十二月三十一日。大晦日。
本人は生涯あずかり知らぬが、生き別れの姉であるまりさを襲って子を孕ませた十二月二十五日より、六日経ったその日。
ありすは一人の男の手に渡った。
長い長い年越しだった。
固くなった体に刃を通され、内蔵にも等しきカスタードクリームを傷つけられた。
目の前で同胞達が傷つけられ、死んでいくのを目の当たりにした。それらが全て、自分の体を治すためだと理解もした。
年が明けて、陽も昇って。
長い一夜の末、ありすはかつての姿とはまるで様変わりしてはいるものの、いずれ自由に動かせるようになる体を手に入れた。
どこにも火傷をしていない、健康体である。
ようやく長い苦しみの末、健康な体を手に入れたというのに、ありすは幸せではなかった。
目の前の地獄、惨劇から目を逸らしたかった。
だが、それも叶わず。
ありすがどうすることも出来ないまま、ありすの体を改造した部屋に次々と別の人間がやってきた。
そして、その中には
「お゛……ね゛ぇ゛…………ざ……」
「…………え?」
かつて、ありすの命を救い、ありすと一緒に幸せに暮らしていた、ありすがずっと会いたいと願っていたあの女性がいたのだ。
ありすは枯れていたはずの涙を流した。ずっと、ずっと願っていたものと会えた喜びに。
なんという神のきまぐれか。ありすはまた、女性と暮らすことができるうえに、待ち望んだ家族とも一緒に過ごすことが出来るようになった。
「おね゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ざぁぁぁぁぁぁん!!! もうやべでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!」
快音が響く。
女性が振るったハエ叩きが、ありすの横っ面をひっぱたいた音だ。
ありすはかつて暮らしていたあの部屋へと帰ってきた。我が子と一緒に。
そして、再び女性に虐待される日々へと戻ってきたのだ。
女性は虐待するゆっくりと愛でるゆっくりを完全に分けるようになった。
ありすと子ありすは虐待する側のゆっくりだった。
思いっきり頬を叩かれたありすは痛みを堪え、目に涙を溜めてプルプルと震えている。
どれだけ力強く叩こうとも所詮ハエ叩き。致命的なダメージにはなりえないが、それでもありすにとっては大きな痛みを味あわせていた。
精神的な面においても。
ありすは少しでも女性から離れようとじりじり這おうとしたが、それを阻止するようにビシビシハエ叩きが振るわれる。
右頬を叩いたら左頬も。下顎を叩いたら額も。
振るわれるハエ叩きは、ありすを苛む。叩かれて顔が震え、雫が飛び散る。
ありすは後悔していた。家出をしたことを。どんな仕打ちを受けようとも、ありすにとって女性は大好きな恩人である事に変わりはないのに。
どうして逃げ出してしまったのか。どうしてもっと信じてやれなかったのか。いつか、いつか元の優しい女性に戻ってくれるだろうと。
だから再び女性と出会えて、また一緒に暮らせるなんて奇跡にありすは感謝した。概念は理解していないが「神様」とやらに感謝もした。
再会した女性はいつかの優しい表情で、ありすが会いたかったあの頃の女性に戻ったと思えたのに。
そんな事なんて全然なく、女性は別れる直前と同じように、ありすに虐待を施している。
「お゛ね゛ぇざん……どぼじで……」
「ありす、私ね」
女性が口を開いた。
それはありすに言い聞かせているようにも、独り言を言っているようにも聞こえる。
「ありすが家出しちゃった時、とっても後悔したの。なんて酷いことをしちゃったんだろう、って」
振るわれたハエ叩きが、ありすの右目付近をひっぱたいた。乾いた音と共にありすの涙がまた飛んだ。
「必死で探したの。時間の許す限り、走り回って。ビラも作って配ったし、ネットで情報を募ったりもしたわ」
