fuku960の中編です。あれ?良いゆっくり?注意かなあ?






『間違ってるのは世界じゃない!ゆっくりの方だ! 中編』






「あんまり悪さをするようだったら閻魔様にお願いしてゆっくりにしてもらいますよ!」
そうやって子供を叱る母親を見かけた。
そんなものにされてしまったら堪らない。
子供は泣きながら必死に謝っていた。

幻想郷でもっとも惨めで醜い忌み嫌われた存在、それがゆっくりだ。
彼らの最大の特徴はあまりにも貧弱な身体能力である。
その表皮は蝶の羽や草の葉が触れただけで裂け、噛む力は蒲公英の綿毛を摘むことさえできない。
動きはゆっくりとしていて狩りの対象にされればどのような生き物相手からも逃げられない。
ゆっくりは全く他の生き物に害を与える事のできない生物である。
このような能力では餌を取る事さえままならないだろう。
しかし、ゆっくりたちは生きている。
その忌み嫌われる原因の二つの餌を食べながら。





「ゆっくりしないでね!!!みんないそいでね!!!」

深夜の町外れ、ゴミ捨て場に小さな丸い影の一群があった。
それはゆっくりれいむの親子の一団であった。
どのゆっくりも薄汚れていて痩せている。
酷い物では黒いカビの生えているものもある。
まるで排水溝に放り込まれた饅頭のような姿であった。
かってのふっくらツヤツヤした面影はどこにも無い。

「ゆっくりしないでね!!!はやくたべてね!!!」

ゆっくりたちが食べているのは生ゴミ、それも痛んで他の生物が食べる事のできなくなったものである。

「まずいよ!!!もっとおいしいものがたべたいよ!!!」

「くちゃいよ!!!きもちわるいよ!!!」

「もっとゆっくりしたいよ!!!」

子供たちは口々に文句を言うが母親が一喝して黙らせる。

「うるさいよ!!!だまってはやくたべてね!!!」

夜が明けると他の生き物に狙われる危険性が上昇する。
だから夜が明ける前に早くおうちに帰らねばならない。
ゆっくりのおうちは、ここから随分と離れた荒れ果てた土地にあった。
全ての植物に対してアレルギー反応を示すゆっくりは否応なしに不毛の大地にしか巣作りできないのだ。

お母さんゆっくりは腐敗臭のするゲル状の何かを自分も口に運んだ。

「うっげっ!!!うぐっ!!!」

ごっくん。
えづきながらもそれを何とか飲み込む。
酸味と苦味の複合体が喉を通り過ぎていく。
こんな物は子供たちに食べさせたくないし、もちろん自分も食べたくない。
不衛生で病気持ちでない子供は一体もいない。
それでもゆっくりが食べる事が出来る物はこれともう一つだけ。
もう一つは出来る限り食べたくなかった。
だから、この気持ち悪さに耐えながら生ゴミを飲み込んでいく。

「まずいよう!!!ゆうぅぅぅ!!!」

「ゆっぐ!!!ぐえぇぇぇ!!!」

子供たちも文句を言いながらも生ゴミを漁る。
どれだけ文句を言った所で、他に食べる物が無い事は子供たちも理解している。
これを食べなければ待っているのは飢えだけである。
腐敗臭に耐えながら子供たちも生ゴミを食べる。

「ゆぐっ!!!」

お母さんゆっくりは考える。
どうしてこうなってしまったのだろう。
子供の頃のおうちは森の中にあって優しい風と日差しに包まれていた。
今のおうちみたいにカンカンと照りつける直射日光と吹き荒れる嵐なんかじゃなかった。
食事も柔らかい虫や甘い花、そんな素敵なものばかりだった。
こんな酷い物は絶対に口にしたりしなかった。

「ゆっくりしないでね!!!みんないそいでね!!!」

子供の頃、お母さんゆっくりは決してこんな事は言わなかった。

「ゆっくりしていってね!!!」

そう優しく声をかけてゆっくりさせてくれた。
子供たちが生まれてから一度もそう声をかけてあげれた事は無い。
ゆっくりする事、それは即ち死につながるからだ。
ゆっくりしてアリに集られて死んだ子供。
ゆっくりして枯葉に刻まれて死んだ子供。
ゆっくりして花粉に巻かれて死んだ子供。
ゆっくりした子供は皆死んだ。
死んだ子供たちの苦悶の表情が今も目に焼きついている。
だから………。

