加藤はゾッド達のもとから退散した後、彼をあれほど痛めつけた者を探し回っていた。
あの怪我の具合からそれほど経過していないと判断したのだが、未だ出会える者はいない。
あてが外れてしまったのか―――そう腐っている暇もない。
なんせゾッドとワイアルドだけでなく、相場の同行者を殺したという青い髪の少女と上半身だけの老人もいるのだ。
彼らを止めるには、GANTZスーツもない自分だけでは不可能だ。
一刻も早く協力者を確保しなければならない。

加藤勝は正義感の強い青年だ。
例え自分が危機に陥ろうとも、苦しんでいる人が、死にそうな人がいれば放っては置けない。
例え偽善者と罵られようとも、助けた者から「もっと早く助けに来てくれ」と非難の目を向けられようとも。
彼は結局のところどんな人でも助けを求める者を見捨てることができない男だ。
それはもはや理屈ではなく本能と表現しても相違ないだろう。

そんな彼を正義の味方と評するか愚者だとせせら笑うか。
その行動に惹かれるか蔑むか。
それは見る者によって変動するし仕方のないことである。
肝心なのは、加藤勝がどういう男なのかという点のみだ。

彼は先刻は守るべき者が側にいなかったために二人の巨悪から逃走を選んだ。

『私の名前はバラライカ。この殺し合いから抜け出したい者は私のもとに集いなさい。場所はI-3の高層ビルよ。繰り返すわ』

では、そんな彼が、このような拡声器越しの自殺紛いな行為を聞いてしまえばどうするか。その答えは聞くまでもない。
加藤は、バラライカなる者のもとへ全力でその足を走り進めた。


どれほど走っただろうか。
やがて、バラライカの言葉通り見えてきたのは高層ビル...とは言えなくもないが、ほぼ廃墟同前にガタがきている。
あまりの静けさに不気味ささえ感じてしまうが、ここで足踏みしている場合ではない。
この殺し合いを止めようとしている者ならば尚更あの行為が危険であることを伝えねばならない。

入口から中へと入ってみるが、うす暗さもあり視界は狭いままだ。

「俺の名前は加藤勝。さっきの呼びかけに応じてきた。いるのなら返事をしてくれ!」

声を張ってみるが返答は無い。
ひょっとして罠か、と思うよりも自分の行動が迂闊だったことに気が付いて避難してくれたのかと安堵する方が先によぎるのは性分というほかないだろう。
その安堵より、溜まった疲労が彼を襲い、身体を休めるために壁に背を預け臀部を床に着ける。

「ふぅ...」

加藤はここまでほとんど走りっぱなしであることに気が付き、目を瞑り一息をつく。
思い返せば奇妙な出来事の連続だ。

GANTZとは違う、妙な殺し合いにいきなり放り込まれたかと思えば、老人と少女に襲われたという少年に出会い。
牛の化け物と狂犬を連想させる男たちに問い詰められ、いまはこうしてバラライカという人の呼びかけに応じている。
精神的にも肉体的にも、GANTZ以上に疲労の溜まりやすい環境だ。
疲労で火照る身体には床の冷たさも有難い。いっそ、このまま全身を寝かせて冷やしてみようか。


そんな考えがよぎるのと同時、額に冷たい感触をおぼえる。

誰かが氷でも持ってきてくれたのか。では、その誰かは誰だ。

目を開ければ、視界に入るのは鉄の塊。更に言えば、刀のようなものだ。
途端、心臓ごと冷え込むような悪寒に襲われる。

油断した。

自分は罠に嵌められたというのか。

「動きは封じた!取り押さえろ!」

男の声と共に、幾多もの影が飛び出し加藤を拘束していく。
あくまでも一般人程度の身体能力しかない彼に、それに抗う術は無い。


加藤は己を拘束した者達の姿を見回し姿を確認する。

忍者だ。

黒い布と服で頭から爪先まで目元以外のそのほとんどを隠している姿は忍者を真っ先に連想させた。


「救世主様、侵入者を捕えました!」
「御苦労、同士諸君」

忍者の声に応じるは、凛とした女性の声。
見上げれば、そこには整った容姿とプロポーションに対して、顔の右半分を覆う火傷が目立つ熟女が自分を見下ろしていた。



「救世主だ...」

バラライカが、襲ってきた吸血鬼を返り討ちにした後のことだった。
そう言って縋ってきたのは大量の忍者の恰好をした人間たちだった。

首輪を巻いていることから参加者だと思ったが、よく見れば明らかに参加者よりも多い。
しかもその大半が同じような恰好をしているものだから百戦錬磨の彼女も流石に面食らった。

が、敵対する意思は見受けられなかったため、ひとまずは穏便に彼らから事情を聞けば、さきほど自分が殺したのは吸血鬼であり、その集団に自分達は虐げられていたとのことだ。

