燦々と日光のみが降り注ぐ果て無き荒野に、白髪の男と向かい合っていた。
男の赤い目と鋭い視線を交わす。それが全て。互いに言葉はなかった。
ただ、荒野の乾いた風が、白髪の男との間に流れているのを心で感じる。
やがて、太陽が丁度互いの間に登った時、互いに腰の拳銃を抜いた。
どちらが素早かったか、それはすぐにわかる。
銃声が一つ響いた後、オレは崩れ落ちた、右肩を撃たれた。
不思議と痛みはない、オレはおとなしく目を閉じ、相手の第二射を待った。
しかし、予想に反して第二射は来ない。
撃たれているのだ、放って置いても死にそうなものだが中々死なない。
そこでオレは気づいた。
「これは…夢か」
トドメの一撃が来なければ、撃たれても痛みを感じないのも当然だ。
寝ている場合ではない、早く目覚めなければ。
そう念じ、目を開いた矢先に飛び込んだ光景は
白髪の男が血を流して倒れている光景だった。
何があった。そう考え固まったオレの頭上でしゃくしゃく、と野菜を着るような音が聞こえた。
頭上を見上げると、半裸の大男がじゃがいもを食べながらこちらを見下ろしている。
忘れもしない、10歳のあの日、家を襲ったあの軍人だ。
撃たねば、頭ではそう考えるが、しかし左腕が動かない。
気づくと、オレは10歳当時の姿に戻っていた、片手では拳銃が持ち上がらない。
そんなオレの虚しい努力に構わず、大男はオレのシャツを破る。
男の熱気が肌を焼き、男の下がオレの身体を舐め回す。
背筋が凍りつく、あの日の恐怖が蘇る。
ああ、なぜ敗れた時は死ねるなどという甘い考えを抱いてしまったのか、負けたオレは、光り輝く道を見失ってしまったオレは、あの日、この時に戻ってきてしまったのだ。
やがて半裸だった男は、ついに下も脱ぎ、オレのズボンに触れた。
嫌だ、止めてくれ、オレを殺してくれ。
「…ですか!?」
誰か…誰か…オレを助けてくれ。
「大丈夫ですか!?」
少女の声が聞こえた気がして、リンゴォは目を覚ました。
そして目覚めた次の瞬間に目に入ってきた顔は
「お、大丈夫かあんた」
あの蜂と同じ顔だった。
「うおおおおおおお!!」
リンゴォは瞬間的に眠りにつく前のあの惨状を瞬時に思い出した。
「ど、どうしたんだよ」
「汚らわしいぞ!オレに近づくな!!」
トラウマを発症しリンゴォはパニックに陥った。
「…すまない、取り乱した」
「大丈夫だよ」
数分後、ゆうさくが必死になだめたかいあってリンゴォは落ち着きを取り戻した。
「ゆうさくです、あんたは?」
最初の挨拶は肝心だ、ゆうさくは頭を下げる。
「…リンゴォだ」
ゆうさくの顔を視界に入れないよう、そっぽを向きながら答える。
背後の茂みがガサガサと揺れる。
「あ、目を覚ましたんですね」
茂みを裂いて白い少女が現れる。
「初めまして、スノーホワイトです」
「こっちリンゴォさんって言うんだって、
ところでスノーホワイト、どうだった?」
「ダメです、見つかりませんでした」
「…お前ら、何の話をしている」
「この辺りで、困った人の声が聞こえたんです。リンゴォさん知りませんか?」
「声?」
「実際の声じゃなくて、私、困っている人の心の声が聞こえるんです
それで声が聞こえたところに行く、途中で悪い夢にうなされてるリンゴォさんの声が聞こえて…
心当りないですか?たぶん、若い男の人の声だったと思うんですが」
「…一方通行か」
「知っているんですか!?今どこに…」
「あの崖の上、その男の頭を付けた蜂に刺された
その後は…俺にもわからん、声とやらはどうなったんだ?」
「それが…気づいたら聞こえなくなってました」
「そう、か…」
己を殺すべき男、一方通行の暗い展望にリンゴォは顔を落とした。
あれでそう簡単に『悩み』が消えるはずはない。
生きていたとしても、能力で遠く離れているだろう。
リンゴォが暗い展望に顔を青くしている頃、同じくゆうさくは青ざめていた。
「やっべ!こんなことしてる場合じゃねぇ!早く戻んなきゃ」
「そ、そうですね…早くここから離れないと…リンゴォさん、」
「お前らはここから離れていろ、オレはあの蜂に用がある」
リンゴォはそう言って立ち上がった。
「え!?」
「どういうことなんだよ、ちゃんと説明してくれよ!」
「お前らには関係のないことだ」
それを聞いたスノーホワイトとゆうさくは驚きの表情を隠せない。
しかしリンゴォは、それに取り合うこと無く周囲を見回す。
(こいつらがあの蜂を知らないということは、奴はこちらには来ていないな…生きていればな)
あの一方通行の行動が俺を救う意図のものであれば、生きている可能性も高いだろう。
あの蜂はでかい顔を持っている上、羽音と呼ぶにはおぞましい音を出して空を飛んでいる。
見逃すわけはあるまい、恐らくはこちらと真逆の方向に行ったのだろう。
しかし、向こうを捜索していたと見られるスノーホワイトはあの蜂を見つけられなかった、最初から殺し合いと語られていたこの場で、決闘に乱入者を許したのは全て俺の責、急がねば。
そう考え、踵を返そうとしたリンゴォの右手を少女の手が掴んだ。
「待ってください!危ないです!」
「離せ!」
その華奢な腕を無理矢理に振りほどこうとするが外れない、思いの外力が強い。
少女の首輪がリンゴォの瞳に映る。
赤い首輪、確か怪物と言われていたか。
「オレはあの蜂を殺さなければならない!一方通行との決着を付けねばならない!」
「無理です!」
「知ったかぶるな!貴様に何がわかる!」
「わかります!だって!
