『ま、まりさー!? なんでどすとすっきりしてるのおおおおおお!?』

 ありすとぱちゅりーの絶叫が唱和した。
 これは、と弁解しかけるドスまりさの前で、よそ者まりさがにやりと笑う。同時に叫んだありすとぱちゅりーもまた、互いの
顔を見合わせていた。
「な、なんでぱちゅりーがまりさをしってるの……?」
「むきゅ、ありすこそ、まりさはむれのゆっくりじゃないのに、どうして……」
 事態の推移についていけずにいる一同をよそにして、れいむの頭上に実った命、そのひとつが、震えながら蔦から地面へと落
ちていく。
 その小さな命は、懸命に姿勢を正し、小さく跳ねると、渾身の一声を発した。
「ゆっきゅりしちぇいっちぇね!」
 誰も、赤ゆっくりの第一声に応えない。
 ただ、その子を産み落としたれいむだけが、ひっそりと望まれぬ命の行く末を思い涙した。


「むきゅ、これよりさいばんをはじめるわ。ひこくゆっくりのれいむと、……まりさ、はまえにでてね」
 裁判長のぱちゅりーの言葉に従って、よそ者まりさとれいむが証言台に立つ。怒りと哀惜の声がそこかしこで上がった。
 時は夕刻。狩りに出たゆっくりたちも帰還している。そこで、勝手にすっきりし、子をはらみ、あまつさえ堕胎と称して赤ゆ
っくりの素を食べたよそ者まりさとれいむの罪が裁かれるのである。
「れいむは、どすまりさがきびしくおしえたにもかかわらずすっきりしてこどもをにんっしんっしたつみ。そして……まりさは
、よそものにもかかわらずないしょでむれのゆっくりとかんけいをもったつみ。さらに、そうしてにんっしんっしたあかちゃん
を、〝だたい〟したつみにとわれているわ。むきゅ……まちがいない?」
「ないぜ」
 よそ者まりさは堂々と答えた。その美々しさに、厳粛な裁判の席であるにも関わらず、一部で黄色い声が上がる。ただ大抵の
ゆっくりは、そのおぞましい犯行に顔をしかめた。赤ちゃんを食べてしまうなんて、まるでゆっくりできていないやつらだと。
「いまはさいばんちゅうよ! とかいはじゃないひとたちはゆっくりきえてね!」
 それを制してヒステリックに叫んだのは、昼間にドスまりさとよそ者まりさとの情事を目撃してから、ずっと落ち着かないあ
りすである。普段は余裕と知性に満ちた雰囲気が、今はとてもささくれ立っている。
「……れいむも、まちがいない?」
「……ないよ」
 答えるれいむは憔悴しきっており、頭部にもう蔦はない。最初に産まれた赤ゆっくりをのぞいて、わずかに難を逃れていた赤
ゆっくりの素は、全てぱちゅりーとありすによって処理されていた。唯一産まれた赤ゆっくりは、今は母れいむに見守られ、裁
判には参加せず眠っている。
「むきゅ、ふたりのざいじょうはおおよそはっきりしているわ。あかちゃんをにんっしんっしたことさせたこと、そしてそのあ
かちゃんをころしたこと……」
「いぎあり、なんだぜ」
 よそ者まりさが、真直ぐにぱちゅりーを見上げた。
「むきゅ、ひこくゆっくりまりさ」
「たしかにあかちゃんをころしたらじゅうざいなんだぜ。まりさはこのむれのなかまじゃないけど、それがゆっくりできないっ
てことはわかるんだぜ。でも、まだうまれてないあかちゃんをころすのは、ほんとにいけないことなのかだぜ?」
「むきゅっ……」
 言葉に詰まるぱちゅりーへ、たたみかけるようによそ者まりさは続けた。
「まりさは『きいてた』からしってるんだぜ。ここではどすにえらばれたゆっくりしかすっきりしちゃいけないんだぜ。たべも
のがすくなくなるとゆっくりできないから、あかちゃんをふやさないのにはまりさもさんせいなんだぜ」
「じゃあどうして赤ちゃんを食べちゃったの!?」
 たまらず口を挟んだのはドスまりさである。
