れいむは空を飛んでいた。
「ゆゆぅ……!おそらをとんでるみたい……!」
 みたい、ではなく実際に飛んでいる。とてもゆっくりしてなどいないスピードで、放物線を描きながら。
 程なく近づいてくる地面。
「ゆっゆっゆー……ゆゆぅ!!??」
 夢見心地から現実へと引き戻され、れいむは叫んだ。
「やめてね!じめんさんゆっくりしてね!!」

「ゆびゅっ!!」
 着地の瞬間、体がはじけ飛ばないよう、あんよに力を込める。
 あんよも大事だが、りぼんも絶対に守らなければならない。ずざざざざーと地面を転がりながらも
 れいむはその二点の急所を優先し守る。土煙を上げて数メートル転がり、停止……
 なんとか一命はとりとめた。
「ゆ、ゆっくり……」
 生き延びたことに安心した瞬間、体中を痛みが襲う。ゆっくり特有のこらえ性のなさでれいむは叫んだ。
「いだいよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!おにーざんどぼぢでごんなごどずるのぉぉぉぉぉ!!!!」
 ぷんぷんと膨れて辺りを見回すが、事の元凶、れいむをいじめ倒した挙句に遠投した虐待お兄さんは影も形もない。
「ゆゆうーーーん!!!ほっぺがいだいよぉぉぉぉ!!!!おりぼんよごれぢゃっだよぉぉぉぉ!!!!」


 そこへ、一人の女性が通りかかった。
「あら。どうしたの、れいむちゃん?」
 この女性、こうして野良ゆっくりを見つけては家にお持ち帰りするので、猫屋敷ならぬゆっくり屋敷となった家に住んでいる。
「ゆーん!ゆ-ん!おにーざんにいじめられたんだよぉぉぉ!!!ゆっぐりできないよぉぉぉぉ!!!」
 まったく無関係の女性にじたばたと騒ぎ立て、不満を言いつのる。まったくゆっくりしていない風情だ。
 しかし女性はそんなれいむを抱き上げるとこう言った。
「かわいそう……私のおうちに来る?」
「ゆゆっ!おねーさんのおうち?」


 広い庭に、さまざまな種類のゆっくりがゆっくりしている。
「今日からうちでゆっくりするれいむちゃんよ。みんな仲良くね」
 女性から紹介され、れいむは皆の前におずおずと進み出、挨拶をする。
「ゆっくりしていってね!」
 たちまち庭はゆっくりしていってねの大合唱。
「ゆ……ゆっくりー!!」

”おねーさん”の家は、それ以前にれいむが居たお兄さんの家とは何もかもが違っていた。
 様々ないたずらを休みなく仕掛けてくるお兄さんと違い、愛情と庇護を惜しみなく与えてくれるおねーさん。
 狭く、ゆっくりできないガラス箱ではなく、ゆっくりした仲間との生活。
 野に生まれ、生活に苦労してきたばかりか虐待お兄さんにとらわれる羽目にもなったれいむにとって、
 それは夢のようにゆっくりした日々だった。


 おねーさんの家に住み始めて数日が過ぎたある日、れいむはそれを思い出した。
「ゆゆっ!!れいむあさだちしなくちゃ!ゆっくりあさだちするよ!」
 おねーさんがそれを聞きとがめた。
「……今なんつった?」




 本能
       by ”ゆ虐の友”従業員




 おねーさんの家の朝は遅い。加えて様々な種類のゆっくりがおり、子ゆっくりの数もかなりの数に上る。
 朝はいつもどたばたしている。
 そのために今まで忘れていたが、『あさだち』はれいむの大切な日課だ。
「れいむ……あさだち、って……何?」
「あさだちはあさだちだよ!!
 れいむのゆっくりしたあさだち、おねーさんゆっくりみていってね!」
 れいむは大きく伸び上がり、おねーさんに向き直る。おねーさんはとっさにれいむを両手で抱え上げ行動を制限した。
「やめてね!ゆっくりはなしてね!れいむあさだちしたいよ!」
「いったい、何を言ってるの……?」
 おねーさんは困惑した。
 今までにも野生のゆっくりを拾ってきたことは何度もあった。しかし、こんな下品な事を言い出すゆっくりなどはじめてだ。
「れいむ……いままではどうだったのかわからないけど、このおうちではあさだちをしてはだめよ?」
「どぼぢで!?」
「それは……その……卑猥だからよ……」
 れいむは反駁する。
「あさだちはゆっくりできるよ!ぜんぜんひわいじゃないよ!
 おねーさんがよっぱらってれいむにすーりすーりするほうがよっぽどひわいだよ!」
「なるほど、すーりすーりはゆっくりの交歓行動……ごめんね、これからはできるだけひかえるから……
 ってそうじゃなくて、こら!暴れないの!とにかくやめて!」
 必死でれいむをつかまえるおねーさん。
 そのとき、それを見ていたほかのゆっくり達が言い始めた。
「れいむばっかりにあさだちはさせないよ!まりさもあさだちするよ!」
「れいみゅもしゅるよ!」
「ありすもとかいはなあさだちしてあげるわ!」
「みょんもあさだちするみょーん!」
「え……え……え……?みんな何言ってるの……?」
 当惑したおねーさんの手から逃れたれいむが叫ぶ。
「みんなゆっくりあさだちするよ!」
 その言葉で、ゆっくり達はおねーさんに向かって整列する。
 ふくれた下腹を突き出すようにして、大きく伸びをする。
「せーの、ゆっくり……」
「やめろゴラアアアアア!!!!!!」


