南東の探索者

 パルエ暦701年。
 パルエ人類による旧兵器からの独立、通称"目覚め作戦"は成功裏に終わった。
 しかし大半の旧兵器が駆逐され、解放された南東地域をどうするかは、連盟諸国の議論の的となっていた。
 広大な旧時代の遺構と密林に現地住民が点在しているだけで、尚且つ未だ地上に多数の旧兵器が残るこの地域は、暫定的に"連盟委任統治領"と決定された。
 しかし目覚め作戦に伴って即席調査された地域を除けば、開拓はおろか地図作成すらほとんどできておらず、国家統治など夢のまた夢である。連盟はなんとか数カ所に開拓前哨地を置いただけで力尽きた。
 彼らの支配の及ばない都市や地域にいるのは、今や土着民族や旧兵器だけではない。従来の国家組織からの自由を目指した大陸中のパルエ人が、南東地域を目指して集まって様々な目的を持った組織を生み出していた。
 パルエ人が現代的な文明開化を成し遂げ、宇宙開発で「星の外側」に版図を広げる国家戦略が生まれるのは、この時代からまだしばらく先の話である。
 これは混沌と熱狂の大陸南東開拓譚。
 利害関係のつばぜり合いと権謀術数は、前軌道時代パルエのグランドフィナーレだ。





 今日は陰鬱な天気だ。
 空はこんなにも曇っているのに、恵みの雨は降って来ない。湿気が多く、この時期としてはだいぶ蒸し暑い。
 空の光が雲に遮られているのを受け、自分が今いる鬱蒼とした森はさらに薄暗くなっている。何かが出てきそうだった。
 幸いにもその森の間を通るように、いつの時代に作られたか分からない舗装路が通っている。この周辺は木々が切り分けられている為、周りより比較的明るかった。
 だが道はひび割れが多く、何処かが陥没しそうな不安を感じさせる。だが自分たちならず者の探索者は、この危ない道を不安を押し除けて通るしかなかった。

「収穫は無し、か──」

 この道を徒歩で歩きつつ、今日の探索結果を言い表してみる。今日一日費やした探索を体現する言葉としては、あまりよろしくない。
 この場所──パンゲア大陸南東新地域──では、旧時代の遺物や金品などを売り払う稼ぎが重要だ。養ってくれる人も居なければ、支えてくれる公的機関もない。
 これが新人探索者ならばベテランから多少恵みを分けてくれただろうが、自分は新人と呼ばれるには少し長く居過ぎた。

──自分でやれ、自分で工面し、自分で生活しろ。

 ある意味、最も積極的な自立と言えるだろう。ここでは金や金になる物を持っていない弱者を待つのは"死"のみであり、弱肉強食である。
 現代社会でこんな厳しい場所は存在し得ないが、無政府状態で長年曲り通っていたここ南東地域では、生活事情の大半は助けのないその日暮らしである。
 自分もいつか陥没しそうなこの道を進み、今日の稼ぎを得るべく探索を続けていた。

「ピューイ……」
「分かってるよ、お前の分はきちんと工面するさ」

 パックパックの中で動く、相棒クルカの寂しげな声を一言で慰める。
 コイツはこの南東地域で拾った野良クルカであったが、自分を親だと思って着いて来たのと、他のクルカと違って贅沢を言わないのを受け、相棒として飼い始めた奴だ。身体には遠隔カメラが付いているので、気付かれずに偵察もできるので重宝している。
 自分は歩みを進める中、時折周囲を見渡し、危険な旧兵器の生き残りがいないかを確かめながら歩みを進める。厄介で稼ぎにならない原生生物もこの辺りに出没するので、決して油断はできない。
 ふと、何かの音がパラパラと遠くに聞こえたので立ち止まった。断続的に乾いた音が聞こえ、周辺の森を騒がしくしている。

──これは……銃声だ。

 自分は警戒を敷き、手に持ったPDWの安全装置を解除する。

「ピュイ……?」
「静かに。巻き込まれたくなければな」

 どこかの探索者が戦闘を行なっているのか、それとも競合他者に襲われているのか、どちらかは定かではない。だが自分も巻き込まれる可能性はあった。
 何が起こっているのかを確かめるべく、持っていた無線器のダイヤルを回し、周波数を調節し周囲の無線を拾おうとした。
 すると、ある周波数帯から悲痛な声が聞こえ始め、静寂を破った。

