※ゆっくり人間登場します
※ごくごくライトながらHENTAI表現があります
※虐待成分は薄めです
ゆっくりいじめ小ネタ341 ゆっくりになったお兄さんの続きです
※レイパーさんごべんなさい




朝日が差し込む剣道場。

「めーんっ!!」

その凛とした冷ややかな静寂を大きな怒声が打ち破った。
声の主は雪のように白く、滝のように流れる長い髪を揺らす少し小柄な少女。
彼女は目の前に置かれた人形に向かって何度も竹刀を打ち下ろす。

「ゆびゅ!?」
「ゆ、ゆっぐぢぃ・・・ゆぎぃ!?」
「ゆ゛っ・・・!?」

竹刀が朝の冷たい空気を切り裂き、ひゅうと音を立てるたびに悲鳴を上げるのは一匹のゆっくりれいむ。
ゆっくりとはいつの間にか現れた人の顔を模した喋り、動き、増える謎の饅頭である。
科学の常識を一瞬にして覆したその不条理な存在はいまや社会の一部として様々な形で人々の役に立っている。

「いぢゃい!いぢゃいよー!」
「めーーーんっ!!」

例えばさっきからずっと泣き言を口しているこのれいむ。
彼女は今人形の頭部に固定されて身動きが出来ない状態にされている。
れいむを潰さないように竹刀を打ち込む事が剣道の練習としてなかなか効果的なのだ。
特に過剰な打ち込みが減点対象となる試合を意識した練習として人気が高い。

「めーんっ!!」
「ゆびぃ!?やべでね!いづぼのゆっぐぢぢだおねーざんにもどっでね!?」

思いっきり打ち込まれたれいむの額が真っ赤に腫れ上がっていた。
本来なら彼女がこれほどまでに固定されたゆっくりを痛めつけることはない。

「めーんっ!!」
「ゆがっ!?いぢゃいよ!どほぢでこんなごどずるのおおお!?」

全力で振り下ろす。れいむの額には人間で言うところの青あざのようなものが浮かんでいる。
もし、後輩達の下手な打ち込みでゆっくりがこんな状態になっていたら、彼女らを叱っているだろう。

「めーーーんっ!!」
「ゆ゛っ!?」

トドメとばかりに振り下ろされたその一撃はれいむの皮を破った。
彼女の額に出来た断層から少量の餡子が漏れ出し、良く磨かれた床に滴り落ちた。
しかし、少女は手を止めることなく再び竹刀を振り上げる・・・

「よう、部長。珍しく荒れてんな?」
「あ、先生。おはようございます」

が、そう言いながら道場に入ってきた青年、剣道部の顧問に気付いて竹刀を下ろした。
彼女が一礼をする傍らで、れいむは恐怖で実を固くしたままぽろぽろと涙を零している。
青年は少女の礼に軽く手を掲げて応じながられいむのそばまで歩いてゆくと、彼女を人形の頭部から取り外した。

「で、何があったんだ?お前がゆっくりに怪我させるなんて珍しいじゃないか」
「・・・・・・いえ、何でもありません」
「そうか。後片付けは俺がしておくから、早く着替えて教室に戻れ」

彼は基本的に“軽い・ゆるい”と形容される性格の持ち主である。
それでも教師としては様々な面で優秀であり、こういうところで気を効かせられる人物でもある。

「いえ、結構です。片付けくらい自分でします」

もちろん、彼の人となりは剣道部主将である彼女も十分に理解している。
だからこそ気を遣われていることを理解し、意固地になって好意を無碍にするようなことを口走った。
特に今日のように荒れていることを気取られたくない時はなおのこと、である。

「もう始業前だ。生徒(ガキ)は急いで教室に戻れ。でないと俺が怒られちまう」

れいむの額にといた小麦粉を塗りながら時計を指差す顧問。
少女が彼の指の先に目をやると確かに備え付けの時計は朝のHRの5分前を示していた。

「ちーん・・・っ!・・・まずい、遅れちゃう!?」
「・・・ちーん?」
「な、何でもありません!?後片付けお願いします!」

彼女は顔を真っ赤にして、慌しく女子更衣室へと駆け込んでいった。
残された顧問は首をかしげながらものんびりと床を拭き、人形を片付けた。
少女は気付かなかったが教師にも朝礼がある。それに遅れた彼は後ほど教頭にこってりと絞られることになった。