 翌日から、庭とゆっくり部屋にそれぞれ張り紙が張り出された。
<<あさだち ダメ!絶対>>
 あさだち禁止令である。
 どうして家のゆっくりまでもがあさだちなどと言い出したかはわからないが、
 思い込みや他の影響に左右されやすいゆっくりのこと、特別不思議なことでもないのかもしれない。

 原因である元野良れいむも、他のゆっくりも不満顔である。
「どーちてあさだちだめにゃの?」
「あさだちしたいよ!おねーさんあさだちさせてね!」
「ダメよ、ダメダメ」
「ぷっくぅ~!!」
 ほかの面では変わらず優しいおねーさんなのに、あさだちだけは許してくれない。
 そんな日が数日続いた。


 * * * *


 誤解に気がつかない。
 おねーさんもゆっくり達も、
 虐待お兄さんのもとで暮らしたれいむが言う『あさだち』が、ゆっくりの本能に基づいた『朝の挨拶』を意味する言葉であることに気がつかない。
「あさだちしないと……ゆっくりできないよ……」



 * * * *


 おねーさんが目を覚ますと、枕元にゆっくり達が集合している。
「うーん……みんな早いのね……」
「おねーさん」
 れいむが言った。
「れいむはおねーさんだいすきだよ!おねーさんにもゆっくりしてほしいよ!
 だからあさだちするよ!」
「れいみゅも!」
「まりさもだよ!あさだちさせてね!」
「ええい!!うるせーーーー!!」


 おねーさんはそんな毎日に疲れ果て、とうとうある決断をした。
「れいむ、いっしょにお外に行きましょう」
「ゆゆ?」
 あのれいむを一匹だけ連れ、外へとでかける。

 小一時間も歩いたろうか。家から里を突っ切り、一人と一匹は森にいた。
「ゆゆぅーん!!れいむのふるさとだよ!」

 それからさらに歩いたあと、おねーさんが立ち止まった。
「ゆゆ?おねーさんどうしたの?」
「……れいむ、お別れよ。
 もうあなたを家においておくことはできないわ」
「ゆっ?どうして?」
「それは……あなたがあさだちをするから……そればかりか、家のゆっくりに悪影響をおよぼすからよ。
 元気で暮らしてね、さようなら」
 おねーさんはれいむに背を向けて歩き出す。
「おねーさんまって!!おいてかないでね!!」
 れいむは一生懸命飛び跳ねる。
 しかし、人間の歩幅で早足に去っていくおねーさんには追いつけない。
 おねーさんはしだいに駆け足になり、れいむはどんどん引き離されていく。
「おねーさん!まってね!おねーさあああんん!!??」
 おねーさんが本気であることを悟った瞬間、れいむを恐怖が襲った。
 おねーさんの家に来る前、虐待お兄さんに捕らえられる前、確かにれいむは森で生活していた。
 しかし、おねーさんの家の豊かな生活を知ってしまった今、厳しい自然を生き抜く生活に戻れるだろうか。
 天候に、敵に、餓えにおびえ、死と隣り合わせの環境で餌を得る。
「ぞんなのむりだよぉぉぉぉ!!!!」
 おねーさんの背中がどんどん遠ざかる。
「おねーざんおねがい!!!でいぶをおうぢにつれてがえっでぐだざいぃぃぃぃ!!!」
 やがておねーさんは木々の陰にまぎれて、消えた。
「つれてってぇぇぇぇぇぇ!!!おねーざぁぁぁぁぁーーーん!!!」

 なにもかもわからない。
 どうしておねーさんが自分を捨てたのか。
 どうしてあさだちだけを許してくれなかったのか。
 もちろんれいむは朝の挨拶に『あさだち』という呼称を使ったのが自分だなどとおぼえてもいない。
 ましてそれが原因だなどとは理解できるはずもなかった。