『おい!誰が聞こえているか!バンディット共に襲われている!助けてくれ!』

 声の焦り具合からして、どうやら襲われている側の探索者からの救援要請の様だった。賊党、"バンディット"と呼ばれる略奪者集団に襲われているようだが、銃声の数を聞き分けると、どうやら劣勢側は探索者側のようだ。
 どうするべきか、助けるべきか、迷うより先に自分は通信器のインカムを弄り、救援を要請した探索者に声をかける。もしかしたら忙しくて反応できないかもしれないが、場所だけは聞きたい。

「聞こえているぞ。お前らは何処にいる?」
『ああ、繋がった!俺たちは鉄橋から南に300mの廃屋にいる!相手はバンディット共だ!人数は分からん!』

 周りを見る。
 ここから左手の方向に旧時代に造られた鉄橋が見え、その南の方角から銃声が聞こえていた。だが人数が分からない以上、闇雲に助けに行くのは危険だった。

「なんか情報をくれ……助けるに助けられんぞ」
『気をつけてくれ、バンディットには強力なヤツがいる!俺たちじゃ太刀打ちできねぇ!俺たちはコンテナに隠れてる!このまま通信を終える、オーバー!』
「お、おい!……強力なヤツってなんだよ?」

 それを聞くより前に通信を切られてしまった。どうやら探索者におけるイロハをあまり知らない、新米探索者とも感じ取れる。
 だがこの時の自分は、考えるより先に彼らを助ける方向で確定していた。別に見捨てても良かったが、自分の良心によって妨げられたのかもしれない。

「ピュイ!!」
「分かってる!ったく、どうなっても知らんぞ……」

 それを意識し、誰に言うでもなく吐き捨てると、鉄橋の方向へ駆け出していた。
 しばらく走って、鉄橋をクリアリングしながら急いで現場に向かう。銃声の数が段々と少なくなっており、戦闘が終焉しつつあった。
 鉄橋を越え、廃屋の近くにまで駆けつけ、近くの瓦礫に身を潜める。

「よし、行ってこい」
「ピュイ!」

 偵察カメラを付けた相棒クルカを放ち、偵察を敢行する。相棒クルカは瓦礫の上から地面に降りて、目線の様子を端末に送信する。
 カメラの映像には、廃屋の庭の軒先に一つのコンテナが鎮座していた。それが当該の探索者達が、慌てて隠れたコンテナと言えるだろう。
 その周辺をガラの悪そうなバンディット共が取り囲んでおり、コンテナを開けろ開けろと叫んだり、扉を叩いたりしている。
 自分はその間に、バンディット達の武装、人数などを確かめた。

「バンディットが6人、全員武器は自動小銃……いや待て」

 その6人のバンディット共の後ろから、ふわりふわりと宙に浮く金属の塊が見えた。
 形は翼を広げた様な形状で、その中心部は目の様な部品があり赤く光っている。地面には設置しておらず、宙に浮いている。これが該当するのは、古代パルエ人類が残した大昔の遺産……

「ノル型旧兵器だと……!?」

 数ある旧兵器の中でも、斥候の役割を果たす小型旧兵器。それがノル型旧兵器である。
 一つ目のようなセンサーを持ち合わせ、宙に浮き、敵と判断された対象者をレーザーで焼き切る。旧兵器の中では雑多な部類に入るが、それでも探索者一人にとっては強力な旧兵器と言えよう。

「ピューイ!」
「おかえり。しかし厄介だな……」

 敵情の把握を終えた相棒クルカが帰って来たのを確認し、情報を整理する。
 敵のバンディットは6人で、武装は自動小銃が数挺ほど持っていた。装備面では全員防弾チョッキどころかヘルメットも被っておらず、簡単に制圧できそうだ。
 問題は、あのノル型旧兵器の存在であろう。

