いままで書いたもの
  • とかいはコーディネイター
  • 植物型ゆっくり
  • 魔理沙とゆっくり~邂逅篇~
  • 取替えられた子
  • お前なんかドスじゃない
  • ばーさすちれーでん
  • ねるねるねるゆ






みょんな事から知人からゆっくりを預かった。

「ゆっくりしていってね!」

種類はゆっくりれいむ。紅白リボンのついた小憎らしい顔の饅頭だ。
育て方も何もわからないが預かってしまった以上は責任を持って世話
をしようとおもう。とりあえず死ななければいいといわれたので気楽
にやれるし。







彼が決意を固め、知人から預かったれいむの育て方のメモを読んでい
る背後の方で、れいむは今までと違うおうちに興味津々。
ソファーの上で飛び跳ねたり、ベッドの上で飛び跳ねたり、彼の頭の
上で飛び跳ねたりとやりたい放題であった。

「ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしていってね!……と言われたらゆっくりしていってね!
と返しましょう……か……」

メモを読んでいるだけの彼に挨拶を返してもらえたと思い込んだれい
むは満面の笑みを浮かべて彼の頭から飛び降りて、おうちの中を探検
する。元の飼い主の殺風景極まりない部屋と違い、色々な物が置いて
あるこの家はれいむにとってこれ以上無い遊び場であった。
しばらく探検を続けていると、体の奥からぎゅるるるると低い音が鳴
り響いた。れいむのハラの虫である。
れいむは未だに部屋の隅でメモを読み続けている彼の所まで這って行
くと、袖を優しく噛んでくいくいと引っ張って訴えた。

「ゆっくりおなかがすいてきたよ!」

もっと直接的にエサよこせー、と言っても良かったのだが他所のおう
ちでそんな事を言うほどれいむは馬鹿ではなかった。最も、これでは
そう言ってるのとほとんど同じなのだが。
彼はれいむの言葉を聴くと、メモ帳をもう一度覗き込んでからすっく
と立ち上がり、戸棚の中に置いてあった日神のカップヌードルを手に
取ってこう言った。




「ラーメンでも食べるか?」




何気なく放った、彼のその言葉に、
れいむは遠い昔の事を思い出した。







「ほ~られいむ、おいしいラーメンが出来たぞ~」
「ゆっくりおいしそう!」

ラーメンの器を持っているのは、れいむの本当の飼い主である青年で
ある。彼は巷でも噂のラーメン狂で、ペットにもラーメンを与えるほ
どの熱狂ぶりであった。

「ほーられいむ、口を開けて~」
「ゆあーん」

彼は、にこにこと笑いながら箸で面を持ち上げて、れいむの前に差し
出し……急に手に持っていた箸を置いて。

「そぉい!」

大声を上げながら、れいむの頭に熱々のラーメンを叩きつけた。








「ら゛ーめんはゆっぐりでぎないー!!」
「そうか……」

彼はしょんぼりした様子で手に持っていたカップラーメンを棚に戻し
た。
れいむは震えていた。あれ以来れいむはラーメン恐怖症になってしま
ったのだ。
絡みつくちぢれ麺、肌にこびり付く豚の背脂、濃厚なしょう油とんこ
つスープ。思い出しただけで顔が焼かれるような痛みを思い出す。

「ゆっぐりでぎないゆっぐりでぎないゆっぐりでぎない……」

れいむはもみあげで頭を覆い隠して、恐怖の記憶が消えるまでひたす
ら祈り続けるしかなかった。



一方、彼はすっかり困っていた。
メモに書いてある通り、ラーメンを与えようとしたら物凄く抵抗され
てしまったのだ。
やはりカップめんではダメなのだろうか。妙においしい謎肉の無くな
ったカップヌードルでは、ゆっくりにすら拒絶されても仕方が無いの
だろうか。
彼はうーんと唸りながら知恵を絞り、そして思いついた。

「なら出前を取ろう。何が食べたい?」





部屋の隅でガタガタ震えていたれいむは全身をびくりと振るわせた。
出前。デマエ。でまえ。DE=MAE。
思い出すのもおぞましいその単語を聞いたれいむの脳裏に、恐怖の記
憶が蘇る。





