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投稿日:2010/11/05(金) 21:31:54 授業と授業の合間の休憩時間に、私は保健室を訪れた。 普段はあまり来る用事のない保健室だけど、今回ばかりはちょっと違った。 私はかなり小さな声で言った。中にいる誰かに聞こえないように。 「失礼しますっと……」 保健室の中は意外と静かで、保健室の先生も今はいないようだった。 私はあまり物音を立てないようにカーテンの閉まったたベッドに近づき……。 「みーお!」 「うわあっ!?」 カーテンを思い切り開けながら中にいる彼女の名前を呼んだ。 当の澪は私の声に驚き仰け反っていた。さすがにちょっと突然すぎたか。 「なんだ律か……驚かすなよ」 「ごめんごめん」 私だとわかると澪はほっと一息ついた。私じゃなかったらどうだったんだろう。 澪は下半身を布団に埋めている。私はベッドに座って悪戯っぽく澪に尋ねた。 「どう? 調子は?」 澪は一瞬むすっとした顔になった。それから口を尖らせて言う。 「わかってるんだろ……私が『仮病』でここに来たこと」 「やっぱ仮病だったか。どうりで」 「……」 澪は顔をちょっとだけ赤くしながら、布団で口元を覆った。 なんというか可愛かった。私はからかいたい気持ちになりながらも、堪えて続ける。 「生物の授業、今日は解剖だったから仮病でここにきた……って感じかな」 「……やっぱりばれてるか」 「澪ちゅあんの事ならなんでもわかるんだよ」 先週の授業の終わりに、生物の先生は言った。 『次回は解剖やるから』――。 その時の澪の顔といったら、目も当てられないほど血の気が引いていたと思う。 澪はそれから怖い怖いと私に泣きつき、とうとう今日のこの日を迎えてしまったわけだ。 そして教室移動でいざ生物室へ行こうとすると、肝心の澪がいない。 携帯を開いたら、『律ごめん。調子悪いんで保健室に行くよ』とメールが来ていた。 そして私は仕方なく一人で解剖の授業を受けて、今に至る。 「……その、どうだった解剖は」 「別に。そりゃ、まあ気持ち悪かったと言えば気持ち悪かったけどさあ」 「や、やっぱり言うなそれ以上は」 澪は耳を手で押さえた。痛い話をしてるわけでもないのにな。 でも気持ち悪い話を必死で聞くまいとする姿は、またしても微笑ましい。 「確かに澪は見ない方がよかったかも」 「そうだよな。解剖実験の邪魔しちゃ皆に悪いし……」 澪は目立つのが嫌いだ。だから解剖実験の授業で泣き喚きたくなかったんだろう。 気持ちはわかる。私が澪なら皆の前でひいひいしてられないし、迷惑を掛けるのも嫌に思う。 だから仮病を装って保健室に逃げ込むというのは、ある意味で正解だったかもしれない。 でも――。 でも……。 私はちょっと俯いて、考えた。さっきの授業の光景を。 班を組んで解剖する。でも、そこに澪はいなかった。 澪がいないと、つまんないんだよなあ……。 今回の授業だけじゃない。どの授業でも、澪がいなきゃおもしろくない。 大好きな澪がいない。それだけで授業に集中できないもんだ。 「でもさ」 「……律?」 「やっぱり澪にいてほしいよ」 怖くたって、泣きついてくればいい。 涙が出たって、目立ちゃったって。 私に抱きついてくれれば、私はそれを受け止めるのに。 遠慮なんてしなくてよかったのに。 「ごめん律……寂しかったんだな」 「あ、えーと、ち、違うわい!」 「違わないだろ」 澪は真顔で否定した。 私は見栄を張ったのに。 澪はそれを、いとも簡単に見抜いてしまったんだ。 目を伏せながら、それでもちょっと恥ずかしそうに、澪は言葉を紡ぐ。 「……私も、保健室で寝てるの寂しかったんだ。律もいないし……。  こんなことなら、泣いてでもいいから律と一緒に授業受ければよかったなって……」 「澪……」 お互いが一緒にいないのが、寂しい。 私たち、結局同じ想いだったんだなあ。 そう考えると、なんか心が暖かくなって、笑えてきた。 「ふふ、あはは!」 「な、なんで笑うんだよー」 「あまりにも気持ちが同じ過ぎてさ、なんかさっきの寂しさが馬鹿らしくて」 「なんだよそれ」 澪も笑みを零した。それから二人して大笑いした。 保健室の先生も、他の体調の悪い生徒がいなくてよかったと思った。 ■ 休憩時間も終わりに近づき、私は立ち上がって澪に手を差し出した。 「澪、行こっ」 「ありがと、律」 澪は私の手を取ってベッドから降りた。 授業中でも放課後でも、この手の温もりを、手放さないでいたい。 私と澪は、手を繋いだまま保健室を出た――。 ■終■
