「おじさん、どこにいるんだろう…」

れいむはとぼとぼと道を歩いていた。
麓に下りてすぐの時は、歌を歌うほど元気だったが、
今ではすっかり疲れてしまっていた。

「おなか、すいたな…」

だが、しばらく歩き続けて、原っぱに出たところで、
れいむの疲れを吹き飛ばすようなものが見えた。
草むらにポツンとたたずむ、黒い帽子をかぶった、金髪のゆっくり。
それは、ゆっくりまりさだった。

れいむにとって、生まれて初めて見る、母親以外のゆっくり。
驚いた。そして、ゆっくりに出会えた事が、たまらなく嬉しかった。
れいむは思わずまりさの側に駆け寄り、喜びの声を上げていた。

「ゆっくりしていってね!」

だがまりさは、その声に全く反応せず、うつろな瞳でどこか遠くを見つめていた。

『聞こえなかったのかな?』

のんきにそう思ったれいむは、先程よりも大きな声で挨拶する。

「ゆっくりしていぎゃぁぁぁぁぁあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!!!」

しかし、元気な挨拶は途中から絶叫に変わった。
まりさが突然、れいむの頬に噛み付いたのだ。
山の幸を沢山食べて、たわわに育ったむちむちの皮が無残にも引きちぎられる。

「いだいいい゙い゙い゙い゙!!!! どぼじでごんなごどずるのおおお゙お゙お゙お゙!?」

まったく予想していなかった事態に、れいむはパニック状態になった。
苦痛に転げまわり、傷口からぼとぼとと餡子を垂れ流しながら泣き叫ぶ。
だが、まりさの反応は、れいむの想像を遥かに絶する異常なものだった。

「あばばばばばっそばばあぎゃぼお゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙!!!!!!!」

まりさは、口から今食べたれいむの頬の皮と餡子、そして大量の唾液を撒き散らしながら、
ゆっくりとは思えない、凄まじい奇声を上げた。

「ゆゆっ!?」

れいむは恐怖した。なんだ、このゆっくりは?
こんな叫び声を上げる生き物は、山でも見た事が無い。

「うぴょぽあっぽぽぴょおおお゙お゙お゙お゙そぎょぎょぉぉぉぉぼお゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙!!!!!!」

このまりさは、人間に激しい虐待を受け、精神に異常をきたしてしまったゆっくりだった。
もともとは、元気で優しい、人懐っこいまりさだったが、
それ故に人を疑う事を知らず、強い嗜虐趣向を持つ者に捕まった。
そして、その結果が、現在の哀れな姿だった。

「ぽろろろろろおぉぉぉるぅぅぅうううびよぉぽぽおおおおおお゙お゙お゙お゙!!!!!!」

まりさは奇声を上げながら、再びれいむに襲い掛かろうとする。

「や、やめてね! こっちにこないでね!」

れいむはそう言ってまりさを突き飛ばす。
すると、まりさは地面に倒れて、ぴくりとも動かなくなった。
れいむは後悔した。やっと会えたゆっくりなのに、何て事をしてしまったのだろう。

「ご、ごめんね! だいじょうぶ?」

れいむは、まりさの側に駆け寄る。
その時、死体のようだったまりさが突然跳ね起きて、れいむの頬の傷に舌を突っ込んだ。

「えべべっべべべべびょっぼばばばばおぽぽおおおおお!!!!! うま! うまぁぁぁぁあ゙あ゙あ゙あ゙!!」

「ゆぎゃぁぁあああ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!! いだい!! いだい!! いだい゙い゙い゙い゙い゙い゙!!!!!」

まりさは、れいむの傷口を、ピンク色の舌で蹂躙する。それは、まるで激しいディープキスのようだった。
あまりの激痛に、れいむまで発狂しそうになったが、渾身の力を振り絞り、なんとかまりさから離れる。

そして踵を返すと、一目散にそこから逃げ出した。
だが、まりさは奇声を発しながら追いかけてきた。

「ぴぴぽぽっぽぽぽぷぽぽぽおぉぉおぽぉぽぉぽぉおおお!!!!!」

まりさの走り方は、ゆっくりというより、地面を這いずり回るゴキブリそっくりだった。
耳を澄ませば、カサカサという擬音が聞こえてきそうだ。
その不気味な姿は、れいむを心底怯えさせた。

