ふたば系ゆっくりいじめ 715 下拵え

下拵え 27KB


虐待-いじめ 野良ゆ 赤子・子供 作中の各種設定はテキトーです。

寒空の下。
男が公園のベンチに座って、もそもそとあんまんを食べていると、一匹のゆっくりれいむがやってきた。
「ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!」
れいむは元気よく男に挨拶した。
「はあ」
男のただ吐息に声を乗せただけの挨拶は、れいむのお気に召さなかったようだ。
「ゆっくちしちぇいっちぇにぇ!! れいみゅはれいみゅだよ!」
さっきより元気な声で挨拶してきた。自己紹介付きだが、それは見れば分かる。
れいむは男の顔をじっと見つめ、リアクションを待っている。実に自信満々といった顔つきだ。
「ゆっくりしていってね~」
今度は男も挨拶を返す。語尾を間抜けに伸ばしたその挨拶にも、しかしれいむは満足してくれた。
「ゆっ! おにいしゃん! れいみゅ、ゆっくちおねがいしゅるよ!」
「なんだ?」
暗に「予想はつくけどな」という含みを持たせた問いかけだったが、れいむはそれに気づかない。
果たして、れいむは男の予想通りの答えを返した。
「れいみゅにあみゃあみゃちょうだいにぇ!」
この手の野良ゆっくりの欲しがるものといえば、おおむね食べ物か住む所だ。
金品を要求する小生意気な奴も、いるにはいる。ただそういう連中は、芸を人間に見せたり、人間の手伝いをするなどして、その対価として代金を受け取っている。いわば殊勝なゆっくりと言えた。
このれいむは単純に甘いものが欲しいらしい。具体的には男が食べている、いまだホカホカのあんまんだ。
男はあんまんを見つめ、しばらく思索にふけった。
「どうちたの、おにいしゃん! れいみゅのおねがいきいちぇにぇ!」
れいむが催促してきた。
ややあって、男も口を開く。
「――そうだな。えーと、おまえ、何か得意なことはあるか?」
「ゆっ? とくいなこと?」
「そう。たとえば――おまえらの仲間にまりさってのがいるよな」
「まりしゃはれいみゅのおとうしゃんだよ!」
小さく頷き、公園内の池を指差して男が続ける。
「そのお父さんと同じまりさが、たまにあの池で遊んでるんだよ。この寒い中でも、わざわざ帽子に乗って水に浮かんで」
「ゆっ! おとうしゃんはぷーかぷーかできりゅよ!」
父親が褒められたようで嬉しいのか、れいむが自分の手柄のように胸を張った。
「あれ、すごいよな。自分や家族の、生活とか行動の幅が広がるっていうかさ――で、れいむはそういうことできないのか?」
「できにゃいよっ!」
即答だ。しかも胸を張っているのはどういうわけか。
「ぱちゅりーは頭がいいんだろ? ありすってのは、たしか都会派なコーディネートが得意なんだっけか」
「おにいしゃんはくわちいにぇ! ゆっくちしちぇるよ!」
「ありがとう――で、れいむには何か得意なことはないのかと、そう聞いてるんだよ」
「ゆ? ゆゆっ?」
れいむは困惑している。男が何を言いたいのかわからないのだろう。
「れいむの得意なこと。まりさたちのように、特に他者の役に立つようなヤツな。それを今から見せてくれ。それに俺が納得できたら、このあまあまを少しだけわけてあげてもいいぞ」
「ゆゆう~っ?」
「その代わり、納得できなかったらコレね」
男は右手の中指を親指で弾いて見せた。いわゆるデコピンだ。
デコピンといえど、子ゆっくりにとっては結構なダメージになる。それでも、
「わかっちゃよおにいしゃん! れいみゅ、とくいなことをみしぇるよ! ゆわーい、あみゃあみゃ! あみゃあみゃ!」
あまあまの魅力に眩んだ目には、デコピンの恐怖は見えていないらしい。れいむは了承した。
それでも、本当はすぐにでもあんまんが食べたいらしい。れいむの口から思わず本音がこぼれる。
「……でも、しゅこしめんどくちゃいにぇ」
それを聞いた男は、
「確かにな。でも、うまいものを食べる下拵えだと思えば……」
と呟いた。
それはただの独り言だったが、れいむは励ましの言葉だと受け取ったようだ。
「ゆっ! れいみゅ、ゆっくちしたごしらえしゅるよ! えい、えい、ゆー!」
元気に声を上げた。



