鑑別診断

ALSには様々な類似疾患が存在し、診断の際にはこれらを除外することが重要となる。
日本神経学会が出しているALS治療ガイドライン2002の中では、「症候から筋萎縮性側索硬化症と鑑別診断が必要な病態」として様々な疾患が挙げられている。
以下に代表的な疾患とその簡単な概要を列挙した。
1)脳梗塞
2)脳腫瘍
3)球脊髄性筋萎縮症Kennedy-Alter-Sung病
4)平山病(若年性一側上肢筋萎縮症)
5)慢性炎症性脱髄性多発根神経炎
6)Lewis-Sumner病(Multifocal motor neuropathy with conduction block)
7)頸椎症性脊髄症(cervical spondylotic myelopathy)
8)多発性硬化症(multiple sclerosis)
9)脊髄性進行性筋萎縮症(spinal progressive muscular atrophy;SPMA)


脳梗塞

脳血管障害のひとつ。脳の血管が詰まることで血液が流れなくなるため、その先の脳細胞に酸素や栄養素が届かず脳細胞が壊死する。

脳梗塞の症状は、以下のようになっており、これらが突然、あるいは少しずつ進行する。
― 手足の片麻痺
― ろれつが回らなくなったり言葉がうまく出なくなる
― まっすぐ歩けなくなる
― ぼんやりする

脳梗塞は頭部MRIやCTで病変部を確認することができる。


脳腫瘍

脳にできる腫瘍。様々な種類があり、色々な部位に発生するため症状も一様ではない。発生部位によって局所症状として視野欠損や難聴、運動麻痺、言語障害などを伴うことがある。

これも、頭部MRIやCTなどの画像で確認することができるものが多い。


球脊髄性筋萎縮症(SBMA:spinobulbar muscular atrophy)

Kennedy-Alter-Sung病

通常成人男性に発症する、遺伝性下位運動ニューロン疾患。
主症状として以下が挙げられる。
―四肢近位部優位の筋力低下、筋萎縮
―球麻痺(顔面、舌の筋力低下、筋萎縮など)
また、女性化乳房など軽度のアンドロゲン不全症や耐糖能異常、高脂血症などを合併することもある。上位運動ニューロン徴候はみられない。

本症の臨床診断は、遺伝歴が明確で、特徴的な神経筋症候及び、女性化徴候を呈していれば比較的容易であるが、これらが不明瞭で鑑別診断が困難な場合も少なくない。血液検査でのCK高値、筋電図での高振幅電位などの神経原性変化、あるいは筋生検での慢性の神経原性などの検査所見が診断の参考となる。
確定診断のためには、遺伝子診断によりアンドロゲン受容体遺伝子内CAGリピート数の異常伸長の有無を調べることが必要となる。
http://www.nanbyou.or.jp/sikkan/017_i.htm参考)


平山病(若年性一側上肢筋萎縮症))

20 歳前後の若い男性に多く,前腕,手の筋萎縮,姿勢時振戦をみる。
数年で進行は停止する。頸部過屈曲の反復による下部頸髄の微小外
傷による良性の病態と考えられる。
http://www.neurology-jp.org/guidelinem/neuro/als/als_03.pdf参考)


慢性炎症性脱髄性多発根神経炎

(CIDP:chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy)

対称性に運動、感覚が侵される多発性根神経炎で、上下肢の遠位部または近位部に脱力と感覚障害が起こる。
症状としては、以下のようになる。
―四肢の健反射の消失あるいは低下
―左右対称性の手足の脱力や筋力低下
  ― 足に力が入らなく、転びやすい
  ― 手の脱力のため物をうまくつかめない
―感覚障害
  ― 手足のしびれ
  ― ピリピリする痛み
時に脳神経も障害され、舌・咽頭節麻痺、顔面節麻痺、ごく稀に呼吸麻痺がおこることもある。

検査所見としては、下記のようになる。
脳脊髄液(CSF):軽度の蛋白増加を認め、時に軽度のリンパ球増加を伴うこともある。
電気生理学的検査:運動神経の伝導速度の遅延がある。
神経生検:炎症細胞浸潤と脱髄、オニオンバルブ形成、軸索変性が見られる。

ALSでは感覚障害は通常起こらないため、鑑別診断の際に重要な所見となる。また、伝導速度の遅延もALSでは起こらない。


Lewis-Sumner病

(Multifocal motor neuropathy with conduction block)

全身の末梢神経が慢性的に障害され、進行性に筋力低下が進行する疾患。
CIDPと異なり、感覚障害を生じないのが特徴で、ALSと非常に良く似ているが、ALSと異なり、髄液検査でタンパクの上昇、神経伝導速度検査でconduction blockなどの特徴的な異常を認める。
また、免疫グロブリン大量療法、免疫吸着療法などの治療が行われる。


頸椎症性脊髄症(cervical spondylotic myelopathy)

頸椎の変形(頸椎症)に伴い、変形した骨や軟骨が脊髄を圧迫し、ALSと同様に四肢の筋力低下などをきたす。
ALSに比較し、しびれなどの感覚障害、膀胱直腸障害(尿や便がでにくいなど)を伴う場合が多いのが一般的。逆に、顔面や首の筋力低下や嚥下障害、呼吸機能障害を認めることはほとんどない。
画像診断が有効で、頸椎MRIで、頸髄の圧迫・変性が認められることにより診断される。
治療として椎弓形成術などの手術を行う。


多発性硬化症(multiple sclerosis)

中枢神経系の慢性炎症性脱髄疾患。白質に多数の脱髄巣が散在し、グリア線維の増加が見られ、瘢痕・硬化する疾患である。原因は不明。増悪と寛解を繰り返すのが特徴。
北方の寒冷地に頻度が高い。また、欧米では高く、アジア諸国では比較的低い頻度となっている。
主な症状に以下がある。
―眼症状
  ―視力低下
  ―複視(MLF症候群)
―脳神経症状・脳幹症候
  ―顔面神経麻痺
  ―三叉神経痛
  ―眼球運動障害(Ⅲ、Ⅳ、Ⅵの障害)
  ―眼振(注視性)
  ―構音障害
  ―嚥下障害
―小脳症状
―脊髄症状
  ―感覚障害・・・後索障害、錯感覚、しびれ感
  ―運動障害・・・四肢の痙性麻痺、筋力低下、錐体路障害
―精神症状
―膀胱直腸障害

診断ではMRIが非常に有用で、脳に多数の斑状の所見が見られる。脊髄でも同様に斑状病変が見られる。また、髄液検査では、急性期にはリンパ球増加、蛋白質の軽度増加が見られる。


脊髄性進行性筋萎縮症(spinal progressive muscular atrophy;SPMA)

脊髄の前角細胞の変性による筋萎縮と進行性筋力低下を特徴とする下位運動ニューロン病である。ALSと異なり、下位運動ニューロン障害のみが見られる。
主な相違点としては、
―球麻痺を欠く
―発症年齢が比較的早い
―進行が緩徐


最終更新:2010年05月09日 22:52