「ゆっくりしないでね!!!」

今日もお母さんゆっくりは子供たちにゆっくりさせないのだ。

「…ゆっくりしていってね!!」

そんなゆっくりたちに挨拶してくる別のゆっくりの一団があった。
ゆっくりまりさの親子である。
ゆっくりれいむの親子よりも痩せ衰え薄汚れている。
表皮からは腐臭がして、帽子も髪も元の色が分からないほど汚れている。
饅頭と呼ぶなどとんでもない汚らわしい物体であった。

「だれ!!?ここはれいむたちのごはんのばしょだよ!!!」

お母さんゆっくりが警告の叫びを上げる。

「れいむ!!!まりさだよ!!!いっしょにあかちゃんをつくったまりさだよ!!!こどもたちもいるよ!!!」

「ゆっ!!?まりさ!!!まりさなんだね!!!」

そのゆっくりまりさはゆっくりれいむとお互いににんしんさせあったゆっくりまりさだった。
わずかな時間と厳しい環境の中で濃密に愛し合った。
お互い素敵な家族をつくろうねと誓い合った。
そのゆっくりたちは一緒に家族として過ごす筈だった。
しかし、苛酷な環境はそれを許さなかった。
餌場であるゴミ捨て場がゆっくりれいむの子供の食料しか賄えなかったのだ。
そしてゆっくりまりさは新たな餌場を求め子供たちを連れて旅立っていったのである。
その後の生活はずっと苦しかった。
でも、どこかで愛するゆっくりまりさたちが生きていると考えるだけで幸せな気持ちになれた。
だから、この突然の再会に喜びも大きかった。

「ゆっ!!!まりさっ!!!まりさ!!!まりさー!!!!!!」

「れいむ!!!れいむっ!!!れいむー!!!!!!」

親達が親愛の情を示しあうと、子供たちも幼少の記憶が甦ってきたのか、

「ゆっくりしていってね!!!」

「ゆっくりしていってね!!!」

親愛の挨拶を交し合う。

「まりさ!!!きょうはどうしたの!!?」

再会の喜びをかみ締めた後、お母さんゆっくりはゆっくりまりさに聞いた。

「れいむ!!!ゆっくりきいてね!!!」

ゆっくりまりさの話はこのような内容であった。
あれからゆっくりまりさたちも同じような場所に辿り着いて同じように生きてた。
苦しいながらも一生懸命やってきたのだが、人間がゆっくり除けに花壇をゴミ捨て場の周りに設置したのだ。
餌が取れなくなったゆっくりまりさたちは彷徨いながらゆっくりれいむを頼ってここに帰ってきたという事らしい。

「だから、ゆっくりさせてね!!!」

キラキラと期待に満ちた目でゆっくりれいむを見つめるゆっくりまりさ。
反対にゆっくりれいむの表情は曇りきっていた。
ゆっくりまりさの苦労は分かる、気持ちも分かる。
ここに帰り着くまでの旅路がどれほど苦しい物だったかは旅立ちの時の半分もいない子供の数で分かる。
自分も同じ立場ならゆっくりまりさに助けを求めるだろう。
それでも、この餌場はゆっくりれいむとその子供たちの餌しか賄えないのである。