「じゃあ、さっそく見せてもらおうかな」
「ゆっ! じゃあいきゅよ! れいみゅ、ぴょんぴょんしゅるよ!」
おもむろに飛び跳ねるれいむ。得意げに男の顔を見ている。
その額に狙いを付け、男はデコピンした。宙にいたれいむは、着地を失敗して顔面から地面に落ちた。
「ゆべべっ! なにしゅるの、おにいしゃん!?」
「ふざけてんのかバカ。それはおまえ――れいむ種だけじゃなくて、ゆっくりみんながよくやる動きだろ?」
男の意図がよく伝わってなかったのだ。
「でもぱちゅりーはできないよ! れいみゅのほうがじょうずだよ!」
「駄目。そもそもぴょんぴょん跳ねるだけなら、ノミの方がよほどすごいぜ。お前の得意なことってのは、ノミ以下のチンケなものなのか?」
「ゆがーん! のみしゃんいかああああああ!?」
ちっぽけなノミより格下と見なされて、れいむはショックを受けたようだ。そのショックは自ら発した効果音だけでなく、大きく開かれた目や口からも伝わってくる。
「おまえを含めてれいむならでは、ってのを見せてくれよ。それとも得意なことなんてないのか?」
「ゆ、ゆっくちりきゃいしちゃよ! こんどはうみゃくやりゅよ!」
そう言って、今度は体を伸び縮みさせはじめるれいむ。
「のーびのーび―……いぢゃいいっ!? やめちぇにぇ! やめちぇにぇ!」
男はあんまんを食べながら、二度三度とデコピンを食らわせた。
「だからそういうのは駄目なの」
「とくいなことをみせたけっかがこれだよ! おにいしゃんはわがみゃみゃだにぇ!」
「まだわかってないのかこのバカ。だいたい、それが何の役に立つんだよ。伸びるだけならパンツのゴムの方がよほど便利だぜ」
「ゆ? ぱんちゅ、しゃん?」
れいむはパンツの意味を理解していないようだ。この挑発は無駄だったか。
男は溜息をついてから、優しく言う。
「いいか? お父さんがまりさってことは、お母さんはれいむだよな? たとえば、お母さんは何が得意だ?」
れいむ種にも特技はいくつかある。中でも定番なのは――
「ゆっ! おかあしゃんはおうちゃがじょうじゅだよ! れいみゅもおしえてもらっちゃよ!」
そう、歌だ。道端で歌を歌って金を稼いでいるゆっくりも、圧倒的にれいむ種が多い。
「それそれ、そういうのをやってくれって言ってるんだよ」
「ゆっくちりきゃいしちゃよ! れいみゅ、ゆっくちうちゃうよ!!」
「おお、やれやれ」
男が拍手をすると、れいむは歌い始めた。
「ゆっくちのひ~、まっちゃりのひ~」
「……」
「しゅっきりのひ~、ゆゆゆのゆ~」
「……」
目を閉じて気持ちよさそうに歌っている。
男は中指を引き絞り、より強めにデコピンをした。
「ゆゆゆ~――ゆぎゃおっ! ……ゆわーん! いぢゃいよおおお!! れいみゅちゃんとうちゃっちゃのにいい!」
「駄目。聞くにたえない。ヘタクソだなあ、おまえ」
男も予想していたことだったが、れいむの歌は雑音にしか聴こえなかった。これではとても金を稼げないだろう。通行人に踏み潰されるか、加工所や保健所に通報されるのがオチだ。
役に立つどころか、むしろ死期を早める行為と言える。
だが、れいむは納得いかないらしい。
「ゆっ!? おにいしゃんはしちゅれいだにぇ! れいみゅのおうちゃは、おかあしゃんだって『てんしさんのようなうたごえだにぇ』ってほめちぇくれたんだよ!」
「へえ」
それは子どもに気持ちよく歌ってもらうための、人間の親も使う方便だったとしか思えない。もっとも、このれいむの歌がゆっくり的に上手いのかどうかなど、男に、人間にわかりようもないのだが。
人間でも素直に美しいと感じる歌を歌うゆっくりもいるが、それは極少数だ。
そうとわかっている上で、男は言った。
「はっ、おまえンちはお母さんもバカなのか? それは歌じゃなくて雑音って言うんだって、だいちゅきなおかあしゃんに教えてやれよ」
その言葉に、
「ゆゆうううっ! ぷんぷん! おんこうなれいみゅもおこっちゃよ!」
れいむが怒りだした。
自慢の歌と、それを認めてくれた母親を貶されては、さすがに我慢できなかったようだ。
「おにいしゃんはゆっくちあやまっちぇにぇ! ぷきゅうううう!」
れいむは頬に空気を溜めて男を威嚇する。
キリっとした眉毛に、男を射抜かんとする鋭い視線。普段のニヤけ具合が嘘のようにきつく結ばれた口元。それぞれのパーツだけを切り取ってみれば、りりしいと言えないこともない。
それを見た男は、右手の人さし指と親指を使って、パンパンに張ったれいむの頬を挟んだ。
男がその二本の指に少し力を入れると、れいむの口から、
「ぷしゅるるるるるる!」
というれいむ自身による効果音とともに、頬に溜まった空気が吐き出される。
「るるるううううう――ゆ? ゆ?」
空気と一緒に怒気も抜けたのか。きょとんとするれいむの眉間に、男はデコピンを見舞った。
「いぢゃいっ!」
ころんと、れいむは仰向けに転がった。空を見上げて目をぱちくりさせている。
「そういうのは駄目だってば。『ぷくー』はれいむだけが得意なことじゃないだろ」
男は空とぼけて言った。
「ちゃんとれいむ種だけが得意なことを見せてくれないと。しかもその、『ぷくー』だっけ? 恐くもなんともないな。その辺のアリンコの方がよほど恐いぜ」
男の言葉に、れいむは体を起こして抗議する。
「れ、れいむのぷきゅーは」
「知ってる。アリンコよりも弱っちいんだよな。さ、はやく得意なことをみせてくれないと、あまあまがなくなっちゃうぞ?」
れいむの言葉を遮り、男はあんまんの端をチビリとかじった。



