• いろいろおかしいところがあると思うけど気にしないでね



「ゆっくりしていってね!」
「「ゆっくちしていっちぇね!」」

俺が家に帰ると、饅頭に迎えられた。一人暮らしの我が家に何故ゆっくりがいるのか。
理由は簡単、ただ単に戸締りを忘れたからである。
最近はゆっくりの侵入被害が増えているとは聞いていたが、自分のところにはこないだろうと油断していた結果がこれだよ!
ゆっくり達が家に入って来てから間もないのか、あまり家の中で動き回らなかったのか。
どちらにせよ、幸いにも家の中は荒れていなかった。
ゆっくり達の構成は母親と思われるゆっくりれいむが一匹に、赤ん坊のゆっくりれいむとまりさが一匹ずつの合計三匹だ。

「ゆっ! おにいさん! れいむたちのゆっくりぷれいすでゆっくりしていってね!」

親れいむがこちらを向きながら笑顔で言ってくる。心の広いゆっくりなのか、俺を追い出そうとはせず一緒にゆっくりしようと言ってきた。
でもここ俺の家なんだけど。いやまあ戸締りしなかった俺にも非はあるけどさ。
とりあえずその事をわからせるため、親れいむを説得してみるとしよう。

「なあれいむ。ここは俺の家なんだ、悪いけど出ていってくれないか?」

ごたごたするのは面倒なのでなるべく相手を怒らせないよう、優しく穏やかに言う。これで素直に出ていってくれたら俺としても嬉しいんだが。
だがどうやら親れいむは俺を自分の家をのっとりにきた人間だと思ったらしく、笑顔を消して眉を吊り上げた。
そして親子三匹揃ってぷくぅーっと体を膨らませた。いわゆるゆっくりの威嚇である。

「なにいってるの!? ここはれいむがみつけたかられいむのおうちだよ! ぷんぷん!」
「しょーだよ! まりしゃたちのおうちだよ!」
「ゆっくちできにゃいおにいしゃんはでていっちぇね!」

まあそうなるわな。少しとは言え期待した俺が馬鹿だった。
いくら言葉が通じるとは言え、人間とゆっくりは別の生き物だ。考え方も価値観も根本から、それこそ遺伝子レベルで違うのだ。
そんな相手にいくら人間側の常識を説こうが時間の無駄である。

「そうか、出て行く気はないんだな?」
「あたりまえでしょ! ここはれいむたちのおうちなんだよ!」

仕方ない、実力行使に移らさせてもらおう。
ぷくぅーっと膨れる三匹と目を逸らさないようにしながら、部屋に置いてある救急箱へと手を伸ばす。
どうでもいいがこの威嚇で怖がるやつがいるんだろうか。むしろ人間相手には逆効果な気もするが…。
などと考えながら、救急箱からある物を取り出した。ゆっくり達の視線も俺の右手に握られているそれへと移る。

「ゆゆっ!? おにいさん! それはなに?」

親れいむが初めて見るその物体に、恐れ半分好奇心半分という感じで尋ねてきた。
二匹の赤ゆっくりも興味を惹かれたのか、膨れるのをやめてこちらを凝視している。

「これはな、人間が爪を切るときに使う道具さ」

そう、爪切りである。刃と刃の間に爪を挟んでパチンパチンと切り取るあれ。しかも大型サイズのやつだ。
言われてもよくわからないのか、ゆっくり達は三匹とも頭上に?マークを浮かべている。まあゆっくりに爪ないしな。
とりあえず百聞は一見にしかずである。体験してみてどんなものか初めてわかるだろう。
そう思い、油断している赤ちゃんれいむを素早く左手で掴んだ。

「じゃあお前からね」
「ゆっ!?」

突然の事に戸惑う赤れいむ。そして一瞬の出来事に対処しきれなかった親れいむが事態を把握し、再び威嚇を始めた。

「ゆっ! おにいさんははやくおちびちゃんをはなしてあげてね!」
「あげちぇね!」

親れいむに続いて赤まりさもぷくぅっと膨れる。だから意味無いってそれ。
そして当の赤れいむはというと。

「ゆー! おしょりゃをとんでるみちゃいー!」

呑気に的外れな事を言っている。きゃっきゃっと笑顔を浮かべて本当に楽しそうだ。
今は左手は握っておらず、掌を器状にしてその窪みの中に赤れいむがいる状態である。
その様子を見て少し安心したのか、親れいむは少しだけ体の膨らみを小さくした。
俺が遊んであげているとでも勘違いしているのだろうか? もちろん、そんなつもりは毛頭ない。
掌の上で無邪気にはしゃいでいる赤れいむを指でがっちりと掴む。

