誘いを断られてから芭藤は、
名簿を片手にもう一方の手は煙草を指で挟みつつ歩く。
歩きスマホとはよろしくない行動ではあるが人はおらず、
常人と違い名簿は流し読みで視界はちゃんと目の前を見ていた。
まあ、人がいたところで元ヤクザであった彼に物申せる人はほぼいないが。
(雑に砲を放っても、大勢は難しいな。)
参加者の総数は広さの割には百にも満たない人数。
この広さでこの人数は数十人は殺せる芭藤の砲撃を以ってしても殲滅は難しい。
やるなら、やはり穂高を見つけてから狙ってみるのが正しい判断か。
「なんでいるんだろうな、お前だけが。」
燦然党の面子はいなければドミノの陣営は狩野京児が参加している。
自分が五体満足なように、向こうも同じようにあの時の負傷はない筈。
単純な物理攻撃で攻める善や七原とは違って電撃は装甲を無視する。
特にこの雨だ。奴の力は危険な状態になってるのは想像に難くない。
(もっとも、付け入る隙は十分にあるか。)
彼の性格は紛れもなくこっち側に等しいサイコだ。
と言うよりも、ドミノ以外に肝要な奴は味方でもいないだろう。
(おそらく七原もあの後は傘下に入って舎弟にでもなってそうだとも感じたが)
しかしだ。逆にヴァンパイアと言った化け物以外を相手に殺しはしない。
特に子供には気を遣うことが多いと言う情報が燦然党にいたときに得ている。
穂高は流石に子供と呼べるほど年は離れてないのでどうでも良さそうだが、
あいつが純粋にドミノ以外の相手、老婆相手に従うとは思えなかった。
恐らくこの法すらない場であろうとも、狩野のやることは不変だ。
殺し合いが好きな奴と化け物相手にはそのサディスティックさをぶつける。
それ以外には特別興味なし……結果的にだが穂高を守る側になるだろう。
(お前の能力は厄介だが、被害は別だ。)
善とは違う。穂高はただ行動に躊躇いがない程度の一般人。
守る気はなくても、殺すつもりはない狩野には中々難儀だろう。
特にあの性格。ドミノでもなければ御することのできない性格を、
受け入れる参加者が果たしてどれだけいるのかと言うところだ。
そしてこの雨は敵としては厄介だが味方としても持て余す。
戦うなら一対一。それならば相性は悪いが予期せぬ展開は少ない。
複数で戦って勝利をもぎ取った連中だ。タイマンで負けるとは思わない。
(この先か。)
それはそうと、一つ気になったことがある。
勧誘に失敗した後当てもなく放浪してたら、そう遠くない場所から音が聞こえた。
派手な戦闘の音。随分ドンパチやってるのでこうして足を運んでるわけだ。
そして見つけた。一人の参加者がいた乏しき雨で薄れてる血痕と、近くで膝をつく青年を。
派手に戦闘してたことが、周囲の損壊具合から伺い知れる。
これだけの戦いをできるのはヴァンパイアでもそうはいない。
此処までの破壊は物理的な強さを誇る立花や堂島にだって難しいレベルだ。
下手をすればドミノ・サザーランドの破壊に匹敵すると言ってもいいだろう。
「見ない間に随分変わってるな、お前。」
壮絶な戦いを経てギリギリ生き延びた猗窩座。
辛うじて消し飛んだ部分はヘルカイザーの遺体を喰らって元には戻った。
とは言え、全開には程遠い見た目だけを取り繕った状態に近いだが。
一般人程度には後れを取ることはまずないにしても、
これでは思うような戦いは望めない。
『これが、俺の最高の輝きだぁ……!』
何の意味もない敗北。
何も残せはしなかった結果。
なのにあの男は敗北で、死で成果を得た。
刹那の輝きを。すべてに勝る充実感を。
相手は人間だ、所詮死んだ弱者だ。
唾棄すべき存在であるはずなのに。
喰うときに見た満足げな笑顔が忘れられない。
それの表情は羨ましいとすら思えた。
「……来たか。」
「見ない間に随分変わってるな、お前。」
生き残ってた参加者を見て、少し関心を持つ。
さっきまで絶望しきっていた瞳だった道着の青年。
のはずなのだが、髪の色に体格と見事に変わっている。
入れ墨どころか、何やら絶望以外も混じった瞳になっており、
常人ではまず先の彼と今の彼を同一人物と感じられない程である。
分かったのはせいぜい瞳に面影があったから、それぐらいだった。
「誰だ?」
あれだけの戦闘。弱者ならまず逃げるのが道理だ。
やってくるのは自殺行為でしかないのにやってきた。
となれば少なからず自分の腕に自信のある存在ではあるが、
敵意と言うものは感じられず、立ち上がりながら言葉を返す。
「そっくりさんか双子か……まあ、お前と同類だ。」