返す手で振るわれたハエ叩きが、ありすの口元を叩いた。「ゆぶっ!」と潰れた声がありすから漏れた。
「もし、もしまたありすと出会えたら、もうあんな酷いことは辞めよう、って思ったの」
その言葉を聞いて、ありすの目に希望の光が宿った。その光に向かい、女性は腕を振るった。バチン、と左目に当たる。
咄嗟に瞼を閉じたため、眼は無事だがありすは痛みに悶える。いや、痛みよりも哀しさが勝っている。
「でもね、こうしてまたありすと出会えて、思い直したの」
グイッ、と片手でありすの髪を持って持ち上げる。宙に浮いた状態のありすにハエ叩きで往復ビンタを浴びせる。
右頬も、左頬も、底部も顔面も打ち付ける。
「これが、私の愛情表現。これが私のありすへの愛なの。今の私はもう、こういう形でしかありすを愛せないの」
ありすの髪を掴んだ手を離し、ありすが床に落ちる。ビタン、と底部を強かに打ちつけて、ありすの涙がボロボロと零れた。
「ありすのあの可愛い赤ちゃん達にもそう。とてもそっくりね。可愛くて可愛くて、ありすと同じように愛しちゃいたい」
女性のその言葉に、ありすはビクッと跳び上がる。恐る恐る、自分の子達へとありすは視線を向けた。
「やめちぇ! みゃみゃをいじめないでっ!」
「ゆえぇぇぇん……みゃみゃ……」
「ゆっくいできないわ……」
「ごんなのときゃいはじゃないわぁ……」
ありすの視線の先、ありすがハエ叩きで叩かれる横ではありすの子である子ありす達が身を寄せ合ってガクガクと震えている。
決してハエ叩きに巻き込まれる位置にはいない。そんな位置から戦々恐々と飼い主である女性に訴えかけている。母を虐めないでくれと。
ありすはその姿に涙する。産まれてから何日も会ってなかったというのに、一目で自分が母親だと認識してくれた、愛しの我が子。
そんな自分の子供達が、自分をかばってくれている。自分と、同じ目にあおうとしている。
「だーめ♪」
女性は子ありす達に明るくそう答えると、ハエ叩きを子ありす達の真横の床にたたきつけた。
バチンッ、と響いた音に子ありす達はビクッと跳ね上がりあっという間に後退する。ありすが使っているベッドに潜り込み、毛布をかぶってガタガタ震えている。
「ゆ゛ぅ……ありずのあがぢゃ──ゆびゅっ!!」
その様子を横目で見て我が子の安全に安堵した。決して薄情などとは思わない。
今の女性から離れておいて欲しい。それがありすの今の願いだった。
そんな安心して表情が緩んだありすの顔面に、野球ボール大のゴムボールがめり込んだ。
「びゅぶっ!?」
「さぁて、ありす。今度はキャッチボールしようか」
跳ね返ってきたボールを手に取り、女性はとても楽しそうに笑う。その顔はまるで子供のような無邪気さに溢れていた。
そんな女性とは対照的に、ありすの顔はグチャグチャの泣き顔。ボロボロと珠のように涙は零れ、心は今もなお暗闇に閉ざされている。
一度は希望の光に照らされて開いた扉も、今はもう、固く閉ざされている。
ありすが望んだ女性は、もう居ない。それは長い別離を挟んでも変わらなかった。
「いくよ、ありす」
意気揚々と女性はボールを構える。ありすは逃げることも受けることも出来ないまま、その場で立ち尽くす。
無防備なありすの顔面にボールがめり込んだ。
百九回。
「ぼうやべでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!」「だづげでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!」「いぢゃい゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!」と叫び続けるありすに構わず、女性がボールをありすにぶつけた回数だ。