「ゆっ!? おにーしゃん! うごけにゃいよ! ゆっくちはなしちぇにぇ!」

少し涙目になって抗議してくる赤れいむを無視し、残り二匹に見せつけるように手の位置を調節する。

「さて、じゃあ勝手に人の家に入るとどうなるか教えてあげよう」

そう言って赤れいむの側面に爪切りを押し付ける。すると、ゆっくり独特の柔軟性によって刃と刃の隙間に皮が入り込んだ。
二匹の赤ゆっくりはまだ状況を把握してないようで、よくわからなそうな表情を浮かべているが、
親れいむは何やら危険な雰囲気を感じ取ったらしく、大声で叫び始めた。

「おちびちゃん! ゆっくりしてないでにげてね! なんだかゆっくりできないきがするよ!」

その母の思いが通じたのか、身をよじろうとぐにぐにと体を動かす赤れいむ。でも俺が掴んでるから逃げられないのよ。
さっさと終わらせたいので一気に爪切りを抑えつけた。

パチン

という音が部屋に響く。そして少し遅れて赤れいむの絶叫が続いた。

「ゆびゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! いぢゃいよ゛おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

赤れいむの右側面の皮が一部切り取られ、餡子が露出している。そのまま右の皮が無くなるまでパチンパチンと切り取り続けた。
しばらくすると完全に皮が無くなり、赤れいむの右側は黒一色になってしまった。

「ゆ゛っ…たしゅけちぇ…」
「しねっ! ゆっくりできないおにいさんはゆっくりしないでしんでねっ!」

親れいむが罵声を吐きながら俺の脚に体当たりしてくるが、特にダメージは無い。むしろ適度な衝撃で気持ちいいぐらいだ。
そんな事には気づかずにただひたすらぶつかってくる親れいむ。無駄な努力ご苦労さまです。
赤まりさは涙を流しながら力一杯体を膨らませて威嚇している。
親れいむのマッサージを受けながら、痛みで泣き叫ぶ赤れいむの今度は左側面に同じように爪切りをあてる。
何をされるのかわかったのか、赤れいむはさらに悲鳴を大きくした。

「いや゛っ! もういぢゃいのはいや゛だよっ! だじゅけぢぇおがーーしゃーーん!!」
「ゆっ! まっててねおちびちゃん! いまたすけてあげるからね!」

焦って体当たりの頻度を上げる親れいむ。しかし、回数を増やしたせいか助走が短くなって威力はおちている。
これじゃあ余計に意味がないじゃないか。
そんな親れいむの奮闘空しく、室内に何度目かのパチンという音が響いた。
そして右と同じように左側の皮もどんどんと切り取っていく。

「ゆびぃぃぃぃぃ!? いぢゃい゛よぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「おちびちゃああああああああん!?」

続けて赤れいむの後頭部と頬を削り取り、ピクピクと震えて気絶したところで元の場所へと餡子がこぼれないように優しく戻してやった。
親れいむは俺への体当たりをやめ、急いで赤れいむの元へ駆け寄る。
ほぼ顔面以外の皮が無くなった赤れいむの様子に顔を悲しみに歪ませたが、すぐに看病を始めた。

「おちびちゃん! たいじょうぶだよ! おかあさんがぺーろぺーろしてあげからね!」

ぺーろぺーろと赤れいむの傷口を舐める親れいむ。餡子に舌が触れるたびに赤れいむの体がビクンと反応する。
一瞬"うめっ、これめっちゃうめっ"とか言いだすんじゃないかと思ったがそんなことは無かったぜ。
余程赤れいむの事が心配らしく、ずっと泣きだしそうな顔で傷口を舐めている。
親れいむが看病に夢中になっているその隙に、俺は左手で残った赤まりさを掴んだ。

「ゆぅ!? やめちぇにぇ! まりしゃをはなしちぇにぇ!」

その声でようやく気付いたのか、親れいむがこちらを向く。
事態を把握した親れいむは再び体当たりをしてきた。

「やめてねっ! まりさをはなしてねっ!」

めんどくさくなってきたので足を振り、爪先を親れいむの顔面にめり込ませて蹴り上げる。
ゆびいっ!? というまぬけな悲鳴を上げて、親れいむは床と衝突した。
そしてくらくらとふらつきながら体を起こす。