面識はない様子から、別人だと判断する。
首輪を指で軽く叩いて参加者としての表明もしておく。
「同類だと? 鬼の俺と人間を同類と呼ぶか。」
「お互い、あの老婆に嵌められた同士では同類だろ。」
言われるとあまり否定はできない。
同じ参加者であることには変わりはなく、
そういう意味では同類と言う言葉は間違いではなかった。
苦虫を嚙み潰したような顔でその事実を受け止める。
「ついでに言えば、俺は人間でもない。」
そう言って芭藤はヴァンパイアとしての姿へと変わる。
ムカデのような紐を纏い、なんとも形容しがたい鎧のようなものに身を包んだ刺々しい姿に。
「お前も鬼か……しかし、少なくとも弱小な存在ではなさそうだな。」
強さはまだ未知数ではあるものの、
それなりの腕の立つ存在に感じていた。
此処まで見て戦場に足を運ぶ愚者とは思わない。
「一応ヴァンパイアは吸血鬼だから親戚か。」
そもそも鬼と吸血鬼とは別物なので当然関係はないが
誰かを喰らって生きながらえて力のある存在と言う点は、
お互いに通ずるものがあるだろうが、二人は知る由もなく話を進める。
「ならば、是非とも戦いたいものだ。」
(戦う気はないけどな。)
元ヤクザだが別にジャンキーではない。
気だるげな彼にその気など欠片もなく。
そういうのは興味もない。燦然党では面倒見のいい立花なら相手はするだろうか。
「悪いがそういう気分じゃない。
狩野京児って黒い怪物、見なかったか。」
適当にあしらいつつ、
とりあえず今のところ敵と確定してる狩野の所在だけでも聞いておく。
正直、物理的な破壊の跡から戦ってたのは違うと言う確信は持っていたが。
「俺が出会ったのはヘルカイザー亮と言う男だけだ……狩野と言う奴も強いのか?」
「まあ、そっちが満足するかは知らないが。」
彼は強者を探す求道者、しかし相手を殺すことに躊躇はしない。
口元の血や雨で滲んだ謎の血痕でその上鬼。人を食ったのだと想像するには難くなかった。
だから消耗しきった彼を殺さない。こいつも自分と同じ他人に災禍をばらまく存在。
だったら放っておくに越したことはない。特にこの戦いの跡を見れば、
燦然党幹部にも引けを取らない実力者であることはよくわかる。
生かせば生かすほど、参加者は脅威にさらされるだろう。
これだけの破壊の痕も生き延びてる。ぶつければ相応の消耗は見込めるはずだ。
「そうか。礼を言うぞ……名前を聞いてなかったな。」
此処にはまだ見ぬ強敵はいるのだろう。
ヘルカイザー亮も惜しい存在だったが、死んでしまっては仕方がない。
気持ちを切り替えて動き出すことにする。
「芭藤哲也。」
「芭藤哲也と言ったな。先の姿に恐れなしの行動、
少なくとも守られるだけの弱者ではないと見た。
そして強敵の情報提供。礼代わりに提案しよう。お前も鬼にならないか?」
「……その前に鬼がよく分からないんだが。」
内容を聞いてみると、それはヴァンパイアと似たようなものだ。
差異はある程度あるが、少し困るのは日中は外にすら出られないことか。
夜にしか戦えないのはヴァンパイアも変わりはないが、そこだけは厄介ではある。
「鬼になれば百年、二百年と生きながらえる。今以上の強さもきっと得られるはずだ。」
鬼殺隊でも人間でも首は縦に振らない。
ならば、人間ですらないヴァンパイアであればどうか。
刹那に生きるなんてものが力のある存在にあるはずもない。
折角勧誘できる逸材を喪ったのもあってか、どこか打算的な考えで誘っていた。
「鬼、ねぇ。」
はっきり言うと芭藤は鬼の強さや魅力にさほど興味はなかった。
長生きすれば、まあより多くの人間が不幸になる……そんな程度だ。
元々十分に人を蹂躙できる力を持っているのもあって、今一つ実感が薄い。
別に日ノ元を超えようと言う、そういった向上心があるわけでもなく。
ついでにいえば彼はジャンキーな性格から自分と戦える相手を探している。
鬼に勧誘するのは、つまりはそう言うことなのだろうがそれにも興味はなく。
「で、具体的にどうすればいいんだ。」
「おお……! そうでなくてはな。」
強さもについても猗窩座にも興味はない。それは本心だ。
だが、ヴァンパイアに更に鬼を加算したらどうなるのだろうか。
日ノ元士郎ですらやってはいない、あるいはやらなかった別々の力を交ぜた異物。
生きるに対する執念が別段ない彼だからこそ、異物混入は興味本位で試してみたさはある。
肯定と受け取り、念願の鬼になってくれる人物に笑みを浮かべていた。
(別にあんたと戦うつもりはないけどな。)
