※現代設定

作者:名も無き埴輪


「ただいまー、っと……まあ誰も『おかえり』とか言って出迎えてくれたりなんてしないんだけどな。」

男は仕事帰りなのかネクタイを緩めながら手に持った大きめの包みを放り投げた。

「ゆ゛っ!?」
「おっと、起きちまったかな?」

鳴き声からお察しの通り包みの中身はゆっくりだ。
電車の中で騒ぎ出さないように眠らされていたが放り投げた衝撃で目が覚めたようだ。

「ここはどこ? おじさんはゆっくりれいむにおしえてね!!」

包みからもぞもぞと出てきて男に言い放つ。
明日からは念願の連休なので日頃の仕事でのストレスをゆっくりで晴らそうと帰りに買ってきたのだ。

「ここは俺の家だよ。とゆーか俺はまだ『おじさん』なんて呼ばれる歳じゃねぇ。」
「おじさんはおじさんだよ! ここはれいむのゆっくりぷれいすにするよ!!」
「お前、人の話聞いてたか?」

思わず今この場で叩き潰したくなるが新しいゆっくりを買いに行くのが面倒だったので我慢した。
そうだ、楽しみは明日に取っておけばいい。

「ま、騒がれても迷惑だしな……」

虐待お兄さん御用達の透明な箱(防音)にゆっくりを押し込むと食事もそこそこに床に着いた。


「ふぅ、清々しい朝だ。なあ、お前もそう思うだろ?」

連休初日を晴天で迎えた俺は透明の箱に入れられたゆっくりに向かって話しかけたが
防音なのでもちろん中にいるゆっくりには聞こえない。
それどころかまだグースカ寝ている始末だった。

「ゆっくりは早起きだと聞いてたけどな……ほれ、いつまで寝てんだ起きろ!」
「ゆ゛っ!? ここはどこ? おじさんはゆっくりれいむにおしえてね!!」

箱を逆さまにしてゆっくりを床に落とすと昨日も聞いた台詞を吐いてきた。
記憶力ってもんが無いのか? まあ餡子脳だしなぁ。

「だから俺はおじさんなんて歳じゃねーっての。」
「れいむはおなかがすいたよ! おじさんはゆっくりしないでごはんをもってきてね!!」
「相変わらず人の話を聞かない饅頭だな……」
「ゆっ!? れいむはおまんじゅうさんなんかじゃないよ! ゆっくりていせいしてね!! ぷんぷん」

自分に都合のいいことだけ聞きとるようだ。
頬を膨らませてわざわざぷんぷんと口に出してまで
怒ってることをアピールしてくるが正直怖くもなんともない。
そんなゆっくりに対して俺はひとつの提案をする。

「まあ待てれいむ、ひとつゲームをしてみないか?」
「げーむ? げーむってなに? ゆっくりできる?」
「ああ、ゲームってのは遊びのことさ。お前が勝ったら好きなだけ甘いものを食わせてやろう。」
「ゆっ、あまあま!? ゆっくりりかいしたよ!」

よし、乗ってきた。
だがな、お前にだけいい目を見させたりなんてしないさ。

「ただし、俺が勝ったらお前のことを二度とゆっくりできなくさせてやる。」
「どぼじでぞんなごどいうのおおおお!?」

さっきまでの幸せそうな顔から一転凄まじい顔になってやがる。

「お前が勝てば問題ないだろ?」
「ゆ゛っ!? そ、そうだね! おじさんなんかにれいむがまけるわけn……ゆぎぃ!?」

おっと、思わず蹴り飛ばしてしまった。
『ゆひぃ、ゆひぃ』と鳴いているゆっくりの元へと近づきゲームの説明をしてやる。

「これからやるゲームはかくれんぼだ。お前が隠れて俺がそれを探す。
 俺がゆっくり数を数えるからお前はその間に隠れるんだ。
 数え終わったら俺が『もういいかーい?』と大声で聞くから
 お前がまだ隠れ終わってなかったら 『まーだだよー』と大声で返してくれ。
 そしたらまたゆっくり数えるから隠れ終わったら『もういいよー』と大声で教えるんだ。」
「ゆ…ゆぐっ……ゆっぐりりかいしたよ……」

少し苦しそうだったが俺は無視して数を数え始める。
視界を隠して壁に向かって数えていると背後で『ずーりずーり』という声が聞こえた。


「……きゅ~、じゅっ! もういいーかーい?」
「まーだだよー! ゆっくりかぞえてねー!」

何度目のやりとりだろう。
最初は苦しそうだった声も回復したのか元気な声になっていた。

「何か子供の頃に戻ったような気がするな。
 昔は良かったな……おっと、こんなこと言ってるからおじさん扱いされるんだって。」

独り突っ込みしつつ男はまた数を数え始める。

「……きゅ~、じゅっ! もういいーかーい?」
「もーいいーよー!」
「よし、んじゃ探すか。」

実はこのゲームには簡単な攻略法がある。
男が『ゆっくりしていってね!』と大声で言えばゆっくりのことだ、『ゆっくりしていってね!』と
返してくるに違いない。後はその声の発生源を辿ればいいだけだ。

だがそれじゃあつまらない。
ゆっくり相手とはいえ条件はフェアじゃないとな。

「まあここが俺の家だって時点でフェアもくそもないんだがな。」

ゆっくりが隠れそうな場所は目星が着いている。


れいむは自信満々だった。
森に住んでいたころに自分の家の入り口にしたカモフラージュは
他のゆっくりには見つけられないほどの巧妙さだったからだ。

現に今自分が隠れている場所は四方を壁に囲まれていて外の様子が見えない。
少し高めの場所からここに飛び込むことを思いついた自分の頭脳にれいむは酔いしれていた。

だがれいむは分かっているのだろうか。

れいむが今ここにいるのは巣を見つけた人間がショップに虐待用として卸したからだと……。

「見ぃ~つけた~」
「ゆっ!?」

すぐ近くで聞こえたその声にれいむは驚いた。
しかし四方を壁に囲まれているせいで周りの様子は分からない。

「う、うそいわないでね! そんなこといってれいむからでてくるようにしてもむだだよ!!」
「嘘なもんか、ほれ。」

れいむの自慢のおりぼんがくいくいと引っ張られる。
どうやらほんとに見つかってしまったようだ。

「ゆ、ゆぅ~」
「アイディアは悪くなかったが詰めが甘かったな。箱の上からお前のリボンが見えてて丸分かりだったぜ。」

勝ち誇ったおじさんの声が聞こえてくる。

「さて、約束どおり二度とゆっくりできなくさせてもらおうか。」

れいむはもうずっとゆっくりできないであろう自分の残りのゆん生を嘆いた。



大貫さんからのお題『かくれんぼ』
3つ目のお題ですが一番書きやすいお題だったのでこちらを先に。
短くてごめんなさい。

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最終更新:2022年04月17日 00:14