"スィー"それはゆっくり用の車である。やや広めの箱にタイヤが4つ、前方には
加減速レバーというシンプルな構造。重心を移動させることによって曲がることも可能。
さて、このスィーをゆっくりに与えてみよう。

「うわ~!ゆっくりすすむよ!」
「レバーを倒してごらん」
「ゆっくりはやくなってきたよ!まりさはゆっくりしてるけどゆっくりはやいよ!!!」
それから丁寧に操作法を教えると、このゆっくりはどんどん上達していった。
「すぃー♪すぃー♪おにいさんありがとう!ゆっくりさようなら!」
ゆっくりは嬉しそうに巣へと帰っていった。
それから数日間、例の車を巧みに操るゆっくりを何度も見た。操作にも慣れたようで、
かなりのスピードで走行できるようになったみたいだ。

「きょうはみんなでみずうみにいこう!」
「やったー!おりょこうだー♪」
「おみずをのむとすごくゆっくりできるよ!」
行動範囲が広がればちょっと遠出もしてみたくなるもの。今日はゆっくりまりさの提案で、
一家揃っておでかけするみたいだ。自分も影からこっそり見守っておこう。
「ゆ~!ゆっくちはやいね!」
「すぃー!かぜさんがきもちいね!」
初めての乗車におちびちゃん達も大満足だ。
『ゆ~ゆゆ~ゆゆ~♪』
歌を口ずさみながらどんどん森を抜けていく。この坂を下ればもう湖だ。
「おかあさん!ゆっくりはやくなってきたょ?」
「だいじょーぶなのぉ?」
「おかあさんにまかせてね!みんなはゆっくりあんしんしてね!」
そう、このまりさのテクニックならこの程度の下り坂なんでもない・・・はずだった。
実はこの車には少し細工がしてある。今私が持っているボタンを押せばある変化が起きる。
ぽちっとな。

ポロッ
「ゆ~? ・・・まりざのはんどるがぁぁぁ!!!」
なんと突然レバーが外れて落ちてしまったではないか。
「あ゛・・あ゛・・っ!どうじでぇ!?どうじでなぐなっぢゃっだのぉぉぉぉぉ!!!」
「おかあさん!みずうみがみえてきたよ!!!」
「ゆっくりとまってね!」
レバーがなくなればただの台車。ゆるやかに加速して湖がだんだんと迫ってくる。
「も゛う゛・・・、と・・・どま゛ら゛な゛い゛の゛ぉぉぉぉ!!!」
「おみずこわいよ!ゆっくりできなよお゛お゛!!」
「おかーしゃんのうそちゅきっ!あんしんしたけっかがこれだよ!!!」
『いやああああああああああ!!!』

ガッシャーンッ

車は湖の手前で、岩にぶつかり、家族は全員宙を舞った。
(! あれ?おそらをとんでるよ!!!)
そんな能天気な発想もつかの間。
『どうじておみずがしたにあるのぉぉぉ!!??』

バッシャーン

「ゆげぇげぇ!!!だれかだずげでぇ!!!」
「おぼれぢゃう゛!あぶぶb・・・」
「ゆっぐりざぜでぇぇぇ!!!」

やっぱりゆっくりは自然が一番だなぁとしみじみ思いつつ、
私はゆっくりが沈むまでひっそりと眺め続けた。


おしまい




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最終更新:2022年04月11日 00:39