『うわぁ……えぇ、本当に……?』
突如流れ始めた神子柴の放送の後、タブレットを操作してロックされていた名簿を見始める球磨川。
タブレットは彼の知らないものだが、そこは全ての携帯電話を持つ男。
大して手間取りもせずタブレットを使いこなしていた。
しかし、名簿を確認した彼に待ち受けていたものは、彼を知る者ならおおよそ”らしくない”と思わせるほどの困惑があった。
その理由はこれだ。
海馬瀬人。
あの大人気カードゲームバトル漫画、遊戯王の人気ライバルキャラの名前が名簿にある。
まさか、漫画のキャラクターが同じ殺し合いに参戦しているとは、流石の球磨川禊も思っていなかったのだ。
『いや、いやいや、いやいやいやいやいやいや』
しかしここで球磨川は、それを否定するために必死に首を振る。
別に、彼は常識外の事態に怯えているわけでは無い。伊達に箱庭学園の卒業生ではない。
異常(アブノーマル)に過負荷(マイナス)、悪平等(ノットイコール)。そして言葉使い(スタイル)を知っている彼からすれば、今更何が起ころうが別に気にも留めない。
そして漫画のキャラが具現化しても同じこと。何の懸念もなければ、殺し合いにケリをつけた後で、サインの一つでも貰いに行こうかと思わなくもない。
だがそうもいかない事情がある。
それは、彼のよく知る人外安心院なじみが絡んでくる。
彼女はつい数ヶ月前までシミュレーション仮説を抱き、世界を週刊少年ジャンプに連載されている漫画だと本気で思っていた。
それを彼の仲間が諸々やって解消した、とまでは言えなくとも、それによる自殺衝動は止めることができた。
のだが、ここにきて漫画のキャラの登場だ。
もし、安心院なじみがこの殺し合いを知り、そのせいでもう一度シミュレーション仮説を抱かれた日には、かつての焼き直しだ。
正直、同じことの繰り返すとまでは思っていないが、また何か面倒が起きればやってられない、位は思う。
いくら価値がないから過負荷(マイナス)でも、箱庭学園で過ごしたあの日々は誰にとっても無価値ではないのだから。
『まあ、単に同じ名前なだけの可能性もあるけどね』
球磨川は、さっきまでのちょっと格好いいモノローグを、一瞬で翻して台無しにした。
まあ、デスノートが流行った時は子供に月(ライト)と名付けた親が沢山いたらしいので、同じことが起きてもおかしくはない。
海馬という苗字は現実にある。
そして瀬人なら、普通の名前なので偶然被る可能性もなくはない、かもしれない。
だが彼は過負荷(マイナス)の極致、負完全球磨川禊。
いくら勝利を経験しようとも、本質はどこまでいっても敗者。
望んでも願いなど叶わず、いつだって彼は不幸だ。
故に悟っていた。
海馬瀬人は間違いなく、球磨川禊がかつて読んだ遊戯王の登場人物なのだろう、と。
◆
「ふむ、インテグラはいないか」
神子柴の放送の後、建物内にいるにも関わらず上から降ってきた紙を手に取るアーカード。
そこに書かれた名簿を見て、主の存在がないことを確認した。
とりあえず、同じ殺し合いに巻き込まれているにも関わらず、駆けつけられない従者にはならないと安堵する。
その代わりに違う名前が気になった。
宮本明。
勝次の横にあるこの名前。
彼が語った仲間の名前である。
あの勝次が仲間と認め、無条件に信頼する相手はどんな人間なのだろうか。
アーカードは気になって仕方なかった。
願わくば、己の眼前に立ち、自分を『倒す』為に立ち向かってほしいとすら思っていた。
「だがそうはいかんだろうな」
それと同時に、アーカードは己の願いが叶わないと考えていた。
まず、明が勝次の仲間である以上、彼に手を貸すと言った手前、自分が手を出すわけにはいかない。
仮にアーカードに対し、明が吸血鬼という理由で敵意を向けて来ても、まずは勝次の名前を出し、戦わないように立ち回るのが筋だろう。