「なんでノル型がバンディット共の味方をしているんだよ……?」

 疑問は尽きない。そもそも旧兵器が人間の味方をするなど、例外を除くと"あり得ない"と言える。ましてや、その"例外"をバンディット共が持ち合わせているとは思えない。
 助けようにも、旧兵器が厄介なことには代わりない。まず自分は通信器のインカムを弄り、コンテナの中にいる探索者達に救援に駆けつけたことを報告した。

「おい、聞こえるか?お前たちはコンテナの中にいるんだよな?」
『あ、ああ!聞こえる!周りを取り囲まれて、とても出られたもんじゃない。しかもあのボロ旧兵器が居る……このままだとコンテナごとズタズタにされる……!』
「まずは落ち着け……見たところ、バンディット共のノル型はお前たちを触手で切り裂くつもりはないようだ。代わりにバンディット共が苛立っている」

 自分はバンディット共を観察して得た情報を、コンテナの中に居る探索者に伝え、なるべく冷静になるように伝える。
 実際、バンディット共は何かの端末を弄ってノル型に指示を出そうとしているが、通じていない様である。次第に苛立っているのか、味方のはずのノル型に唾を吐きかけたのも確認できた。

「どうやらバンディット共はノル型に細かい指示を出せないようだ。その間になんとかする」
『だ、だが……お前は見たところ単独だろ?助けが来るまで待てって言うのか……?』
「……ノル型さえどうにかすれば、後は問題ない。お前らは落ち着いてそこにいろ、良いな?」

 自分は野戦戦闘服において、腰あたりにある入れ物のボタンを開き、中から円筒状の物体を取り出す。
 コイツはたまたま拾った物であるが、売りに出すより持っておいた方がいいと思い、そのままにしていたEMP手榴弾だ。こういう場合の旧兵器相手には、一番もってこいな武装と言える。
 だがいかんせん、貴重な代物なので今まで取っておいていた。ここで使うのは忍びないが、他に打開策はない。

「……頼むから利益分は出てきてくれよ」

 念じながらそれを物陰から投げ、それは放物線を描いて飛んでいく。そして、コンテナの前に落ちてコロコロと転がると、中に入ったEMPを撒き散らした。

「ッ!!」

 吐き出されたEMPは、空中に浮いていたノル型旧兵器の回路を焼き切り、ついでにバンディット共の通信機なども一時的に遮断した。
 明確な攻撃と、撒き散らされたスパークにバンディット共が驚いているその隙に、自分は物陰から飛び出しPDWを発砲。旧兵器はあれでしばらく動かないので、バンディットの一人を狙う。
 バースト制御で放たれた弾丸は、こちらを見ていなかったバンディットの頭部に命中。その脳髄の神経を切り裂き、立つ力を削ぎ落す。バンディットは力なく地面に倒れた。
 その銃声によってこちらに気がついたのか、一人のバンディットが対応するべく銃を構えようとする。だがその前に胸の辺りに発砲、心臓に弾丸を叩き込んで無力化。
 残りの一人はこちらに銃を構えるまで至ったが、その弾丸は見当違いの方向に向けられ、自分は正確な弾丸を腹の辺りに叩き込んだ。
 結果、相手に発砲されるより前に3人と旧兵器一体を無力化。流石に相手も発砲に気がついたのか、リーダー格が指示を出す。

「敵だ!裏に隠れろ!!」

 自分は相手の銃弾を避けるべく、旧時代の乗用車の瓦礫に素早く身を隠す。
 先ほど使ったマガジンを抜き取り、手際よく再装填。そして再び懐の入れ物から物を取り出し、それをコンテナの裏側へ向け放り投げた。
 それがコロコロと音を立てて転がると、バンディットらは一気に青ざめ叫び散らかした。

「し、手榴弾!!」

 それが爆発するより前に、バンディットらは急いでコンテナの陰から飛び出し、手榴弾の爆発から身を隠そうとする。
 自分はそれを狙って、飛び出してきた二人のバンディットに向けPDWを発砲。3発を指切りで制御するバースト射撃により、瞬く間に二人が無力化された。
 しかし、爆発はしない。
 そしてまだ、終わりじゃない。

