けいおん!澪×律スレ @ ウィキ

ROCK!!9

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mioritsu

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 『した』後、私と澪は寝ることにする。
 電気を消して真っ暗なまま寝たが、全然眠れやしない。
 暗闇にも慣れて、部屋の家具の位置も簡単にわかるレベルだった。
 左を向くと、澪は向こうを向いて寝ていた。私は上半身だけ起こして、なんとなく呼びかけてみる。

「澪」
「……何?」
「……まだ起きてたんだな」
「いや、その……」
「やっぱり、嫌だった?」
「そ、そうじゃないって」
「私も、調子に乗っちゃったしさ」
「律の意地悪……」
「み、澪が可愛すぎたんだよ……ごめん」
「でも……」
「でも、何?」
「なんでもない」
「気になるだろ……」

「……なんというか、律が意地悪してくれるの、久しぶりっていうか」
「――」
「やっぱり、ちょっと嬉しかったというか……その……」
「……ごめん。澪はやっぱり『昔の私』の方が、好きだよな」
「ち、ちが――」
「違わない。澪は、いっつも笑ってて、お調子者で、澪を弄ってばっかりの私の方が好きだったんだろ」
「で、でも律は律だ」
「そう言ってくれるけど、澪は――そういう私が好きだったんだよな。
 そして、今の私が全然意地悪しない事、昔みたいに笑ってくれない事を、あんまり快く思っていない」
「だから、違うって」
「わかってるんだ。前の――澪の望むような私じゃないって」
「律――」
「だから、澪の好きな私に戻れない私が、嫌いだ」
「……律」
「澪が前の私を好きなのに……昔みたいに笑ってる私の方が、澪は好きなのに! 
 わかってるのに……今の私じゃ、澪を笑わせられない、幸せにしてやれないことわかってるのに! 
 ……前の、お調子者の私に戻るのが、怖くて……あの頃の私を、私は、まだ好きになれなくて」






 いつも誰かを笑わせてた。
 いつも澪を弄ってた。
 私自身も笑ってた。

 だから大学に落ちちゃったんだろ。
 勉強を真剣な顔でやらずに、笑ってばっかりで、大丈夫だって思ってたんだろ。
 他の誰かに意地悪ばっかりして、自分の事は棚に上げて。

「だから、私――」
「律」

 さっき散々したけど、今度は澪からキスされた。
 浅いキス。
 澪の顔は、暗かったから見えなかった。

「馬鹿律……」
「馬鹿で、悪かったな」
「今の律が嫌いだって言ったら、前みたいになってくれるのかよ」
「澪は今の私が好きなのか? そうじゃないだろ。澪は前の私の方が好きだ。そんなの私にだってわかってる」
「わかってないよ。私は律が――」
「澪は私の事、好きだって言ってくれる。嬉しいよ……。でも、それは変わる前の私に対してなんだろ」
「じゃあ、戻れよって言ったら戻るのかよ。前の律が好きです、今の律は嫌いです。
 だから前の律に戻れって言ったら、戻ってくれるのか」
「……無理」
「だから、受け入れてる。今の律も大好きなんだよ。それでいいだろ」
「それで澪はいいのかよ」
「……いいよ、律と一緒にいられるんなら」


 言ってる事、無茶苦茶だな、私。
 そんなに自分を責めてどうなるんだ。
 澪が悲しんじゃうだけなのに。

 澪は、絶対前の――元気でお調子者な私の方が好きなんだろう。
 そうわかってるけど、前の私に戻るのが怖い。あの時の私を、私は好きになれない。
 どうすればいいんだろう。
 澪が望む事、私が望んでいない事。
 澪が喜んでくれるのなら、前みたいに笑って過ごしたい。
 でも、そうすることは、私にとって辛いことでもあるかもしれないんだ。
 あの時の私は、自分が笑っている事で自分の事も好きでいられたし澪と一緒にいれた。
 でも。
 今の私はどうなんだ。
 皆に嫌われるのが怖くて――嫌われているんじゃないかってビクビクしてて。
 皆はそんな奴じゃないってわかってるのに、もしかしたらって思って震えてて。
 嫌われていたとしたら、その事実を知るのが怖くて殻に籠ってる。
 そして、ときどき澪に悩みを垂らして、慰めてもらってる。
 ウジウジとしてて何もできない最低な奴。
 そんな私が、大嫌いだ。
 でも、前の私も好きになれない。
 私は、私の全部が嫌いになってしまった。
 そんな私が、澪を幸せにできるはずがないのに。わかってるのに。
 でも傍にいてほしい。澪の望む私じゃないけど、傍にいてほしい。
 わがままだな……。