「さあ、お次は何かな? ぱちゅりーの超天才的頭脳や、ありすの都会的なハイセンスに匹敵する特技を、俺に見せてくれ」
男は口から出任せを言いながら、れいむの目の前にあんまんをちらつかせる。
「ゆゆ~ん! よだれがじゅーるじゅーる!」
その香りに鼻腔をくすぐられたのか――鼻などないが――れいむの開きっぱなしの口からは、だらだらと涎がたれている。
このあんまんは、甘さはもとより、風味や旨味も申し分無い。他のメーカーには出せない味が好評を博している。男もお気に入りの一品だ。
「……ゆっ! れいみゅはこそだてがとくいにゃんだよ!」
確かにれいむ種の子育てには定評がある。れいむ種から産まれ、育てられた子どもたちは、とてもゆっくりと健やかに成長するというのだ――もちろん例外もいるが。
そして昨今ではその例外が多くなってきている。
それでは、目の前のれいむはどうなのか。
「はあ。でもれいむ、お前、子どもいるのか?」
赤ゆっくり言葉も抜けていないれいむだが、子育てをしたことはあるのだろうか。
男が当然の疑問を口にすると、
「ゆっ? れいみゅにおちびちゃんがいるわけにゃいでちょ? みてわからにゃいの? ばきゃにゃの? ちぬの?」
れいむは蔑んだような表情と口調で言った。ニヤニヤという擬音が聴こえてきそうだ。
男はおもむろにれいむを持ち上げ、山なりに放り投げた。
「ゆわーい! おしょらをとんで――ゆべべっ!」
またもれいむは顔面から地面に落ちた。先ほど以上の強い衝撃に、顔が内側にへこみ、しかしすぐに元に戻った。
「ゆぐっ……ゆわああああああん! おかおがいちゃいよおおおお!! ゆんやあああああああ!!」
男は息を吐いて気持ちを落ちつけた。別にれいむに暴力を振るうことが目的ではないし、何よりルール違反だ。
「おまえ、それは『れいむのバカさ加減はもはや特技だよ!』って言ってるのか?」
「だっで、だっでえ! おかあしゃんは、ゆっぐ、こそだてがとくいだっていっで、いっでだがら! ゆっぐ、ゆっぐ!」
しゃくりあげるれいむ。
男は溜息をついて、
「お母さんは子育てが得意なのかも知れないけど、おまえ自身ができなきゃ俺は見せてもらえないだろ? 見せてもらえないとあまあまもあげられないんだよ。俺の言ってる意味、いい加減わかったか?」
ゆっくりとした口調で言った。
「ゆっぐ! れ、れいみゅ、ゆっくちりきゃいしちゃよ! ゆふふ!」
愛想笑いを浮かべているれいむ。
それを見て、男は口元を歪めた。
「理解しているのかも怪しければ、おまえの母親が『子育てが得意』だってのも怪しいもんだな。ええ、おい」
努めて意地の悪い口調で言うと、
「しょ、しょんなこちょにゃいっ!!」
れいむはムキになって反論した。



