弟妹ーーーーーおとうとといもうと。 年下のきょうだい。
精選版 日本国語大辞典より引用。
―――いかないで!
目の前を歩いているのは、兄。
―――いかないで!にーにー!
ひっしに呼びかけているが、兄は振り返らず、前を歩いている。
―――私を、置いていかないで!
兄の姿が闇に消え―――
ガバッ―――
「私を置いていかないで!にーにー!」
沙都子は、叫び声と同時に目を覚ます。
(……ここは?)
気絶をしていたことに気づいた沙都子は、体を起こすと見知らぬ部屋に居ることに気づく……
―――あれは夢?
夢であることにホッとする沙都子だが、夢の内容だけに呼吸は荒く、額から汗が流れる……
「目が覚めたか……」
その声に沙都子は振り向くと―――
顔に大きな傷跡がある男が座っていた。
「あ……あなたは?」
見知らぬ男性に恐る恐る尋ねる沙都子。
「……宮本明だ」
男は低い声で名前を名乗った。
丁度、そのとき―――
『ごきげんよう、皆の衆』
―――御子柴による放送が流れた。
☆彡 ☆彡 ☆彡
御子柴によるクソッたれな放送が終わると明と操作を教えてもらった沙都子は端末で、それぞれ名簿の確認をした。
「ッ!梨花!?」
沙都子は親友の名が記されていることに衝撃が体中に走り―――
「……」
(雅は……いないか。だが、勝っちゃん……それにエロ金剛……)
明は宿敵の名が記されていないことと、仲間の一人である勝次とエロ金剛の名を確認すると、顔を顰める―――
(奴は勝っちゃんと鮫島が仕留めたはず……)
そう、エロ金剛と名がつく吸血鬼は明の仲間たちの鮫島と勝っちゃんこと山本勝次の手で仕留められた筈なのだ。
(あの吸血鬼同様、御子柴に蘇らせられたのか)
目の前の少女を襲っていたユカポンのファンの吸血鬼の存在からエロ金剛も蘇ったのだと理解する。
(まあ、いい。蘇ったのならまた殺すだけだ)
宿敵の雅がこの場にはいないが、蘇った吸血鬼は生かしてはおけない。明はエロ金剛を仕留めることをケツイする。
そう、明は思案していると―――
「……どうした?」
明は先ほど助けた少女の視線に気づくと顔を向ける。
「あ、あの……明さん。もしかして私に服を……?」
沙都子は顔を若干赤らめながらも明に尋ねる。
赤らめるのは無理もない。
なぜなら、気を失う直前、不衛生極まる男にスカートと下着を破られたのだから―――
「……この家のタンスに服と下着があってな。そのままではあれだから悪いが、着替えさせた。……すまなかった」
明は小学生とはいえ、気絶した状態のままの女の子の服を着替えさせた行為に罪悪感があったのか、沙都子に頭を下げた。
「い、いえ!助けていただいた上に服まで探してくださりありがとうございます」
沙都子も明に礼を言うと頭を下げる。
「気にするな。吸血鬼は生かしておけないだけだ」
沙都子のお礼に明はぶっきらぼうに言い放つ。
「……吸血鬼ですの?」
沙都子はあの男の正体を知らされるが、首を傾げる。
しかし、明は沙都子の疑問の様子に気づかず―――
「……そろそろ、俺は行こうと思う」
沙都子が目が覚め、名簿に仲間と生かしていけない吸血鬼の名が記されていると分かった以上、明がこの家に留まる理由はない。
「あの……明さん。よろしければ私も一緒に付いていっても構いませんか?」
沙都子は立ち去ろうとする明に同行の許可を求める。
―――が。
「悪いが、それはできない」
明はその申し出を拒否する。
「ど、どうしてですの?」
明に拒否された沙都子は理由の説明を求める。
「俺は訳あって、東京へ帰らなければならない」
そう、明にはやらなくてはならないことがある。
(……雅)
それは、宿敵を殺すこと。
「幸い、御子柴の言葉が本当なら、隠れたままでも、帰ることが十分可能だ。俺に付いていって命の危険を晒すより安全だ」
明の言い分はある意味間違ってはいない。
なぜなら、御子柴に強要されている殺し合いは特殊である。
いわゆる”最後の1人になるまで殺し合う”ではない。
最悪、隠れたままでも他の参加者が条件をクリアすれば、元の世界へ帰れるのだ。
明としては、帆高が天野陽菜と出会うのを一刻も早く阻止したい。
しかし、この場には、エロ金剛のように欲望のままに行動を起こす者や帆高に共感をして手助けをする参加者もいるかもしれない。
故に足手まといになりえる沙都子を連れていくのは、メリットよりもデメリットの方が遥かに大きい。
明は言い終えると、デイバックを背負い、家の玄関扉に手をかけ―――
「お待ちくださいッ!!!」
それは、意志が込められた静止。