しかし、殺し合いに関してはいつの間にかここにいたという事実を知っているのみであり、あのセレモニーや参加者の存在は一切知らないらしい。

バラライカは、参加者以上の人間を殺し合いに放り込む主催の意図は測りかねたが、これはこれで使えると判断する。

吸血鬼を斃したことにより信頼関係が既に出来上がっている以上、彼らを味方につけるのは容易かった。
忍者たちはバラライカを「救世主」と呼び、ほぼ一方的に彼女を慕いだしたのだ。

こうしてバラライカはホテルモスクワには及ばないものの、それなりの数の戦力を手に入れることができた。

辺り一帯の忍者を一通り面通しした彼女は、次に参加者との遭遇を目的とした。
赤首輪でも普通の首輪でもどちらでもいい。
まずは自分以外の殺し合いについて理解している者を欲した。それが戦力になればなおいい。

主催の言葉から判断すれば、おそらく忍者たちは赤い首輪の参加者を殺しても脱出できない。
だから、彼らが自分に協力するとしても、その本気の度合いはわからない。
だが、脱出するという明確な像があるものであれば、生き残るために本気で立ち回るだろう。
故に彼女は名簿上の参加者の協力者を欲するのである。


その名簿上の参加者を呼び寄せるために使用したのが拡声器だ。

無論、この殺し合いの場でこれを使うことがなにを意味するかがわからないほど彼女は愚かではない。

だが、モノは使いようであり使う者による。

彼女はこれを使用しても生き残る自信があった。算段があった。

『私の名前はバラライカ。この殺し合いから抜け出したい者は私のもとに集いなさい。場所はI-3の高層ビルよ。繰り返すわ』

だからこそ、こうして堂々とこの最後の支給品を使用したのだ。

やがて現れたのはオールバックで長身の青年―――加藤勝だった。
走って来たのか息切れしていた彼は呼びかけに応じたと叫んだ直後に蹲ってしまった。

それほど脱出したかったのか。

まああそこまで必死にここまで来たのなら、その点だけは認めておこう。
だがそれで戦力にならなければ意味が無い。
だから、まずは様子見の意味も込めて忍者たちに先に取り押さえに向かわせた。
結果はあっさりと捕まってしまったため、身体能力においてはそこまで評価できないと判断。
しかし、戦いとは身体能力だけで決まるものではない。
悪運やズル賢さ、顔の広さなども必要な要素になり得る。
そのため、バラライカは直接面通しをすることにした。

バラライカから見る限り、この加藤という男に特筆すべきところはない。
背丈は高いものの、それだけで彼と言う男を評価するのは難しい。

次いで交わすのは言葉だ。
言葉を重ねていけば、ある程度の人間性は垣間見ることが出来る。

「さっきのコールに応じてきたと言っていたけれど、あなたの望みはなにかしら?」

あそこまで胡散臭い言葉で流したのだ。なにか裏があるのではと察するのが普通だ。
だが、加藤は馬鹿正直に正面から入ってきた。本来なら警戒して然るべき場面でだ。
まさかあの言葉をただ信じてここまできた訳ではないだろう。

「望みってわけじゃないが、さっきのあれは、危ない奴らもおびき寄せるんじゃないかって心配で...」

そう思っていたからこそ、耳を通り過ぎるありえない言葉に思わず呆けてしまった。
わざわざ体力を消耗してあんな胡散臭い呼びかけに応じたのが、単に発信者の身を案じて?
生き残るための打算でもなく、偽りの善意だけで?


「―――クッ」

思わず笑みが毀れてしまう。

嘘ならばもう少しマシな内容にするはずだ。
だが、彼の眼はいたってまっすぐで純粋だ。もしもこれが演技なら賞をくれてやりたいと思うほど裏が見えない。
濁ったネズミや猛獣のような目の輩が蔓延るロアナプラで生きた身としては嘲笑の念が浮かばずにはいられなかった。

「な、なにか可笑しいことを言ったか?」
「あなた、あのコールが罠だったらどうするつもりだったの?いまは曲がりなりにも殺し合い。この状況で生き残れるとは思えないけれど」
「あ...」

言われて気が付いたと云わんばかりに開口する加藤に、ますます嘲笑の念が強くなる。
部下に聞かせれば軍曹ですら失笑し他の部下なら「ウッソだろお前、馬鹿じゃね?笑っちゃうぜ」と指差して腹を抱えるだろう。
この男、どうやら自分の求めていた人材とは百八十度違う男らしい。

(逆に言えば、こんな戦場のイロハも知らないスイートパイが他にもいる可能性が高いということかしらね)

だが、彼に価値がないかといえば断言はできない。
バラライカは、この殺し合いには自分のような狂犬と怪物しか招かれていないと思っていた。
しかし、この男を見ればそれは誤りだとわかる。

