(みんなは呼ばれてないな)

名簿を確認したルカはほっと胸を撫でおろす。

妻のアリスや魔王軍四天王はもちろん、今まで出会ってきた王や村人たち、モンスター娘たちも呼ばれていない。
知り合いがいないのは心細いとはいえ、彼女たちがこんな物騒な催しに巻き込まれていないのはもちろん安心する。
が、それ以上に懸念していたのは彼らによる精力の捕食。
一部例外を除けば、モンスター娘に捕食されても死ぬ訳ではない。大概、足腰が立たなくなるまで精気を搾り取られるだけだ。
ただ、こんな会場で脱力しきればどうなるかわかったものじゃない。
モンスター娘たちの主な食糧は精液であるが、別に普通の食事が出来ない訳でもない。
流石に彼女たちでもこんな異常事態で精の捕食に奔ることは無いと思いたいが...なんにせよ、この会場にいないのは喜ばしいことだろう。

向こうはどうだったのかな、と虎杖へと視線をやる。

「釘崎は大丈夫。あの婆さんの言いなりにはならない」

先ほどまでとはうって変わり、低い声音で返される。

「悠仁...?」
「真人って奴には絶対に気を付けてくれ。たぶん、この会場の中でもかなり危ない奴だ」

その顔は、今までのどこか気の抜けたものではなく。
表には出ていないが、憎悪や怒りといった、それら負の感情に近いモノを醸し出していた。

「あいつは、絶対に俺が"祓う(ころす)"」

言った。いま、虎杖は確かに真人という参加者を殺す、と。
口では祓うと言っていたが、確かにルカには殺すと聞こえていたのだ。

「ルカ、俺は大丈夫だ」

ルカの考えを察したのか、虎杖はそう返した。名簿から目を離さず、ある一点だけを見つめて。

(...それは、どの"大丈夫"?)

冷静だからか、釘崎という人物に相当の信頼を置いているのか―――真人という参加者に対しての怒り恨みが揺らいでいないからか。
ルカも負の感情を糧に戦ってきた男を知っている。
ラザロ。かつて、父・マルケルスと共に魔王を討伐した勇者一行の一人。
彼はかつて仲間を殺された怒りから魔物たちを殺してまわっていた。
手段を択ばず、感情を抑えきれず友であるマルケルスを殺してしまっても止まることができないほどに。

彼だけではない。自分だってそうだ。リリィの過去を知った時、己の境遇と重ね合わせ、感情のままに剣を振るってしまった。
彼女を殺すことはなかったが、あの時の自分が暴走していなかったといえば噓になる。

ルカは虎杖のことを何も知らない。彼の問題は彼だけのものであり、自分が関わるべきではないのかもしれない。

「...あまり、溜め込んじゃだめだよ」

だから、一言だけそう挟んだ。愚痴でもなんでも、受け止めてくれる存在がいるとそれだけで気が楽になるから。

「ありがとな、ルカ」

そんなルカの意図を察したのか、虎杖はようやくルカへと視線を向け、名簿を見る前と同じようにはにかんだ。

「えっと、他に知ってる奴は...ぅえええええ!?」

名簿を最後まで確認した虎杖があからさまなオーバーリアクションで驚きを露わにする。

「信じられねえ...こんなことってあるのかよ!?」
「どうしたの?」
「Dr.ヘルが参加してる!」

Dr.ヘル?とルカの頭に疑問符が浮かぶ。

「悠仁の知り合い?」
「知らないのかよルカ?あのマジンガーZのあしゅら男爵の生みの親、Dr.ヘルだぞ!」
「ま、まじんがー?あしゅら男爵?」

聞きなれない単語にルカはますます困惑を深める。
書籍は当然、魔物でも似たような名前すら思い浮かばない。
そもそも男爵という時点でモンスター娘ではないのだが。

「えっと、そのDr.ヘルっていうのはどんな人なの?」
「機械獣とかブロッケン伯爵とか操ってマジンガーZと戦う悪の天才科学者だ。ルカ、本当に知らないのか?」
「うん。マジンガーっていうのも聞いたことが無くて」
「あー...確かに少し前の作品だからなあ。ルカって俺よりも年下だし知らなくてもおかしくないかも」
「えっ、作品?悠仁の敵とかじゃなくて?」
「えっ」

話がかみ合っていない。
虎杖の世界は呪霊こそ探せばいくらでも見つかるが、基本的に常人は超常現象や世界を狙う敵などとは無縁の世界。
対して、ルカはいまでこそ平和が訪れたものの、人と魔物、はたまた天使が争い、武器の需要も無くなってはいない世界。
二人はその認識の違いを把握していないが、とりあえずは虎杖が大まかにマジンガーZを説明する形で情報の擦り合わせが始まった。