「ごめん。忘れて」

 逃げるように、布団を被る。
 布団の外で、澪が言った。

「律は……私といて、楽しいのかよ……」
「――」

 楽しいよ。
 澪といつまでも一緒にいたい。
 誰にも渡したくない。
 ずっと私の傍にいてほしい。

 だけど、澪と一緒にいる事は、澪を傷つけることに繋がっている。
 澪は、以前の私が好きだ。そして今の私の事は好きじゃない。
 その変わってしまった『田井中律』を、澪は見ているのが辛いに決まってる。
 澪が辛いのなら、私は――。

「澪だって、私といるの、楽しいと思ってるのかよ」
「……楽しい」

 本当なら、嬉しいけど。
 嘘、なんだろうな。
 わかってるんだ、全部。

 楽しいと思ってくれてるかも知れない。
 澪も、私の澪に対する想いと同じ事、想ってくれてるかも知れない。
 私とずっと一緒にいたいって、想ってくれてるかも知れない。

 でも、澪が一緒にいたいと思っている『田井中律』は……今の私じゃない。
 だって、前ほど笑ってないし、楽しそうじゃない。
 そうさせているのは、私――変わってしまった、『田井中律』なんだ。

 どうしよう、どうしよう……。
 葛藤は、どんどん私の体を蝕んでいく。
 不安で、押し潰されてしまいそう。

 だから、私は謝るしかない。
 この心の痛みは、全部、私の罪みたいなものだから。

「――澪、ごめん」
「……おやすみ、律」
「おやすみ、澪……」

 澪は私とは反対方向を向いて寝た。
 澪への気持ち、私の事。
 考えてたら、眠れなかった。









「律は……私といて、楽しいのかよ……」

 律は布団を被ってしまい、顔を隠した。
 私も、顔を見られずに済む。
 律は、私の質問に答えなかった。

「澪だって、私といるの、楽しいと思ってるのかよ」

 楽しいよ! と、声に出ない自分が、情けない。
 肯定できないなんて……律といるのが楽しい事を、自信を持って言えないなんて。
 律といるのは楽しい。
 そう思いこんでいる、だけ……なのかな。

「……楽しい」

 本当に、楽しいのかよ。
 私がいることで、律をもっと苦しめてるんじゃないのか。
 そして、律が変わってしまった事を、否定はしてるけど。
 確かに悲しいんだ。
 律は言った。

『澪は今の私が好きなのか? そうじゃないだろ。澪は前の私の方が好きだ。そんなの私にだってわかってる』



 最低だ、私。
 そうなんだ、そうなんだよ。
 私、前の律の方が好きなんだ。
 今の律が、あんまり好きじゃないことを。
 認めなきゃ、受け入れなきゃいけないのに。
 私は、以前の、いつも笑ってて元気な律の方が好きなのに。
 今の律は好きだなんて、嘘を言って。
 律は律だ。そこは変わらないし、大好きだ。
 だけど、一緒にいることに前ほどの充実感は得られない。
 でも嘘ばっかりで、律を傷つけている。

 私、私は――。
 私が『前の律が好き』と言えば、それで済むわけがない。
 律は『前の律が嫌い』なんだ。
 律がそうしたいなら、そうすることが一番だ。律の望むことが私の望む事であればいいのに。
 私は、思っちゃうんだ。

 以前の律に戻ってほしいと。

「――澪、ごめん」

 律は謝った。
 私も、心の中で謝った。
 ごめん、律。

「……おやすみ、律」
「おやすみ、澪……」

 私は、まどろみの中に落ちていく。
 律の反対方向を向いて寝た。
 いつまで経っても、律の寝息は聞こえなかった。


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