灯りがついておらず、カーテン越しの朝の日差しだけが光源の薄暗い更衣室。
少女は帯を解いて袴を脱いでから自分のロッカーに常備しているタオルで丁寧に汗を拭ってゆく。
色白で、鍛えているわりには細くて柔らかい太ももを、太ももから膝へ、膝からふくらはぎへ、ふくらはぎからつま先へ。

「はぁ・・・」

早朝からの稽古による普段なら心地良くさえある疲労感に包まれながら、彼女はため息をつく。
それは女性特有のあの日だからとか、そういう理由では断じてない。
本人にしか分からない、誰にも相談できない、そしていくら汗を流しても忘れるの出来ない理由があった。

「ゆっくりがお母さんなんて・・・そんなみょんな話あるわけ・・・」

彼女の悩み。それは先日父親の口から明かされた彼女の母にまつわる話だった。
「お前のお母さんはゆっくりみょんなんだ」・・・そんな事を聞かされたときは大いに混乱した。
いやまさか流石にそれはないだろう、常識的に考えて・・・と。
その後にやってきたのは夭折した母をネタにしてたちの悪い冗談を口にする父への怒り。
基本的に温厚な彼女だが、その時ばかりは流石に我慢できずに父を叩きのめた。
しかし、部屋に戻って頭を冷やした彼女の胸に去来したのはその話は事実かもしれないという考え。

「またみょんとか言ってるし・・・」

彼女にはその極めて非常識な可能性を認めざるを得ない要因がいくつかあった。
“みょう”が“みょん”になる奇妙な口癖のほかにも、さっき時計を見た時のように驚くと卑語を口走ってしまったりもする。
それに、時間がないにもかかわらず汗を拭いているのも彼女の特殊性ゆえだ。

「・・・まずい、時間が」

時計を見ると残り時間あと3分。
が、何故か甘い匂いを発する汗を放っておくわけにも行かず、またため息をつきながら道着を脱いだ。
鍛えているわりには細い腕を袖から抜き、道着を袴の上にたたんで置いた。
2枚目のタオルを手にすると顔からうっすらと汗の滲む首筋へ、首筋から方へと力を入れずにタオルを這わせてゆく。
それから、タオルを左手に持ち替えて浮かした右腕を腋、二の腕、肘・・・と指先まで丁寧に拭く。
もちろん左腕も同じように拭き、紺色のスポーツブラに包まれた薄い胸、へそや腰も拭いてから制服を着た。

「よしっ!・・・かな?」

更衣室に備え付けられた鏡でセーラー服に乱れがないかを確認し、自分そっくりの白髪の少女に微笑む。
大丈夫、いつも通りに笑えている・・・これならさっきのように心の乱れを気取られることもないだろう。
それに何処からどう見ても普通の人間だ。万が一にも自分がゆっくりと人間のダブルだと見抜かれることはないだろう。
そう勝手に結論付けると、スカートと長い髪を翻して更衣室を後にした。




「こんにちは、部長」
「あ、こんにちは。部活は?」

6限目の授業が終わり、少女が竹刀を背負ってのんびりと剣道場に向かっていると廊下で背の高い後輩と出くわした。
彼女と同じセーラー服に身を包んだ170cmを超える後輩はセミロングの黒髪と良くも悪くも平均的な顔立ちをした少女。
小柄で線が細く、やや丸顔で童顔に見えるが切れ長の瞳と長い白髪が強烈に人の目を引きつける少女とは好対照の容姿をしている。
が、性格的な面に関してはどちらも真面目で、部活を休むことも遅れることも良しとはしない。

「この前言ってたじゃないですか?今日は先生午後から出張だって」
「きょ・・・!きょ、今日だったっけ、先生の出張?」

出張のことを完全に失念していたため、驚いて「きょせい(去勢)!」と言いそうになったらしい。
とっさの卑語をすんでのところで飲み込んだ彼女は恥ずかしさで頬を朱に染めつつ視線をそらして、話を続けた。
元々透けるように白い肌をしているので、顔色の変化は誤魔化しきれない。

「?」
「な、何?」
「いえ、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫。ゆっくりしてるよ」

首をかしげながら彼女を見下ろす後輩の視線に一歩後ずさるが、幸いにもそれ以上の追求はなかった。
何となく居心地が悪かったので、少女は適当に会話を切り上げて小走りにその場から逃げ出した。
が、しかし・・・