リンゴォさんの困ってる声が聞こえるから!」
「なに…?」
「『一方通行に殺されなかったから公正なる果し合いが果たされない』、『蜂が怖い』って!リンゴォさんの心の声が聞こえるんです!」
「――――ッ!?」
リンゴォは愕然とする。
蜂に恐れをなしたこと、敗北した上で無様に生きていること、
己の恥部とも言える部分を、この少女に見抜かれていたのだ。
「それじゃあ、ただ殺されたいだけじゃないですか!」
ただ殺されたい、それはかつて己の行動に似て、
正当なる果し合いとは真逆の行動である。
その事に気づいてしまったリンゴォの身体は、弾かれるように動いてしまった。
「黙れぇっ!」
リンゴォはそう、叫びを上げると同時に左手でホルスターから拳銃を抜き、
スノーホワイトの頭にそれを突きつけた。
「ちょ、ちょっと、落ち着いて落ち着いて」
旗から見ていたゆうさくは止めに入る。
しかし、互いに譲ることはなかった。
(なんてバカげたことをしているんだ、オレは)
スノーホワイトの言葉に『対応』して銃を抜いてしまった。
光り輝く道が見えていた頃の自分であったなら、こんな無様は晒すまい。
しかし、否、故に、光り輝く道を見失い、かつての幼少期のように暗闇の荒野に取り残された自分は『恐怖』して銃を抜いてしまった。
「はあっはあっはあっはあ…」
息が苦しい、寒気がする、腫れるだけで済んだはずの傷から出血している。
精神と共に身体まで幼少期に戻ってしまったリンゴォは、立ち続けることすらできず地面にへたり込んでしまった。
「リンゴォさん…」
「わかっていた、というのか?その『困った声』が聞こえるとやらの能力で…」
スノーホワイトは、微動だにせず。
リンゴォが銃を下げるまで見つめ続けていた。
「いいえ、そんな声は聞こえません、ただ…」
リンゴォは、今まで対応者と見下ろしてきたその瞳を覗き込んだ。
「リンゴォさん、私以外のことで頭がいっぱいだからきっと撃たないって思ったんです」
甘い、人間としても影か少なすぎる瞳、
しかし、その瞳に、しっかりと希望が見えていたのをリンゴォは見逃さなかった。
「…道を見失っていた時点で、お前にも勝てなかったということか」
リンゴォは己を自嘲する。
思えば、あの蜂と遭遇した時もそうだった。
己を殺してもらうため、その暗闇の荒野の中、先がない犠牲の行いは実を結ぶことはなかったが、
あの場での一方通行の行いは俺の命を(不本意とは言え)残した。
一方通行、奴が何を思って俺を助けたのかは今となっては謎だが、これだけは言える。
奴の行動には、暗闇の荒野を照らす「覚悟」があった!