「けっきゃいっ! だよ!」
土管型の遊具の前で、れいむは得意げに言った。
土管の中に出入りして楽しむための単純な遊具。れいむの背後とその反対側に開いた口には、それぞれ短い木の枝が一本立てかけてある。れいむの手によるものだ。
「ゆふん! これでどかんしゃんのなかにははいれにゃいよ! れいみゅのけっきゃいっ! にかんしんしたならあみゃあみゃちょうだいにぇ!」
主に巣穴を守るために使われるれいむ種の『結界』。そのもっとも極端かつ単純な形が、巣穴の入口を塞ぐように木の枝を、あるいは草や石ころを置くというものだ。
巣穴に見立てた土管にれいむが張った『結界』が、まさにそれだった。
こうすることで、他のゆっくりに襲われることはおろか、そこに巣穴があることにすら気づかれないらしい。たとえ木の枝の隙間から『結界』の中が丸見えだったとしてもだ――今、土管の中が男から丸見えなのと同じように。
「ふん」
男は鼻を鳴らし、れいむの後ろにポツンと立てかけられている――土管の天井まで届いてもいない――木の枝を取り払い、へし折る。針金のような枝は、乾いた音を立てて二つになった。
そして、これ見よがしに土管の中に手を出し入れさせる。
「ゆわあああああっ!? おかあしゃんじきでんのれいみゅのけっきゃいっ! がどうちてやぶられるのおおおおお!? どうちてえええええ!? ――ゆびぇえっ」
男が律儀に木の枝をどけるまでもなく出入り可能だった『結界』。それが破られたことが、よほどショックだったようだ。れいむは錯乱しかけたが、デコピン一発で黙った。
「こんなもんに騙されるマヌケは、そうだな、せいぜいお前の家族くらいだよ。せめてもっと長い木の枝を持ってこいよ」
「ゆうう……。でも、でもおおお……」
「おまえの小さい口じゃ、それも無理か。まったく使えねえな――はい、次は?」



「ぴ、ぴこぴこしゅるよ!」
れいむは左右の揉み上げを激しく上下させた。
通称『ぴこぴこ』。右と左、二本の揉み上げを持つれいむ種独特の動作だ。
「おにいしゃん、みちぇみちぇ! ぴこぴこしちぇるよ!」
「……」
「れいみゅのもみあげしゃんがぴこぴこしちぇるよ! ……しゅ、しゅごいでちょ? しゅごいよにぇ?」
「……で?」
「……ゆ?」
「その『ぴこぴこ』ってのは、どういう役に立つんだ? あれだけ言ったんだから俺の言いたいことは理解してるよな?」
「……ぴ、ぴこ……」
れいむは下を向いてしまった。考え込んでいるようだが、それでも揉み上げを上下させることはやめない。
「ぴこ、ぴこ……ゆっ!」
ほどなくして顔を上げたれいむは、
「ぴこぴこはみんなをゆっくちしゃせられりゅよ! だからあみゃあみゃちょうだいにぇ! ゆっくちしたぶん、たくしゃんおまけちてにぇ!」
満面の笑みで言い放った。
その「言ってやった!」と言わんばかりの晴れやかな表情に、男はデコピンを数発見舞った。
「いぢゃいっ! いぢゃいいいっ! やめちぇええええっ! ゆびいいいいっ!」
「ゆっくりどころか、むしろイライラさせられたよ。ムカついた」
れいむは、ただでさえ大きく丸い瞳をさらに大きく丸くさせて男を見た。その顔を言葉にするなら「信じられない」といったところか。
「お、おにいしゃん! やしぇがまんちないで、ゆっくちしちぇいいんぢゃよ! みんなに『くーるなびーとをきざんでるにぇ』っていわれたれいみゅの」
「……」
「ご、ごめんなしゃいっ!! でこぴんしゃんはやめちぇにぇっ!?」
「みんなみんなって、おまえの周りはバカ揃いなのか?」
男の言葉に、
「しょ、しょんなこちょない、よう……」
れいむは弱々しく反論する。
――いい傾向だ。
男は思った。



「さて、そろそろ時間がないんだけど」
男は時計を見ながら言った。
「他に何かあるかな? 他者の役に立つ、れいむの得意なこと」
「ゆ、ゆう……」
かろうじて声を出すれいむに、男と出会った時のような元気はない。心身ともに参っているのが見て取れた。
男はそんなれいむに見せびらかすように、いい加減冷めてきたあんまんをかじった。
「うーん。あまあまだ」
「ゆああ……」
あまあまという語句に反応して顔を上げたれいむの口から、砂糖水の涎がたれる。
「もうあまあまも少なくなっちゃったけど、そろそろ諦める?」
「……ゆうううう! まだだよ!」
挑発的な男の口調にれいむは発憤したようだ。
「れいみゅ、ぴょんぴょんしゅるよ! ――ぴょんべっ!」
男が先ほどと同じように額にデコピンすると、れいむは器用に空中で体を半回転させ、やはり先ほどと同じように顔面から地面に落ちた。
「それは最初にやって、しかも駄目出ししただろう。おまえは、ほんっとにバカだな。特技だけでなく脳味噌までノミ以下か?」
「……ゆ」
「ん?」
「……」
れいむは地面に突っ伏さんばかりに俯いてしまった。