「おきゃーーしゃーーーーん!!」
「親の心配よりも自分の心配しろよ」

指で赤まりさを固定し、右目に爪切りを押し当てる。
先程姉妹の赤れいむがされたことを思い出しているのだろう、赤まりさの震えが手に伝わってくる。
どうやら親れいむも力の差を理解したらしく、必死に俺に助けを求め始めた。

「おねがいだよっ! がわいいまりざをはなじであげでねっ!」

とりあえず無視してぐっと爪切りに力を加えて押す。すると、刃と刃の間に赤まりさの目が収まった。
ガクガクと震える赤まりさ。それを見た親れいむが涙を流して訴えかけてくる。

「やべでぇぇぇ! そのこはしんだばりざににたとっでもがわいい゛いいこなんでずぅぅぅ!!」
「何だ、お前のつがいは死んだのか?」
「ぞうだよっ! でい゛ぶはしんぐるまざーなんだよっ!」

親が一匹しかいなかったのはそう言う事だったか。どうやらつがいのゴミクズ…じゃない、まりさは死んだらしい。
確かにそれは可哀想だ。片親で子供を育てるのは大変だろう、同情は出来る。
だがそれはそれ、これはこれである。いくらシングルマザーだろうと関係ない。
そう思い、爪切りに力を加えた。

パチン

「ゆあ゛ぁぁぁぁぁぁぁ! まりしゃの゛おめめぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

ぷちゅっと可愛い音を立てて潰れるま赤まりさの右目。
爪切りの間には半分になった白玉が収まっている。

「あ゛あ゛ああぁぁ! おちびちゃんがぁぁぁ!! どぼじてこんなこどするのおぉぉぉ!?」

親れいむが涙を滝のように流しながら訴えかけてくる。
なまじ人の言葉なのが鬱陶しいが、まあこれはこういう鳴き声だと思って無視する。
いちいち動物の鳴き声を気にしていたら屠殺も出来ないのと同じだ。
次は大きく口を開けて泣き叫んでいる赤まりさの舌を爪切りへとセットする。

「ゆひっ!? も、もうやべちぇ…」
パチン
「ぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

舌を切り取られ、まともに悲鳴もあげられない赤まりさ。
これでもう喋ることも出来ないだろう。厄介なおうち宣言も出来ないわけだ。

「ゅゅゅ! ゅー!」
「はっはっは、何言ってるかわかんね」
「おちびちゃんんんんんんん!!」

くりくりとした大きな目から涙を流しながら、必死に何かを言おうとする赤まりさ。だが舌がないのでまともに言葉を話す事が出来ない。
そしてそれを聞いて笑う俺と泣き崩れる親れいむ。見事な対比だ。

「ゅー! ゅー!」
「さて、これぐらいでいいか」

そしてさっきと同じように赤まりさを気絶している赤れいむの隣に優しく置いてやった。
再び急ぎ足でぽよんぽんと心配そうな顔で赤まりさへと跳ね寄ろうとする親れいむ。
今度はそんな彼女を左腕でがっちりととらえて持ち上げる。

「はなしてねっ! おちびちゃんをぺーろぺーろしてあげるんだよっ!」

親れいむがジタバタと暴れる。流石に成体ゆっくりが暴れるとなると片手で持ち上げ続けるのはちと辛い。
そこで親れいむを逆さまにして床に押さえつけた。

「ゆゆっ! てんじょうさんがゆかさんになったよ!」

わけのわからない事を言う親れいむの体を両脇から足でがっちり挟み、身動きできなくする。
そして爪切りのヤスリ部分でその底面をザリザリと削り始めた。

「ゆぎぃぃぃぃぃぃ!? でいぶのあしがあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

体全体が弱点のようなゆっくりの中でも特に弱いのが底面、いわゆる足の部分らしい。
何でも、それなりに頑丈だが足を傷つけてしまったら野生では死に直結するため、本能的な恐怖があるらしい。
そこをザリザリと削り続ける。皮だけ削っているので中身が漏れることはない。