 あれ以来、ドスまりさとありす、ぱちゅりー、よそ者まりさの間には妙な空気が流れている。まさか、という思いが彼女には
あり、しかしそれは外れていないだろうとも察していた。……恐ろしいことに、あのよそ者まりさが手を出していたのは、れい
むだけではなかったのだ。
「きまってるんだぜ。まだうまれてないあかちゃんはゆっくりじゃないんだぜ。それにうまれてもどうせゆっくりできないんだ
から、そうなるまえにおかあさんのからだにもどしてやるのがしあわせなんだぜ。そうすればあかちゃんはうまれてもいないん
だからしんでもいないって、まえにまりさのむれにいたどすがいってたんだぜ」
 その論法を理解できたかはともかく、『他のドスが言っていた』というよそ者まりさの台詞は強く群に浸透していった。戸惑
いと納得と反発の声があちこちであがった。
「ゆー……。ほかのどすが……?」
「あのとかいはなまりさはいいこというわね! にんっしんっしてもたべちゃえばつみじゃないんだわ!」
「れいぷまのありすはばかいわないでね! あかちゃんはあかちゃんだよ!」
「むきゅー! せいしゅくに! いまはさいばんちゅうよ! げほっ」
 ぱちゅりーが咳き込みながら動揺を収めるが、それは歯切れの悪い、表面的なものでしかなかった。
 見かねて、ドスまりさが再び口を挟む。ちなみに裁判におけるドスまりさは刑の執行役である。
「ぱちゅりー! いまはとりあえず産まれていない赤ちゃんのことは置いておいてね! それよりも罪状を明らかにすべきだよ
!」
「そ、そうね。……むきゅ、まりさ、あなたはきょうのあさ……」
 れいむとすっきりし、その一部始終をドスまりさに目撃された経緯を、ぱちゅりーは問いただす。これに頷いたあとで、よそ
者まりさはさらに加えた。
「たしかにどすにはれいむとのすっきりをみられたけど、それだけじゃないんだぜ。どすはまりさとれいむのすっきりをみてじ
ぶんもすっきりしていたんだぜ。おまけにそのあと、まりさともどすはすっきりしたぜ」
 その証言に、今度こそゆっくり達に驚きが伝播していった。
 若いゆっくりのまとめ役であるまりさが、いち早くよそ者まりさに食って掛かる。
「どすをぶじょくするまりさはゆっくりしんでね! どすがそんなことするはずがないよ!」
 純粋なそのまりさを一瞥して、よそ者まりさは落ち着き払って答えた。
「でもじじつなんだぜ。……おまけに、どすは ど う て い だったんだぜ! まりさがどすのはつものをいただいたんだ
ぜ! おまえらはすっきりもしらないどすをありがたがってたんだぜ! けっさくだぜおわらいだぜ! すっきりきんしとかい
ってるほんにんが ど う て い ( 笑 )! だったんだぜ!? ほんとこのむれのびっちどもはさいこうにゆっくりし
てるんだぜ! すいーつ(笑)!!」
「ゆ、ゆがああああああ!!! しね! ゆっくりしねこのよそものが!! どすのすごさなんてなにもしらないででたらめい
うなあ゛あああああ!!!」
 敬愛するドスまりさを嫌味たっぷりに貶されて、潔癖なまりさはその顔を怒りで赤黒く染めた。
「げらげらげら! いくらおこってもじじつはかわらないんだぜ! ほらどす、これはさいばん(笑)だぜ? ゆっくりはやく
ほんとのことをみんなにおしえてやるんだぜ!?」
「もう゛やべでよばりざああああ!」
「むきゅ! せいしゅく、せいしゅくに……! ねえ、おねがいだから! どうして、うっ、まりざ……げえーっ」
「とかいはじゃないとかいはじゃないこんなのぜんぜんとかいはじゃない……どうしてまりさがどすなんかとどすなんかとまり
さ……うそでしょまりさぁ……」
「どうてい(笑)」
「どすがっかりー!」
「どうていがゆるされるのはこゆっくりまでだよねー」
「ぎざばら!! どすをばがにするなあああああ!!!」
「ゆげっ」

