緑分注意。
僕(Y・Y)が過去に書いたのとつながっている設定や表現、あります。
百合、東方キャラ、緑髪、緑髪、虐待分量は極めて極めて少な目、百合、他人様の設定をパクっている(超重要)、百合、以上の点で一つでも苦手なものがある人は見ないほうが幸せになれます。
あと、僕自身が30スレ以上遅れてるから、内容が古くて今のゆっくりと合わないかもしれないです。
では、ごゆっくり
蒼を濁す白の無き空、輝き照りつく日の光。
幻想卿は、四季のはっきりとして住み易い。季節は、夏。
蒼天の下、地上に咲く太陽。
微笑みを湛えた顔。日傘を揺らし花々に水を与える。
渇きを癒してくれた主に文字通り、こうべを垂れて感謝の意を示す花々。その意を介し笑顔を返す。
澄み切った空の下、優しい歌声を聞かせ歩く。
蝶も蜂も羽を休め、花々も葉を休める。今この時は、歌声以外の音は不要だから。
歌い聞かせ終わり、最後にスカートの裾を持ちお辞儀をした。
不意に微風が吹き、花を揺らし、葉を揺らし、蝶や蜂が舞った。羽と葉を震わせての喝采。その様子に満足し、笑顔で帰宅した。
いつもどおり。
いつもどおり、朝起きて身支度をし、花に水を撒き唄を聞かせ、帰宅後に新聞を読む。それからしばらくして、いつもどおり、同居人が眠そうな顔で朝の挨拶をかけてくる。甘えさせたいという衝動を我慢して、すぐに身支度させて朝食にする。
その後、いつも通り、弾幕ごっこをしたり、イロイロと教育をしたりして午前中を過ごす。
午後はお互いの自由時間と設定してある。いつもどおり、同居人は親友達の下に遊びに向かう。自分は、いつもどおり自由気ままに。
今日は花に囲まれてのんびり読書をして過ごすことにした。
花に囲まれ読書。…向日葵が一斉に一点を向く。来客の合図。
「どうも~、また来ました~。」
最速のブン屋とその助手が声と共に現れた。助手は汗をかきながら重そうなケースを運んでいる。尻尾も耳もへにゃっており、かなりつらそうなのが見て取れた。
…ちょっと前までは、ほんの一人を除いて誰も私に近づこうとしなかったのに、今では殆ど毎日誰かが訪れるようになっていた。
中でも、ブン屋はよく訪れる。花の写真を取ったり、雑談したり。縦横無尽に幻想卿を駆け回る彼女に幻想卿内のニュースを聞く様になったのはごく自然な事だった。
「…読書中よ。」
出来れば静かにして欲しいのだけれど?続く言葉は視線で語る。
「はい!本を読んでいる姿も絵になりますね!」
満面の笑顔。…意を解してるな、この顔は。…それでその返答とはね。このブン屋、どうしてくれようかしら。……まあ、いいか。
「…それで、何の御用かしら?」
無理矢理でも話しにつき合わせる気であろう。しおりを挿み本を閉じる。読書は中断するしかあるまい。
「はい、実はですね、今度“天狗新聞大祭”というのがありまして、…発行部数を競う祭りなんですが。出されたテーマが『夏』なので夏らしい写真を掲載したいと考えまして、椛と相談した結果、行き着いた先がココでした。…幽香さんのお写真、何枚か撮らせてくれませんか?」
ペコリと頭を下げる天狗。助手の白狼天狗も一緒になってお願いしてくる。
『夏』か。私の事を夏と表現したか。だけれど、
「私は四季。夏だけじゃないわ。」
それは違う。
「…リグルは正に夏ね。…冷光鮮やかな夏の星。」
そう、夏と言えばあの子だろう。
「うーん…。では、リグル君とペアショットならOKしてくれますか?…本音をいいますと、以前発行した幽香さんの写真が乗った号だけ部数が普段の数倍売れたんですよね。」
発売部数と表記されているメモを見せながら発言するブン屋。
…正直すぎるのもどうかと思うが。それはいいとして、多くの存在を魅了してしまうのは花の宿命。だから常に美しくなければいけない。
そして私自身もあの子にそうあって欲しいと望んでいる。
複数の誰かに見られれば美しくなる。人も妖精も妖怪も女の子ならば皆そう。…いい機会かもしれない。
「…いいわよ。今はリグルが居ないから、また今度来なさい。」
承諾の意を示す。
「本当ですか!?椛、やりましたよ!」
