空がうっすらと明るくなり始めた時分。
 木々の葉が風にゆれて、虫のさざめきの如き音を鳴らす中で、甲賀弦之介と少女は邂逅した。
 互いに立ち止まり、一瞬の沈黙があった。
 その後、無言のまま走り去ろうとした少女の背中に、弦之介は問いを投げた。


「待てっ、訊ねたいことがある」
「……」
「陽炎か朧という女、あるいは薬師寺天膳という男に会ってはおらぬか」


 少女は振り向いたが、返事はしなかった。
 弦之介は少女に目を合わせた。しかし、暗く淀んだ目からは、殺意はおろか、人間なら当然に備えているだろう感情の一片さえ読み取れない。
 この世ならざる力を持つ魔眼であろうとも、心を察する力はない。
 ただ、返事がないこと自体に弦之介は疑念を抱いた。
 会っていなければ否定すればいいだけの話。返事をしない理由があるとすれば、これまでに争い敵対したか、さもなければ己が手にかけたか。――悪い想像はいくらでもできる。
 よくよく目を凝らせば、凝固して赤黒く変色した血のあとが、手や服に点々と付いている。
 少女の顔色は良くないが、目立つ外傷はない。
 他の参加者の血、と考えることが自然なように思えた。


――いや、むやみに疑うのはよそう。


 しかし弦之介は、首を振って疑念を断とうとした。この美丈夫は、無用なたたかいを好まない性分なのだ。
 その性分は、甲賀卍谷衆の次期頭領でありながら、敵対する伊賀鍔隠れへと無策に立ち入るという、とても迂闊な真似をしてしまうほどのもの。
 そんな危険なまでの人の良さは、この場においては話を進展させる方向にはたらいた。


「その手を見るに、誰かに会ったようだが」
「あなたと似たような服の男を見た。それだけ」
「……そうか」


 返答は簡潔なものではあったが、弦之介は考え込んだ。
 “似た服の男”が薬師寺天膳であるとすれば、この近くに潜んでいることもありえる。
 そして、朧や陽炎の手がかりはない。
 地道に探す他にはないかと、やや落ち込んだ気分になっていると、今度は少女の方から問いがあった。


「スノーホワイト……白い魔法少女に、会った?」
「すのぅほわいと?まほうしょうじょ?」


 真面目な顔をして「魔法少女」と口にする青年がここにいた。
 さておき、弦之介には心当たりがとんとない。耳にしたこともない言葉であったし、そもそも島に来てからは誰とも会っていなかったのだ。
 少女はそれを察したのか、踵を返して再び走り去ろうとした。
 弦之介もまた、少女に探し人がいると知れた以上、無理に引き留めるつもりはなかったが、最後にひとつだけ、と考えて声をかけた。


「待て!わしは甲賀弦之介。陽炎と朧に出会ったなら、こう伝えてくれ。
 わしはこの島から脱出して、元の里に戻るために動く。そなたらの無事を祈る、と」


 この広い島で、会いたい相手に会えるとは限らない。
 弦之介の思考は、冷静にそう判断していた。
 ゆえに少女が、朧か陽炎に会い、伝言をくれることを、弦之介は密かに期待した。


「以上だ。そなたも“すのぅほわいと”への伝言はあるか?」


 少女は振り向かなかったが、弦之介を無視することはなかった。
 そして、最後に一言、とても小さな声で呟いて、ついに少女は去った。
 去り際の言葉を、弦之介はその耳でしっかりと聞いていた。


「すのぅほわいとを守って……か」


【F-5/一日目/黎明】

【甲賀弦之介@バジリスク】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1~2
[思考・行動]
基本方針:ゲームから脱出する(ただし赤首輪の殺害を除く)。
0:陽炎と合流する。朧を保護し彼女の真意を確かめる。
1:薬師寺天膳には要警戒。
2:極力、犠牲者は出したくない。
3:脱出の協力者を探す。
4:“すのぅほわいと”を守る?


【ハードゴア・アリス(鳩田亜子)@魔法少女育成計画】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品×2、ランダム支給品2、薬師寺天膳の首輪
[行動方針]
基本方針:スノーホワイトを探し、自身の命と引き換えに彼女を脱出させる。
1:「スノーホワイトに会えないと困る」という強い感情を持ちながら会場を回る。
2:襲撃者は迎撃する。ただしスノーホワイトとの遭遇優先のため深追いはしない。
3:可能ならば自身も脱出……? 他者の脱出をサポート……?
※蘇生制限を知りました。致命傷を受けても蘇生自体は行えますが蘇生中に首輪を失えば絶命するものだと捉えています。
 あるいは、首輪の爆発も死ぬと考察しています。



紅い雫滲む唇に 甲賀弦之介 LOOK INTO MY EVIL EYES
悪魔の娘 ハードゴア・アリス 誰の心にも秘められた想いがあって
最終更新:2018年01月25日 23:13