The MISSING - J.J.マクフィールドと追憶島 -

【ざ みっしんぐ じぇいじぇいまくふぃーるどとついおくじま】

ジャンル ACT
対応機種 プレイステーション4
Xbox One
Nintendo Switch
Windows(Steam)
発売元 アークシステムワークス
開発元 White Owls
発売日 2018年10月11日
定価 【One】3,240円(税込)
【PS4/Switch】3,046円(税込)
【Win】2,990円(税込)
プレイ人数 1人
レーティング CERO:D(17才以上対象)
判定 良作
ポイント 性自認と自傷をメインに据えた痛みと再生の物語
高品質なゲームデザインの一方で暴力表現は強め



「この作品は、すべての人々が自分自身であることを否定しなくても良いという信念のもとに作られています」



概要

Red Seeds Profile』や『D4: Dark Dreams Don't Die』を手掛け、国外での評価があるゲームクリエイター・SWERY(スエリー)こと末弘秀孝氏が原案・プロデュース・ディレクション・シナリオ等を手掛けた2Dアクションゲーム。
末弘氏が2016年に(自身が興した)アクセスゲームズを去り、同年に新しく立ち上げたデベロッパーWhite Owlsの処女作でもある。

マップ中のトラップによって骨折・四肢欠損・生首化・発火状態など散々な目に遭いながらも、それを利用して仕掛けを解き進んでいく、パズルアクション要素の強い…そして非常にゴア描写(残虐表現)の多いゲームである。


ストーリー

大学でプロダクトデザインを専攻する女子大生のJ.J.マクフィールドは、同じく女子生徒であるエミリーと共に「追憶島」へキャンプに来ていた。
そこは「探し物が見つかる」と言われる島。2人きりのキャンプ場で星空を見上げるうち、J.J.たちは自然と身を寄せ合い、そして口づけをする――
直後、灯火が消え、雷が鳴り出し、目の前からエミリーが消失した。
J.J.は幼いころから大事にしていたぬいぐるみ「F.K.」を抱え、エミリーを探しにキャンプ場の奥へと進むも、雷に打たれ全身にやけどを負ってしまう。
そして黒焦げになりながらも「まだ死ねない」と強く願ったJ.J.は、不死の力を得て立ち上がる。
灰になって散らばっていくF.K.を見て泣きじゃくりながら、彼女はエミリーを追って更に先へと進むのだった。


特徴

  • 「自分の体」を使った斬新なパズル
    • J.J.はキャンプ場での出来事以降、体が千切れても骨が折れても全身が燃え上がっても死なず、更に任意ですぐに完治する能力を身に着けている。
    • しかし道中には「意図的に」体を傷つけなければ進めない仕掛けが存在しており、そのため彼女は何度も何度も、自分の意志でトラップに身を投げることとなる。
    • 例えばシーソーの仕掛け。他のゲームでもマップ上のオブジェクトをシーソーの重りにして先へ進む、といった類例はあるが、本作の場合用いるのは「欠損した自身の肉体」である。シーソーを適切に操作するため、近くの有刺鉄線などに当たって体をバラバラにする必要が生じる。
    • 火に触れるとJ.J.の全身が燃えあがる。これを利用して行く先を塞ぐツタに火を移し、燃やして道を開けることになる。
    • J.J.はダメージを受けるごとに両腕・両脚それぞれと胴体が次々分離していき、最終的には頭部のみになる*1。これでも移動とジャンプはできる*2が、この状態で更にダメージを受けると「グシャ」というSEと共にミス(チェックポイントからやり直し)となる。
      • しかし攻略上、頭部のみでないと進行できない場所もある。
  • 操作内容について
    • J.J.は「ジャンプ」と「物を拾う」「投げる」「押す/引きずる」「あらゆる怪我を完治する」「エミリーの名を呼びかける」「スマホを見る」といった固有のアクションを行うことができる。
    • 「呼びかけ」操作を行うと「エミリー?」などの言葉をJ.J.が発声する。ゲーム中ではエミリー相手ではなく、近くの鳥に飛ぶように促す謎解き目的で用いる。
  • 性的マイノリティをメインテーマにしたストーリー
    • 本作のストーリーには性的マイノリティとされる、例えばゲイ・レズビアン・トランスジェンダーといった要素が密接に関与している。
    • 性への認識や定義が多様化する現代において、ゲームに限らず様々な作品がこれら個性に「配慮」しつつ結局は「表現規制」に行きがち*3だが、本作は真っ向からテーマとして据え、且つメッセージ性を備えたストーリーとなっている。

