2008年9月27日 作者により一部修正








一方、村役場の会議室。

「何てことをしてくれたんだ!!条約違反が知れたら、ゆっくりごときに食料を奪われるんだぞ!?」
「す、すまない…俺は条約なんて知らなかったんだよ!!」

何気なく子ゆっくりを食した事が、こんな一大事に発展するなんて。
男は周りの村人から責め立てられて、自分が仕出かした事を初めて理解した。

「今、この村の食料事情は決して余裕があるわけじゃない。もしあいつらに群れを補う分の食料を与えるとなったら…!!」
「はっきり言う。村が滅びるぞ!!」

この男を除いて、村人は皆条約の内容を十分理解していた。その条約を結びにきたドスまりさの恐ろしさも知っていた。
そして、条約違反があった場合に違反金―――食料をゆっくりの群れに支払う必要があることも。

「うっぐ……畜生!!どうしてこんなことに!!」
「お待たせした。状況を詳しく教えてくれ」

ちょうどその時、会議室に村長が入ってきた。4人の側近も引き連れている。

「村長!聞いてください!!こいつが群れの子ゆっくりを食っちまったんですよ!!」
「もう条約違反は向こうにも知れているはずだ!!きっと今日中に食料を取りに来る!!」
「どれもこれも、こいつが掲示板を確認しないで適当なことをやったからだ!!」

我慢の限界を超えたのか、男に殴りかかろうとする村人。
しかし、それを遮ったのは……他でもない村長だった。

「なっ…どうして止めるんですか!?こいつは取り返しのつかないことを!!」
「まず、皆に知らせておきたい事がある。実は……昨日掲示された条文は、まったくもって不完全だった。
 この場を借りて、皆にお詫び申し上げたい」

深々と頭を下げる村長。その突然の行動に、まわりの村人は何も言えなかった。

「そ、それはともかく…食料はどうするんですか!?あいつらに持っていかれたら俺達は…!!」
「いいのだ」

頭を上げた村長は、コホンと咳払いすると話を続けた。

「何を…何を言ってるんですか?」
「だから、それでいいのだ、と言っている」

揺ぎ無い自信が、村長の目にこもっていた。一方、男を責め立てていた村人達は訳が分からぬという表情だ。

「それとも何か?君たちはゆっくりごとき下等生物との条約を律儀に守って、ご丁寧に食料をくれてやろうとでもいうのかね?」
「そ、それは…俺達だって嫌ですよ!!でも条約が―――



「そんなにドスまりさが怖いかね?君には……人間としてのプライドはないのかね?」



村人全員に言い聞かせるように、そして…まるでこの村以外の全ての人里に向けて問うように…村長は言い放った。

「だが、どうか安心して欲しい。“条約”は我々に味方する」
「どういうことですか?条約は……俺達が認識しているのとは、内容が違うんですか?」
「まさにその通り。『ゆっくりを殺してはならない』なんて条文は……どこにも一切記載されていないのだ!!
 偽りの条文が掲示されてしまった不手際については、先ほども言ったとおり。重ねて謝罪する」

その言葉が、村人を安心させた。ゆっくりを殺しても問題なかったのだ。
しかし、それだけでは説明がつかないことがある。ゆっくりはその偽りの条文を条約だと認識している、という点だ。
それについても、村長は最適な解決策を提示する。“人間”にとって、最適な解決策だ。

「だが…残念なことにゆっくりどもは勘違いしている。人間が条約違反を犯したと思い込み、食料を奪いにくるだろう。
 さあ皆の者!!大切なお客様が、大挙して押し寄せてくるぞ!!準備をしろ!!槍を持て!!さぁ早く!!早く!!
 ただし手は出すな!!大切なお客様だ!!大切なお客様には、自らの過ちを存分に理解していただき、その上でお引取りいただく!!」

