◇ ◇ ◇



時刻は、もう間もなく六時なろうとしていた。

「それでは、ビーティー……君の意見を聞かせてもらおうか」

アヴドゥルが尋ねてきた。ビーティーは返事もせずに、ただ崩れかけのホテルの様子をじっと見つめていた。
吹き抜けの玄関ホール、崩れかけの天井に穴だらけの床板。あちこちで瓦礫が山になり、床のいたるところに血痕が飛んでいた。
何かが起きたことは明白であった。だがそのなにかが、まったくもってわからない。そしてそれを認めることが、ビーティーにとっては何より屈辱的だった。
怒りに拳が震える。情けなくて、悔しくて、噛みしめた唇からツゥ……、と一滴の血が流れて行った。

アヴドゥルは辛抱強く返事を待った。数十秒経っても何も言わない少年を見て、彼は静かに視線を逸らした。
慰めることも非難することもしなかった。こんな達観したような態度ですら、きっとビーティーは嫌がるのだろう。そうアヴドゥルは思ったから。
彼は少年でありながら悪魔のような知性を持ち、だからこそ人一倍誇り高い。
今のアヴドゥルの態度は彼を子ども扱いするものであった。それが彼の気に障ると彼にはわかっていたが、どうしようもないのだから仕方ない。
アヴドゥルは傍らにスタンドを呼び出した。

「『魔術師の赤』……ッ!」

ボッ、という音とともに空間に火がともる。つり下がった六つの炎がアヴドルの横顔を照らした。
ビーティーが見ると、男は鋭い視線であたりを見回していた。その横顔は、まるで今にも戦いが起こるかのような緊張感が漂っている。
アヴドゥルが囁くように口を開く。彼はじっと炎を睨み、少年に問いかけた。

「君に私のスタンド能力を説明した時のことを覚えているかね?」
「ああ」
「実を言うと私は一つだけ嘘をついていたんだ」
「何……?」
「私の能力は確かに炎を操ること。だが実を言うとそれだけではないんだ。
 炎は全ての始まり、即ち生命の始まり。私は炎を制することで生命を制することもできるのだ。
 そう、私は生命の流れを読み取ることができるのだよ、この『生物探知機』を利用してね」

言葉を言い切るか、言い切らないかの内に、上下の炎が大きく動いた。
アヴドゥルはビーティーを庇うように、さらに身を寄せる。
同時に彼のスタンドが動くと二つの炎が龍のように身をくねらせ、片方は遥か頭上の天井を、他方は床に転がる瓦礫を包みこんだ。
一瞬のうちに辺り一面が炎に包まれ、崩れかけのホテルはたちまち即席サウナ室へと姿を変えた。
玉のような汗がビーティーの額から噴き出した。その隣でまるで舞台の上に立つ俳優のように、アヴドゥルが胸を張り、叫んだ。

「つまり私は君たちの存在にもとっくに気がついていたのだよッ
 屋根の上のお前、そして、姿を隠している君ッ そろそろ正体を現したらどうなんだね……ッ!」

アヴドゥルは気づいていたのだ。ホテルに一歩足を踏み入れたその時から、自分たち以外の何者かがここに存在していることに。
皮膚がひりつく様な鋭い気配、見透かすように向けられた何者かの視線。相当の手だれだな、アヴドゥルはそう思っていたのだ。

「出てこないというのであれば……やれッ、『魔術師の赤』!」

アヴドゥルのスタンドが再び動き出したのと、二つの影が動いたのは同時だった。
『魔術師の赤』は振りかぶった動作を止め、上空からの攻撃を両腕で防ぐ。
本体のアヴドゥルはビーティーを引っ張るようにその場から跳躍、床下からの攻撃を紙一重で避けた。

咄嗟の危険を回避し終えると、ビーティーは掴まれていた腕を振り払う。お節介かくんじゃない、そう隣に並び立つブ男に毒づいた。
少年の態度にカチンときたのか、男も負けじと皮肉でやり返す。私がいなかったらな、ビーティー、君は間違いなく死んでいたんだぞ?
喧嘩腰ではあったが今はそんな時ではない、そう判断できるぐらいに二人は大人であり冷静だった。
男と少年は並び立ち、目の前の危険に眼を細める。姿を露わにした二人の男、炎を背後に影が踊る。

機械仕掛けの身体を持つ、如何にも胡散臭そうな軍人崩れの男。
一見ただのチンピラにしか見えず、そのくせ視線だけはやたら鋭い伊達男。

魔術師の赤がそっと腕を動かした。その動きに合わせるかのように炎は益々燃え盛り、四人は炎の渦に囚われた。
戦いは避けられないとアヴドゥルは思った。
二人の男はどちらも交渉のテーブルについてくれそうにない。情報を聞き出そうと手を緩めれば、間違いなく手痛い反撃を喰らうことになるだろう。
殺るか、殺られるかの勝負になる。アヴドゥルの勘がそう囁いた。男はぐっと全身に力を込めると、仕掛けるタイミングを見計らう。

「数分だけ時間を稼いでくれ。その間に僕が策を考える」

ビーティーがアヴドゥルの耳元でそう言った。男は頷き、戦いの構えをとる。
気の抜けない、嫌な沈黙が四人の動きをからめ捕る。轟々と音を立てて燃え盛る炎が、容赦なく室温をあげていく。
滴る汗を拭うことすら隙を生みかねない。アヴドゥルは辛抱強く隙を伺っていた。来るべきタイミングを逃さんと、全神経を集中させていく……―――