「鬼にするにはあのお方に会わせるしかない。
単純な話だ、生き残れ。穂高を殺し、願いを叶える権利を使って俺と共に会えばいい。」
「……そのお方って奴は参加してねえのか?」
そう言って持っていたタブレットを見せる。
名前の羅列。この中にあのお方がいれば会えば此処で済ませられるはずだ。
「参加していたとしても、俺はそれの使い方も文字も分からん。」
元々大正時代の鬼だ。
機械など触ったことすらない彼に、
最新式の機械など操作できるはずもない。
よしんば分かったとしても生前は父の看病に時間を費やし、
まともな学を学んでないので名簿など当然ほとんどの参加者が読めない。
(先程はルールは読めていたが、それは彼の読めるようにわかる文字で配慮はされていた。)
「随分難儀なことで。」
金もない、学校にも満足に行けない貧乏人なのか。
なんて噛み合ってないのだが、何故か話がかみ合ったまま話は進む。
元々七原の教育係みたいな役割もあってかそう言うことに対して手馴れている。
だから理不尽に晒される側には、ままあることなのだろうと納得も容易だ。
「こうして会話は成立してるから音でなら分かるか。
面倒だが、全員名前を言ってやるからいたら反応してくれ。
上から順に……これはどう読めばいいんだ? とりあえずなんとか無惨───」
開幕反応があった。スマホを持つ腕が掴まれる。
瀕死の姿でありながらも掴む腕はかなりの腕力だ。
常人であれば握りつぶされてもおかしくはない。
「まさか……鬼舞辻、と書いてあるのか!?」
鬼に勧誘したとはいえまだ彼は鬼ではない。
無惨のことを他人に漏らすなど、呪いで殺されると言うことも忘れて口にしてしまう。
口にしたことを今になって気付くが特に何も起きず、逆に内心戸惑っていた。
(……いや、できないのか?)
無惨は自分よりもずっと知識がある。
自分がいることを知ってれば、まず念話してくるはずだ。
してこないということは、念話は自身の再生力のように制限されてるのか。
情報の共有はこの場においては非常に有利なことを考えれば当然か。
裏を返せば自分のした狼藉は伝わってはないとみていいのは救いだ。
「キブツジ……一応は読めなくもないな。
まあ、誰がどうとか積もる話は後回しで次いいか?」
「ああ、分かった。」
最初に反応はあったものの、
殆ど最初の頃に挙げた四人と、後の一人以外は特に反応はない。
鬼舞辻無惨、妓夫太郎、堕姫(梅)、竈門炭治郎の四名のみ。
「竈門炭治郎、いたか……!」
因縁の敵たる鬼狩りの存在もいる。
無惨にとっての障害なら此処で始末しなければならない。
既にやられたはずの上弦の鬼が参加してるのは不可解に思ったが、
「死んだやつの参加なら俺もだ。」
当事者がすぐそこにいたのでそれは解決した。
死者の蘇生は無惨にすら行えないであろう奇跡を、
あの老婆は映画の時からやっていたが本物なのだと改めて理解する。
とは言え上弦の鬼も仲間意識は低く、特別な思い入れもなければ鬼殺隊にやられた身。
特別関係は深くないので、やはり彼が注目するのは炭治郎と無惨の両名のみになる。
(無惨様ならば、穂高よりも鬼狩りの始末を命じるだろう。)
流石にこの舞台でたった二人の参加者を探すのは骨が折れる。
一人は移動先が固定されてる。最悪そこで待ち伏せすれば問題はない。
特に穂高は放っておけば全員死ぬ。殺すも守るも、誰もが彼を追い回す形になる。
であれば自分が優先せずとも他人に任せてもことは解決する可能性は十分にある。
その時間解決が望めない方を優先しておくべきだ。
「あのお方は自分の情報が露呈するのを極端に嫌う。
本来は名前すら明かすことは許されない。故に、悪いがお前に容姿等特徴は伝えられない。
もし出会ったとしても間違っても『無惨か』などとは尋ねるな。その場で殺される可能性もある。」
「秘密主義って奴か……まあいいが。」
直接名前を尋ねるのはまずアウト。
猗窩座を知ってる参加者を探す形になるだろう。
面倒ではあるがそういうタイプの上もいるのは珍しくない。
素性は隠す。燦然党でもそういうのは見ているでありふれたものだ。
「ついでに持っていけ。俺には不要なものだ。」
文字が読めないから使い方も分からないのもあるが、
武器類はあったところで彼にとっては不要の代物だ。
使いもしないものを持つ理由はない。
「……確かに、こりゃ全部そっちには関係なさそうだな。」
念のため中を確認してみるが傷を癒やす類はなく、
武器類もその鍛えられた肉体から必要はないと判断していい。
