※この作品はfuku4103「都会派ありすの憂鬱」の続きです






とある所にゆっくりありすをペットとして飼っている女性がいた。
その女性とペットのありすは今、一緒に入浴中である。

「ゆゆっゆゆっゆっゆっ♪ ゆゆっゆゆっゆっゆっ♪」

どこで覚えたのか風呂や温泉で定番の鼻歌を歌って上機嫌のありす。
ありすの入浴は、底部に発砲スチロールを搭載したありす専用洗面器に乗って風呂に浮くことだ。
体や髪を洗うのは湯船から出て飼い主の女性がやってくれる。

既にありすは洗い終えており、今は女性が自分の体を洗っている。
女性は体の泡をシャワーで流し終えると、ふと湯船の上でくつろいでいるありすに目をやった。

「ゆゆ~、ゆっくりだわ~」

目をとろんとほそめてゆっくりしているありすを見ていると、ふつふつと何かが女性の内から沸きあがってきた。
思い立ったら即行動。
女性はありすの洗面器に手を伸ばすと、洗面器の端を持って湯船に沈めた。

ドプンッ

ありすの乗った洗面器は、あっという間に転覆。
ありすを湯船の中に放り込んだ。

「ゆばぼごっ、ぶぶべばっ!?」

沈んだありすは突然の事態に混乱している。
一体自分の身に何が起こったのか、今上を向いているのかどうかさえ分からない。
手も足も無いゆっくりは泳ぐことなど出来ない。ただ一切の抵抗も出来ず沈むまま。
慌てて開いた口からは湯がありすの口へとなだれ込む。

そこまで至ってようやくありすは自分が湯船の中に落ちたと理解した。
そして、このままでは溶けて死んでしまうことも即座に理解した。
理解したことで、なおさらなんとか助かろうともがく。口だけ。
そうしてまた更に口に湯がなだれ込むという悪循環。

と、そんなありすの僅かな地獄も、すぐに女性が湯船から引き上げてくれたことで終わりを告げた。

「ごめんねぇ、ありす。つい手が滑っちゃって」
「げほっ、ゆほっ、ゆべべべべ……」

咳き込み、口の中にあったお湯を吐き出すありす。
その顔は死んでしまうのではないかという思いから来た恐怖で泣き顔だ。

ちなみに、手が滑ったという女性の言い分は本当である。
女性はせいぜい、洗面器を傾けて湯が洗面器に入ってきて慌てるありすの様子を見たかっただけだが、つい力加減を誤ってしまったのである。
それでも、良い物が見れたから結果オーライだと内心女性はほくそえんだ。


この時点で女性は既に、自分の内に芽生えたものを既に自覚し、受け入れた。
もちろんそれまでに長い葛藤があったが、恋人に相談したのをキッカケに受け入れることにした。
受け入れることで何かが吹っ切れたのか、ありすの頬をつねるときには既に、女性はありすの困った顔や泣いている顔を見て喜ぶ事や、
そのために自分が手を下す事に抵抗を感じなくなっていた。










翌朝。
平日の朝は女性が仕事で出かけるため、ありすも早起きだ。
体に染み付いた習慣から、もぞもぞと体を捩って覚醒したありすは、

「ゆゆっ!?」

全く身動きが出来ないことに気付いた。
必死で体を揺すったり、その場で跳ねてみたりと試してみるが、まるで体が動かない。
その場で振り向くことすら出来ない。動く度にガタガタと音がするだけだ。
しかし視界は開けている。何時もの通りの部屋がちゃんと見えている。

ありすは突然の事態に困惑して理解できずにいるが、実は女性がありすが寝ている間に、ありすを透明な箱の中に入れたのだ。
ありすは透明な箱を見たことがない。そのために理解は更に遅れた。

「ゆっ!」

ガタガタ

「ゆゆっ!!」

ガタガタガタ

「ゆゆゆっ!!!」

ガタガタガタガタガタガタガタ

「どぼじでうごげないの゛ぉぉぉぉぉぉぉ!?」

ゆーん、と泣き出してしまったありすの背後で、飼い主が無言で身悶えしていた。

「ありす、おはよう。ゆっくり眠れた?」

ありすの困った後姿と声をたっぷり五分堪能した女性は、透明な箱からありすを取り出してやった。

「ゆっ、おねえさん! いまありすとってもゆっくりできなかっ──」
「さぁて、朝ご飯にしようねぇ」
「ゆっ! とかいははゆうがにぶれーくふぁーすとよっ!」

ありすにバレないように後ろから見ていたのだが、やはり顔も見てみたいと思った女性は、次から隠れずにやってみようかと考えつつ、
ありすと自分の分の朝食を用意した。
ありすは先ほどまでの自分への異変を、目先の朝食への楽しみですっかり忘れてしまった。
ゆっくりは目先に楽しいことや嬉しいことがあると直前の事を忘れてしまう傾向がある。これが餡子脳と呼ばれる所以の一つだ。