そして時が来た。
壁にくくられた古時計がカチリと音を立て六時を示した、まさにその時。
三つの影が、動きだした。



【B-8 サンモリッツ廃ホテル1階大階段前ロビー / 1日目早朝(放送直前)】

【モハメド・アヴドゥル】
[スタンド]:『魔術師の赤(マジシャンズ・レッド)』
[時間軸]:JC26巻 ヴァニラ・アイスの落書きを見て振り返った直後
[状態]:健康、後悔
[装備]:六助じいさんの猟銃(5/5)
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームの破壊、脱出。DIOを倒す。
1.この場を切り抜ける。
2.ポルナレフを殺した人物を突き止め、報いを受けさせなければならない。
3.ディアボロとは誰だ?レクイエムとはなんだ? DIOの仕業ではないのか?
4.ブチャラティという男に会う。ポルナレフのことを何か知っているかもしれない。

【ビーティー】
[能力]:なし
[時間軸]: そばかすの不気味少年事件、そばかすの少年が救急車にひかれた直後
[状態]: 健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、薬物庫の鍵、鉄球、薬品数種類
[思考・状況]
基本行動方針:主催たちが気に食わないからしかるべき罰を与えてやる
1.この場を切り抜けるため、策を考える。
2.公一をさがす
[備考]
アヴドゥルとビーティーの移動経路は次の通りです。 ぶどうが丘高校 → 杜王町立図書館 → サンモリッツ廃ホテル


【マリオ・ズッケェロ】
[能力]:『ソフト・マシーン』
[時間軸]:ラグーン号でブチャラティと一対一になった直後。
[状態]:健康
[装備]:紫外線照射装置
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して金と地位を得る。
1.この場を切り抜ける。

【ドルド】
[能力]:身体の半分以上を占めている機械&兵器の数々
[時間軸]:ケインとブラッディに拘束されて霞の目博士のもとに連れて行かれる直前
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ジョルノの双眼鏡、ポルポのライター、ランダム支給品0~1(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:生き残り、且つ成績を残して霞の目博士からの処刑をまぬがれたい
0.この場を切り抜ける
1.コレ(ライター)を誰かに拾わせる。
2.仲間が欲しい。できれば利用できるお人好しがいい。
[備考]
ドルドがどのタイミングから屋根上に潜んでいたかは次以降の書き手さんにお任せします。



 ◇ ◇ ◇



「―――……ここは?」
「気がついたか、ウィル」

はっきりしない頭で考える。ウィル・A・ツェペリが最後に見た光景は飛びかかってきた少年と銀色に輝くナイフの切っ先。
そこで記憶が途絶えていた。襲われたかどうかすらあやふやで、そもそも今自分がどこにいるかすら、ツェペリにはわからなかった。
身体を起こすと、胸に置かれていたシルクハットが転がり落ちる。どうやら彼はベットに寝かされていたようだった。

起き上がったついでに自分の身体を点検してみる。
身体は包帯でぐるぐる巻きにされ、一番深い刺し傷には何度も軟膏を塗りなおしたような跡が残っていた。
手慣れた、そして丁寧な治療が彼の体には施されていた。

上半身を起こしたところで、ツェペリは枕元の椅子に座っているジャイロの存在にようやく気づく。
服の乱れはあるものの、どうやらジャイロは大きな怪我を追ってないようだ。苦虫をつぶしたような顔で、黙って彼にコーヒーカップを突き出したジャイロ・ツェペリ。
自分のことはともかく、彼が無事であることがとりあえずツェペリを安心させた。ほっと息を吐くと彼は笑顔でカップを受け取り、ジャイロに話しかける。

「どうやら一杯食わされたようじゃの。やれやれ、年はとりたくないものだ」
「まだあまり動かないほうがいい、あくまで応急処置なんだ。出来ることなら病院にぶち込んでベッドごとぐるぐる巻きにしてやりたいぐらいだぜ」
「そいつは勘弁願いたいもんだ。年をとったと言ったが、まだまだ若い者には負けていられんぞ」

カップの奥から、ジャイロに笑いかけてやる。ジャイロはぎこちなく笑顔を返したが、やがて目線を逸らし窓の外の風景へと目を向けた。
ツェペリもつられるようにその視線を追う。東に面した窓からは登りかけの太陽がよく見えた。
ついさっきまで辺りは夜だったというのに、もう太陽が出ようとしているのか。時間の進む速さに驚きを隠せないツェペリ。枕元に置かれた時計を見てみる。
時刻は6時前だった。放送が始まるまでもう数分もかからないだろう。

皆は無事なのか、戦いはどう終わったのか。ワムウは、トニオは、宮本は……。皆はいったいどこにいるのだろうか。
ツェペリには聞きたいことが山のようにあった。その一方で憂えたジャイロの横顔を見て、ああ、やはり全員無事とはいかなかった、とも思った。
熱いコーヒーをもう一口含むと、彼は時間をかけてその風味を味わった。口の中にじわりと広がる苦味が、彼の思考をはっきりさせていく。