本来なら今後情報として役立つであろうタブレットも返すべきだが、
文字が読めないのでは結局意味がないためそれも受け取ることにした。
流石に二つはかさばるので、必要なものは取り出して残りはデイバックへ突っ込んで身軽にする。
「……猗窩座。お前『狛治』って名前知ってるか?」
此処に留まる理由もないので去ろうとする寸前に最後に一つだけ尋ねる。
無惨達の名前が連なってる中、彼の名前の近くで隣にあるそれだけ反応がなかった。
自分の名前の隣に狩野もあり、知り合いは恐らく固められてる傾向にある。
であれば、狛治は彼と知り合い……ともすれば先程の面影のある彼だ。
「……知らん。誰だそいつは。」
一瞬の沈黙は引っかかったが、
一方で本当に知らなさそうな反応だ。
何とも不思議な返し方ではあるがこれは些事。
大した意味のある内容ではなかった。
「そうか。ならいい。」
吸い終えた煙草を捨て、
貰った支給品の一つである黒い機械を手にする。
『鬼舞辻無惨 須賀夏美と接触』
画面に表示された文字を見てそれをしまう。
支給品は参加者同士の接触情報がわかる代物だ。
どこで出会ったかもわからないし顔も分からないが、
少なくとも何もない最初よりはましな情報になる。
「鬼になって再開することを期待するぞ哲也。」
「……」
猗窩座の一言に返すでもなく、芭藤はその場を去る。
その背を見届けた後、猗窩座また強敵を探しに彷徨う。
ヴァンパイアと鬼、二つの異なる鬼は動き出す。
多くの参加者にとっては脅威として。
【B-1/1日目/深夜】
【芭藤哲也@血と灰の女王】
[状態]:健康、ぬれてる
[装備]:タバコ@出典不明、はるなのPDA@
リベリオンズ Secret Game 2nd Stage
[道具]:基本支給品×2(自分と猗窩座の分)、ランダム支給品×0〜4(自分×0〜2、猗窩座×0〜2)
[行動方針]
基本方針:参加者を不幸に引きずり下ろす。ついでなので鬼になってみる。
1:帆高を擁護しつつ殺戮して回る。
2:猗窩座とあいつ(狛治)は似てる気がしたんだがな。
3:鬼そのものに興味はないが、鬼とヴァンパイアが混ざるとどうなるか興味はある。
4:無惨と言う人物をついでで探しておく。或いは道中で須賀夏美を探す。
5:狩野にまけるつもりはないが、用心はしておく。
※参戦時期は死亡後。
※猗窩座とは別世界なことには気づいていません。
【猗窩座@鬼滅の刃】
[状態]:ダメージ(極大 再生中)、濡れてる、歓喜による高揚
[装備]:なし
[道具]:なし
基本方針:弱者は殺し、強者は鬼に勧誘する。
1:炭治郎、帆高を探し殺す。
2:別の何かになり、強くなる。
3:芭藤を鬼にするべく無惨様に出会ったら先に進言しておく。
4:妓夫太郎、堕姫(梅)に特に興味はないが邪魔をするつもりもない。
5:……狛治?
※頸を斬られてから、炭治郎に殴られる以前からの参戦です。
※再生力は低下してます。瞬きする間に回復は流石に無理です。
※名簿は読めませんが芭藤から聞いて把握はしてます。
【はるなのPDA@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage】
猗窩座の支給品。元々は細谷はるながシークレットゲームに用いてたPDAでナンバーは3
シークレットゲームで主軸となる機械だが、本ロワでは少し改造されている
元々の特殊機能は『プレイヤー同士の接触情報を閲覧出来る』と言うものだったが、
本ロワではメタ的に言うと『対象のプレイヤーが最後に登場した話で接触した人物』が表示される
作中で言えば『鬼舞辻無惨』を対象にした結果『
世界に打ちのめされて負ける意味を知った』で無惨が接触した人物の名前が表示
なお行動を共にした場合は『共にする』、殺害した場合は『殺害』と大雑把だが多少の内容はあるが、
これはあくまで運営が手動で入れてるものであるらしく、かなりいい加減だったりする(流石に原作程沈黙はしないだろうが)
本来シークレットゲームにはゲームのクリア条件として
1st:他のプレイヤーに対して3回以上危害を加える(相手から認識されないことも条件)
2nd:プレイヤーを殺害した他プレイヤー全員の死亡
というものがあるが、このロワにもあるかは現時点では不明
(ある場合どのような意味があるかは後続の書き手にお任せします)
使用制限として二時間に一度使用回数が一増える
原作と違い所有者がこれを手放しても死ぬことはない
最終更新:2021年08月23日 19:10