RPGツクールMZ

【あーるぴーじーつくーる えむぜっと】

ジャンル RPG制作ツール
対応機種 Windows 8.1/10 日本語版(64bit版)
Mac OS X 10.13以降
メディア ダウンロード専売
発売元 Degica
開発元 エンターブレイン(KADOKAWA)
発売日 2020年8月20日
定価 通常版: 7,980円
バンドル版: 12,744円
バンドルS版: 15,844円(全て税抜)
判定 良作
ポイント 『MV』における『2003』的な立ち位置
シリーズ初の定価10,000円切り(税込で)
マンネリだが追加機能は軒並み好評
ただし要求スペック問題は更に深刻に
新規ならお得だが前作ユーザーには割高
ツクールシリーズ


概要

PC版『RPGツクール』の第8弾。2020年6月11日に発表され、同年8月20日に発売された。
ベースとなるのは前作である『MV』であり、前作に新機能を加えたと言って良い内容である。 発表から発売までがわずか2ヶ月と、ツクールシリーズとしては異例といって良いスピード発売がされている。

PC版『RPGツクール』としては初のダウンロード専売であり、パッケージ版の発売はない。


新機能

基本的なシステム、UIは前作と同様であるため、新機能のみを列挙する。

+ 新機能の一覧
  • アニメーションの設定が外部ツールである「Effekseer」を用いて作成することが出来るようになった。
    • これにより3Dパーティクルエフェクトを扱えるようになっている。
    • なお、Ver.1.4.0未満では必須であったが、Ver.1.4.0以降では旧作同様のアニメーションとして作成も可能。
  • 移動ルートにプレビューが表示されるようになった。
    • イベントコマンドの「移動ルート設定」においてどのように動くかのプレビューが表示されるようになり設定しやすくなっている。
    • 特に移動ルートが長い場合において、想定外の移動を起こしにくく、また修正しやすくなった。
  • その他のイベントコマンドで以下の点が改良されている。
    • 文章の表示において名前欄を表示できるようになった。
    • 条件分岐の「ボタン」で「トリガーされている」「リピートされている」が選択できるようになった。
      • トリガーされている、はボタンを押した瞬間のみ条件を満たしたという判定であり、リピートされている、はボタンを押しっぱなしにしている場合でも条件を満たしたという判定である。
    • 指定位置の情報取得の「場所」にイベント、プレイヤーが追加された。
      • プレイヤーがいる場所などを利用したイベントが作りやすくなっている。
    • マップのスクロールに「完了するまでウェイト」が追加された。
    • ピクチャの移動に一定速度、ゆっくり始まる、ゆっくり終わる、ゆっくり始まって終わるの設定が追加された。
  • マップエディタにおいてレイヤーを手動で切り替えられるようになった。
    • なお、『MV』と同様の操作をしたければ自動にすれば構わない。
  • キャラクタージェネレーターでパーツ単位の位置の調整が可能になった。
  • コモンイベントの上限が2000になった。
  • 画面解像度やフォントサイズをデータベースで設定可能になった。
  • デプロイメント時に上書き防止機能がついた。
    • 前作では誤ってプロジェクトデータに上書きしてしまい以後の編集が出来なくなるケースがあった。
  • サウンドデータはogg形式のみでよくなった。
  • イベントモードに切り替えた際にマップのイベントリストが表示され、そこから直接編集出来るようになった。
  • タイムプログレス戦闘(いわゆるFFのATB)が選択できるようになった。
    • 従来のターン制と任意で選択可能。また、タイムプログレス戦闘の場合、コマンド選択時にも他のキャラクターのゲージが溜まるアクティブとたまらないウェイトから選択可能。
  • スマホでプレイしやすいユーザーインターフェースの導入。
    • キャンセルやメニューを開く等の操作がしやすくなっている。
  • オートセーブが追加された。
    • マップの移動、戦闘後に自動でセーブされるスペースが用意された。
  • プラグインコマンドが選択式になった。
    • わざわざコマンドを打ち込まずに選択式で呼び出す形式に変更された。パラメータと同様引数の入力も分かりやすくなっている。
  • プラグインの上下関係等を設定できるようになった。
    • これにより、○○がないと××が動かない、といった設定を記述しておくことで、プラグイン画面で注意として表示させることが出来るようになっており、利用者に分かりやすくなっている。
  • プラグインに配布元URLを表示させることが出来るようになった。
  • コアスクリプトのバージョンを選べるようになった。
    • 後のコアスクリプトだと上手く動かない場合には敢えて古いバージョンのコアスクリプトを使うことも可能。