「くそっ!くそっ!来るなら来い!」

 リーダー格のバンディットが叫ぶ。
 その声を頼りに位置を特定し、自分は最後の一人を無力化するべく動く。まだ無力化した旧兵器が再起動しないのを同時に確認し、コンテナの裏へ向け歩み隠れた。
 コンテナの裏手で待ち構え、残り一人のバンディットの様子を探る。コンテナから顔だけ飛び出させ、様子を確認しようとしたが……

「くたばれ!!」
「ッ!」

 すぐさま顔をコンテナの影に隠し、発砲された弾丸を寸前で回避した。コンテナの角で弾丸が跳弾し、火花が飛び散る。
 このまま飛び出すのは危険だ、どうしようかと思ったその時に、リーダー格バンディットに対して横から黒い影が飛び付いた。

「ピューイ!」
「ぐわっ!?なんだ!?」

 彼が驚きの声を上げ、顔に対して相棒クルカが飛び掛かる。それにより視界が塞がれ、バンディットは混乱したのか手に持った自動小銃を乱射した。
 そんな中、自分は相棒が作り出したチャンスを無駄にしない様、駆け出した。リーダー格に対応する暇も与えず、自分は拳銃を抜き取り、足に二発発砲する。
 乾いた音が鳴り響き、バンディットはその場に転げ落ちる。無力化されたとは言えない、すぐさま拳銃を持っていない右手でナイフを引き抜き、それをバンディットの首筋に突き立てた。

「がっ……!」
「っ…………」

 首筋から血が滴り、それが血溜まりを作り出すまで押しつけた後、それを引き抜く。その後、バンディットは起き上がる事は無かった。

「よし、後は……」

 最後にノル型旧兵器を確認しに戻る。
 地面に墜落したノル型旧は危機を見ると、コイツはまぁ再起動の途中だと見れた。再起動しないうちに、素早くそのセンサーに向けナイフを突き立てる。
 それにより中身の機材は無力化され、旧兵器としての生命はここで潰えることとなった。

「クリア……」

 過去の癖で辺り周辺をクリアリングしてから、爆発しなかった手榴弾を拾い上げた。

「結構な確率で引っかかるな、このブラフ」

 爆発すると思って逃げたバンディット共だったが、実はピンを引き抜いていない。いわゆるブラフと言うやつである。

「おっと……コンテナの中だったな」

 助けた目的を思い出し、コンテナに駆け寄る。中では3人ほどの小さい声が聞こえており、何かを言い争っている様だ。自分は助けに来たことを伝えるべきであろう。

「おい!おい!周りの奴らは片付けた!出てきても良いぞ!」

 自分はなるべくその3人を刺激しない様、なるべく簡潔にそう言った。すると恐る恐る、内部の鍵が開けられ扉が開いた。
 その扉の向こうに、比較的若い探索者が顔を出す。多少怯えているようだ。

「あ、アンタらが味方か……?」
「じゃなかったら、助けてないだろ」
「ピュイ!」

 自分と相棒クルカが味方であることを示し、周囲が安全であることを見せる。すると探索者は安心したのかホッとため息をつき、コンテナからゆっくりと出てきた。

「いやぁ……助かったぜ、感謝するよ」
「さっさと出て来い、報酬の話がまだだ」

 その報酬の話をすると、「げっ……」とばかりに苦笑いをしつつ、彼と彼の仲間達がコンテナから出てきた。
 3人は背丈や体格は違えど、どれも総じて若そうだった。比較的新米の探索者だったのだろう、と自分は納得する。

「にしても凄いなアンタら……あのノル型付きのバンディット共を一瞬でボコボコにするなんてさぁ」

 3人のうち、最初に出てきた探索者がリーダーを務めているのか、彼はそう言って自分に礼を言った。

「っていうか、アンタいい装備しているなぁ……そりゃ強いわけだわ」
「……これか?別に自慢する銃器じゃない。慣れ親しんだPDWを使いたかったが、弾薬が保たないから11mmバニャ弾を使うモデルを探しただけだ」

 自分は特に自慢するでもなく、貧乏くさいPDWのサブマシンガンモデルを掲げ、舐め和す様に見る。それを、新米探索者らは目を輝かせて羨んでいる。

「あー、パンノニアへの輸出モデルだったやつか。良いなぁ、俺もそろそろコイツから卒業したいぜ」

 そう言って新米探索者が持っていたのは、なんと驚きのファルゼ系列の生体式ライフルであった。多少の改造が加えられているとはいえ、その年代は610年まで遡る骨董品である。
 ……通りでバンディットらの装備にすら苦戦するわけだ、と自分は呆れながらそう思った。まあ、たとえ装備が良くてもノル型がいる手前、苦戦は免れないだろうが。