「……」
沙都子の言葉に明は無言で振り返る……
「今の理由を聞く限りでは、私を足手まといだと聞こえますが……こう見えても私、”トラップマスター”と部活メンバーから言われているんですのよ!」
手を胸に当て、沙都子は誇らしげに語る―――
「だから……私が足手まといにならないことを証明すれば、問題ありませんわね?」
その目は部活のゲームを行う時の目。
「何がいいたい」
沙都子の目力を感じ取った明は続きを促す。
「この家……簡単に見たところ、色々な物が置いてありましたわ。私のトラップの腕が疼くほどの」
沙都子は新しいおもちゃに出会い目をキラキラさせる子供の目になっている。
沙都子の言う通り、この家は豪邸のようだ。
何故ならこの部屋にはシャンデリアがある。
「なので、今から私はこの家中にトラップを仕掛けますわ。明さんはそれらを躱しつつ、私の居るこの部屋までたどり着いてかつ私を制圧したら明さんの勝ち。明さんが私のトラップに引っかかり、体のどこかの部位に当たったら私の勝ちでいかがです?」
「だがそのルールだと、お前の部屋までたどり着く前にトラップに引っかかったと判るのか?」
そう、別に審判がいるわけでもない。
明が仮に引っかかったとしても白を切ればいいだけのこと。
「ふふ、明さんがそのような行為をする方なら、私の方が同行拒否しますわ。それに、私の目に狂いがなければ、明さんはそんな真似いたしませんわ」
出会ってまだ数分というのに、沙都子は明を信じているかのようにはっきりと言い放つ。
「分かった。そのゲームに乗ろう。俺が負けたら、好きについてくるといい」
明は沙都子とのゲームに乗ることを承諾する
「……1時間だ。それまでに準「30分で構いませんわ」
明の言葉を遮る沙都子。
その目は自身が溢れる目。
「……わかった。なら30分後、始めよう」
明は乗った。沙都子とのゲームに!
本来なら、その申し出を無視しても問題はないのだが、明は乗ったのだ。
沙都子の目に自分や仲間が持つ”強さ”を感じとったから―――
「ええ。ゲームの……開始ですわ!」
沙都子は部活メンバーに向ける笑みを明に見せた。
☆彡 ☆彡 ☆彡
―――30分後―――
あれから周辺の探索も兼ねて歩いていた明は、沙都子が待つ家の前に戻る。
(……時間だな)
明は時刻を確認すると、家を眺める……
(……)
目の前の横開きの玄関扉に不自然にほんの少し隙間がある。
(……子供騙しだな)
上を見上げると隙間と玄関扉の間に筆箱が挟まっていた。
そして、扉の取っ手には画鋲がびっしりとセロハンテープに留められている。
―――ガラガラ。
明はそれらのトラップに気付くと、出入り口に入る。
―――が、そこで歩みを止める。
(ロープに墨汁か……)
出入り口の前に、ちょうど足首に当たる位置にロープがピンッと張られ、墨汁で満たされた硯が置いてあった。
(なるほど……先ほどのは、囮でこれが本命というわけか)
そう、沙都子が仕掛けていたのは二重トラップ。
如何にも、小学生だと判る見え見えのトラップを避け、安心したと同時にロープに引っかかり、墨汁が服につくといったところ。」
ロープを跨ぎ、硯を避ける。
すると―――
ガラッ―――
音が聞こえると、階段上から無数のボールが落ちてきた。
―――ヒョイ。ヒョイ。
明は落ち着いてボールを躱す。
ボールが跳ね、不規則な動きを見せるが、今まで相手にしてきた吸血鬼達に比べれば可愛い動きだ。
全てのボールを避け、階段を上った。
☆彡 ☆彡 ☆彡
あれから、明は沙都子が仕掛けた幾重にも張り巡らせたトラップを難なく突破した。
―――ザッ。
明は沙都子がいる先ほどの部屋に辿り着く。
(……時間のムダだったか)
明は落胆する。
たしかに小学生にしては手の込んだトラップだった。
しかし、数多の死闘を繰り広げて生き抜いてきた明にとっては生温い。
(また、同じ手か)
沙都子がいる部屋の扉には最初と同じトラップを仕掛けていた。
(もう、ネタ切れということか……)
明は難なく扉を開く。
部屋の目の前には沙都子が立っていた。
「流石ですわね明さん。私のトラップを全て躱してここまで来ますとは」
追い詰められているにも関わらず、沙都子の表情は余裕綽々といった様子だ。
「あの短時間でここまでトラップを準備するとは驚いた。が、悪いが……これで終わりだ」
沙都子とのゲームを終わらすため、明はダッシュで沙都子の肩を掴もうとするが―――
―――パチン。
沙都子の指パッチン。
それに反応したのかなんと、部屋のシャンデリアが落ちてきたのだッ!!!