評価点

  • ケレン味や物珍しさだけではない凝ったパズル
    • 上記特徴の通り、ゲーム進行の多くはJ.J.が生き地獄のような痛みを受け続け、悲鳴をあげながらギミックに立ち向かう場面で成り立っている。そのためゴア色が強く、ともすれば「リョナ的」、つまり「女の子キャラを痛い目に遭わせたい悪趣味なゲーム」という見方ができなくもないが、パズルの構成自体は適度に頭を悩ませる良質なものである。
    • 謎解きに関連するテキストはあまり多くないため、中には「で、何をやらせたいの?」と思えるようなパズルもあるが、そういうタイプの問題は手順が複雑でないことが多い。
    • 汽車ステージのみ若干詰まりやすいが、マップ内の他オブジェクトの配置や無限湧きする石炭燃料を手がかりにすれば何とか正答を思いつくことができるだろう。
    • とはいえ、「ゲームだからこその残虐表現」をエンタメと認識しているプレイヤーにとっても、様々なトラップは単純に魅力のひとつと言える。
      • 生首だけになりながらボーリングのレーンを奥へと進むステージなど、そのテの発想として秀逸な場面も少なくない。
  • ゲームデザインとメッセージ性の高い関連性
    • エミリーと2人きりでキャンプに来たJ.J.も性の認識においてマイノリティに属する人間であり、周囲の無理解や揶揄、また自分自身でも確固たる生き方が見いだせない戸惑いから、内面には自他への攻撃性を有している。
    • その境遇と、彼女が痛みを受け続け乗り越えていくというレベルデザインとは密接にリンクしており、終盤の重大なイベントへと繋がっていく。
+ そして最終ステージにおいて…(終盤のネタバレのため格納)
  • 自らの迷いを断ち切るべく「敵」に立ち向かう決意をしたJ.J.は、最終的にダメージを受けた際「吹っ飛び(ノックバック)」は発生するものの一切の四肢切断が起きなくなる(無敵化する)。
  • 最終ステージはその吹っ飛びで大ジャンプを行うために丸ノコに自ら飛び込む構成となっており、これまで何度も全身をバラバラにし続けてきたトラップを、純粋に先へと進むため、逆に利用してやるという展開になる。
  • ゲームが持つメッセージ性は各ユーザーの解釈に委ねられるものであり、殊更Wikiで書き連ねることではないが、人生を賭けた悩みを持つ主人公が攻略上逃れ得ない痛みを与えられ続け、その末に痛みを受け容れて困難を乗り越える様を描くという構成は、ゲームデザインの面で特筆モノと言える。
  • 殆どステージBGMというものがない本作だが、この最終局面においては楽曲で盛り上げてくるのも痺れるポイント。
  • しっかり遊ばせる収集要素
    • J.J.はドーナツが好物という設定であり、ゲーム全体に全271個のドーナツがコレクション要素として配置されている。
    • 集める事によってNPCとのチャットのやりとりがアンロックされる他、イラストギャラリーに設定資料やラフ画が追加される。
    • とはいえ収集具合によってゲーム進行の本筋に変化が起きるといったことはない。無視してゲームクリアを優先しても良い。
    • この他、2周目からの収集要素もあり。
  • NPCの人物設定が読み取れるリアルな会話
    • 多くのNPCが存在するが、そのほぼ全員が直接登場するのではなく、J.J.と過去にやりとりしたチャットが少しずつアンロックされる、という形でストーリーに参加する。
    • 過保護でJ.J.に「まとも」に育つことを願う母親はチャットの文章だけでも鬱陶しさや抑圧を感じるし、よき理解者であるグッドマン教授はよき理解者であるがゆえにJ.J.と母親の確執をフォローしきれない。短い文章の応酬ながら各キャラクターは書き分けられている。
    • また、灰になったはずのぬいぐるみ「F.K.」も序盤からなぜかチャットを送ってくる。本ゲームに存在する貴重なコメディ要員として雰囲気に緩急をつけている。
  • 2周目で解放されるチート機能の快適性
    • ゲームクリア後は収集やりこみを継続することができ、更に「チート」機能が解放される。
    • 移動速度アップ、必須イベントの早送り、その場で強制的に生首になる、といった攻略に役立つ機能が搭載されており、各ステージを回り直すストレスが軽減される。また他にJ.J.の見た目を変更させるお遊び要素もある。