アップデートによる追加要素

  • 戦闘アニメーションでEffekseerが必須ではなくなった(Ver.1.4.0)
  • データベースのアイテム等の最大値が2000から9999まで増やせるようになった(Ver.1.5.0)
    • ただし、むやみに最大値を増やすと処理が重くなるため、むやみに増やさない方が良い旨Twitter等でアナウンスされた。

評価点

前作『MV』からのデータ引継が可能

  • ツクールシリーズ』では『2000』から『2003』でデータ引継(コンバート)が出来る以外は引継が不可であったが、本作では仕様が似通っている『MV』からの引継が可能となった。
    • マップやタイルセットといった『MV』規格で作られている配布素材もコンバート機能を使うことで本作で使用することもできる。
  • 例外として、企画が変わったアニメーションデータや、プログラム仕様が変わったプラグインのデータなど一部引継ができないものもある。
    • プラグインデータは引継不可が原則であるものの、この点についてはゲームのコアスクリプトが一部変更されているのが理由であり、大部分は前作と同様なので実際のところ引き継いでそのまま使える
    • ただし、規格が変わっているアニメーションデータや、プラグインデータなど一部のデータについては引継不可となっている。
      • プラグインデータについては引継不可が原則となっているが、ゲームの仕様そのものは似通っているため、引き継いでそのまま利用可能となる場合もある。
      • なお、『MV』規格の素材がそのまま利用できるため、ネットで配布素材を探す際には『MV』用に作られた素材を使ってもプラグイン以外であれば基本的に問題ないが、配布素材の利用条件が『MV』ユーザー登録必須とされているケースもあるため利用する際には注意が必要である。
  • 新機能によって自己完結力が強化された
    • 移動ルートのプレビューや、プラグインコマンドの仕様変更については純粋にエディタの使い勝手の良さに繋がっている。
    • タイムプログレス戦闘(いわゆる昔のFFのATB)、オートセーブ、名前の表示欄などは旧作でも有志によってプラグインが作成されていた機能であるが、これらが標準機能となり、プラグインの導入の手間を考えることなく初心者でも利用しやすくなった。
      • タイムプログレス戦闘は『2023』と異なり、フロントビューで行うことも可能であり、拡張性が高い。「(サイドビューの素材を用意するのは大変なので)見た目は『DQ』のようなフロントビュースタイルでいいが、システムだけは『FF』のようにしたい」という要望にも対応出来ている。
    • 新機能そのものは、旧作の問題点の解消や、旧作で要望された内容を踏襲していることもあって総じて好評。
      • 例外といっていいのは、アニメーション製作で外部ツール「Effekseer」が必須であったことは賛否両論となった。
        もっとも、Ver.1.4.0以降では旧作通りのアニメーション方式が選択可能となり、こだわりたい人だけが「Effekseer」を使えば良いようになった。
  • 前作の問題点は一部解消している
    • JSのマニュアルが充実し、プラグイン初心者にも配慮した記載がされるようになった。
    • 散々だった前作のサンプルデータと比較し、本作のサンプルデータは取り立てて秀でているとは言えずとも旧作相当のものは用意されている。
    • オーディオファイルの対応形式がoggのみとなった。この点のみ見れば今ひとつかもしれないが、m4aとoggの両方を用意する必要があった前作と比べればマシになったと言って良いだろう。
    • デプロイメント(出力)時に編集用データを誤って上書きして泣きを見た前作ツクラーは相応にいたと思われるが、上書き防止機能が実装されたため、単純にありがたい修正である。
  • ある程度手を出しやすくなった価格
    • 前作は発売当初の価格が12,800円と本作の1.5倍程度以上の値段であった。しかし本作の通常版は税込で10,000円を切る値段を実現している。最初から税込10,000円を下回る金額となっているPC版RPGツクールは本作が初である。
      • マイナーチェンジというと過小評価しすぎであるが、それでも基本的な部分が『MV』と同等なためか、あるいはダウンロード専売なためか、この値段が実現できたのだろう。
    • 機能面でいえば、前作を踏襲し、更に問題点を解消した上で、基本的な価格は前作より安いので、ツクールシリーズを始めて手に取る人にとってはかなりお得となっている。