「まりさとはゆっくりできないよ!!!はやくしんでね!!!」

決断した後の行動はゆっくりと思えないほど迅速だった。
飛び掛り、押し潰そうとする。

「どうじでぇぇぇ!!?でいぶとゆっぐりじだいよう!!!」

必死に抗うゆっくりまりさであったが厳しい旅路と飢えで消耗した体では対抗できなかった。

「ゆっぐ……!!!ぐっ………ゆっ!!!でいぶ!!!やべで!!!どうじで!!!だずげでぇ…!!!」

「ごめんね!!!ごめんね!!!せめてはやくしんでね!!!」

ゆっくりれいむは血のような餡子の涙を流しながらゆっくりまりさを押し潰す。

「ゆぐぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

断末魔の叫びを上げてゆっくりまりさは動かなくなった。

「どうしてそんなこどずるのぉぉぉ!!!」

「おがあちゃぁぁぁん!!!」

「おかあさん!!!そのゆっくりもおかあさんだよ!!!ひどいことしないで!!!」

子供たちからも悲鳴が上がる。

「ごめんね!!!ごめんね!!!」

そう叫びながらお母さんゆっくりは次にゆっくりまりさの子供たちを押し潰し始めた。

「おかあさん!!!やめて!!!」

「いもうとにひどいことしないで!!!」

「おがあざん!!!どうじだのー!!!」

ゆっくりれいむの子供たちも、ゆっくりまりさの子供たちも悲鳴を上げる。
お母さんゆっくりが叫んだ。

「みんな!!!そのこたちをはやくころしてね!!!」

「どうじで!!?おねえぢゃんだよ!!!そんなひどいことできないよ!!!」

なぜ姉妹たちで殺しあわなければならないのか分からないゆっくりれいむの子供たちが絶叫する。

「もっとゆっくりできなくなるよ!!!」

その言葉は子供たちにとって恐怖だった。
今でも苦しいのにさらにゆっくりできなくなるなんて。
恐怖が子供たちを押し動かす。

「はやくしね!!!」

恐怖が姉妹への親愛の情を押し流し暴力に駆り立てる。

「さっさとしんでね!!!」

「やべて!!!おねえぢゃん!!!やべで!!!いだいよ゛!!!ゆぐぅぅぅ!!!!!!」

数の暴力はあっと言う間にゆっくりまりさの子供たちを全滅させた。
残った物は少量の餡子とゆっくりれいむの家族だけだった。
短い沈黙の後、おかあさんゆっくりが涙を流しながら餡子を食べ始めた。
そう、ゆっくりの食べられる物は二つだけ。
他の生き物が食べる事のできないほど痛んだ生ゴミと同属のゆっくりである。
ゴミ漁りと同属喰い、それ故にゆっくりは忌み嫌われる。

「おかあちゃん!!?そのあんこはれいむたちのかぞくのあんこだよ!!!」

「たべちゃだめだよ!!!おかあさん!!!」

姉妹に手をかけてしまったショックから立ち直れない子供たちが口々に叫ぶ。

「はやくみんなもたべてね!!!」

「どうじで!!?」

「えいようをつけてころしたみんなのぶんもいきるの!!!」

「!!!!!!」

そうして子供たちも親姉妹の餡子を食べ始める。

「ごめんなざい!!!ごめんなざい!!!」

泣きながら、謝りながら食べ続ける。
お母さんゆっくりは考える。
どうして。
どうしてこうなってしまったのだろう。
もし世界が昔みたいに優しかったら、きっとみんな仲良くゆっくり暮らしていたのだろうに。
どうして殺しあってその死体を喰らっているんだろう。
なんでこんな酷い世界になってしまったのだろう。
分からない。
分からない。

「こぅらー!!!ゴミ捨て場を荒らしてるのは誰どぅあー!!!」

「ゆっ!!!みんなはやくにげてね!!!ゆっくりしないでね!!!」

棒を振りかざした男が駆け寄ってくる。
考えに没頭していたお母さんゆっくりは気付くのに遅れた。
もう逃げるには誰かを犠牲にしなければならない。

「みんなはやくにげてね!!!おかあさんがおとりになるよ!!!」

「いやだよ!!!おかあさん!!!」

「いっしょににげようよ!!!」

止める声も聞かずお母さんゆっくりは勇敢にも男に立ち向かっていった。

「ここはとおさないよ!!!」

しかし、ゆっくりの能力で人間をどうにかするのは不可能である。
人間の気を引いて子供たちの逃げる時間を稼ぐしか方法は無い。
顔を精一杯膨らませてピョンピョン跳ねる。

「ん?なんだゆっくりか。相変わらず汚らしいな」

「れいむはきたなくなんかないよ!!!」

「ああ~、うるせえ。でもゆっくり相手なら方法はあるな」

「ゆっ!!?」

男は大きく息を吸い込んで叫んだ。

「ゆっくりしていってね!!!」

子供たちはその声に反応して逃げるのを止める。
それどころか男に近づいていく物もいるではないか。

「ゆっ!!!ゆっくりしていくよ!!!」

「ゆっくりしていってね!!!」

「おじさんはゆっくりできるひと!!?」

お母さんゆっくりが目を剥いて叫ぶ。

「どうじでぇぇぇ!!?みんなにげてぇぇぇ!!!」

説明しよう!
現在の天然ゆっくりは苛酷な環境の中育っている。
生まれてから親に一度も

「ゆっくりしていってね!!!」

と言われたことの無い個体もいるぐらいである。
その為にゆっくり分が常に欠乏しており
「ゆっくりしていってね!!!」
と大きな声で言われるとゆっくり分過剰摂取状態になり意識の混乱を起こすのである。
名付けて『ゆっくりボイスパワー作戦』である!(政宗口調で)

動けなくなった子ゆっくりを男は棒で丁寧に叩き潰していく。

「やべでぇぇぇ!!!おねがいだからこどもはだずげでぇぇぇ!!!」

必死にお母さんゆっくりが男にまとわり付くが男は気にも留めない。

「じゃあ最期はお前な」

そういって男は棒を振り下ろす。
一撃、二撃、三撃。
命を失うまでの短い間にお母さんゆっくりは考える。
どうしてこうなってしまったのだろう。
…どうして。

グシャリ。

後編に続く

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最終更新:2022年05月03日 17:21