「……なら、そこら辺に転がっているバンディット共から武器でも奪ったらどうだ。多少は水増しになる」
「良いのか?お前が仕留めたんだから、お前のものじゃないかよ」
「お人よしと呼ぶな、俺はコイツらのボロ銃には興味がない。代わりにコイツらの持ち金と端末、それからノル型の部品は全部よこせ」
「わ、わかってるよ……助けてもらった手前、贅沢は言わんさ。ありがとな」

 新米探索者らは、バツが悪そうに自分に両手を挙げて首を振り、自分の言うことに従う。そして、それ以上何も言うでもなく自然とバンディット共の死体を漁り始めた。

「……ってか、アンタ見たところそれなりにここに居るみたいだが、なんで助けてくれたんだ?」

 死体を漁ろうとした時、ふと新米探索者らの一人が自分に対して振り向いて、そんな疑問を投げかけた。確かに彼らからしたら、いきなり知らない探索者を助けたのは疑問が残る行動であろう。

「別に……見捨てたら、次の日の目覚めが悪いからだ」
「そ、そうか……」

 だが自分は、特に驕るでもなく一言だけそう言った。嘘偽りは、無いと思う。

「それで……なんでアイツらはノル型なんて味方に付けていたんだ?」
「さあな?それは漁って見れば分かるさ」

 今の段階では、確かになぜバンディットらが旧兵器を味方につけていたのかは分からない。それの真相を解明するべく、新米探索者らと共にバンディットらの死体を漁り、謎を解明することとした。
 まず、自分は一番近くのバンディットの死体を漁った。コイツの武装は、クランダルト製NM12自動小銃。弾薬らには興味がないので、とりあえず手持ちの金と情報端末だけを奪い取る。
 他に目ぼしい物が無いか漁ってみても、他には缶詰やら甲板のカケラやらしか見つからなかった。

「コイツではない、か」

 さっさと放置し、次の死体に移る。
 リーダー格と思わしきバンディットの死体には、洒落たベレー帽とガルシア系列の突撃銃が握られていた。
 それらは放置し、リーダー格の服装や装備の中からめぼしい物を探す。彼はこの中で唯一、大きめのバックパックを背負っていた。
 既に中身を相棒クルカが漁っており、中身を周辺に散らかしていた。そして中に潜っていた相棒クルカが、一際目立つ物を口に咥えて出て来た。

「ピュイ!」
「これか?」

 それを相棒クルカから受け取ると、何かのSF映画に出てきそうな光線銃が、姿を現した。
 これには自分も見覚えがあった。記憶と情報を頼りに、この旧時代の遺物の正体を暴く。

「なんだそれ……?」
「……ハッキング銃だ。状態も良い、おそらくこれを使ったんだろう」

 "ハッキング銃"とは、その名の通り旧兵器などの無人兵器の回路に向け修正コードを送り、敵味方識別装置を誤認させる装置だ。
 これを駆使して照射すれば、自分を旧兵器の味方だと思わせることができる。これも旧時代から残る、数ある遺物の一つであった。

「な、なんでバンディット共がハッキング銃なんか……」
「さあな。大方、どこかの探索者から略奪したんだろうよ。今後は気をつけなければな」

 これは直接近距離で照射しなければ使えないため、旧兵器相手に使うのは勇気がいる。だが、どうやらバンディット共は運の悪い探索者の一人からこれを奪い、旧兵器を味方にする度胸があったらしい。
 と、ふと自分が新米探索者を見上げれば、そのハッキング銃を見て物欲しそうな顔をしているのが見えた。

「……言っておくが、コイツは頂いていくぞ?」
「わ、わかってるよ!」

 新米探索者がバツが悪そうに言うので、自分は思わず吹き出して笑った。





 その後、新米探索者らに武器やら弾薬やらを明け渡し、自分は自身が拠点とするキャンプに戻った。
 ちなみに新米探索者ら3人は、バックパックいっぱいの武器弾薬マガジンなどを入れ込み、随分と重そうにして帰っていった。まあ、売れる場所はそう遠く無いから誰でも辿り着けるだろう。

