「「ゆっくりいってきます!!」」
「「「ゆっくちいってらっしゃい!!」」」
「ゆっくりきをつけてね!!」

広い草原のど真ん中にある大木。その根元の穴から飛び出してきたのは、2匹のゆっくりである。
ゆっくりれいむと、ゆっくりまりさ。“ゆっくり”と総称される不可思議なナマモノの中では、もっとも数の多い2種である。
そんな2匹は、母ゆっくりれいむと妹達に見送られて、遊びに出かけた。

「きょうもゆっくりしようね!!」
「いっしょにゆっくりしようね!!」

巣の中には母れいむの他に、2匹の妹にあたるゆっくりが10匹いるが、まだ小さすぎて巣の外で遊ぶことは出来ない。
子ゆっくりの中でも成体に近い2匹は、朝夕は母と共に妹の世話をし、昼間は自分達だけで遊ぶようにしていた。

「ゆゆ!!きょうはここでゆっくりするよ!!」
「きょうもたくさんゆっくりしようね!!」
「「ゆっくりしていってね!!」」

2匹は今日一つ目のゆっくりプレイスを、巣から程近い小川の畔に決めた。
そこでは、既に他のゆっくりが十数匹、互いに干渉することなくゆっくりしていた。
木陰に入って涼んでいるモノ。川に入って水を掛け合って遊んでいるモノ。
岩の上で日光浴をしているモノ。蝶を追いかけて跳ね回っているモノ。
それぞれが、自分なりの方法でゆっくりしている。

「みんなとてもゆっくりしてるね!!」
「まりさたちもゆっくりしようね!!」
「「みんな!!きょうもゆっくりしていってね!!」」

大声で呼びかけると、近くにいた数匹のゆっくりから返事が返ってきた。

「「「ゆっくりしていってね!!」」」
「みんなのゆっくりプレイスでゆっくりしていってね!!」
「れいむとまりさもたくさんゆっくりしていってね!!」
「ここはとてもゆっくりできるよ!!」

にこやかな表情で返事をしてくれたゆっくりを見て、れいむとまりさも幸せな気持ちになった。
ここはとてもゆっくりできる場所だ。明日から毎日、ここでゆっくりするようにしよう。
妹達が大きくなったら、このゆっくりプレイスに連れて来てあげよう。そう遠くない未来に、2匹は思いを馳せていた。

「ゆ!!もっとみんなもゆっくりさせてあげようね!!」
「そうだね!!まりさたちだけじゃなくて、みんなにもゆっくりしてもらいたいよ!!」

それは、本能に刻まれた行動だった。
2匹の『ゆっくりしていってね!!』は、言葉だけでは終わらない。
人里から遠く離れたこの地で育った2匹は、人間の悪い影響を受けていない。その純粋な信念は行動にも表れる。
他のゆっくりにも存分にゆっくりしてもらうために、2匹は周辺を跳ね回って呼びかけ始めた。

「ゆっくりしていってね!!」
「たくさんゆっくりしていってね!!」

目に付くゆっくりから、どんどん呼びかけていく。
その度に、相手からも「ゆっくりしていってね!!」と元気な声が返ってきた。
これが、本来のゆっくりのあるべき姿。純粋で無垢な、ゆっくりの姿である。

しばらく川の畔を跳ね回っていると、れいむとまりさは見慣れないゆっくりの姿を見つけた。
黒くてツヤのある長髪が特徴の、とてもゆっくりしているゆっくりだ。
そんなゆっくりに対しても、れいむとまりさは同じように呼びかけるのだが…


「ゆっくりしていっ「ゆっくりしてるよ!!」

「「ゆゆっ!?」」


返ってきた声に、2匹は思わず固まってしまった。目を見開き、口を大きく開け、驚いた表情のままである。
が、きっと何かの間違いだろうと判断した2匹は、表情を整えてもう一度そのゆっくりに呼びかけた。

「ゆっくりし「ゆっくりしてるよ!!!」

黒いロングヘアのゆっくりは、2匹が『ゆっくりしていってね!!』と言い切る前に、2匹以上の声量でそれを遮った。

「「ゆがああぁぁああぁぁぁぁん!!!」」

呼びかけを遮られた事がよほどショックだったのか、2匹は涙を流して泣き喚き始めた。

2匹が呼びかけていたのは、ゆっくりてるよ。
見た目はゆっくりかぐやとまったく同じ。だが、それ以外の行動パターンなどはまったく異なっている。
その相違点の一つが、『ゆっくりし“てるよ”!!』…である。
他のゆっくりが『ゆっくりしていってね!!』と言おうとすると、『ゆっくりしてるよ!!』と声を上げて遮ってしまうのだ。

「ゆゆ!!そんなこといわないでゆっくりしt「ゆっくりしてるよ!!」
「ゆがあぁぁぁあああ!!!どうしてそんなこというのおおぉぉぉ!!?」

気を取り直して呼びかけるが、やはり肝心なところで遮られてしまう。
これは、れいむたちのほうにも原因がある。『ゆっくりしてるよ!!』と言われると、本能的に言葉を止めてしまうのだ。
ゆっくりしている人に『ゆっくりしていってね!!』と呼びかけるのは効率が悪いという理由からなのか、そこらへんははっきりしていない。

