「ゆっくりくりくりくりっくり♪」
 この歌を歌っているのは、ゆっくり霊夢である。
「やっぱりれいむのおうたはせかいいちだね!!!」
 本気で褒めているのは、ゆっくり魔理沙である。
「ゆへへ♪」
「にへへ♪」

 ここは、ゆっくり達が暮らすとある森の一角。
 勝手気ままなゆっくりらしく、一日をゆっくりと過ごし、ご飯を食べ一家で寝る。
 それだけで嫉妬の炎で焼かれそうな生活だが、そんなことはお構いなしにのんびりと暮らしていたのである。
「ぺ~ろぺ~ろ♪ すっきり~~~しあわせ~♪」
 奇しくも秋の長雨が一段落し、近くに大きな水溜りが出来ていたのを発見したゆっくり達は、我先に集まって水分の補給をしていた。
 小さな赤ちゃんには、母親が口に含んだ道を口移しで与えている。
「ま、までぃさぁ♪」
「あ、あ☆り☆すぅ♪」
 違うところでは、アリスと魔理沙のカップルがこれまた口移しで水を飲み合っている。
「むきゅ~~……こっきょうふーぞくがみだれるわ。ぷんぷん!!」
「わか~るわかるよぱちゅりぃ~のきもち~~♪」
「でも~~♪ ぱちぇぇもやりたいのよねぇ~~♪」
「むきゅきゅ♪」
 まさに姦しいゆっくりの集団である。


「はーーるですよーー……ふぅ」
 そんな折に、どこからか人の声が聞こえてきた。
 それに気付いたゆっくり達は、なにやら話し始める。
「ゆ? にんげんさんだね!!」
「きっと、もみじがりにきたんだね!!」
「きれーなはっぱさんはおいしーもんね!! れいむもだいすき♪」
 友好的なゆっくり達は、早速声の主を探そうと、キョロッキョロと言いながら辺りを探しているが、なかなか見つからない。

「む~~……みつからないね」
「にんげんさ~~ん!! こうさんだよ!! つぎはまりさがおにになるよ!!」
「れいむじゃいちにちかかってもみつけられないよ!!」
「そんなことないよ!! まりさっていう、さいこーのぱーとなーをしっかりみつけたもん!!」
「あっっみゃ~~~~いい!!!」
 純粋な瞳であーだこーだ騒いでいるゆっくり達。
 それを今まで見つめていた声の主は、一瞬口元を歪ませてゆっくり達に姿を現した。
「はーるですかー?」
 真っ黒な服に真っ黒な帽子。
 その姿は、幻想郷に春を運ぶ妖精である。
 白いほうは春にしか殆ど姿を見せないが、こちらはここに姿を出している。
「ゆ!! かわいいにんげんさんだね!!」
「めごいめごいね!!」
「やっぱりこどもはかわいーね!!!」
 その愛くるしい容姿に、またまた大騒ぎのゆっくりの群。
 中には、集まって自分の子供の自慢を始めているものさえいる。
「はーるですか~~♪」
 そんな反応を無視して、今一度同じ言葉を投げかけるリリー。
 二度目にして、漸くゆっくり達もまともな返答を返してきた。
「ゆゆゆ♪ いまははるじゃないよ♪ あきさんだよ!!」
「にんげんのこどもちゃんは、はるさんがすきなんだね!!」
「わかる!! わかるよーーー!!!」
 既に、そこには笑いだけが流れており、なんとも楽しそうな光景が広がっている。

 子供達はリリーの足元までやってきて飛び跳ね、歌を歌う。
 今度は、大人達がそれに加わり踊りだす。
 酒が入っているかのような、そんなノリが辺りを包んでいる。

「ばぁ~かですね~~~♪」
 と、今まで終始笑顔でいたリリーがそれだけ呟き、突然ゆっくり達の目の前から消えた。
 それが上空に飛び立ったと気付くのに、ゆっくり達には一瞬の間が必要だったようだ。
「すごーい!! おそらをとんでるー!!」
「さっすがにんげんさんだね!!」
 自分達に侮辱的な言葉を発した事が聞こえなかったのか、ただただ空中にいるリリーに黄色い声援を送るばかりである。

 そんな声援を、興味なさそうに聞いていたリリーは、一度深呼吸すると、今までとは比べ物にならないような声を出した。
「あーきでーすよー!!!」
 同時に放たれる強力な弾幕。
 並みの妖精よりも強力なその弾幕は、ゆっくりを駆逐するのに十分な威力であった。
「きゃ♪ わ♪ いい~~♪ んべ!!!」
 まず、最初に放たれた一発が魔理沙を直撃した。
「ゆ♪ まりさ♪ !!! だいじょーーぶ?!!」
「い……、いだいーー!!! でいぶーーだすけでーーー!!!」
 霊夢が振り向くと、そこには苦悶の表情を浮かべながら、必死で助けを求める魔理沙の姿があった。
 しかし、既に底部から大量の餡が飛び出しており、生存は絶望的な状況である。
 だが、それが分かるほどゆっくりの知能は高くない。
「わかったよ!! れいむにまかせt……」
 弾幕の海の真っ只中にいた霊夢に、漸く弾幕が命中した。
「いだいーー!! まっでぃざぁーーー!! ゆっぐりしでないでたすげでーーー!!!」
 今まで当たらなかったことは幸運の賜物であったのだろう。
 続けざまにもう二・三発弾幕を食らう。