「ゆ゛っ! もうやべでねっ! ひどいこどしないでねぇぇっ!」

底面を丁寧にヤスリがけし終えた後は、そのまま体全体をヤスリで削っていく。
成体ゆっくりともなると、それなりに体が大きいだけあって中々の重労働だ。

「ゆい゛ぃぃぃぃぃぃ!? もうやべでぇぇぇ!! ごめんなざい゛ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

頭頂部以外のヤスリがけを終え、お肌つるつるになった親れいむを赤ゆっくり達の近くに置く。
側面と後部の皮を削られた赤れいむ、右目と舌を切り取られた赤まりさ、表皮を削られた親れいむ。
気絶している赤れいむは別として、残る二匹のゆっくりはもう叫ぶ力もないのか、ゆぅゆぅとその場で声もなく泣いている。
しばらくは放っておいても大丈夫だろうと思い、俺はある物を取りに部屋を出た。

「これと…これだな」

別の部屋で目当ての物を探し出し、再び元の場所へと戻る。数分の事だったのでゆっくり達の様子も変わっていなかった。
戻って来た俺を見て親れいむと赤まりさがビクッと震える。そんなに怖がらなくてもいいだろ。

「さて、いまから君達を治療してあげよう」

そう言って表皮の半分ほどが無くなった赤れいむをひょいっと右手の中に入れる。
その動きで気絶から覚めたらしく、赤れいむは目をぱちぱちとさせた。

「ゆぅ…ここはどきょ…?」

気絶する前の記憶がないのか、やけにのんびりとした声を出す赤れいむ。

「おきゃーしゃんはどきょ…ゆびぃぃぃぃ!?」

しかし、突然悲鳴を上げた。どうやら剥き出しになっている側面の餡子にもみあげが接触して激痛をもたらしたらしい。
よほど痛いのだろう、もみあげをぴこぴこと動かしてのたうちまわる赤れいむ。
だがそんな事をすればするほどもみあげが餡子とぶつかり、更に痛みが増していく。

「いぢゃい゛ぃぃぃぃ!! だりぇかたしゅけちぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「はいはい、ストップストップ」

両側のもみあげを左手の指で挟み、餡子が漏れないよう右手で固定してなんとか落ち着かせようとする。
しばらくすると痛みは治まったようで、泣き叫ぶことはしなくなった。まだゆぐゆぐと泣いてはいるが。
涙で瞳を潤している赤れいむに優しく微笑みかける。

「君は怪我をしているんだ。今かられいむを治療してあげるよ」
「ほんちょ!? おにーしゃんありがちょう!」

パァーっと顔を明るくし、赤れいむはキラキラと目を輝かせた。
どうやらその怪我の原因が目の前にいる人間だという事は完全に忘却したらしい。

「じゃあ少し痛いかもしれないけど、ゆっくり我慢してね」
「ゆっきゅりがまんしゅりゅよ!」

赤れいむを優しく地面に置く。
その時にまたもみあげが餡子に触れたらしく、ゆ゛っという声を上げたが泣き叫ぶのは我慢したらしい。感心感心。
そして俺は用意してきた物の準備をする。
先程別の部屋に取りに行った物、それはロウソクとマッチだ。
さっそくロウソクに火を灯す。それを見ていた親れいむが元気をとりもどしたらしく、赤れいむに向かって叫んだ。

「おちびちゃんにげてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! ゆっくりできないきがするよぉぉぉぉ!!」
「おいおい失礼だな。俺は傷の手当てをしてあげようというのに」
「しょーだよ! おにーしゃんをわりゅくいわにゃいでにぇ!」

赤れいむは完全に俺を信じ切っているらしく、こっちの味方をしてくれた。
そんな赤れいむを左手で摘み、右手にロウソクを持つ。

「さて、始めるぞ」
「ゆっくちりかいしちゃよ!」

ちなみに赤れいむの顔面を手の内側に向けて掴んでいるため、彼女からはロウソクが見えない。
緊張しているのか、微かに震える赤れいむの後部の上にロウソクをセットする。
火のついたロウソクは次第に溶け始め、蝋を流し始めた。
そしてポタリと一滴、赤れいむの露出した餡子の上に落ちる。

「ゆぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? あじゅいよ゛おぉぉぉぉぉぉぉ!!」

露出した餡子に蝋が垂れ、膜を作っていく。こうすることで傷を塞ごうというわけだ。
大分熱いと思うが中身がはみ出すよりはマシだろう。そうしてどんどんと蝋を傷口に落としていく。