誰一人悲しい想いをさせたくなかった。誰一人失いたくなかった。ツェペリは別れの辛さを人生通して嫌というほど味わってきた。
もう二度とそんな想いをしたくないし、誰にもそんな想いをしてほしくない。彼は常にそのために行動してきたはずだったが、現実は非情である。
無力感と虚無感に大きなため息が漏れ出た。誤魔化すようにもう一度カップを口元へ運び、ツェペリは目を伏せる。
小さく丸まった老いぼれの背中を、ジャイロは複雑な視線で見つめていた。

熱々のコーヒーが冷め始めたころ、サイドテーブルにカップを置くとツェペリが姿勢をただした。
気持ちが落ち着いたのを見てとったのだろう、ジャイロも窓際から離れると、もう一度枕もとの椅子に腰かける。
しばらくの間、沈黙が流れた。先に口を開いたのはジャイロだった。

「残念な知らせがある」
「言ってみてくれ。覚悟はできてるよ」

ジャイロはツェペリの真っすぐな視線を受け止めきれず、堪らず視線を床へと落とす。
帽子から垂れ下がった前髪をかきあげると、深い溜息を吐く。またしばらくの間沈黙が流れ、そしてジャイロが言った。

「ウィル、アンタの容体についてだ」
「……容体?」

てっきり仲間の死を告げられるものだと思っていた老人は、びっくりしたかのように目をしばたかせる。
ああ、やっぱりな。そう言わんばかりに、ジャイロの表情に影がさす。彼は奥歯を噛みしめると、なんとか声を絞り出した。

「アンタが戦いの途中倒れたのは敵スタンドの攻撃だ。脳内に極小のスタンドが隠れ潜んでいた。
 その攻撃が元で大きな隙が生まれ、アンタはあのナイフ少年の一撃をくらっちまったってわけだ。
 だが本当にラッキーな事で、刺し傷はそれほど痛手じゃない。狙ったみたいに心臓の横をすり抜け、大きな血管も全くの無傷だ」
「……そりゃ、よかった。日ごろの行いのおかげだのう」

ジャイロは返事も返さず、話を続ける。

「むしろ重症だったのは今言った、脳内に潜んだスタンドの攻撃のほうだ。
 ワムウの野郎がいなかったらどうなってた事やら。アイツのおかげで今のあんたは生きてるようなもんだぜ。
 俺がやったこと言えば止血と簡単な治療、被害の拡大を防ぐことだけだった」
「……そうだったのか。あやつには今度会った時、たっぷり礼を返すこととしよう」

ツェペリは次第に不安に襲われ始めた。ジャイロの歯切れの悪さが、不穏な空気を醸し出していた。
焦燥に突き動かされるまま、ジャイロに問いかけた。何を躊躇っているかはわからないが、ハッキリ言ってくれ。
さっきも言ったが私は覚悟している、何が起きても平気だから。そう言おうと口を開きかけた時だった。

「ハッキリ言おう。アンタは大きな後遺症を負った」

ジャイロはツェペリと視線を合わせようとしなかった。ジャイロは医師としての罪悪感から、それができなかった。
助けられなかった自分の非力さ、医術と技術の限界。情けない気持ちでいっぱいだった。こんなにも惨めな気持ちになったのはいつ以来だっただろうか。
信じられないという想いで自分を見つめるツェペリの視線が、なによりもジャイロには辛かった。
ツェペリの唇が震える。言うべき言葉を探しているようだった。
逃げては駄目だ。最後に残った医師としての矜持がジャイロを患者と向き合わせた。顔をあげ、視線を合わせると、彼はきっぱりとした口調でこう言い切った。


「アンタの足はもう動かない。もう二度と動くことはない。
 神経がズタズタに切り裂かれ、その上複雑な脳回路に絡み付いてる。
 アンタの足はもう、奇跡か魔法でもない限り治らないんだ…………ッ」


音が死んだかのように、その瞬間、二人のツェペリの中で何かが崩れていった。
脇に置かれた時計の秒針が、やけに大きく音を立てて進んでいく。階下で何か音が聞こえたが、二人が動くことはなかった。
互いに信じられないような、信じたくないような気持ちのまま、見つめ合う。今度こそ、はっきりとホテル全体に響く様な物音が聞こえた。
ジャイロはきまりが悪そうに視線を逸らすと、席から立ち上がる。腰のホルスターにぶら下がった鉄球に手をやりながら、すぐに戻るとツェペリに言った。

後に残された老人は、今まで以上に、年老いて、弱弱しく見えた。
呆然とした表情が痛々しい。つい今しがた浮かべられていた笑顔が、遥か前のものに思えるほどだった。
静まり返った部屋、物音は動き続ける秒針のみ。虚ろな視線で彼は時計を見る。分針が上を向く。短針が六を指す。


放送の時間だった。



【B-8 サンモリッツ廃ホテル3階 一室 / 1日目早朝(放送直前)】

【ウィル・A・ツェペリ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:ジョナサンと出会う前
[状態]:下半身不随、貧血気味、体力消費(中)、全身ダメージ(中)、???
[装備]:ウェッジウッドのティーカップ
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:主催者の打倒
1.???

