お題:トぶ(トに当てる漢字はご自由に)

(遊ぶ)
あーあ。暇だー。暇。暇。退屈。する事ねー。
先月までは休みが欲しいだの、学生が羨ましいだの思ってたが、
いざ仕事が無くなってみると・・・はぁ、やっぱ趣味の一つも持つべきだよなぁ。

かと言って今すぐ仕事を探す気にもなれんなぁ。
あー、なーんもやる気起きねー。何か面白い事ねーかなー。
ん?あれは・・・ゆっくりか。ゆっくりが俺んちの庭で何してやがる?

「ゆっゆー!いちばんのりだよ!」

「ゆ~。まけちゃったー。やっぱりおねえちゃんはかけっこはやいね!」

「ゆぅぅ。つぎはまけないよ!ところでまりさ。きょうはなにをしてあそぶの?」

「きょうはかくれんぼをするよ!まりさがさいしょにおにさんをやるから、みんなかくれてね!」

「「「「「ゆー♪」」」」」

かー。たまんねー。人の庭で楽しそうに遊びやがって。家主の俺は暇を持て余してくさってるっていうのに。
いーよなー、ゆっくりは。日がな一日ゆっくりしてるだけでいいんだから。
三度の飯だって別に食わなきゃ食わないでいいんだろ。不思議饅頭だし。

腹が減って飯を食った方が生物っぽいから食ってるだけなんだろ。それに飯を食うのは楽しいしな。
羨ましいねぇ。人間様は生きてく為に食わなきゃなんねーんですよー。
飯を食う為には働かなきゃなんねー訳で、そして俺には仕事が無い訳で。

ははは。いやー、どうしよ。そうだよ。仕事探す気にならねえとか言ってる場合じゃねえんだよ。
死んじゃうよ、俺。貯金はねーし。社保にも入ってなかったし。おまけに家は借家だし。
あー。駄目だ。このままじゃ駄目だよ、俺。仕事探そう。とりあえず仕事探そう。
よし、決めた!こんな生活は今日で終わりだ!明日から本気出す!!!

ま、今日はいいよね。今日で最後、今日で最後だよ。
せっかく面白そうなもんみっけたし、今日はあいつらで遊ぼう。


「おーい。そこのゆっくりよ。」

「ゆ?なあに?おにいさん。」

「お前らの遊びに俺も混ぜてくれよ。暇なんだ。」

「ゆ!おにいさんがおにさんをやるの?」

「おお、いいぞ。じゃあ、お前らの名前を教えてくれるか?」

「まりさたちはまりさがふたりとれいむがよにんだよ。
 まりさはまりさとまりさだよ。れいむはれいむとれいむとれいむとれいむだよ。」

「日本語を喋れ。ここは日本だ。」

「もういっかいゆうよ。まりさたちはまりさがふたり、れいむがよにん。
 まりさとまりさのいもうとのまりさ。れいむとれいむのいもうとのれいむ。
 れいむのともだちのれいむとれいむのいとこのれいむ。みんなでろくにんだよ!」

