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ガッ、ガッ。

地面へと剣を突き立てる音が鳴る。

眼前で友を喪った美樹さやか。彼女はその亡骸を埋葬するために穴を掘っていた。

「そのくらいでいいんじゃないか」

一心不乱に墓穴を掘りつづける彼女は、同行者の呼びかけによりようやく動きを止める。
見れば、人の一人を埋めてもまだ余りある空間が、如何にさやかが感情任せに穴を掘っていたかを語っていた。

「......」
「あんまり時間をかけるとまた襲われるかもしれんぞ」
「...うん」

思いのほか、隊長の言葉をすんなり飲みこめた自分に思わず自虐染みた苦笑を浮かべる。
こうやって、ちゃんと人の話を聞き入れられていれば、大切な人達を傷付けることなどなかったのに。

仁美の遺体を穴に横たえる。

「......」

もう彼女が動かないことはわかっている。
涙なんてもう枯れて出やしない。
それでも、彼女を埋めることにはどうしても抵抗がある。

いまここで土を被せてしまえば、仁美とは二度と逢えなくなる。
嫌だ。やり直せるものならやり直したいと何度でも思うほどに、置いて行きたくない。

けれど、彼女はここに置いていかなければならない。

同行者の隊長に負担を強いてしまうし、これ以上連れまわせば仁美の身体を更に傷付けてしまうかもしれない。

ならば―――置いていくほかないのだ。

(...ごめん、仁美。あんたの分までまどかは守るから)

いくら謝っても足りない。謝って済ませたいことじゃない。
けれど、いまはそうすることしかできない。
許されなくても、自分が許せなくても、残された友を守ると誓うことしかできない。

覚悟を決め、仁美へと土を被せようとする。



「待ってくれんか」

寸前で止める隊長に、さやかは訝しげな目を向ける。

「すまんのう。やはり断りを入れるならいまだと思ってな」
「断りって...なにか頼みでもあるの?」
「うむ。お前さんが嫌がるとは思うんじゃが...」

隊長は、一度目を伏せ、意を決して再びさやかへと視線を向けた。

「血を飲ませてくれんか」
「へ?」

キョトン、と呆けた顔になるさやか。
それを見た隊長は、彼女がそもそも自分の存在について知らないことを察する。

「そうか。お前は知らなんだか。見ての通り、ワシは人間じゃなくて吸血鬼なんじゃ」
「吸血鬼...?」

そこから隊長は、吸血鬼のこと、彼岸島の現状などをさやかに大まかに語った。

話を聞いたさやかの第一印象は『胡散臭い』だった。
それもそうだろう。
一年中彼岸花が咲き乱れる小さな孤島、彼岸島。
その島に生息する数々の吸血鬼、多くの村や集落に、砂丘に五重塔、大型研究所等々、観光スポットとしても売りだせそうなほど多彩な施設の数々。
色々とスケールが大きすぎて小さな孤島に釣り合っていない。それが本当だとしたらおそらく彼岸島は悠に日本列島の半分は超えている。

だが、一方でその話を否定しきれない自分もいる。

自分自身、見滝原市に長年住んでいるが、それでもほんの数週間前に巴マミと会うまでは魔女や魔法少女の存在を知らなかった。
どころか、周囲でも噂すら流れていなかった。
あの狭く平凡な市内でも、裏ではあれほど広くおぞましい世界が同居しているのだ。
やはり魔法少女の世界も市内で共に介在するのは釣り合っていないといえる。

もしかしたら、彼岸島のみならずどこもかしこも社会の裏側を探れば理屈では釣り合わない世界があるのかもしれない。
そう、半ば強引に己を納得させ落とし込む。

なにより、そんな嘘をつく意味はないし、隊長は仁美と協力してくれた人だ。
多少の誇張はあったとしても、その全てが虚構ではないだろう。

「まあ、吸血鬼だったら血はいるよね。...いいよ、ほら」
「あ、いやお前のじゃなくてな...」

隊長はさやかから視線を逸らし、チラ、と足元を見る。
その先には、穴に横たえられた仁美。


「ッ...、だ、ダメだよ!血ならあたしのを飲んでいいからさ!」

もう死んでいるとはいえこれ以上仁美を傷付けたくはない。
その一心で、さやかは袖をまくり己の腕を見せつける。

「いや、そういう訳にもいかないんじゃ。本当はワシも生き血の方がいいんじゃが...」
「...あたしが人間じゃないから?」
「そうじゃない。ワシら吸血鬼は、唾液に強い麻酔の効果がある。牙を立てて飲むとどうしてもお前の身体に入ってしまう。
そうすると、身体から力が抜けて動けなくなり小便を垂れ流してしまうんじゃ」
「えっ」

隊長に噛まれて失禁する自分の姿を想像し、これはナイと率直な感想を抱いた。
最悪、失禁を我慢するにせよ、この殺し合いで動けなくなるのはかなりマズイ。
先程のワイアルドのような危険な男に遭遇すればひとたまりもなく殺されるだろう。
合理的に考えれば仁美の血を吸わせるのが最善だ。だが、美樹さやかはそこまで賢い少女ではなかった。
そんななにもかもに割り切れていれば、絶望に身を沈めてなどいない。

「やっぱ、血を吸わないと死んじゃうの?」
「いや、死にはせんのだが邪鬼か亡者になってしまうんじゃ」
「邪鬼と亡者?」
「邪鬼は超強力な力と身体を手に入れる代わりに、理性はなにもかも吹き飛び人体からはかけ離れた身体になってしまう。亡者は、その邪鬼になりそこなってしまった哀れな化け物じゃ」
「それって元には戻れないの?」
「不可能だ。だから、ワシら吸血鬼は邪鬼にならないようにワクチンとして人の血を吸っておるんじゃ。それに、どの程度の時間血を吸わなければ邪鬼になってしまうのかはワシにもわからん。
ここに連れてこられてからどのくらい経ったのかはわからんが、できればいまの内に血を吸っておいた方がいいと思うんじゃ」
「なるほど」

確かに、あの主催の男に連れてこられてからどの程度経過したのかはわからない。
であるならば、いまの内に血を吸っておこうというのは賢明な判断だ。

ただ、動けなくなる訳にはいかないのでどうにかして別の方法で吸わせてあげたいが...