【ジャイロ・ツェペリ】
[能力]:『鉄球』『黄金の回転』
[時間軸]: JC19巻、ジョニィと互いの秘密を共有した直後
[状態]:疲労(大)、精神疲労(大)、全身ダメージ(小)
[装備]:鉄球、公一を殴り殺したであろうレンガブロック
[道具]:基本支給品、クマちゃんのぬいぐるみ、ドレス研究所にあった医薬品類と医療道具
[思考・状況]
基本行動方針:背後にいるであろう大統領を倒し、SBRレースに復帰する
0.階下の様子をチェックしに行く。ツェペリにどう応じればいいかわからない。
1.麦刈公一を殺害した犯人を見つけ出し、罪を償わせる
2.ジョニィを探す。
[備考]
ジャイロの参戦時期はJC19巻、ジョニィと互いの秘密を共有した直後でした。



 ◇ ◇ ◇



必死で動かしていた脚を次第に緩めていく。それに合わせて徐々に、バオ―の姿が橋沢育朗のものへと戻っていく。
やがて脚が止まったころには、すっかり元の姿に戻っていた。
育朗は膝に手を置くとぜぇぜぇ、と呼吸を繰り返す。疲れてはいなかった。
けれども心落ち着かせるために、彼はそのままの姿勢で数分の間動かなかった。

やがて林の隙間をぬい陽光が東から差し込んできたころ、育朗はようやく体を起こし、口元を伝う血と汗をぬぐった。
そして、振り絞るように大きく、息を吐いた。

悔しいな、そう彼は思った。そして強くなりたい、そうも思った。
億泰の死に涙するには、あまりに過ごした時間が短すぎた。億泰の死を笑い飛ばすには、あまりに育朗は真面目で、優しすぎた。
少年の死を見つめることは育朗にとってとても辛いことだ。けれども誤魔化すことはもうできなかった。
自分にもっと力があれば、自分がもっと強ければ、虹村億泰は死なずに済んだのだ。その事実はどんな刃物よりも鋭く、育朗の心を貫いた。

噛みしめた唇からツゥ……と一滴の血が流れる。握りしめた爪の先が、鋭く掌に食い込んだ。

『恐怖をわがものとせよ』 ――― ついさっきまで戦っていた大男の言葉をもう一度思い出す。その通りだ、育朗はいつも脅えていた、恐怖していた。
億泰を殺した男と戦った時も、億泰の元から逃げ出してしまった時も、そしてたった今、風の戦士と戦っていた時も。
育朗の心にはいつも恐怖が纏わりついていた。どれだけ忘れようと思っていても、その気持ちを消し去ることができなかった。

誰かと戦うことを心地よいと思ったことはない。人知を超える力があっても、育朗はその事を幸運だと思ったこともないし感謝したこともない。
自分はバオ―の力を制御しきれていない。下手をうてば彼は殺人者になるのだ。バオ―が引き起こす戦いゆえに、バオ―がもたらす脅威の力ゆえに。
少年は脅えていた。人に殺されることも、殺人者と戦うことも確かに怖いことだ。
けれども彼にとっては何よりも、自分の中にどす黒い殺意があることが、制御しきれない力があることが、この上なく怖いことだった。

「……だけど」

育朗は顔をあげる。東の空、わずかに顔を出した太陽が育朗の目をくらませる。
眩しさに目を細め、けれども視線を逸らすようなことを彼はしなかった。
逃げちゃ駄目だ、恐怖から。誤魔化してはいけない、自分の罪を。

あの男の言うとおりだ。今できないのであれば、できるようになればいい。立ち止まってしまえばそこでお終いだ。
成長しなければ、強くならなければ、誰もこの手で守れない。誰かと手を繋ぐことも、握りしめることも、出来やしないのだ。

育朗は太陽に向かって吠えた。別に意味はなかったが、そうしたかったからしたのだ。
喉が痛くなるぐらい、息が切れるまで、少年は叫んで、叫んで、叫んだ。気が済むまで叫んで、そして育朗は叫ぶのをやめた。
そして何をするでもなく、少年はその場に立ち尽くす。ふと彼の脳裏を一人の『友達』の顔が横切った。
血まみれのくせに笑顔で手を差し出し、弱弱しく彼がつぶやいた言葉。


 ―――『俺とお前は、もうダチだろ。離してなんかやんねーよ』


視界がぼんやり滲んでいく。登ったはずの太陽はキラキラと輝く光の帯のようだった。
ぐっと込み上げる感情を抑え、育朗はギュッと奥歯を噛みしめた。
今はまだ『その時』じゃない。まだ何かを成し遂げたわけでもない。なら今はまだ泣く時じゃない。
今はまだ、すべきことが山ほどあるのだ。まだ感情のなすがままに身を委ねることに、自分は相応しくなんかない。

代わりに育朗は誰にともなく、こう呟いた。それは自然と漏れ出た少年の本音だった。
本当ならもっと早く伝えるべきだった。もっともっと早く、それこそ彼と出会った直後なら間にあったはずだったのに。
まだ彼が生きているうちに、面と向かって伝えたかった。育朗を人間と言ってくれた彼に、育朗をダチと呼んでくれた少年に。
感謝の言葉を込め、この言葉を送りたかった。


「億泰君、ありがとう……」


なんでもっと早く気付けなかったのだろう。なんで彼とここで出会ってしまったのだろう。
こんなにも簡単で、こんなにも大切な事を億泰は育朗に教えてくれた。育朗は繰り返し、繰り返し、ありがとうと言い続けた。
彼の目が涙で潤んだ。遅すぎた感謝の言葉は誰に届くでもなく、虚空に消えていった。