「あぢゅっ!? あぢゅいぃぃっ!! たしゅけちぇおかーーしゃーーーん!!」
「まっててねおちびちゃん! いまいくからね!」

親れいむが必死の形相でこちらに向かって跳ねた。ただし、一回だけ。
着地と同時に親れいむは突然大口を開けて叫び始めた。

「ゆぎぃぃぃぃぃぃ!? どぼじでいだいの゛おおぉぉぉぉぉ!?」

ヤスリで削られて薄くなった表皮のため、本来皮が吸収する筈の衝撃を全てダイレクトに体内に伝えていた。
これによって跳ねて動けば激痛が伴う。親れいむはその場で体をくねくねと悶え始めた。
そうしている間にも赤れいむの体に蝋がポタポタと垂れ落とされる。
蝋の殻が頑丈になるように、何度も何度も繰り返し蝋を落として固めていく。

「あ゛じゅっ!! どうちでだしゅげちぇくり゛ぇにゃいのぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「ゆぎっ!? い、いまい゛ぐよっ! そろ゛ーりそろ゛、ゆぎゃぁぁぁぁぁ!!」

跳ねる痛いという事はわかったようで、親れいむは這って移動しようとする。
しかし、それでもやはり普段では考えられないほどの痛みが走る。
ゆっくり達が元いた場所では赤まりさが相変わらずゅーゅーと言っていた。

「あ゛ぢゅっ! だしゅげでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「ぞ、そろ゛ーり…ゆぎっ…そろ゛ーり…ゆびっ!?」

痛みに耐え、涙を流しながら親れいむはこちらへゆっくりゆっくりと這って来た。母の愛は強し。
でも残念、到着する頃にはもう終わっちゃった。無くなった赤れいむの両側面と後部、頬のコーティングが完成。
あとはヤスリで形を整える。

「はい、治療修了」
「ゆ゛ぅ…ゆ゛っ…」
「お、おぢびちゃ…」

肌色と白色の混ざった赤れいむとここまで頑張ってやって来た親れいむ。どちらとも息が絶え絶えである。
そんな二匹をそれぞれ手で掴み、赤まりさの近くに置いてやった。

「ゆ゛ぅぅ! きょわかっちゃよぉぉぉぉぉ!!」
「もうだいじょうぶだよ…! お、おかあさんが、いるからね!」

涙を流してすーりすーりをする親子。親れいむは少し痛そうだが、子供が戻ってきた安心感からか笑顔である。
いつもならこれで赤れいむは泣きやむのだろう。しかし、今回は何か赤れいむの方に違和感があるようだ。
最初はすりすりと笑顔で頬を親に擦りつけていたが、次第に顔に焦りが生じはじめ、最終的にはまた泣き始めてしまった。

「ゆっくち!? ゆっくち!?」
「ゆ゛っ…ど、どうしたの!? おちびちゃん!」

赤れいむは泣きながらすりすりすりすりすりと何度も何度も頬を擦らせる。尋常ではない我が子の様子に親れいむは戸惑うばかりだ。

「ゆえ゛ーーん! しゅりしゅりできにゃいよぉぉぉぉぉ!!」

頬や側面を蝋で固めたため、赤れいむは顔面と頭頂部、底面以外の感触が無くなってしまったようだ。
つまりどれだけ親れいむが頬や体にすりすりしてもそれを感じることはない。

「ゆえ゛ーーーーん! ゆえ゛ーーーん!」
「なかないでね! ぺーろぺーろ!」

すりすりは意味がないと悟ったらしく、親れいむは今度はぺろぺろと赤れいむを舐め始めた。
ずっと眺めててもいいのだが、まだやらなければならないことが残っている。
親れいむが赤れいむに気を取られている隙に俺は赤まりさを掴み上げた。

「ゅー! ゅー!」

身の危険を感じたのか、赤まりさは親に助けを求めようと口を開くが声が出ない。
親れいむも気付く気配は無く、心配そうな顔で赤れいむにぺーろぺーろをしているだけだった。
先程の赤れいむにしたのと同じように、蝋を赤まりさの潰れた右目へと垂らす。

「ぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

赤まりさが大きな奇声をあげ、そこでようやく親れいむも異変に気付いたようだ。
今まで自分の後ろにいた赤まりさの姿を見失っておろおろした後、しばらくして俺の手を見た。いや、真っ先に気づけよ。