「うわ、雨だぁ・・・」

正面玄関から校外に出ようとしたところで困ったことに雨が降っていることに気付いた。
今のところあまり激しくは降っていないが、いつ雨足が強くなるか分からない。

「参ったな・・・傘持ってきてないよぉ・・・」

そう嘆く彼女の視界に、家路を急ぐ野良の親まりさの帽子のつばに入って雨をしのぐ子ゆっくり達の姿が飛び込んで来た。
「あめさんはゆっくりできないよ」と急ぐ彼女達の姿には余裕こそないものの生きていること自体に満足しているような雰囲気がある。
彼女はゆっくりほどではないが雨に弱く、溶けることはないがふやけてしまうし、長時間雨に当たると簡単に体調を崩してしまう。
これもまた自分のゆっくりと人間のダブルたる所以なのだろうか・・・そう意識した瞬間、また憂鬱な気持ちになってしまった。

「お母さん、か・・・」

視線の先の子ゆっくり達には帽子で雨から守ってくれる母親がいる。
でも自分には・・・母親は既にこの世にいないらしい。
それに今は父親と顔を付き合わせたくない。父親と向き合うと、どうしても母のことが話題に登る気がして彼と向き合うのが怖かった。
もっとも、今仕事中の父をそんな用事で呼び出すつもりなんて、彼女には微塵もないけれど。

「・・・職員室で借りてこよう」

玄関に置かれた公衆電話を見つめながら、そんな自分勝手なことを考えている自分に気付いて少し悲しくなった。
職員室へ行こうときびすを返して歩き出す。が、俯いて歩いていると廊下の曲がり角で男子生徒にぶつかってしまう。
その拍子に盛大に尻餅をついてしまった。

「すぺるまっ!?・・・あ」
「大丈夫か・・・って委員長?いや、すぺる?え?」

男子生徒の胸板にぶつかった鼻を押さえながらも、失言に気付いて顔を真っ赤にする。
しかもぶつかった相手がバスケ部の副部長にして彼女と同じクラスの男子生徒だったために、恥ずかしくて顔を上げられない。
彼の前で座り込んだまま鼻を押さえて俯いている様子は何か酷いことをされたかのように見えなくもない。

「お、おーい、委員長?」
「何?」

もちろん少女は俯いたままであり、男子生徒はいっそう焦る。
このまま逃げるのも廊下でだべっているばつが悪い上に、ずとーっとした視線を向ける廊下でだべっている生徒の視線が痛い。
何か上手いこと誤魔化せる話題はないものかと思案していると、目ざとく彼女が傘を持っていないことに気がついた。

「な、なあ・・・委員長、傘忘れたのか?」
「う、うん。天気予報はちゃんと見たんだけど・・・」
「ああ、アンタ妙なところで抜けてるからな、頭良いのに」

その一言で、目線だけは彼のほうを向いていた少女は再び俯いてしまった。

「あ、ゴメン・・・それより委員長、アンタ雨苦手だろ?」
「う、うん・・・なんで知ってるの?」
「たまに休む時は大体雨の日の後だから、かな。プールにも入ってないみたいだし」
「うん・・・雨、っていうか水に浸かるとすぐに体調崩しちゃうんだ。きっと体が弱いんだよ」

何か言い訳がましいことを口走りながら、彼女は視線を再び男子生徒の顔に向けた。
彼は困ったような表情で苦笑いを浮かべているが、さっきの卑語を訝しがっているような雰囲気はない。
少し安堵した少女はゆっくりと起き上がると、彼に頭を下げた。

「ぶつかってゴメン」
「いや、気にしてないよ。それより俺の傘使う?」
「ううん、悪いよ」
「じゃあ、ぶつかった罰として俺の傘を使え」
「うっ・・・」

そう言うと、男子生徒はバスケ部副部長の名に相応しい巨体に見合ったサイズの傘を少女に押し付け、玄関へと駆けて行った。

「・・・ありがとう」

彼女は少しおかしそうに苦笑を浮かべながら、既にいなくなった彼に向かってお礼を言った。




小柄な彼女には不釣合いの大きな傘に守られてのんびり歩いていると、雨の降りしきる公園にひとつの影を見つけた。
ゆっくりを髣髴とさせる丸っこいシルエットだが、胴体と小さな翼のついた不思議なナマモノ。
先ほどの親野良まりさの子どもを両手に一匹ずつ握り締めて、木の下で喜びのれみりゃダンスを踊っていた。
幸せそうな彼女とは対照的に足元では娘を奪われたまりさが泣きじゃくっている。