「……と、言うわけなんだマスター」
「ほう、そんなやり手のバンディット共がいるとはなぁ……中々面白い」

 自分のキャンプに戻った後、キッチンカーの屋台にてこのキャンプの管理人──通常"マスター"──に事の顛末を話した。
 その話の内容を聞いて、マスターは面白そうに笑う。どこか他人事の様な態度であり、予想はしていたが、どこか薄情さを感じてしまう。

「なーにを他人事みたいに言っているんだ?少しはそう言うやり手のバンディットも居るって、新米共に忠告したらどうだ?」
「ピュイ!ピュイ!」

 自分と相棒クルカが多少なりの抗議を言うが、それでもマスターは素知らぬ事であるとばかりに笑ってみせた。

「それは俺たちキャンプの仕事じゃねぇ。俺たちはお前たちに宿を与え、飯を作り、金で売り買いするだけだ。そう言うことはお山のデュイノス派の連中にでも言っておけ」
「……そうかよ」
「ピューイ……」

 まあ確かに、キャンプの仕事は探索者を寝泊まりさせる事だ。金を貰ってテントを貸し与え、飯を作り、それで安全に夜を越させる。それだけだ。
 そしてマスターは、自分が持って来た遺物や情報端末の状態や価値をしばらく調べると、電卓に一つづつ数字を入力していく。

「んじゃ、拾ってきたハッキング銃を含めて……この額でどうだ?」
「……悪くない。当面の飯にはありつけそうだ」

 やはりハッキング銃が一番高値がついたのか、当分は暮らしていけそうな値段が表示されていた。その他、ノル型に残された無事な部品を合わせて結構な値段になっている。
 ちなみに、自分はこのハッキング銃を用いて旧兵器をお供とするつもりは無いので、そのまま売る事とした。旧兵器を連れたままキャンプに入ることはできないため、まだ帰る場所がある自分には必要ない代物だった。

「じゃ、今日は温かい飯でも食うか?」
「そうしておこう。久しぶりにマスターのリゾットが食いたい」
「ピュイッ!ピュイッ!」
「ハハッ、そう言うと思ったぜ」

 そう頼むと、既に片手間で作っていたのか温かいリゾットが皿に出された。そして相棒クルカには、新鮮な生野菜がゴトッと出される。

「ありがとう、頂くよ」
「ピュイ!ピューイ!」

 リゾットをスプーンで口に運ぶと、細かな米とチーズの風味が口の中を彩った。中に入っている細かな肉も、ほろほろと溢れて面白いくらいに美味い。
 最近は稼ぎが少なかったために、この様にして温かい料理を食べるのは久しぶりだった。自然と心と体が休まり、さきほどの戦闘の疲れが癒やされていく。
 これが、探索者達の帰る場所の価値である。何者にも変えられず、何者にも値段はつけられない。そんな場所であった。

「んじゃ、また来るよ」
「ピュイ!」

 リゾットを食べ終えた後、先ほどの売値からリゾット分の料金を支払い、自分は屋台の席を立った。
 自分が宿のテントに向かって歩み始めた中、マスターが声をかける。

「"良い成果"をな、探索者」

 南東地域での決まり文句を受け、自分は後ろに手を振り、それに応える。
 夜は更け、空には星が彩られる。キャンプでは焚き火なども所々に焚かれ、その周りを取り囲む様に探索者達が談笑している。
 自分は真っ直ぐにテントに入ると、防弾チョッキや装備などを降ろし、肩の荷を下ろした。体が軽くなると同時に、急激に眠気が出てくる。
 食事も食べた事だし、そのまま寝てしまおうと自分は備品の寝袋を広げ、そのまま横になった。相棒クルカも、隣で自分の荷物を枕に目を瞑った。
 眠気は瞼を重くさせ、すぐに自分は深い眠りにつく。これが南東地域における探索者達の、ごくありふれた日常であった。








Fin

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最終更新:2022年12月25日 17:38