「ゅーーーーーーー!! ゅーーーーー!!」
「おちびちゃぁぁぁぁん!?」

自分の体の事も顧みず、こちらへ跳躍しようと親れいむは身を屈めた。
だが未だ泣き続ける赤れいむの声によってその場で踏みとどまる。可愛い我が子の間で板挟みとなってしまったようだ。
親れいむがおろおろしている間に目の修復は完成し、次は舌へと移る。
器用に指で舌を掴み、指にかからないよう慎重に切断された傷口へと蝋を垂らした。

「ーーーーーーーーーーッ!?」

完全に声も出せずに大きな瞳からぽろぽろと涙を流す赤まりさ。そうしているうちにも舌の処置は修了だ。
目と舌をコーティングした赤まりさを家族の近くへと帰してやる。

「ゆえ゛ーーん! しゅりしゅりしちゃいよぉぉぉぉぉ!!」
「だいじょうぶだよおちびちゃん! ほら、ぺーろぺーろ!」
「ゅーーーーーー! ゅゅーー!」
「おちびちゃん! おかあさんがついてるからね! すーりすーり!」

親れいむはこちらに背を向けながら、赤れいむと赤まりさの両方を忙しくあやしている。二匹の子供達はただ泣くしかない。
そんな子供達への対応に右往左往している親れいむの背後へとロウソクを近づけた。そして先端の炎を親れいむのリボンへ着火させる。
パチパチと燃え始めるリボン。だが親れいむはまだ気付かずに子供達をなだめている。

「ゆっ…? なんだかあついよ…?」

しばらくしてようやく違和感に気付いたのか、親れいむは顔をしかめた。
キョロキョロと辺りを見回し、そしてどういうわけか視界に入らない筈の頭上のリボンの異変に気がついたらしい。
もしかして飾りも体の一部なのだろうか。

「ゆ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ!? でいぶのたいせづなおりぼんがあぁぁぁぁぁ!!」

その場でゴロゴロとのたうちまわり、親れいむは火を消そうとする。流石に火事になっては困るので用意しておいた水で鎮火した。
リボンは半分以上が無くなり、残った個所も黒く焼け焦げていた。

「ゆあ゛…ああ…おりぼんが…れいぶの…!」

絶望に顔を歪ませる親れいむ。人間なら悲惨だろうがゆっくりだと何故か滑稽に思えるな。
そして処置の終えた三匹を掴んで家の外へ出る。今回は戸締りも忘れない。
そのまま家の付近に捨てると迷惑がかかるので、近くの山の麓まで連れて行った。

「ほらよ、もう人の家に入るんじゃないぞ」
「ゆぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ゆ゛びぇっ!?」
「ゅぴっ!?」

死なない程度の力で三匹を地面に放り投げる。べちっという音の後、三匹それぞれが悲鳴を上げた。
特に皮の薄い親れいむは情けなく大声で叫ぶ。大人なんだからもう少し我慢しろよ。
これだけ痛い思いをしたならばもう二度と人には近づかないだろう。そう思って俺はその場を後にした。
背後ではいつまでも赤ゆっくり二匹の泣き声と親れいむの我が子を心配する声が響いていた。











生い茂る木々の間を、焦げたリボンを付けたゆっくりれいむがぽよんぽよんと跳ねている。
食料調達の帰りなのだろう、その頬は内側に何かを詰め込んでるように膨れていた。
ゆっくりと慎重に周囲に気を配り、れいむは巣と思われる穴の中へ入った。

「ただいま! いまかえったよ!」
「おかえりなちゃい!」
「ゅー!」

あれから一週間後、れいむ親子は生きていた。
お兄さんが去った後、親れいむは痛む体を引きずりながら何とか山の中に巣を探し出したのである。
親れいむの削られた体は何とか再生し、ほとんど元通りの分厚さとなっていた。
だが流石に焼けたリボンは元には戻らないようで、今も焦げたままである。

「きょうはおいしそうなくささんをたくさんみつけたよ! ゆっくりたべようね!」
「ゆっくちたべようにぇ!」
「ゅゅー!」

親れいむが頬から集めてきた雑草を吐き出し、赤れいむがそれに飛びついた。

「むーちゃむーちゃ、しあわしぇー♪」

嬉しそうに雑草を食べる赤ちゃんれいむ。その姿は数週間前と全く変わっていなかった。
もう一匹の子供であるまりさは既に子ゆっくりと呼べる大きさになっているのにだ。
赤れいむの体の半分以上は相変わらず白い蝋で固められている。これが全く成長していない原因だった。
表皮の大部分が蝋で硬く覆われているため、体が大きくならない。体内の餡子の量も増えないのでずっと赤ちゃんのままだ。
彼女の小さな体と幼い精神はこれからも死ぬまで変わることはないだろう。