『怖い! 怖い!! 怖い!!! 誰か助けて!!!!』

れいむは心の中で必死に助けを求める。
だが、れいむを助けてくれそうな存在は、この原っぱには誰もいなかった。

「こないで! こないでえ!!」

「おにょにょにょにょにょにょぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!!」

れいむは、体力には自信があった。山育ちの元気な体だ。
だが、今日は朝チョコレートを食べたきりで、他には何も口にしておらず、
それに加えて、麓まで下りて来た疲れから、思うような速さで走れなかった。
全身から汗が吹き出し、ゼイゼイと息が上がる。

「ゆっ…! ゆふっ…! ゆふぅっ…! ご、ごないで…!」

「にぽぽぽぽぽぽぉおおおおよんぴぃぃぃぃいいいいいい!!!!!!」

みるみるうちに、まりさとの距離が詰まっていく。
殺される。そう思うと、体はこんなにも熱くて苦しいのに、心の中は凍えるようだった。
その時、視界の先にゆっくりと同じくらいの大きさの石を発見した。

『あの石の裏に隠れよう』

藁にもすがる思いで石の後ろに身を隠すれいむ。
そんな事をしても、すぐに回り込まれる事は分かっていたが、
体力は既に限界だったし、このまま逃げていてもどうせ捕まるのなら、もう走りたくなかった。

「はぁ…はあ……もう…はしれ…ない…よ…」

荒い息を吐きながら、刑の執行を待つ死刑囚のような気持ちで震えるれいむ。
だが、いつまでたってもまりさは石の裏側に現れなかった。
れいむは、恐る恐る、まりさがいるであろう石の表側を覗く。

「…ぼーぼぼ…。そーぼぼ…」

まりさは石に激突して、体の半分以上が潰れていた。
発狂したまりさには、れいむが石の後ろに隠れた事が分からず、石をれいむだと思ってそのまま激突したらしい。
目は潰れ、額の部分がパックリと割れて、中から餡子が噴水のように噴出している。

「…そぼ…そぼ…そぼぼ」

まりさは石に向かって楽しそうに何やら呟いていた。

「れいむ。れーいむ。あそぼ、あそぼ、あそぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ…」

まりさは笑っていた。それは、友達を遊びに誘うような、楽しそうな笑顔だった。
その悲しい破顔を見た途端、何故だか分からないが、れいむは胸が締め付けられるような気持ちになった。

れいむは今まで、この黒い帽子のゆっくりの事を、正体不明の化け物のように思っていた。
だが、『あそぼ、あそぼ』という楽しそうな声を聞いているうち、
もともとはこの子も、自分や母親のように、楽しくてゆっくりとした生活を望む、
ごく普通のゆっくりだったのではないか、と思った。

それが何か、重大な事件が起こって、このようになってしまったのではないだろうか。
もう少し前に、出会えていたなら、きっと、すごく良い友達になれた気がする。

「う…うぅ…うっ…なんで? なんでなのお?」

逃げている間は、恐怖一色に染まっていたれいむの瞳が、悲しみの色を帯びていく

市場で罵られた時は悲しかった。
キタと、その息子の会話を聞いた時も悲しかった。
でも、今はその二つの事を忘れそうになるほど苦しかった。胸が、痛かった。

目尻に溜まっていた涙が、一滴の雫となって足元の草を濡らす。

「うっ…ううっ…。こんなのって…こんなのってないよぉぉぉぉぉおおおおお!!!!!!」

程なくして、まりさは動かなくなった。

その時、ひゅっと強い風が吹き、
もう誰にもかぶられる事の無い小さな帽子が、どこかへ飛ばされていった。









れいむは、もう山に帰ろうと思った。
おじさんには会いたかったが、これ以上、麓を歩き回る元気も、勇気も無かった。
今日一日で、あまりに悲しい事が起こりすぎた。
そして理解した。ここは、自分のいるべき場所ではないのだ。

「もう…おうちかえる…」

だが、れいむの体は、自身が思っている以上に疲弊していた。
その上、まりさから逃げている時に、傷口からかなりの餡子が漏れてしまったらしい。
れいむは、酔っ払いのように、千鳥足になっていた。

「あれ…? ふらふらするよ…? どう…し…て…」

そこまで言って、れいむは出血多量…いや、出餡子多量で、本日二度目の気絶状態になった。










れいむは再び夢を見ていた。

夢の中で、れいむは泣いていた。理由は分からないけど、とても悲しかった。
そこに、母親が現れた。美しいブロンドの髪に、慈愛に溢れた青い瞳。
れいむの母親は、ありす種だった。