「こんにちは、れみちゃん。こんな日にお外にいると風邪引いちゃうよ?それに、拾い食いしたらお腹を壊すよ?」
「うぅ?あ、おねーさんだどぉ!れ・み・りゃといっしょにゆっくりしていくんだどぉ~♪」
「ゆえーん、おかーさぁん!こわいよー!?」「まりしゃもっとゆっくちしたいよー!」
「とってもゆっくりしたおねえさああん!ばりさのあがぢゃんにひどいことずるれみりゃをやっづげでね!?」
「え・・・れみ、りゃ?」

少女は今の今まで気付いていなかった。自分がれみちゃんと呼ぶ童女がゆっくりれみりゃであることに。
もっとも、ゆっくり人間に関する知識はおろか、その存在すら知らなかった彼女が自分の目には胴付きが人間に映ると知る由もない。
ちなみに彼女がれみちゃんと仲良くなれたのはゆっくりにとっては彼女がとても魅力的なゆっくりに映るからだったりする。
が、やはり彼女がそんな事を知っているはずはない。

「・・・ねえ、れみちゃん、あなたゆっくりなの?」
「うぅ?そうだどぉ、れみぃはこーまかんのえれがんとなおぜうさまだどぉ♪」
「おねーさん!はやく、まりさのかあいいおぢびぢゃんをたすけてね!ゆっくりぢちゃったれいむのあがぢゃんなんだよ!?」
「「おかーーしゃあん!?」」

自分の子どもなら自分で助けろ。本来ならばそう言って一蹴するべきところだろう。
しかし、昨日の父親のとんでもない告白で母親というものに対してナイーブになっていた彼女の反応は少し違っていた。

「・・・・・・れみちゃん、その子達をまりさに返してあげて?」

傘を持ったまま、腰を曲げて身をかがめてれみりゃと目の高さをあわせ、微笑む。
れみちゃんがれみりゃである以上それは彼女に飢えろといっているようなものだし、彼女もそれは承知している。
それでも必死に母に助けを求める子ども達を放っておくことができなかった。

「うぅ~・・・おねーさんがそういうんならかえしてあげる~」
「ありがとう、れみちゃん」

ぷぅ、っと頬を膨らましながらもれみりゃは湿った地面に子ゆっくりを投げ捨てる。
目の前の危機から逃れることに成功した子ゆっくりは急いで跳ねてきた親まりさに頬擦りすると、少女にお礼を言ってから逃げていった。
少女は遠ざかってゆく3匹を、姿が見えなくなるまで今にも泣き出しそうな表情で見守り続けた。

「う~・・・おねえさん、きょうはなんかおかしいどぉ?」
「・・・そんなこと、ないよ」
「えれがんとなれみぃになんでもはなすんだどぉ!」

まりさ達が消えてからもしばらく感傷に浸っていた少女の顔を下から覗き込むれみりゃ。
全く隠し通せていない心の乱れを気取られないように顔を背けるが、その動作がれみりゃに彼女の葛藤を確信させた。
うっへん、と肥えた胸だかお腹だかを張るその仕草はどこか笑いを誘うものがある。

「・・・ふふっ、れみちゃんになら話してもいいかな?」
「れみぃはかりすまおはなしあいてなんだど~♪」

彼女がようやく笑顔を見せたのがよっぽど嬉しかったらしく、れみりゃは喜びのダンスを踊り始めた。

「ねえ、れみちゃん、あなたには私は人間に見える?ゆっくりに見える?」
「うぅ?おねーさんはゆっくりだどぉ?」

自分が彼女を人間の子どもと区別できなかった時点でその可能性を疑っていたが、改めて指摘された少女は俯いた。
れみりゃは心配そうに様子を伺っているが、少女にはれみりゃに気を使っている余裕はない。
下から覗き込む下膨れの童女と視線を合わさないように目を逸らしながら話を続けるのが精一杯だ。

「でもね、私のお父さんは人間なんだよ。それにずっと自分のことを人間だと思っていたの・・・」
「うぅ?」

深刻な表情をしている彼女とは対照的にれみりゃは首をかしげている。
その様子を見て少女は「れみちゃんには分からないかな?」と苦笑した。
しかし、れみりゃは首を左右に振りつつ手足をばたつかせ、全身でそれは違うという意思を示す。
そして満面の笑みを浮かべて少女に抱きつくと・・・

「おねーさんがにんげんでもゆっくりでもれみぃのおともだちなんだど~!」

さも当然のことのようにそう言ってのけた。




その日の夜。少女は夕飯のカレーを作り終えて父の帰りを待っていた。
父には辛口を、それから自分用に砂糖をたっぷり入れた超甘口を。
待ちながら、和室で普段剣道場でやっているように正座して一人物思いにふける。

(私は・・・どうしてゆっくりが母親だってことが嫌だったんだろう?)