「ゅ…ゅ…」

子まりさも雑草を咀嚼する。だがその顔は笑っておらず、むしろどこか影がある。
舌が無くなっているのだから味覚も無い。美味しくも何とも無いのである。
彼女にとって、食事とは自分の欠損を嫌でも自覚してしまう行為になってしまった。
また、草など柔らかいものはなんとか自分で咀嚼することが可能だが、少し硬い虫等になるともう飲み込むことが出来ず、
一度親れいむが噛んで柔らかくした後に口移しで与えていた。そのことも成長した子まりさの自尊心を傷付けて行く。

「ゆっくちおいちかっちゃよ!」
「ゅー…!」

食事を終えた子供達を親れいむは笑顔で見つめる。
その時、巣の外を他のゆっくりが通る気配がし、親子はシンと息をひそめた。笑顔も消え、三匹とも真剣な顔つきになる。
ざっざっという音が巣の入り口付近を通り過ぎて行く。そしてそれと同時に他のゆっくりの話し声が聞こえてきた。

「ゆ! ここにおうちがありゅよ!」
「だめだよおちびちゃん! ここにすんでいるゆっくりはぜんぜんゆっくりできないからね!」
「かかわっちゃだめだよ!」
「ゆっくちりかいちたよ!」

どうやら親ゆっくりが二匹と赤ちゃんゆっくりが一匹の家族であるらしい。おそらく家族で散歩中なのだろう。
わざと聞こえるような声で巣の前を通り過ぎて行く。

「おお、みじめみじめ!」
「おちびちゃんはあんなゆっくりできないゆっくりになっちゃだめだからね!」
「ゆっくちできないゆっくちはゆっくちしんでにぇ!」

ゲラゲラという笑い声と共に遠ざかっていくゆっくり達の気配。
それが完全に感じられなくなる頃になって、ようやく親れいむは息を吐いた。
赤れいむと子まりさはどちらも俯いて涙を流している。

「どうしちぇれいみゅたちはばかにしゃれりゅの…?」

幼く純粋な精神の赤れいむはどうして自分達がのけ者にされるのか全く分かっていない。
喋れはしないものの、思考は普通の子まりさはただゆぐゆぐと黙って泣いている。
この親子は付近のゆっくりから迫害されていた。
ずっと赤ん坊のままのゆっくり、一つ目で喋れないゆっくり、そしてリボンがボロボロのゆっくり。
そんなれいむ親子は周囲のゆっくりからゆっくりできないゆっくりとして扱われた。
故に群れにも入れてもらえず、一家だけで生きていくしかなかった。

「れいみゅ、ゆっくちしちゃいよ…」

赤れいむが俯いて呟いた時、巣の外で強い風が吹いた。ビュウビュウという音が巣の中に響く。
その強風で巣の外で細い枝が折れたのだろう、パキンという音が鳴る。
瞬間、赤れいむと子まりさは涙を流して叫び始めた。

「ゆ゛ぅぅぅぅぅぅ!? い゛ぢゃいのい゛ゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! やべちぇぇぇ!!!」
「ゅーーーー!?」
「ゆゅっ! だいじょうぶたからね! なんともないからね!」

親れいむはが泣き叫ぶ我が子達を必死でなだめる。
子供達はお兄さんの爪切りがトラウマ化し、似たような音を聴くだけでパニックに陥るようになってしまっていた。
赤れいむも一度は忘れたかのようにみえたものの、餡子の奥深くに恐怖が刻まれていたらしい。

「ほーら、すーりすーり」
「ゆ゛ぅぅぅぅ…やべちぇ…ひどいこちょしにゃいで…ゆっぐ…」
「ゅっ…ゅ…」

親れいむのすりすりで子供達はなんとか落ち着いてゆく。
このような事態はこの家族では日常茶飯事に起きていた。

これからこの親子がどうなるのかはわからない。
ただ一つ確実な事は、これから彼女達がゆっくりできることは永遠にないという事だった。

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最終更新:2022年04月17日 00:14