問題点

前作からの進化が乏しい

  • 本作からツクールを触れる、或いは『VX Ace』以前から乗り換えるということであれば気にならないが、既に『MV』でゲームを作成している人にとっては大きな問題点がこちらである。
  • 『本作』が『前作』から変わった点については、乱暴な言い方をしてしまうと新要素に記載した内容のみといっても過言ではない。
    なお、これらの新要素については公式ページに全て記載がされているため、公式ページに記載された内容が『MV』から進化した全てといえる。
    • 新要素そのものは好評であることは間違いないのだが、多くの要素は「『MV』であっても有志のプラグインによって既に再現可能である」というのが現状であり、有志プラグインを積極的に導入していればわざわざ本作を購入する必要もない。
      • プラグインではどうにもならない移動ルートプレビューやプラグインコマンドの仕様変更などのツールに依存した機能は本作独自の新要素であるが、逆に言うと真の意味で目新しい要素はこの程度となってしまう。
        しかもプラグインコマンドの仕様変更の恩恵は「これまでネット上で確認しなければならなかった情報をツール内で完結できるようになった」という程度であり、皮肉にもこの恩恵を感じられるような人は既にプラグインを多く入れいることから余計に本作の新要素の恩恵を感じにくいタイプの人だと思われる。
  • RPGツクールシリーズは、根幹こそ変わらないが似ているとされる『2000』と『2003』においても明確に新要素と呼べる要素があった。
    • 例えば『2003』ではレベル上限の増加(後に『2000 Value!』で逆輸入された)、自動生成ダンジョン、検索機能、そしてサイドビュー&本作でいうタイムプログレスバトルといった具合に引継こそできるが、新要素は盛りだくさんであった。
    • 名称が似ている『VX』と『VX Ace』は名前こそ似ているがそもそも別物といっていい程進化している。
    • これらに限らず、RPGツクールシリーズの新作が出た際には賛否両論となることはあってもそのツールを特徴付ける新要素が追加されているのが常である。詳細は各記事を参考にしていただくとよく分かるだろう。
  • 本作で新要素が少なかったというのは好意的に解釈すれば前作の時点で『RPGツクール』として一つの完成形に到達したということなのだろうが、それならば敢えて新作を出さずに有償のアップデートで対応できたのではないかと疑問視される。
    • コアスクリプトが変更されているとしても本作ではコアスクリプトのバージョン切り替え機能もあるため、選択式にすれば問題なかったはずだろう。
    • 価格が旧作のリリース当初の値段より安価なのは事実上のアッパーバージョンであることを意識してのことかもしれないが、前作からの追加要素を考えると前作のユーザーにとってはかなり割高と評されても無理はないだろう。
  • m4aファイルを入れなくて済むようになったため「容量が削減できる=他の画像データなどを入れられる」ため、より作品の制約が減ったというメリットもなくはないが、そもそも前作の記事でも述べられているとおり、容量の制約が少なくなった現代においてこの点が大きなメリットとなることはまずないだろう。
  • 前作から引継ができるとはいえ、プラグインは原則として引き継げないため、プラグインを利用していたツクラーにとっては引き継ぎが事実上できないというケースも少なくない。
    • 引き継ぎ出来るかどうかを解読して調べられるツクラーであれば問題ないが、そもそもプラグインに精通しているツクラーであれば本作の新要素の恩恵は受けがたいのは何度も述べた通りである。
  • 要求スペックがさらに上がったため、ゲームが重くなった
    • ある程度スペックが高ければ問題ないが、ロースペックのPCでは処理落ちやフリーズが多く存在する。
    • 前作のMVはアップデートでかなり重さが改善されただけに、ほとんど同じMZが重いままなのはやはり納得しにくい。
    • 作る方としてはテストプレイに弊害が生じ、プレイする方としてはハードルがまた上がってしまったのはいただけない。
      • 前作のマイナーチェンジという事で前作にもあった作成時の操作がPC上で処理出来なくなると画面が固まって強制終了と言う仕様も残っており、必要スペックが上昇した事でより頻発しやすくなった。その為に長期のイベント作成時はこまめに中断して保存(手動)しておかないと強制終了で数十分単位の作成結果が消えて泣きを見る事に。
    • 当初は「Effekseer」のアニメーションの処理は重かったものの、この点については「Effekseer」公式が配布しているプラグインを導入することで処理が最適化された。また、上述の通り、現在は「Effekseer」の利用は必須ではない。
  • 先祖返りした仕様はそのまま
    • 前作で先祖返りしてしまったイベントページの作成数が1/5に減ったり、マップサイズが1/4に減ったり、敵キャラのレーティングが1減った仕様は相変わらず。
      • データベースの項目数はVer.1.5.0で大幅に増加した。この際公式Twitterでデータベースの最大値についてアンケートが採られたが、この点については一切触れられていない。
  • その他の問題点
    • 対応環境からLinuxが消えた。影響が出る範囲はそれほど多くないと思われるが純粋に劣化点である。
    • デフォルト素材がマニアック寄りになった。
      • 一般兵士や雑魚モンスター(スライムやゴブリン等)として使えそうなグラフィックが無い、BGMがアクションゲーム風の物が多いなど、癖が強く汎用性で劣る素材が多くなった。
      • 一応、『MV』と仕様が近いのでMVから素材を持ってくれば解決するのだが、逆に言えば自作が出来ないユーザーは『MV』との同時運用が必須になってしまいがちになるとも言える。