 混乱の極みに達するゆっくりをよそに、ドスまりさはひたすら口をつぐんでいた。
 ゆっくりの模範として嘘はつけない。だが正直に答えるわけにもいかない。そんなことすればドスの権威の失墜は免れない。
それはドスだけの問題ではない。むしろ自分が笑い者になるだけで済むならば、ドスまりさは喜んで自らの恥部をさらしただろ
う。
 だが、ことはもはや群の存続にも影響しかねない。安易な発言はできない。
 だからこうして理性的に判断して、黙っている。ドスまりさは必死で自分にそう言い聞かせる。実際は、ただみんなの前で恥
をさらしたくない一心で沈黙していた。それに口の中は相変わらず傷だらけで、あまり喋ると差しさわりが出るのだ。みんなの
ために自分は冬に備えて『ひなんじょ』をつくらねばならない。そうだ、工事を続けなきゃ……。

「どすぅうぅ!? どこいくのおおお!? ぱちゅりーが、ぱちゅりーがあんこはいてしんじゃったよお゛おおお!?」
「げらげらげら! どうていのそうろうになにいってもむだだぜ! おまえらはおわりだぜ! なにがどすだぜ!? ひとかわ
むけばただのゆっくりだぜ!? ……まりさは、まりさはしっぱいさくなんかじゃないんだぜええええええ!!!」
「おまえはだまれええええええ!!!」
 若まりさが、よそ者まりさへ殺気をこめた体当たりをしかける。あっさりと直撃を受け、餡子を撒き散らしながらよそ者まり
さは吹っ飛んだ。れいむとありすがそのそばに駆け寄ろうとするが、よそ者まりさは狂ったようにわめくのを止めなかった。
「どすがなんなんだぜ! ただでかいだけなんだぜ!? かりもできないすっきりもできない!! つよくてあたまがいいなら
まりさだってそうなんだぜ!! あんなどうていでもどすになれるのに!! ただどすじゃないってだけでまりさはだめなんだ
ぜ!? うわあああああああ!! げらげらげら!!!」
「いいからもうぢねえええええ!!」
「そうよ! あんなどうてい(笑)のどすのいうこときいたってしょうがないわ! とかいはにすっきりしましょうよおおおお
おおほおおおれいぶうううう!!」
「ありずはじね! ゆっくりじねええええ!!」

 ゆっくり達が全幅の信頼を寄せていた、ドスの権能。
 それは絶大であるだけに、常に保たれていなければ意味がない。
 わずかな罅が、群を一時的に叫喚の坩堝へ陥れた。
 しかしこれも、ドスまりさがきちんと冷静に対処すればすぐに収まる騒ぎでしかない。
 だが、そのドスまりさは、もうその場から消えていた。
 あとにはただ、一部の熱狂に浮かされたゆっくりと、崩壊を予感する多数のゆっくりが残されただけだった。


 ドスまりさは土を食む。石を除け、岩を砕く。ひたすら作業に没頭する。
「ゆっくりゆっくりゆっくりゆっくりゆっひゅり……」
 ざくざくと穴を掘る。歯が折れる。舌が避ける。ドススパークを撃つ。口が焼ける。餡子が焦げる。
 それでも我慢だ。仲間たちがゆっくりするためなのだ。
 ドスまりさは、ドスなのだから。辛くとも、ゆっくりできなくとも、ゆっくりさせてあげねばならない。
「まりさ」
「ゆっひゅいゆっひゅりゆっふり……」
 母れいむの声だった。だが、ドスまりさは振り向かない。もうこのボケた義母に盲従している場合ではない。自分はドスまり
さなのだから、自分の意思で、正しいことを行うべきなのだ。いつか子が巣立つように、母れいむはもう必要のない存在なのだ