「...仕方ない」

さやかは、右手に魔法で作った剣を投影。
そのまま大した間もおかず、左の手首を貫いた。


「な、なにをしておる!?」
「これなら噛まなくても血が飲めるでしょ、ホラ」

隊長の頭上に左腕を掲げ、刺さっていた剣を抜く。
たちまちに血が垂れ始め、隊長は慌ててその血を飲んでいく。

「ぷはっ。も、もうやめんか。見ているこっちが痛くなる」
「ん、わかった」

傷口を指でなぞり、魔力をかける。
すると、瞬く間に傷は癒え血も治まってしまった。

「しかし、さやかのソレは不思議なもんじゃな。あれだけ酷い怪我もあっさり治っておるし」
「吸血鬼ほどじゃないよ」

プラプラと己の腕を揺らして見て、その感触を確かめる。
以前は、キュゥべぇの語った『ソウルジェムの構造は弱点だらけの人体よりよっぽど便利』という理論を心底嫌悪していたが、今では一定の理解を示せている。
手首を切って血を呑ませるなんて芸当、ソウルジェムを持つ魔法少女でなければ不可能だ。

「...じゃ、そろそろ」

仁美の遺体に土をかけ、徐々にその身体は見えなくなっていく。
たちまちに顔の部分だけを残して土は盛られていく。
さやかはそれを名残惜しそうに見つめるが、立ち止まる訳にはいかないこともわかっている。
その過程で、おそらく自分はそう長生きも出来まいと自覚している。

「またね、仁美」

せめて、生きている間は志筑仁美の友達として胸を張れるように頑張る。
だから、もしもあの世で会えたなら、今度こそちゃんと友達になろう。
そんな想いで土をかけ、いまは一時の別れとして区切りをつけた。


「...隊長はこれからどうするの?」
「そうじゃな。行くあてもないことだし、しばらくはお前についていくぞ」
「あたしが魔女になるかもしれなくても?」
「魔女?」
「あたしの力が尽きたら、魔女っていう化け物が産まれちゃうのよ。たぶん理性もなにもない、絶望を撒き散らすだけの存在にね」
「邪鬼みたいじゃな...まあ、構わんよ。雅様ならおそらくその魔女とやらもコントロールできるはずだしな」
「雅...隊長の信頼してる人だっけ」
「ウム。雅様か明と合流できれば百人力じゃ。そうなればあの犬みたいな男と出会っても怖くないわい」

「あたしが魔女になるとしても、隊長は怖くないの?」
「こう見えても邪鬼は多く見て来たから慣れっこじゃ」
「...ありがとね、励ましてくれて」
「ワハハ、もっと感謝しろ」

鼻に手をやりふんぞり返る隊長に思わず頬が緩み、気持ちが軽くなるのを実感する。
隊長にはだいぶ助けられている。こんな自分にここまで付き合ってくれただけでも感謝しかないというのに、色々と気遣い言葉をかけてくれる。
精神的に参っているいまではかなりの救いだ。そんな彼を必ず友達に会わせてやりたいとも思う。

さやかは隊長の入ったかばんを背負い、途端に隊長は笑みを零し一息ついた。

「ああ、やっぱり人の背中は楽チンじゃ。女子だから明ほど乱暴しないしのう」
「乗り心地悪くなったら言ってね」
「さやかは優しいのう。明ももう少し気遣って背負って欲しいもんじゃ」
「隊長って、少し気が緩むとすぐ明って人の話するよね」
「ん?...まあ、色々と無茶するし放っておけないヤツじゃからな。あいつはワシがおらんと駄目なんじゃ」

楽しげに明について語る隊長と言葉を交わしながら、さやかは足を進める。

人間ではなくなった二人の怪物も、いまこの時は、互いを労りあう祖父と孫のようだった。




【G―4/一日目/黎明】


【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)、精神的疲労(絶大)、仁美を喪った悲しみ(絶大)、相場晄への殺意
[装備]:ソウルジェム(9割浄化)、ボウガンの矢
[道具]:使用済みのグリーフシード×1@魔法少女まどか☆マギカ(仁美の支給品)、不明支給品1~2
[思考・行動]
基本方針:危険人物を排除する。
1:まどかとマミとの合流。杏子、ほむらへの対処は会ってから考える。
2:仁美を殺した少年(相場晄)は見つけたら必ず殺す。
3:マミには何故生きているのか聞きたい。
4:雅と宮本明を探す

※参戦時期は本編8話でホスト達の会話を聞いた後。


【隊長@彼岸島】
[状態]:疲労(大)、出血(小)、全身にダメージ(大)、全身打撲(大)
[装備]:
[道具]:基本支給品、仁美の基本支給品、黒塗りの高級車(大破、運転使用不可)@真夏の夜の淫夢
[思考・行動]
基本方針:明か雅様を探す。
0:とりあえずさやかと行動する。
1:明か雅様と合流したい。
2:さやかは悪い奴ではなさそうなので放っておけない。

※参戦時期は最後の47日間14巻付近です。

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Decretum 美樹さやか 誰の心にも秘められた想いがあって
隊長 誰の心にも秘められた想いがあって
最終更新:2017年08月05日 10:02