「「「お……おおおおおおっぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」

村人は歓喜した。条約なんてくそ食らえ!!ゆっくりは搾取されるだけの存在!!そんなゆっくりが人間と平等な条約を結ぶなど、笑止千万!!
我先にと会議室を飛び出し、武器を手にとって村と森の境界線へと向かう村人達。
それを、村長率いる5人の男はゆっくりと追う。

「やはり、ドスまりさにも“条約違反”は伝わっているのでしょうか?」
「そうだろうな。子ゆっくり一匹を食ったのなら、残りの家族はそれをドスまりさに伝えに戻るはずだ。
 まったく……あまりに予定通り事が進むと、逆に恐ろしくなるぞ」

村長は苦笑しながらも、自信は失っていなかった。
そして30分後、人間とゆっくりは村と森の境界で再び対峙する事になる。



『ぷくぅ~!!』

村と森の境界。
槍をもって横一列に並ぶ人間を前に、ドスまりさは大きく膨らんで威嚇のポーズをとる。
後方に控えている数千のゆっくりも同様のポーズをとった。
村人の中には怯むものもいたが、今のところ最高にテンションがあがっている彼らにとって、そのポーズは笑いを誘うものでしかなかった。

『ゆっ!!まりさはとてもおこってるよ!!はやく村長さんをよんできてね!!』
「私をお呼びかな?」
『ゆゆっ!?』

あまりにも早い村長の登場に、ドスまりさは戸惑いを隠せなかった。
だが、やることは変わらない。人間達の非をネタにして食料を掻っ攫おうという作戦は、変更する必要はないのだ。

村長は煙草を口に咥えたまま、村人達より一歩前に出る。
そのままどんどん歩んでいって、一匹の赤ちゃんゆっくりの前で立ち止まった。

「ゆっ!!おじさんはゆっくりあっちにいってね!!どすまりさのはなしのとちゅうだよ!!」
「ゆっくちぃ~?おじしゃんもゆっきゅりしゅる!?」

親ゆっくりは危機感を露わにしたが、当の赤ちゃんゆっくりはまったくの無防備である。

「ほぅ……人間でもゆっくりでも、赤ん坊はやはり愛らしいものだな」
「ゆっ!!そうだよ!!れいむのあかちゃんはとてもゆっくりしたかわいいこだよ!!」
「ゆっくちぃ~?れいみゅはかわいいよぉ!!」
「……はぁ。やはりゆっくりは理解しがたい生き物だな」

あっさり警戒を解くゆっくりに対して、村長はすっかり呆れてしまった。
ぴょんぴょん跳ねて足元にすり寄ってくる赤ちゃんゆっくり。村長は、そんな赤ん坊に煙草の火を押し付けた。

ジュウ!!

「ゆっ?ゆっぎゃいあおああおあいおりあおえろいあおえりおあおいろ!!???」
「あがぢゃあああああああん!!!どぼぢでぞんなごどずるのおおおおおおぉ!!!?」

「じょうやくいはんだよ!!ゆっくりたべものをだしてね!!さもないとゆっくりできなくするよ!!」
「にんげんのぶんざいでそんなことするなんて!!どすのこわさをおもいしってね!!」

騒ぎ立てるゆっくりには目もくれず、ドスまりさの目の前に仁王立ちする村長。
ドスまりさは、怒りのこもった目つきで村長を見下ろした。

『残念だよ!!でも条約できめたことだよ!!だから村長さんは早く―――
「実に残念だ。まさか条約締結から1日も経たずに、そちらが違反をしてしまうとは……」
『ゆ!?何を言ってるの!?条約違反をしたのはそっちでしょ!?ゆっくり食べ物をもってきてね!!』

ドスまりさは、村長が何を言っているのか理解できなかった。
こちらが違反した?何を言ってるんだ!人間が子ゆっくりを食べたのに、どうしてこっちが違反したことになるんだ!!
憤りを隠せないドスまりさは、怒りに顔を歪めた。仲間を殺した人間が許せないのだ。