「うーん、出前でうどんとラーメンどっちを頼もうか……」

その日、彼は丁度食材を切らして出前を取ろうとしていた。例によっ
て頼むのは麺類だ。ただ、今日は何の気の迷いか、ラーメン以外にも
うどんという選択肢が上っていた。

「れ、れいむはおうどんたべたいよ!」

れいむは以前の恐怖の記憶からすぐさま声を上げた。

「でも僕はラーメンの方が」
「そんなことよりおうどんたべたい!」
「塩ラーメン……いやでもチャーシューメンも捨てがたい……」
「どぼじでおうどんにじでぐれないのー?!」

意見が通らずとうとう泣き始めるれいむ。これには飼い主の青年も大
弱り。仕方なくれいむの頭を撫でくり回しながら要求を呑むしかなか
った。

「な、泣くほどうどんが食べたいならそうするよ……そんなにうどん
好きだったっけ?」



そして20分後。



「お、届いた届いた」
「ゆっゆっ! ゆっくりたべさせてね! はやくたべさせてね!」

届けられた岡持ちの前でれいむは涎をだらだらと垂らし、ぽよんぽよ
んと跳ねながら青年を急かす。(どうして岡持ちごと置いていったの
かとか、そういう野暮なツッコミはなしである)

「おや、どうしてだろう」
「ゆ?」

その岡持ちに手を突っ込んだ青年が首を捻るのを見て、れいむも頭上
に疑問符を浮かべた。
青年は突っ込んでいた手を抜いてそれをれいむに見せながら、こう言
った。

「うどんじゃなくて熱々のラーメンが入ってた」

そして青年は、ラーメンが零れないように付けられていたラップと輪
ゴムを手早く外して、叫んだ。

「そぉい!」

れいむの頭が、濃厚な味噌バタースープに塗れた。







「やべでねーーー! でまえはゆっぐりでぎないよーーー?!」

バターのクリーミーな香りが鼻腔(ない)を擽る感覚を幻想しながら
れいむは床をのた打ち回る。
まさかうどんとラーメンを間違えられるなんて。お店の人がやってき
てお題はいりませんと言われるなんて。
瞳からとめどない涙を溢れさせながられいむはただひたすらに嗚咽を
漏らすのだった。






「出前もダメなのか……」

名案と思った策もあえなく潰え、彼は肩を落とす。
こうなったら直接ラーメン屋まで食べに行くしかないのかもしれない
が、扱いに慣れてないゆっくりを連れて外に出るのは少し不安だ。
やはり家の中でなんとか事を終えたい。

「しかしどうすれば」

もはや役に立たないと断じたメモ帳をゴミ箱に放り捨てて彼は知恵を
絞る。
そして、閃いた。

「そうだ、開けてないお中元があったはずだ。きっとその中に何か食
べれるものが入ってるかもしれない」




お中元。オチューゲン。Oh!Chu-gen!
れいむの耳に、その忌むべき単語が滑り込むと同時に、れいむはあの
出来事を思い出した。







「お中元が届いたよれいむ!」
「ゆぅ?」

ある日、飼い主の青年は大きな箱を抱えながら大声を上げてれいむの
寝床に入ってきた。
れいむは寝ぼけ眼をもみあげでごしごしと擦りながら返事をする。

「おちゅうげんってなに?」
「まぁとにかく知ってる人から送られてくるものだよ。美味しいお菓
子とか入ってるかもよ?」

美味しいお菓子と聞いてれいむの目の色がカッと変わる。

「ゆゆっ! れいむおかしたべたいよ! ゆっくりあけてね!」
「焦るなってまぁ落ち着けよ。どれどれ、中身はっと……おっ、これ
はすごい!」

箱のスキマから中を見た青年は大袈裟に声を上げる。その反応を見て
れいむの期待も高まり、はしゃいで青年の周りを必死に跳ね回る。

「ゆゆっ! みせてみせて! れいむにもみせてね!」

青年は、そんなれいむににっこりと微笑み、箱に突っ込んでいた腕を
引き抜いてそれをれいむに突きつけながら高らかに声を上げた。

「熱々のラーメンでしたー!」

瞬間、れいむの表情が固まる。
そして青年は、それを振りかぶりながら大声を上げた。

「そぉい!」

覚えているのは、全身に纏わりつく潮の臭いだけだった。








「だじがにずごいげどあぎらがにおがじいでじょーーー?!」

叫びながられいむは錯乱し、ソファーに飛び乗ってテーブルの縁に頭
をガスガスと叩きつけ始めた。
彼は、残念そうに「嫌かお中元……」と呟きながらテーブルをソファ
ーから離してれいむの自傷行為をやめさせた。
れいむはソファーに顔を埋めてひたすら涙を流した。
どうして、どうしてこんな事に。さっきまでゆっくりできてたのに。
と。