「うん。さっぱりわかんね。まあいいや。とりあえず、名前は『まりさ』と『れいむ』だけでいいんだな。」

「だめだよ。ちゃんとなまえでよんであげてね。」

「いや、だからお前『まりさ』と『れいむ』しか言わなかったじゃねえか。」

「ちがうよ!まりさとまりさとれいむとれいむとれいむとれいむだよ!」

「・・・もういい。まともな返答を期待した俺がバカだったよ。
 じゃあこうしよう。俺とお前と一緒に鬼をやるんだ。見つけた時はお前が名前を呼んだらいい。」

「ゆ。そうだね。じゃあおにいさん、さっそくみんなをさがしにいくよ!」

「おい、まてまて。」

「ゆ?」

「別行動を取ったら意味がないだろう。俺は隠れた奴を見つけても名前を呼べないんだから。」

「じゃあどうするの?」

「こうするのさ。それっ!」


(喜ぶ)
「ゆ~♪すごーい!おそらをとんでるみたい!」

「どうだ。上からなら探しやすいだろう。」

「うん♪あ!みつけたよ!れいむがあそこにかくれてる!」

「おお、ほんとだ。」

「れいむみーーーーっけ!!!」

「ゆっ!みつかちゃった!・・・あれ?まりさどこにいるの?」

「ゆゆーん♪ここだよ!れいむのうえにいるよ!おにいさんにだっこしてもらってるよ!」

「ゆーーーーーーー!ずるーい!まりさだけずるいよ!」

「ゆっへん!まりさはおにさんだからね!れいむはほかのみんながみつかるまで、そこでまっててね!」

「ゆぅ~~~~~。」




「すごいよおにいさん!あっとゆうまにみんなみつけたよ!」

「(いや、あんな隠れ方じゃすぐに見つかって当たり前だって)」

「これでみんなみつかったね!それじゃあこんどはれいむがおにさんをやるよ!」

「ゆっ!ずるいよおねえちゃん!れいむもおにいさんにだっこしてもらいたいよ!」

「れいむも!」 「まりさも!」

「こらこら、ちょっと待て。俺は次も鬼をやるのか?鬼をやった奴は次は隠れるんじゃないのか?」

「ゆ?まりさたちはいつもはなしあっておにさんをきめてるよ。
 だからおにいさんはつぎもおにさんだよ。」

「おいおい、何だその数の暴力は。せめて公平に決めるべきだろ。」

「・・・」

「ひそひそひそ」 「ひそひそひそ」 「ひそひそひそ」

「おーい。何ひそひそ話してるんだー。」

「ゆ!わかったよおにいさん!つぎのおにさんはじゃんけんできめるよ!」

「ジャンケンってお前ら手も無いのにどうやってジャンケンするんだ?」

「かんたんだよ。これが『ぐー』でこれが『ちょき』でこれが『ぱー』だよ。」

「いや、だからわかんねってば。」

「まりさたちはわかるからだいじょうぶだよ。
 それよりおにいさんの『ぐー』と『ちょき』と『ぱー』をおしえてね。」

「ああ、拳をにぎるのが『グー』でそこから人差指と中指を伸ばしたのが『チョキ』手を開いてるのが『パー』だ。
 ま、見た方が早いな。これが『グー』これが『チョキ』これが『パー』だ。」

「ゆっくりりかいしたよ!じゃあさっそくやるよ!」

「「「「「「じゃーーーん、けーーーん、ぽん!!!」」」」」」

「ん?どうなったんだ。勝敗は?」

「おにいさんは『ぐー』でしょ。」

「ああ。」

「まりさたちはみんな『ぱー』だよ。おにいさんがおにさんだよ。」

「・・・お前らズルしてない?」

「な、なにいってるの。まりさたちがずるをするわけないでしょ」 「そ、そうだよ。」

「・・・」

「さあ、おにいさんはまりさたちのなまえをいえないから、ふたりめのおにさんをきめるよ!」

「ゆー!こんどはほんきでやるよ!」 「まけないよ!」 「れいむだって!つぎはれいむがおにさんをやるよ!」

「じゃんけんぽん!」 「あいこでしょ!」 「あいこでしょ!」 「あいこでしょ!」 ・・・

「・・・」

「ゆ~~~~~♪やったよ!れいむがおにさんにきまったよ!」


(運ぶ)
「ゆ~~~~♪たのしかったよ!おにいさんきょうはいっしょにあそんでくれてありがとう!」

「ああそうかい。そりゃあよかった。しかし、俺はちょっと疲れたよ。なんせ30回も鬼をやったからな。」

「おにいさん、じゃんけんよわいね。」

「(・・・)ところでまりさ。お前達にちょっと頼みたい事があるんだがな。」

「なあに?」

「実は今日、家の掃除をする予定だったんだが、お前達と遊んでたおかげでもうこんな時間だ。
 俺一人では今日中に掃除を終わらすのは無理そうだ。お前達、ちょっと掃除を手伝ってくれないか?」