「どうしでぞんなごというのーー!! れいむはそごまでおばかだったのぉーー!!!」
「たすげるよーー!! までぃさはやくたすげでーー!! れいむがたすけるよーー!!」
 ソフトボール大の穴が数個開いた霊夢は痛みで通常の思考が出来なくなっていた。
 目の前に写る光景と、自身の痛みのみで状況を理解し、スイッチのようにま逆の言葉を発するオブジェに成り下がってしまったようだ。


「むっきゅーーー!! じゅーーそーーよーー!!」
「とかいはのありすがきずものにーーーー!!!!」
「うあーー!! いだいーー!! いっっだいーーー!!!」
「わからないよ!! わからないよ!!!」
「てぃ~~~んっぽ!!!!!!!」
 同じ様な光景は、あちらこちらで繰り広げられていた。
 そのどれもが、酷い重症を負いながらもかろうじて生きているというものであった。

「おかーーしゃんたちのいいちゅけをゆっくりまもりゅよ!!」
「まもりゅよ!!!!!!!!」
 隠れていた草むらで大声を上げた赤ちゃん達も、同様の状態に仕上げられた。

「ゆ……あうあう……」
「おう……かえ……って、ごはん……」
「としょかん……」
「しぶたに。あらたやど……はら……やど」
 物の数分で、そこには餡子の海に成り代わっていた。
 先ほどまで歌とも思えないような会話をして、飛び跳ねていたゆっくり達は今やうめき声を上げ、
かろうじて生きているだけとなった。

「あ~~きですよ~~♪ あたまが春なゆっくりはお門違いですよ」

 くすくすと、笑いをかみ殺しながら、その様子をまじまじと見るリリー。
 いまだまともな思考が出来るゆっくりは、これがただの人間では無いことに気付いているのだろう。
「ど、……じで」
 やっとの事で、それだけを搾り出した霊夢だったが、リリーが答えないと分かると、そのまま息を引き取った。

「あきですよ!!」

 どのくらい経っただろうか?
 群に打撃を与えなお留まっていたリリー。
 ただひたすら何かが来るのを待っていたようだが、それがきたと分かると、再び空に舞い上がっていった。

「う~~♪ た~~べものがいっぱ~~い♪」
「う~~♪ おなかぱ~~んぱ~~ん♪」
 やってきたのは、多数のゆっくりれみりゃとフラン。
 数体の成体の後ろを、ニコニコと赤ちゃん達が飛んでいる。
「う~~……いっご~~♪ にこ~~~♪ さんこ~~♪ ……いっこ~~~♪」
「さいしょはかぞくいっこづつ~~♪」
「ふらんのあかちゃん。ままがたべかたをおしえてあげるぅ~~♪」
 その群は、家族ごとに分かれて、餡子の海の隅々に散らばっていく。
 匂いに釣られて、近くの捕食種が集まってきたのだ。
 中には、赤ちゃんを釣れ、餌の食べ方を教えようとするものまでいた。
「うっう~~♪ あうあう~~♪」
「う~~♪ なかがおいしーのぉ~~♪」
「まますご~~い~~!!!!」


「秋なのに春ですね~~♪」
 そして、待ってましたとばかりに襲い掛かるリリー。
「う~~♪ う!!?」
「うっう~~♪ あかちゃん、どうしたんだz!!!!」
 一匹の赤ちゃんれみりゃを捕まえると、振り向いた母親に弾幕を浴びせかける。
 そして、他のゆっくり達にも、先ほどよりも濃密な弾幕を浴びせかける。
「うあーー!! さくやーー!! さくやーー!!」
「まんまぁーー!! れみりゃのあじがーー!!!」
「ゆっくりしね!! あかちゃんいてをだすやつは、ゆっくりs……」
 以下に捕食者といえど、ゆっくり以外には無力なもので、先ほどと同じような光景が繰り広げられていた。
 違う点といえば、確実に息の根を止めていることだろう。
 泣き叫びながら、必死にさくやさくや叫び続けるだけのれみりゃと、闘志をむき出して突っ込んでこようとするフラン。
 対照的だが、弾幕の前には平等にやられていく。
「はるはるはるですね~~~♪ あたまがはるですね~~♪」

 リリーが一頻り満足すると、そこは既に餡子と肉まんの具が混じった不気味なモノで覆われていた。
「まぁまぁーー!!!!! どこにいったのぉーーー!!!!!!」
 その光景を確認して、リリーはその場から去っていった。



「こんにちはー」
「はいは~い。あっ、リリーブラック、屋台ならもう開いてるよー」
「はい。これ」
「はいはい。れみりゃ一匹ねー。ちょっと待っててね~♪」
「はなすにょーー!! れみりゃのままはつよいんだじょーー!! おまえらなんてあちょいうまに!!!」
 慣れた手つきでれみりゃの口に杭を打ち込み、片手をちぎって餃子型に加工した後、一杯のお酒と共にリリーの前に出される。
「はいお待ちど~♪ 今日もくつろいでいってね!!」
 最近、海産物が多かった夜雀の屋台に、肉料理が並び始めたのだった。


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最終更新:2022年05月03日 16:26