年頃の彼女にとって男でひとつでここまで育ててくれた自分の父親がHENTAIだったという事実は確かに衝撃的だろう。
それに、自分の母親がゆっくりだと言うことや、その出生の非常識さにも驚かされた。
何より卑語を口にするクセの原因が自分の本質に関わるものであると言うことには軽く目眩すら覚えた。

(けど、本当に辛かったのは・・・)

目を瞑って今日一日の出来事を思い返す。
朝の稽古で半ば八つ当たりをするような格好で酷い目に合わせしまったれいむ。
割れた額から餡子を零す姿は非常に痛々しいものだった。

(あの子には明日ちゃんと謝らないとな・・・)

詳しくは聞いてこなかったが、荒れている自分の心配をしてくれた顧問。
顧問同様に自分の異変を察して、率直に心配してくれた後輩。

(二人にいはちゃんとお礼を言わないとダメだよね)

つい口にしてしまった卑語には何も言わず、自分の体質のことを察して傘を貸してくれた男子生徒。
鈍感な上に色恋沙汰への関心もあまりない少女にとってはただの親切な人に過ぎないのが切ない。

(傘、ちゃんと返さないとね)

何の接点もない、ただ気まぐれに助けただけのまりさと子ゆっくりの一家。
あのまりさはゲスではないようだったがいささか頼りなく見えた。

(あの子、ちゃんと子どもの面倒を見れるのかな?)

自分が何者でも友達だと言ってくれたれみちゃん。
彼女のおかげで、自分の生い立ちにきちんと向き合う勇気が持てた。

(今日、子ゆっくりを諦めてもらったから今度何か持って行ってあげよ)

そして、恋ゆっくりの命を奪ったも同然の自分を十数年間守り続けてくれた父親。
今日は朝から一度も口を利いていなかった。

(お母さんのことを一番聞きたがっていたのは私なのに・・・酷い事しちゃったなぁ)

結局、彼女は万が一自分の正体がばれた時に人間以外の何かとして疎外される事を危惧していただけだった。
流石に自分がゆっくりと人間のダブルであることを公表する勇気はない。
けれど、彼らは自分の正体を知っても多少驚きはしても、最終的には受け入れてくれるだろう。
幸運にも彼女の周りには優しい人が、呆れるくらいのお人好しが大勢いる。

(・・・もう少し皆を信じてみよう)

そう思ったら少しだけ肩の荷が下りたような気がした。




「お父さん、美味しい?」
「ああ、美味いよ」

いつもより少し遅めに帰ってきた父親と一緒にカレーを食べる少女。
彼女は辛口の食べ物が大の苦手なので、味見はしていないが父の様子を見る限りちゃんと作れたようだ。

「ねえ、お父さん?」
「なんだ?」
「お母さんの写真ちょうだい」
「お前・・・」

あんな馬鹿みたいな話を信じてくれるのか?・・・その父親の問いに彼女は照れ笑いで応えた。

「うん。私のお父さんはあんな酷い嘘つかないよ」
「お前・・・」
「・・・ちょっと、泣かないでよぉ」

良い子に育ってくれた、そう思いながら父は感極まって泣き出してしまった。
右手の人差し指と中指で目頭を押さえる彼に少女は近くに転がっていたティッシュを手渡す。
が、父はそれをイカ臭いからと言って拒んだ。

「お父さん、変なもの置きっぱなしにしないでよ・・・」
「わ、悪かった・・・それより母さんの写真だけど、この一枚しかないんだ」

イカ臭いの意味を察して白い目を向ける彼女から顔を背けつつ、父親は一枚の写真を手渡す。
ところどころパリパリになっているその写真には口から白い液体を漏らしたゆっくりみょんの姿が写っている。

「これ、お母さん怪我してるの?」
「いや、それは私の・・・」
「お父さん・・・殴っても良いよね?」
「止めてくれ」

どうしてこんな写真しかないのよぉ、と文句を言いながら写真の硬くなっている箇所を指でなぞった。

「それに・・・どうしてこんなに保存状態が悪いの?」
「それはな・・・私はお前の母親以外ではマスをかけないんだ」
「え?」

悲しいかな、とっさに卑語を口走るクセのせいで卑語に関する知識は豊富だったりする。
それゆえの目年増・耳年増が彼女に彼の言葉の意味を即座に理解させた。

「お父さん・・・これ、返す」
「気にすることはないぞ。彼女の痴態は私の胸の中にしっかり刻み込まれて・・・」
「本当に殴っていい・・・かな?」
「ごめんなさい」

いろんな意味で落胆しながら少女が食器を片付けるついでに手を洗っていると、父親は何も言わずに自分の部屋へ。
そして、彼女が食器を片付け終える頃に黒いヘアバンドを手にリビングに戻ってきた。