「ゆ!おやすいごようだよ!まりさはおそうじとくいだよ!あそんでくれたおれいにみんなでおそうじてつだうよ!」

「そうかそうか。ありがとう。助かるよ。」

「どこをおそうじすればいいの?」

「おお、そうだな。じゃあ体の大きいれいむ2匹には小屋の片づけをしてもらおう。
 まりさ達は井戸を掃除してくれるか?ちびのれいむ達は・・・そうだな、板間の雑巾がけをしてくれ。」

「ゆー!わかったよ!みんなでおにいさんのおうちをきれいにするよ!!!」

「じゃあ、掃除に取り掛かる前に少し休もうか。これは掃除を手伝ってもらうお礼だ。好きなだけ食べていいぞ。」

「ゆ~♪おにいさんありがとう!おてつだいがんばるよ!」

「むーしゃ、むーしゃ、しあわせ~♪」




ふふふ・・・さーて、やっと来ましたお楽しみの時間。ゆっくり虐め、はっじまっるよー。
いやー、しかし長かったな。まさか夕方までかくれんぼをする羽目になるとは。
あいつら程々で満足するって事を知らねえ。おかげですっかり疲れちゃったよ。その代償は払って貰わないとねー。

だいたいあいつら、かわいい顔してやる事がえげつねぇんだよ。
どこの世界にあんなイカサマジャンケンがあるってんだよ。人が気づいてないふりしてたら調子に乗りやがって。
まあ、でも根はそんなに悪くない奴らなのかもな。遊んでもらったお礼に喜んで手伝いをするなんて。

でも、そんなのかんけーねー。だってそうだろ。俺はまだ遊んでねーし。
さんざん人間様で遊びやがって。今度はこっちの番だぜ。

「おにいさーん。なにやってるのー。はやくはやくー。」

「おお、すまんすまん。今行く。」

「じゃあお前達にやってもらう事を説明するぞ。お前達にはこの小屋の荷物をすべて外に出すのを手伝ってもらう。
 まずはこの桶を外に運んでもらおうか。運びやすいように横にしてやろう。転がして外まで運ぶんだ。」

「ゆっくりりかいしたよ!」

「ゆんしょ、ゆんしょ、ゆん・・・ゆ、ゆ、ゆうううううう!!!」

「どこいくの!おけさん!とまってね!とまってね!」

「あー、そうだ。言うの忘れてた。この小屋、建てつけが悪くってね、所々傾いてるんだよ。気をつけてな。」

「おけさん!とまって!とまっ・・・」

ゴチン!

「ゆ゛!ぅぅぅぅぅぅ・・・」

あっひゃっひゃっひゃ。勢いあまって壁にぶつかって気絶しやがった。バッカじゃねーの。
ん?もう一匹はどうしてる?

「どうじでまえにすすまないのおおおおおおお!!!」

うは、同じ所をぐるぐる回ってるwそうだよな。底が口の部分より小さくなってるタイプの桶を
横に倒して転がしたら前に進むわけないよな。


「おいおい、なにやってんだ。使えねぇなあ。しょうがねえ俺が手伝ってやるよ。
 ほれ、桶を被せてやる。そのまま外まで歩いて行って置いてこい。」

「ゆっ!まえがみえない!こわいよ!おにいさん!ここからだして!」

「ぐだぐだ言ってんじゃねえよ!とっとと歩けコラ!」

「ゆううううう!!!やめて!おさないで!」

「こーら、そこのゆっくり!てめぇ何時まで気絶したふりしてんだよ。起きろっ!」

「ゆぴいっ!」

「ったく使えねぇクズ共だぜ。もう桶はいい。次はこれを・・・」

「もういやだよ!いじわるするおにいさんはきらいだよ!れいむおうちにかえる!!!」

「まてやコラ・・・てめぇ最初になんつった?俺が掃除すんのを手伝うんじゃなかったんか?あ゛?」

「い、いったけど・・・」

「じゃあなんだ?お家に帰るってのは。最初に言った手伝うってのは嘘だったのか?」

「てめぇ、さっき俺が出した菓子を食ってたよな。嘘ついて菓子だけ食って逃げるつもりだったんか?」

「俺を騙すとはいい度胸してんじゃねえか。バラされてえのか?」

「ち、ちがう・・・うそじゃな・・・」

「そーかそーか。それを聞いて安心したぜ。じゃあこのまま手伝いを続けてくれんだな?」

「ゆ・・・」

「まあ、どっちでもいいけどよ。約束は約束だ。キッチリ守ってもらわねーとな。
 報酬は先に払ってるんだ、やる事やってもらわねーと。貸したもんはしっかり取り立てるぜ?」