「わんっ♪」
嬉しそうにハイタッチする二人。えっ…白"狼”?……犬?。
「…ゴホン。それでブン屋、何か変わった事でもあったかしら?」
普段どおりニュースを聞いてみる。
「えーっとですね、…ここ、二、三日の間に人間の里で失踪事件が起きていますね。複数の人間が失踪したみたいですが、慧音さんの要望で巫女が出張りましたので解決はすぐでしょう。他には特に何も起きてないですね。」
『根多』と書かれたメモ帳をめくりながら文は答えた。
「それより幽香さん、本当にリグル君となら被写体になってくれるんですよね!?」
パシンッとメモ帳を閉じながら念を押される。…イジワルを言ったりするが、嘘をつく事は好きではない。
「ええ。…撮るからには完璧に撮りなさいよ。…それとリグルは女の子よ。」
そう、いつもどおりだった。
いつもどおりのはずだった。
ブン屋達が去り、日も落ちてきたので館に戻ることにした。
時計の短い針が7を指し、普段なら二人で夕食を楽しんでいるはずの時間だが、
「…遅い。」
同居人が帰ってこない。…何かあったのかも。
探しに行くべきか?いや、すぐに戻るであろう。
『人間の里で失踪事件が…』
―ふと頭によぎる先ほどの文の事件の話。
…失踪?もしかしたら誘拐された?いや…あの子は妖怪だし、ああ見えて並みの妖怪よりは強い。私が育てているから間違いない。
気がつくと部屋の中をウロウロしだしている自分に気がついた。
「…なんて事、これでは何処かの九尾じゃない…。…まったく。私に心配をかけさせるなんて…。帰ってきたらうんと叱ってやらなければいけないわね。」
とにかく、軽めに食事をし帰りを待つことにした。
だが、一向に帰ってこない。
ソファに腰をかけ、目を瞑り思案を巡らせた。
………。
……。
…。
光が差し込む。朝日の気配に目覚め、時計を見る。
…短針が指していたのは7だった。
屋敷内の気配を探るも自分の気配しかない。
自分自身の能力には自身が有る。有るが、体が動いていた。気配で探っただけじゃ納得できない。己が目で確かめて見なければ。
逸る気持ちに押され、ドタドタと足音がたつ、その姿に優雅さなど微塵もない。が、そんな事気にもならなかった。
「…帰って…来て、ない…!」
今まで一度もなかった事態。
どの部屋にもいない。あの子の部屋にも、キッチンにも、どこにも。
嫌な汗。自分でも信じられないくらい心臓が早鳴った。
―なんて事、なにかあったんだ、やはり昨日の内に動いてれば、無事であって。
去来する様々な感情。後悔、不安、焦燥。
あの子がいないだけで感情が泡立つ、波が、波紋が生まれる。
あの子がいないだけで不安になる。
あの子がいないだけで…。
私の“いつもどおり”はもはやリグル無しでは有り得なかった。
『今すぐだ。今すぐ探しにいこう。』
そう思ったのは既に屋敷から飛び立ち、地上の太陽が見えなくなった後だった。
当てならある。体が勝手に動いていた。
…結論から言うと当ては正しかった。目当ての人物には会えなかったが。
「大分回復しました。幽香さん、ありがとうございます。」
リグル達がよく遊ぶ湖の畔には傷だらけの大妖精が横になっていた。
弾幕ごっこをしたにしても、ごっこ遊びの範疇など超えたひどい怪我を負っていた。
発見した当初は、彼女の可愛らしい青い服も所々破れ、血が滲んでおり痛々しかったので、屋敷に運び傷の治療とスペアの青いチェックの服を貸してあげた。一部を除き、大妖精のサイズにあったのは幸いだ。
「いいのよ。…それよりも、詳しく話してほしいのだけれど、よろしいかしら?」
一体あの場で何がおきたのか。彼女がこうなった経緯、他の子たちはどうしたのか。
「傷を負った理由は弾幕によるものです。…チルノちゃんやリグルちゃん達の手で。」
「…。」
無言で彼女の目を見る。続けなさい。その意を解したのか頷き続ける。
「皆がおかしくなったのは大きなゆっくりが現れた後なんです。
そのゆっくりが、いつもの調子であの鳴き声を発したんです。」
「発したら、皆おかしくなったのかしら?それで貴女を襲ったのかしら。」
