「ねぇ、香霖。これ何だい?」

幻想郷の魔法の森、その入り口にある道具屋香霖堂。そこは妖怪の道具や人間の道具、魔法具や幻想郷の外の世界の道具も扱っている。
この道具屋は建物からして少し怪しいうえに、中にも外にも怪しい道具が散乱している。
私はそんな香霖堂の、表に置いてあった見たことがない物について香霖堂の店主、森近霖之助に訊ねた。

「ん、どれだい? ……あぁ、これは『自転車』だよ。人間の乗り物さ」

店の中から億劫そうに出てきた霖之助が言った。
私は霖之助に向けていた視線を再び『自転車』へと向きなおす。
ところどころ錆びていたり、前部に取り付けられている籠が曲がっていたりしているが、まだ使えそうな様子だ。

「乗り物、ねぇ……。 これも外の世界から流れ着いたものかい?」
「外の世界のものにしては、構造が単純で使い方がすぐに分かったけどね」

ふむふむ、と頷きながら私は、そういえば幻想郷に来る前にこんなのを見たことあるなぁ、と思い出した。
それほど最近の産物ではないのだろうが、この自転車自身はここ十数年ぐらいに生産されたものだろう。
私はふと、この自転車に興味を持った。

「なぁ香霖、これ貸してくれない?」
「それは一応売り物だ。欲しかったら買ってくれ」
「ちゃんと返すから」
「買ってくれよ」

などと問答しつつ、結局ツケで買うことになった。
ツケでも良いのかと思ったが、「君はあの連中と違って後ででもちゃんと代金払ってくれる」と言って許可してくれた。

私はさて、と早速自分の物になった自転車に跨った。
一見しただけで構造が分かる単純な物だ。私にも使い方はすぐに分かった。
手入れも無しに使えそうだった。

「それにしても、なんでそんな物が欲しいんだい? 君ならそれに乗るより飛んだ方が速いだろ?」
「え? だって面白そうじゃん」

そう答えると霖之助は「ようするに玩具か……」と嘆息した。

「さてと。早速乗り回してくるよ」
「はいはい」

グッ、とペダルに力をこめる。車輪が回り、前へと進む。
シャカシャカとペダルをこぎ、シャーッと自転車は速度を上げていく。徐々に遠ざかる香霖堂を背後に、私は一陣の風となった。







「おぉ、これ結構面白いわぁ」

錆びついた部分が時折鈍い音を立てるが、基本的に何の支障もなく自転車は動いている。
ただ移動するだけなら飛んだ方が速いが、歩く時とは違う地上の風景に私は心躍らせた。
両側に木々が立ち並ぶ道を軽快に走っていると、前方にゆっくりれいむが見えた。
道の真ん中に鎮座している。このままでは轢いてしまう。

「そこのれいむ~! ちょっとそこ退いて~!」

大声で呼びかける。
が、

「ゆ? おねぇさん、ゆっくりしていって──ゆべぇ!?」

れいむは退いてくれるどころかその場で跳ねるだけだった。
当然のように、れいむは跳ねたところを自転車の車輪にぶつかって吹っ飛ばされた。仕方なく私は自転車を止める。
五メートル程前方まで吹っ飛ばされたれいむは、涙目になりながらなんとか立ち上がり、こちらに向かって喚いた。

「ゆぐぅ! おねぇさんなにするの! ゆっくりやめてね!」

そしてそのれいむはよく見ると、頭に茎を生やしたにんっしんっ型ゆっくりだった。
さっき吹き飛ばされた時に茎が折れるか子供が潰されたかと思ったが、どうやら無事のようだ。
しかし、

「ゆっ? あかちゃんがうまれるよ!」

さっきの衝撃で何かしらの影響があったのか、茎に実っている子ゆっくり達がもぞもぞと動き始めた。
親のゆっくりれいむはと言うと、そんな子ゆっくりの様子をハラハラと見守っている。
やがて、ポトポトと茎の子ゆっくり達が次々と地面に落ちていった。その数八匹。全て無事に生まれた。

「ゆっくりしていってね!!!」
「「「「「「「「ゆっくちちていってね!!!」」」」」」」」

生まれて最初の親と子のコミニュケーション。子ゆっくりにとっては産声とも言える第一声。
私はそこまで見守ってから、再び自転車をこぎ始めた。
私がここまで見守っていたのは轢いてしまった引け目が少なからずあったからだ。
こちらが轢いたことによって何かしら悪影響があったら助けたりしようと思っていたが、親ゆっくりが受けた痛み以外は何もないようなのでこのまま行くことにした。