一方、彼は困り果てていた。
彼は料理の腕が殺人的なため、食料は基本カップめんだけしか置いて
いないのでお中元がダメと言われたらもう他に食べ物が無いのだ。
万策尽きたか。
そう思っていると、玄関からピンポーンという来客を告げる音が鳴り
響いた。
情緒不安定なれいむの傍を離れるのはどうかと思ったが、まぁ自殺に
走ったりはしないだろうと考え、外には行かないようしっかりと窓に
鍵を閉めて玄関へと向かった。






そんな彼の心配を他所に、れいむは既に立ち直る事に成功していた。
折れるのも直るのも速いのがゆっくりの特徴の一つである。

「おなかがすいてゆっくりできないけどがまんするよ!」

そう宣言し、辛い環境にも負けない強い自分に陶酔する。そうでもし
なければゆん生やっていけないからだ。
と、そこへ今まで何処かへ行っていた家主の彼がやってきて、こう言
った。


「お隣のお姉さんからケーキ貰ったからこれを食べろ」


その手には、あの白くて甘くてとても柔らかそうなとても忌々しい物
体の姿があった。






「れ~いむちゃん! お誕生日おめでとう! お祝いにケーキを買っ
てきたよ!」
「ゆわーい! ケーキー!」

とてもおいしそうな大きなホールケーキを見て、れいむは禁断症状を
起こした薬物中毒者のように跳ね回る。そんなれいむの喜びようを見
て飼い主の青年もにこにこと笑った。
しかし、そのケーキにナイフを入れようとした時に事件は起こった。

「あれ? 切れないなぁ、なんだろう」

青年がごりごりと音を立ててナイフを押し当てるが、ケーキはびくと
もしない。その様子にれいむも頭上に疑問符を浮かべた。
そして、突如として青年は何かに気付いたように明るい声を上げてそ
のケーキを鷲掴みにして、持ち上げた。

「なぁんだ! このケーキはハリボテで実は熱々のラーメンだったの
かぁ!」

そうして現れたのは、湯気の立ち昇る辛味噌ラーメンだった。

「そぉい!」






「ぱっぱぴっぷっぱぴぷぺぽーーーーー?!」

カプサイシンによる全身を刺し貫くような痛み。それを思い出してれ
いむはソファーの上を転がりまわりながら奇声を上げた。
ケーキは甘くて美味しくてゆっくりできる。しかし、あれは本当にケ
ーキなのか? ケーキと見せかけて本当はラーメンでれいむにぶっか
けるつもりなんじゃないか?
過去のトラウマから、れいむはその手に持たれた白い塊を信じる事が
出来なくなってしまっていた。
青年はやや困ったような表情を浮かべ、ケーキにラップをかけて冷蔵
庫にしまった。
と、そこで思い出したようにポケットからそれを取り出してれいむに
声をかける。


