休日の街の、人通りの少ない路地に薄汚れた一匹の親ゆっくりと、数匹の子ゆっくり達がたむろしていた。
どこからか拾ってきた空き缶を目の前に置き、何やら騒いでいる。
「ゆ~ゆゆっ♪ゆ~ゆゆっ♪ゆゆゆゆ~ゆ~♪」
「「「「「ゆ~ゆゆっ♪ゆ~ゆゆっ♪ゆゆゆゆ~ゆ~♪」」」」」
親ゆっくりが声を上げ、子供達が続く。どうやら輪唱しているようだ。
と、そこに一人の人間の男性が通りかかった。
「君達はこんな所で何をしてるんだい?」
「ゆっ!おうたをうたってるんだよ!!ゆっくりきいていってね!!じょうずだったらおかねをちょうだいね!!」
「「「「「ちょうだいね!!!」」」」」
なるほどストリートミュージシャンの真似事か、と男は納得した。
「分かった。それじゃ早速歌ってくれ」
「ゆっゆっゆっゆ♪ゆ~ゆゆゆんっ♪」
「「「「「ゆっゆっゆっゆ♪ゆ~ゆゆゆんっ♪」」」」」
上手い、等と言えば確実に死後閻魔に舌を抜かれるであろう歌を聞き終えると男は頬を緩ませて、
「なかなかの歌だったよ。それじゃあこれをあげよう」
男はいくらかの小銭が入っている空き缶の中に一万円札を入れた。
「ゆっ!!こんなにくれるの!!おじ…おにいさんありがとう!!!」
「「「「「ありがとう!!!」」」」」
「どういたしまして。それじゃ私はもう行くよ」
「ゆっくりしていってね!!!」
一家は笑顔で男を見送り、再び人が通るのを歌いながら待った。
しばらく経つと別の人間の男性が路地を通りかかった。
「君らはこんな所で何をしてるんだ?」
「ゆっ!おうたをうたってるんだよ!!ゆっくりきいていってね!!じょうずだったらおかねをちょうだいね!!」
「「「「「ちょうだいね!!!」」」」」
なるほどストリートミュージシャンの真似事か、と男は得心した。
「なるほどね。それじゃ少しだけ聞いてみるか。下手だったら払わないぞ」
「ゆっ!みんながんばってうたおうね!!せーの!!」
「ゆ~ゆゆ♪ゆゆ~ゆ~ゆゆ~ん♪」
「「「「「ゆ~ゆゆ♪ゆゆ~ゆ~ゆゆ~ん♪」」」」」
上手い、等と言えば確実に死後閻魔に舌を抜かれるであろう歌を聞き終えると男は眉をしかめて、
「ヘッタクソだなあ。もっと練習しろよ。そんなんじゃ甘いよ」
男は親ゆっくりの顔に唾を吐いて去っていった。
「おかあちゃんになにするの!!」
「ゆっくりあやまってね!!」
「ゆっくりできないおじさんはどっかいってね!!」
「うまいとかへたとかどうでもいいからおかねちょうだいね!!」
「お前唾吐いただろ…汚いな流石軽犯罪法違反汚い」
「みんなそんなこといっちゃだめだよ!!もっとれんしゅうすればきっとおかねくれるよ!!」
男の背中に罵詈雑言をぶつける子供達を、親は必死で宥めながら、再び人が通るのを待った。
しばらく経つと別の人間の男性が路地を通りかかった。
「お前らこんな所で何やってんの?」
「君らはこんな所で何をしてるんだ?」
「ゆっ!おうたをうたってるんだよ!!ゆっくりきいていってね!!じょうずだったらおかねをちょうだいね!!」
「「「「「ちょうだいね!!!」」」」」
なるほどストリートミュージシャンの真似事か、理解は幸せ。
「それじゃ早速歌えよ。おぅ早くしろよ」
「ゆっ!!こんどはじょうずにうたおうね!!せーの!!」
「ゆ~ゆゆゆ♪ゆゆゆ♪ゆ~ゆゆゆ~ゆゆゆっ♪」
「「「「「ゆ~ゆゆゆ♪ゆゆゆ♪ゆ~ゆゆゆ~ゆゆゆっ♪」」」」」
上手い、等と言えば確実に死後閻魔に舌を抜かれるであろう歌を聞き終えると男はニヤリと口を歪めて、
「そんなんじゃあとても金は出せんなぁ。どれ俺が手本を聞かせてやろう」
「ゆっ!!おてほん!?おにいさんありがとう!!ゆっくりきかせてね!!」
「「「「「ゆっくりきかせてね!!!」」」」」
男は軽く深呼吸すると、
「そのふやけたクチビルぅう~♪俺に奪わせてくるぇ~えぇえぇ~♪」
例え死後極楽に行けると閻魔に保障してもらえるとしても、上手い等とは言えない歌声を上げ始めた。合いの手付きで。
「ゆっ!おにいさんおうたじょうず~!!」
「「「「「じょうず~!!」」」」」
ゆっくり親子の賞賛の声を聞きながら男は気持ち良さそうに数分歌い、
「ふぅ、どうだ上手いだろう。歌ってのはこうやって歌うもんだ」
「おじさんすっごくじょうずだね!!きっとぷろのひとなんだね!!」
「「「「「すっごくじょうずだね!!」」」」」
「そうだろうそうだろう。それじゃ、代金を貰おうかね」
「ゆ?」
何の事か分かっていないゆっくり達を尻目に、男は空き缶の中身を全てポケットに入れ、その場を去っていった。
「「「「「…………ゆうぅぅぅぅぅ!!?おかねかえしてえぇぇぇぇぇ!!!」」」」」
人の居ない路地に、親子の素敵な合唱が響き渡った。
作:ミコスリ=ハン
最終更新:2022年04月16日 23:40