博士」の贈り物が乳香(にゅうこう)、没薬(もつやく)、黄金でした。このうち乳香と没薬はお香であり、お香が誕生祝の品として贈られていました。

西遊記のモデルになった玄奘三蔵(げんじょうさんぞう)の絵をご覧ください。背中に背負っているのは天竺から持ち帰った数々の経典ですが、そこから頭の前に何かぶら下がっています。これは香炉です。長旅による体臭や口臭の対策として香水やブレスケアのような感覚で用いられていたことが分かります。
日本でも清少納言の『枕草子』第29段に「胸がときめくもの(中略)髪を洗い、お化粧をして、お香をよくたき込んで染み込ませた着物を着る。そんな時は見てくれる人がいなくても、心の中は晴れ晴れとして良い感じ」(頭洗ひ化粧して、香にしみたる衣著たる。殊に見る人なき所にても、心のうちはなほをかし)とあり、オシャレの一環でした。

お寺のお香

乱獲は環境問題ですので、タブノキの線香は避けられないものがあります。善昌寺でも数を使う場合はタブノキの線香を使いますが、本尊さまに毎日お供えするお線香は良いものを上げています。法事や棚経のお線香もわりと良いものです。また、お葬式や宅の法事で導師が焼香するお香は、ひいきの仏具屋さんから取り寄せた沈香等の原木をきざんで焚いています。

より良いお香を体験するには

仏具屋さんのみならず、東急ハンズや無印良品のようなインテリアや雑貨を扱うお店で様々なお香が売られています。上下町でも指物濱一(旧岡田タンス店)で気軽に楽しめるものから本格的なものまで購入できます。松栄堂山田松香木店のような専門店からお求めになることもできます。
ただし、あまりファッション的なお香、奇抜なお香、アロマや癒し系のお香は個人的に楽しんだり、ごく親しい故人へのお供えにするのは結構ですが、公の場では遠慮すべきでしょう。そのような場ではやはり一定の地位を築いている毎日香や青雲のようなベストセラー商品が使いやすく無難です。

善昌寺の寺紋「八つ丁子」

八つ丁子の紋
クローブのつぼみ

転載元はこちら
加工されたクローブ

転載元はこちら
丁子(チョウジ)とは香辛料でいうクローブのことです。葉や花のつぼみに香りがあります。八つ丁子の紋は花のつぼみであり、漢方薬にもなっています。
最終更新:2016年09月08日 15:05