ゆっくりにとって、母親と子供の種族が違う事は、珍しい事ではない。

母親がありす種でも、父親がれいむ種ならば、その子供のうち約半分はれいむ種が生まれる。
れいむは、父親にあったことが無かったが、母親から、父はれいむ種だったと聞いた事がある。

『れいむ、泣かないで…』

母親は優しく微笑むと、れいむの涙を、舌でそっと拭った。
嬉しかった。暗い心に、温かな光が広がっていくようだった。

『おかあさん…』

れいむは、母親に何かを喋ろうとした。だがその時、夢は終わってしまった。
目を覚ましたれいむは、自分のいる場所を見渡す。

「あれ? れいむ、おそとにいたのに…」

れいむは、洞穴のようなところで、藁の上に寝かされていた。
頬の傷には、薬草が貼ってあった。誰かが手当てをしてくれたらしい。
傷の痛みで、自分が道端で倒れてしまった事を思い出す。

「誰かが、たすけてくれたんだ。ここ、どこだろう…」

れいむは藁の上から起きだすと、恐らく出口と思われる、光が差し込んでいる場所に向かった。
まばゆい光に包まれながら、れいむは外に出る。

「ゆ! まぶしいよ!」

れいむの目に、真っ赤な夕日が地平線の向こうに沈む姿が飛び込んできた。
その眩しさにれいむが体を反転させると、そこには巨大な塔のような大木がそびえていた。
自分はその木の根元に空いている洞から出てきたらしい。
いったい、誰が自分を助けてくれたのだろう、と考えていると、背後から声がした。

「よかった! きがついたのね!」

この声の主が自分を介抱してくれたに違いない。
そう思ったれいむは振り返ってお礼を言おうとするが、
声の主の姿を見た途端。驚きのあまり絶句してしまった。

「どうしたの? ありすのお顔に、なにかついてる?」

固まってしまったれいむを見て、
声の主、ゆっくりありすが不思議そうに尋ねる。
れいむはわなわなと震えると、かすれた声で言葉を絞り出す。

「お、おかあさん!?」

ありすは、れいむの母親にそっくりだった。

もっとも、同じありす種なので似ていて当然なのだが、
れいむは、母親と、目の前にいるありす以外のありす種を見た事が無いので、
目の前のありすを母親だと思うのは、無理も無い事だった。

だが、それに面食らったのはありすである。
偶然倒れているところを発見し、介抱しただけのれいむに、
いきなり『お母さん』と言われたのだから。

「ゆ!? ありすはおかあさんじゃないわ! まだわかいんだから! 失礼しちゃう!」

ありすはぷくっと膨れて、心外そうな顔をする。
その反応で、れいむは、このありすが自分の母親でない事に気がつく。
冷静に考えてみれば、当然の事だった。母はもうこの世にはいないのだから。

「ご、ごめんね! しんじゃったおかあさんに、そっくりだったから…」

しゅんとなってしまったれいむに、ありすは明るく笑いかける。

「うふふ! じょうだんよ! おこってなんかいないわ!」

その優しい微笑みは、慈愛に溢れていて、本当の母親のようだった。

「さ、おうちにはいりましょ! ケガしてるんだから、まだねてなくちゃだめよ!」

ありすに促され、れいむは、ありすの巣である木の洞に戻る。
それから、藁のベッドに横になると、ありすに先程出会ったまりさの事を話した。

「それはきっと、にんげんにいじめられて、おかしくなったまりさね…」

ありすは悲しそうな顔でそう言った。
そして、この辺りでは、ゆっくり達があまり良い扱いを受けていない事を教えてくれた。

ありすの友達で、何もしていないのに、人間の子供に面白半分で殺されたゆっくりもいるらしい。
れいむは、話を聞いているだけで悲しくなって、涙を流した。
そんなれいむを見て、ありすも悲しそうな顔になる。

「れいむ、泣かないで…」

ありすは優しく微笑むと、れいむの涙を、舌でそっと拭った。
それは、夢の中で母がしてくれた事と同じだった。

れいむはいつの間にか、このありすが本当の母親であるように感じていた。
だから、少しだけわがままが言いたくなった。

「あ、ありすさん。あのね…あのね…」

でも、こんなこと言ったら嫌われるかもしれない。そう思うと、その後の言葉が続かない。
だが、必死に言葉を紡ごうとしているれいむを見守るありすの瞳は、どこまでも優しかった。