優しく問いかける。
「私もあの声を聞いた瞬間は虚脱感に襲われたんです。
『ゆっくりしなきゃ』って頭が勝手に思うようになって、
怖くなったので、目と耳を塞いでその場にしゃがみこんで…。
顔を上げたら大きなゆっくりが居なくなってて…。」
「面倒なのが出てきたわね…。」
この先のことは聞かなくてもおおよその見当がつく。だが、全部聞いておこう。この子にも手伝って貰う事になりそうだから。
「きっと、幽香さんのお察しのとおりです…。
皆、虚ろな目で『ゆっくりしなきゃ…』って。
私、怖くなって皆の前で『ゆっくりしちゃダメ!正気に戻って!』って叫んで…。
そしたら、皆が私に向かって弾幕を…。」
最後まで話し終えると、大妖精は泣き出してしまった。仲間が、親友が突然牙を向けてきたのを思い出したのだろう。
「…その後、皆がどこに向かったかまでは分からない、か。」
「…うぅ、はい、ゴメンなさい…。」
「いいのよ。…それよりも、どうにかするわよ。これは紛れもない『異変』だから。でも巫女には期待できない。…失踪事件もその“変異種ゆっくり”が関連している可能性が高い。つまり、霊夢もそいつ等の手に落ちた事になる。殺されていれば幻想卿自体ただじゃ済んでいないし、一応生きてはいるわね。」
「失踪?事件?…わかりません。でも、私も皆の事助けたいです!」
さて、どうしたものかしら。…とりあえず、正気の連中を集めないとお話にならないわ。消すことは容易いけれど、私だけでは救えないかもしれないから。万全に万全を重ねておきたいから。
「…傷はもう大丈夫ね。行くわよ。」
「はい!…でもどこへですか?」
「私の嫌いな妖怪の所。」
そう告げるなり、空に向かって少し大きめの声を上げた。
「紫!用があるからさっさとスキマ出しなさい!」
声を上げると、目の前の空間が割れ、中から無数の目がこちらを覗き込んできた。
「行くわよ。」
「わ、わ…、橙ちゃんに聞いてはいたけれど、紫さんの力、初めて見ました…。」
驚いている大妖精の手を引っ張りスキマをくぐった。
……。
―魔法の森、某所。
「おお!大分仲間が増えたじゃないか!ゆっくり私!」
黒白の服、帽子が特徴的な金髪の少女が声を出す。
「ゆっくり集まったよ!きっとこの力はゆっくりと他の皆が一緒にゆっくりするために与えられたんだね!!!」
大きな変異種ゆまりさが楽しそうに「ゆゆゆ」と笑う。その背後には沢山の人影と饅頭。
「でも、友達がイッパイでもうココじゃ狭くてゆっくり出来ないよ!!」
ゆまりさが続ける。
「私に考えがあるぜ。大きな家を持ってる奴を友達にして、そのまま家を借りるのさ。」
泥棒の提案。
「流石だね!!ゆっくり大きな家がある所に運んでね!!仲良く住まわせてもらうね!!」
皆にゆっくりして貰うという使命感がゆまりさを駆り立てた。
―マヨイガ
「…幽香ちゃん、悪いけれど今忙しいの。用件は手短にね。」
くぐった先は広々とした和室。…いつもの余裕たっぷりのスキマ妖怪の姿はなく、真面目な顔はどことなく焦っている様にも見えた。
「ご挨拶ね。…やはり霊夢が不在となれば紫は動けないわね。」
「…気づいていたのね。その通り、この状況は芳しくないわね。…結界の綻びの修繕で動けない。」
幻想卿という人と妖怪達の方舟。管理者のスキマ妖怪はその美しい顔を僅かにしかめて答えた。
幽香は紫を呼んだ意を伝え、大妖精に先ほどの話をさせると、普段は温厚なスキマ妖怪から怒気が発せられた。
紫にとって霊夢は最も気に入っている人間。その人間が消えた理由、それが洗脳なり懐柔なりされて、彼女の手元から離れてしまったののだから。
しかも、発見できないとなれば、対スキマ用に何らかの工作、結界のような力を行使している可能性が高い。
「…敵に回るとこうも厄介とはね。」
大結界に綻びが出る理由も別の結界に力を注いでいるからであろう。
考えての結果かそうでないかは解らないが、敵ながら幻想卿の管理者であり、最高級の力を持つ妖怪の介入を阻止した手前は上々かもしれない。
「紫、直ぐに正気の連中を集めて。」