「マジンガーZっていうのは、早い話がロボットモノなんだ。マジンガーに乗る主人公の兜甲児が、世界の平和を守るために悪の科学者Dr.ヘルの仕掛けてくる機械獣と戦うんだよ」
「兜甲児って人は勇者なのかい?」
「勇者?ん、まあ、勇者名乗ってる奴は続編で出てくるんだけど、甲児も平和の為に戦ってるなら勇者みたいなものか。で、このDr.ヘルって奴が中々に曲者でさ。あしゅら男爵を暗躍させたりスゲエ兵器作ったりして世界征服を目指すんだよ」
「...まあ、なんとなく話はわかってきたかな」

兜甲児を勇者としたとき、Dr.ヘルは例えるなら魔王。それもアリスとは違い、世界を支配するのに積極的だという。
ただ、それは作品内の話であり、現実の話ではない、と。

「もしかして実在の人物をモチーフにしていたとか?」
「ナイナイ!マジンガーなんていたら絶対に隠しきれねえって」
「そうなると、神子柴は作品のキャラを現実に呼び出したってことかな」
「あり得ない...とは言い切れねえ」

死んだ人間すら瞬く間に蘇生させるような老婆だ。
二次元のキャラを現実に連れてくることもできるのかもしれない。

「ただ、Dr.ヘルは悪役だけどそこまで戦える奴じゃなかったかな。機械を操るバードスの杖さえなければ簡単に倒せると思う」
「触手とかは出さないのかい」
「出さないと思う。結構ガリガリの爺さんだし、完全に頭で立ち回るタイプだ」
「じゃあ出会ったら力づくで抑え込めば」

ズ ン ッ

いいかな、と続く言葉は、なにかが傍に落下してきた轟音に唐突に遮られた。




「フハハハハハッ!こうも容易くサンプルに出会えるとはなッ!!」




叫ぶ。叫ぶ。
男の叫びが雨音をかき消し大気を震わせる。

身長2mはくだらない、筋骨隆々の身体。
無造作に伸ばし放題の口髭と顎髭、そして髪の毛。そのすべてが老人の白。
そしてなによりも特徴的なのは、見る者を威圧するその恐相と鋭き眼光。

ルカは察する。
この男、ただものではない!

二人は咄嗟に戦闘態勢を取り、来訪者を見据える。

「ホウ、儂を相手に退くどころか立ち向かうか。それでいい、そうでなくては男ではないわッ!!」

老人が叫ぶのと同時、足元のアスファルトを砕かんほどの踏み込みで駆け出し二人との距離を瞬く間に詰め寄る。

「あいつまさか」
「小童共よ!糧になるのを誇りに思うがいい!このワシ」

老人の廻し蹴りをルカが剣の腹で受けるのと同時、虎杖と老人の言葉が重なった。

「「Dr.ヘル!!!」のなッ!!」
「えっ」

受け止めた蹴りの衝撃でルカの身体は地面を転がりながら彼方へと吹き飛ばされる。

その最中、ルカは改めて老人の姿を検める。


身長2mはくだらない、筋骨隆々の身体。
無造作に伸ばし放題の口髭と顎髭、そして髪の毛。そのすべてが老人の白。
そしてなによりも特徴的なのは、見る者を威圧するその恐相と鋭き眼光。

どこからどう見ても、虎杖の齎した頭脳派には見えない。

「話がちが―――」

ドガ、と激しい音と共に背中を打ち付けルカは沈黙する。

「ルカ...ッ!」

思わず吹き飛ばされた先へと視線をやる虎杖。
そのほんの一瞬の間にヘルは虎杖の頸筋目掛けて手刀を浴びせた。
意識が一瞬飛びかける虎杖だが、歯を食いしばりこらえヘルへと肘撃ちを返す。
ヘルが肘撃ちを止めたその瞬間、虎杖の上体が沈み込みヘルの足元へと後ろ廻し蹴りが放たれる。
ヘルは躱さず、両脚にビシリ、と筋が走り虎杖の蹴りを受け止めた。

「む?今ので骨くらいは砕けると思ったが、中々に丈夫な小僧じゃな」

筋肉の壁に蹴りは弾かれるも、虎杖にもこれといってダメージは無し。
間髪入れずに、膝蹴りや拳を交えた徒手空拳でヘルを攻め立てる。

「はああああああ!!」

意識が虎杖へと向いている間に、復帰したルカがヘル目掛けて斬りかかる。
剣と拳の両者同時攻撃だ。

「小 癪 な ッ!!!」

迫りくる剣にも拳にも怖気づかず、ヘルは息を吸い二人を同時に視界に捉えた。

―――機械道空手 豪 雷 怒 清!!