流石に、明の方が知ったことかとばかりに襲い掛かって来るのならば話も変わるが、どうにもそうなるような気はしなかった。
「ままならないものだ」
そんな現状に対し、アーカードは思わず笑う。
思い通りにさせてくれない、勝次という少年に焦がれた自分に対しての苦笑だった。
「それに引き換え――」
しかし明の横にある名前を見たとき、アーカードの表情は一変した。
さっきまでの笑みから打って変わって、苦虫を嚙み潰したような顔になる。
ユカポンファンの吸血鬼。
ユカポンという勝次の仲間についての話は聞いていたが、そのファンとは何だろうか。
まあ、勝次の話に聞く吸血鬼なら下らぬ化物でしかない。
出会うことがあれば殺すが、その程度の存在だ。
「ふん」
それでユカポンファンの吸血鬼について思考を打ち切ったアーカードは、紅茶セットに手を伸ばし、お茶を再び入れようとする。
勝次を待つことしか出来ないので、暇なのだ。
ところが次の瞬間
「……ん?」
どこからか、足音が響いていた。
アーカードが音の発生源へと向かうと、そこには上へと続く階段があった。
どうやら、上から誰かが降りてくるようだ。
アーカードは音の主をただ待つ。
やることは決まっている故に。
殺し合いに反目するなら勧誘し、この場で殺しを企む様ならなら排除する。
単なる状況に怯える弱者なら興味もない。どこへなりとも去ればいい。
しかし目の前の人間は只者ではなかった。
外見は黒髪の中肉中背の男。服装もおかしな部分もない。
だがおかしなことに、目の前の男には気配という物がなかった。
目の前にいる筈なのに、何も感じないのだ。
されどそれ以上におかしいのは、眼前の男、球磨川禊が一目見て分かるほどに”弱い”ことだ。
吸血鬼の力などなくとも、おそらくどこに打ち込んでも致命傷。
幼子、下手をすれば昆虫にすら負けそうな程目の前の男は弱者である、とアーカードは確信していた。
でありながら、球磨川はヘラヘラと笑っている。
まるで、それが己だと言わんばかりに。
なりたての吸血鬼が勘違いし楽しむのなら分かる。
あるいは、己の弱さを悲観し嘆くのも見たことはある。
されど目の前の男は違う。
自らの弱さを知りつつも、それに対しての悲観が一切ない。
アーカードはこんな存在を知っている。
ナチスの残党。度し難い戦争狂。
あの狂った大隊指揮官、少佐。
ともすれば、目の前のこいつはそれと同じ存在ではないのか。
「いい夜だな」
『いい夜? 知らないお婆さんに拉致されて、首輪つけられて殺し合えって言われているのに?』
故にアーカードは問う。らしくもなく、問答で相手を見極めようとする。
彼の問いに呆れたように返答する球磨川に大したリアクションもせず、アーカードは語る。
「いい夜だとも。
神に挑む人間がいる。化物に怯まず啖呵を切る小僧がいる。
そんな奴らと出会っただけで、私のような化物からすれば法外の幸福だ」
ここでアーカードは球磨川を睨む。
それも、常人ならばこれだけで気絶しかねないほど膨大な殺気を乗せて。
されど、彼の態度は変わらない。
「貴様はどうだ?
貴様はこの殺し合いをどう動く?
神に挑む森嶋帆高を何を思う?」
『どうって言うなら、そうだね。愚かだと思うよ。
無計画に逃げ出して、好きな子すら守れない弱虫だ』
ここでアーカードは球磨川に対する興味を失いかける。
異様なのはあり方だけで、考えが普通なら、もう興味はない。
ところが――
『でも僕は、弱者と愚か者の味方なんだ。
だから帆高ちゃんと一緒にあの神様を螺子伏せる』
球磨川は、森嶋帆高の味方だった。
のみならず、神すら打倒しようとしていた。
己の弱さを理由に諦めることも無く。
”倒す”為に戦う。”勝つ”為に戦う。
あの少佐とは、違う。
「嗚呼、素晴らしい。
やはり人間は、素敵だ」
アーカードは球磨川の言葉に、素直に感嘆した。
心から、目の前の人間を素晴らしいと思えた。
だがその刹那――
ズガガガガガガガ!!