そして…相手をゆっくりさせられなかったゆっくりは、自分の欲求が満たされないことに猛烈な苦痛を感じる。
つまるところ、ゆっくりてるよは『ゆっくりしていってね!!』と声を上げる全てのゆっくりの天敵なのだ。

「ゆあああぁぁぁぁん!!まりさもいってやってね!!これじゃゆっぐりでぎないよ!!」
「ゆゆ!!まかせてね!!てるよ!!まりさたちといっしょにゆっくりs「ゆっくりしてるよ!!」
「「がぁああぁあぁぁぁっぁあぁぁ!!!ゆっぐりさせてあげたいのにいいぃぃいぃぃ!!!」」

ゆっくりさせてあげたい欲求が満たされない2匹は、全身を掻き毟りたいほどのストレスを感じている。
ゆっくりたちにとって、相手をゆっくりさせてあげることは食事や睡眠と同じぐらい大事なのだ。

「ゆ゛っ!!こうなったら、ふたりでいっしょにゆっくりさせてあげようね!!」
「それはめいあんだね!!ゆっくりきょうりょくすれば、ゆっくりさせてあげられるよ!!」

どうやら、2匹は声をそろえててるよに呼びかけることを思いついたようだ。

「せーのぉ…」

「「ゆっくr「ゆっくりしてるよ!!!!」



「うがあああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!どうしでぞんぎゃごどいうのあぁあおおぉぉぁぁ!!!??」
「いうなあぁあぁぁっぁあぁぁ!!!ゆっぐりしてるよっでいうなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

もう、れいむとまりさは発狂寸前のところまで追い詰められていた。
しかし、これだけストレスを受けながらも、2匹はてるよをゆっくりさせることを諦めていない。

「ゆゆぅ…れいむたちだけじゃだめだから、まわりのみんなにもゆっくりきょうりょくしてもらおうね!!」
「そうだね!!みんなできょうりょくすれば、てるよにもゆっくりしてもらえるよ!!」

今度2匹が思いついたのは、自分達だけでなく周囲の他のゆっくりも一緒に呼びかける、という案だった。
だが…それを実行に移すべく周りを見回した2匹は、その光景に絶望した。

「ゆぎゃあぁぁぁああぁぁぁぁぁぁ!!!どうぢでだれぼいないのおおおおぉおおぉ!!??」
「ごれじゃでるよをゆっぐぢさぜであげられないよおおおぉおぉおお!!??」

先ほどまで十数匹いたはずのゆっくりは、一匹残らず姿を消していた。

2匹にとっては初めてであるが、ここでいつもゆっくりしているゆっくりにとって、てるよの出没は日常茶飯事だった。
『ゆっくりしていってね!!』と声をかけようとすれば、それを遮るように『ゆっくりしてるよ!!』と返ってくる。
そんなことを繰り返していれば、今度は自分達がゆっくりできなくなる。餡子脳でも、それは理解できた。
何度もてるよとの遭遇を経験した他のゆっくりたちは、てるよの姿を見るや否や、いつものようにゆっくりと帰っていってしまったのだ。

もちろん、2匹はそんな事実など知るはずもない。
“ゆっくりをゆっくりさせてあげる”という強い信念を持った2匹は、まだ諦めようとしなかった。

「ゆあああぁぁぁぁん!!おねがいだがらゆっぐりじで「ゆっくりしてるよ!!」
「もうやべでよおおぉおおぉお!!!ゆっぐじ「ゆっくりしてるよ!!」

度重なるれいむとまりさの懇願にも、てるよはニコニコしながら『ゆっくりしてるよ!!』と返答する。
それは本能であり、てるよにとっては当然のことであった。
何故なら、てるよはゆっくりさせてもらうまでもなくゆっくりしているのだから。

こんなことを繰り返しているうちに、とうとうれいむがストレスの負けて餡子を吐き出してしまった。

「ゆええええれろれろれろ…ゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っ…!!!!」
「れ、れいむうぅぅぅぅう!!!ゆっくりしてね!!ゆっくりして「ゆっくりしてるよ!!」
「がああぁぁぁぁぁあぁあぁっぁぁあ!!!てるよにはいっでないのにいいぃっぃいいぃぃ!!!」

最大音量で叫び声をあげるまりさ。相変わらず、淑女のような笑みを浮かべているてるよ。
どんなにゆっくりさせようとしてもゆっくりしてくれない。
それどころか、こっちがゆっくりできなくなる。れいむに至っては、餡子を吐き出すほどゆっくりできなくさせられた。

終いには…れいむはピクリとも動かなくなってしまった。

「………ゆ゛っ!?」

まりさの中で…何かが切れた。我慢の限界を超えてしまった音だ。

「ゆッぎゅああかぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁしねえぇぇぇええぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇ!!!!!
 ゆっぐりでぎにゃいやづはゆっぐりじねえぇぇぇえぇぇぇぇっぇぇえぇぇぇぇぇ!!!!」

ブチ切れたまりさは、胸に抱いていた高尚な理想などあっさり忘れ去り、てるよに飛び掛った。
反撃の隙など一切与えず、顔面を噛み千切るつもりだった。そして…

ぶちぃっ!!