迫る二人の少年をヘルの廻し蹴りが捉え、諸共に吹き飛ばす。
数度転がり地を舐めるも、二人は即座に立ち上がった。

「大丈夫かルカッ!」
「そっちこそ、僕より食らってるんじゃないか!?」
「俺もまだ大丈夫だ!くそっ、このマッチョのどこがDr.ヘルだよ!」
「ホゥ、中々に骨がある小僧共のようじゃな」

フ、ウ、ウ、ゥと息を吐きながら、ヘルは賞賛と共に違和感を抱く。

(ワシの身体のどこがDr.ヘルだ、じゃと?)

ヘルの顔は自ら中継をして宣戦布告した為に、既に世界に知られており、その圧倒的な肉体による殺戮ショーも配信済である。
つまりヘルを知る者はこの肉体を基準としており、老人のようなしわがれた身体が結びつくことは無い。
だが、虎杖は確かにこの肉体にケチをつけた。まるで老人体の自分を見たことがあるかのように。

「小僧...そっちの拳の小僧じゃ」
「俺?なんだよ」
「貴様、ワシの身体に疑問があるようじゃな。儂の身体のどこがおかしい、言ってみろ」
「いや、俺の知ってるDr.ヘルと全然違うし...俺の知ってるヘルってもっとヨボヨボなんだよ」

ヘルはふむ、と髭に手をやり考える。
ヨボヨボのヘル、という概念はヘル自身にも覚えがある。
この肉体を手に入れる前の、研究一筋だった頃の自分だ。勿論、その姿は他者に知らせていない。
虎杖がかつてのヘルの姿を知るのはあり得ないのだ。
気になる。この違和感はいったいなんなのだ?

「よし決めた」

構え、警戒心を露わにする二人とは対照的に、ヘルは無防備に前進し始める。

「休戦じゃ」
「「は?」」

二人の声が重なった。
突然の提案に理解が追いつかず硬直する二人。
そんな二人をあっさり通り抜け、背後にあった家への扉を開ける。

「雨の中で話すことでもなかろうて。ここはひとつ、茶でもシバいて話すとしよう」

一足先に家へと入っていくヘル。
困惑のまま顔を見合わせるルカと虎杖は、ひとまずヘルの後を追って部屋へと足を踏み入れる。
ヘルは既に向かい合わせになるよう座布団を三枚敷き、テーブルを前に胡坐をかいてふんぞり返っていた。

「どうした?早く座らんか」

あまりのヘルのマイペースさに、二人は再び顔を見合わせた。

「ねえ、Dr.ヘルってこんななの?」
「まあ似たようなもんだけど」

先ほどまで殴り合っていた手前、簡単に信用はおけないが、今は闘う気が無いというのは本気のようだ。
このまま逃げてもいいが、それではヘルからの無用な怒りを買うだけかもしれないし、彼が本当に主催から呼び出された二次元キャラであれば主催陣についても聞きたいことはある。
結局、二人には座布団に座る以外の選択肢など残されていなかった。


【E-6/1日目/深夜】


【虎杖悠仁@呪術廻戦】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(小)
[装備]:不明
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない
0:この爺さん、マジでDr.ヘル!?
1:釘崎との合流
2:真人は必ず祓う(殺す)


※参戦時期は渋谷事変直前です。


【ルカ@もんむすくえすと!~負ければ妖女に犯される~】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中)
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない
0:とりあえず話を聞いてみようかな。
1:ひょっとして悠二、僕とアリスのことを知らない?
2:真人って奴が危ないのか
3:虎杖の仲間と合流する。

※参戦時期は原作終了後です
※ルカとその妻・アリスの冒険は物語としてまとめられ、もんくえ世界でベストセラーになっています。




【Dr.ヘル@真マジンガーZEROVS暗黒大将軍】
[状態]:超健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1~3
[思考・行動]
基本方針:戦いに勝利しこの企画の主催にいるであろう兜十蔵をぶち殺す。その後に改めて世界征服に乗り出す
0:自分を知っているという虎杖及びルカと情報交換をする。
1:従来のルール以外にゲームをクリアする方法があれば、兜十蔵の鼻を明かす為にもそちらを優先したい。その為にはまずは首輪を外す。
2:最悪、帆高を死滅させてゲームを次の盤へと進める。

※参戦時期は1万年前にタイムスリップし闇の帝王へと生まれ変わった後。
※アストラルボディは無くなり元のムキムキマッチョに戻っています。

52:世界に打ちのめされて負ける意味を知った 投下順 54:さぐりあう大人たち
時系列順
前話 名前 次話
23:一触即発のち惚気 虎杖悠仁
ルカ
44:そして地獄がやってくる Dr.ヘル
最終更新:2021年08月18日 15:56