「おまえはどすにはなりきれなかったね。れいむはまたしっぱいしちゃったよ」
「ゆッふひゆっふひゆっふひゆっくひゆっくき……」
 わけのわからないことを言うな。何も手伝わないなら黙ってどこかに消えろ。
「まあいいよ。れいむはつぎはこのこをどすにそだてるよ。まりさは……どっちにしても、もうだめだね」
「ゆひッゆくフっユキヒヒッフヒッゆっくゆっくスッキリー♪……」
「いつでもただしいはんだんができるようにしいくしたけど……やっぱりしゃくしじょうぎなぐずじゃげんかいがあったんだね
。それじゃあねまりさ。おまえはいままでれいむがそだてたなかでもそこそこできがいいほうだったよ」
「ゆひっれいぶれいぶすっきりすっきりドスとすっきりしようよぉ……あかちゃんゆっくりしてるよぉ……♪ ゆっふ! ゆひ
!……」
「おもうぞんぶん、そこでゆっくりしていってね」
 ドスまりさはただ一匹、食事も取らずいつまでもそこで工事を続けた。
 それからしばらくして雨が降り、穴が崩れた。ドスまりさは頭に丸太が突き刺さると、あっけなく死んだ。最期に、
「おかあさぁん」
 とだけ、呟いた。


「ゆっきゅりー♪」
「ふふ、あかちゃんはゆっくりしてるね」
 生まれたばかりの赤まりさを頭に乗せて、母れいむはかつて広場のあった空間を通り過ぎていく。そこには、黒ずんだリボン
つきの死体や、ひたすらドスを呼ぶまりさ、そのまりさを犯すありす、息絶えたぱちゅりーなど、いくつかの死だけが残されて
いる。
 他のゆっくりはもう逃げたか家に帰ったのだろう。しばらくはドスにすがるだろうが、ああなってしまえばもうこの群でゆっ
くりすることはできない。早々に見切りをつけるはずだ。
 淡々と跳ねる母れいむの前に、一匹のゆっくりが立ちはだかった。
「まっ……てよ……」
「ゆっ♪ おとーしゃんだー♪」
 それはあのよそ者まりさ。すなわち母れいむの抱える赤まりさの父である。
 母れいむはため息をつくと、傷だらけで息も絶え絶えなよそ者まりさへ言った。
「れいむはおまえにきょうみはないよ。おまえはしっぱいさくだからね」
「……どう、じで、ぞんなごと、いうの……? まりさ、がんばったよ……? あのどすよりも、すごいでしょ……? ねえ…
…」
「れいむのまわりをうろついてたかとおもえば、こんなこどもじみたことをするなんてね。まんぞく? まんぞくしたなら、つ
いてくるのはゆっくりやめてね。れいむはいそがしいんだよ」
「ねえ……おかーさん……!」
 鼻を鳴らすと、母れいむはよそ者まりさを退け、一顧だにすることなく、遠ざかっていった。赤まりさだけが父を呼ぶが、自
らの子も、よそ者まりさの目にはどうでもいい存在としか映っていない。
「そんなできそこないのがきじゃむりだよ……! おかあさん! まりざを! まりさをっ、ゆぶぅおえ!!」
 既に満身創痍だったよそ者まりさを、致命的な衝撃が襲う。
「ねえまりさ……ぱちゅりーしんじゃったよ……おさななじみだったんだよ……あなたをゆずってもいいかなって、くやしいけ
どおもってたのよ……でもしんじゃったの……なんで?……ねえ、どすもおかしくなっちゃった……これって、ぜんぜん、とか
いはじゃないわよ……ねえ、まりさ、あなたなにがしたかったの……?」
 群に残った最後の側近、ありすの仕業だった。虚ろな目で致死量の餡をこぼしたよそ者まりさを見下ろしながら、ぶつぶつと
定まらぬことを呟き続けている。
 そしてそれでもなお、まりさの目は母れいむしか捉えていないのだった。
「おかあさん……まりさをみてよ、まりさ、――」
 湿った音を最後に、あたりは静寂に包まれた。



「きょうから、れいむがおちびちゃんのママだよ!」
「ゆ! ゆっきゅりりかいしちゃよ! みゃみゃ!」
「おちびちゃんはかしこいね! きっとつぎはいいどすになれるよ!」
「ゆゆ? みゃみゃ、どしゅってなあに? ゆっきゅりできるにょ!?」
「もちろんだよ! すごすごくゆっくりできるよ――」

 母性に溢れた笑みを浮かべて、母れいむは赤まりさを見守るのだった。









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最終更新:2022年05月03日 16:16