穏やかな風が吹き抜けていくと、温かな空気が頬を撫でて行った。その柔らかさが育朗にもう一度億泰のことを思い出させた。
蓋をしたはずの感情が溢れだす。育朗の頬を涙が伝う。一滴だけ溢れ出た水滴を感じながら、少年は声を押し殺し涙した。
強くなること、誰かを守ることを育朗は少年に誓った。悲しいのでもなく、嬉しいのでもなく、それでも涙が止まることはなかった。

橋沢育朗が少年から青年になった瞬間だった。その涙は一人の『男』が流す、決別の涙だった。



【C-6 中央 / 1日目早朝(放送直前)】

【橋沢育朗】
[能力]:寄生虫『バオー』適正者
[時間軸]:JC2巻 六助じいさんの家を旅立った直後
[状態]:全身ダメージ(大)、疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルを破壊し、スミレを助けだす。
1:億泰君、ありがとう……
[備考]
※『更に』変身せずに、バオーの力を引き出せるようになりました。



 ◇ ◇ ◇



「さァて、どうしたもんかなァ」

ビットリオ・カタルディは興味なさげにそう呟いた。次に、思い立ったようにイスから立ち上がると、彼はキッチンへと向かっていった。
少年は今、民家で体を休めていた。ついさっきまで殺し合いをしていたとは思えないほど、ゆったりとした平和な時間を彼は過ごしていた。

リビングに戻るとソファーにドッカリと腰を下ろす。
何の気なしにテレビの電源をつけてみたが、チャンネルを回せど回せど、画面はなにも映してはくれなかった。
ツマンネーの、少年はそう悪態をつき電源を消す。そうして静かになったリビングで、彼はなにをするでもなく、ただぼんやりと天井を眺めていた。

しばらくの間そうしていたが、ふと我に返ると、彼は朝食の時間にしようと思った。
キッチンで見つけた林檎を取り出すと、ドリー・タガーを器用に操り、皮をはいでいく。
大きすぎる刀を使っている割には、とても手際がよかった。数分もしない内に林檎を丸裸にしたビットリオは子供のように、一人はしゃいだ。
得意げな表情のまま、水と食料を取り出し、少しばかり早い朝食をとりはじめる。
少年が食事にかぶりつく音が部屋内に響く。どこまでも平和で穏やかな、朝食のワンシーンだった。

朝食をとりながら少年は考える。さて、どうしようか。この後一体どこに行こうか。
さっきはシルクハットのじいさんを殺し損ねてしまった。車も壊してしまった上に、一人も殺せず逃げる羽目になった。
少し悔しい。もっとうまく立ち回ったならば、きっと成果を上げれたはずだろうに。
後悔がビットリオの中でこみ上げる。同時にそんな自分に腹が立ち、彼は八つ当たり気味にナイフを机に降りおろした。
ガンッ、という音を立て垂直にナイフが突き刺さる。ビィィイン……と薄ら寒い音を立て刃が震え、鳴いた。

「ッたくよォー……」

とはいえ終わったことをクヨクヨするのは自分らしくない。前向きに、建設的に考えよう。大切なのは今後どうするかだ。

林檎にかぶりつきながら彼は立ち上がると、窓際へと足を運ぶ。
ひょいと外を覗けば、さっきまでいた屋敷の方角が少し明るくなっているのが見えた。一体なにが起きているのだろうか。
あの明るさ具合は火事でも起きてるのではないだろうか。ビットリオは林檎をもうひとかじりした。

ならもう一回あそこに戻るもいいかもしれない。
きっと誰かが戦っていて、それが元で出火したのだろう。
それに火につられて他の人が来る可能性もある。行けば何かが起こることは十分あり得るわけだ。

「でもなァー」

一度行った場所にもう一度、というのは何というか味気ないしつまらない。
それに他に選択肢がないかと言われればそうでもない。数分前に聞こえた二つの音、南から聞こえた少年の叫び声と西から聞こえた救急車の音。
こちらを目的地にするのもいいかもしれない。道中誰かに会えば、そいつにちょっかい出せばいいし、中央に近づけばそれだけ人も増えるだろう。

「でもなァ、うーん……」

ソファーに座るとビットリオは頭を悩ませる。どれも、これだ! と思えるような決定打がない。
悩ましい。どうしたものか。うーん、うーん、と唸ると少年は腕組みをし、頭を悩ませる。
そうして考えて、考えていると、そのうちなんだかどうでもいいように思えてきて、とりあえずは朝食を楽しもうと彼は思った。

ソファーから立ち上がるともう一度キッチンへと向かっていく。冷蔵庫の中にチーズがあったはずなんだよなァ、そんな風に暢気に朝を過ごすビットリオ。
廊下を進む彼の頭上で壁掛け時計がカチリと音を立てた。長針が一つだけ、時を進めた。
時刻は六時前、もう間もなく放送の時間であった。