言われるまでも無いと、既に複数のスキマが召還されていた。
物の数分で正気の妖怪達がマヨイガに現れ、事態の説明がされた。マヨイガへの進入も不可能なものとし、敵の侵入を防いだ。
マヨイガは妖怪達による『巫女救出作戦本部』として機能される事になった。
紫は大結界の綻び修復のため戦線にはでれず、皆に霊夢救出を託すと藍とともに部屋に戻っていった。
二人の表情は悔しさがにじみ出ていた。それは、本当は自分が行きたいという気持ちの表れ、大結界の崩壊を防げるのは自分達だけという事実と板ばさみになった故の歯がゆさ。
「橙を…、頼む。」
藍は去り際にすれ違った幽香につぶやいた。
「…任せなさい。」
答えた。
司令官に永琳、参謀にパチュリーが着いた。
「皆さん、巫女救出作戦に参加してくれて有難う。」
永琳から簡単な挨拶がされる。彼女も主人と弟子二人とその部下達が消えてしまい異変解決に合流した一人。
いつもの“殺し愛”に出掛けた主人が失踪し、探しに行かせた弟子が消え…、異変の核心部分を知った天才は静かに怒っていた。
「…さっそく始めるわ。」
参謀、彼女が参加した理由は親友の部下二人、有能なメイド長と門番が失踪したから。怒る親友とその妹をなだめながら従者と共にマヨイガに合流した。
「…とりあえず、その変異種と洗脳された者について情報交換をしましょう。」
特に異議もなく情報交換も行われ、各々有事に備えるようにと指令が伝えられた。
―幻想卿、某所。
「ほら、私の言ったとおりうまくいったろ?」
得意そうに語る黒白。
「ゆゆ!!ほんとうにうまくいったね!!!大きなお家いっぱいだよ!!!これで皆がゆっくりできるプレイスが確保できたよ!!!」
首尾よく皆がゆっくりできるゆっくりプレイスを確保し興奮気味の変異種。
「本当は妨害があると思ったんだけどな。」
やや拍子抜け気味の黒白。
「何が来てもまりさの美声でゆっくりお友達になるからだいじょうぶだよ!!」
力を得た愚者は傲慢で。
「ま、幻想卿がゆっくりの為の世界になろうが私はゆっくりと研究さえ出来ればいいぜ。」
「ゆゆ?ココって“げんそーきょう”っていうの?じゃあ今日からは“ゆっくりきょう”だね!!!!」
高らかと宣言される。方舟全体をさしての“ゆっくりプレイス”。この世界の支配者は自分たちだと。
―マヨイガ。本部発足から三日。
標的は何処にいるのか、敵の能力は、操られている者の解除方法は、議論は尽きない。
「…相手の能力がイマイチつかめないわね。…視覚による暗示や催眠?それとも音声、聴覚によるものかしら。」
「目、耳を塞いでいた彼女は洗脳を免れたわ。音の可能性が高いけれど、なにかの催眠系物質を大気中に散布した可能性もあるわ。」
「…その全てかも。特定できれば対処できるのに。」
二人の天才が話し合う中、二人の少女が襖を全開に開け本部に現れた。
疲れきった表情の河童と、その様子を心配そうに見守る厄神。二人の手にはなにやら紙の束。
「永琳さん、言われたとおりメカゆっくりで偵察してきたよ。」
見慣れた河童が永琳の席の前に紙の束を乗せ終え報告した。
「あら、早かったわね。」
「じゃあ、私、寝ます。寝ずの20機同時操作はきついです。結構眠いです。」
言い終えるなり、隣の厄神にもたれかかり寝息を立てるにとり。
「ええ、ご苦労様。」
永琳は二人に労いの言葉をかけ、見送る。
二人の天才はにとり印の報告書を読み漁った。
「…僅か3日で幻想卿は奴等に占拠されたみたいね。」
邪魔するものが居なければこうまで素早い。ゆっくりするためにゆっくりしない。
彼女が住む、見慣れた紅魔館の写真。大量のゆっくりが我が物顔で屋敷を徘徊しており、門には美鈴がゆっくり達と門番をし、屋敷内にはれみりゃを世話している咲夜が写っていた。…図書館の写真は見ないでおいた。きっと体に悪い。
「永遠亭もね。…もしかしなくても紙一重だったわね。」
彼女の主が妹紅と慧音と談笑している写真。そして大量のゆっくり。彼女の弟子達がゆっくりの世話をし、イナバ達は食料生産にいそしんでいた。ラボは半壊。見なければよかった。