「ゆぅ・・・」

「さあ、それじゃあ手伝いを続けてもらうか。今度はこれを運べ。」

「え・・・」

「え、じゃねえよ。さっさとこの画鋲を運ぶんだよ。口に入れて運べばいいだろうが。」

「なーに涙目になってんだよ。できません、じゃねえ。やるんだよ!
 こうやって口に入れてなあ!ほら!もっと口開けコラ!」

「ぴいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!」

「まだ入んだろうが!もっと詰めろ!奥まで!」

「い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!!!!!!!!」

「コラ、桶被ったゆっくり!てめぇ何時までそこで遊んでんだよ!」

「ご、ごべんなざい!なんでもしますからゆるじでぐだざいいいいいいい!!!!」

「ほぅ、なんでもするって言ったな。今、なんでもするって言ったな。じゃあお前にはこれを運んでもらおう。
 桶から出してやる。ほら、さっさと運びやがれ。」

「なに呆けた顔して突っ立ってんだよ。さっさと運べよ、このタンスをよお!」

「こ、こんなおもいのはこべないよおおおおおおおお!」

「てめぇ、さっき何でもするって言っただろうがあああああああ!!!!!
 ぐだぐだ言ってんじゃねえ!ほら、押せよ!タンスに顔をつけて!押すんだよおおおお!!!!」

「むりですううう!でぎまぜんんんんんん!」

「無理じゃねえだろ糞饅頭が!やるんだよお!ほら!こうやってえええええええ!!!!」

「やべでぇぇぇ・・・おさないでぇぇぇ・・・ちゅぶれりゅ・・・」


(転ぶ)
「やあ、ちび達またせたな。どうだ?雑巾がけは終わったか?」

「ゆ!おにいさん!みて!きれいになったでしょ!」

「ゆっへん!れいむたちがんばったんだよ!えらい?」

「んー。だめだね。これじゃあ合格点はあげられないな。」

「ゆ・・・」

「ほら、ここに拭き残しがある。ここを綺麗にしたら終わりだよ。」

「ゆ!れいむたちうっかりしてたよ!いまからきれいにするよ!まっててね!」

「ゆっしょ、ゆっしょ、ゆっしょ・・・」

ほう・・・なかなか上手に拭くもんだねえ。ほんとに綺麗になってるし。こりゃ、俺が汚してやらねーとな。
しかし、あいつらどうやって雑巾を絞ったんだ?ま、いいか。そんな事気にしてもしょーがねーや。

「ゆー♪できたよー。これでおしまいっ♪」

「ざんねんでしたー。まだここが汚いんだよねー。汚い所があるうちは終われないよー。」

「あれ・・・そこはさっきやったはずなのに・・・」

「やったはずなのに・・・って言われてもねえ。汚いものは汚いんだよ。さっさとやってくれる?
 それとも何か?今、俺が汚したとでも言いたいの?」

「そうじゃないけど・・・」

「あーあーあー。がっかりだよ。がっかり。拭き掃除も満足にできないのに文句ばっかり言ってさあ。
 他の子達はしっかりやってるよ?大きいれいむ達は俺が頼んでもいない事までやってくれてるよ。
 えらいよねー。どっかの誰かさんとは大違いだよ。」

