大貫さんからのお題 『制限』





地平線の果てまで緑が続く平原。そこに一人の男が寝ていた。
ただ何をする訳でもなく男は寝ていた。周りに小鳥や鹿などの野生動物が集まろうと、ずっと男は寝ていた。



そこは男が作った世界だった。大地を作り、森を作り、川や野生動物を作った。そして新天地を求めてやってきた
人々には住む場所を与えた。
目的などなかった。しいていえば暇つぶしである。
今までいくつもの世界を作ってきた。長く生きてきた男にとって、こうして自分が作った箱庭を見ていることが
唯一の娯楽であった。



ある日のこと。男はいつも通り寝ていた。
すると、遠くから人の声が聞こえてきた。
ここで聞こえるのは自然の音と野生動物の鳴き声だけである。
人々は男の住む所まで来ることができない。人が男とむやみに接触を持つことは好ましくないからだ。
そして人の声が聞こえたという事は、別な世界から誰かがここへやってきたと言う事である。
男はワクワクしてきた。久しぶりの客人である。


男は声の聞こえる方へ振り向いた。しかし人の姿は見えなかった。
男は怪訝そうな顔で辺りを見回す。やはり人の姿は見えなかった。
ふと視線を下へ向けてみる。
すると、二つのボールがこちらへ向かっていた。


いや、あれはボールなのか?
形はどちらかというと・・・そう、饅頭に近い。
二つ・・・いや二人としておこう。二人がこちらへ近づいてくるにつれて詳しい形状が分かってきた。
左の饅頭は、黒いとんがり帽子を被り、長い金髪を揺らしていた。
右の饅頭は、赤いリボンと耳もとのもみあげ?のようなものをピコピコと動かしていた。


それはこちらへドンドン近づいてくる。
初めて見るよくわからない生物に、周りにいた動物達も驚いて逃げて行った。
      • とりあえずもてなしの準備をするべきなのだろう。流石に客人を何もない平原に置くわけにはいかない。
手をパチンと叩く。すると目の前に、ブルーシートとお茶とお菓子がセットで現れた。
かなりやっつけである。



男がブルーシートの上に座っていると、その二匹がやってきた。
ずいぶんとゆっくり来たものだと男が考えていると


「「ゆっくりしていってね!!!」」


二匹は大声でそう言った。


「はあ、まあどうぞ。お茶でも。」
男は二匹に茶を勧めた。そしてはたと気づく。
この生首のような生命体。構造的に湯呑を持つ事は不可能ではないかと。
慌てて対策を講じようとしたその刹那


「おお、うまいうまい。」
「どちらかというとコーヒーが飲みたいのだぜ?」
黒い方はコーヒーを飲みたがっていた。
男はまた手を叩くと、お茶がコーヒーに変化していた。
黒い方は嬉しそうにそれを飲む。そうして男は自分がこの二匹の名を聞いていない事に気づいた。
「そうえば、君たち名前は?」
「れいむだよ」
赤いリボンの方が答えた。
「まりさだよ!」
黒い帽子の方が答えた。





「それで、ここに移住しに来たのか?なるべく受け入れる方針だけど。」
男が話を切り出した。二匹は2秒ほど沈黙したが、れいむが口を開いた。
「ゆっくりを広めにきたよ!!!」
「ゆっくりの極意を語りにきたんだぜ。ゆっくりはスローだぜ。」
全く訳のわからない発言である。長年生きてきた男も、流石にこの発言には
頭を悩ませざるえなかった。
『ゆっくり』・・・。彼らの言うゆっくりが何なのか全く予想がつかないのだ。
しかし少なくとも害はないだろう。男は直感でそう判断した。


「ふむ・・・まあいいよ。住む所がないなら作ろうか?」
「すぐにここをたちさるよ!」
思わず首を捻ってしまった。しかしその理由をすぐ知る事になる。


「「たべないと・・・・ふえちゃうぞ!!!」」
そういうやいなや、二匹は急に二つに割れた。そして割れた二匹・・・いや四匹はすぐに元の形に戻る。
そしてその行動が平原を埋め尽くすまでしばらく続いた。


赤と黒が平原を埋め尽くした後、元になった二匹であろうれいむとまりさがこちらに近づいてきた。
正直見分けがつかない。


「あたらしいわたしをおいていくよ!」
「ふたりでゆっくりをひろめるたびをつづけるんだぜ! もしかしたらほかのなかまもくるかもしれないから
よろしくおねがいするんだぜ。」