「…神社も酷いわね。」
霊夢、魔理沙、アリス、早苗が縁側に座りゆっくりを撫でている写真。お茶を飲んでいる写真、倒壊した賽銭箱の上ではしゃぐゆっくり。そして里の人間達が建物を増設していた。
ゆっくりの分布図を見るとこの三箇所に集中していた。この三箇所と傍にいる人員から、どの場所にも変異種が隠れている可能性は高いと推測できた。
「空気中には変わった成分もウィルスも無しみたいね。」
「…まって、この音源グラフ、おかしいわ。…この部分、ノイズとして処理しているみたいだけど…」
「ふむ。更に確率が上がったわね。というよりも、恐らくコレね。彼女の友達は同時に洗脳されたわけなんだから。」
「…決まりね。…リトル、皆を呼んで頂戴。」
タネ明かしは僅か三日。ゆっくり達は誤った。喧嘩を売った相手が悪すぎた。
翌日、全員が大広間に召集され作戦が伝えられた。
作戦の内容は酷く簡潔だった。
“三箇所を同時に制圧し、洗脳されている連中を全員捕縛する事”
簡潔ではあるが難しい。連中は本気、ゆっくりする為に殺す気で襲ってくるであろうから。
こちらは紫の力で洗脳を防ぐにしても、十人前後が限度であると本人の弁だ。力を分散させてしまい、大結界が崩壊してしまうのだけは避けなければいけないから。結果、救出作戦は少数精鋭で行くしかなくなった。
誰が何処に行くか。最後の会議は分隊編成についてだった。
「当然、紅魔館は私達が行く。」
可愛らしい手で挙手する吸血鬼姉妹。相性抜群の血の姉妹。
「お姉様!はやくいこー!お姉様と一緒に遊べるなんて夢みたい!」
「…そうね。今回の遊びは、館のゴミ掃除と咲夜と美鈴の再調教。…もちろん二人は壊しちゃダメよ?」
「うん!さくやもめーりんも壊さないようにして遊ぼ!」
殺る気充分な二人の微笑ましくも危ない会話に皆言葉を失う。
バックアップにパチュリーと小悪魔が着いた。恐らく紅魔館にはこれ以上の増員は必要あるまい。
「永遠亭は私ね。…守っている人員を見ると、私について来る子はかなり辛いわよ。」
永琳の言うとおり、永遠亭は確認されているだけでも、妹紅、慧音、輝夜、と幻想卿でも上位の実力者が揃っている。生半可な実力ではあっという間に命を落としかねない。
誰もが沈黙する中、一人挙手した。…皆の目が一斉にそちらを向く。
「…貴女のお弟子さんと、うちの妖夢、きっと一緒だと思うから。」
挙手した存在は西行寺幽々子。彼女の頼りなく思っている従者も失踪していた。頼りなくとも可愛い事には変わりない。
「「貴女がパートナーなら私も気を使う必要がなくていいわ。」」
ニッコリと笑う両者。言葉ハモる不死者と不生者。
「神社は私達が行く!我こそはと思うものは続け!」
加奈子、諏訪子の軍神ペア。普段のほのぼの一家の面影は微塵も無い。その勇ましい声に士気が嫌でも上がる。
その声に呼応するかのように天狗と河童が立ち上がる。
「今回は取材抜きでお手伝いします。」
「…魔理沙、アリス、待っててね。」
若々しく見えるが文は幻想卿でも長寿の方。普段は隠しているが相当な実力者。にとりは他三人と比べれば実力では劣るが、サポートに徹すれば三人に並ぶとも劣らない。極めて優秀だ。
三部隊を編成し終え、出陣の厄払い。
厄神から与えられる武運の加護。
「…厄神、私達にも頼むわ。」
緑髪、赤いチェックの服。
「永琳…さん、私達も出撃するわ。」
控えめに司令官に報告する青いチェックの服。
「ふふっ…。貴女達が出てくれるなら非常に助かるわ。」
提案は畏怖交じりの笑顔で歓迎された。
―夜。
幻想卿の3箇所が同時に戦場になる。
…遅れてもう1箇所。
会戦の狼煙は各所様々。
紅き悪魔の住まう館、その門に突き刺さる咎の紅槍。
博霊の鳥居を渦巻く大暴風雨。
永遠の竹林に走る光の網と亡者の蝶。
―そして
「なんで此処にもいると解った?」
黒白の顔に焦りが見える。仲間にならなかった連中の報復を見越して考えた作戦。この妖怪が真っ直ぐ此方に現れたのまでは予定通りだったが、今の状況はまるで想定外だった。