「はいはい良かったね。早くそこ退いてね~」
「ゆ? おねぇしゃん、ゆっくちちていってね!」
「わっ、バカこっちくんな!!」
「おちびちゃんだめだよ! おねぇさんにちかづいちゃだ──」

私と親れいむの制止の声もむなしく、一匹の子ゆっくりが笑顔でこちら──つまり自転車に近づいてきて、

プチッ

車輪に潰された。

「「「「「「「ゆ゛ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」」」」」」」
「ゆ゛ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!! でいぶのあかぢゃんがぁぁぁぁぁぁ!!!!」

あぁあ、だから言ったのに。
自転車を止めることなく、私は心の中で嘆息した。これでこの自転車が危ないことは分かったことだから、これで退いてくれるだろう。
そう思ったのだが、

「ゆぅぅ!! おねぇちゃんににゃにするの~!」
「ゆっくちあやまっちぇね!」
「しょうだしょうだ~!」

「だっから、こっち来るなって!!!」

プチプチグチャ

無謀なことにこちらに跳ねてきた子ゆっくりが三匹また潰された。
仕方ないのでもう一度、足を地面に突き立てて自転車を止める。

「ゆぎゃぁぁぁぁぁ!!! でいぶのあがぢゃんんんん!!!」
「「「「ゆ゛~~~~ん!」」」」

親れいむと残された四匹の子ゆっくりはメソメソと涙を流して子ゆっくりの死を悲しんでいる。私は地面を蹴り、少し自転車を後退させて地面を見てみた。
そこには苦悶の表情を浮かべたり、原型を残さぬまま潰された生後一分未満の饅頭の残骸がある。
その死骸をまじまじと見た後、もう一度残ったゆっくり一家に視線を向ける。

「ゆぐっ、ゆぐっ……」
「「「「もっとおねぇちゃんとゆっくちちたかったよぉ……」」」」

ぞくぞくっ、と何かが背筋から脳天にかけて駆け巡った。
────あ、やばい。すごい楽しい。

私は地面に接地してた足をあげると、再びペダルにかける。親ゆっくりは私のその行動を見てこれから何をするか察したようだ。

「ゆゆっ! おちびちゃんたち、ゆっくりにげるよ!」

ぴょんぴょんと跳ねて私との距離を空けようとする親れいむ。子ゆっくり達も反応は遅れたものの、親の言うとおりについていった。
道に沿って真っ直ぐじゃなくて横に逃げればいいのに……。
その歩みはナマケモノの如し(最高時速二キロ)。私はゆっくりとゆっくりと、自転車が倒れぬ最低限の速さでその後を追う。
その速度ですら、生まれたばかりの子ゆっくりは勝てない。

「ゆっ、ゆっ、ゆっくちこにゃいでね!」

ちらちらとこちらを窺いながらぴょんぴょん跳ね逃げる涙目のゆっくり達。そのあまりにも遅い逃走に私は追いつき、

「やべでねっ! ゆっくちやめてにぇ! ゆっく──ゆべゅ!」

グチャ、と最後尾にいた子ゆっくりを前輪で轢き潰した。

「おぢびぢゃぁぁぁぁぁん!!」
「おにぇちゃんがぁぁぁぁ!!」
「ゆっくちやめちぇね! やめちぇね!」
「おにぇちゃ──ゆぶしっ!?」

立ち止まり振り返り、またもや滝のような涙で顔をグチャグチャにするゆっくり達。突然止まるものだから自転車は止まれず、またもや最後尾にいた子ゆっくりを踏み殺した。
自転車が通った後に残るのは浅い轍とゆっくりの死骸。
うわぁ、たっのしぃ!

ペダルに込める力を強くし、速度を若干上げる。
その事により再び逃げようとした子ゆっくりを、振り返る前に踏み潰す。
「ゆ゛ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」と泣き喚く親ゆっくりを無視し、続く行動でもう一匹の子ゆっくりも車輪で潰す。

「さぁさぁ、どいたどいた♪」

あまりの楽しさについつい声も弾んでしまった。

「ゆ゛っ、ゆっくりこっちこないでね!」
「ゆっくちちていってね、ゆっくちちていってね!」

涙目、涙声になりながらぴょこぴょこと跳ねるゆっくり二匹。その後姿は、「さぁさどうぞ虐待して下さいな」と私に語りかけているようだった。もちろん私はその声に従い親ゆっくりの後ろを跳ねていた子ゆっくりを轢き殺した。
わずか一分。新しく生まれたゆっくりれいむの家族は全滅した。
私は更に追い討ちをかけるように、残った親れいむの体半分を自転車の前輪で踏み潰した。