――頃合かな?
男は思った。
れいむは俯いて黙ったままだ。
出会ってから十分足らず、あれだけ騒がしかったれいむが、今はゆんともすんとも言わない。
男は一度もれいむにあんまんを食べさせていない。
『ぴょんぴょん』から始まって『お歌』に『結界』、くだらない所では『ずーりずーり』や『こーろこーろ』等々いろいろ見せてもらったが、男が満足する「得意なこと」は無かったからだ。
約束通りの話だ。
もっとも、このれいむにそれほど気の利いたことができるなどとは、男も最初から思っていない。何と言ってもまだ子ゆっくりなのだ。
ただ、
「れいみゅはあみゃあみゃをたべるのがとくいだよ! だからあみゃあみゃちょうだいにぇ!」
などとやらかした時には、男は思わず吹き出しそうになった。意外と頭が回るものだと思った。
それをごまかすためにデコピンの連射をくらわせたが、力みすぎてほとんどゲンコツを押しあてているだけになってしまった。
今のれいむのヘコみよう――主に身体面――はアレが原因だ。
れいむはまだ黙っている。
――頃合かな。
時計を見ながら、男は思った。



「はい。では時間切れでーす!」
男は大げさに宣言した。
「……ゆ、ゆう。ゆっくち……あきらめりゅよ……」
俯きながら蚊の鳴くような声でブツブツ言うれいむを尻目に、男はあんまんの最後のひと欠片を口に入れた。
「むーしゃむーしゃ、しあわせー! ……ごちそうさまでした」
聞こえよがしに呟いてから飲み込む。
するとれいむは、
「ゆわあああああ!! れいみゅのあみゃあみゃがあああああ!!」
突然大声を上げた。どうやら諦めきれていなかったらしい。
「おまえのあまあまじゃないだろ」
「どぼちてれいみゅのあみゃあみゃたべちゃうにょおおおおおお!? かえちて! あみゃあみゃかえちてええええ!」
なおも喚きながら足に取り縋るれいむを、男は軽く蹴飛ばした。
「いぢゃいっ!」
「役立たずのれいみゅちゃんにあげるあまあまなんかねえってえの。俺を満足させる『得意なこと』を見せなかったおまえが悪いんだぜ。最初に約束した通りだよなあ? あ?」
男のその言葉に、れいむは力無く抗議する。
「ゆっくちしちゃ、おうたを……きかしぇてあげたでちょ?」
「雑音だっつったろ? あの人の神経を逆撫でするような雑音が、いったい何の役に立つんだ?」
「で、でも、けっかいっ! は、じょうじゅにできた……でちょ?」
「余裕で破られたじゃねーかよ。あんな『ご自由にお入り下さい』って言ってるような結界があるかバカ」
「ぴょんぴょ」
「何回言ったら理解できるの? 馬鹿なの? 死ぬの? やっぱりノミさん以下の脳味噌なの? 虫さん以下の存在なの?」
「……」
「おまえ、もう死んだ方がいいわ。全っ然、なんの役にも立たねーもの。両親も友達もそう思ってるに違いないぜ」
「……どぼちてしょういうこちょいうにょ……? れいみゅだって、ひっしにいきちぇりゅんだよ……?」
れいむは顔を伏せて小刻みに震え始めた。涙だけでなく、なぜかしーしーまで流している。
それを見た男は満足して、
「バーカバーカ! れいむの役立たずー! 役立たずは生きてる価値なんかねーんだよーだっ!!」
嘲り笑う。
「れ、れいみゅは……やきゅたたじゅ、なんかじゃ、にゃい……よね? ……やくたたじゅ、にゃの……?」