「そうだ、ついでにドラ焼きも貰ったけどこれは食べれるか?」


その単語を聞き、れいむの脳裏にあの出来事がフラッシュバックする。






「れいむ! 国民的大スターの青ダヌキロボも大好きなおいしいドラ
焼きを買ってきたよ! 欲しい?」
「ゆゆっ! ほんとう?! ゆっくりちょうだいね!」

れいむはそう言いながら玄関に向かって飛び出した。

「ウ・ソ!」

玄関にいた青年は、いい笑顔を浮かべて手に持っていたネギラーメン
を高々と天に掲げた。
れいむは驚愕の表情を浮かべる。

「アホのラーメンお見舞いじゃぁー!」






「い゛らないー! でいぶはなにもいりまぜんーーー!!」
「そうか……」

涙を流しながらその悪魔の言葉から逃げるようにソファーから滑り落
ちるれいむ。
そんなれいむに彼は追い討ちの言葉を重ねた。


「そうだ、食べ物が無いなら歌を歌って気を紛らわそう」


歌。歌はダメだ。リリンの生んだ呪術の極みだよ。
ワケのわからない言葉と共に古の記憶が蘇る。








「れいむ、この歌知ってる?」
「ゆっ? どんなおうた? ゆっくりきかせてね!」

青年は唐突にズボンを脱ぎ、やけに大きい膨らんだポケットのついた
ズボンに履き替えると意気揚々と歌いだした。

「ポーケットをーたーたーくとー」
「ゆっ! しってるよ! びすけっとさんがでてくるんだよ!」
「熱々のラーメン」

そうしてポケットからラーメンを出す青年。
見詰め合う二人。重なり合う視線。振り上げられたワンタンメン。

「そぉい!」







「おうだはゆっぐりでぎないよー?! ゆっぐりやべでねー?!」
「……困った」

いやいやと首を振りながらあとずさるれいむの前で青年は頭をわしゃ
わしゃとかき回しながら呟く。
もう万策尽きた。困り果てた彼は半ばやけくそになって声を上げる。


「そうだ、手品とか見たくないか。親指が伸びたり耳が大きくなった
りするぞ」


手品。マジック。魔術。それは正に悪魔の所業。
その言葉を聴いた瞬間、れいむの記憶はあの日に戻っていた。








「ほられいむ、手品だよ。見てごらん」

飼い主の青年が赤いハンカチを持ちながられいむにそう告げる。れい
むは始めてみる手品にわくわくを押さえきれない表情でそこに座って
いた。

「タラララララ~♪」

青年が何らかのメロディを口ずさみながら赤いハンカチを振り回す。

「タラララララ~ララ~♪」

赤いハンカチはテーブルの上でひらひらと舞い踊る。

「タラララララ~ララ~ララ~ララ~ララ~ララ~……」

そして、赤いハンカチがテーブルの上に広げられ、
青年はハンカチから手を離すと、テーブルの下からおもむろにそれを
取り出した。

「ラーメン」

ほこほこと湯気の立ち昇るチャーシューメン。テーブルは10分以上前
からそこで手をつけられずにいたのにも関わらず、出来立てほやほや
の状態でずんとそこに佇んでいた。
そして、目を白黒させて驚いているれいむに向かって青年はそれを勢
いよく叩きつけた。

「そぉい!」







「でじなはやだーーー! ごあいよーーーーーー!!」
「怖い……人体切断とか爆弾つきの密室から脱出とかそういう本格的
でスプラッタな物はできないんだが……」

耳(にあたる部位なのだろうか)をもみ上げで塞いでイヤイヤと頭を
振るれいむの背中に無力な彼の声が降り注ぐ。
持ち芸の少ない彼はもう気のきいた遊びに誘う事すら出来ない。
それでもえぐえぐと嗚咽を漏らすれいむに何かしてやらなければなら
ないと考えた彼は、冷蔵庫にあれがある事を思い出して声を上げた。


「そうだ、冷蔵庫にオレンジジュースがあるからそれを上げよう」


冷蔵庫。その呪われしパンドラの箱の名前を聞いた瞬間、れいむは恐
れ慄き封印した記憶を取り戻した。







「おにいさん! れいむのどがかわいたよ!」
「えぇ? 困ったなぁ、今断水中で水が出ないんだよ」
「やだやだ! れいむおみずのみたい!」

床を転がって駄々をこねるれいむ。その様子を見た青年はすっくと立
ち上がるとのそのそと冷蔵庫に向かって歩き出した。

「冷蔵庫に何かあればいけどなぁ」
「おみずじゃなくてもおれんじじゅーすさんでもいいよ!」

あつかましく水よりもいいものを要求するれいむ。
そして冷蔵庫をごそごそと漁っていた彼は顔を綻ばせてこう言った。

「おっ、良かったなれいむ」
「なになに?」
「熱々のラーメンがあった」

そうして冷蔵庫から引き抜いた彼の手には不自然なほど湯気の立ち昇
る熱々のしょう油ラーメンが入った器が握られていた。

「そぉい!」








目の前に広がるベーシックなしょう油スープ。

「ゆ゛っ゛く゛り゛て゛き゛な゛い゛ーーーーーーー!!!」

そのおいしそうな臭いを思い出して、とうとうれいむは絶叫しながら
気絶した。









次の日。
やたらと憔悴した様子の彼は、泣き疲れて眠ってしまったれいむの入
ったケージを飼い主の青年に手渡しながらこう言った。

「ゆっくりを飼うって難しいんだな」
「そうか?」


おわり

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最終更新:2022年05月19日 14:51