「では、その条約とやらを確認しようか。君、あれを出してくれ」

指示を受けた男が、大きな紙を取り出した。それは昨日締結された条約の条文である。
左側にはゆっくりが理解できるようひらがなで。右側には人間が理解できるよう漢字も交えて、条文が記述されている。
そして、村長はその右側に……内容をひらがなで書き直した条文を、ぺたりと貼り付けた。

「これが、君の読めない漢字をすべてひらがなにしたものだ。さぁ、これで理解できるだろう?
 君たちの過ち。君の過ち。自分が何をしでかし、何を敵に回したのか。存分に理解できるだろう?
 理解できないか?それでは読んでやろう。一字一句漏らさず、君が締結した“条約”とやらをここに公開しようではないか!!」



以下が、右側に書かれていた条文の一部である。


  • 左側に記述されている条文は、なんら効力を持たない。

  • 人間はゆっくりの群れに自由に立ち入る事が出来る。
  • ゆっくりは人間の許可なく村に立ち入ってはいけない。

  • 人間の生活・生命を脅かしたゆっくりは、人間が裁く。
  • ゆっくりの生活・生命を脅かした人間は、なんら罪に問われない。
  • ゆっくりの生命・生活を脅かしたゆっくりは、人間が裁く。

  • ゆっくりは、労働力として100匹のゆっくりを村に送らなければならない。

  • ゆっくりの群れは、各々の家族が毎日子作りをして子供を産まなければならない。
  • 群れ全体で1日に1000匹以上の子供を産まなければならない。
  • 生まれた子供は、その9割を人間に提供しなければならない。
  • 群れのゆっくりの数の増減を把握するため、随時必要な人数の人間がゆっくりの群れに滞在する。
  • その人間に何らかの危害を加えた場合、群れ全員は人間に殺される。


これ以外にも、数多の条文が記載されていた。全てひらがなと漢字を交えて。
そして、その内容を……ドスまりさは今、把握した。

「どれもこれも、殆ど守られていないではないか!!貴様ッ、条約を舐めているのか!!」

村長は激怒していた。条約は、守るべきものである。
条約とは、国家と国家、集団と集団の約束事。それを破られては困るのだ。

『ゆっ!!でもそんなのまりさは知らないよ!!まりさはその条文をよまなかったよ!!』
「そうだろうな。だが書いてあったんだ。すべて!!余すことなく!!一字一句漏らさず!!
 君は条文全てに目を通す権利があり、義務があった。内容を理解する義務があった。理解できなければ申し出る義務があった!
 そしてそれに署名をしたということは、その権利と義務を果たしたという宣言なのだ。故に条約は成立する。
 なのに貴様は、今更条約を反故にしろと言う……君は、約束を破ろうとしているのだよ?」

『ゆっ、ゆぐぐぐぐ!!!どぼぢでえ゛ええ゛え゛えええ゛え゛え゛ぇぇえ゛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ゛ぇえ゛!!??』




条文全ての内容を理解したドスまりさは、その苛烈な内容に絶望した。その叫びが地を震わし、他のゆっくりにも伝わる。
一字一句漏らさず読み聞かされた他のゆっくりも、その中身がどんなに酷いものかを知って恐怖した。

「ひどいよ!!そんなゆっくりできないようにするなんて!!」
「にんげんだけゆっくりするなんてずるい!!まりさたちもゆっくりさせてね!!」
「あかちゃんをあげるなんてできないよおおおおおおおぉぉおぉぉ!!!」
「どうじでぞんなごどずるのお゛おおお゛お゛おお゛お゛!!??」

だが、ドスまりさは思い出したように反論した。村長は意外そうな顔をしてそれに応じる。

『ゆぐぐぐ!!でもまりさは言ったよ!!“右側の文章がわからない”っていったよ!!』
「あぁ、よぉく覚えているよ。で、私は言ったな。“人間にわかるように書いてある”と」
『そうだよ!!だから村長さんがだましたんだよ!!条約はむこうだよ!!』
「騙した?誤解しないでくれたまえ。あの時私が言った言葉を繰り返そう」