今日の朝食はフレンチトースト。女性はコーヒー、ありすはオレンジジュース。
女性はコーヒーを飲みながら、テーブルの上でコップに入ったオレンジジュースをストローで、
ちゅーちゅー可愛らしい表情で飲んでいるありすを見てふと何かを思いついた。

ありすがオレンジジュースから口を離して、フレンチトーストをはもはもと口に入れた時を見計らい、瞬時に塩ビンを手に取った。
ビンの蓋を開け、ありすのオレンジジュースにドバッと塩を投入するとストローでかき混ぜ、
すぐさま蓋を閉めて何食わぬ顔で元の位置に戻す。
ありすは砂糖がたっぷりかかったフレンチトーストを食べるのに夢中で、その一連の行動に気付かなかった。

フレンチトーストから口を離し、オレンジジュースのストローに口をつけたありすは、ちゅー、とジュースを吸い上げ

「ゆぶゅ!?」

オレンジジュースを吐き出してしまった。

「なにごれぇぇぇぇぇぇ!? がらい゛ぃぃぃぃぃぃ!!!」
「こぉら、何やってるのありす。ダメじゃない」
「おねえざん、だって、がらぐでゆっぐぢでぎないわ゛ぁぁぁぁぁ!!」
「まったく、何言ってるの。お残しはダメっていつも言ってるでしょ? ちゃんと全部飲みなさいよ?」
「ぞんな゛ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

泣きながらそれはやめて、とお願いするありすの泣き顔を見て喜んでいる自分を自覚しながらも、女性はありすにジュースを全部飲むことを命ずる。
ありすはありすで、女性の事が大好きだし恩義もあるため、イヤイヤながらもジュースを飲んでいく。
あまりの辛さに吐き出しそうになるが、それも我慢して飲み込んでは、ジュースの残量を見て愕然とする。

女性は最後までそれを見て行きたかったが、流石に時間がそれを許さないため、出勤することにする。
ありすに帰ってくるまでにジュースを飲み干してなければお仕置きと言い残し、外へと出て行った。
ありすは塩ジュースを必死に飲むので気付かなかった。女性がありすの昼食を用意していかなかったことに。











「ただいまぁ」

夜、女性が帰宅したのにも関わらず、いつも笑顔で出迎えてくれたありすが来ない。
やっぱりか、と思いながら女性がリビングへと歩を進めると、案の定、そこには空腹でぐったり倒れているありすが居た。

「ただいまぁ、ありすどうしたの?」
「お……おねぇざ……」

ありすは体力の無い体をなんとか動かし、ずりずりと這いずって女性の足元まで来ると、情けない声を絞り出した。

「ありず……おながずいだぁ……どぼじでおひるごはんないの゛ぉ……?」

女性の足に頬をこすりつけ、精一杯のお願いの意を示すありすを見下ろした飼い主は、予想通りの結果に笑みを浮かべていた。
たかが一食抜いたぐらいで何を大げさなと侮るなかれ。ゆっくり、それも甘やかされて育ってきた飼いゆっくりにとって、一食抜くことは大事件だ。
三食も抜けば生死に関わる(と、ゆっくり自身が思う)。

「ありすお腹が空いたのね。分かった、すぐにご飯にするからねぇ」

女性は屈んでありすの頭を撫でながら優しく語り掛けると、すぐさま夕食の準備にかかった。
なぜ昼食が無いのかという説明は一切せずに。
そしてあまりの空腹に思考能力が低下しているありすには、そんな事に気付く余力も無かった。

夕食を食べ、お風呂に入り、女性と普通に遊んでベッドに入る頃には、ありすは今日あったゆっくり出来ないことをすっかり忘れていた。
忘れていただけで、思い出せなくなったわけではないが。






そして更に翌朝。
ありすはいつものように、朝早く目覚めた。
目覚めて、目をあけたのにも関わらず、視界が真っ暗なことに驚愕した。

「……ゆっ?」

顔を動かしてみる。動く。
昨日と違って体は動く。だが、暗い。目の前は真っ暗で何も見えない。

「ゆゆっ、まえがみえないわ!」

ありすは頭と目元に感じる圧迫感とは違い、開放感を感じる口を開きつつも、跳ねたり動き回ったりしてみる。
だが、目の前の真っ暗さは何も変わらない。
一体何が起こっているのか。昨日の朝のような不安を覚えたありすは、気付けば飼い主を呼んでいた。