光り輝く道を見失い、怯えきっていたリンゴォだが、
少女の「希望」は、まさにリンゴォに光を与えた。
「リンゴォさん、落ち着きましたか?」
「…ああ、すまなかったな」
もう、スノーホワイトにリンゴォの声は聞こえない。
ふと気づけばリンゴォの過呼吸は止まっている。
リンゴォは完全に立て直した、その事実が嬉しくてスノーホワイトはリンゴォの腕を離し微笑んだ。
「気にしないでください、リンゴォさんが無茶なことをやらなくて良かったです」
「も、もう十分ですよね…」
「え?」
背後からゆうさくの声がかかった。
そう言えばさっきから心の声が聞こえていたが、リンゴォに集中していたため聞いていなかった。
スノーホワイトは振り返る、ゆうさくは震えて固まっていた。
「ほら、この辺に蜂がいるんだろ?」
「あ!」
忘れきっていた。
そう、この付近にはあの凶悪な蜂が飛び回っているのだ、
一箇所にとどまるのは危険だ。
「リンゴォさん、とりあえず今はここから離れましょう」
「お前たちに話しておくことがある」
「そんなこと言ってる場合じゃ…」
「俺はあの蜂と決着をつける」
「え!?」
「そんな…」
「じょ、冗談はやめてくださいよ」
「冗談ではない」
「あの蜂は一方通行との果し合いを邪魔し、オレの男の世界を汚した
そして何より…あの蜂は今の俺の内に巣食う不安そのものの形だ、
…一方通行と会う前に、やつとここで決着をつける」
「無茶です!」
「確かにさっきまでの俺では無謀だっただろうな…
しかし、お前に今の俺の心の声が聞こえるか?」
「それは…」
「聞こえないなら、少なくとも今の俺の行動に迷いはないのだろう
世話になったな」
「待って!」
リンゴォが背後に目を向け、踵を返そうとしたその瞬間、
スノーホワイトがさせまいと再びその腕を――――
「動くな」
掴む一瞬前、無警戒だったスノーホワイトの頭に、再び銃口が向けられた。
スノーホワイトは耳を澄ませた。
(え、ここでですかまずいですよ…)
相変わらず、ゆうさくの声しか聞こえない。
リンゴォは完全に希望をいだいてこの結論を出した。まずいだろう。
「お前らと争うつもりはない、二人共その木の後ろまで下がれ」
スノーホワイトに選択肢はない。後ろ足でジリジリと下がった。
注意深く隙を伺うも、今のリンゴォには全く隙がない。
どうするか。
その時、隣から微かな声が聞こえた。
(スノーホワイト)
(ゆうさくさん?)
(俺に手がある、任せてくれ)
見たことのないゆうさくの真面目な表情を見て、スノーホワイトは軽く頭を縦に振った。
それを見たゆうさくは微笑み、前に進んだ。
「下がれ、お前ら受け身の対応者に用はない」
リンゴォがゆうさくに拳銃を向けた瞬間、世界は漆黒の闇に包まれた。
スノーホワイトは見た。
光一つ見えない漆黒の中、3人に分裂したゆうさくが乳首をこねくり回している姿を。
上空に輝く「スズメバチには気を付けよう!」という純白の文字を。
その場に圧倒される中、スノーホワイトは聞いた。
場に流れるやたら軽快な音楽に混ざって、走り去る一つの足音をーーーー
「ゆうさくさん!!」
スノーホワイトの大声に、ゆうさくがビクリと身を震わせ、
闇が晴れた先に見えたのは、やはり目もくれず雑木林の獣道に消えるリンゴォの姿。
何も言わずにスノーホワイト駆け出し。
直後にゆうさくもその後を追った。
人間と人外、その差は彼らの速度差を見れば明らかであった。
距離を多少取った所で精々数秒程度しか稼げまい。
やがてリンゴォが獣道からも逸れ、木と木の間に体をねじ込み、より木の密度が高い森に身体を隠す。
今度こそチャンスだ、あそこなら銃すら自由に振り回せないだろう。
そう考えたゆうさくとスノーホワイトも、獣道から逸れ、森に飛び込んでいった。
…丁度、リンゴォが獣道から逸れた地点に着く「6秒前」の地点で。
【F-4/一日目/早朝】
【ゆうさく@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
【状態】健康
【道具】基本支給品、ランダム支給品1
【行動方針】
基本:希望感じるんでしたよね?
0:スズメバチには気を付けよう!
1:スノーホワイトについていく。
2:スズメバチ対策をする。
3:スノーホワイトに協力する。
【スノーホワイト(姫河小雪)@魔法少女育成計画】
【状態】健康
【道具】基本支給品、ランダム支給品1、発煙弾×1(使用済み)
【行動方針】
基本:殺し合いなんてしたくない…
0:リンゴォを止める
1:同じ魔法少女(クラムベリー、ハードゴアリス、ラ・ピュセル)と合流したい
2:そうちゃん…
※参戦時期はアニメ版第8話の後から
※一方通行の声を聴きました。
スノーホワイトとゆうさくが飛び込んでくる直前で6秒時を戻したリンゴォは、背後の二人が森に飛び込んだことを確認すると、一息をつき、前を見据えた。
彼の前にはもはや光り輝く道など無い、どの道が一方通行に、あの蜂に繋がっているかなど見当もつかない。
しかし彼は歩みを止めない。
覚悟とは、決まりきった光り輝く道を歩くことではない、
漆黒の荒野から、道を切り開くことだ。
【F-4/一日目/早朝】
【リンゴォ・ロード・アゲイン@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)、脇腹に銃創、精神的疲労(大)、両腕にスズメバチの毒液による炎症(大)、ずぶ濡れ
[装備]:一八七三年型コルト@ジョジョの奇妙な冒険 スティールボールラン
[道具]:基本支給品、不明支給品0~1
[思考・行動]
基本方針:公正なる果し合いをする。
0:ハチと決着をつける
1:一方通行との果し合いに決着をつける
2:受け身の対応者に用はない
※一方通行が死んだことを知りません。
最終更新:2018年01月25日 23:02