―――人間はひらがなだけだと逆に文章を理解できないんだ。だから右側には人間が理解できる文章で書いてある。
条約締結のためには不可欠な措置だ。ゆっくり理解してくれたまえ。

「なぁ、私はいつ……右と左の文章の内容が同じだと言ったのだ?」
『ゆっ!?そ、それは!!』
「君は“右側の文章が分からない”と言った。それでは我々も“はい、そうですか”としか答えようがない。
 もし“右側の内容を読み上げろ”と君が要求すれば、我々はそれに応えたというのに……
 君は本当に条約を理解しようとしたのか?君にとって、この条約はお遊びだったのかね?」
『ゆっ!!ゆうぐぐぐぐぐぐぐぐ!!!そんなああぁぁぁああぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!』

条約を無効に持ち込むための一撃も、あっさりと村長にかわされた。
もはや、ドスまりさに打つ手はなかった。

「なぁ、ドスまりさ?君は……我々と対等なつもりでいたのかな?」
『ゆっぐ…ゆっぐぐ!!』
「ところが違うんだ。我々は強者。君たちは弱者。強者が弱者と条約を結んだところで、何のメリットもない。
 そんな利点ゼロの条約を、我々が結ぶと思っていたかね?思ってたんだろうな、きっと。君はバカだから」
『ッがああぁぁぁあっぁあぁあぁぁぁぁ!!!』

言葉のナイフで、ドスまりさの心を抉る村長。
ドスまりさは悲鳴を上げるが、暴れまわることはしない。
心の隅で認めているのだ。自分達の過ちを……自分達の落ち度を。

「いいか?後学のためによく聞きたまえ。条約というのは、強者と強者、弱者と弱者の間にのみ成立する。
 ということは、我々と君たちとの間にあったのは条約ではない別のもの、ということになる。それが何かわかるか?」
『ゆっぎぎぎぎぎ!!!わがらないっ!!わがらないよっ!!』
「……搾取だよ。強者による、弱者からの一方的な搾取だ。我々は最初からそのつもりだった。
 弱者から“条約を結ぼう”という提案があったので、我々は嬉々として受け入れたよ。鴨が葱を背負ってやってきたようなものだからな。
 繰り返す。我々と君たちとの間に結ばれたのは、“条約ではない”。文書によって、我々による君らからの搾取が正当化されたに過ぎないのだよ」


「ひどい!!どうしてれいむたちをゆっくりさせてくれないの!!」
「そうだよ!!まりさたちもゆっくりしたいよ!!」
「そんなじょうやくだめだよ!!どすまりさ!!じょうやくなんていらないよ!!にんげんたちをこらしめようよ!!」
「そうだそうだ!!じょうやくなんてむこうだよ!!どすまりさがいれば、にんげんなんてかんたんにころせるよ!!」

『そんなごどいっだらだめえ゛え゛え゛え゛ええ゛ぇぇぇ゛ぇ゛ぇえ゛え゛!!!』

ドスまりさは恐れていた。ここはひとまず条約を受け入れて、引き下がらなければ!
さもないと、周りのゆっくりが余計なことを言って付け入る隙を与えることになる。

その考えに至ったまではよかった。だが、残念なことに手遅れだった。

「ほぅ、君たちは我々に攻撃する意思があるのか。後方の5千を越えるゆっくりは、皆我々の生命を脅かすための兵士ということか」
『ちがいまずううううぅぅううぅぅぅ!!!までぃざだじはだべぼのをもらいに―――
「いや、それはない。何故なら条約違反をしたのは君たちなのだ。そんな君たちが食料を受け取りにくるとは考え難い。だろう?」

暴論だった。姑息な手段で集団をおびき寄せておいて、それを“生命を脅かす兵士”だと言い出すなんて!
だが、反論する力も権利もドスまりさにはなかった。こんな滅茶苦茶な条約を結んだのは、他でもない自分なのだから。