【B-6とC-6の境目 とある民家 / 1日目早朝(放送直前)】

【ビットリオ・カタルディ】
[スタンド]:『ドリー・ダガー』
[時間軸]:追手の存在に気付いた直後(恥知らず 第二章『塔を立てよう』の終わりから)
[状態]:体力消耗(中)、全身ダメージ(小)
[装備]:ドリー・ダガー、ワルサーP99(04/20)、予備弾薬40発、メローネのバイク
[道具]: 基本支給品、ゾンビ馬(消費:小)、打ち上げ花火、手榴弾セット(閃光弾・催涙弾・黒煙弾×2)
[思考・状況]
基本行動方針:とにかく殺し合いゲームを楽しむ。
1.どうしよっかなー。とりあえず飯食おう。
[参考]
基本支給品をまとめました。いらないと判断されたものは C-6中央、アイリン達の死体の脇に放置されています。
不明支給品の内訳は以下の通りでした。
ジョージの不明支給品→打ち上げ花火、ポルナレフの不明支給品→ゾンビ馬、手榴弾セット ビットリオの不明支給品→ジョルノのタクシー車、アイリンの不明支給品→メローネのバイク

【支給品紹介】
【打ち上げ花火@STEEL BALL RUN】
ジョージ・ジョースター一世に支給された。
SBR開幕を告げる際に使用された打ち上げ花火である。音と光を出すので使用したら結構遠くからでも見える、かも。

【ゾンビ馬@STEEL BALL RUN】
ジャン・P・ポルナレフに支給された。
ジャイロが旅の途中で手に入れた謎の糸。縫えば勝手に治療もしれくれる万能治療製品。
連載当初はジャイロの父親のスタンドなのでは、とか、後半にこれに関連したスタンド使いが出てくるのではと憶測を呼んだ。
案の定というべきか、投げっぱなしにされた。だがジョニィが大統領戦で負傷した際には使われていたので、忘れられたわけではなかったようだ。

【ジョルノのタクシー車@黄金の風】
ビットリオ・カタルディに支給された。現在サンモリッツ廃ホテルのロビーに放置されている。
ビットリオが相当派手に壊したのできっと修復不可。
ちなみに各国によってタクシーの色は違う。タイのバンコクでは赤地に青というド派手なものが見れるとか。

【メローネのバイク@黄金の風】
アイリン・ラポーナに支給された。焦げ焦げしてない。



 ◇ ◇ ◇



むせかえるような血の臭いがワムウの鼻を突く。男は顔をしかめながらも、より臭いの強い方へと足を進めていった。
やがて血の臭いがこれ以上ないほどはっきりしたころ、闇に紛れて三つの影が浮かび上がってきた。

嬉々とした様子で刃物をふるうJ・ガイル。青い顔で吐き気をこらえるスティーリー・ダン。
そしてかつてはトニオ・トラザルディーと呼ばれていたものが、彼らの足下で無惨な姿となって転がっていた。
ワムウは不愉快そうに表情を歪めた。戦いは好きだが、血や死体が好きかといったらそうでもない。
死者を侮辱する行為はたとえ見知らぬ人間相手であろうと、見ていて気持ちのいいものではないのだ。
ワムウの接近に気づいたJ・ガイルが顔を上げる。血しぶきがとんだ顔をニヤッと歪ませると、殺人鬼は柱の男に声をかけた。

「ようやく来なすったか」
「何をしている。宮本はどこだ」
「ククク……、そう焦なさんな。宮本は無事ですよ、すっきり縮みぎっちまいまして自分から紙になっちまいましたがね。
 俺のポケットん中で、きっと青ざめながらガタガタ震えてるんじゃないですかね?」

えらくくだけた口調で話しかけてくるJ・ガイルの態度が不愉快だった。同族意識でも持たれているとしたらそれはまったくの誤解だ。
ワムウの体から湧き出た威圧感は彼の怒りだった。誇りを持たないゲス野郎と、誇り高き戦いの士を同格としているなら、これ以上の侮辱はない。

洞窟を充満する怒りを嗅ぎとり、J・ガイルがケラケラと笑った。
そしてなだめるように両手をあげると、落ち着け落ち着けといったようなジェスチャーを繰り返す。
その人を食ったような態度がますますワムウの怒りを煽ったが、男はぐっと堪え、J・ガイルに近づいた。
感情を露わにすれば更につけあがる。相手のペースに巻き込まれてはいけない。こんな外道にいちいちつきあってはこちらが損だ。
冷静になるため一呼吸を置き、ワムウは口を開いた。

「宮本を渡せ」

意外なほど素直に、J・ガイルは従った。ポケットから紙切れを出し、ワムウに差し出す。
受け取ったワムウが少し離れたところに腰を下ろし、J・ガイルは死体いじりを再開した。
なんでもない一連の行為だったが、その時湧き出た殺気と威圧感はあまりに圧倒的で、スティーリー・ダンは一歩も動けなかった。
汗が顎先からポタリ……と流れ落ち、そこでようやくダンは遠慮がち気に自分も腰を下ろす。
そうする必要もないのに、膝を抱え、窮屈そうに彼はその場にしゃがみこんだ。居心地が悪そうに何度かもぞもぞと姿勢を変えたが、気分は晴れなかった。