母親の叫び声が響く中、子ありす達はいずれ自分たちにくるであろう暴力に怯えて震えていた。
「ふぅ、楽しいね、ありす」
ゴムボールをさんざんありすにぶつけた女性は、ありすを透明な箱に閉じ込め、その中に牛乳を吸った雑巾を入れた。
ありすの体は既にボロボロ。そんな状態に加えての悪臭による虐待である。
「ゆぐっ、えぐっ、おねえざん……どぼじで……」
「前にも言ったでしょ。ありすが可愛いから♪」
それでもありすは完全に諦めたわけではなかった。ありすはまだ忘れていなかった。忘れることなど出来るはずがなかった。
自分を救ってくれた、あの優しい姿を。仲良く幸せに暮らしていた、あの姿を。
そんなありすの願いを、女性は一顧だにしない。ただ己のやり方で己を愛情を注ぐのみ。
女性はありすと雑巾を入れた透明な箱を脇に追いやると、今度はありすのベッドの毛布を剥ぎ取り、子ありす達をベッドから叩き落した。
「さぁ、今度はおちびちゃん達遊ぼうね」
明るく言い放つ女性に対し、子ありす達は一様に泣いている。
その光景を悪臭で充満している透明な箱の中から、ありすも見ている。その目はずっと乾いていない。
ここに戻ってきてから、ありすは泣いていない時間の方が少なかった。
「ゆぐっ……えぐっ……」と泣きじゃくる者や、じりじりと後退する者。
「みゃみゃぁぁぁぁぁぁ!!」と母親のありすが閉じ込められた透明な箱に駆け寄る者や目に涙を溜めてぷくーっ、と威嚇する者。
姉妹の後ろに隠れてガタガタと震える者。ギュッと目を閉じて現実逃避する者。涙をためて決死の覚悟で女性に体当たりする者。
子ありす達はそれぞれがそれぞれの反応を示す。
女性はそんな愛らしい反応を見せる子ありす達を、平等に虐待していった。
「お゛ね゛ぇざんやべでっ!!! ありずのあがぢゃん、いぢめないでっ!!」
「み゛ゃ゛み゛ゃ゛だじゅげでぇ゛ぇ゛ぇ゛!! ゆぶっ!? ゆ゛ぁ゛……あんよが、ありずのあんよ゛がぁ……」
一匹の子ありすは底部をプラスチックの定規で叩かれ続けた。
バチンバチンと乾いた音が響く度、子ありすは足を痛めつけられる痛みで涙した。
「ゆ゛っ……おねぇざん、ありずのあがぢゃんだげはゆるじで……」
「ゆ゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ん゛!! だじでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!」
一匹の子ありすはジャストフィットする小さな箱に閉じ込められた上で激しくシェイクされた。
上下左右に激しく揺れ動く箱の中、子ありすは体中を箱の内部にぶつけ、目を回した。
「ゆ゛あ゛ぁ゛ぁ゛……ありずのあがぢゃんが……やべで……」
「ゆぐっ……いぢゃいわ゛……だじゅげで……」
一匹の子ありすは剣山の上に置かれて放置された。
自重はそれほどなく深くは刺さらないが、底部をまんべんなく針で刺された上にその場から動くことも出来ないありすは絶え間ない苦痛に涙した。
「おねがいじまずっ! あがぢゃんだげはだづげでぐだざいぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!」
「ぼうやめぢぇ……ありずわるいごどじでないわ゛……」
一匹の子ありすは何度も何度も高い所から床に落とされた。
体が小さく軽い子ありすは高い場所から落ちても死にはしないが、何度も何度も床に叩きつけられて皮はボコボコだ。
「なんで……どぼじでやべでぐれないの゛…………」
「ゆ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!!」
一匹の子ありすは舌に釣り針を通された状態で吊るされた。
針が舌を貫通する痛みと自重によって舌が引っ張られる痛みに、子ありすはまともに叫ぶことも出来ずジタジタと空中でもがいた。