「あら?私が私の住処に帰ってくるのは当然の事じゃない。可笑しな話よね。……ねぇ、“私”。」
目の前には
「そうね、“私”。何で“私”の庭にこんなにもお客さんが来てるのかしら?」
白い日傘を優雅に揺らし
「な、何でお前が―」
赤と青のチェックの服で
「「魔理沙?早く説明して頂戴。」」
「二人いるんだ!?」
不敵な笑みに揺れる二輪の風見幽香。
魔理沙はゆっくりし過ぎて頭がおかしくなったのではと本気で考えた。
…恐怖が服を着て優雅に歩いてきた。二つも。…一つだけなら来るであろうと予想出来たがまさかの二つ。
フランドールの得意技の一つに似た、魔力による幻体か?だが、二人が歩く度に足音が足跡が残る。つまり、どちらも質量を持っている。幻体では無い。
援軍には期待できない。紅魔館の方から聞こえた爆音から察するに、他の三箇所も既に制圧戦が始まっているであろうから。
「…ふざけるんじゃないぜ…。こんな奴を二人も相手に出来るか…。」
向けられる殺気。震える独り言。魔法を使う者は、魔力で相手の性質を探る癖がある。魔力とはいうなれば全身を駆け巡る血のような物。精神を、想いを具現化するエネルギー。
人間も妖怪も誰もが僅かながら持ち合わせている。誰もが持ち合わせている反面、個々に唯一無二で同じ色、同じ匂い、同じ光の魔力は存在しない。
だから同じ能力を持つ存在が同時に存在する確率は極めて低い。
特に魔の理を知り尽くしているパチュリー等の魔女は魔力で人を区別する傾向が強い。それは彼女との親交が深い魔理沙とて同じであった。
この二人の幽香から感じる魔力は体に突き刺さるほどと形容しても良いほど圧倒的。まったく同種の同じ大きさの激流。それが指し示す事実は魔理沙にとって絶望的であった。
『魔力において見ると、この二人は同一人物である。』
それをこの場にいる戦力で何とかするしかない。
プライドの極めて高い幽香だから、独りで来るであろうという考えが思考を鈍らせた。
一人相手の戦力しかない。こんな事ならもっと戦力を連れてくれば良かったと後悔が襲う。
手ごまの再配置、変更せざる終えないプラン。風見幽香を一人倒す為だけの計画は早くも頓挫した。
「…アリス、この状況、どうすればいい?」
魔理沙がいい終えるか終えないかの刹那に二人の幽香に降り注ぐ弾幕。
魔人は呼びかけに呼応するかのように瞬時に援護し、魔理沙を掴みそのまま退避。しなやかな指先は退がりながらも的確な弾幕指示を人形たちに伝えていた。
二輪とも防御行動を取るまでも無いと涼しい顔で弾を弾き飛ばす。
「逃げる、とりあえず下がる。あの場にいたら確実に…。」
僅かに聞き取れた幽香にとって聞き覚えのある声。
アリスは知っていた。風見幽香の恐ろしさを。遠い過去からのトラウマ。
だが、弾幕による目隠し、足止め。タイミングの絶妙さは流石といえる。
「アリス!ゆっくり共がまだ気付いていない!助けなきゃ!!」
アリスに腕を掴まれ高速飛行で退避。力をこめる為、アリスの腕を掴み直し叫ぶ魔理沙。
「ゆ~?お姉さん達、急ぎすぎだよ。ゆっくりしようね!!」
そんな二人を見上げ声を上げるゆっくりの群れ。
30匹程度が円陣を組んでゆっくり前進していた。
時々進むのを中断し、豊富にある向日葵をほお張り群れ全体で「しあわせ~♪」の大合唱。
だがスピードを緩めないアリス。
「聞こえているのかアリス!!ゆっくり共g」
「…黙って魔理沙。助けていたら貴女がゆっくりできなくなるわよ?」
アリスの一言で魔理沙がピタリととまる。言葉も掴む力も。
「…あぁぁぁぁ!!!嫌だぁ!ゆっくりできなくなるのは嫌だぁ!!!!」
突如うろたえだす魔理沙。アリスの一言で先ほどまでの勇ましき策士は、駄々をこねる少女に成り下がった。
目に涙を溜め、怯え、助けを乞うように上目使いでアリスを見上げる。
そんな魔理沙の頭にそっと手を乗せ何度も撫で
「大丈夫よ。私と貴女が組めば倒せない障害なんて無いわ。下がって作戦を練り直しましょう。」
励ますアリス。
(あぁ、怯えている魔理沙、可愛いわ、魔理沙、頼られてる、生意気な魔理沙に!!)