彼の頭上を、二人の男の声が飛び交う。目をつむったままワムウが唸る。手を休めることなくJ・ガイルが返す。

「……俺は貴様を殺さん」
「ヒヒヒ……そうだなァ、…………そうでしょうねェ。
 俺もアンタに殺される気はねェ、俺は自分の身の程を知ってますから。
 敵わない相手に喧嘩を吹っかけるほどアホでもねェし、そんな馬鹿げたことなんてやろうとも思わねェ。
 だからワムウさんよォ、ククク……アンタの要求を聞こうじゃねェか。俺を生かすってことはそれなりに目的があるんだろ?
 何か狙いがあるからこそ、俺を殺さないでおいてやる、なんてェ言うんだろ?」
「そこまでわかってるなら言うまでもないだろう」
「日中アンタが動けないときは俺がアンタの目となり足となりましょう。汗かき、骨折り、駆けまわりますよ。
 探してほしいのは……お仲間と好敵手でしょうかね? 人探しは自信があるんで、任せてもらったらそれなりに成果はあげますよ。
 ただし、ククク……途中でつまみ食いをしても構わないだろ?」
「…………そこまで頭が回るならば」
「ええ、集合時間と場所も考えてますとも。
 日が沈む時、12時間後にC-3、『DIOの館』でどうでしょうか?」
「構わん」

会話が終わると同時に、J・ガイルがナイフをサッ、と振るった。
肉が裂けるような音が洞窟に響き、J・ガイルの顔に新たに一つ、血痕が飛んだ。
ニヤァ……と顔をねじらせ男は高笑いを繰り返す。そのたびに哀れなコックだったモノに切り口が生まれていった。
狂ったように洞窟に反響する笑い声。ワムウは何も言わず、座禅を組んでいた。その瞳は閉じられ、呼吸は緩やかに繰り返される。

スティーリー・ダン、一人だけが笑うことも、静まることもできず、途方に暮れ、恐怖に震えていた。
ここは怪物どもの巣窟。自分なんかがいるべき場所でない。こんなところに一分だっていられない。
覚悟がなかったわけではなかった。だがやはりというべきか、スティーリー・ダンの本質は小物であったのだ。
命のやり取りを彼は好まない。安全地帯で、人質を逆手に、弱者を踏みにじるのがお似合いの男。それがスティーリー・ダンなのだ。

どうしてこうなってしまったのだろう。一体どこで間違えたのだろう。
逃げだすことも怖い、ここにいるのも怖い。ここにいるべきかもわからない、逃げだしていいかもわからない。
どうしていればいいのか、なにをしていればいいのか。
自分に許されていることと言えば、脅え、戸惑い、身を縮ませることだけなのだろうか。だとしたならなんと惨めな事か。

ふとワムウのポケットの中にいるだろう、宮本のことを思い出した。
例えポケットの中だろうと、ここよりは安全なはずだろう。ポケットの中ならば、こんな最悪で泣き出しそうな気分にはならないはずだ。
そう思えてしまうほど男は追いこまれていた。彼は何かから逃げるように身を縮め、そして目を瞑った。
ああ、悪夢なら早く覚めてくれ。どこでもいい、だれでもいい、誰か助けてくれ。
それは宮本輝之輔がゲーム当初に抱いた感情と、全く一緒であった。



時刻は間もなく六時。放送が近づいていた。



【トニオ・トラサルディー 死亡】
【残り 80人】

【B-7 地下 カーズのアジト/ 1日目早朝(放送直前)】

【ワムウ】
[能力]:『風の流法』
[時間軸]:第二部、ジョセフが解毒薬を呑んだのを確認し風になる直前
[状態]:疲労(小)、身体ダメージ(小)、身体あちこちに小さな波紋の傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:JOJOの誇りを取り戻すために、メガネの老人(スティーブン・スティール)を殺す。
0.放送を待つ。その後は宮本から情報を聞きだす。
1.強者との戦い、与する相手を探し地下道を探索。
2.カーズ様には出来るだけ会いたくない。
3.カーズ様に仇なす相手には容赦しない。
4.12時間後、『DIOの館』でJ・ガイルと合流。

【スティーリー・ダン】
[能力]:『ラバーズ』
[時間軸]:承太郎にボコされる直前。
[状態]:精神疲労(大)、身体疲労(小)
[装備]:家出少女のジャックナイフ、おもちゃの鉄砲
[道具]:基本支給品、ブーメラン、おもちゃのダーツセット
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない。
0.もう殺人とか犯人とかどうでもいい。とにかく死にたくない。というか逃げだしたい。
1.放送後、情報収集の後、可能なら地上に出たい。
2.J・ガイルを利用して、上手く立ち回る。けど実際信用ならない。
3.ワムウをDIOにぶつけ、つぶし合わせたい。
[備考]
※結局『ラバーズ』はワムウにばれずに済みました。入れ違いの形でダンがスタンドを消し、ワムウはスタンドにふれてはいません。
 もっとも、ワムウのおかげでツェペリはちょっとだけ軽症になったのです。

【J・ガイル】
[能力]:『吊られた男(ハングドマン)』
[時間軸]: ホル・ホースがアヴドゥルの額をぶちぬいたと思った瞬間。
[状態]:絶好調、上機嫌
[装備]:コンビニ強盗のアーミーナイフ
[道具]:基本支給品、地下地図
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。
0.放送待ち。その間はお楽しみ。
1.地上にてワムウの味方や、気に入りそうな強者てを探す。
2.スティーリー・ダンを上手く利用したい。
3.12時間後、『DIOの館』でワムウと合流。
4.ワムウをDIOにぶつけ、つぶし合わせたい。

【宮本輝之輔】
[能力]:『エニグマ』
[時間軸]:仗助に本にされる直前
[状態]:恐怖、ワムウのポケットの中
[装備]:コルト・パイソン
[道具]:重ちーのウイスキー
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない
1.???