「なあに?」

きっと、大丈夫。言ってみよう。
れいむは勇気を振り絞って、ありすに思いの丈を伝える。

「ありすさんのこと、『おかあさん』ってよんでもいい?」

そう言われて、ありすはきょとんとしていたが、すぐに笑顔になり、優しく答える

「ありす、しんじゃったれいむのおかあさんに、そんなに似てるの?」

「うん。まるで、おかあさんが生き返ったのかと思うくらいだよ」

「そう…。れいむがそうよびたいなら、いいわよ」

「ほんとう!?」

「うん。でも、ありすはわかいんだからね! そこのところ、かんちがいしないでよね!」

ありすは、照れ臭そうにそっぽを向く。
その仕草がなんだかおかしくて、れいむはくすりと笑った。

「そ、それじゃあ、よぶね? お…おかあさん!」

「なあに、れいむ?」

そう言って優しく聞き返すありすは、
れいむにとって、生きていた頃の母そのものだった。

途端に、れいむの心の中に、母親が死んでからの寂しい日々、
そして、麓に下りて味わった恐怖と苦痛と悲しみが、嵐のように駆け巡った。
れいむはその感情を抑えきれず、泣きながら、ありすの頬に自分の頬を激しく擦り付ける。

「おかあさあああああん! れいむ、さみしかったよおおおお!! こわかったよおおおお!!!」

ありすの頬は柔らかく、そして良い匂いがした。とても心が安らいだ。
れいむは思った。今日は酷い目にばかり遭ったけど、それらはこの喜びの為の肥やしだったのだ。

これからは、素晴らしい毎日が待っているに違いない。
だから、今は泣こう。悲しみの涙なんて、流しつくしてしまおう。

「うわああああああああああん!!!!」

どれだけの時間そうしていただろうか、
ありすが黙ってしまったので、れいむは擦り付けていた頬を離す。

ちょっとしつこかったかな。
そう思いながらありすを見ると、顔がリンゴのように真っ赤になっていた。

「お、おかあさん? どうしたの?」

れいむは心配そうに尋ねるが、ありすは答えない。
その代わり、呼吸がどんどん荒くなっていき、
ブフー! ブフー! というトロンボーンのような音が、巣の中に響き渡る。

「おかあさん! おかあさん!? どうしたの? くるしいの?」

またしても、ありすは答えない。
顔の色、呼吸と来て、次におかしくなったのは、目だった。
アクアマリンのように綺麗な青い瞳に、ミミズが這っているかのような赤い血管が浮かび、充血していく。

「おかあさあん!! へんじしてよお!!」

ここで、顔が赤くなってから、ありすが初めて口を開いた。

「れ、れ…い…む…」

「おかあさん! よかった! れいむのことがわかるんだね!」

れいむはほっとして、再びありすの頬に自分の頬を擦り付ける。
その行動が、聖母のように優しかったありすを、悪魔へと変貌させる最後のスイッチになった。

死んでしまったれいむの母親は、ありす種としては驚くほど自制心が強かった。
だから、れいむは知らなかった。ありす種の恐るべき特性を。

ありす種は、他のゆっくりと比べて、異常なほど性欲が強いのだ。
時には、実の子供ですら、欲望の為に犯してしまうほどである。
と言っても、普段はいたって優しい、面倒見の良いゆっくりだ。

危険なのは、先程のように、頬と頬を擦り合わせるようなスキンシップをとった時だ。
人間の男が、女の肌の感触に欲情するように、ありすのボルテージは急上昇していく。

そして、発情してしまったありすは、もう誰にも止められない。

「れ゙ぇぇぇぇぇえ゙え゙え゙え゙え゙え゙ぃぃぃぃぃい゙い゙い゙いいいいむぅぅぅゔゔゔゔゔゔ!!!!!!!」

地獄の底から響くような凄まじい雄叫び。
ありすはものすごい勢いでれいむを押し倒すと、
涎が溢れる口で、れいむの小さなリボンを引きちぎった。

人間で言うなら、服を脱がしているようなつもりなのだろうか。
リボンが無くなった事で、れいむの豊かな黒髪がふわりと広がる。

「ゆゆっ!? れいむのリボン! おかあさん! やめて!! なにするの!?」

れいむは必死に抵抗するが、発情したありすに敵うはずがなかった。
のしかかられて身動きの出来ないれいむを見て征服欲が満たされたのか、
ありすは唇の端から、大粒の涎を滴らせている。