「ゆぴゃっ!!!」

あまりにも動きが緩慢なてるよは、まりさの攻撃を避けられなかった。

「ゆっぎゃっぎゃっぎゃ!!!ゆっくりしないてるよがわるいんだよ!!!あのよでゆっくりこうかいしてね!!」

かつてのまりさとは似ても似つかない、下品な笑い声。
まりさが思い描いたとおり、てるよの顔面は見るも無残に食いちぎられ…たのだが。
キラキラキランと優雅なBGMが流れたかと思うと、てるよの顔面は瞬時に復元してしまった。

「ゆっ!!ゆっくりしてるよ!!」
「どうじでなのおおおおぉおぉおぉ!!!?どうじでなおっぢゃうのおおおぉぉぉおおぉお!!??」

一撃で仕留めたはずだったのに、一瞬にしててるよは回復してしまった。
だが、まりさはへこたれなかった。ゆっくりできなくなったれいむのためにも、諦めるわけにはいかなかったのだ。

「ぐぞおおおおおおおおお!!!ゆっぐりじないやづはゆっぐりじねえええぇえぇぇぇぇぇぇ!!!」
「ゆっくりしてるよ!!!」
「もういぢど!!!もういぢどごろじでやるうううぅぅぅっぅぅうぅ!!!!」
「ゆっくりしてるよ!!!」
「なじぇだあぁぁあぁあぁあぁっぁあああ!!!なぜしなないんぢゃあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁああぁぁ!!??」
「ゆっくりしてるよ!!!」

まりさは、何度も何度もてるよを殺した。だが、てるよはその度に強靭な回復力で生き返ってしまう。
だんだん疲労の色を見せ始めるまりさに対し、てるよは最初と同じ笑顔で『ゆっくりしてるよ!!』と微笑んでいる。

「じね…ゆっぐりじ「ゆっくりしてるよ!!」
「ゆぎゃあぁぁぁああぁあぁぁぁぁ!!!しねっでいおうとしたのにいいいぃいいいいぃぃっぃ!!!」
「ゆっくりしてるよ!!」
「うるざいいいぃぃぃぃぃい!!!だまれえぇええぇぇぇぇぇぇえ「ゆっくりしてるよ!!」
「だまれといっでるのにいぃぃいいぃ「ゆっくりしてるよ!!」
「ゆがやぁあぁ「ゆっくりしてるよ!!」
「うるざ「ゆっくりしてるよ!!!」
「もうやめ「ゆっくりしてるよ!!!」
「もうゆるじで「ゆっくりしてるよ!!!」
「おねがいだg「ゆっくりしてるよ!!!!」
「あやm「ゆっくりしてるよ!!!!」
「ごめn「ゆっくりしてるよ!!!!」
「もう「ゆっくりしてるよ!!!!」
「やm「ゆっくりしてるよ!!!!」

「………ゆっ「ゆっくりしてるよ!!!!!」

どういうことなのか、てるよは明らかに『ゆっくりしていってね!!』とは違う言葉にも反応し始めた。
まりさに何度も殺されたのを根に持っているのか、それとも“自分はゆっくりしているから諦めろ”という意思表示なのか。
どちらにしても、てるよのその言葉はまりさの精神をゆっくりと蝕んでいく。

そして…れいむに次いで、まりさもとうとうストレスに耐え切れず餡子を吐き出してしまった。

「おおえええええれろれろれろれろれろ……ゆびっゆぐっゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っ…!?」

一気に大量の餡子を吐き出してしまったため、痙攣し始めるまりさ。
そんなまりさを、てるよは助けるでもなくただ笑顔で見下ろしている。
何度も何度も嘔吐を繰り返し、みるみるやせ細っていくまりさは…自分がもうゆっくりできないことを悟った。そして。

「あがっ…ゆびゅ…もっど…ゆっぐり……じだがっだよおお………!!!」

その言葉を最後に、まりさは動かなくなった。
既に先立っていたれいむの隣で、絶望に歪んだ醜い表情のまま…動かなくなった。

「………」

それを無表情で見下ろすのは、先ほどまで笑っていたゆっくりてるよ。
涙を流すでもなく、死体を貪り食うでもなく、ただ見つめている。

しばらく死体を見つめ続けた後、てるよは2匹の死体に背を向けて…


「……あのよでゆっくりしていってね!」


と言い残して、笑い声と共に竹林の奥へと消えていった。


(終)



「ゆっくりしてるよ!!」って誰かが言ってる絵を、どこかで見た気がするんだけど…

思い出せないので、自分が文章にしてしまいました。

自分だって、たまにはこんなのも書きますよ。

作:避妊ありすの人




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最終更新:2022年05月03日 10:00