その蕩けきった表情は最高にゆっくりとしたものだった。
「…ふふ。」
二人の魔法使いが全速で立ち去った後に残った二人。周辺には他の妖怪の気配がない。
「私が、掃除をす…します。いいですよね、幽香さん。」
青いチェックが僅かに歪み、風見幽香が大妖精に戻った。
自然が生んだ精神の結晶に近い妖精、その中でも力を持つ大妖精。風見幽香の策は至極簡単であった。
“大妖精の精神を肉体ごとジャックし己の生きた分身にする”。自然と共に生きてきた幽香だから思いついた最高の力技。
大妖精本人が希望を出さなければまず行わなかったであろう最高の不自然。
本部発足から殆ど顔を出さなかったのは大妖精と自分の精神をリンクさせるための調整に時間がかかったから。
「ええ、よろしく頼むわ。…ここを戦場に選んだ事は最大の失策よ。…魔理沙、アリス、久しぶりに可愛がってあげる。」
失策、それは幽香側の戦力をプラス方向に欺くため二人の自分を演出しても尚尽きぬ魔力が語っていた。ここは彼女が咲いている場所。大地から魔力を供給してもらっている場所。
月下に映えるサディスティックな微笑み。見つめる大妖精の口元も自然と微笑んでいた。
「ゆんゆん!!あたらしいお友達はみんなゆっくりしていないね!!」
先ほど自分たちの頭上を通過していった金髪のおねえさん達に、ゆっくり達は少なからず憤りを感じていた。
ゆっくり種は素早い者がとても苦手だから。見ているだけでゆっくりできなくなるから。
「でもわたしたちはゆっくりできてるね!!大まりさが急いでっていってたけど、いそがずゆっくりいこうね!!」
「おはなさんをむーしゃむーしゃしながらゆっくりうぉーきんぐしようね!!」
たくさんのゆまりさとゆれいむが向日葵を食べながらゆっくり進んでいた。
ゆっくりとしている群れの上をさらに緑髪のおねえさんが通過する。こちらには目もくれず先ほどの二人を追いかけているようだった。
ゆっくりの群れはそれを目で追った。
「ゆぅ~!!!ほんとうに人間っていう生き物はゆっくりできない子ばかりだね!!」
「まったくだね!!ゆっくりきょうはゆっくりできない子はいらないよ!きっと大まりさもそうおもってるよ!!」
「「ゆっくりのおかげでゆっくりさせてもらっている人間はもっとゆっくりたちに気をつかってゆっくりするべきだよ!!!」」
増長するゆっくり。頬を膨らませ怒りの意を示すゆまりさとゆれいむ。
「うん。私もそう思うな。ゆっくりはゆっくりするべきだよね。」
不意に背後から声をかけられ一斉に振り向く。
「ゆ?誰!?…あれ?誰かの声がしたのにだれもいないよ!!!」
群れ全体で首(体)をひねって不思議そうな仕草をする。
「こっちだよ?」
また声がする。先ほどと同じように全員が一斉に振り向く。
「ゆぅぅ・・・まただれもいないよ!!!かくれんぼなの?おばけさんだったらこわいからゆっくり帰ってね!!!」
誰もいないのに声がする。そんなやり取りを数回繰り返し
「ここ。目の前だよ。」
突如目の前に現れる緑髪のおねえさん。青いチェックの服を着て優しそうな微笑を浮かべていた。
「ゆゆ!!びっくりさせないでね!!かくれんぼしたいなら、ばつとしておねえさんがおにをやってね!!」
タネは瞬間移動。彼女の持つ能力の一つ。その能力を駆使し、ゆっくりをからかっただけ。
「んーん♪遊ぶのは無理だなぁ。」
首を小さく横に振りながらゆっくりの申し出を断りつつ、群れの中心のゆまりさを指し
「今からみんなで押しくら饅頭して貰うから。」
笑顔で力を行使した。
「おねえさん、ばかなの?まりさたちはゆっくり大まりさのところにいくんだからあそばないならじゃましないでね!!みんな、こんなゆっくりできない子ほっといてさっさといこうね!!!」
指をさされ憤慨するゆまりさ、だが周りの様子がおかしい。
「ゆぐぅぅ!!!からだがかってにそっちに行っちゃうよ!!!」
周りを見渡すとずりずりとゆっくりの壁が迫ってくる。さらにおかしなことに自分の体が地面に吸いつけられたかのようにくっついている。