アーカードは、球磨川によって大量の螺子に串刺しにされていた。
全くそんな空気ではないところからの攻撃だが、特に驚かずアーカードは尋ねる。
「これは何のつもりだ」
『いきなり上から目線で評価されたから、ムカついたからつい』
「それは失礼をしたな。謝罪しよう」
球磨川の常軌を逸脱した物言いを、アーカードは笑って受け入れつつ、彼は一本一本螺子を抜き始めた。
◆
その後、お互い自己紹介をする二人。
そして話はアーカードが車を望んでいる、という方向になった。
自分が吸血鬼故に流水を渡れず、そのせいでこのビルから出られないと理由を説明。
それを聞いた球磨川は思わず大爆笑したが、アーカードはスルーした。
『さて、車なんてあるかな?』
ブツブツ呟きながら、デイバッグを漁る球磨川。
とりあえず一番最初に触れたものを出そうと引っ張るが、出していくにつれて明らかにデイバッグの口より大きいことが分かる。
そして全てが出たとき、球磨川からは車だとしか理解できなかったが、これは警察で使われる護送車である。
だが適当に取り出したせいで、護送車は前輪が高く浮き上がった状態で二人の前に現れた。
これだけなら問題はない。
しかし、この殺し合いの会場においても、重力というものは地球上と同様に働いている。
故に
グシャ
前輪が地上へ向けて落ちていくのは必然であり、前輪の場所に人がいれば潰されるのもまた当然。
球磨川禊は護送車に潰された。
されど
『球磨川禊も舐められたものだぜ。この程度の不幸(マイナス)で、僕を止められると思われてるなんてね』
球磨川はそこにいる。前輪に潰された事実など『なかった』かのように立っている。
これを見ていたアーカードは、思わず問うた。
「それが貴様か。球磨川禊」
『これが僕さ』
アーカードが球磨川禊の異常性を改めて垣間見たものの、護送車自体は受け渡すことになった。
球磨川は運転できず、またする気もない。
それはアーカードも同様だが、彼の場合は運転手のあてがある。
とはいえ、これだけでアーカードは済ませるつもりはなかった。
「礼だ。受け取れ」
そう言って、アーカードはデイバッグからあるものを取り出し球磨川に渡す。
受け取ったものを、球磨川はよく知っていた。
『決闘盤(デュエルディスク)? 僕、今デッキなんか持ってないよ?』
「それは参加者の首輪を探知するレーダーらしい。好きに使え」
アーカードの説明を聞き流しながら、デュエルディスクを腕に嵌める球磨川。
まさかのアイテムにテンションを上げつつも、使用法が単なる探知機と聞いた途端に少しつまらなくなっていた。
ちなみに、アーカードがこれを勝次に渡さなかったことにもちゃんと理由はある。
勝次の性格を考えると、探知した方向に向かいかねず、無駄に危険にさらしかねない。
そう簡単に死ぬとも思っていないが、車を探してほしいアーカードからすれば、一人取り残されるのは御免だ。
故に、車探しに専念してもらうために、彼はデュエルディスクを渡さなかったのだ。
一方、そんな裏事情を知らない球磨川は、これ以上ここに用はない。
『じゃあ、そろそろ行かせてもらうよ』
「そうか。ならばさらばだ、人間」
『ばいばい、吸血鬼』
それだけ言って、ビルの外へと去っていこうとする球磨川を、アーカードはただ見送る。
負完全の戦場に、吸血鬼の入る隙間はどこにもないのだから。
【B-6 ビル内部/一日目/深夜】
【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]:健康
[装備]:デュエルディスク@遊戯王
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:『帆高ちゃんを全面的に応援(バックアップ)する』
1:『決めてるんだ。こういう状況では一番弱い子の味方をするって』
2:『さあて、どこに行こうかな』
3:『吸血鬼程度でビビる僕じゃないぜ』
4:『とはいえ、まさか海馬瀬人がいるなんて、流石の僕も驚きだよ』
※参戦時期はグッドルーザー球磨川 完結編終了後です。
※首輪を『なかったこと』にはできません。
その他の制限は次の人にお任せします。
※2010年までのジャンプ作品の知識があります。その為、該当する作品の参加者について知っている可能性があります。
現時点では海馬瀬人にしか気づいていません。他の該当キャラについて、知らないのか今は気付いていないだけなのかは次の書き手氏にお任せします。
また、2011年以降のジャンプ作品、または連載にて登場したキャラについての知識はありません。これは2016年公開の劇場版遊戯王についても同様です。
【アーカード@HELLSING】
[状態]:健康
[装備]:紅茶セット
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:勝次に力を貸す。
0:勝次の帰りを待つ。
1:球磨川禊。中々面白い男だったな
2:森嶋帆高、宮本明にも会ってみたい
※シュレディンガーを取り込んだ直後から参戦です
※取り込んだシュレディンガーは排除され、代わりにある程度の命の残機が入れられています。
※雨(流水)を素で渡れません。
※ロリカードにはなれます。
※護送車@DEATH NOTE は彼の近く置いてありますが、乗っていません。
【支給品紹介】
【護送車@DEATH NOTE】
球磨川禊に支給。
被疑者を警察署や裁判所に運ぶための警察車両。
デスノート本編においては、夜神総一郎が第二のキラのビデオテープを回収するために、さくらテレビへ突入した時に使った車両である。
【デュエルディスク@遊戯王】
アーカードに支給。
原作遊戯王バトルシティ編に登場した、デュエルモンスターのカードをソリットビジョンで映し出す機械。置けるカードは5枚まで。
また、半径50m以内にある他のデュエルディスクを探知する機能も搭載されている。
本ロワでは、デュエルディスクではなく所持者以外の半径50m以内にある首輪を探知する機能に取り換えられている。
最終更新:2021年08月25日 10:22