「あんしんしてねええええ゙え゙!!!! ありすは、いきなりぶちこむほど、ぶすいじゃないよおおおお゙お゙!!!!」

ありすは、れいむの体のありとあらゆるところを、舌で舐め回す。
ゆっくりの間では、親愛の情を表す為に、お互いの体を舐めあう事はよくあるが、
ありすがしているのは、そんな健全なものではなく、淫らな愛撫だった。

「ゆっ!? ゆぅ~! きもちわるいよお! こんな舐めかたやだあ!」

れいむは、身をよじってありすの嫌らしい悪戯から逃れようとするが、
その必死な姿が、かえってありすの劣情を煽る形になった。

「んほぉぉぉぉぉおおお゙お゙!!!! ツンデレれいむがわぃぃぃぃぃいいい゙い゙い゙い゙!!!!!!!!!!」

まったく自分の言う事を聞かず、訳の分からない事をしてくるありすに、れいむは恐怖を感じ始めていた。
れいむは、今の性欲魔人となったありすの顔を直視出来なかったので、自然と目を伏せる。
すると、視界にとんでもないものが映った。

ありすの口の下、人間で言うと顎の辺りに、成人男性の親指くらいの大きさの突起物があった。
それは、ゆっくりが発情状態になると体内からせり出してくる生殖器官。
分かりやすく言うと、勃起したペニスだった。

ゆっくりは雌雄同体だ。交尾の際にどちらかが攻めになり、もう一方が受けに回る。
その際、普段は体内に収まっている生殖器は、攻める側の場合ペニスに、受ける側の場合ヴァギナに変化する。

ありすはその性質上、ほとんどの場合攻める側だった。

山奥で育ち、全く性知識のないれいむには、
ありすの口の下でビクビク脈打っている物体が、なんなのか分からなかった。
だが、本能的に、とても嫌な予感がした。そして、その嫌な予感は的中した。

ありすはしつこく続けていた愛撫を突然止めると、
その突起物を、れいむの口の下に押し付けてきたのだ。

いや、正確には口の下にある、小さな菊の花のような性器に、欲望の塊をあてがっていた。
れいむは、ありすの意味不明な行動に、急速に不安が高まっていくのを感じた。

「なに!? なにするのお!?」

「わかってるくせにい゙い゙い゙い゙い゙い゙!!!!! でも、はじらうれいむがわいぃぃぃい゙い゙い゙い゙い゙い゙!!!!!」

ありすはそう叫ぶと、己の分身を、れいむの小さな性穴に、力任せにねじ込む。
ズボォという音と共に、凶悪な逸物が埋没していくと、
れいむの体に、今まで経験した事の無いような激痛が走った。

「ゆぎぃっ!? いぎゃぁぁぁぁぁぁああああああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!!!!」

『なんだか良く分からないもので刺された』それが、れいむの感想だった。
発情していないれいむにとって、ありすとの激しい性交は、苦痛以外の何ものでもなかった。

「どぅぅぅうぅ!? れいむぅぅぅぅ!? ありすのぺにぺにはさいこうでしょおおおおお゙お゙!!!!」

れいむは体内に異物を挿入された痛みで失神寸前だったので、
ありすの自惚れた台詞は聞こえていなかった。

奥歯をぎゅっと噛み締めて激痛を我慢する。
そうしていないと、あまりの痛さで気が狂ってしまいそうだった。

「れいむぅぅぅぅ!!!! ありすのすーぱーてくをたっぷりあじわってねぇぇぇええ゙え゙!!!!」

ありすは器用に体を歪ませては戻し、ピストン運動の要領でれいむの膣を乱暴に犯す。
花びらを一突きするごとに、ありすはとろけそうな表情で涎を滴らせる。

だが、ありすにとっての極楽は、れいむにとっての地獄だった。
悦楽の嬌声と、苦痛の悲鳴が、奇妙にシンクロする。

「んほっ! んほぉおおっ!! れいむぅぅ!! んぶぅほおおおおおおおおおお!!!!」

「いだっ! いだぃいいっ!! おがあざん!! もうやべでえええええええええ!!!!」

こんな行動に何の意味があるのか、れいむにはさっぱり理解できなかった。
ただ、痛くて、苦しかった。そして何より、優しかったありすの蛮行が、悲しかった。
だが、そんなれいむの意思など無視して、ありすの動きはさらに激しさを増していく。