「ゆぅぅ・・・れいむだって、れいむだってちゃんとおそうじできるよ。」

「ほう。それじゃあ見せてもらおうか。ちゃんと綺麗にできるってところを。
 そこ、しっかり拭いとけよ。俺は他に汚い所がないか調べとくから。」

「ゆぅ。」


「ゆっゆっゆ。おにいさん、おわったよ!」

「あ、そう。じゃあ次ここね。ここも汚いから。」

「ゆぅ。」


「ゆっゆっゆ。おにいさん、おわったよ。」

「そ、じゃ次ここ。」

「ゆ・・・」


「ゆふぅ・・・おにいさん・・・おわったよ・・・」

「ここもね。」

「・・・」


「ここもまだ汚いよ。」
「あちゃー。これはひどいね。なんでこんな汚れ見落としてたの?」
「駄目だねえ。なんで拭き掃除も満足にできないのさ。」
「あーあーあー。見てらんねーや。全然駄目だよ。あそこも、ここも。全然綺麗になってない。」
「早くしてくれないかな。他にもやる事たくさんあるんだよ?」


「ゆぅ・・・ゆぅ・・・ゆぅ・・・」

「ま、こんなもんでいいか。終わり。まあまあ綺麗になったよ。良くやったね。時間はかかったけど。」

「ゆ!」

「じゃあ、これからワックスをかけるから。君ら邪魔だから部屋の隅に行っててくれる?」

「ゆ。わかったよ。」




「ワックスがけ終了ー。どうだい仕事ってのはこうやるんだぜ。時間かけたらいいってもんじゃないのさ。」

「じゃあ、次の部屋行こうか。次はもっとテキパキやるんだぜ。」

「うん。」

「おっとストップ!」

「ゆ?」

「言い忘れてた。このワックスねえ、すごく滑るんだよ。すごくね。気をつけないと滑って転ぶよ。
 慎重にこっちまで歩いてくるんだ。転んだら大けがするからな。」

「ゆ・・・」

なーんてね。んなわけねーじゃん。そんな大袈裟なもんじゃねーですよー。
ははは。ビビってるビビってるwぷるぷる震えちゃって。かわいいねえ。
ちょっと脅かしてやろうかな。

「わっ!!!」

「ゆっ!!!」

ズルッ!  ゴンッ!

「~~~~~~!!!!」

うわ、すげえ。ほんとに転んだ。しかもマンガみたいに。一瞬宙に浮いて後頭部から落ちたぜ。
なんだあれ。あんなに滑るはず無いのに。俺がよく滑るよって暗示掛けたから?
これもゆっくりの不思議な力か?流石は不思議饅頭。期待を裏切らねえな。
あーあーあー。もう一匹の奴、びっくりして泣き出しちゃったよ。

「おーい。大丈夫かあ。だから気をつけろって言っただろうが。」

「お、おにいさぁん・・・たすけてぇ・・・こわくてあるけないよぉ・・・」

「だーめ。早くこっち来いよ。時間がねえんだよ。早く次の部屋いかないと。」

「ゆぅぅぅ・・・」


「おお、その調子その調子。いいぞがんば・・・へえええええええええっくしょい!!!」

「ゆっ!!!」

ズルッ!  ゴンッ!

「ゆ゛っ!!!」


「おい、れいむ。そこはワックスかけてないから思いっきり跳ねても平気だぞ。」

「ほんと!せーーーのっ!」

「なーんて、うそぴょーーーーーーん。」

「ゆーーーーーーーっ!!!」

ズルッ!  ゴンッ!

「!!!!!」


「あーらら。お前ら歩くの上手になっちゃったねえ。全然転ばないなあ。つまらん。」

「ゆぅ・・・ゆぅ・・・ゆぅ・・・」

「おーおー。もう一息だねえ。頑張りな。まあ頑張っても無駄だと思うけど。」

「ゆ?どうして?」

「お前の足元ねえ、特に念入りにワックスかけた所なんだ。『必ず』転ぶよ。」

「そ、そんな・・・ゆーーーーーーーっ!!!」

ズルッ!  ゴンッ!