賛否両論点

  • 百合に見せかけて百合好きには地雷?
    • 金髪ロングのボクっ娘で美人のJ.J.と大人しそうなショートのエミリーのキャンプデート、とあれば「百合」好きの方は気になるかもしれないが、ある事情により手放しでオススメできない。
    • ストーリーの根幹に関わるためネタバレなしで言及することは不可能だが、「女の子カップル同士のハッピーエンド」があるものと信じて進めると騙されたという印象になるかもしれない。
    • しかし本作のストーリーはこのエンディングを以てこそ完結するものであり、その内容は表現として真っ当なものである。あくまで、百合だけを期待しすぎると、という話である。
      • とはいえこれはもうジャンル嗜好の話であり、「これはこれでOK」という向きもあるのでややこしい。
  • とにかく悲惨な描写
    • 細かいモーションやSEひとつとっても、「痛そう」感が大変強い。
    • 片脚だけが欠損した状態で歩行を試みると、一瞬だけ一本足で立った後、すぐにバランスを崩して腹ばいに倒れ込んでしまう。努力をしようとした感じが非常に虚しく、また惨くもある。
    • 生首状態で移動すると、進むたびに「ヌチャ、ヌチャ……」といった生々しいSEが再生される。
    • いかなる状態であっても「呼びかけ」アクションは行えるが、欠損や炎上状態の時は通常と違い、かなり弱弱しい声で「エミリィ……」と囁いたり、そもそも言葉にならず呻いたりする。
    • コンセプトを踏まえたうえでのこだわりには違いないし、違和感の徹底的な排除として評価できる点ではあるのだが、さすがに万人におすすめするのは難しい。
  • 終盤のやや唐突気味なストーリー展開
    • J.J.が自分自身やエミリーと向き合うきっかけとなるイベントが終盤に発生するが、ここでの演出が若干先鋭的というか唐突であり、プレイヤーを置いてきぼりにする可能性がある。J.J.の心のうちを暗喩した展開ではあるのだが、あまり深く考えずに進めた方が良いかもしれない。