「れいむぅううぅううううう!!!! んひぃ!! んふぉっ!!! ふぉぉぉおおおおおおおお!!!!」

「ゆっ…ゆぅ…ゆっ…おが…ざ…やめ…で……ぐる…じい…ぐる…じ…」

れいむは、だんだんと体の感覚が無くなっていくのを感じていた。
そもそも、ついさっきまで、疲労と出餡子多量で気を失っていたのだ。
そんな弱った体を激しく犯されれば、その末路は火を見るより明らかだった。
れいむは、『このまま自分は死ぬんだな』と思った。

「んお゙お゙お゙!! れいむのまむまむ、んぎもぢいいい!!! いぐうう!! もういぐよぉぉお゙お゙お゙!!」

「……………………………………………………」

衰弱しきったれいむは、もう苦痛の悲鳴を上げる事すら出来ず、
ありすにされるがままに体を揺すられている状態だった。
この光景を人間が見たら、トチ狂ったありすが、ゆっくりの人形相手に交尾しているように見える事だろう。

やがて、目の前が真っ暗になり、音も聞こえなくなった。
意識が霞のように消えていく中で、れいむは、ありすが豹変した理由について考えていた。

そして、れいむは一つの結論に達した。

ありすは、何か悪いお化けにとりつかれてしまったのだ。
そうでなければ、あの優しいありすが、これほど酷い事をするはずが無い。

そのうち、お化けが体から出て行って、優しいありすに戻ったら、
ありすは死んでしまった自分を見て、きっと悲しむに違いない。

れいむは、ありすが自分の死体の側で泣いている姿を想像して、ありすがかわいそうだと思った。

『おかあさん…』

れいむは、先程の夢のように、ありすに何かを喋ろうとした。
だが、死に瀕したれいむの、枯れた喉からは、かすれたうめき声がわずかに漏れるだけだった。

「ぉ…が…さ…」

そう呟いたのを最後に、二度とれいむが動く事は無かった。

巣の外は、日が沈み、かなり暗くなっていた。
ふと、宵闇の空に一筋の流れ星が現れ、山の方向に消えていった。
それはまるで、山に帰りたいと願う、れいむの魂のようだった。










同日、同時刻。れいむの住んでいた山の中を一人の男が歩いていた。

煌々と光るカンテラを持ち、
暗い山道を照らしながら歩いているのは、昨日れいむの巣に現れた男だった。

男はれいむの巣を出発した後、順調に山を下り、午前中のうちに、麓にたどり着いていた。
だが、男の心には、『あしたになったら、ふもとにかえっちゃうの?』という、
れいむの寂しげな言葉が、楔のように突き刺さっていた。

本当は、その言葉を聞いた時、れいむを自分の家に連れて帰ってやろうかと思った。
だが、麓ではゆっくりが冷遇されている事を男は知っていたので、断念したのだ。

れいむが麓に住めば、いつか必ず、ゆっくりが酷い目にあっている姿を、
直接目撃する時が来てしまうと思ったからだ。

山奥で育った純真無垢なれいむに、世の中の暗い部分を見せたくなかった。
だから、れいむにも、麓の楽しい話しかしなかった。

しかし、家に帰って男は考えた。そんなものは、自分のエゴではないか、と。
綺麗なものを、綺麗なままにしておきたいという、自分勝手な自己完結ではないか、と。

悩んだ結果、男は疲れた体に鞭打って、再び山へ向かった。
麓では怖い事や嫌な事もあるけど、それでも自分と一緒に来たいかどうかを、れいむに直接尋ねるためだった。

だが、尋ねる前から、どんな答えが返ってくるかは分かっていた。
本来、ゆっくりは自分だけでゆっくりするより、仲間や、優しい人間達と一緒にゆっくりするのを好むのだ。
麓には多少嫌な事があるからといって、山に一人ぼっちで残る事を選ぶとは考えられなかった。

「馬鹿だね、わしも。最初から連れて帰ってやれば、二度手間にならずに済んだのによ。おお、足がいてえ」

男は苦笑いしながら自分の太ももをさする。
二日にわたって何度も山を登り下りしたその足は、相当にくたびれていた。

やがて、男はれいむの巣の前に到着した。

男はポケットに手を突っ込み、
れいむを喜ばせてやろうと思って持ってきたキャンディーを取り出しながら、元気な声で呼びかける。

「お~い! おちびちゃん、いるか~?」

男の明るい声が、誰もいない暗い洞穴の中に、寂しくこだましていた。



おわり



作:ちはる



country girl = いなか娘。 都会ずれしていない、素朴な少女。



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最終更新:2022年05月03日 16:17