改善点

  • アニメーションデータの作成が「Effekseer」必須となった
    • これまでデータベースで作成可能だったアニメーションデータであるが本作では外部ツールである「Effekseer」を使って作成する必要がある。
    • 公式でも謳っているとおり、Effekseerを使うことでこれまでよりも美しいアニメーションを作成することが出来る。ただ、必須となってしまったことから、これまでのノウハウは全く活かせなくなってしまっている。
    • 実際、Effekseer自体は慣れれば美しいアニメーションを作ることが出来るが、ハードルは決して低くないのが難点である。
    • バージョン1.4.0からは『MV』方式のアニメーション編集機能が正式に再実装されたため、「Effekseer」と併用可能になり必須ではなくなった。
      • もともと「データベースのエディタ上からは消えたが内部的に残っていた機能」であり、『MV』のデータをコピーすることで無理やり呼び出すことは不可能ではなかった。 開発側もその機能の存在を認知しており、やり方をフォーラムやSNSで案内していた。それを正式に取り入れた形となる。

総評

『RPGツクールMV』から更に進化した完全新作……というよりは、『RPGツクールMV』に新要素を少し加えた完全版といった表現がしっくりくる一作である。
元々使い勝手の良い『MV』のアッパーバージョンである本作は、機能面ではツクール初心者が手に取るのにピッタリではある。
しかしながら、『MV』を既に持っているツクラーに本作をオススメできるかというと別問題である。
値段もツクールシリーズの基本価格としてこそ安価だが、前作からの進化と9,000円という値段が釣り合うとは言い難い。
そればかりか、プラグインを使ったゲーム製作をしている場合は要求スペックの跳ね上がりも鑑みると、本作の進化点に目をつぶりそのまま『MV』で作品作りをした方が無難であるという結果にもなりかねない。
出来は確かであるとはいえ完全版とは言い難く、今からRPGを作りたいというプレイヤーや『VX Ace』までのユーザーには手放しでお勧めできるが、『MV』ユーザーはこの点をよく考えて乗り換えるかどうか考えたいところである。


余談

  • 前述の通りPC版『RPGツクール』としては初の初期税込価格が10,000円を下回った作品であり、同時にパッケージ版が発売されていないのも初である。
  • 本作の発売を機に『2000』『XP』『VX』『VX Ace』の4作品の技術的サポートが2021年1月24日にサポート終了された。
    • これに合わせ規約が改正され、サポート終了した製品はユーザー登録が不要となり、素材使用の制約が大幅に緩和された。
      • その後『RPG Maker Unite』の発売に合わせ、更に素材使用の制約が緩和され、ツクール以外の作品でツクールの素材を使うことも認められるようになった。
  • 本作の発売直前には予約キャンペーンで本作を買うと、前作である『MV』をプレゼントするというキャンペーンが実施されていた。操作感はほぼ同じなので予習にはなるのだろうか。
    • 上記のコンバート機能でも補足したが、『MV』規格の配布素材を本作でコンバートして使用する際、『MV』のユーザー登録が必要になる場合がある。
      • その為かは分からないが、Steamでは『MV』と本作のバンドル版も売られている。
    • ちなみに既に『MV』を持っている場合はプレゼント用のコードがもらえるという仕様であった。つまり布教用。

その後の展開

  • 2022年2月15日にUnity上で動く『ツクール』シリーズの新作『RPG Maker Unite』が発表され、2023年5月8日にリリースされた。
    • この発表に際し『ツクール』シリーズは以後、グローバル化を見越し「Maker」というタイトルに呼称を統一するとのことである*1
  • その後、2023年10月には家庭用ゲーム機版『RPGツクール』シリーズ最新作『RPG Maker With』が発表されたため、本作が『RPGツクール』の名を冠する最終作となる可能性が高い。
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最終更新:2024年03月17日 17:01

*1 つまり、「RPGツクール」なら今後は「RPG Maker」に統一されることになる。実際、海外版はこれまでの作品も『RPG Maker』として販売されている。