問題点

  • ややもっさりしたモーション
    • J.J.のモーションはリアル指向であり、身体能力は(女子大生として見るなら)かなり高いものの、2Dアクションとしてはややもっさり気味である。
    • チート機能のない1周目は移動が遅く、重たいオブジェクトをゆっくり押し引きする場面もちょくちょくあり、チェーンの上り下りなどでウェイトタイムも度々あるので、爽快感とは対極の印象が強い。
  • 時折暴発する「呼びかけ」アクション
    • エミリーを呼ぶアクションは、謎解き用のオブジェクトを拾ったり、仕掛けを動かしたりするボタンと同じである。殆どの場合出し分けは良好だが、一部当たり判定の小さなオブジェクトをつかもうとすると「エミリー?」が暴発してしまいやすい。
      • 攻略上デメリットになることはないが、単純に無駄行動のため頻発すると若干ストレスに。
  • 一部の拘束時間が長いトラップ
    • 攻略上故意にトラップに引っかかる必要が多い本作だが、中には接触してから実際に発動するまでに数秒の演出を挿むものがある。
    • 赤子のトラップ:手足が工具で出来ている赤ん坊のような人形。宙に浮いており、J.J.が下を通りかかると確実に捕獲してくる。
      • 捕まったJ.J.が数秒もがいた後、上空画面外に連れ去られバラバラになって降ってくるという演出なのだが、初見こそ新鮮さがあるものの何度も引っかかると苛立ちが生じるかも。
      • 匍匐状態だと捕まらずに済むうえ、よく見ると画面上端に少し見えているのだが、うっかり捕まることも多い。
    • シンバルを持った猿のおもちゃ:J.J.を見つけるとシンバルを鳴らしながら追いかけてきて挟んでくる。挟まれるとJ.J.は首骨折状態となり、マップの天地が逆さまになる。
      • これも演出が5秒程度あり、しかも同一ステージ内で繰り返し何度もわざと挟まれる必要がある(ドーナツ集めをするなら尚のこと)。SEがガシャガシャとうるさいのも特徴。
      • さらに首骨折状態を完治する際のアニメーションも他の治療に比べて長い。無理やり首の骨を「ゴキッ」と戻すJ.J.の男前っぷりは見ものではあるが…。
    • 換気扇:巨大な換気扇であり、J.J.を吸い込んだ後、全身を分解してダクトから放り出す。
      • 吸われてから長めの抵抗モーションが入る。謎解きの解法が見えてこない間は何度も吸い込まれることもあり、やはりテンポ感を乱してくる。
      • 全身が換気扇に吸着してはりつけのようになってから体を分解される、という凝った演出なので、やはり初見のインパクトはなかなかのものではある。
  • 少々面倒なチェックポイント位置設定
    • ミス時は自動的に最後に通過したチェックポイントからやり直しとなるが、その際、ポイント以降にある謎解きは未解決状態に戻ってしまう。
    • また「生首状態でトゲの密集地帯を抜ける」「何度も猿のおもちゃにシンバルを叩きつけられる」といったステージで戻ってしまうと、もう一度抜け直すというだけで精神的なカセになりがち。
  • マップ読込で発生する一瞬のフリーズ
    • マップ間の読込ポイントに入ると、ロード画面にならない代わりにごく一瞬画面全体がカクッと止まる。
    • ステージ間をシームレスにつなぐための措置ではあるが、若干興ざめするポイントかもしれない。
  • 進行不可になる、などのバグ
    • 投げた電気のプラグが地面にめり込んで拾えなくなる
    • 首の骨を折りMAPが上下逆になった後に体を修復すると画面外に落ち続ける、など

総評

本作は類例の多くないコンセプトの上に作られた作品であり、それゆえに人を選ぶ面がある。
それはグロめの表現は勿論、主人公の境遇やその展開を含めてのことであり、しかも攻略中に感じていた本作への印象がエンディングを迎えた時に180度変わってしまう可能性があるためである。

人によってはその結末に少々の期待外れを感じるかもしれない。
しかし一方で、記載した問題点などに不満を感じながらも最後まで進めた時、「すべての欠点を覆した」という感動に帰着するかもしれない。
極端なところでは「このゲームに存在する欠点は、主人公の物語を完結させるためにプレイヤーが必然として受けるべきストレスだった」といった主旨のレビューまであるのだ。

それは「レベルデザイン」と「ストーリー」、そして「メッセージ性」が非常に高いレベルで融和している、ひとつの証拠と言える。
いずれにしても多くのプレイヤーにとって、何かしらの強い印象を残すことは確かだ。

現在は体験版もあるので、興味を持ったならばそれを触れてみるのもアリだろう。

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最終更新:2024年02月24日 15:37

*1 なお、少しでも欠損が発生した時点でJ.J.のグラフィックは黒塗りとなる。

*2 頭だけで転がりながら移動し、意外と高く跳ねる。

*3 もっとも、このような現状を招いたのは性的少数者の権利向上を謳う活動家の行き過ぎた行動(いわゆるポリコレ)の結果なのだが。