 ◇ ◇ ◇



パチパチパチ…………

 ――― 鳴り止まない拍手。

パチパチパチ…………

 ――― 乾いた、重みのない拍手。

いかがでしたでしょうか。13人の群像劇、お気に召していただけたでしょうか。

 ――― 帽子をかぶった男は無言で拍手を続ける。
     肯定するでもなく否定するでもない。ただ淡々と手を叩くのを止めなかった。

色々と言いたいことがあるのも承知の上です。
ですがここで評価を下すのは時期早尚。舞台はまだまこれからなのです。
お楽しみはここからです。

 ――― ムーロロは何も言わず、散らばらせていたスタンドを呼び戻した。
     考えごとに沈む中、持て余まされた手が悪戯にシャッフルを繰り返していた。

そう、全ては序章にすぎないのです。
お席を立ち上がれるのは今しばらく辛抱を。
涙し、歓喜し、拍手喝采されるのも些か先走りすぎでございます。

 ――― 男はむすっとしたまま動かなかった。
     別に怒っているわけではない。脅えているわけでもなければ、喜んでもいない。
     男は何も感じてなかった。ただありのまま、集まった情報を処理し、分析し、次の手を考える。
     スタンドを呼び戻したのは放送に備え、次の一手を振るうための準備にすぎなかった。

ここまでは大いなる序曲に過ぎないのです。物語は一体ここからどう転がるのか、それはプレーヤー自身も知らぬところです。
我々に許されるのは傍観のみ。笑いあり、涙ありの大長編になることは確実でございます。ただそれをどうとらえるかはお客様次第でございます。

 ――― ムーロロは無言のままだ。機械的にカードを操る手を休めない。
     何か独り言をつぶやくこともなければ、メモを取るようなこともない。
     全てのカードが掌の上をスムーズに、思い通りに動いていった。

さて、では一旦幕を引くといたしましょう。
しばらくの間ですが、幕間劇を楽しむもよし、休息を取られるもよし。
ご友人と劇の出来についてあれこれ論じるのも素敵でございましょう。

 ――― ムーロロの目がチラリと時間を確認した。
    秒針が音を立て、動いて行く。一秒、一秒。確実に時は進んでいく。

それでは、紳士、ご淑女、しばしお別れを…………。

 ――― 放送の時間がやってきた。



【D-5 トレビの泉 / 1日目早朝(放送直前)】

【カンノーロ・ムーロロ】
[スタンド]:『オール・アロング・ウォッチタワー』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』開始以前、第5部終了以降。
[状態]:健康
[装備]: トランプセット
[道具]:基本支給品、ココ・ジャンボ
[思考・状況]
基本行動方針:状況を見極め、自分が有利になるよう動く。
0.放送待ち。情報整理。
1.ココ・ジャンボに潜んで、情報収集を続ける。
2.今のところ直接の危険は無いようだが、この場は化け物だらけで油断出来ない。
[備考]
ムーロロが捕捉した参加者は以下の通りです。そいつらについてはもうガッツリ情報得てます。
※タルカス、ブラフォード、ジョナサン・ジョースター、エリナ・ジョースター、ウィル・A・ツェペリ
 ジョセフ・ジョースター、ルドル・フォン・シュトロハイム、カーズ
 イギー、モハメド・アヴドゥル、花京院典明、スティーリー・ダン、J・ガイル、ペット・ショップ
 山岸由花子、広瀬康一、東方仗助、噴上裕也、宮本輝之輔
 ナランチャ・ギルガ、パンナコッタ・フーゴ、レオーネ・アバッキオ
 ジャイロ・ツェペリ、マウンテン・ティム、リンゴォ・ロードアゲイン
 ビットリオ・カタルディ、ビーティー、ドルド
 以上 28名の情報を得てます。けどもしかしたら見落としてるかも。そうじゃないかも。



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キャラを追って読む

前話 登場キャラクター 次話
078:金田一少年の事件簿 ファイル1 ウィル・A・ツェペリ 116:敗者
078:金田一少年の事件簿 ファイル1 ワムウ 134:ただならぬ関係
075:褐色の不気味男事件の巻 モハメド・アヴドゥル 113:勝者
078:金田一少年の事件簿 ファイル1 J・ガイル 117:BREEEEZE GIRL
078:金田一少年の事件簿 ファイル1 スティーリー・ダン 114:スター・プラチナは笑わない
078:金田一少年の事件簿 ファイル1 トニオ・トラサルディー GAME OVER
078:金田一少年の事件簿 ファイル1 宮本輝之輔 134:ただならぬ関係
078:金田一少年の事件簿 ファイル1 マリオ・ズッケェロ 113:勝者
078:金田一少年の事件簿 ファイル1 ジャイロ・ツェペリ 116:敗者
063:狂気 ビットリオ・カタルディ 111:境遇
077:人生を賭けるに値するのは カンノーロ・ムーロロ 107:fake
075:褐色の不気味男事件の巻 ビーティー 113:勝者
069:手――(ザ・ハンド) 橋沢育朗 111:境遇
068:迷い猫オーバーラン! ドルド 113:勝者

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最終更新:2013年05月26日 18:15