流石に予想外であったが、このくらいがむしろ面白い。男は了承すると
二匹はまたどこかへ旅立った。






俺は頭を抱えていた。
数の多さは正直問題ではない。むしろ問題はこいつらのスペックだ。
ちょっと目を離した隙にドラゴンに変身するわ、高層ビルより大きくなるわ
電車になるわ硬くなるわ覇王翔吼拳を放つわ
はっきりいってスペックが高すぎる。


普通に人間と普通の動物しかいないごく普通の世界に、流石にこのようなオーバースペックの生命体は入れられない。
世界が滅びるのだけは困る。これでも結構真面目に管理してきたのだから。
仕方ない・・・あまりこのような手段は取りたくないのだが



「あー諸君!話がある。」
数万を超えるゆっくり達がこちらを一斉に見た。割とキモい。
「実を言うとだ。このままの状態ではこの世界に居るのは不可能です。
君達が不思議すぎるからです。人間のスペックを上げればいいのですが、ここは先人に合わせるべきだと思っております。」
一匹のぱちゅりーが声をあげた。



「つまりどうするの?
「ステータスを弄ります。ていうかもう弄りました。そこら辺の生物以下に落としました。」
ゆっくり達がガヤガヤと騒ご立てはじめた。まあ急に空を飛べなくなったり変身できなくなったりすればそうだろう。
「こちらで制限をかけます。でも大丈夫。自然の中でゆっくりできる様にこちらで配慮しますので!
さあ、諸君! この世界でゆっくりしていってね!!!」


ゆっくり達は一斉に森へかけていった。











「とまあ、これがこの世界の初期の頃の話かな。」
ここは平原。あの頃と何一つ変わらない平原に、あの男が何一つ変わらずそこに居た。
「ゆゆ! つまりれいむたちはほんとうはにんげんさんよりつよいんだね!」
れいむは目を輝かせながらそう言った。
「おかしいとおもってたんだぜ! まりささまがにんげんよりよわいはずなんてないんだぜ!」
まりさは頬を膨らませ「ぷんぷん」と言いながら怒っていた。本当にどうやってるんだろう。
「まあ俺が制限をかけてるせいだしね。」
男はコーヒー片手にゆったりと椅子に座っていた。


「知り合いの世界に行ったらさ、どうやらそっちにも来てたらしくてね、今じゃあゆっくりが愛でられてる世界になってたよ。」
「ゆぎいいいいいいいいい!!! ずるいよおおおおおおおお!!!」
「まりさたちはまいにちいじめられてるんだよおおおおおおおおおおお!!!」
野生動物以下に性能を制限されたゆっくり。しかし男の配慮でゆっくりする分には問題ないはずだった。
人間が彼らにドス黒い感情を抱かなければ・・・



「それじゃあれいむたちのせいげんをなくしてね!」
「さっさとするんだぜ! まりさたちをいじめたにんげんにしかえしするんだぜ!」
二匹は声を荒げていた。
しかし男は努めて冷静に言った。


「無理。だってもうこの世界はそういう所って評判なんだもの。」
「「ゆがあああああああああ!!! どうじでえええええええええ!!!」」


ゆっくりが現れた後、この世界には沢山の人が移住してきた。
しかし彼らの目的は、ゆっくりに対すねじ曲がった愛情表現であった。
その激しさ故に他から追放された彼らが集まる最後の地。それがこの世界だった。
男は彼らを受け入れた。断る理由も特にない。
そうしてこの世界はゆっくりを虐待する世界となり、結果的にゆっくりを取り囲む多数の派閥の一つになった。
難民を受け入れたこの場所の環境を変える訳にはいかない。
なぜならそれは男の恐れる世界のは破滅に繋がるのだ。



「んじゃ、俺はそろそろ友人のとこに遊びに行ってくるから。それじゃあ。」
男はコートを着ると、そのままふうっと消えていった。
後に残ったのはボロボロの姿のれいむとまりさである。



「おねがいじまずうううううううううううう!!!!」
「ばりざだぢをびずでないでがみざま゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」







「おい、さっきのれいむたちがいたぞ!」
「あーやっと見つけたよ。弱いくせに逃げるんだから。」
「野生で生きられるのが不思議だよなホント。」





【あとがき】
大貫さんへ
遅くなってすみません。
そしてもう一つはもうしばらくお待ちください

by バスケの人

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最終更新:2022年04月17日 01:25