「おねぇさぁぁぁん、どこぉぉぉぉ!? ありず、まっぐらでなにもみえないぃぃぃぃ!!」

途中からヒステリックな金切り声に近い声になりながらも、不安で泣きそうになるのを堪えるありす。

「おねぇぇぇさぁぁぁぁぁぁぁん!!」

大声で呼んでも、返事は無い。
もしかして自分が喋っているから聞こえないのではないかと思い口を閉じてみるが。

「………………おねぇさん?」

飼い主からの返事は、無い。
代わりに

「ゆっ!?」

ドサッ、と何かが上に乗る音がして、開放感のあったありすの口元まで圧迫感に覆われた。
そして、それまで自由に動けたのが昨日の朝のようにまったく動けなくなってしまった。

「ゆゆゆっ、なにごれっ!! だれぇぇぇぇ!? おねぇざん、どごぉぉぉぉ!?
 ぐらいわっ、ぜまいわ゛っ!! ごんなのどがいはじゃない゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!」

ドサドサリ
更に物が上に乗る音がし、ありすの自由が更に奪われた。
動けば揺らいだありすを閉じ込めている何かが、それによって更に動かなくなった。
それによってありすは、ようやく何に閉じ込められていることを悟った。

「だして、だしてっ! ぐらいっ、ぜまいぃぃぃぃぃ!! おねぇざん、おねぇぇぇざぁぁぁぁぁぁん!!!」

ガタタッ、と常に無いありすの力によって揺れ動くダンボール。
ありすは、寝ている間に女性の手によってダンボールに閉じ込められていたのだ。上から被せる形で。
そして今ダンボールの上には辞典など重いものが何冊も重ねてあり、ありすの自由を奪っている。

ありすの泣き声をたっぷり十分は堪能した女性は、ゆっくりとありすを閉じ込めている辞書とダンボールを取り除いてやる。
ダンボールを取り除いた後には、不安と恐怖で滝のように涙を流しているありすの泣き顔が現れた。
あまりの可愛らしさに女性はありすを抱きしめてしまい、ありすはそんな女性の温もりにようやく安心することが出来た。

「ゆぐっ、えぐっ、おねぇざぁん、ありずごわがっだぁ……」
「はいはい、朝ご飯にしようねぇ」

朝食を食べ終え、今日は忘れずに女性が用意した昼食を確認したありすは、楽しい事があったのにも関わらず嫌な事を忘れることが出来ずにいた。
流石に連日ゆっくり出来ないことが続けば、ゆっくりでもそうなる。
ありすは昨日や一昨日のゆっくり出来ないことを思い出し、それを払拭するかのようにリモコンでテレビを点けた。
楽しい事で嫌な事は忘れよう。

しかし、この程度の悪戯で済めばまだありすは幸福だったろう。
これからありすの日々は、ゆっくり出来る事とゆっくり出来ない事の割合が逆転していく事になる。













夜、女性と一緒に夕食と入浴を終えたありすに、女性が一枚のCDを取り出してこう切り出した。

「ありす。ありすの好きなグループの新曲買ってきたんだけど、聞かない?」
「ゆゆっ! それはとってもとかいはなぐるーぷね! ありすきくわっ!」

ピョンピョンと跳びはねて喜びと同意を示すありす。
女性はそんなありすの笑顔と、これから見れるであろう顔を想像しながら微笑むと、コンポにCDを入れるとヘッドフォンを接続した。
ありすは、いつもは使わないヘッドフォンを疑問に思いながらも、女性がありすにヘッドフォンをつけてくれたの喜びで特に気にしないことにした。
ありすはヘッドフォンが好きだった。何故ならありす曰く「とかいは」だからだ。

女性が再生ボタンを押すと、ヘッドフォンから曲が流れてくる。
ありすは目を閉じて体を揺らしつつ、その音楽に意識を埋没させていく。
だから、ボリューム調節ひねりに女性が手を伸ばすのに気付かなかった。

一気に最大。
手首をぐいっと捻った女性の手により、ありすのヘッドフォンに最大音量が爆発した。

「ゆびぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

突然の爆音にありすは飛び上がった。
体の中のカスタードクリームまで攪拌するかのような轟音にありすは即座にヘッドフォンを投げ捨てたい衝動に駆られたが、

「ゆびゃぁぁぁぁぁぁ!!! うるぢゃいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

手の無いゆっくりでは自由にヘッドフォンを取り外す事が出来ない。
ありすはドタンバタン跳ねながら、なんとかヘッドフォンを取り外そうと暴れる。
そうしてヘッドフォンは外れなかったが、ヘッドフォンの端子がコンポから外れることでありすはようやく大音量から解放された。
女性はヘッドフォンの端子が外れた瞬間、手際良く停止ボタンを押していた。