「み、みんなじょうだんだよね?…ふざけないでね!!こんないっぱいのみんなにすりすりされたら゛ぁ゛ぁ゛ぁ―」
四方八方から迫りくる饅頭ウォール。当然のごとくクラッシュダウン。生存不能。
「ぺっちゃんこになっちゃうよぉぉ、かな♪」
潰れたゆまりさの代わりに続ける大妖精。彼女はもう一つ、瞬間移動の他に持つ能力がある。それは“方向性を定める程度の能力”。弾幕ごっこの基礎となる力。弾幕ごっこに興じる者ならば誰もがもっている。だからといって取り立てて能力の一つとして上げるほどのものと思うことなかれ。
彼女のそれは極めて素晴らしく、軌跡と目的地を示せば弾は正確にそれをなぞる。魔力の少ないものなら彼女の指定から抜け出すのは難しい。瞬間移動で群れの周囲には既に中心のゆまりさを目的地と示した内指向性の“軌跡の網”が組まれていた。
「いやぁぁぁぁぁああああ!!みんなごべんね!!」
「もういやだ!おうちかえる!!」
圧死するのが明白。何とか逃亡をしようとするも網がそれを拒む。ほんの数秒でゆっくりたちは等しく一つに纏まり「プチプチッ」と小気味良く何かが爆ぜる音が響き渡る。そびえたつゆっくりの山で生き残ったのは外部分とそこから浅い部分だけ。ゆっくり山の頂上や隙間から「ぶびゅるるっ」とあふれ出る餡子を見て、予想通りと大妖精は頬を緩ませ、山の外面にへばりついたゆっくりの表情は絶望と恐慌に染まった。
「ん♪うまくいった。」
その一言でやっとゆっくりたちはこの凶事の原因を理解する。
「どぉぼじでぇごんなごどずるのぉぉおおぉぉ!!!」
わずかに生き残った饅頭達が叫ぶも
「…んー、そういえば、最後にチルノちゃん達とお山作ったりして遊んだのっていつだったかなぁ。チルノちゃんってね、いつもトンネルほりたがるんだよ。それでお山が崩れちゃって泣いちゃって。…ん、泣いてるチルノちゃん、…可愛いかった、な♪」
わずか三日前までは続いていた楽しかった日々に思いを馳せ、誰にともなく語りかけるその様子にゆ山のゆっくり達は言葉を止める。
“危ない、危険、怖い、ゆっくりできない”饅頭の本能が警鐘を鳴らす。だが、これ以上目の前の危険物を刺激するのはゆっくり出来ない結果になりかねないため、震える体をそのままに、固唾をのんで静観するしかなかった。少しでも長く生き残りたかったから。
「ふふふふ…ふぅ。…本当に、チルノちゃんを盗ってばかり。…この前も。」
終始にこやかだった彼女。言葉を言い終えるか否や、妄想に酔いしれる少女から嫉妬の宿った瞳が緑に燃える。再び、彼女の関心がゆ山に向いた事を感じ、山は震えた。
「チルノちゃん…。早く会いたいな。」
「…ゆっ、ゆっ!!おねがいだから、おねがいだからたすけてね!!」
ゆっくりとゆ山のそばで膝を下ろす大妖精に懇願する。
「…チルノちゃんはいつも穴を大きく掘り過ぎちゃうんだよね。…ふふふ。」
ゆ山に伸びる綺麗な手。表面のゆれいむの顔を撫で
「…!?た、たすけてくれるの!?おねえさんはゆっぐ」
貫く。
「ぎゅぁぁああああぁああぁあ!!やべでぇぇ!!!」
手槍は山の底面部から反対面に対して垂直に入刀され
「いでゃぁああぁぁあああ!!!!」「ぐべぇ・・・」「どぼじぃ!!」
表面だけでなく山の中でかろうじて生きていたゆっくりをも貫いた。
手の進入を遮る圧力を感じなくなった大妖精は、向こう側で手をグーとパーを交互に三度ほど繰り返した後、引き抜いた。
「ほら、私に任せてくれればこんなに上手にトンネル出来ちゃうんだよ、チルノちゃん…。」
大妖精はその後も同じ作業を繰り返し、ものの一分でゆ山は
「ま、まりさをだずけでくれれ゛ば、このさきもとくべつにゆっくr」
物言わぬ
「わからないよ゛ぉぉ、あながあいだらゆっぐりでぎな」
穴だらけの
「とんねるこうじなんてとかいはじゃないわ!おねえさんはとかいはだからもうやべっ!!!」
餡山に姿を変えた。
「ほら、私、こんなに…上手なんだよ。」
大妖精は合計5個ものトンネルが無事開通した餡山を踏み潰し、魔理沙とアリスが飛び去った方向へ向かった。
最終更新:2022年05月18日 21:39