「我々は、君の後方に控える5千のゆっくりを、“人間の生命を脅かしうる存在”と認識する。これは重大な条約違反だ。
 よって条約に基づき、違反金の支払い、そしてこの場にいる全てのゆっくりを我々人間が裁くものとする!!」
『どうじで……まりざだぢはゆっぐりじだいだけなのに……!!』
「反抗したければすればいい。結果は変わらぬ。この場にいるゆっくりが全滅するだけだ。
 ……そうだ、君は条約締結時に我々をドススパークで脅したな。あれも条約違反ということにしよう……やれ!」

極悪非道。人間対人間であれば、そんな言葉が当てはまるだろう。
しかし、相手はゆっくり。そんな非道がまかり通るのが、この世界だ。

村長の指示に従い、槍を持った人間がゆっくりたちの周囲を取り囲んでいく。

「ゆっくりしね!!ゆっくりできないにんげんはしね!!」
「にんげんのくせに!!ゆっくりのじゃましないでね!!」

果敢にも人間に飛び掛っていくゆっくりだが、あっさりと槍につき抜かれて息絶えていく。
その惨状はいつまで続くのか。ドスまりさは分かっていた。自分が、条約違反を認めればいい。
自分が謝れば、この場のゆっくりが全滅することは避けられるのだ。

『もうやべで!!わがりまぢだ!!まりざだちがわるがっだでず!!ごべんなざいいいいぃぃ!!!』

ドスまりさは、正式に謝罪した。その瞬間、人間によるゆっくりへの攻撃が止む。
自分一匹ならドススパークで逃れられたかもしれない。しかし、後方には5千のゆっくりがいるのだ。
ドススパークで2,3人の人間を殺したところで、残った人間は他のゆっくりを綺麗に殺しつくしてしまうだろう。

「どうじで!!どうじであやまるの!!まりさたちはわるくないよ!!」
「れいむもわるくないよ!!ゆっくりぢでだだげなのにいいいぃぃいぃぃ!!」
「どずのばがああぁあぁぁぁぁぁ!!どうじでにんげんをごろざないのおおおおおおおぉぉぉおぉぉ!!??」

後ろのゆっくりたちは、ドスまりさがどうして人間に対抗しないのか、ドススパークを打たないのか、などと文句を言ってくる。
ドスまりさは苦しかった。人間には不当な条約を押し付けられ、仲間からは罵られる。
全ては仲間のために。仲間がゆっくりするために頑張ってきたことなのに。その仲間は無能で、理解力不足。

ドスまりさは、全てを諦めた。全てを後悔した。人間を欺いたりせず、自分達だけでゆっくりすればよかった、と。


報われないリーダーは……敵を欺こうとして逆に欺かれた無能なリーダーは、すべてを新たな支配者に委ねた。





半年後。

「ゆぅ……」
「ゆっくりしたいよぅ…」

森を往来するゆっくりたちの表情に、かつての元気はない。
一方的な搾取。一方的な蹂躙。果てに待つのは破滅。その行く末が、見えているからだ。

「ん……んほおおぉぉ……!!」
「ずっぎりー!!ゆぅ………れいむのあかちゃん、みじかいあいだだけどいっしょにゆっくりしようね」

頭に生えた蔓。子供の形を成している実に向かって、れいむは子供が連れ去られるまで共にゆっくりしようと決めた。

毎日子作りを強制され、10匹以上の子供を作る事が条約で取り決められている。
生まれた子供を逃がそうとしても、駐在する人間に発見されて一家根絶やしになる可能性もある。
だから、ゆっくりの家族は今日も子作りに励むのだ。

「おらおらァ!!きりきり働けぇ!!」
「いぎゃああぁぁぁぁあゆっぐりいいぃぃいいぃぃ!!!」
「いだいのいやあぁぁあぁぁ!!ゆっぐじじだいいいぃぃぃいっぃ!!」

工事現場で悲鳴を上げるのは、強制労働を課せられているゆっくりだ。鞭に打たれて、大粒の涙を流している。
この強制労働も条約に記載されている。人間に対して労働力を提供する事が、取り決められている。
だから、ゆっくりは今日もせっせと働くのだ。