「ゆぐっ、えぐっ、どぼじでぇ……?」

泣きじゃくるありすを見下ろしながら、女性はふと自分もあの恋人と同じ道に入ってしまったのかぁ、と静かに思ったが、
どうしてこんな楽しい事に今まで気付かなかったのだろうと悔やんだ。
ありすはというと、ここ最近ゆっくり出来ない事が続いたためか、そのままゆっくりと眠ってしまった。

女性はそろそろありすに隠さずにやってみようか、などと不穏な事を考えていた。







翌朝。
最近ありすがゆっくり出来ない朝がやって来た。

ありすは昨日一昨日の朝の様子から、目覚めた後やや周りを警戒してみたが、今日は何事も無いと分かるとほっ、と安心した。
だがその直後に、自分の頭に違和感を覚えた。
何かが、足りないのだ。そう、とってもゆっくりするための何かが。

「ゆゆゆっ、ありずのかちゅーしゃがないわぁぁぁぁぁぁ!!!」

それはありすのカチューシャの不在。
れいむのリボンやまりさの帽子と同じように、ありす種のカチューシャはゆっくりにとって命の次に大事な物だ。
飾りをつけていないゆっくりは、同種からいじめられっ子のような扱いを受ける。
他のゆっくりとの交流が無かったとしても、飾りをつけていないと著しい不快感を覚えるのだ。

「かちゅーしゃは!? ありすのかちゅーしゃはっ!?」

ありすはすぐさま自分のカチューシャを探し始めた。
もしや寝ている間に外れてしまったのかとベッドの回りを探すが、見つからない。
ありすは焦燥感と飾りの無い不快感でどんどん精神的に追い詰められていく。

無い、無い、ありすのカチューシャが無い。
病的なまでの飾りの無い不安感と恐怖と不快感に突き動かされたありすは、雑誌ラックを引っくり返し、新聞ラックを引きずり出し、
CDタワーを崩し、テーブルの上を蹴散らしながら、自分のカチューシャを探した。
あまりにも自分のカチューシャを探すのに夢中になっていたありすは、既に女性が家を出ていることに気付かなかった。
朝食も昼食も準備せずに。

「ありずのかぢゅーしゃ、どごにいっぢゃっだの゛ぉぉぉぉぉ!?」















夜、最近仕事終わりの最大の楽しみになりつつあるありすとの遊びに胸躍らせた女性が帰宅すると案の定、
ありすによって荒らされた部屋が女性の目に飛び込んできた。
ありすの手の届く範囲のありとあらゆるものが家捜しを受けたかのような有様。
ゴミ屋敷もかくやという散らかりぶりに、女性はこの後の片づけをわずらわしく思いながらも、ありすの様子の楽しみが上回った。

「ありすぅ、どこぉ?」

女性がありすを呼ぶと、「ゆっ……」と荒れた部屋の中心からくぐもった声が響いた。
女性は部屋の中心まで進むと、雑誌と新聞で埋まった一角を発掘する。
そこには一日中飲まず喰わずでカチューシャを探し続け、昨日よりも衰弱しきったありすが居た。

「ありす、どうしたの?」

分かっていながらも女性は心配している口調でありすに聞いた。
ありすは既に疲れきった体に鞭打って、小さく言葉を紡ぐ。

「あっ、ありずの……ありずの、かぢゅーしゃが……ない、のぉ……」

もはや流す涙もないのか、声だけ震えているありすの哀れな姿に興奮を覚えた女性は、そのありすの様子を携帯のカメラで撮影する。
そうしてもう少しありすの反応を楽しもうかと思ったが、予想以上にありすが弱っているのを見ると、
冷蔵庫にしまっておいたありすのカチューシャを取り出し、ありすの頭にカチューシャを取り付けてやった。

「ありすの、ありずのかぢゅーしゃぁ……」

弱弱しく安堵の笑みを浮かべるありすの表情を再び携帯のカメラで撮影し、女性は夕食の準備を始める。


弱ったありすのために若干豪華、それもデザート付きの夕食をありすに食べさせた女性は徐々に回復していくゆっくりの単純さに心から感謝した。
そして、食後。

「さて、ありす。これはどういう事?」

女性は悲惨な状況になっている部屋を指差し、若干ドスを効かせてありすを問いただした。
ありすはようやく、自分がしたことの意味を理解すると、小刻みに震えながら、弱弱しい声で弁解を始めた。