「ホントにれいむ種のガキってのは使えないよなあ。まあそんなグズだからこそ、俺は楽しい思いをさせてもらえるんだけどな」

そんな何気ない男の一言に、ゆっくり特有の、超ポジティブシンキングとも言える餡子脳が反応したらしい。
れいむの涙としーしーはぴたりと止まり、代わりに目が輝き始めた。
「ゆゆっ? れいみゅ、おにいしゃんをたのちましぇてあげちぇるにょ? れいみゅがれいみゅだからいいんだよにぇ? にぇ? にぇ?」
「あ」
しまった、と思ったがもう遅い。
「ゆわーい! ゆわーい! れいみゅ、おにいしゃんのやくにたちぇたよおおおおっ! やくたたじゅじゃにゃいよおおおおおっ!」
「いや、これはそういう意味じゃなくて」
「ゆっくち! ゆっくち! ゆっくち!」
れいむは聞いていない。『ぴょんぴょん』、『のーびのーび』、『ぴこぴこ』――持てる身体能力を駆使して、まさに全身で喜びを表現していた。
これではもう、男が何を言っても無駄に思えた。
「お、おい、れいむ……」
「ゆっくちゆっくちいっ! ゆ! しょうだ、おにいしゃん! やくしょくにょあみゃあみゃをちょうだいにぇ! たくしゃんでいいよ!」
れいむのその要求に、
「せっ!」
男は人さし指と中指で応えた。
「とっくに時間切れだからさ。ご褒美は目潰しで勘弁してくれ」
「ゆびいいいいっ! れいみゅのきゃわいいおめめぎゃあああああっ!!」
目を潰した感触こそ男の指に伝わってこなかったが、だからと言って痛くないわけではないようだ。れいむはもんどりうって苦しんでいる。
「おめめいぢゃいよおおおおおおおっ! おきゃあしゃあああああん!」
ひたすら騒がしいれいむとは反対に、男は静かに溜息をついた。
「しまったなあ……」
そう一言呟いて、男は目の前で転がっているれいむをつまみ上げる。
「れいみゅ、おしょらをとんでいるみちゃい!」
れいむはそう呟いたあと、再び火がついたように「痛い痛い」と喚き散らしはじめたが、男には気にならなかった。
気がかりは他にあった。
「最後の最後で喜ばせちゃったよ。やっぱり、こういうのも味に影響するのかなあ」



暴行を加えられて苦しんでいる時のゆっくりの中身、すなわち餡子やクリームは通常時よりも甘い。今や大人から子どもまで知っている常識だ。
わざわざペットショップまで出向き、食用としてゆっくりを購入する甘党も少なくはない。家で虐待の限りを尽くし、それから食べるのだ。
その場合、殺してしまってはいけない。「苦しんでいる」というのが重要なので、瀕死のギリギリを見極めるのが大切だ。
ゆっくりを虐待して食した経験は、男にもある。しかし、加工所が販売している「原材料・ゆっくり」の各種甘味の美味しさとは、とても比べ物にならなかった。
加工所製の食品は、とにかく美味しいことで有名だ。とりわけ餡子を使った製品は、老舗和菓子店のそれをも凌駕するという声すらある。
素人が殴るなり蹴るなりしても、確かに甘さを増すことはできる。しかしあくまで甘くなるだけだ。風味や旨味に欠ける。
加工所での製造過程で加えられる調味料や添加物なども、確かに多少は影響しているのだろう。だが、加工所製品の味は、もっと根本的な何かが違うのだ。
それは、特に美食家でもない男でもわかるくらいの、大きな違いだった。
加工所でのゆっくり加工方法は、もちろん極秘だ。すべて外部に漏れないよう、職員にも徹底されている。
加工所の味を自分でも再現できればいいのにな――多くの人間がそう思うことに無理はなかったし、男もそう思っていた。なにせ、材料と言うにはあまりにも完成されている餡子がその辺に転がっているのだ。
それはインスタント食品などのうたい文句である「有名店の味をご家庭で」程度の、漠然とした思いではあったが。
再現できたらラッキー。できなくても別にいいや。その程度だ。
そんな中、男は噂を聞いた。
曰く、「加工過程にあるゆっくりは、肉体的だけでなく精神的にもとても苦しめられている。風味や旨味は、とりわけ後者の影響が大きい」。
そりゃ殺されるほどの痛みを感じれば心も平穏じゃいられないだろうよ。男はそう思いながら聞いたが、どうもそういう事ではないらしい、
ゆっくりの存在意義や自尊心を、根こそぎ崩してやるというのだ。
なるほど、と男は膝を打った。至る所で勝手に生きて勝手に死んでいるような、いや、「生きる」だの「死ぬ」だのと言っていいのかすらわからない饅頭に、そんな高尚なものが備わっているとは思いもしなかったからだ。
いいことを聞いたかもしれない。暇な時でも試してみようか。
そう思っていたところに、今日、れいむが現れた。
男は噂を検証してみることにした。
――でも、しゅこしめんどくちゃいにぇ。
れいむの言うとおりだ。たかだかゆっくりを食べるのにそんな回りくどいことをするなんて、面倒なことこの上ない。
しかし噂の真偽も気になる。
たまには少しくらい、材料の下拵えに時間をかけてみるのもいいだろう。
男はそう考えた。