「よし!!誰がたくさん殺せるか勝負だ!!」
「負けないぞ!!」「俺だって!!」

ゆっくりの群れが住む森で、ゆっくりを殺した数を競うという残酷な遊びを始める子供達。
そんな彼らを止める権利を、ゆっくりたちは有していない。
ただ殺されるままに、殺されなければならない。それが条約の取り決めである。

運がよければ、森に駐在する大人によって止められることはあるかもしれない。
だが、人間による群れのゆっくりの増減予想を逸脱しないかぎり、大人の人間による助けなど期待できなかった。


「どぼぢでごろずのお゛お゛おおお゛ぉぉぉぉぉ!!??」
「れいぶだぢはゆっぐじじでだだげなのにいい゛い゛い゛いいい゛い゛!!」
「どずまりざだじゅげでえ゛え゛ええぇぇ゛え゛え゛ぇえぇえぇぇ!!!」
「どぼぢえむじじゅるのおお゛おお゛お゛お゛お゛おぉぉぉぉ!!??」
「どずのばがあ゛あ゛ああ゛あ゛ぁぁぁ゛ぁ゛あ゛ああ゛ぁぁぁあ!!!」

子供を産まなかった親ゆっくりは殺された。

働かなかったゆっくりは殺された。

人間の子供の遊び相手になったゆっくりは、笑いながら殺された。

群れのゆっくりが増えすぎたときは、たくさん殺された。

人間が必要だと判断したときは、とにかく殺された。

すべては条約があるから。条約の取り決めに従って、人とゆっくりは“共存”している。





だが、群れのゆっくりには希望があった。

最後の条文には、こう記されている。




  • この条約の有効期間は、一年間である。




ゆっくりたちは、その一年後が訪れるその日まで、人間の酷い仕打ちに耐え続ける。
一年経てば自分達は解放される!!自由になれる!!―――そう信じて。


『ゆっぐぐぐぐ………みんな……あと半年……がんばっでね………』


大木に縛り付けられているのは、ドスまりさである。
条約の取り決めに従い、人間の生命を脅かしたドスまりさは人間に“裁かれている”のだ。
身動きの取れないドスまりさは、一日一食、駐在している人間から食料を与えられている。

目の前を往来するゆっくりが、ドスまりさの顔を見上げる。
皆口には出さないが、心の中はドスまりさを罵りたい気持ちでいっぱいだった。
だが、そんなことをする体力的余裕がないのだ。そんな力が余っていれば、一匹でも多く子を産んで人間に献上しなければならない。


『がんばっで……ゆっぐ……うっぐ…ううぅぅぅぅ……がんばっでねぇ……』


ドスまりさの記憶が正しければ、約束の期日まであと半年。
その日が来れば、自分達は解放される。そしたら復讐なんて考えず、この森から逃げよう。ここは全然ゆっくりできない。
今まではゆっくりさせてあげられなかったけど、解放されたらここから遠い別の場所でゆっくりしよう!!
みんなでゆっくりすれば、自分も幸せになれる。自分を罵ったゆっくりも、きっと許してくれるはずだ。


群れのゆっくりにとって、その“半年後”こそが生きる希望だった。


半年後の自分がゆっくりする姿を思い浮かべて…

今日も子を作り、働き、搾取される。


だが、とても残念なことに。

人間側としては、半年後までゆっくりを生かしておく予定はまったくなかった。



(終)



あとがき

ゆっくりレイパー氏の『ある愚者の孤独な復讐』を読んで、結構溜まったんですよ。すっきりできなかった。

この糞ったれ村長はカリスマ村長の外交手腕を見習ってね!!という具合に書きなぐりました。5時間で。

次はちゃんとした虐待を書くから許してね!!

作:避妊ありすの人

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最終更新:2022年05月03日 16:13