「ゆっ、あのね、ありすのね、かちゅーしゃがみつからなかったの。
 あさおきたら、ありすのあたまにかちゅーしゃがなくて、ゆっくりできないから……」
「部屋を荒らしたの?」
「ゆゆゆっ、ちがうわ! ありすはかちゅーしゃをさがしていただけよ!」
「探しただけで、こうなるの?」
「ゆっ、ゆぐぅ……」
「はぁ、何にしても。悪いことをしたありすにはお仕置きしないとね」
「ゆゆっ!?」

お仕置き。
それはありすが女性に飼われ始めた頃頻繁に使われた言葉だ。
女性との生活をするにあたり、やってはいけないことを多く教わり、それを破ったら体で教えるためのお仕置き。
お仕置きが必要なくなって数ヶ月が経ち、もう聞くことがないと思っていたその言葉を聞いて、ありすは更に震えた。

「ゆっ……ゆっくりわかったわ。どんな、おしおきするの……?」
「でもその前にお風呂ね」
「ゆっ?」
「あら、ありす嫌?」
「ゆっ、いやじゃないわ!」
「じゃあ一緒にお風呂入りましょうか」

お仕置きを後回しにするという事を不思議に思ったが、ゆっくり出来ることを拒否するわけもない。
ありすは女性と一緒に気持ちの良い、とてもゆっくり出来る入浴を楽しみ、風呂上りに女性の頬マッサージを受け、
お仕置きの事をすっかり忘れた頃、眠りについた。

女性は、ありすが眠っている間にお仕置きの準備を始める。
すやすやと幸せそうな顔で眠るありすの顔をデジカメで撮影し、これからありすが見せてくれるであろう様々な顔を想像して女性は一人口の端を吊り上げた。













翌朝。
ありすは再び、透明な箱の中で朝を迎えた。

「ゆぅぅぅぅ!! うごげないわぁぁぁぁぁぁ!!」
「あら、ありすお目覚め?」
「ゆっ!?」

ありすが目だけで声のした方に視線を向けると、そこには一人で朝食を食べている飼い主がいた。

「ゆゆっ、おねえさん、どうしてありすといっしょにごはんたべないの!?」
「なんでって、お仕置き」

お仕置き。
女性のその言葉で、ようやく自分はお仕置きを受けなければならない事を思い出した。
部屋は風呂に入る前とありすが寝ている間に女性が既に片付けているため元通りだが、ありすのお仕置きはまだ残っている。

「おねえざん、ごはんはいらないからここからだして!」
「ダーメ、それも含めてお仕置き」
「どぼじでぇ!? こんなおしおきとかいはじゃないわ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
「都会派じゃお仕置きにならないでしょう」

女性はそっけなくそう応えると、さっさと朝食を食べ終え食器を片付けると、出勤の準備を始める。

「おねぇぇぇざぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
「悪いことするありすは、そこでゆっくり反省してね」

バタン、と閉じられる扉。
ありすは透明な箱に閉じ込められたまま、一匹部屋に残される。
それは、ありすが自覚する女性によって行なわれた、これから始まる数多の虐待の始まりの一つ。

「ごべんなざいぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!! あやまる゛がらゆっぐぢだぢでぇぇぇぇぇ!!!」

わんわん泣き喚く透明な箱の中のありすを、一台のカメラが無機質に撮影していた。
長時間撮影可能の、スタミナハンディカムである。









つづく



────────────
あとがきのようなもの

悪戯⇒いじめ⇒そして虐待へ……
新人虐待お姉さんはこれからどんどんエスカレートしていきます


これまでに書いたもの

ゆッカー
ゆっくり求聞史紀
ゆっくり腹話術(前)
ゆっくり腹話術(後)
ゆっくりの飼い方 私の場合
虐待お兄さんVSゆっくりんピース
普通に虐待
普通に虐待2~以下無限ループ~
二つの計画
ある復讐の結末(前)
ある復讐の結末(中)
ある復讐の結末(後-1)
ある復讐の結末(後-2)
ある復讐の結末(後-3)
ゆっくりに育てられた子
ゆっくりに心囚われた男
晒し首
チャリンコ
コシアンルーレット前編
コシアンルーレット後編
いろいろと小ネタ ごった煮
庇護
庇護─選択の結果─
不幸なゆっくりまりさ
終わらないはねゆーん 前編
終わらないはねゆーん 中編
終わらないはねゆーん 後編
おデブゆっくりのダイエット計画
ノーマルに虐待
大家族とゆっくりプレイス
都会派ありすの憂鬱

byキノコ馬
















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最終更新:2022年04月16日 23:19