投稿日:2010/11/05(金) 21:31:54 授業と授業の合間の休憩時間に、私は保健室を訪れた。 普段はあまり来る用事のない保健室だけど、今回ばかりはちょっと違った。 私はかなり小さな声で言った。中にいる誰かに聞こえないように。 「失礼しますっと……」 保健室の中は意外と静かで、保健室の先生も今はいないようだった。 私はあまり物音を立てないようにカーテンの閉まったたベッドに近づき……。 「みーお!」 「うわあっ!?」 カーテンを思い切り開けながら中にいる彼女の名前を呼んだ。 当の澪は私の声に驚き仰け反っていた。さすがにちょっと突然すぎたか。 「なんだ律か……驚かすなよ」 「ごめんごめん」 私だとわかると澪はほっと一息ついた。私じゃなかったらどうだったんだろう。 澪は下半身を布団に埋めている。私はベッドに座って悪戯っぽく澪に尋ねた。 「どう? 調子は?」 澪は一瞬むすっとした顔になった。それから口を尖らせて言う。 「わかってるんだろ……私が『仮病』でここに来たこと」 「やっぱ仮病だったか。どうりで」 「……」 澪は顔をちょっとだけ赤くしながら、布団で口元を覆った。 なんというか可愛かった。私はからかいたい気持ちになりながらも、堪えて続ける。 「生物の授業、今日は解剖だったから仮病でここにきた……って感じかな」 「……やっぱりばれてるか」 「澪ちゅあんの事ならなんでもわかるんだよ」 先週の授業の終わりに、生物の先生は言った。 『次回は解剖やるから』――。 その時の澪の顔といったら、目も当てられないほど血の気が引いていたと思う。 澪はそれから怖い怖いと私に泣きつき、とうとう今日のこの日を迎えてしまったわけだ。 そして教室移動でいざ生物室へ行こうとすると、肝心の澪がいない。 携帯を開いたら、『律ごめん。調子悪いんで保健室に行くよ』とメールが来ていた。 そして私は仕方なく一人で解剖の授業を受けて、今に至る。 「……その、どうだった解剖は」 「別に。そりゃ、まあ気持ち悪かったと言えば気持ち悪かったけどさあ」 「や、やっぱり言うなそれ以上は」 澪は耳を手で押さえた。痛い話をしてるわけでもないのにな。 でも気持ち悪い話を必死で聞くまいとする姿は、またしても微笑ましい。 「確かに澪は見ない方がよかったかも」 「そうだよな。解剖実験の邪魔しちゃ皆に悪いし……」 澪は目立つのが嫌いだ。だから解剖実験の授業で泣き喚きたくなかったんだろう。 気持ちはわかる。私が澪なら皆の前でひいひいしてられないし、迷惑を掛けるのも嫌に思う。 だから仮病を装って保健室に逃げ込むというのは、ある意味で正解だったかもしれない。 でも――。 でも……。 私はちょっと俯いて、考えた。さっきの授業の光景を。 班を組んで解剖する。でも、そこに澪はいなかった。 澪がいないと、つまんないんだよなあ……。 今回の授業だけじゃない。どの授業でも、澪がいなきゃおもしろくない。 大好きな澪がいない。それだけで授業に集中できないもんだ。 「でもさ」 「……律?」 「やっぱり澪にいてほしいよ」 怖くたって、泣きついてくればいい。 涙が出たって、目立ちゃったって。 私に抱きついてくれれば、私はそれを受け止めるのに。 遠慮なんてしなくてよかったのに。 「ごめん律……寂しかったんだな」 「あ、えーと、ち、違うわい!」 「違わないだろ」 澪は真顔で否定した。 私は見栄を張ったのに。 澪はそれを、いとも簡単に見抜いてしまったんだ。 目を伏せながら、それでもちょっと恥ずかしそうに、澪は言葉を紡ぐ。 「……私も、保健室で寝てるの寂しかったんだ。律もいないし……。  こんなことなら、泣いてでもいいから律と一緒に授業受ければよかったなって……」 「澪……」 お互いが一緒にいないのが、寂しい。 私たち、結局同じ想いだったんだなあ。 そう考えると、なんか心が暖かくなって、笑えてきた。 「ふふ、あはは!」 「な、なんで笑うんだよー」 「あまりにも気持ちが同じ過ぎてさ、なんかさっきの寂しさが馬鹿らしくて」 「なんだよそれ」 澪も笑みを零した。それから二人して大笑いした。 保健室の先生も、他の体調の悪い生徒がいなくてよかったと思った。 ■ 休憩時間も終わりに近づき、私は立ち上がって澪に手を差し出した。 「澪、行こっ」 「ありがと、律」 澪は私の手を取ってベッドから降りた。 授業中でも放課後でも、この手の温もりを、手放さないでいたい。 私と澪は、手を繋いだまま保健室を出た――。 ■終■ #comment

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