 木々が風にざわめいた。れいむはびくっとして身をすくめる。
 あんなにゆっくりしていたのに、いまでは自分だけ。
 おいしいおねーさんのごはんは、もう食べられない。
「ゆああああーーん!!ゆああああーーーん!!」
 れいむは大声で泣いた。泣いて、泣き続けて……
 そのために反応が遅れた。
 草を踏む足音、自分に向かってくる気配。れいむを背後から手がつかむ。
「ゆゆーーーー!!!」
 気づいたときには完全につかまれていた。そのまま持ち上げられる。
「はなしてね!ゆっくりおろしてね!
……ゆ?ゆゆ?」
 しかし、れいむのあんよを掬うように持つ手――
 その手の温もりをれいむは知っていた。掴まれて振り返ることはできないが、れいむは叫んだ。
「おねーさん!ゆっくりしていってね!」



 * * * *



「おねーさん!れいむなんでもするよ!だからおうちにおいてね!」
 引き返してきたおねーさんの手に甘えながられいむは言う。
「それじゃあ……れいむのぺにぺにを処理しましょうね?
 そうしたら、今までどおりおうちでゆっくりしていっていいから」
 ゆっくりとした表情のれいむがたちまち凍りつく。
「……どぼぢでぞんなごというのぉぉぉぉ!!??
 ぺにぺにはかんけいないでじょぉぉぉぉ!!!???」
「関係ないわけないでしょ。
……もとはといえば、れいむがあさだちやめないから悪いのよ。ぺにぺに無くたってすーりすーりできるんだからいいじゃない。
 しーしーだってしないんだし」
「いやだよ!ぺにぺになくなったらゆっくりできないよ!」
「いいえ、取ります。取るったら絶対取るからね」
「おねがいだからゆっくりやめてね!!」
「もう……言うこと聞いてよ……」

(さっき、なんでもするって言ったくせに……)
 この押し問答の中で、おねーさんはれいむへの愛着が急速に薄れていくのを感じていた。
 かみ合わない会話(その遠因は『あさだち』をめぐる齟齬にあるのだが)の繰り返し。
 いくら愛したところで、所詮はゆっくり。
 心が通い合っていると思っていたのは、自分だけではなかったのか――?


 * * * *


 家の庭でれいむをゆっさゆっさとゆする。
「ゆゆゆ!なんだかえもいわれぬきぶんになってきたよ!」
 やがてれいむの腹部から小さな突起が現れる。周囲の他のゆっくりが歓声を上げた。
「れいむのぺにぺに、とってもゆっくりしてるね!」
「れいみゅおねーしゃんしゅごーい!」
 おねーさんは周囲のゆっくりに向けて言葉を放った。
「いーい?あさだちはいけないことなの。あさだちしようとする子は……」
 おねーさんは指でれいむのぺにぺにをつまむ。刺激をうけてれいむのぺにぺにはさらに屹立する。
「ゆゆぅぅぅぅぅ!!!おねーさんすごいよぉぉぉぉぉ!!!!」
 おねーさんは指に力を入れ、
「あさだちする子は、みんなこうデース!!!」
「ゆっ!!
 ゆ……ゆああああああああ!!!!!」
「でいぶぅぅぅぅぅ!!!???」
 一気にぺにぺにを引っこ抜いた。
「みんなゆっくり理解してネー!
 みんなもあさだちすると、ぺにぺにひっこぬいちゃいマース!」
 さらに、れいむのおなかを『おしりぺんぺん』のように叩く。
「悪い子はこうデース!こうデース!こうデース!」
「おねーざんやめでぇぇぇぇぇ!!!!」
「でいぶがいたがってるよ!!!やめてあげてね!!!」
「れいみゅおねーじゃぁぁぁぁーーーん!!!」


 * * * *


 -しばらくの後、おねーさんと友人-

「結局、処置の結果、そのれいむは死んじゃったんだけどね。 
 え?それで残りのゆっくりはどうなったかって?
 そのれいむが居なくなってからもあさだちあさだちってうるさかったから……ほら、その頃の私ってちょうどあれじゃない、
 虐待ビギナーでヘイト入ってたし、泣き叫ぶゆっくりたちの声とか表情とかが私にとってすごく新鮮だったから……
 いろんな方法でむごたらしく制裁しちゃった☆」
「ふーん、そうなんだ」 
「ってなわけで、これが私がこの道に目覚めたきっかけ。
 聞き分けのないれいむのぺにぺにを引っこ抜いたとき、
 なんていうか……その、下品なんだけど……フフ
『勃 起』しちゃいましてね」
「あーわかるー」
「それにしてもあのれいむ、珍しいゆっくりだったわね。
 あれからだいぶゆっくりを見てきたけど、あさだちするゆっくりなんて他に居なかったもの」


 END 

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最終更新:2022年04月16日 22:48