おそらく、この殺し合いにはこの男のような『甘ちゃん』が他にもいる。
それがどれほどの数かはわからないが、確かに存在している筈だ。
そんな中で、自分がいつも通りに振る舞えば、甘ちゃんどもに村八分にされるのは当然だ。
無論、お人好しどもがいくら集まろうとも生き残る自信はおおいにある。
だが、そんな輩に敵視されたせいで肝心な場面で邪魔されては非常に迷惑だし、奴らの排除に弾と労力を消費するのも惜しい。
ならば敵対もせず放っておくのもひとつの手段だが、それ以上に甘ちゃんだからこそできる仕事もある。


自分を慕い戦力となった忍者たちだが、彼らは何故か地図上の周囲1マス程度の距離までしか行動ができないようだ。
そんな彼らを偵察や郵便屋として使うのは難しい。
だが、参加者同士で組んで戦う場面が必要になった時、伝達手段がなければ不便もいいところである。
そこで役に立つのが加藤のようなお人好しだ。

彼のような男ならば、バラライカに信頼をおけば裏も無く伝達係なども引き受けるだろう。
また、他参加者の交渉役としても利用価値はある。
自分の知り合いは、ロック、レヴィ、シェンホアの三名。
その内、まともに交渉が出来そうなのはロックくらいだが、彼もまた裏社会で染みついた臭いがたたってか、時折、本能レベルで拒否されることがある。
世間的に言う『善人』と呼ばれる者の技術や経験が必要だった時に、自分の知る中では向いている者がいないのだ。
その点、加藤のようなお人好しは実に都合がいい。

加藤は己の利よりも他者の身を案じる男だ。
そんな彼ならば、ロアナプラの面々よりは甘ちゃん達の受けもよく交渉にも向いているだろう。

(とはいえ、なんの取り得もない者を頼りにするほど頭がハッピーではないけれども)

いまのところの加藤への評価は、平和ボケしたお人好し程度である。
そんな彼の評価を改めるには、彼と言う男を見定めなければならない。

「手荒な真似をして悪かったわね。取りあえず、ここで会えたのもなにかの縁だし情報交換といきましょうか」

忍者たちに指示を出し、身柄を解放させる。
彼女の口調は穏やかであるものの、その眼と表情は燻る狂気と闘争心を微塵も隠そうとはしていなかった。
促されるままに席に着いた加藤は、その放たれる威圧感と忍者たちの鋭い視線に胃を痛める思いで口を開いた。


【I-3/一日目/早朝】

※周囲にバラライカの呼びかけが響き渡りました。

【加藤勝@GANTZ】
[状態]:健康、精神的疲労(中)、ゾッド・ワイアルドへの恐怖。
[装備]:ブラフォードの剣@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:不明支給品0~1
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
0:バラライカと情報交換する。
1:計ちゃんとの合流。
2:ゾッドを追い詰めた参加者を探し協力を頼む
3:相場の語った赤首輪の参加者に注意。できれば説得して止めたいが...

※参戦時期は鬼星人編終了後。そのため、いまの玄野はガンツの記憶を無くし普通に生活している状態だと思っています。



【バラライカ@ブラックラグーン】
[状態]:健康
[装備]:トカレフ@現実
[道具]:トカレフの弾薬、不明支給品0~1
[思考・行動]
基本方針:『赤い首輪』の参加者を殺して脱出する。その過程での障害は排除する。
0:加藤と情報交換し、彼の価値を見定める。
1:『赤い首輪』を殺す準備を整える。
2:ラグーン商会の二人には会ってから考える






※NPC解説

【忍者@彼岸島】
彼岸島にて吸血鬼と対峙するレジスタンスたちの通称。
忍者と通称されているが、実際に忍者ではなくあくまでもそこそこ強い一般人である。
そのため、武器は手裏剣や忍法などは使わず、主に日本刀や丸太、時々西山の秘密兵器である。
忍者っぽい恰好をしているのは吸血鬼ウィルス感染を防ぐためだと思われるが実際は不明。
混血種である青山龍之介に鍛えられている筈だが、戦闘シーンはほぼかませの扱いでありあまり強い印象はない。
また、彼岸島に自生している疑いがあり、吸血鬼や邪鬼との戦闘でかなりの人数が戦死しても章をまたぐと人数が戻っているどころか増えていることもある。
ちなみに名前は『吉川』や『新田』、『細山』など普通の日本人姓が多い。


このロワでも相変わらず吸血鬼に抗っているらしい。
また、彼岸島での記憶はないため明や雅のことは全く知らない。
彼らも首輪がつけられており、生えてきたマスの周囲1マスからは出ることができない。
もしも出た場合は警告音が鳴り無視して進むと首輪が爆発してしまう。
この忍者たちは『I-2』から周囲1マスが行動可能エリアである。
現在は一部がバラライカの配下になっている。


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ノスフェラトゥゾッド 加藤勝
ちょっと危険なカ・ン・ジ バラライカ
最終更新:2017年11月15日 17:25