「うわ。さすがに冷てえな」
公園にある水道で、男はれいむを洗っていた。
冬、しかも外で真水に触れるのは嫌だったが、薄汚れたゆっくりを口に入れるのはさすがに抵抗がある。
「やめちぇええええええ!! ぎょぼぎょぼ! ちゅめたいいいいいいいい! くるちいいいいいい!!」
弱点である水にさらされ、なおかつ男の手でもみ洗いされているれいむは苦しそうだ。
「うるさいよ役立たず。俺だって冷たいんだ」
「おみじゅしゃんももーみもーみもやめちぇえええええ! れいみゅをゆっくちさせぎぇぼぼぼぼぼ!!」
「……この状況も、甘みを増すのに役立ってるんだろうな」
そう思えば水の冷たさにも少しは耐えられた。すべては好奇心を満たすためだ。
水で柔らかくなったれいむの体も、手に心地いい。
「おみじゅしゃんぎょぼぎょぼ! おみじゅしゃんはいやぢゃああああああ! からだがとけちゃうううううう!!」
とは言え、あまり洗っているわけにもいかない。うっかり殺してしまっては元も子もないのだ。
「まあ、こんなもんか」
蛇口をひねって水の流れを止める。
「ぶーるぶーる! がーちがーち! ぶーるぶーる! がーちがーち!」
ずぶ濡れのれいむは男の手の中で震え、歯を鳴らしている。
男は自分の手を拭くついでに、ハンカチで軽くれいむの水気も拭き取ったが、
「ゆゆゆゆゆゆゆうううっぐっぐうううううちちちちちち! がーちがーち!」
それでもかなり寒いらしい。歯がまったくかみ合わず、満足に「ゆっくち」とさえ言えないでいる。そのくせ、「がーちがーち」は普段と変わらない発音だ。
濡れた体にこの季節の寒風は確かに厳しいだろう。これなら水に浸かっていた方が、かえって温かいのかも知れない。
「しゃしゃしゃしゃしゃぶいいいいいい! しゃぶしゃぶしゃぶしゃぶっ」
「しゃぶしゃぶ?」
男はかがみ込むと、地面にハンカチを敷き、その上にれいむを置いた。
おもむろに、れいむの小さく赤いリボンを奪い取る。
「れれれれいみゅのしゅてきなおりりぼぼぼっ!! しゃしゃんっ! んんんがががっ!」
さらに揉み上げも引きちぎる。
「もっもみっ! もみあげじゃんんんっ! もうびっごびごごごごできにゃっ!」
そして、先ほどれいむが『結界』に使ったような木の枝で、れいむの足に穴を開け、
「あんよぼっ! もうぴょぴょぴょぴょぴょもずずずずずううううりずりもできにゃいいいっ!」
同じく木の枝で両目を貫いた。
「ゆんぎゃああああああ!! れいびゅのおおべべべべべえええええっ! ぎゃばいいいんおべべべっ!」
「本当なら足焼きなんかもしたい所だけどな。ま、それなりに甘くなればいいや」
今日は甘さ、つまり、肉体的な暴力を振るうことが目的ではない。
男は両方の手のひらで包み込むようにれいむを持ち上げた。そして手の中で逆さまにする。
「れれれいみゅのああああにゃあにゃあるううう、みみみみないでにぇええ! はじゅっ、はじゅかちいいいい!」
れいむの声を無視して、男はさらされた底部に右手の親指の爪を突き刺した。
本来は固いはずの野良ゆっくりの底部だが、水に濡れてほどなく柔らかくなっている。抵抗なく男の指を飲み込んだ。
「いいいいぢゃいいいいいっ! れいみゅのびきゃくぎゃあああああっ!」
痛みで寒さが吹き飛んだのか、いい加減、歯もかみ合ってきたらしい。何となく叫び声が明瞭になってきた。
男はそんな事を考えながら、れいむの中で親指を曲げ、ミカンの皮をむくように手首ごと横にひねった。
「ゆびいいいいいいっ! いぢゃいいいいいいいっ! れいみゅのもちもちなおはだがあああああっ!!」
男の目の前に、れいむの中身――目当ての餡子が露出した。
「さーて、お味は……」
餡子を人さし指ですくい、口に運んだ。
「……」
もう一度すくってなめる。
「やめぢぇえええ! れいみゅのあんござん、もっちぇいがないでええええ!」
れいむが叫んだ。
男は眉間に皺を寄せて、
「……全然駄目」
と呟いた。
確かに甘い。でも、ただそれだけ。単に肉体的な虐待のみを加えた時と同じく、甘いだけで、風味も旨味もなかった。
加工所の食品――たとえば先ほどまで食べていたあんまん――にはほど遠い味だ。
「うーん、やっぱり単純にバカにするくらいじゃヌルいのかな」
最後に少し喜ばせてしまったことも気になった。
「いぢゃいいいいい!! いぢゃいよおおおおお!! おきゃあしゃああああん!! ぺーろぺーろちてえええええっ!!」
「ただの悪口ってのも、さすがに安直すぎたのかもしれないし」
男は「罵倒」でなく「悪口」のイメージを心掛けた。ゆっくり、とりわけ子ゆっくりの単純すぎる餡子脳には、小細工などむしろ逆効果だからだ。理解すらされないだろう。
「ゆわあああああああん!! おちょうしゃあああああん!! たしゅけちぇにぇええええええ!!!!」
ひとりブツブツと呟く男の耳に、れいむの悲鳴は聞こえていない。
「たとえば食べる一週間前から他のゆっくりの悲鳴をエンドレスで流すとか……。そう、味を熟成させるみたいなイメージで」
少し考えただけでも、虐待の方法は山ほどあった。
もっとも、専用の特殊な機械でも使われていたらお手上げだし、それ以前に、精神的な虐待と味の因果関係さえ本当かどうかわからないのだが……。
――とにかく、加工所の味は一朝一夕に解明できるものではない。当然だ。玄人の技術がそうそうわかってたまるか。
そう結論づけた男は、思い出したように餡子をごっそりと指ですくった。
「ゆぎいいいいいいいいいっ!!」
聞いている方まで苦しくなりそうな、まさに断末魔と呼ぶにふさわしい悲鳴を聞きながら、男はすくい取った餡子を口に入れた。
しばらく口の中に広がる甘さを堪能する。
そしてれいむをひっくり返し、目を失ったその顔を見た。
「やめちぇ……。もうやめちぇね……。れいみゅ、まだちにたくにゃいよ……」
体の半分以上の餡子を失いながら、それでもまだれいむは生きていた。
「かっちぇにおしょとにでたけっきゃがこれだよ……」
男はその頑丈さに半ば呆れながら、
「ま、餡子を提供してくれるゆっくりは、れいむ種だけだからな。その点は他のゆっくりにない『得意なこと』だと誇ってもいいぜ」
そう言って、水道の隣に設置されているゆっくり専用のゴミ箱にれいむを放り込んだ。
「おしょらを――」
お馴染みのセリフとともに、ゴミ箱に消えるれいむ。
ゴミ箱はちょっとした防音仕様が施されていて、中には水が張られている。すぐに溶けて死ぬはずだ。
男は時計を見た。
「さて、そろそろ帰らないと」
指に残った餡子をなめながら呟く。
「甘さだけはすごいんだよなあ」
そのうち、暇で暇でどうしようもない時にでも、またチャレンジしてみようか。
その時は材料も吟味して。そうだ。今度はれいむ種じゃなくて――
「あ」
自分の勘違いに気づいた男は、ゴミ箱の口に顔を近づけた。
そして中――暗くてよく見えないが――に向かって声をかける。
「悪い、れいむ。さっき『餡子を食べさせてくれることを誇っていい』って言ったけどさ、あれ訂正するよ」
ゴミ箱は返答しない。
「まりさの中身だって餡子だもんな。れいむだけじゃなくてさ。いやあ、やっぱりれいむは能なしの役立たずだったよ」
男がそう言うと、
「やくたたじゅじゃにゃいよおおおおおおおおっ!」
防音仕様のゴミ箱の中から叫び声が聞こえた。
ゆっくりの声を聞き分けることなど男にはできない。それでも、さすがにその叫び声の主だけはわかる。
自分の声に応じられるものが、まだその中に存在しているとは思わなかった。
急に可笑しくなった男は、
「はははっ! 今のは今日一番おもしろかったぜ!」
ゴミ箱に笑いかけ、そして公園から出ていった。