「ゆぶ・・・」


「おお、二匹共やっとこっち側についたね。おめでとさん。」

「ゆ・・・やっとついた・・・」

「ところで・・・お前達、雑巾は?」

「ゆ?ぞうきん?」

「雑巾がなきゃあ拭き掃除ができないでしょうが。なんで部屋の隅っこに置いて来たの?」

「ほれほれ。さっさと雑巾持ってこい。スタート地点まで戻って。」

「ゆぅぅぅ・・・・そんなぁ・・・」

「ちなみにこのワックス特別製でね。時間が経つとどんどん滑りやすくなるよ。
 急いで行った方がいいんじゃねえか?まあ、急いで歩くと転ぶけどな。」

「じゃあ俺は他の所を見て来るから。さっさと雑巾取ってきて廊下で待ってろ。逃げんなよ。」

ま、部屋に鍵かけるから逃げられるはずないけどねー。


(叫ぶ)
「ゆー。おにいさん、おそいねえ。」

「おそいねえ。」

「おー。悪い悪い。待たせたねえ。じゃあさっそく井戸掃除の説明をしようか。」

「おそいよおにいさん。もうまりさたちがすっかりきれいにしちゃったよ。」

「え、マジで?中もやったの?」

「なか?」

「なんだ。やってないんじゃないか。実はお前達にやってもらいたいのは井戸の中の掃除なんだ。
 この井戸、しばらく使ってなかったんだけどね、また使おうと思うんだ。
 でも使わなくなってから随分経ったから、井戸の底にゴミとか溜まっちゃってねえ。それを拾ってきて欲しいんだ。」

「ゆ・・・でも・・・まりさたち、おみずのなかにはいったら・・・」

「ああ、知ってる知ってる。大丈夫。別に水の中に潜って掃除しろなんて言わないよ。
 今からお前達を釣瓶に入れて下に下ろすから。水に落ちないように水面のゴミを拾ってきてくれ。」

「ゆっくりりかいしたよ!」

「じゃあ、俺はこの辺にいるから。終わったら声かけてな。そしたら引き揚げるから。」

「ゆ。」

「さ、中に入って。下ろすぞ。気をつけろよ。俺は井戸の底まで行けないから、落ちても助けてやれないぞ。」

「ゆー。」




「ゆー。おねえちゃん、きれいになったね。」

「うん。まりさががんばったからだよ。」

「まりさえらい?」

「えらいえらい。きっとおにいさんもほめてくれるよ。」

「ゆ~♪」

「じゃあ、おにいさんをよんでひきあげてもらおうね。」

「うん!」

「「おにいさーん!おわったよー!ゆっくりひきあげてねー!!!」」

「・・・」

「ゆぅ?きこえなかったのかな?」

「もういっかいだね。」

「「おにいさーん!なにしてるのー!はやくしてねー!!!」」

「・・・」

「ゆ。きこえてないみたいだね。」

「もっとおおきなこえでよぼうね!」

「「おにいさああああああああん!!!おわったよおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」

「・・・」

「ゆ・・・まだだめなの・・・」

「おねえちゃん・・・どうしよう・・・このままおにいさんがきづいてくれないままだったら・・・」

「だいじょうぶ!だいじょうぶだよ!しんぱいしないで!つぎはもっとおおきなこえでさけぶよ!」

「「おおおおおおおおおおおおにいさああああああああああああああああああああああん!!!!!」」

「「はやくあげてねえええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」」

ボチャン!

「ゆうっ!なに?!なにかおちてきた!!!」

ボチャン!

「ゆ!いしだよ!おそらからいしがふってきたよ!」

ボチャン!

「ゆっ!あぶない!」

ボチャン!

「う、うごかないで!うごかないでね!ゆれるよ!みずにおちたらしんじゃうんだよ!」

「で、でも・・・」

ボチャン!

「ゆううううううううう!!!!!おねえちゃあああん!こわいよおおおおお!!!」

「おにいさあああああ!なにやってるのおおおおおお!はやくあげてええええええええ!!!!」

「こわいよおおおおおおお!!!はやくたすけてええええええええええ!!!」

ボチャン!