「おねぇざん……もどっで……もどのやざじいおねえざんに……」
「ゆびっ! ゆぶっ! いぢゃい゛ぃ゛ぃ゛……ありずおうぢがえ────ゆぴゅ!!」
一匹の子ありすはひたすらにデコピンされ続けた。
子ありすの大きさでは殆ど全身攻撃になる。全身をくまなく指で弾かれ続けたありすは机の上から落下して全身を激しく打ち付けた。
「ゆっぐり゛……ゆっぐり゛じでいっでね……おねぇざん……」
「ゆっーーーー!!! ゆ゛っー!!!!!」
一匹の子ありすはひたすら走らせ続けられた。
女性がわざと外すように金槌を振り下ろし、子ありすはそれから逃げるように跳ね続ける。最後に体力が切れて立ち止まったところを軽く横殴りで金槌が振るわれ、子ありすは壁に顔面を打ちつけた。
女性の虐待には命の危険は伴わない。
ありすが居ない間もゆっくりについて学んだ女性は、ゆっくりを殺す殺さないの境界を十全に弁えていた。
生かさず殺さず。可愛いありす達を決して殺すことなく、可愛い泣き顔を見れる虐待を施す。
生き地獄。女性の今の虐待方針はまさにそれだった。
「さて、皆、今日もゆっくりできたわね。明日もゆっくりしましょうね」
虐待が終わった子ありす達を、それぞれ別々の透明な箱に入れていく。
子ゆっくりサイズの小さな箱。身動きがまったくとれない窮屈なそこに詰めていく。
子ありす達は皆、痛みや疲労で動けない。泣きじゃくったり、放心したり、無抵抗のまま透明な箱に詰められた。
「それじゃあ晩御飯にしようか」
そう言い、女性は台所へと向かった。
残ったのは透明な箱に押し込められた、ありす、子ありす七匹の八匹家族。
その姿を見れば十匹中十匹のゆっくりは「ゆっくりしていない」と言うであろう。そんな、悲惨な光景。
ありすは可愛い我が子が痛めつけられる様を、何も出来ないまま悪臭が立ち込めるなか見続けた。
子が痛めつけられる、悲惨な状況から目を背けたいという気持ちよりも、我が子が危険な目にあっている光景から目を離したくなかったのだ。
目を離している間に、どうなるか分からない。何かが出来るというわけではなかったが、それでも目を離したくなかったのだ。
ゆっくり達の嗚咽が響く部屋の中、ありすは静かにまた涙を流した。
もう、叶わぬ願いなのだろうか。幸せな暮らしを望むことは、もう許されないことなのだろうか。
今目の前で泣きじゃくっている子達にも、自分がかつて居た幸せな世界を見せてあげたかった。それすらも、叶わないのだろうか。
もし、別の未来では自分達が幸せに暮らしている世界があったのかもしれないと思うと、ありすは泣かずにはいられなかった。
どうして、そんな世界に居ないのだろうかと。
夜。一週間の半分は食事も虐待だが、残りの半分はまともな食事もある。
だが、この日はまともではない食事だった。ありす達の目の前にあるのは、唐辛子だった。
砂糖と混ぜてはいるものの、赤いそれが見え隠れしている。
ありすも子ありすも皆透明な箱から出されてはいるが、触れ合うことは許されない。
食事中にそんな事をすれば、行儀が悪いと言われて透明な箱に押し込められ、また酷い目に会うからだ。
だから、ありすも子ありすも、互いに言葉だけを交わすのみ。
一匹ずつにそれぞれ用意してある皿。名前もちゃんと書いてある専用の皿に、今晩の食事が盛られている。
唐辛子。いくら砂糖と混ぜていても、辛味はゆっくりにとって毒である。
過剰に摂取すれば死に至るだろう。だがこの女性のことだ。きっと致死量を見極めて、全部食べても大丈夫なようにしているに違いない。
ありすは知識から、子ありす達は本能から唐辛子の辛味を察知して口にしようとしない。
女性は一人、普通の食事をとりながらありす達に言った。
「どうしたの? 食べないの?」
「ゆぅ……おねぇさん、これはゆっくりできないよ……」