「まりさとれいむのおちびちゃあああああん!! どこにいったのかぜええええええ!?」
「かってにおそとにでたらだめだっていったでしょおおおおおおお!? ゆっくりかえってきてねええええ!?」
男が立ち去ってからしばらく経った公園。
そこには、子ゆっくりを探すまりさとれいむの姿があった。
しかしその必死な呼びかけに応える者はいない。
もう、ゴミ箱も沈黙するだけだ。

(了)



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感想

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  • 子ゆを捜してる親ゆの姿にとてもゆっくり出来た -- 2011-07-03 17:10:24
  • おもしかったです!
    でもゴミ食ってる野良の子ゆなんか食べたくないよw -- 2011-06-29 06:42:13
  • 街中のゆっくりなんか何食ってるかわかんないし食いたくないな。
    加工所では、食用に品種改良とかしてるのかなー? -- 2010-10-28 16:32:42
  • ゆ虐は何気に腹が減るSSが多くて困るぜw
    食べてみたいなー -- 2010-10-01 06:47:46
  • 子ゆうぜぇ~!
    でも、食べてみたいな -- 2010-07-30 00:48:02
  • ゲスじゃなくても超ウザい
    これぞ赤ゆクオリティ -- 2010-07-29 22:21:55
  • 子ゆの悲鳴はゆっくりできます。 -- 2010-07-25 11:19:36
  • ありす喰いたい -- 2010-07-03 18:56:41
  • わーい ゴミがゴミになったよ -- 2010-06-28 02:34:48
最終更新:2010年01月23日 04:06
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