「いやあああああああ!!!じにだぐないいいいいい!!!だずげでええええええええええええ!!!!!!」


(飛ぶ)
「いやー、ごめんごめん。ちょっとお客さんが来ちゃってさあ。その人が長話するもんだから。待たせちゃったね。」

「ゆううううううう!おそいよおにいさん!まりさはおこってるよ!!!」

「ゆぅぅぅ・・・こわかったよぉぉぉ・・・」

「おそらからいしがふってきたんだよ。まりさなんかこわくてないちゃったんだよ。どうしてくれるの!」

「いや、だからごめんってば。そうだ。今度近くに来た時はまた家に寄りな。今回の埋め合わせをするよ。
 美味しいお菓子を用意して待ってるよ。だから、許してくれないか?」

「ゆぅ・・・おにいさんがそこまでゆうなら・・・」

「そうか。許してくれるか。そりゃあ良かった。」

「きょうはもうおうちにかえるね。」

「ああ、そうだな。すっかり暗くなっちまったもんな。」

「ところでれいむたちは?」

「ああ、それがな、いくら探しても居ないんだよ。掃除は終わってる様だし、先に帰っちゃったのかな?」

「ゆ!まりさたちをおいてかえるなんて、れいむはゆっくりできないね!」

「今から急いで追いかけたら追いつけるんじゃないか?そこで一つアイディアがあるんだけどね。」

「あいでぃあ?なあに?」

「今から走って追いかけるのは時間がかかる。ここは一つ空を飛んで帰る、というのはどうだい?」

「おそらをとぶ?まりさたちはれみりゃじゃないよ。おそらはとべないよ。」

「知ってるよ。だから、俺が空を飛ぶのを手伝ってやろうってんだ。」

「おそらをとべるの!」

「ああ、もちろん。ついてきな。」


「ゆぅ、いったいどうやっておそらをとぶの?」

「ふっふっふ。さあてね。ところでどっちから先に飛ぶ?」

「まりさがさきにとびたいよ!」

「お、ちっこい方が先か。おっけー。じゃあ姉ちゃんの方は目瞑ってな。」

「ゆ?どうして?」

「どうしてって、そりゃあ初めて空を飛ぶんだ、その感動を十分味わってほしいからだよ。
 妹が飛ぶところを見て、どうやって空を飛ぶのか解ってしまったら興醒めだろ。」

「そうかなあ。」

「まあまあ、深く考えんな。とにかく目を瞑ってろ。」

「ゆぅ・・・」

「そんじゃ、おちびちゃん。いくぜ!」

「どきどき!」

「存分に味わいなあ!一生に一度!!最初で最後の空の旅だっ!!!」

「ピッチャー振りかぶってえええ!第一球うううう!!投げましたあああああああああ!!!」

きらーん☆

「おー。飛んだ飛んだ。いやー、俺もまだまだいけんじゃね?また草野球始めよっかな。」

「どうなったの?」

「おお、もう目を開けてもいいぞ。妹はもう随分遠くまで飛んで行っちゃったよ。見えないだろ。」

「ほんとだ!はやいね!これならすぐにれいむたちにおいつけるね!」

「よーし。そんじゃ、つぎはお前の番だ。」

「わくわく!」

「さあ楽しめよ!一瞬だぜ!!あっという間に妹のとこまで送ってやる!!!」

「ドライブシューーーーーーートオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

ベチャアッ!!!

「うわっ!弾けた!やっぱ蹴りじゃダメだったか。まあしかたないよね。
 こいつ、投げられる大きさじゃなかったし。しかたないよね。」

「さーてと。暗くなったし、電気代ももったいねえからもう寝るか。」

end

作者名 ツェ

今まで書いたもの 「ゆっくりTVショッピング」 「消えたゆっくり」 「飛蝗」 「街」 「童謡」
         「ある研究者の日記」 「短編集」 「嘘」 「こんな台詞を聞くと・・・」
         「七匹のゆっくり」 「はじめてのひとりぐらし」  「狂気」 「ヤブ」
         「ゆ狩りー1」 「ゆ狩りー2」 「母をたずねて三里」 「水夫と学者とゆっくりと」
         「泣きゆっくり」 「ふゅーじょんしましょっ♪」 「ゆっくり理髪店」
         「ずっと・・・(前)」 「ずっと・・・(後)」 「シャッターチャンス」
         「座敷ゆっくり」

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最終更新:2022年05月19日 11:26