「ちゃんと洗っているし、これを汚されるのは嫌がっていたから清潔だ」

そう言って彼が差し出したのは、あのみょんが身に着けていた頭飾り。
写真以外の形見はこれしかないんだ、とばつの悪そうに呟く父の手からそれを受け取った。




「ねえ、似合うかな?」

翌朝、少女が早朝の稽古に行くと普段は朝練に来ない後輩と顧問の青年、そして何故かバスケ部副部長の姿があった。
「バスケ部の朝練のついでに寄った」とは本人の談だが、バスケ部に朝練はない。
それゆえ、彼女から傘を受け取った彼は1時間以上グラウンドを走り続けることになった。
この日、朝風呂上りの彼女が色っぽいことに気付いた彼は毎日早くに学校に来てグラウンドを走ることになる。
数年後、その邪な努力が日課になり、彼の所属する高校のバスケ部をインターハイへと導くことになるのだが、それはまた別のお話。

「可愛いと思いますよ。可愛さ3割増です」

彼と別れてから後輩と一緒に更衣室へ向かい、着替えを終えた彼女は備え付けの鏡で自分の姿を確認する。
それから自分そっくりの黒いヘアバンドをつけた、白髪の少女に微笑んでみる。
自分で言うのもなんだけれど、いつもより3割増くらい可愛く笑えている。
後輩の極め付きも受けた彼女は、紺色の袴と長い髪を翻して更衣室を後にした。

「遅いぞお前ら、早く座れ」

既に着替えて道場でれいむと一緒に待っていた顧問の青年。
向かい合うように2人が正座したのを確認し、短い瞑想を済ませてから威勢よく「礼!」と号令をかけた。
2人とれいむはその号令にあわせて深々と頭を下げた。

「れいむ、昨日はゴメンね?」
「ゆゆっ、だいじょうぶだよ!れいむとってもゆっくりしてるよ!」
「ありがとう」
「でも、きょうはゆっくりうちこんでね!」

分かってるよ、とれいむの頭を撫でながら人形の頭部にれいむを固定する。
そして、竹刀を振り上げれいむの額めがけて振り下ろした。

「ゆびぃ!?い、いぢゃいよぉぉぉおおお・・・」
「え、あれ?」
「どうぢでいぢゃくずるの?!」
「ご、ゴメンね!もう一回、今度はちゃんとするから」
「ゆぅ・・・」

再びれいむと向かい合った少女はゆっくりと竹刀を振り上げ、額めがけて振り下ろした。

「ゆぐっ!?ゆえーん!いぢゃいよー!」
「え、あ・・・あれ?」
「あー、お前・・・変なクセついちゃったみたいだな」

普通はそう簡単につくようなものじゃないんだけどな、と呟く先生。
どうしよう、と白い髪を揺らして困惑する少女に年長者としてアドバイスを授けた。

「フォームを確認しながらゆっくり打ちを繰り返すのが一番だよ」
「それじゃあ・・・れいむを打つのが一番ってことですね?」
「そういうこった」

それならすぐに治る、と安堵す少女と先生と後輩。
そんな彼女達に恨みがましい視線を送りつつ、れいむは心の底から叫んだ。

「れいむゆっぐぢしだいよおおおおおおおおおおお!!」


---あとがき---
ついにやっちゃったよオリジナルゆっくり人間・・・。
SS書いていると一層レイパー氏のあの発想がどれだけ凄いか痛感するんです。
で、ついカッとなってやってしまいました・・・さーせん。

byゆっくりボールマン



みょん娘(中学2,3年生くらい)
髪型:白髪、ロング
(ロングなのは当初のプロットでは最後に母親と同じ髪形になる予定だったから)
体型:やや小柄、胸は薄く全体的に細身
長所:無駄に耳が良い、見た目のわりに力が強い、簡単に怪我を修復できる
短所:驚くと卑語を口にする、水が苦手、ゆっくりに好かれやすい
特技:剣道、というか棒状のものを扱うのが得意。多分ナニも・・・

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最終更新:2022年04月15日 23:39