天夜奇想譚

幻惑影絵士 後編

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ryuuri

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作者:雨後

タイトル:幻惑影絵士 後編



 イデア屋上で閃光が三回

「あーん、当たらない」

 光は弾速最高の雷の魔術で牽制するが、異形老人は紙一重で避けていく。

「だめですね、相手は銃口を見ながら発射と同時に回避できるほどの能力を持っています」
「なんと冷静な分析、お父さんにそっくり」

 命は四度の攻撃の内奇襲を除いた三射は、光の銃口のみに注目している老人に気が付いた。つまり、奇襲の一撃で仕留められなかったことは大きいことを意味している。

「挨拶もなしに打ち込んでくるあたり、場数を踏んではいるようですが」

 老人はゆっくりと距離を詰める。

「甘い、我々の歴史の中で生への執着の無い攻撃は無意味」

 老人は帽子をかぶり直し。

「そして我々は、決して虚ろなる存在ではないことを証明する」

 紅き眼で標的を捉える

「我々は天夜私はその使いである、人の姿似の者よ」



「検体D01が退魔士との戦闘を開始しました」
「よろしい戦闘データの採取を開始、さぁ私達に可能性を見せてくれ」
「これで研究が進むのですね」
「いや、ここがスタートラインだ」

 黒衣の集団が口々に術式を開始する中である人物はただ静かに時が動くのを待っていた。



「お母さんは断続的な射撃でとにかく接近しないで下さい。私はその間嵐を何とかします」
「はーい、さすが私の娘状況判断から最良の策を手堅く選ぶのね」

 光はリボルバーの弾を再装填し術式を唱える。

「攻撃は点で無く面で」
「わかってるわよ、そっちは嵐の事だけ考えなさい」

 この場を打開するには嵐の戦闘力は不可欠

「それよりも、嵐を狙った事を後悔させます!」

 老人は微笑み、歩を進める。

「でわ、掛かって来たまえ」

 光の術式が完成する、撃鉄が上がり次弾が敵の顎をねらう

「竜の巣にて我怨敵を喰らえ   散華」

 リボルバーの咆哮は稲妻となり幾つもの竜が如く異形を喰らいにかかる。

「むぅ、これは避けきれん」

 両腕をクロスし防御を固める。しかしその脇を命は走り抜けていく。

「嵐を戻します、戦局を変えるにはそれしかありません」

 命は屋上端に倒れこむ嵐に向かう。嵐はピクリとも動かない

「その娘の催眠はそう簡単に解けぬ。いや、解かせはせぬ」

 命を追おうと反転したが、すぐさま第二撃が放たれた。

「あなたの相手はわ・た・し、徹底的に相手をしてもらうわ」
「えええい、邪魔をするなぁぁ!」

 銃の間合いを詰めようと高速接近を試みる老人に対し、散弾道と直線弾道を使い分け接近を許さない光。その光景は鬼ごっこのようにも見えてしまいそうな戦い。しかしそれは、光に決定打が無い証拠でもある。

「嵐!嵐!早く起きて、お願いだから!!」

 嵐を揺すってみるが反応が無い、息はしているが意識が無いようだ。
 その時、激しい爆音も衝撃音も全てが消えてしまっていた。

「あちゃー弾切れか」

 光は銃を放り投げ座り込んでしまった。

「ならば貴様に用は無いな」

 そして老人はゆっくりと嵐の方へ向かう、その足取りは死の宣告と言っても過言ではないだろう。

「とまれ、とまって、お願いだからとまって」

 命は銃を向けるが、銃口が安定しない。何より恐怖が命を覆い引き金に指が掛かるも引けていない。

「その娘の姉か?」
「そうです、妹に何かすれば私が許しません」

 命は嵐を抱え後ずさりするが既に屋上の端に立っている。

「その娘を置いて去れ、さすれば命を助けてやろう」
「嵐の命はどうなるのですか!」
「下がれ、私は只の人攫いでしかない、そう創られた」
「嵐の命は物ではないのですよ!」
「下がれというのが聞こえないのか!!」
「私は下がりません、決して嵐を置いて逃げるなんて事は絶対にしません」

 老人は命の前で立ち止まると右手を高く上げた。

「ならば死をもって別れるがいい」

 ギュと目をつぶり死を覚悟する命、しかし光は

「命、あなたは最高のナイトに守られてるわねぇ」



 勝利を確信した。
 命は老人の背後、全く反対の戦場の端に佇む白銀の騎士に
 命はこの真っ暗な世界に反旗を翻す戦士に
 勝機を見出した。

「下がれ老紳士、命から離れろ」
「銀ッ!」
「何者だ、いや関係ない勝負は付いている」

 老人は命に右手を振り下ろそうとした、しかし

「うをぉぉぉぉ届けぇぇぇ」

 何故か銀には弓が握られ、白銀の矢が閃光となり老人を捕らえていた。

「ちぃぃ」

 老人は上空へ上がり矢を避ける、しかし二射、三射が追う

「貴様、私と同じだな」
「お前と一緒にするな、俺は俺だ」
「お前もまた被創造物」

 老人が距離を詰める、銀も弓を放すと老人へ走る。銀の両手には長剣が握られている。

「おおおらぁ」
「ふううん」

 縦一閃、それを避けるも銀は叩きつけた剣を反動を使って切り返す。

「しまった!」

 老人に僅かに届かずも、掠らせることが出来た。人間の目では追うことが出来ない異形同士の戦いは、戦術ではなく個人の戦闘力が物を言う。それを考えるならば接近戦において相手に勝つには何が必要なのか。

「獲らえる!!」

 銀の連撃が始まる。斬り、払い、突きどれをとっても達人のような洗練された動きは無く、本能のままに戦うしかしながら老人を 確実に着実に追い詰める。

「違うな、こうじゃないんだな」

 銀は連撃の中で武器を放すしかし連撃は止まらずその手には斧槍が握られている。

「連・撃・必・殺」

 斧槍の払いから下がる老人に連続の突き弾幕を展開する。

「まさか・・こっここまでか」
「はぁぁぁいいはいぃ」

 突きの一撃か掠めた瞬間老人の足が止まるそして弐、参、攻撃が老人を襲う。

「終焉!!」

 そして横払いで薙ぎ飛ばす。しかし老人は消滅していなかった。

「もう仕舞だ紳士、終わりにするぞ」
「お前もまた被創造物なのだなぁなぜ人の味方をする」
「それなら、なぜお前は人を襲う」

 老人は微笑しこう返した

「よいか、私は只救いたかった」
「命を奪うことが救いになるのか?」
「生が全てにおいて正しいわけではないのだよ」
「分からん、何一つ分からん」

 さらに老人は笑い、銀に話続ける。

「私は只少女を救いたかった、私が異国の人間でもあの子だけは私を人として見てくれた」
「お前、誰のことを」
「今のこの国では救えずとも、私の外の国なら救えるのではないかと。只ほんの少しの希望に賭けてみたかった!!」
「おい、じいさん!どうした」
「あの子の笑顔をもう一度・・・・もういち・・ど」

 そこで老人の話は終わりを告げた。

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