ありすは言った。勇気を振り絞り。今の女性に口答えすることがどんな事に繋がるか分からないほど今の状況は理解できていないわけじゃない。
それでも、自分はともかく子ありす達のためにも、こんな食事ではなくもっと美味しい食事を食べさせてあげたかった。
せめて、せめて生まれたばかりの子供達には「ゆっくり」を味合わせてあげたいのだ。
「なぁに言ってるのありす。ちゃんと食べやすいようにあまあまも混ぜてあげたでしょ?」
「ゆぅ……でも……」
「食べ残したらお仕置きよ」
女性のその言葉で、子ありす達はビクゥと跳ね上がった。
お仕置き。ここに来た最初の日にそれを受けた子ありす達はそのトラウマを呼び起こす。
「ゆ゛ぅ゛……おちおきはいやだよっ!」
「ゆっぐちだべるわっ!」
子ありす達は一斉に食事を開始した。自ら毒である辛味を食す。
ガツガツと勢い良く口に含んだはいいが、それもすぐにピタリと止まる。
「ゆ゛ぐぅ゛……っ!」
「ゆ゛げぇ゛ぇ゛ぇ゛」
「ごれ、どぐはいっでる゛ぅ゛……」
中身を吐きこそしないものの、皆一様に苦しむ。
泣く者。バタバタ暴れる者。混ぜられた砂糖を上回る辛味の辛さに子ありす達は悶え苦しんだ。
その光景を見て、女性は微笑む。
その光景を見て、ありすは悲しむ。
食事が終わるまでの間、ありすは片時もゆっくり出来なかった。
自分もまた、辛味で苦しみながらも、頭の中はゆっくり出来ていない子達の光景で一杯だった。
食事の後、子ありす達は皆睡眠へと移った。
食後はたまに女性が風呂に入れてくれることもある。ありすが大好きだった入浴だ。
今の生活では入浴だけがほぼ唯一の安らぎと言っていい。入浴時には女性は虐待を行なわないからだ。
もっとも、これまで行なってこなかっただけでこれからは行なうかもしれないが。
どちらにせよ、この日は入浴は無かった。
子ありす達はそれぞれの子ゆっくり用透明な箱に入れられる。
それが子ありす達のベッドなのだ。寝ている間に箱に入れられた子ありす達は、寝ていてもわかるのか箱の窮屈さに寝顔をゆがめた。
ありすだけは透明な箱ではなく、かつて使っていたベッドだ。女性が就寝すると同時に、ありすもベッドに入って眠る。
自分が先に眠ったら、もしかしたら自分が寝ている間に子が虐待されるかもしれないと考えたからだ。
そうして深夜。女性が寝静まった後ありすはベッドから這い出て子ありすが眠っている箱へとにじり寄った。
一日の虐待の疲れで熟睡している我が子の顔を、じっと見つめるありす。
透明な箱に顔を押し付けて、我が子と触れ合いたい気持ちを露にしている。
ありすはまだ一度も子ありす達と触れ合っていない。
すーりすーりしたかった。ちゅっちゅもしたかった。だが全て許されていない。
子ありすがこの透明な箱から出る時、それは女性が虐待する時だからだ。
ありすが夢見た幸せな家族生活はここには無い。
テレビ等で見た幸せなゆっくりの家族を、ありすはまた夢想する。あんな、あんな幸せな家族との触れ合いをありすは夢見ていた。
儚い、夢を。
ありすはずっと透明な箱に寄り添い、そのまま眠った。
決して安らかとはいえないありすの寝顔に、つっと雫が一筋流れる。
ありすはこれまでの波乱のゆん生で、ただでさえ短い寿命を半分以上も減らしてしまった。
縮まった残りの寿命。短い生涯をありすは虐待の毎日で送る。ゆっくり出来ない生き地獄を。
だが、そんな地獄の中でも、小さな幸いはあった。
何故なら、死ぬまで会いたかった女性と、家族と一緒なのだから。
ただ、願わくば。
自分達が幸せに生きる世界も、見てみたかった。
おわり
─────────────
あとがきのようなもの
都会派ありすの終わり方別バージョン
┌─■
────┬─────┴─□
└─□
最終更新:2022年01月31日 03:31