「ゆぶげぃぇ!?」

あまりの重さと痛みに親れいむは餡子を吐き出した。これが人間ならば気絶もしただろうが、そこはゆっくり。気絶は許されなかった。

「ほ~れ、ほ~れ」

私は親れいむの後ろ半分を自転車の前輪で踏み潰すところで自転車を止めると、ゴリゴリとわずかに車輪を前後に揺する。
それによりれいむの餡子は搾り出され、内部は押しつぶされていく。搾り出された餡子を吐き出す度、目は白目を向いて痙攣している。

「なんで、ごんなべに……」

ポツリ、とれいむが呟いた。その直後に自転車に完全に全身を踏み潰され絶命した。
一家が全滅した後、私は自転車を止めて後ろを振り返る。
その道跡には死んだ子ゆっくりの体や苦悶の表情を浮かべたまま固まっている親れいむなどがいた。

「…………ふぅ」

一仕事終えた後のように溜息をつく。
これは、とんでもない掘り出し物かも。







その後も私は自転車をかっ飛ばして幻想郷内を走りまわった。目的はもちろん、ゆっくりをサーチ&デス。

「やべでぇぇぇぇ!! ごっぢごないでぇぇぇぇ!!!」

す~りす~りぷ~にぷ~に、と幸せそうにほお擦りしていたゆっくりありすとまりさの番を見つけたら、その片割れを問答無用で轢き殺し、逃げる片割れを付かず離れずの速さで追い回しつつ体力が切れたところを轢き潰した。

「やべでぇぇぇぇ!! でいぶのあがぢゃんがえじでぇぇぇぇぇ!!」

ゆっくりの親子を見つけた時は子ゆっくりを奪い自転車を前籠に入れて誘拐。
追いかける親れいむから付かず離れずの速さで逃げ回り、体力が尽きたところで一気に加速して逃げ去り、「えっぐ、えっぐ」と涙を流しながらその場で止まった所を、Uターン。
全速力で親れいむを正面から潰した。
子ゆっくりその後悪路を全速力で駆けぬいたため籠から落ちて死んだり、ガタゴトと籠内を跳ね回り潰れて死んだ。

寝ているゆっくりありすを見つけた時はその場で後部スタンドをたてて後輪タイヤを浮かし
「ほ~れ、すりすりだよ~。すっきりしようね~」
と言いながら手でペダルを回して後輪タイヤを高速回転。その後輪タイヤにありすの頬をあてて少しずつ削り取っていった。

「ゆぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!! ずっぎり゛でぎな────あ゛り゛ずのぐりーむ゛がぁぁぁぁぁ!!!」









かなり充実した日中を過ごし、沈んでいく夕日を自転車に跨りながら見送る。
既に私の愛機として貫禄を見せ始めた自転車には、数多の返り餡子やクリームがこべりついていた。

「あぁ、これは良い発見をした。しばらくは退屈せずに済みそうだ」

夕日が完全に沈んだのを見て、私は一旦休憩を入れるため人里の居酒屋に向かった。もちろん自転車で。
休憩が済んだら今度は巣のゆっくり夜襲とれみりゃ虐めだ。




おわり

────────
あとがきのようなもの

自転車が出来たのは博麗大結界が出来るより前なので、もしかしたら幻想郷に自転車はあるかもしれませんが、一応今回は無いということで。
主人公(?)は博麗大結界が出来て少ししてから、外の世界で忘れられて幻想郷に流れ着いた、今では暇をもてあましている妖怪です。



これまで書いたもの


ゆっくり合戦
ゆッカー
ゆっくり求聞史紀
ゆっくり腹話術(前)
ゆっくり腹話術(後)
ゆっくりの飼い方 私の場合
虐待お兄さんVSゆっくりんピース
普通に虐待
普通に虐待2~以下無限ループ~
二つの計画
ある復讐の結末(前)
ある復讐の結末(中)
ある復讐の結末(後-1)
ある復讐の結末(後-2)
ある復讐の結末(後-3)
ゆっくりに育てられた子
ゆっくりに心囚われた男
晒し首

byキノコ馬



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最終更新:2022年05月03日 20:17