「!!??」
今まで沙都子が仕掛けてきたトラップとは規模が違う。
流石の明も驚愕して目を見開く。
(私の勝ちですわ)
ダッシュをしたこの状況では、もうこのトラップを避けることはできない。
(もちろん、直撃はしませんわよ)
当然、沙都子はギリギリ当たる寸前で止まるよう仕掛けている。
沙都子は勝利を確信して笑みをこぼす。
―――が
「……正直、舐めていた。俺の義手まで使わせるとはな」
「え!?」
(え?鉈ですの!?)
明の右腕に沙都子はギョッとする。
そう、明は雅との彼岸島での決戦で右腕を失ったが、仲間の吸血鬼の手で仕込み鉈を作ってもらったのだ。
ザンッ―――
シャンデリアは哀れ、まな板の鯉のように真っ二つに斬られ―――
「あう!!??」
「俺の勝ちだ」
沙都子の肩を掴むと、明は勝利宣言を行う。
―――が
「……私の勝ち……ですわ」
沙都子は笑みを浮かべ、同様に勝利宣言を行う。
「……何?」
沙都子の勝利宣言に訝しむと同時に―――
―――パチン
明の背中に輪ゴムがぶつかる。
☆彡 ☆彡 ☆彡
「これで……私の実力認めて下さいますわね?」
明の拘束から解放された沙都子は、胸ほこらしげに言う。
「ああ……俺の負けだ」
明は素直に負けを認める。
「をーほっほっほ!私の力をもってすれば、ざっとこんなものですわー♪」
沙都子は自分の思い描く展開に持って行けたことに大喜び。
「……」
(まさか……”自分”をもトラップにするとはな……)
明は沙都子の決死の行動に感嘆する。
そう、沙都子は自身の拘束までを予測し、明の勝利宣言の油断を突くよう時間で発射される輪ゴム鉄砲を仕掛けていたのだ。
「……約束だったな。ついてきたいのなら好きにしろ」
明は沙都子の同行を許可する。
「ええ、好きにさせてもらいますわ。そ、それと明さん。一つお願いがあるのですが……」
手をもじもじしながら明に願いがあることを伝える沙都子。
「何だ?」
「あ……あの、明さんのこと、もしよろしければ”にーにー”と呼んでも構いませんか……?」
それは、沙都子が明に兄として呼んでいいのかのお願い。
だが―――
「駄目だ」
はっきりとそれを拒絶する明。
「え?」
明の強い拒否に動揺する沙都子。
「もし、俺に兄弟がいなければ、好きに呼べと言っていたかもしれないが、あいにく俺には兄貴が”いた”」
「……!!」
(いた……もしかして……)
明の言い方に沙都子は察する。
明にも”兄”がおり、そしてその兄はもういないということを―――
「俺を自分の兄代わりにしてみろ。”本当の兄”の立場がどうなる」
「!?」
明の指摘に沙都子はハッと目を見開く。
「……俺にとって兄貴は兄貴しかいない。お前もそうじゃないのか?」
明は沙都子の瞳を真っすぐ見つめて問いかける。
「……そうですわね。私の”にーにー”は”にーにー”しかおりませんわ」
憑き物が落ちたかのような表情になる沙都子。
「明さん。先ほどの私の申し出は聴かなかったことにしてくださいませ。そして……改めてよろしくお願い致しますの」
沙都子は明に頭を下げると先ほどの申し出を取り下げる。
「ああ……よろしくな」
言葉と裏腹に沙都子に向ける顔は、とても”優しげ”だった。
こうして、血をつながった”兄”を持つそれぞれの弟妹は、共に帰るために行動を開始した―――
【D-5/1日目/深夜】
【宮本明@彼岸島】
[状態]:健康
[装備]:無毀なる湖光@Fate/Zero
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品1~5(ユカポンのファンの吸血鬼の分も含む)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いに乗る気は無いが、襲って来るなら容赦しない
1:沙都子と行動を共にする
2:森嶋帆高を探し、天野陽菜に会うのを強行する気なら止める。(今の所は帆高を殺すつもりは無い)
3:勝っちゃん・梨花を探す
4:吸血鬼や化け物は殺す(第一目標はエロ金剛)
[備考]
※参戦時期は48日後で蟲の王を倒し、筏で移動してる辺り。
※名簿から勝次がいることを知りました。
※沙都子とは互いについて詳しく情報交換をしておりません。(名前・知り合いのみ)
【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:精神疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]
基本方針:梨花と生きて帰る
0明と行動を共にする
1梨花・勝っちゃんを探す
2明のサポートをする
3そういえば……先ほど吸血鬼と明さんが口にだしていましたが……?
4私のにーにーはにーにーだけ……そのことに気づかせてくださって感謝ですわ……明さん
[備考]
※参戦時期は前原圭一が転校してきて以降のどこか。
※名簿から梨花がいることを知りました。
※明とは互いについて詳しく情報交換をしておりません。(名前・知り合いのみ)
※服が破られたため、明が用意した動きやすい服(外での私服に近い)に着替えております。
最終更新:2021年08月18日 15:28